ヴィヴアノレディの声楽作品における音楽語法と歌唱表現
教科・領域教育専攻 芸術系コース(音楽) 西 智 恵 美
はじめに
アントニオ・ヴィヴァルディは、バロック音 楽史上最も重要な作曲家の一人として、また、
イタリアにおける後期バロックの熟成期の象徴 的存在として位置付けられることは周知のこと である。しかしながら今日では器楽作品作曲家
として、より知られている。それは、彼が器楽 作品においてのみ、すばらしい作品を作ったか らではなく、バロックの時代にソロ・コンチェ ルトの確固たる様式を築いた事が大きな功績と して評価され、声楽作品については器楽作品ほ ど注目されなかったからである。しかし彼の声 楽作品はカンタータをはじめとして、オラトリ オ、モテット、ミサ曲など多くの作品があり、
オペラだけでも 46を数え、これらは当時、ヴ ェネツィア、あるいはウィーンやロンドン等、
多くの都市で演奏されたようである。これらの 史実からヴィヴァルデ、イの声楽作品における聴 衆の人気は、決して器楽作品に劣るものではな かったものと言えよう。更に彼自身の創作活動 とし、う視座においても決して器楽作品に偏った もので、はなかったと理解できる。
研究の目的
本論文では、ヴィヴァルディの声楽作品を演 奏するための手掛かりとなる音楽的解釈とリブ レットにおける文学的アプローチ等を通して歌 唱表現上のあり方を探求する。
研究の対象
ヴィヴ、アルデ、イが生きた時代は、ルネッサン
指 導 教 官 草 下 賓
スの音楽と新しい音楽とが混在する中で、バロ ック独自の新たな音楽様式を確立した時代であ る。彼の音楽語法や歌唱表現を考察する際の手 がかりとして、彼の声楽作品において顕著にみ られる長い旋律線のメリスマ的動き、器楽作品 に特徴付けられるリトルネッロ形式やロンパル ディア風リズムの声楽作品への導入など、器楽、
声楽の区別なく用いられる音楽語法を研究の対 象とする。また、彼の歌唱表現を研究するには 先行研究に加え、彼の作曲家としての生涯、彼 が生きた時代や社会的背景、リブレットなどに ついての探求も必要で、あると考える口
研究の方法
ヴィヴァルディの音楽語法と歌唱表現を探求 するにあたり、まず先行研究や彼の器楽作品に おける音楽的特徴、彼が生きた時代の社会的背 景などを考察し、彼の作品上の音楽的特徴を探 求する。また、演奏に際して、演奏者が必然的 に抱える諸問題を解決するために、楽譜や文献 による探求をし、更により具体的な演奏上の成 果を得るために彼の声楽作品を取り上げ、それ らの作品の特徴である新旧様々な音楽語法や様 式を考察することにより、歌唱表現上の一助と する。
論文構成
第一章では、ヴィヴァルディの生涯と彼が生 きた時代背景を中心に、音楽活動の中心地であ ったヒ。エタ女子養育院、サンタンジエロ劇場に 視点を置き、彼の行った音楽活動を概観した。
その結果、彼の音楽活動においてこの2つの場 所は必要不可欠なものであり、ここでの環境が ヴィヴァルディの音楽に多大な影響を与えたこ とがわかった。また、バロック後期のイタリア の時代背景を概観することにより、ヴィヴァル ディや他の作曲家の音楽が作られた社会的背 景、更にこの時代の音楽を方向づける様々な音 楽様式や劇場音楽などの作品が多く誕生する歴 史的経緯の必然性や多様で個性的な作曲作品の 成立過程などを探求した。
第二章では、ヴィヴァルデ、イの音楽語法を声 楽作品、器楽作品というこつの分野から概観し た。声楽の分野では現代の学者の研究への着手 が遅れたことにより、ヴィヴァルディのカンタ ー夕、オペラ、オラトリオ作品は、器楽作品ほ ど人々の関心を得られていなし、。しかし、彼の カンタータ作品は決して他の分野に劣るもので はなかった。オペラ、オラトリオ作品は養育院 や劇場の発展により、ヨーロッパ全土に広がり
を見せ、ヴィヴ、アルデ、イの名声は世界へと広が っていった。コンチェルトでは他の有名な作曲 家と比較し、ヴィヴァルディが取り入れた音楽 語法を探求した。この結果、古い様式を用いな がらも、新しい様式を積極的に取り入れるとい った彼の意志が見受けられた。
第三章では、修了演奏で、プログラミングした 楽曲を取り上げ、第二章で検討した音楽語法に 着目しながら歌唱表現の在り方を探求した。そ の中でヴィヴァルディは器楽と声楽の基本的な 相違点もよく理解しており、声楽作品では声楽 的に無理な跳躍進行などは慎重に検討した上で 用いていることなどがわかった。
おわりに
本論文においてはヴィヴァルディの声楽作品 を音楽語法と歌唱表現という観点から研究し
た。その結果、声楽、器楽分野において彼の作 曲法には何ら違いはなく、彼自身も両分野を区 別することなく作曲していたことや、他の作曲 家の長所を柔軟に取り入れる積極性を持ってい たことがわかった。また、ヴィヴァルディの楽 曲に度々登場するメリスマ的進行はその楽曲を 象徴する重要な言葉において使用され、歌詞に 対応したアフェクトを表象すべく、装飾的旋律 線を意図的に作り上げていたと推察することが できる。その結果、ヴィヴァルデ、イの楽曲を構 成する際の様式観や特徴的な音楽語法や何故他 の作曲家の声楽作品と比して器楽的と評される のか、あるいはリブレットに基づいた旋律配置 などに、一応の研究成果を挙げることができた。
今後の課題として、本論文で探求するに至らな かった宗教作品や装飾技法への研究を取り上 げ、更なる歌唱表現への探求に励みたい。
【学位関連演奏曲目】
A.ヴ、ィヴァルディ作曲
• From ORA TORIO ((JUDITHA TRIU恥1PHANS))
Aria Se fulgida per旬 delciel la face arde"
オラトリオ《勝利のユデ、イタ》より
アリア もし、あなたのために天の燃える松 明が輝くならば"
・FromOPERA ((OTTONE IN VILLA)) Aria Guarda in quest'occhi e senti"
オペラ《離宮のオットーネ》より
アリア この眼差しで見つめ、聞きなさい"
• From OPERA ((L'ATENAIDE))
Aria Vorresti
,
il so,
vorresti,
amor tiranno"オペラ《アテナイデ》より
アリア 貴方は私がそれを知り、さらに暴君 のような愛を望まれるのか"
• CANT A TE ((Elvi
r
, a
anima mia))カンタータ((エルヴィーラよ、私の魂よ》