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防災意識を高める取り組みについて
―学校安全ノートを活用して―
高 度 学 校 教 育 実 践 専 攻 実習責任教員 阪 根 健 二 教職実践力高度化コース 実習指導教員 金 児 正 史 松 竹 寿 郎
第1章 課題設定の理由・経緯
1 学校アセスメントによる実習校の課題 実習校は佐賀県の北西に位置する児童数 101 名の小規模校である。実習校のある地域は特に
「上場台地」と呼ばれている。校舎は海抜 150 mほどの場所に建っているため津波の被害には 無縁だが,大雨時には大量の雨水が海岸に向か って流れていくため道路が川のようになること がある。また通学路は斜面を切り開いたように 造られているため道路沿いは崖が多く,降水量 が多くなれば大規模な土砂災害も考えられる。
また,実習校から直線で約8㎞のところに玄海 原子力発電所があり,原子力災害についてもあ らゆる角度からの備えが必要であると言える。
実習校の防災教育の現状とその意識について,
教職員と児童にアンケート調査を行った。実習 校では引き渡し訓練を含めて年間に4度の避難 訓練を行ってきた。しかし,そのどれもが形骸 化したものになっており,教職員も児童も実際 の災害をイメージして訓練に臨むことが難しく なっている。また,教職員は災害から児童を守 れる自信がない,児童も災害から自分の命を守 る術(すべ)を知らないから守れる自信がない と多く答えており,実習校全体として自助や共 助の力が弱いことが分かった。
2 佐賀県における自然災害の現状
実習校のある佐賀県は自然災害の少ない地域 である。しかし近年,降水量が増加傾向にあり,
それに伴って住宅の浸水被害も増えてきている。
これまで九州北部には地震は来ないと言われて いたが,平成 17 年に「福岡県西方沖地震」が起 き,実習校周辺でも震度5弱を観測した。また,
佐賀県内にいくつもの活断層が存在しているこ とが新聞紙上で取り上げられ,そこには最悪の 場合,震度7以上の地震もあり得ると報じられ た。あらゆる災害を‘対岸の火事’と捉えず,
自らのこととして防災教育に取り組むよう,よ うやく県内でも動き出したところである。
3 先行研究・先行実践事例
(1)高知市立南海中学校の実践
地域の防災リーダーを育てることを目標に,
防災教育を推進している。各行政機関と連携し て行う「防災フェスタ」が生徒の自主性,創造 性を養い,防災力の向上につながっている。
(2)京都市立桂徳小学校の実践
災害は決して他人事ではないという認識のも と,災害から自分たちの命を守る方法を考える ことにより,起こりうる災害を自らの問題とし て捉えられるよう学習を進めている。自助や共 助の力が培われる防災学習である。
(3)静岡県教育委員会の実践
静岡県教育委員会が「防災ノート」を開発。
高校生の視点から,防災・減災のためにどのよ うなことができるかを提案している内容である。
自助・公助の態度を育て,地域の防災リーダー としての自覚を高める構成になっている。
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図2 防災すだちくん
第2章 実践課題設定 1 目的
東日本大震災では学校の防災力の違いで被害 に大きな差が生じ,学校管理下で多くの児童が 命を落とすという最悪な事態が起こってしまっ た。実習校のある佐賀県でも巨大地震が来る可 能性が報じられている以上,それに対しての早 急な備えをハード・ソフトの両面にわたって行 わなければならない。また,近年の異常気象か らさまざまな自然災害がどこでも起こり得る可 能性がある。災害は決して‘対岸の火事’では ないことを自覚し,さまざまな災害から自分た ちの命を守る防災教育を学校現場でも積極的に 行っていく必要がある。自然災害から身を守る 術(すべ)を子どもたちが学んでいれば,いざ という時に自分の命を自分で守る自助,家族や 仲間と共に助け合う共助の力などを発揮し,そ のことが防災リーダーの育成へとつながり,災 害に強い地域へと発展していくであろう。
2 仮説
防災意識を高める一番の方法は,防災の授業 を行うことである。具体的な指導内容が明らか で,朝の会や帰りの会のショートの時間で指導 可能なワークシートがあれば,授業時間を削る ことなく進められる。そこで,教師用の防災教 育資料「学校安全ノート」を作成する。これを 用いて防災指導を定期的に行い,併せて環境整 備を充実させたり,校内研修で避難訓練につい ての見直しなどを行ったりすれば,学校全体の 防災教育が充実し,防災意識の向上へとつなが ると考えた。
第3章 実践の計画 1 全体計画
実習校にて防災教育を充実させ,防災意識を
高めるための有効な取り組みとして大きく4つ を考えた。これらを「4本の矢」とする。(表1)
この他,保護者や地域への発信手段として「防 災便り」の発行,保護者向けの防災に関するプ レゼンテーション等を行う。
全体計画の中心は「学校安全ノート」である。
このノートを活用し,「4本の矢」の取り組みを PDCAサイクルで計画的に実践する。(図1)
2 「学校安全ノート」の開発
筆者が制作したワークシートの基礎編は,イ 間に指導したり,宿題として持ち帰らせ,家族 とシェアしたりできるよう活用できる。その他,
た。その他,ワークシート応用編やアクション カード,避難訓練案等,今すぐ教職員や学校全 体を防災力向上へと導く資料となっている。
また,徳島県立防災センター のマスコットキャラクターで ある「防災すだちくん」(図2)
が随所に登場し,様々なアド バイスをする形をとった。
表1 「4本の矢」の内容と具体的な取り組み
図1 防災意識を高めるための構想図
ラストを多く取り入れ,ゲーム的要素を踏まえ るなど,小学校低学年でも活用できる内容とし
