‑ 無形 資産 の所 有権 につ いて (2)
‑
大 岩 利依子
Ⅰ は じ め に
無形資産の所有権 について議論 をす る場合,租税弁護士 (taxlawyer)は通 常, 使 用 料 の 流 入 に よ っ て 示 さ れ る よ う な 「受 益 者 と して の 所 有 権 ("beneficialownership")」を意味 し,もし,事業が計画通 り進行 しないな らば, 財務上の 「リスク」 を負担する人を意味 していると解す1)。
前回,アメ リカ合衆国の移転価格税制で,無形資産の所有権 に関 して,内国 歳入法典お よび財務省規則の変遷 を考察 した。その中で,「現在,内国歳入庁 によって主張 される実質主義の原則の論拠 は,所有権の リスクを再配分す るこ とに よ り, ア メ リカ合 衆 国の課税管轄 を非常 に拡大す るだろ う2)。」 とい う Skinnerの注 目すべ き見解 を紹介 したが,その点 に関連 して,「所得相応性基準」
に焦点 を当てて本寸高では掘 り下げてみたい。
パー トⅡでは,先 回の拙稿(1)3)で展 開 した1968年以降の財務省規則 の変遷 を整理 し,パー トⅢでは,内国歳入法典 §482を1918年 まで遡 り, この条文が 導入 された経緯 について説明する。パー トⅣでは, Skinnerが問題視 している 1986年 に §482に導入 された 「所得相応性基準」 について詳細 に検討 し,パー
1)Valoir,Tamsen,"ExploringtheIntersectionBetweenTaxandIntellectual Property'ナ,Taxes:TheTaxMagazine,Vol.85,No.ll,(December2007),p.19. 2)Skinner,William."TheFutureoil.R.C.482asaSubstunce‑Over‑Form Pro‑
vision",llStan.∫.L.Bus.&Fin.174,(Autumm,2005),p.175.
3)拙稿 「移転価格税制における無形資産取引の考察 ‑ 無形資産の所有権につい て(1)‑ 」 『商学討究』,第58巻第2・3合併号,(2007年12月), p.43‑67。
〔81〕
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トVで は,「所得相応性基準」 に関連 してGlaxoSmithKlinev.Commissioner 事件 を考察す る。
Ⅰ 財 務 省規 則 の変 遷 の整 理
まず ここで は,問題 の所在 をわか りやす く説 明す るため に,先 回の拙稿(1) で説明 した財務省規則 の変遷 を少 し整理 してみたい。
1968年 は財務省規則が施行 された年であるが, この時 に導入 された開発者 一 援助者 ルールは1992年規則案では既存の無形資産 に拡大適用 され,チーズの事 例 に対 して,大論争が起 きたのであった。 この時,開発者 一援助者ルールを用 いたが,アメ リカ子会社が商標 開発費用 を負担 した場合 (外 国親会社 の補填 は ない。),子会社 はアメ リカ合衆 国における商標価値 を増加 させた 「開発者」 と 見 なされる。 ここでは商標 の法的所有者 である外 国親会社 でな く,経済的所有 者である商標 開発者の販売会社 が重視 される。そのため, このチーズの事例 は 大論争 を起 こ してい くのであった。翌年1993年暫定規則 では,1992年規則案 を 引 き継 ぎ,無形 資産の所有者 は,法的所有権 と直接 的関係 はない とされたので, また して も多 くの批判 にさらされた。そ こで,1994年最終規則 では,法的に保 護 されている無形資産 に関 しては法的所有権 の優位性 を明示 したが,法的に保 護 されていない無形資産 に関 しては,開発者 一援助者 ルールが適用 される とし た。 