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l アメリカの金融制度改革と銀行経営破綻

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(1)

アメ リカの金融制度改革 と銀行経営破綻

‑エージェン ト・プ リンシパル ・モデルによる分析 ‑

中 村

目 次

[1

] は じめに‑金融制度改革の必要性 について

[2

] アメ リカにおける金融制度改革

[3

]銀行経営め悪化 と預金保険制度

[4

]モデル分析

[5

]おわ りに

日 ]は じめに‑金融制度改革の必要性について‑

各国の金融制度 は多少 な りとも1

930

年代 の大恐慌 の際に大 き く変更 され, その後

1980

年代 に抜本的な見直 しの動 きが蓮 んだ。 これ は1930 年代前半 に形 成 された金融制度が時代遅れ とな った ことによる。それで はなぜ この時期 に金 融制度改革が必要 とされたのであろ うか。 この理 由を理解す るために,図

1

を 利用 して金融構造 と金融制度 そ して金融 システム との関係 を明確 に してお こ

う。

金融構造 は次の

3

つか ら成 ると定義 され る。第‑ に,金融にかかわ る法 ・規 制 ・慣行等,金融取引の前提 となってい る金融の枠組みである。 これは金融構 造の静態的側面であ り,広義の金融制度である。第二 に, このよ うな枠組みの 下での金融機関,企業,個人 とい った経済主体の金融取引行動のパ ター ンと傾 向である。 これ は金融構造の動態的側面であ り,各主体の金融ニーズである。

第三 に,経済構造条件 と金融取引技術 といった条件である。つ ま. り,金融構造 とは,金融取引に関わ る個人 ・組織 間の影響力の相互依存関係 と定義で きる

0

〔 1 4 3 〕

(2)

商 学 討 究 第46 巻 第 1号

金 口金融サー ビス

f

金融充足 卜

1l 金融‑ザ

/

T

蛸 腰

l

金融 システム

情報技術 金融構造 ̲

経済条件

1

金融構造,金融制度,金融システムの関係

資料 ;田村

(199

1

, p.10)

に一部加筆

金融取引が円滑に実行 されるためには,第‑に金融サー ビスを提供する金融機 関が広 く社会か ら信用 される存在でなければな らない。 これを信用秩序の維持 とい

う 。

第二に金融機関はその時代の経済条件によって変化する各主体の金融 ニーズを満足 しなければな らない。金融機関が信用秩序を維持 しっっ も時代の 金融ニーズを満足す るような業務を展開するためには国の制定 した法 と規制が 必要 となる。 これ らの法 と規制によって金融に関す る一定の制度的枠組みが創 設 され る。 これが金融制度であ り,各国の法 と規制によりそれは各国に特有 と

なるのである。金融制度 によって定め られた業務の範囲内で金融機関が主体の

金融ニーズにいかに して満足 しているか という金融充足の体系を金融システム

とい う

つまり,金融構造の第‑の構成因 と第二のそれをあわせて金融システ

ムとい うのである。金融機関が提供す るサービスの内容は金融制度 と情報技術

とにより決定 される。例えば送金の早 さの向上や複雑な付利を必要 とす る金融

新商品の販売の可能性の拡大があげ られる。 これ らすべてを包括 して金融構造

と呼ぶのである

また経済条件 は急速に変化する。それに伴い主体の金融ニー

ズも変化す る。 しか し金融機関の提供す る金融サー ビスの方 は制度的枠組みが

存在 しているために,金融充足が実行 されない事態が生 じることになる。 これ

(3)

ア メ リカの金融 制度 改革 と銀 行経 営破 綻

145

に対 して金融機関は情報技術の進展の手助けを得て少 しで もニーズを満たすよ

うな新 しいサー ビスの開発を進める′ 。 これを金融革新 とい

金融革新が進む につれて制度的枠組みの修正 は不可避 となる。 これが金融の自由化あるいは金 融制度改革である。つまり,金融ニーズが存在 し,それに対 して金融革新が生 じたな らば,金融制度改革‑の圧力が起 こるのである。 しか し,金融 システム が期待 された通 りに機能す るためには信用の秩序の維持が前提 とされるか ら, このための金融規制 は金融制度改革の進展 において もある程度必要 とされるの である。また銀行が正常な機能を果た してい くためには預金者が不利益を被 る ことがないように保護 されていると信 じられていることが必要 となる。つま り,信用の秩序の維持のためには預金者保護が前提条件 となるのである。預金 者は本来 自ら銀行経営に関 して情報を収集 し分析 して監視すべ きであるが,預 金者の情報収集能力は十分であるとはいえない。そこで, これを補 うために公 的な金融当局が銀行経営の情報を収集分析 し監視 した結果を例えば格付けを利 用 して公表す るか,預金者に払い戻 しを保証すればよいのである。アメリカに おいては後者の方法が とられ,

1933

年 に政府が預金者 に払 い戻 しを保証 した 預金保険制度が確立 した。

2

は連邦預金保険制度に加盟 した商業銀行の破綻数を示 している。 この図 か ら明かであるように

82

年以降その数が急激に増加 している。 この時期 はちょ

(行) 250 200 150 100 50 0

1995 40 45 50 55 6065 70 75 80 85 90

2

預金保険制度加盟銀行の破錠数

(4)

146

46

巻 第

1

うど金融制度改革が進め られた時期にあたる。そこで本稿 はなぜ この時期に銀 行の破綻が急増 したかを解明することを目的とする。より具体的に述べると, 本稿 は金融制度改革,特に金融規制の緩和策 と預金保険制度の強化策の組み合 わせが銀行経営者のモラル ・ハザ‑ ドを引き起 こし,銀行経営を破綻 させたメ カニズムを解明す る。分析 は以下の手順で進め られ る