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写真1 防災シートに記入する児童たち
第4章 実践の結果 1 実践の概要
限られた実習期間の中で効果的に「4本の矢」
を実践していくために,すでに計画されている 行事予定に合わせて実習計画を立てた。(表2)
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2 学校課題フィールドワークⅠ
(1)「4本の矢」の実践
校内研修で防災教育について今後の方向性を 共通理解することができた。特に避難訓練のレ ベルアップと防災授業の導入については前向き な意見が出され,すぐに導入・実践へと向かう ことができた。火災避難訓練では,避難後に体 育館で児童によるシェアリングを行った。これ により,児童目線での気づきが発見でき,避難 の際の新たな課題を発見することができた。防 災授業は担任の先生方と個別に打ち合わせを行 い,ショートの時間を中心に全学年に入り,ノ ートの内容を指導したり,避難訓練の事前指導 をしたりした。校内環境では,授業で使った資 料をクイズ形式にして掲示し,学びの場・振り 返りの場とするこ
とができた。また,
5月の生活目標と 合わせて取り組む
「防災BOX」を 設置し,(写真1)
安全や防災について気づいたこと,考えたこと などを投函させる取り組みを行った。他にも,
保護者向けに防災の取り組みを紹介する「防災 便り」を発行したり,PTA総会の折に防災に ついてのプレゼンテーションを行ったりするな どして,保護者や地域への防災発信を行った。
(2)実践データの分析結果
学校課題フィールドワークⅠ後の児童アンケ ート調査結果からリサーチ期に比べ有意差が見 られたのが,避難の際の約束である「お・か・
し・も」の認知度である。(図3)これまでの避 難訓練で何度も確認してきたのに定着率が低い 結果であったのが,今回,防災の授業で取り扱 ったことで認知度が9割を超えた。災害を自ら のこととして捉え,避難の際の約束を覚えるこ とで自分の命を守りたいと考えた意思の表れで あろう。また,災害発生時の退避法についても 有意差が見られ,自分の命を守る術(すべ)が 身につき,自助力が向上した児童が増えた。
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児童の防災意識の向上においては,日頃の継 続した取り組みによるものが大きいと感じたが,
普段から児童と接している教職員全体の防災意 識を上げていかないと児童が防災について考え る機会も少なくなる。そこで,学校課題フィー ルドワークⅡでは,特に教職員の防災力向上に 向けた取り組みを充実させることとした。
3 学校課題フィールドワークⅡ
(1)「4本の矢」の実践の中で
学校課題フィールドワークⅡの課題としてい
表2 年間行事と関連させた実習計画の具体的内容
図3 「お・か・し・も」に関する認知度の変化
- 12 - た教職員の防災意識向上に向け,『教職員に求め られる防災力とは?』と題した校内研修を行っ た。また,阪根教授の学校訪問日には講話と実 践を交えた講義も行った。日々の防災の指導で は参観を促がし,子どもたちと一緒に防災につ いて考えてもらう機会を作った。
(2)「いのちについて考える日」の開催 実習校では初めてとなる「地震時退避訓練」,
それと合わせて「不審者対応避難訓練」と地区 別の「引き渡し訓練」を同じ日に行い,1日を かけて「いのち」を意識できるような内容を保 護者にも参加・参観してもらう「いのちについ て考える日」を開催した。児童・教職員・保護 者それぞれの防災意識の高まりが感じられる1 日となった。
(3)新教科書における防災
実習校のある唐津市で,来年度採用される新 教科書が決定し,それを基に防災に関する教科 内容と要点等を一覧表にまとめた。これを,平 成 26 年の 12 月までに市の全小学校へ3部ずつ 配布,今後はデータとしての配信も検討してい る。今年度中にこの資料を確認しておけば,来 年度から約2~3割増加した防災の内容につい て,担当学年を問わず現段階でどんな知識や視 点を持っておけばいいのかのヒントになると期 待している。
第5章 実践の成果と課題
学校課題フィールドワークⅡ後に児童と教職 員にアンケート調査を行った。災害時の初期退 避法については 100%とはいかなかったが,9 割以上の児童がまず何をしたらいいのかを認識 できている結果が得られた。また,自助に関す る問いには約9割の児童が自分の命は自分で守 れると回答した。(図4)
教職員の防災意識も高まったと回答した割合が 100%となり,自らも防災教育を積極的に行って いきたいという意見もあった。防災教育の導入 によって,あらゆる災害から児童の命を守るた めの知識と意識に高まりが見られた。(図5)
実習校で行ってきた防災教育を,保護者や地域 にも発信し続けていけば,それが地域全体の防 災意識の高まりへとつながっていくと感じた。
第6章 修了後の課題と取り組みの構想 教職大学院で阪根教授から学校防災や危機管 理を学んだことで実習校を含めた佐賀県全体の 防災力が弱いことに気づくことができた。学校 防災教育の充実は,命を守るという観点から考 えても喫緊の課題といえる。実習を通して防災 教育を実践し,実習校の防災意識を高める成果 を上げることができたが,継続した取り組みが 必要である。これまでの学びを生かし,多発す る自然災害にも負けない確かな防災力を学校か ら発信し,地域防災力の底上げに尽力したい。
【参考文献】
阪根健二 2009 学校の危機管理最前線 教育開発研究所
図4「自分の命は自分で守れるか」の自助に関する回答結果
図5 防災意識の高まりがもたらした教職員の意識の変化