しか しなが ら, この時 もチーズの事例 に対 して,無形資産の所有権 と使用 権 の混 同ではないか とい う批判が起 こ り,その混乱 は新 たに規則案が公表 され る2003年 まで続 くこととなった。1995年最終規則では,費用分担契約 について の規定が追加 された。この規定の下では,関連者 は開発費用 を分担す ることで, 無形資産の所有権 を共有す る。2003年規則案では,無形資産の所有者 は, まず 第一 に法的所有者 とされるが,経済的実質 に従 うとされ,支配基準が導入 され た。 ただ, この支配基準 につ いては様 々な批判があ るの は,拙稿 (1)で紹介 し た とお りである。2006年暫定規則 は,実質的には2003年規則案 と同 じであ り, 前文 (Preamble)で,法的所有権 の優位性 を明確化 している。
この一連の財務省規則の中に無形資産の取扱 いが現れて きて混乱状態 となっ たのは,1992年規則案か らである。それでは,1968年か ら1992年の間に,アメ リカ合衆国の財務省規則 に大 きな影響 を与 えた ものが何 であるのか,その点 に ついて これか ら検討す ることとしよう。
Ⅱ ア メ リカ合 衆 国移 転価 格 税 制 の沿 革
ここで,アメ リカ合衆 国の移転価格税制の沿革 について,少 し遡 って説明 を したい と思 う。それでは移転価格税制の経緯 を見てみ よう。
アメ リカ合衆国の移転価格税制の根拠規定 は内国歳入法典 §482である。 こ の法規定 に相 当す る初期の形態 は,1918年 に導入 された §240(d)である といわ れている。その §240(d)は,前年の1917年 に導入 された戦時超過利潤税が契機 となって,翌年連結納税制度 としてアメ リカ合衆国租税法 に規定 された もので あ る4)。 当時, この §240(d)によ り,連邦議会 は内国歳入局長官 に,関連会社 な どへ の窓意 的 な所得移転 を防止す る 目的で連結 申告 の権 限 を与 えた5)ので あった。
1921年末 に超過利潤税 は廃止 され,1921年歳入法か らは連結納税 は納税者の 選択 とい う任意の もの となったけれ ど,連邦議会 は,内国歳入局長官 に,利得, 所得,控 除又 は資本の正確 な配分 ない し割 当を行 うために,関連企業の会計 を 連結す る権 限 を与 えている。 1924年歳入法では, この §240(d)は改正 され,鍋
4)大崎満著 『移転価格税制 ‑ 日本 と欧米の制度比較 ‑ 』大蔵省印刷局,(1988 年), p.3。 ;1917年超過利潤税導入当時の模様は以下の文献を参照されたい。
超過利潤税回避のために子会社設立を通 して所得分割を行 う企業が多発 したた め,同年に歳入法規則 (第41号)により,連結納税制度が創設されたといわれて いる。歳入法規則では,特殊関連のある内国法人及び内国パー トナーシップは, 連結納税申告書を提出することが義務づけられた。矢内‑好著 『移転価格税制の 理論』中央経済社,(1999年),p.22。 ;望月文夫著 『日米移転価格税制の制度
と適用 ‑ 無形資産取引を中心に‑ 』大蔵財務協会, (2007年),p.35‑360
5)大崎満著,前掲書,p.3。 ;五味雄治/大崎滴著 『国際取引課税 ‑ その理論 と実務 一 』財経詳報社,(1996年),p.118‑1190
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税者 は関連会社 に欠損が生 じたならば,他の関連会社の所得 と通算す ることが で きるようになった6)0
1928年歳入法では, この §240(d)を,「法人の連結 申告」 とい う連結 申告条 項か ら外 し,「所得 と控 除の配分」 とい う表題の下 に内国歳入法典 §45として 独立の規定 を設 けた7)。 この規定 は現行 の内国歳入法典 §482と本質的に同一 の ものである。 §45の立法趣 旨は,子会社特 に外国子会社 を設立することによ る収益の懇意的な移転,仮装取引及 び親会社 の利益 を絞 り出す (milking)た めに利用 される諸方法 を防止 し,真 の租税債務 を明確 にす ることにあった8)0 要す るに,アメ リカ合衆国の移転価格税制は,納税者 による脱税 (taxevasion)