。2

節ではアメ リカの金 融制度改革の変遷を要約す る

3

節において簡単な数値例を用いて預金保険制 度の制度上の不備が銀行経営者のモラル ・ハザー ドを引き起 こし,経営破綻を もた らしたことを説明する。

4

節においては,プ リンシパル ・エージェン ト・

モデルを利用 して,金融規制の緩和策 と預金保険制度の強化策の組み合わせが 経営破綻を もた らしたことを示す。そ して,

5

節では分析の結果をまとめ,今 後の問題点を述べる

[2 ] アメ リカにお ける金融制度改革

規制緩和に 金利規制 州際銀行業務 銀行証券業務分離

■関する法と報告 の自由化 の自由化 規制の緩和

33

銀行法

2373

銀行法 マクファデン法

33

銀行法

61 CC

報告

63

へラ「報告

56 B

d c 法ダ ラ ス 修正

56 BH

C 法ダ ラ ス 修正

条項

(70

年に改正) 条項

(70

年に改正)

(5)

ア メ リカの金 融制度 改革 と銀 行経 営破 錠

80金融制度 改革法

82ガーン ・セ ン トジャーメイ ン 預金金融機関法

84 モルガ ン ・レ ポー ト

87コルガ ン ・レ ポー ト

88 1988年金融近 代化法案1988年預金金 融機関法案

89金融機関 救済法

91金融制度の近 代化の提言

連邦預金保険 公社改善法

78ATS勘定,WCの 導入

79

S S C

の導入

80 NOW勘定の全国 的認可

82 ≠D層蔓入

83スーパーNOW勘 定の導入

定期預金金利の 完全 自由化の達成

8 6

伽I

)

A

,スーパー

NOW勘定,731

日物

定期預金の最低預 入額制限の廃止

貯蓄預金金利の 自由化

預金金利規制の 廃止の完了

中頃

ノンバ ンク ・バ ンクによる他州進 出が盛ん となる

87競争均等銀行法 によるノンバ ンク

・バ ンクの新設禁

147

78国際銀行法 銀行のCP発行斡旋 業務開始 (87年に

合法化)

82銀行によるディ スカウン ト・プロ カー業務への進出

8 6

フルサー ビス ・ ブローカー業務へ

87の進出大手BHCの子会 社を通 じた

CP

「主たる業務」 と

な らない範囲内で

の証券業務‑の進 出の認可 (88年に 合法化 される)

89同子会社を通 じ た社債の引受 ・デ ィー リングの認可

90同子会社を通 じ た株式の引受 ・デ ィー リングの認可

1

アメ リカの金融制度改革の変遷

(6)

148

商 学 討 究 第46 巻 第

1

本節の目的は表 1にまとめたアメ リカの金融制度改革を金利規制の自由化, 州際銀行業務の自由化,銀行証券業務分野規制の緩和の3 つに分 けて要約す る

ことである

これ ら3 つの規制の根拠 とな った法 は1

933

年の銀行法である。アメ リカの 銀行制度の基本的枠組みが形成 された19

30

年代前半 は大恐慌直後の経済停滞 期にあた り,銀行倒産が続発 していた時期であった。 このために,金融規制を 制定す るにあた り銀行 システムの健全性の維持が最優先事項 とされ,銀行の過 当競争の防止 と預金者の保護が図 られるように厳 しい規制が必要 とされたので ある。 この結果,3

3

年銀行法において銀行の証券業務兼営の原則禁止規定 ( い わゆる

Glass‑SteagallAct;G&S

法) と預金金利の上限規制が制定 され,

27

年にすでに制定 されていた銀行の州境を越えた支店設置の禁止規定を残 し, さらに連邦預金保険制度が創設されたのである。

預金保険制度 とは,預金金融機関が預金の一定率の保険料を保険機構に支払 い,その金融機関が預金に対する支払不能になったときには保険機構により預 金額の全部または一部を保証する仕組みのことである。 この制度が存在す るこ

とで預金 という金融資産の安全性が高まるのである

。33

年の銀行法により,保

‑ 険機構 と して連邦預金保 険公社

(FederalDepositInsuranceCorpora‑

tion;FDIC)

が創設 され,預金金融機関に対す る定期的な監査 と預金保険を

通 じて これ らに対す る大衆の信頼を維持 し,マネーサプライの急激な減少を防

ぐ役割を果たす こととなった。 しか しこの

FDIC

を創設する法案に対 しては,

すでに存在 していた州 レベルでの預金保険制度の失敗,銀行破綻 は経営者への

社会的制裁 として当然である,預金保険は強い銀行か ら弱い銀行への補助金 と

なる,政府の民間への干渉である等の理 由か ら反対がお こった。そこで3 4 年に

暫定的機構 として創設 され

,35

年銀行法でそれは恒久的な機構 となったのであ

る。

FDIC

は自主財政 によって維持 され,責任 は連邦議会 に対 して負い,大

統領に運営の命令権 はないといった独立 した政府系機関である。連邦準備銀行

制度

(FederalReserveSystem ;FRS)

に属す る国法商業銀行 と州法商業

銀行 は

FDIC

の提供す る預金保険に強制的に加入 させ られ,

FRS

に非加盟の

(7)

アメ リカの金融制度 改革 と銀行経営破錠

149

州法商業銀行についての加入 は任意 とされた。

FDIC

は商業銀行を対象 とし た預金保険機構であるが, この他に連邦 レベルの預金保険制度 としては貯蓄貸 付組合

(SavingandLoanAssociation;S&L)

の預金を保険す る連邦貯 蓄 貸 付 保 険 公 社

(Federal Saving and Loan insurance Corpora‑

tion;FSLIC)

