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指定管理者制度導入の効果の検証について
政 策 研 究 大 学 院 大 学 まちづくりプログラム
MJU10048 小川充彦
1 研究の背景と目的
平成
15
年の地方自治法改正により、指定 管理者制度が導入された。この制度は、普 通地方公共団体が住民の利用に供するため に設置した公の施設の管理を法人その他の 団体に行わせることで、その目的のひとつ として、当該施設で提供されるサービスの 質を向上させることが挙げられる。八田 (2008) によれば、「競争にさらされていな い企業」には非効率が生じるというが、公 の施設の管理を競争にさらされる民間等が 行った場合に、サービスの向上効果はあっ たのであろうか。本稿では、指定管理者制 度導入が施設で提供されるサービスの向上 に与える効果について、東京23
区の公立図 書館を対象に実証分析を行うことでその効 果を検証し、どのような場合に、よりサー ビス向上効果が高いかを提言することを目 的とする。2 指定管理者制度の概要
指定管理者制度は、平成
15
年の地方自治 法の改正により導入され、公の施設の管理 を、法人その他の団体に行わせることがで きるというものである。法改正以前におい ても、管理委託制度により、当該施設を設 置した団体以外の団体にも管理を行わせる ことは可能であったが、管理委託制度は、処分に該当する使用許可等は委託できなか った。また、管理の受託は、普通地方公共
団体が出資している法人で政令で定めるも の又は公共団体若しくは公共的団体に限定 されていた。指定管理者制度が導入された ことにより、受託者に処分に該当する使用 許可を行わせること及び民間企業等が受託 者になることが可能になった。
3 指定管理者制度導入に関する理論分析 3-1 指定管理者制度導入の理論分析
本稿においては、図書館に指定管理者制 度が導入された場合に、来館者、貸出点数 及び登録者がどのように変化しているかを 分析する。これらが増加している場合の効 果を図1
で表している。図書館の利用は原 則無料であるため、消費量はq
となる。ま た、図書館は教育効果があると考えられる ことから、正の外部性があるといえるため、通常、社会的に望ましい消費量よりも過小 な消費になっていると考えられる。なお、
社会的に望ましい需要曲線を、社会的限界 価値曲線として表している。指定管理者制 度が導入され、来館者等が増加すると、私 的限界価値曲線が右にシフトし、消費量は
q*となり、斜線部だけ余剰が増加するとと
もに、社会的に望ましい消費量に近づくこ とになる。2
一方、図書館サービスの供給は無料で行わ れているものの、実際には人件費等がかか る。これが指定管理者の導入で下がること を、図2
で示している。図2
中の限界費用 曲線a
が制度導入前のコストで、制度導入 後のコストが限界費用曲線b
であり、斜線 部がコスト削減分である。これらのことか ら、社会全体でみると指定管理者の導入に より余剰が増加していることが予想される ため、指定管理者制度は正当化することが できる。3-2 インセンティブ契約の理論分析
指定管理者制度においては、「エージェン シー問題」が発生すると考えられ、何らか の形で依頼人(普通地方公共団体)が、代 理人(受託業者)の行動を観察しないと、モラルハザードが発生し、代理人が自身の 利害のみを考慮することになると考えられ
る。これに対処する方法として、インセン ティブ契約があり、インセンティブ契約は、
結果と指定の指標に報酬を連動させること で依頼人が望んだ行動を代理人がとるよう にインセンティブを持たせることである。
したがって、本稿で対象とする図書館にお いても、この契約があることにより、利用 がより増加することが予想される。
4 指定管理者制度導入に関する実証分析 指定管理者制度の導入により施設の利用 が増加しているか、また、インセンティブ 契約 (本稿では誘因契約という。
)
があると、より質の向上効果があるか否かについて、
平成
17
年度から平成21
年度の年度ごとの データを用いて、被説明変数を各区の人口 一人当たり来館者数、貸出点数及び登録者 数として、最小二乗法により分析する。な お、本稿の分析における誘因契約とは、「モ ニタリングの結果を翌年度以降の委託料に 反映できる」といった、受託者により強い サービスの向上のインセンティブを与える 契約のことを指す。図
1 指定管理者制度導入の余剰分析
価格
社会的限界価値曲線
私的 限界価値曲線
q q* 利用量
図
2 指定管理者制度導入のコスト分析
p
社会的限界価値曲線
C 限界費用曲線a
C* 限界費用曲線b q* 利用量
3 (1) 来館者数及び貸出点数の分析結果
来館者数については、誘因契約がある場 合のみ統計的に有意な増加を示している。
これは、指定管理者制度の導入により、図 書館で開催されるイベントがより工夫され たものになったことが要因ではないかと推 測される。一方、他のケースでは有意な変 化は示していない。貸出点数については、