に対処す るために成立 した9)とい う。厳密 には租税 回避 (taxavoidance)に ついては考慮 されてはいない。租税 回避 については,1933年 に同 §45の改正が 提案 されたが,受け入れ られなかった。 これは,連邦議会が租税 回避は合法的 なものであるとしたことか ら, §45によ り規制すべ きではない とい う判断をし たため といわれている10)。その後,1935年財務省規則の制定 によ り,独立当 事者 間基準が定め られた。 この独立当事者間基準 は,制走時においては,現在 の ような位置づ けではな く11), §45の規定 を租税 回避 に も適用で きるように したい とい う財務省の強い意思の結果である。それ以降 しば らくの間は, もっ ぱ ら国内の脱税や租税 回避の事案に §45が適用 されて きた12)0
1954年改正 によ り,内国歳入法典 §45が内国歳入法典 §482となった。 1950 年代後半において初めて,国際間の移転価格税制 について広範な議論が行われ
6)矢内‑好著,前掲書,p.22‑230
7)望月文夫著,前掲書,p.370 ; §45は連邦所得税制度史上初めて行政庁に総所 得等の配分を行う権限を授権 した規定であった。(川端康之稿 「米国内国歳入法 典四八二条における所得配分 (‑)‑ 関係理論から見た 『所得創造理論』‑ 」
『民商法雑誌』,第101巻第2号,(1989年11月),P.2420 )
8)五味雄治/大崎滴著,前掲書p.119。
9)望月文夫著,前掲書,p.380 10)同書,p.39。
ll)実際には,関連当事者間取引における所得及び控除の配分という観点での運用は なされていなかったとしている。(同書,p.600)
12)同書,p.59‑600
るようになる13)。そ して,後述す る1986年の 「所得相応性基準」 の追加改正 を経て今 日に至 っている。
Ⅳ 「所 得相応性 基準」 の考 察
Skinnerによれば,1986年税制改革法 (TaxReform Act)で,「所得相応性 基準 (Commensuratewithincomestandard)」 を導入 したことが,関連会社間 の契約形態 を改変 しようとする内国歳入庁の権力 を増大 させた14)としている。
内国歳入法典 §482及 び財務省規則 は,独立当事者 間価格 を決定 し,それに よって所得等の配分 を行 う。1986年,スーパー ・ロイヤルティ条項が内国歳入 法典 §482の後段 に第2文 として付 け加 え られた。 この条項 は,無形資産の譲 渡又は使用許諾に係 る所得の金額が,当該無形資産 に帰属すべ き所得の金額 に 相応するものでなければな らない,とい う 「所得相応性基準」を規定 している。
この規定によ り,無形資産の譲渡対価又は使用許諾の対価の金額 について,当 該無形資産が将来高収益 をもた らす場合,関連当事者間において所得の調整が 要請 されるようになった。
改正前,収益性の高い無形資産は,比較対象取引を見つけ出す ことが困難で あるに もかかわ らず,従来の規定では,比較対象取引が存在 しない場合の指針 が示 されていない とい う問題があった15)。
租税両院合 同協議会の委員 (staffoftheJointCommitteeonTaxation)は 以下の ようにこの追加 に関する理由を述べている。〔§482の もつ〕問題 は,港 在的に高い収益力 を持つ無形資産 (high‑profitpotentialintangibles)16)の移転
13)同書,p.1030
14)Skinner,oP.cit.,pp.175‑176.