がある1 )。

FSLIC

1934

年 に設立 されたが,

FDIC

とは異 な り独立 した政府機関ではな く,連邦住宅貸付銀行理事会

(FederalHome LoanBankBoard;FHLBB)

の下部組織である

国法

S&

まFSLIC

に 強制加入 させ られるが,州法

S&L

については任意である。 ー

ここで商業銀行 と

S&L

の監督機関 との関係をまとめてお こう。図

3

は商業 銀行 と監督機関 との関係を表 している。アメ1 )カにおいては連邦政府 と州政府 が銀行の免許,監督権限を別々に有 し,州法銀行 については

FRS

FDIC

への加盟, 加入が任意であるために, 財務省通貨監督官, 連邦準備制度理事会,

FDIC

3

つ の連邦政府機関 と州銀行局 とが並列的に商業銀行 に対す る規制 と監督の権限を もっているのである。図

4

1989

年以前の

S&L

と監督機関 との関係を示 している

FSLIC

の監督機関は

FHLBB

であるが,

FHLBB

S&L

への流動性供給機関である連邦住宅貸付銀行の上部機関で もあった0 したが って,

FHLBB

は利益が相反す る

2

つの機関の上部機関であ り,後述 するようにこの仕組みは

FSIJC

に対する十分な監督を果たさなかったのである。

1

にあるように

60

年代 には規制緩和 に関す る

2

つの報告がなされた もの の,実際に規制緩和が実行 されることはなか った

。70

年代になると他の

2

つに 先馬 区けて金利規制の緩和が急速に進んだ。 この理由は 2つある.第‑に,当時 レギュレーションQにより預金金利の上限が設定 されていたが,その目的が疑 問視 されるようになり,また預金資金が証券会社の提供す る市場性金融商品に シフ トす るディスイ ンターメディエーシ ョン

(disintermediation)

が起 こ

1 ) これ らの他 に,信用組合の出資金 (‑貯金)を保険す る全国信用組合出資金保険基

(NationalCreditUnionSharelnsuranceFund;NCUSIF)

が存在す

。NCUSIF

1970

年に設立 され,国法信用組合 は強制加入,州法信用組合の加

入は任意である。また州 レベルの預金保険制度 も存在す る。 これは主 に

S&L

が対

象 となっている

(8)

150

商 学 討 究 第

46

巻 第

1

3

商業銀行 と監督機関との関係

出所 ;貝塚 ・池尾

(1992)

図 4 19 89 年金融機関改革救済執行法 ( FJ RREA)以前の貯蓄金融機関の連 邦監督 と預金保険制度 出所 ;日銀月報

(1992)

り, これに対抗す るために,銀行が金利規制の緩和を求めたことである。第二 に,7 1 年の‑ ン ト報告 ( 金融構造 と規制に関する大統領委員会報告) とこれに 対する当事者間の利害調整の結果である。ハ ン ト報告では次の

7

点を一括 して 実施すべきであるとした。第一に預金金利を段階的に自由化 し,要求払預金‑

の付利禁止を継続す ること,第二にすべての預金金融機関が個人や非営利組織

に対 して第三者サー ビスを提供することを認可すること,第三に同機関の資金

運用規制を緩和すること,第四に支店設置範囲を州全体に拡大すること,第五

に州法銀行 と第三者サービスを提供す る

S&Lと相互貯蓄銀行すべてに対 して FRS

へ強制加入 させ ること,第六 に要求払預金や第三者支払を可能にす るよ

うな預金金融機関に対する一律準備率を適用 し,貯蓄預金 と定期預金に対する

(9)

アメ リカの金融制度 改革 と銀行経営破錠

151

支払準備規制を廃止す ること,第七に預金金融機関の規制 ・監督体制の合理化 である

しか し,当時は金融関係者の利害対立が強 く,実施に伴 う摩擦の少な い分野である金利規制の緩和のみが進んだのである

。1970

年 に大 口の定期預 金金利の自由化に始まり

,72

年には小切手に類似 した譲渡可能な支払指図書で ある

NOW (NegotiableOrderofWithdrawa

l )の振 出によ り決済に利用 可能な貯蓄預金勘定である

NOW

勘定が東部諸州 に導入 され

,74

年 にはこれ と同様の個人向け利付 き決済勘定である信用組合のシェア ドラフ ト勘定 ( 利付 きで小切手に類似 した ドラフ トを振 り出す ことにより決済に利用できる勘定) の取扱いが認可 された。さらに

,78

年には,一定のルールに基づいて要求払預 金 に 自動 的 に資金 の振替 が な され る貯 蓄預 金 で あ る

ATS (Automatic TransferService)

勘定の取扱いが銀行 に認め られた。 さらに,同年 に短期 金融市場金利連動型預金

(MoneyMarketCertificate;MMC)

,79

年に

は小口貯蓄証書

(SmallSaverCertification;SSC)

が導入 された。

ところが,異種金融機関の同質化が進展する中で このような部分的緩和 はか えって不均衡を拡大 させて しまった。そこで,従来の金融規制の枠組みでは対 応 しきれないことが強 く認識 されるようにな り, これまでの金融制度改革論議 をまとめ,改革 の焦点 を明 らか に しよ うとい う動 きが強 ま った。 この結果

1980

年 に金融制度改革法が成立す ることとな った。 この法律の 目的は金融機 関間の競争を促進す るための条件を整備 し,金融の効率化を進め,また金融政 策の有効性を高めることにあ り,次の

