論文の内容の要旨
氏名:村 田 悠 輔
専攻分野の名称:博士(医学)
論文題名:腎臓において血圧概日リズムを制御している分子の探索
様々な生物現象に概日リズムがみられるが、中でも血圧に日内変動が見られ、その異常が心血管合併症 と相関することはよく知られている。血圧の日内変動と生体内時計の関連性は容易に想像できるが、その 機序は明らかになっていない。腎臓は糸球体における濾過と、尿細管における電解質、水の再吸収、排泄、
さらにはレニン-アンギオテンシン系における血管収縮作用、Na の再吸収促進など血圧調整において極め て重要な役割を果たし、その機能が血圧の概日リズム形成に関わっていると考えられる。本研究では腎臓 に発現し、高血圧に関連した分子を検索し、その中で、生体内時計により概日リズムが形成される可能性 のある分子を明らかにする。
Gene Set Enrichment Analysis(GSEA; BROAD INSTITUTE)データベースを用いて、転写開始点か ら上流または下流 2000bpに生体内時計のメインループの中心となる時計蛋白であるBMAL1/CLOCK の 結合配列であるE-box(CACGTG)を持つ遺伝子を検索し、1032個の遺伝子が抽出された。次にDNAマイ クロアレイを用いて 5 週齢の高血圧自然発症ラット(Spontaneously Hypertensive Rat:SHR/Izm)と Wister Kyoto Rat(WKY/Izm)の腎臓における遺伝子発現を検討した。1032個のE-box配列を持つ遺伝 子のうち、SHR/Izmの腎皮質、髄質で発現が2倍以上増加または50%以下に減少している遺伝子で、さら に脳卒中易発症SHR(Stroke-Prone Spontaneously Hypertensive Rat:SHRSP/Izm)の腎皮質、髄質でも 同様の発現変化がみられたものは、Bcl6、Nr1d1、Ppat、Tef 、Fxr1、Hnrnpa3、Npm1、Nptx1、Plagl1、
Plbd1、Tbl1x、Trim46の12遺伝子であった。これらの遺伝子は腎臓において高血圧に関連し生体内時計 に概日リズムが制御されている遺伝子であると考えられた。
次いでマウス尿細管上皮細胞(TCMK-1)に対してデキサメサゾン0.5μMを添加すると、時計遺伝子と して知られているPeriod1(Per1)の遺伝子発現の概日リズムが形成された。これによりTCMK-1細胞に対 するデキサメサゾン刺激は腎尿細管の生体内時計研究において有用なツールであることが明らかとなった。
TCMK-1細胞をデキサメサゾンで刺激し、4時間おきに48時間後までmRNAをリアルタイムPCRで定 量し、GSEAおよびDNAマイクロアレイの結果から得られた12個の遺伝子のうちすでに生体内時計遺伝 子として知られているNr1d1を除く11遺伝子について、概日リズムが形成されるのか検討を行った。得 られた 11 個の遺伝子の 48 時間の mRNA 変動について周期回帰分析にて検定を行ったところ、
Phosphoribosyl pyrophosphate amidotransferase(Ppat)、Fragile X mental retardation, autosomal homolog 1(Fxr1)が有意差を持って概日リズムを形成していることが明らかとなった。
PPAT、FXR1の尿細管細胞内での局在を明らかにするために。TCMK-1細胞を抗PPAT抗体、抗FXR1 抗体を使用し、免疫染色を行った。PPATは尿細管の核と細胞質に、FXR1は細胞質に染色された。次に腎 での局在を明らかにするため、5週齢のWKY/Izm、SHR/Izm腎臓を使用し、免疫染色を行った。PPATは 近位尿細管、遠位尿細管の核と細胞質に局在し、FXR1 は近位尿細管、遠位尿細管の細胞質に局在してい た。
以上の結果より、TCMK-1細胞-デキサメサゾン系は時計遺伝子の振幅を再現する事が可能であり腎臓に おける時間生物学的な解析を行う上で有用であることが示された。生体内時計蛋白結合配列であるE-box を持ち、高血圧ラットの腎臓で発現増加または発現減少し、培養実験系で発現振幅を形成したPpat、Fxr1 は、腎臓において機能し、血圧概日リズム形成に関わる分子である可能性が示された。