15)高久隆太稿 「移転価格課税における無形資産の使用により生 じた利益の帰属及び その配分」『税務大学校論叢』,第49号,(2005年),p.64‑65。
16)高収益無形資産 (high‑profitintangibles)についての定義は,他社に先んじて所 有 し,事業の成功に不可欠である無形資産で,その無形資産を所有することで, 同業他社の利益を上回る利益獲得を可能とする無形資産である。企業が事業を遂
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の場合 に特 に重要 になって きた。‑‑・∵立証 される高収益無形資産の場合で さえ ち,関連会社の使用料の料率が, まして収益項 目でない移転 に関する産業界の 標準 に基づいて適 当に設定 され る立場 を しば しば納税者 は とって きたのであ る。多 くの場合,潜在的に高収益 を持つ無形資産 を開発する会社 は,それ らの 利益 を最大化す るために,資本持分 (equityinterest)を維持す る際に,それ らの権利 を所有す るか,又 は 関連当事者 にそれを移転す る傾 向がある。譲渡 人は 「関連当事者 間」の要因 (̀̀arm'slength"factors)よ りもむ しろ,移転で 受 け取 られるべ き価値の一部 として関連当事者の譲受人に対す る直接又 は間接 の資本持分の部分的価値の中によく見ることがある。高収益ではない無形資産 について非関連当事者間の移転 に関する産業界の標準が, しば しばこれ らの事 例では現実 に比較可能ではないか らである17)。 したが って,産業界の標準や その他の非関連当事者間の取引はsafeharborとはな りえな くなっていた18)。
連邦議会 は,関連当事者 間での所得 の分割 (divisionofincome)が,それ ぞれが引 き受けた開通する経済活動 を適切に反映 していることを保証するのが妥 当であると結論づけた。連邦議会は,関連者に対 して無形資産の移転で行った対 価が無形資産に帰せ られる所得 に相応すべ きであると考 えていたのである19)0 この要求は,関連当事者間の所得の分割が,それぞれが引 き受けた,関連する 経済活動 を適切 に反映す る とい う目的 を満たすため に確立 された20)のであっ た。
行 していくに従い,一般的にどの企業も所有するようになる熟練労働力や経験則 などは,一般的な無形資産 (normalprofitintangibles,orroutineintangibles) と呼ばれ,高収益無形資産とは区別されている。(浅川和仁稿 「米国租税法上の 無形資産の評価の実情 と日本に対する示唆 ‑ 所得相応性基準の分析を中心 と
して‑ 」 『税務大学校論叢』,第49号,(2005年),p.342‑343。 )
17)Bittker,BorisI.‑LawrenceLokken,FundamentalsofInternationalTaxation:U.
S.TaxationfForeignIncomeandForeignTaxpayers,2nded.,Warren,Gorham
&Lamont,(1991),at79‑19,79‑20,
18)Levey,Mar°M.=StanleyC.Ruchelman,"Section482:TheSuperRoyaltyPro‑ visionsAdoptTheCommensurateStandard",41TaxLawyer611,(1988),p.630. 19)Bittker,BorisI.‑LawrenceLokken,op.cit.,at79‑20.
20)StaffofComm,onTax'n,99thCong.,2dSess"GeneralExplanationoftheTax Reform Actof1986at1015(Comm.Print1987日hereinafter1986Bluebook].
「所得相応性基準」 は,独立当事者間基準 (arm'slengthstandard)の適用 に注意 を払 っていて,独立当事者間基準の否認やそ こか らの逸脱ではない。そ の理由として,「無形資産に関連する所得 を見て,関連する経済的貢献に従 って 所得 を分割することは,非関連当事者が行 うこととも合致する」か らである21)
としている。「所得相応性基準」 は,「無形資産の所有権の完全 な移転 と,無形 資産の使用許諾や使用 に関す るその他契約の両方 に22)」適用す る。更 に,そ の主たる標 的は,軽課税 国‑の高収益無形資産の移転ではあるけれ ども,「所 得相応性基準」 は量的制限や質的制限 もな く,インバ ウン ドもアウ トバ ウン ド
も共に,無形資産のあ らゆる関連当事者への移転 に適用する23)。
その他の脈絡で重要 なものは,独立当事者間基準の適用は,当事者が契約 し た時点 に存在す る事実 に通常 は依拠す るが,「所得相応性基準」 は,その よう には限定は していない24)ことが挙 げ られる。
注 目すべ きことは,移転 の結果 として実現 した実際の利益 の実績 (actual profitexperience)であると連邦議会が 目論んでいたことである。したがって, 連邦議会 は,無形資産のためになされた対価が,無形資産に帰せ られる所得の 変化 を反映するように,時の経過に伴 って調整 されることを要求するような意 図をもっていたのである。その法律 は,収入にそれほど変化がない場合 には年 次調整 を意図 しないが,無形資産に帰せ られる収入の年度額 に主要な変化があ る場合 には,その調整が求め られるとしている25)。
この ように,独立当事者 間での方法は,当事者間に契約があるにもかかわ ら ず,無形資産か らの収入が著 しく増加 した り,又 は減少 した りするときにはい つで も,交渉の再 開 (areopeningofnegotiations),すなわち 「所得相応性基 準」の下での調整 (aadjustment)を求めている。期 間的調整 は,「遂行 され
1)Bittker,BorisI.=LawrenceLokken,op.cit.,p.79120. 2)1986Bluebook,at1015.