5

つの改正がなされた。第一 に,従来

FRS

に加盟 していた銀行のみに課 されていた支払準備規制の適用範囲がすべ ての預金受入金融機関 ( 銀行,

S&L

,相互貯蓄銀行,信用組合,エ ッジ法会 社および外国銀行のエージェンシーとブランチ)にまで拡大 された。そ して, 業態に関係な く対象債務の種類 と残高に応 じて一律の準備率が課 されることと なり,支払準備規制対象金融機関は連銀借入を利用できるようになった。第二 に,預金金利上限規制が今後

6

年間で段階的に廃止 されることとなった。第三

に,NOW

勘定の開設が全国的に認め られ るようになった。銀行の

ATS

勘定

と信用組合のシェア ドラフ トの取扱いも可能 となった。第四に,国法

S&L

(10)

152

第46

1

消費者 ローンの供与,

CP

や社債への投資があわせて総資産の

20%

まで認め ら れ, クレジッ トカー ドの発行 と信託業務 も可能 となった。相互貯蓄銀行は総資 産の

5%

以内での商工業貸出と,貸出先か らの要求払預金の受入 も可能 となっ た。第五に,連邦預金保険の付保限度額が

1

口座当た り

4

万 ドルか ら

10

万 ドル まで引き上げ られた。

金融制度改革法の成立を受 けて

,82

年 には最低預入金が $

2500

であ り月に

6

回まで資金の振替が可能な金利 自由の新種決済性預金である短期金融市場預 金勘定

(MoneyMarketDepositAccount;MMDA)

の取扱いがすべての 預金金融機関に認可 された。続 く

83

年 には最低預入金 $

2500

で預入人が個人 と非営利団体 に限定 された決済性には制限のない金利 自由の新種決済性預金で あるス

ー NOW

勘定の取扱いがすべての預金金融機関に認可 された。ま た同年 には定期預金金利が完全 に自由化 され,

86

年 には最低預入額の制限 と

NOW

勘定の上限金利規制が廃止 され,貯蓄預金金利が 自由化 された。 ここに 要求払預金 に対す る付利禁止を除いてすべての預金金利規制の撤廃が達成 さ れ,預金金利 は完全に自由化 された。

銀行 ・証券分離規制の緩和について考察 しよう

銀証分離規制の根拠法は

3

つ あ り,

1933

年 の

G&S

法,

1970

年 に改正 された銀行持株会社法

(Bank HoldingCompanyAct;BHC

法)

,1978

年の国際銀行法である。 これ らの 銀証分離を規定 した規制の下で,銀行の証券業務参入ははじめに連邦準備制度 理事会が認可を し,それに対 して証券会社側が訴訟を起 こし,最終的に裁判所 の判断で決着す る形で進んだという特徴を もつ

つまり,

G&S

法の解釈が優 先 し,立法化が これに遅れるという形をとるという特徴なのである。

G&S

法の うち次の

4

条が銀行本体の証券業務を規制 している

。16

条 は,

FRS

加盟銀行 は顧客勘定での顧客の注文による証券売買を認めるが,自己勘

定の証券売買 ( ディー リング)については禁止 している。また有価証券の引受

( ア ンダー ・ライティング) も禁止 している。さらに,いわゆる公共債 ( 連邦

政府証券,州政府一般財源担保証券,通貨監督官容認可証券)に関す る証券業

務 は可能 としたが, 目的の如何 にかかわ らず 自己勘定による株式の購入は禁止

(11)

アメリカの金融制度改革 と銀行経営破錠

153

したのである

。20

条 は

FRS

加盟銀行 は証券の引受 ・販売を 「 主たる」業務 と す る関連会社の保有を禁 じている。 したが って,加盟銀行 は証券子会社を設立 す ることで証券業務を営む ことがで きない。21 条 は証券の引受 ・販売を行 う企 業 は同時に預金受入を行 ってほな らないとしている。 これは企業 に対す る規制 であるか ら,加盟銀行の他,非加盟銀行,証券会社,預金受入機関 も含 め これ らすべてに適用 され る

。32

条 は証券の引受 ・販売を主たる業務 とす る会社の役 職者が銀行 の役職者 となることを禁 じている。 このよ うな規制 に もかかわ ら ず,実際には

FRS

非加盟銀行 は

21

条 に違反 しないように証券子会社 を利用 し て証券業務を営んでいたのである

2)。

また,加盟銀行 も証券の引受 ・販売を

「 主たる」業務 としない証券子会社あるいは銀行持株会社の証券子会社を利用 して,証券業務を営んでいたのである。

銀行持株会社法 は,銀行持株会社の子会社が行える証券業務を規制 した法で ある

4

条 ( a) 項

(1)

号 は銀行持株会社が銀行業務 と密接な関連のない業務を行 う会社の議決権株式の

5%

以上の保有を禁止 している。 しか しこの例外を第

4

秦( C) 項(

8)

号で認めているのである。 ここでは,FRBが銀行業務 に密接 に関連 す る業務

3)

を営む会社であると認 めれば,銀行持株会社が証券子会社 を もっ

ことができるのである。

国際銀行業法

8

条( a) 項 において外国銀行がアメ リカで非銀行業務を行 う場合 には,国内銀行 と同様 に銀行持株会社法の規制に したがわなければな らないと されている

銀行の証券業務‑の進出は

78

年 にバ ンカーズ ・トラス トが

FRBの認可を受

けて

CP

の引受 ・販売業務 を始 めた ことに始 ま る。証券業協会

(Securities

2)

こうした証券子会社は

21

条に違反するか否かという議論になったが

,FDIC

は州 法により銀行の証券業務が認可されている限り違反 しないという規則を作成 した。

この規則は

87

年に連邦裁判所の裁定で認められた。

3)FRB

はこれらの業務をレギュレーション

Y

という規則で列挙 している。もしも銀

行持株会社が投資 ・財務顧問業,証券ブローカー業務,政府債 ・地方債 ・短期金融

市場証券等の引受 ・ディーリング業務,新たな証券業務を子会社を通 じて行いたい

という申請をしたならば

,33

年銀行法の

20

条を考慮 して認可するとしている。この

ように認可を獲得 した証券子会社をセクション

20

子会社という。

(12)