選書は基本的に区が関わっており、資料の 内容自体には大きな変化が無いこと、また 施設の管理等が良くなれば、資料を持ち帰 らずに、その場で利用する人が増えること 等が考えられ、サービス向上の影響を十分 に捉えられていない可能性がある。ただし、
有意な減尐はみられないことから、無料施 設であったとしてもコスト削減のため指定 管理者制度を導入することには一定の効果 があるといえるだろう。
(2) 登録者数の分析結果
※ ***、**、*はそれぞれ 1%、5%、10%の水準 で有意であることを示す
登録者数の分析については、統計的に 有意変化がみられない。この分析におい てはサービスの向上の指標として適切で なかった可能性がある。また、多くの説 明変数で誤差が大きくみられる。説明で きていない。これは、サンプル数の尐な さというデータの制約とともに、他の大 きな説明力を持つ変数が抜けていること 等が原因と考えられる。
5 まとめ
本稿では指定管理者制度導入の効果、特 に誘因契約の有無が公共施設のサービスの 向上に寄与するか否かの分析を行ったが、
本章ではこれらの分析をまとめ、それを踏 まえた提言を行う。
係数 標準誤差
0.139 0.085
0.345 0.386
高齢者割合 -0.105 0.080
保護率 -0.002 0.024
ln合計所蔵資料数 0.759 0.981
ln平均座席数 0.053 0.101
ln平均開館日数 -0.154 0.522
ln平均専有面積 0.062 0.161
ln平均開館時間 0.443 0.411
ln図書館数 -0.149 0.870
改築館数 0.082 ** 0.038
縮小館数 0.109 0.141
併設施設図書館割合 -0.202 0.322
年度ダミー yes
区ダミー yes
定数項 -10.172 12.697
サンプル数 115
F値 141.140
修正済み決定係数 0.8142
被説明変数
指定管理誘因なしダミー×導入図 書館割合
ln登録者数/人口 OLS
指定管理誘因ありダミー×導入図 書館割合
係数 標準誤差 係数 標準誤差
指定管理誘因契約ダミー 0.237 *** 0.082 0.001 0.082
指定管理誘因なしダミー 0.025 0.065 -0.056 0.056
高齢者割合 0.146 * 0.079 -0.068 0.049
保護率 -0.066 *** 0.009 0.037 *** 0.013
ln所蔵資料数 0.341 *** 0.067 0.310 *** 0.069
座席数 0.001 *** 0.0004 -0.0005 0.0003
ln開館日数 0.891 *** 0.119 0.532 *** 0.161
ln専有面積 0.245 *** 0.064 0.315 *** 0.056
ln開館時間 0.824 *** 0.226 0.788 *** 0.167
改築ダミー 0.142 ** 0.060 0.163 ** 0.074
縮小ダミー -1.077 ** 0.454 -1.177 *** 0.332
併設施設ありダミー 0.128 *** 0.036 0.059 ** 0.023
年度ダミー yes yes
区ダミー yes yes
定数項 -15.040 1.686 -10.244 1.230
サンプル数 643 1078
F値 184.000 158.430
修正済み決定係数 0.870 0.8108
被説明変数 ln来館者数/人口 ln貸出点数/人口
OLS OLS
※ ***、**、*はそれぞれ1%、5%、 10%の水準で有意で あることを示す
4 (1) 指定管理者制度導入の効果
指定管理者制度が導入された図書館では、
多くの場合で、統計的に有意ではないもの のその係数は正であった。したがって、サ ービスの向上を明確に示すことはできない ものの、尐なくとも利用が減尐しているこ とは示されなかった。普通地方公共団体川 にコスト削減のメリットがあれば、指定管 理者制度の導入は意義があると考えられる。
また、例え無料の施設であっても、その施 設の管理には民間業者が適さないというこ とはないものと考えられる。
(2) 誘因契約の効果
来館者数の分析結果にから、誘因契約が あることで来館者数は統計的に有意に増加 を示した。したがって、このような契約が あった方が、サービスの向上効果はより得 やすいものと考えられる。
(3)
残された課題本稿では、指定管理者制度導入の効果に ついて分析を行ったが、次のような課題が 残されている。
まず、図書館の登録者数の分析結果につ いては、多くの変数で説明できていない。
また、経費、指定管理者導入前後での具 体的な変化、他の施設との比較、モニタリ ングの指標の他、普通地方公共団体と受託 事業者の役割分担等については分析の対象 としていないため、今後はこれらを加味し た詳細な分析を行い、より踏み込んだ提言 を行う必要があると考える。