3)Bittker,BorisI.‑LawrenceLokken,op.cit.,p.79‑20. 4)Ibid.
5)1986Bluebook,at1016.
ββ 商 学 討 究 第58巻 第4号
る経済活動 ,使用 され る資産及 び関連企業 に よ り生 まれた経済 的 コス トとリス クにお ける実 質的変化 と同様 に,無形 資産 に帰せ られ る所得 の流入 にお ける実 質的変化 を反映」 しなけれ ばな らない26)0
川端教授 は,結局, アメ リカ合衆 国にお ける移転価格税制 に関す る連邦議会 の政策 は, 1986年 の前後 で大幅 に異 なってい る とい える, と指摘 し, 「要約 す れば,1986年 まで は,商品売買 を中心 とす る有形 資産,融資等が紛争 の中心 で あ ったが,無形 資産の譲渡 につ いて は執行上 問題 が生 じつつ あった とい う状況 であ った。」 と当時 の状 況 を説 明 してい る27)。 その執行上 の問題 とは何 であ ろ うか。
それ につ いては,別 の論者28)か ら, §482第2文 は,従 来 の価格 法 を中心 と した移転価格 算 定方法 が い わゆ る基本3法29)に よる有 形 資産 の価格 を想 定 し て きたの に対 し,現実 の国際取 引 において技術 やサー ビス な ど無形 資産の持つ 意 味が優 れて重 要性 を帯 びて きた30)こ とに反応 し, 内 国歳入庁 の更正処 分 や
26)Bittker,BorisI.‑LawrenceLokken,op.cit.,pp.79‑21,79‑22.
27)川端康之稿 「移転価格税制 ‑ 経済理論の浸透‑ 」『租税法研究 ‑ 国際租 税法の最近の動向 ‑ 』,第21号,(1993年),p.77‑780
28)中村雅秀著 『国際移転価格の経営学 一 多国籍企業の国際戦略 と合衆国租税判 例12ケース ‑ 』清文社, (2006年),p.3。 ;山川博樹著 『移転価格税制 ‑ 二国間事前確認 と無形資産にかかる実務上の論点を中心 に‑ 』税務研究会出 版局, (2007年),p.90
29)伝統的基本3法 ともいう。①独立価格比準法 (ComparableUncontrolledPrice Method:CUP法)同様の状況下において非関連当事者間で行われた同種の取引 の対価 の額 によって,適正 な移転価格 を判定す る方法。②再販売価格基準法 (ResalePriceMethod:RP法)非関連当事者への再販売価格か ら通常の租利の 額を控除 した額によって,適正な移転価格 を判定する方法。(彰原価基準法 (Cost PlasMethod:CP法)製造等の原価の額に通常の租利の額 を加算 した額 によっ
て,適正 な移転価格 を判定する方法。 この3法が1995年OECD移転価格 ガイ ド ライ ンで挙 げ られている。 (OECD,TransferPricingGuidelinesforMultina‑
tionalEnterprisesandTarAdmimlstrations,(1995).)