154

商 学 討 究 第

46

巻 第

1

Ⅰ ndus t r i e sAs s o c i a t i o n;SI A) はこの業務が G&S 法 1 6 条 に抵触す るとし て訴訟を起 こした。 これに対 して連邦最高裁判所 は 8 4 年 に CP は G&S 法に 言 う証券であるとい う判決を行い,バ ンカーズ ・トラス トの営業が G&S 法 上の引受 ・販売業務に該当するか否かの審理を行 うようワシン トン連邦地方裁 判所に差 し戻 した。FRB は, この営業 は特定機関投資家への販売を中心 とし た CP 発行会社の代理業務であり ,8 4 年に最高連邦裁判所で合憲 とされた CP

の私募債斡旋業務 に過 ぎず,証券の引受 ・販売業務ではないと主張 した。 し か し, ワシン トン連邦地方裁判所 はこの FRBの主張を受け入れず, CP の引 受 ・販売業務 は G&S 法上の証券業務 にあたると判断 した。 これを不服 とし てバ ンカーズ ・トラス トは控訴 し, CP 業務を行 うにあた り不特定多数への勧 誘 はせずに特定の投資家にのみ販売を し,発行促進のための融資や CP 代替, 関連の融資 は しない とい う条件をつけて,当該 CP 業務 は不特定多数を対象

とした証券業務ではないと説明 した。 この説明に対 して87 年に最高裁判所は合 憲判断を下 した。

82 年 にはセキュリティ ・パ シフィックの子会社が通貨監督官の認可を得て, 投資助言を行わずに顧客の指示に基づいた顧客勘定での有価証券売買業務を開 始 した。銀行のディスカウン ト・ブローカー業務への進出である

。83

年にはバ ンカメ リカがディスカウン ト・ブローカー業務を営んでいたチャールズ ・シュ ワブ社を買収 し,FRBの認可を得て同業務へ と進出 したが, SI A はこの買収 が銀行業 と密接に関連 しない会社の買収であると訴訟を起 こした。 しか し 8 4 年 に連邦裁判所 は銀行業 と密接 に関連 した会社の買収であり, G&S 法 1 6 条に抵 触 しない との判決を下 した 。8 6 年 1 月 に SEC は銀行がディスカウン ト・ブ ローカー業務を行 うにあたって SEC の登録を必要 とす るという規則を制定 し た。 しか し連邦埠戒 は この規則の銀行への適用を差 し止 めたので,銀行 は

SEC の規則に したが うことな くこの業務を行えるようになった。

また 8 6 年 1 月に FRB はナショナル ・ウェス トミンスターの持株会社の子会

社がディスカ ン ト・ブローカー業務 と投資顧問業務 とを兼営するフル ・ブロー

カー業務を認可 した。通貨監督官 もこれを認めたが, SI A はこの業務が G&S

(13)

ド ‑ ... ̲ .̲ ̲ ... .̲ ア メ リカの金融制度改革 と銀行経営破錠

155

20

条 に抵触す るとして訴訟を行 った。 これに対 して連邦最高裁判所 は

88

年 1月にこの業務が

G&S

法に抵触 しないとい う判決を下 した。 ここに証券業 務

4

つ ( ディー リング業務,ブローカー業務,アンダーライティング業務,セ リング業務)の うちの 1づであるブローカー業務が完全 に銀行に認め られるこ ととなった。

次に銀行のディー リング業務への進出について考察 しよ う

まずは じめに

FRB

が銀行持株会社の証券子会社に認可 したのは,安全性 と流動性 に優れた 有価証券である非適格証券

(G&S

16

条で銀行の引受 ・販売が認め られてい る国債 ・地方債 ・政府機関債 ・国際機関債)の引受 ・販売である

84

年 にシティ コープは証券子会社を通 じて CP , 特定地方財源債 (レベニュー債) ,モーゲージ 担保億,消費者 ローン担保債の引受 ・販売を総収入の

10%

以内で行いたいとい う申請を した。 ここで総収入の

10%

以内 という申請 は,

G&S

20

条にある銀 行が証券業務を主たる業務 とする会社 との系列関係を禁止 していることに配慮 した結果であるo

FRB

はこの申請に対 して子会社の新規業務が総収入の一定 範囲内にとどめ られる限 り,この業務 は主たる業務 とはな らないと判断 した。

この判断を受 けて他の銀行 も同様の申請を行 った。 これ らの申請 に対 して,

FRB

87

4

月に非適格証券の引受 ・販売業務を当該証券子会社の総収入の

5%

以内,国内市場 シェアの

5%

以 内で認可 した

。SIA

はただちに連邦高等 裁判所に提訴 したが

,88

2

月に同裁判所 は証券子会社による非適格証券関連 業務は合法的であ り,国内市場 シェアの

5%

以内という制限は除外 されるべ き

と判決 した

。SIA

は最高裁へ上告 したが却下 され, さらに

FRB

89

6

月 に収入制限を

10%

に引き上げた。

88

年 になると,大手銀行持株会社 は非適格証券だけでな くて株式や社債 と

いった適格証券について も証券子会社が主 とな らない範囲で引受 ・販売 したい

という申請を行 った。 この申請に対 して

FRB

は,子会社の自己資本が十分で

あること,当該証券業務を含めた証券業務の収入が総収入の

5%

以内であるこ

と,株式の引受業務の認可は最低 1年以上の期間をお くことを条件 として認可

した

(90

4

月 にこれ らの合法性が確認 された

)。89

6

月 に

J.P.

モルガ ン

(14)

156

商 学 討 究 第

46

巻 第

1

の証券子会社が,

7

月にはチェース ・マン‑ ツタン,バ ンカーズ ・トラス ト, シティコープ,セキュリティ ・パ シフィックの証券子会社が社債の引受 ・販売 業務の開始を認可 された。さらに

,90

9

月には株式の引受 ・販売業務の開始 について も認可 された。 ここに,銀行は証券業務のうちブローカー業務 とアン ダーライティング業務を完全に行えるようになったのである

最後 に,州際銀行業務の自由化についてである

。1927

年のマクファデ ン法,

33

年銀行法

,56

年の銀行持株会社法ダグラス修正条項において,銀行は本拠州 以外の州に支店を設置す ることを禁止 している。また各州内における支店の設 置ルールは各州の当局に委ね られている。 このような‑州主義 は金融力の過度 の集中を回避 し,地域の資金需要を満たす 目的を もっていた。 しか し,顧客の 金融活動範囲が拡大 し・ ,銀行の リスク分散の必要性が高まるにつれて,銀行は 州境を越えた活動を望むようになった。法律によって禁止 されている規定は銀 行支店 と銀行子会社形態での他州への進出にのみ適用されるので,銀行はい く つかの方法を利用 して現行法の枠内で他州へ進 出で きるのである

。70

年代 は ローン ・プロダクション ・オフィスと銀行業務に関連するが非銀行業務を営む 銀行持株会社の子会社が このために利用された。前者 は貸出の開拓を行 うが実 際には貸 出を しない店舗の ことであ り,銀行の支店 とはみなされていなか っ たO後者は リース, ファクタ リング,消費者 ローン,モーゲージローンを行 う ものの規制対象外であった。80 年代になると,ノンバ ンク ・バ ンクを利用 した 他州進出がみ られるようになった。銀行 とは要求払預金の受 け入れと企業向け 貸出を行 う金融機関であると定義 されていたので,いずれかの業務を放棄すれ げ銀行免許を受 けていて も銀行持株会社法のいう銀行 とはな らなかったのであ る。 したが って, このようなノンバ ンク ・バ ンクは規制外であった。 しか し, 87 年に競争均等銀行法により銀行の定義が拡大 されるとこの形態をとった他州

‑の進出は不可能 とな り,現在 も支店形態での進出は依然 として認め られては

いない。ただ し,他州の銀行持株会社が銀行子会社を設立あるいは買収 して白

州 に進 出す ることを認める州が最近増加 しっっ ある

4)。

州 によって全米か ら

の進出を認める州,一定地域か ら進出を認める州,当初一定地域か ら後に全米

(15)

「 ・

アメリカの金融制度改革と銀行経営破錠

157

か らの進出を認める州に大別できるが,近年 になって第一の形態にな りつつあ る

なお,経営危機に陥 っている銀行や S&L を救済す るためであれば,銀行 の州際買収は州法にかかわ りな く可能である。

以上本節でまとめたように,銀行 は証券会社 との競争激化の中で積極的な金 融規制の緩和を求めた。金利規制の撤廃により銀行 は証券会社に対抗 しうる資 金調達が可能 となったものの,資金調達のコス トは上昇す る結果 となった.ま た銀行の証券業務への進出は急速に進んだが, これは本来の貸出業務 よりもリ スクの高い投資への資金運用が可能 となったことを意味するのである0

[3

]銀行経営の悪化 と預金保険制度

FDI C と FSLI C は定期的に加盟銀行への監督,検査 と預金保険を通 じて銀 行に対する大衆の信頼を維持することを目的 として設立 された。前節でみたよ うに

,80

年代に規制緩和,特に銀行業務規制の緩和が急速に進んだが,それ と 期を同 じに して銀行の破綻数 は増加 し, この結果,衰 2と 3に示 したように

FDI C と FSLI C の財務状態 は悪化 していった。そ して 8 6 年に FSLI C の基金 残高はマイナスとな り,破産を宣告 されたのである。また ,9 1 年 に FDI C の 基金残高 もマイナスとなって しまった。 この原因は,制度的な不備を もつ預金 保険制度の強化策 と金融規制緩和策 との組み合わせが預金者 と銀行経営者の双 方 にモラル ・ハザー ドを起 こした ことにあるが,そのメカニズムについてのモ デル分析 は次節で行 うことにす る。本節ではその準備段階 として破綻 した銀行 に対す る FDI C と FSLI C の実 際の行動 を比較 し,特 に FSLI C の行動が

S&L の経営者のモラル ・‑ザー ドを もた らし, FSLI C を破産 させ,銀行 と 金融 システムに対す る信用秩序の維持を危機に陥れたメカニズムを簡単な数値 例を用いて説明する

4)75

年のメーン州に始まり,現在ハワイ,モンタナ州を除いて認められている。

(16)

商 学 討 究 第46巻 第 1

(内保険料 )収入 (内保険損失 )支 出 残高増減 基金残高 保険対象預金(準備比率)

82 25(10) ‑ 10( 9) 15 138 11342

(

1.21%)

83 26(

l l )

10( .8) 17 154 ■ 12683

(

1.22

%)

84 31(13)

2 0 ぐ1 8 )

ll 165 13899

(

1.19

%)

85 34(14) 20(18) 14 180 15034

(

1.19

%)

86 ・33(15) 30(28) 3 183 16343

(

1.12

%)

87 33(17) 33(3

1) 0

183 16588

(

1.l

p 拓)

88 33(18) 76(74) ‑42 141 17503(0.80

%)