30)実務家か らは,「貿易収支が世界的に問題 となっている大赤字で も,世界 に工場 を置 き,資本 と知識の貿易外収支が拡大 してい く中では,この条項の意味は重要 で‑‑, 日本 もアジア諸国に工場や技術 を移転 してい く今 日, 日本の税務当局 も アメリカ同様,いわゆる無形資産の移転価格税制に真剣に対応 し始めたところで」
あるという指摘がなされている。 (中田謙司/谷本真一著 『国際税務入門』 日本
税務訴訟において利益法 による算定が増加 して きた結果,導入 された, と指摘 されている。
さらに,当時の状況 について,赤松教授 は,1968年規則 に定める 『開発者 一 援助者ルール』 は,外国で製造 された製品をアメリカ合衆国で販売す る販売者 が,商標のついた製品を広告宣伝する費用 を負担 し,かつ,当該製品のアメリ カ市場 を開発す るリスクを負担 したなら 『開発者』 とな り得 ること, したがっ て,アメリカ合衆国移転価格税制の 目的上のアメリカの商標権の所有者 をな り 得 ること, を示唆するとの解釈 もあ り得たのである31)が,「判例法32)は,無形 資産の所有権 を法的所有権か ら「開発者」にシフ トさせ る方向には向かわなかっ たのである33)。」 と述べている。
スーパー ・ロイヤルテ ィ条項の追加 によるこの改正 は,無形資産の使用許諾 や譲渡の時には対価が適正であって も,当該無形資産が後に高い収益性 をもた らした場合 には,使用許諾や譲渡の対価 について収益加算 を行 うことになる。
この ように当該無形資産が後 に大 きな収益 をもた らした場合 には,スーパー ・ ロイヤルティの計上 を強制することか ら,この条項は「スーパー ・ロイヤルティ 条項」 と呼ばれていた34)のであるo
スーパー ・ロイヤルティ条項 は,特許権 をは じめ とす る無形資産の譲渡及び 使用許諾に際 し適用 される。 これ ら資産の関連当事者間価格 は,特 に買主が海 外で新たに工場 を設置 しアメリカ国内の法人か ら無形資産等 を買い取 って新た
経済新聞社, (2006年),p.1050) ;1980年に入 り,伝統的3方法による適用件 数は全体の54%にす ぎないとの報告書 (IRS1982report)が出され,その他の 方法に対 して関心が高まったこともある。(五味雄治/大崎満著,前掲書,p.120。 ) 31)赤松晃著 『国際租税原則と日本の国際租税法 ‑ 国際的事業活動 と独立企業間
原則を中心 として‑ 』税務研究会,(2001年),p.3840
32)Eli‑Lilly&Co.V.Commissioner,84.T.C.996(1985),ajf'di71part,reV'dinpart, andremanded,856F.2d855(7thCir.1988).;G.D.Searle&Co.V.Commi ssioner, 88T.C.252(1987).
33)前掲書,p.3850 ;Eli‑Lilly&Co.V.Commissioner事件及びG.D.Searle&Co. V.Commissioner事件は,また別の機会に論考する。
34)望月文夫著,前掲書,p.202。
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に事業 を展 開 しようとする場合 には当該資産について比較可能な独立当事者 間 価格が存在 しない場合が多 く,取引価格調整の当否が実務上多分 に調査官 ・エ コノ ミス ト等の判断に委ね られていた。そ こで, この条項 は,取引が行 われた 時点での独立当事者間価格 だけを参照せずに,その後当該無形資産が どの程度 所得 を生み出 したかによって,当初の取引の価格 を認定するものである。従来 の算定方法 と決定的に異 なるのは,事後の収益稼得活動 を当初の取引価格評価 の要素 とした点である35)0
そ して, このスーパー ・ロイヤルテ ィ条項 によ り,「無形資産が タックス ・ ヘ イブ ンに移転 された場合 に も対処す ることがで きるようになった36)」 こと に,注 目すべ きであるである。すなわち,「『所得相応性基準』 とは,価値ある 無形資産の所有者が,その居住地国における税負担の回避 を目的 として当該無 形資産の法的所有権 を海外の関連会社 に移転することに対する立法措置 として 規定 されたのであ37)」 り, この 「所得相応性基準」 の意義 を見過 ご してはな らない。 したがって,「所得相応性基準」 自体が,「そ もそ も法的所有者でない 現地市場の販売子会社等 に価値ある無形資産の経済的所有権 を認定す るとい う 規定ではないことに留意す る必要がある38)。」換言すれば,「所得相応性基準」
の意義 は,租税 回避の防止のために設け られた とい う点にある。
通常,課税 当局側の内国歳入庁は,実質主義の原則 を用いて,無形資産の経 済的所有権 を主張するが,内国歳入庁が 「所得相応性基準」 を用いて法的所有 権 を有 していないアメ リカ国内の販売子会社 の経済的所有権 を主張す ること は,論拠 としては安当 しないことを指摘 してお きたい。
35)川端康之稿,前掲書,(1989年),p.233。