89 35(19) 43(4

1)

‑ 9 132 18738(0.70

%)

90 38(29) 130(128) ‑92 40 19296(0.21%)

91 58(52) 169(166) 111 ‑70 19577(0.36

%)

2 FDJC

の預金保険基金の変遷 ( 単位 は億 ドル)

出所 ;日銀月報

(1992) 原 資料 :FDIC

年報

3 FSu Cの預金保険基金残

高の変遷 ( 単位 は億 ドル) 出所 ;日銀

(1989)

原 資料 ;FinancialAudit

年月

保険料率 (%) 保険限度額() 34.1 0.5 2500

.7 J 5000 36.1 0.083(1/12) J 50.9 10000 66.10 15000 69.12 20000 74.ll 40000 80.3 100000

90.1 0.12 J 91.1 0.195

.7 0.23

4 FDlC

の預金保 険料率 と保 険限度額 の変遷

出所 ;日銀月報

(1992)

原 資料 ;FDIC

年報

(17)

「..

アメ リカの金融制度改革 と銀行経営破錠

年 直接支払 買収継承 預金移管 助成合併 合計

80 3 7

0

1 ll

81 2 5

0

3 10

82 7 26

0 .

9、 42

83 9 36

0

3 > 48

84 4 62 12 2 80

85 22 87 7 4 120

86 21 98 19 7 145 87 ll 133 40 19 203 88 6 164 30 21 221 89 9 174 23 1 207 90 8 148 12 1 169 91 4 103 17 3 127

5

商業銀行破錠数 とその処理方法 ( 単位 は件数)

出所 ;日銀月報

(1992)

原資料 ;

FDIC

年報

直接支払 助成合併 、 軍産化 指導合併 自発 的合併 合 計

1980 0 ll

0

21 63 95

81

1

27

0

54 215 297

82 1‑ 62

ー 0

184 215 462

83 5ー 31

0

34、 83 153

84 9 13

0

14 31 67‑

85 9 22 23 10 47 111

・86 10 36 29 5 45 125 87 17 .3b 25 5 74 151 88 26 179 18 6 25 254

6 FSLIC

による貯蓄金融機関救済方法と自発的合併数の推移 ( 単位は件数)

出所 ;松沢

(1992)

原資料 ;

ModernizingtheFinancialSystem

(18)

160

商 学 討 究 第

46

巻 第

1

FDIC

の保険料賦課対象 となる預金 は,譲渡性預金 と信託資金,銀行振出 小切手,銀行保証小切手などを範囲 とす る。預金に対す る保嘩限度額は,表

4

にまとめたよ うに,

34

年 に

1

預金者当た り$

2500

で始 まったが,その後順次 引き上げ られ

,80

年以降は

$10

万にまで達 した。また,信託資金,個人退職年 金勘定, 自営業者年金勘定については預金 と別枠で

$10

万まで付保 される。付 保限度額の拡大につれて,預金者 は銀行経営の詳細 と銀行経営者の行動を監視 す るイ ンセ ンティブを喪失 してい くのである。また,保険料率 は

1936

年か ら

90

年 までは預金総額の

1/12(0.083%)

で一定であった

。80

年代 には銀行業 務の拡大による‑イ ・リスク ・プロジェク ト‑の資金運用が行われ,銀行毎に リスクが異なっていたのにもかかわ らず,保険料率はどの銀行に対 して も一定 であった。 この仕組みは銀行経営者にモラル ・‑ザー ドを発生 させることとな る。

ここで銀行経営が破綻 した場合の

FDIC

FSLIC

の実際の救済策を比較

しよ う

FDIC

の とる救済策 は次の

5

つある。第一の方法 は預金保険金の支

払である。 この方法を とったときに

FDIC

は利息 も含んだ預金額 と保険金額

の どち らか低 い方 を支払 う

もしも預金額が預金保険額 を上 回 るな らば,

FDIC

は預金者 に保険額を支払 い,その後閉鎖銀行が清算 されて残余財産が

存在す るときのみ預金者は追加弁済 されるのである。 この方法の変形 として預

金保険国法銀行の設立方式がある。 これによると

FDIC

が 自ら預金保険国法

銀行を設立 して破綻 した銀行の預金を引継いで預金保険金を支払い,その後貸

付 は行わず に要求払預金のみを預か り,最終的な保険損失を負担す るのであ

る。 この方法は買収継承相手や合併相手が見つか らない場合に限 られ る。第二

に,他の健全な銀行が閉鎖銀行の資産 と預金を引き継 ぐ買収継承である。 この

方法をとると,預金者 に対す る銀行サー ビスの低下を回避でき,また付保以上

の預金 も保護 される。ただ し債務 も引き受けることになるので,継承銀行 とし

てふさわ しい銀行である必要がある。 このために

FDIC

が候補銀行を選定 し,

それ らの間で入札 されて決定 される。表

5

にあるよ うに

FDIC

のとる破綻処

理の方法 としてはこの方式が圧倒的に多い。第三に,破綻 した銀行の付保預金

(19)

アメ リカの金融制度 改革 と銀行経営破錠

161

だ けが 健 全 な他 行 へ 移 管 され, FDI C は移 管 先 の銀 行 に移 管 預

金 相 当 額 の 現

金 を支 払 い, 自 らは閉鎖 銀行 の資産 を 引 き受 けて損 失 を負 うとい

う預 金 移 管 方

式 で あ る。第 四 に, 1950年 の連 邦 預 金 保 険 法 の改 正 に よ り可 能

と な った 直 接

資金援 助方 式 で あ る。 しか しこの資金 は有 利子 で あ るので経 営 の再 建 が 予 想 さ れ る とき しか実行 で きな いので実 例 は少 な い。最後 に助成 合併方