36)望月文夫著,前掲書,p.2020 ;改正の趣旨は,タックス ・ヘイブンへの無形資産 の移転による所得の国外流出に対処するため,比較対象取引が見つからない場合に も,各当事者の相対的な経済的貢献とリスク分担度に応 じた所得の配分を行えるよ うにすることにあった。(増井良啓著 『結合企業課税の理論』東京大学出版会,2002 年,p.1690 ;H.R.Conf..Rep.No.841,99thCong.2ndSess.,Ⅱ‑637(1986).) 37)赤松晃著,前掲書,p.4370
38)同書,p.4370
1986年改正以来,「所得相応性基準」 は,多 くの懸念,混乱及 び不確実性 を 生み出 して きた。独立当事者間基準 を正確 に留めてはいるが,同時に連邦議会 の 目論見 を達成するとい うや り方で 「所得相応性基準」 を実施するための方法 を開発する際,当初,財務省 と内国歳入庁 は大 きな困難に遭遇 した39)のである。
これはチーズの事例の度重 なる書替 えを見てみれば, 自ず と理解で きるであろ
う。
「所得相応性基準」 に対する混乱 と懸念の多 くは,内国歳入庁が適切 な移転 価格 を確定するのに後知恵にもっぱ ら頼 って新 たな法定上の要求 を実施す るで あろう, とい う納税者側か らの期待 と恐れか ら生 じて きた。納税者達はその よ うな後知恵への依存 は国際的に認め られている独立当事者間基準の定義に合致 しない し,多 くのアメ リカ合衆国の納税者 におそ らく二重課税 を生 じさせ るだ ろうと主張 して きたのである40)。
この点 については,第61回IFA(国際租税協会)年次総会 (2007年)で宮武 敏夫教授か らも,以下の ような重要 な指摘があった。「所得相応性基準」 は後 知恵の利用 につながるとい うリスクがあるとい うことが指摘 されている。‑‑
事後的ではな く,取引の時に独立当事者 間価格の決定 を要求す るとい うことは 絶対 に必要である。‑‑・多 くのブランチ ・レポー トは彼 らの国では 「所得相応 性基準」 を受け入れていない と述べているが,おそ らくこれは彼 らが この方法 の後知恵の危険を認識 しているか らであろう。 アメ リカ合衆国では,「所得相 応性基準」 は使用料の料率 に対す る譲渡後の調整 を要求 している。‑‑内国歳 入庁 は移転後の調整 は独立当事者 間基準 に合致 しているとい う立場 を保 ってい るにもかかわ らず,この ような調整 は独立当事者間基準 に反す るのではないか とい う疑惑が生 じるのは禁 じ得 ない41)0
39)Cole,RobertT.ed.,PracticalGuidetoU.S.TransferPricing,3rded.,Volume l,MatthewBender,(2006),at8193.
40)Ibid.,at8‑94.
41)宮武敏夫稿 「移転価格 と無形資産」 『租税研究』,(2007年11月),p,94‑950
92 商 学 討 究 第58巻 第4号
V GlaxoSmithKlinev.CommissionerS#
(§482第2文 下 で関連 会社 間 の契約 を改変 す る内国歳 入庁 の裁 量権 の例 ) 2006年9月11日,ニュー ヨーク証券取引所 で, Glaxoの親会社 の株価 は17 セ ン ト上昇 して $55.25になった42), と報道 された。 この 日,アメ リカ合衆国 内国歳入庁が, イギ リスに本社 を置 く医薬品会社Glaxoのアメ リカ販売子会 社 に対 して,34億 ドルにのぼる追徴税 を課 し,合意に至 ったことが明 らかになっ た。 しか しなが ら,その具体的な課税 当局側の認定の根拠は,内国歳入庁か ら の不足税額通知書 にはほとん ど示 されていなかった と伝 え られている。 このこ とは,無形資産の配分指標 を示す ことがいかに難 しいか とい うことを示 してい る43)。 また,Glax。SmithKli。e事件 はよく公表 されている事件であるといわれ ているが,Glaxoが二重課税 を受けている点 を主張 したことは, どうも見 えて こない44)。
アメ リカ合衆国内国歳入庁が どの ように して,この 「所得相応性基準」 を用 いて,関連会社 間の契約 を改変 しているのか,その最近の状況について説明す るのに,GlaxoSmithKlinev.Commissioner事件 は有用 であ る と思 われ る。
skinnerの論説 を拠 り所 としなが ら,それを明 らかに したい と思 う45)0 まず, ここで,GlaxoSmithKline事件の概要 を説明 してお きたい。
2006年9月11日,GlaxoSmithKline (以下 「Glaxo」)は,長い間,部外者か ら見れば,多 くの方法 を用いてアメリカ合衆国内国歳入庁 と 「醜い (̀̀ugly")」
42)httpノ/washingtonpost.com/wp‑dyn/content/article/2006/09/ll/ (2007年8月 6日アクセス)
43)萩谷思稿 「OUT‑OUT取引に係る移転価格上の留意点 (無形資産取引を中心に)」
『国際税務』,第27巻第12号,(2007年12月),p.330
44)Mclntyre,MichaelJ.,̀̀CommentsontheOECDProposalforSecretandMan‑
datoryArbitrationofInternationalTaxDisputes",7Fla.TaxRev.622,(2006), p.630,nlO.
45)Skinnerの論文は2005年のものであるので,2006年の合意に至る前のものである ことをここで断っておきたい。 したがって,2005年当時のGlaxoSmithKline事 件の経過状況に基づき,Skinnerは論説を展開している。
移転価格 の争 いを して きたが, とうとう和解 した と発表 した。その和解 は, こ の事件で争い となった問題点全 てを解決 した といわれている。その合意の下, Glaxoの最終的 な,ネ ッ トで金銭 に換算 した費用 は,連邦税,州税及 び地方税, 利子,実施 した支払額の租税優遇措置 による受益 もカバ ー して,お よそ31億 ド ルになる と思 われる。和解 は,2007年2月 に公判 に入 る予定であった,1989‑2000 年 の期 間の争 い を終結 し,続 く2001‑2005年 を もカバー してい る。Glaxoと内 国歳入庁 に とって, これは,14年前 に開始 した,長 い審議,手続 き及 び交渉の 終蔦である46)0
Glaxoは, イギ リスに本拠地 を置 く, グローバ ルに医薬品事業 を展 開 してい る持株 会社 であ る。GlaxoSmithKlineHoldings(Americas)Inc.,す なわ ち GlaxoAmericaslnc.(以下 「GlaxoU.S.」)の税務調査 は,1989‑1990年の所得 税 申告書 について,1992年 にアメ リカ合衆国内国歳入庁 によって着手 された47)。 12年後,2004年1月6日に,その内国歳入庁 は,1989‑1996年の期 間に関 して
§482に よ り56億 ドルの移転価 格 調整 を施 して,27億 ドルの不足 税 額通知書 (taxdeficiencynotice)を送付 した48)0
そ こに至 る経過 を説明す る。Glaxoは1994年6月30日にアメ リカ合衆国内国 歳入庁 に事前確認制度 (APA ;AdvancedPricingAgreement)を申請 した結 果,内国歳入庁 は拒 否 した。平行 して,1992年8月11日に, 当時Glaxoの競 業者で後 に合併 のパ ー トナー となる,SmithKlineBeecham(以下「SmithKline」) は,アメ リカ合衆 国内国歳入庁 に事前確認制度 を申請 していて,その事前確認 制度 は1993年6月28日に実施 された。SmithKlineの事前確認制度 は再販売価 格 基 準 法 に基 づ い た移 転 価 格 方 法 論 を提 供 した法 律 上 の 決 定 で あ っ て, TagametについてSmithKlineによって遂行 されたマーケテ イング活動 と販売 46)Fris,Pim=SebastienGonnet,̀̀AEuropeanViewonTransferPricingAfter
Glaxo",T71anSferPricing,Intangibles,andEco7Wmics:WhatEconomicAnalysis Adds,NERA,(2007),pp.43144.
47)GlaxoSmithKlineHoldings(Americas)Inc.V.Commissioner,117T.C.1;81T.
C.M,(CCH)4127(2001),at2.
48)Fris,Pim=SebastienGonnet,op.cit.,p.44.