式 で あ る。 こ

れ は FDI Cが 資 金 援 助 して健 全 な銀 行 と破 綻 した銀 行 とを合 併

させ る方 法 で

あ る。

表 6は破 綻 した S&L の数 とそ れ に対 す る FSLI C の救 済 方

法 を 示 して い

る。 この表 か ら次 の ことが わか る。第 ‑ に,80 年 か ら82 年 にか けて の 時期 と86 年 か ら88 年 にか けて の時期 の 2つ の時期 に破 綻数 が多 い こ とで あ

る。 これ らの

時期 はそれ ぞれ第 一 次 S&L危 機 ,第 二 次 S&L危 機 と呼 ばれ るO 第 二 に,第 一 次危 機 の際 に は指導 合併 が と られ,第二 次危 機 の際 に は助 成合

併 が と られ た

ことで あ る。 また第 一 次危 機 の際 に は 自発 的合 併 も多 くみ られ る。 これ らの背 景 を説 明 しよ う。元 来 S&L は個 人 向 けの住 宅 融 資 を主要 業 務 とす る金 融 機 関 で あ り, 当初組合 員 か らの預金 を原 資 に組 合 員 の住 宅 を抵 当 と し

て 資 金 運 用 す

る相 互 組織 で あ った。 その後非 組合 員 へ の融 資 も含 む よ うにな った が , や は り

S&L の主要 業務 はモ ーゲ ー ジ ・ロ‑ ンで あ った。 そ の貸付 期 間

は最 高 30年 と

長 く金 利 もほ とん どが 固定 型 で あ ったの に対 して ,調 達 資金 源泉

は短 期 預 金 で

あ り,S&L の財 務 構 造 は直接 的 に金 利 変動 リス クを被 りやす い構 造 に あ った。

第 一 次 S&L危機 の原 因 はま さに この構 造 にあ った。 70 年 代後半

に始 ま った イ

ンフ レー シ ョンによ り短期 金 融市 場 金利 が上 昇 す る と, 資金 調達

費 用 が 資 金 運

用利 益 を上 回 る逆 ザ ヤ現象 が起 こ り, また市 場金 利 が レギ ュ レー

シ ョンQの 定

め る預金金 利 の上 限を しば しば 越 えた こ とか ら銀 行預 金 が 引 き出

され て市 場 金

利 連 動 型 金 融 商 品 で あ るマ ネ ー ・マ ー ケ ッ ト ・フ ァ ン ド ( M o

ney M arket

Fund ;M M F) に流 出す るデ ィスイ ンタ ‑ メデ ィェ ‑ シ ョンが

生 じた の で あ

るO この第一 次 S&L危機 に対 して金 融 当局 は資金 調 達 と業務 内容 の規 制 緩 和

に よ って解 決 を図 った。 まず 1980年 の金 融 制 度 改 革 法 は レギ レー シ ョ ン Qを

段 階 的 に廃 止 して市場 金利 連動型 金 融 商 品 との競 合 を可 能 と し,

ま た S&L に

(20)

162

商 学 討 究 第

46

巻 第

1

総資産の

20%

以内で消費者 ローンと

CP

,社債‑の投資を認めた

。81

年には国 法

S&L

に対 して変動金利型モーゲージ貸付を認可 し

,82

年にはガ‑ン ・セ ン

トジャーメイ ン預金金融機関法を制定 して不動産関連融資に対す る規制を廃止 した。以上の規制緩和策により,

S&L

は‑イ リスク業務での資金運用が可能 となったのである。 この規制緩和策 と並行 して金融当局 は

S&L

への監督を強 化 しなければな らな ったのだが,前述 したよ うに

S&L

の監督機関であ る

FHLBB

は十分な監督機能を果たす ことはで きなか ぅたのである。また預金 者 も預金保険限度額の上昇により銀行経営の内容や経営者の意志決定に対す る 監視 イ ンセ ンティブを喪失 していた。

FHLBB

が十分な監督機能を果たさな い仕組みの下での

S&L

に対す る規制緩和策 と預金保険限度額の増加策の組み 合わせは,銀行経営者にモラル ・ハザー ドを起 こす余地を与えて しまったので ある。さらに

81

年 に

FHLBB

は株式会社形態を とる国法

S&L

が免許をとる ために必要な株主の数を

400

名か ら 1名 に変更 した結果,

S&L

の個人所有が 可能 となった。個人所有 は銀行経営者を所有者経営者 とし,他の株主か らの干 渉を受けないためにさらにモラル ・‑ザー ドを拡大させ る効果を もった。 ここ で簡単な数値例を用いて, このような銀行経営者の行動が

FSlJC

を破綻 させ たメカニズムを示そ う

5) 。

ある

S&L

を個人所有する経営者

6)

が表

7

にある

2

つの投資機会に直面 して いると仮定す る。 どち らの投資機会 も初期投資必要額 は

$100

であるとす る。

また,どち らも不確実な リター ンを もた らすが,一方 は

50%

の確率で

$100

$110

の リター ンを もた らし,初期支出額をカバーす るので安全 な投資 と呼ば れ る。 もう一方 は

50%

の確率で

$125

と$

65

の リターンを もた らし,期待粗 リ ター ンは

$95

であり,期待純 リターンは $

5

の損失である。 したが って, これ は リスキーな投資である。 これ らの投資資金 は預金者 と株主,つまり銀行経営

5)

この数値例 は

Milgrom&Roberts(1992,ch.6)

を参考 に した。 また

FDIC

の破綻 のメカニズム も同様である。

6) この仮定 は以下 の分析 に決定的で はない。経営者が純粋 な株主のエー ジェン トであ

れば良 い。

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