((別紙様式第7号)
学 位 論 文 審 査 の 結 果 の 要 旨
氏 名 Mohammad Jiaul Hoque
審 査 委 員
主 査 宇佐見晃一 ◯印 副 査 糸原 義人 ◯印 副 査 谷口 憲治 ◯印 副 査 小林 一 ◯印 副 査 古塚 秀夫 ◯印
題 目
Skill Development of Agricultural Extension Workers of the Department of Agricultural Extension in Bangladesh -At Four Upazilas in Kishoreganj District-
審査結果の要旨
バングラデシュ政府農業普及局は、長年に渡り同局農業普及員(以下、農業普及員)の訓練に膨大 な予算を投入してきた。にもかかわらず、幾つかの理由により、十分かつ良質な農業普及サービスを 享受できない農民は少なくない。その理由の1つが農業普及員の力量不足であると言われている。今 日、バングラデシュの農業普及事業は、単なる技術移転という役割を超え、ニーズに合った農業普及 サービスを農民に効率的かつ効果的に供給することを求められている。それ故に、農業普及員の技能 向上は緊急な解決すべき問題である。
全10章から構成される本論文の目的は、①現行の農業普及員訓練の体系、②農業普及員のOff-JT(座 学的訓練)及びOJT(実践的訓練)に関する認識、③農業普及員の農業普及技能レベル、習得した一般 技能及び熟練技能、⑤農業普及員にみられるOff-JT/OJT認識、Off-JT参加、OJT実践と農業普及技能レ ベルの関係、を明らかにすることである。
第2章は方法論の章であり、文献レビューを踏まえて本研究の枠組み(論理)を概念的に整理 し、事例地および調査実施を概説し、分析手法および分析内容の視点から『技能』研究における 本研究の位置づけと特徴を論述した。
第3章では、事例地の農業普及員の年齢・勤続年数・教育水準・コミュニケーション行動に関 する特徴を整理した。
第4章では、農業普及局の訓練政策を概説し、事例地における農業普及員の訓練体系の実態な らびに訓練満足度等の調査結果に基づいて、Off-JT偏重(OJT不足)の訓練体系、「訓練に満足し ていない」という評価の背景にある要因的問題(訓練の種類、訓練施設、訓練計画、運営管理)
を明らかにした。
第5章では、文献レビュー等によって整理したOff-JT及びOJTの概念や長所・短所等(それぞ れ16項)を使ってOff-JT/OJT認識の実態が捉えられ、相関分析及び判別分析の結果、「OJT認識 は勤続年数と負の関係にある。」、「Off-JT認識は勤続年数と正の関係にある。」、「Off-JT認識が高 いか低いかを判別する項目は、『農業普及員の技能形成において、Off-JT は OJT ほどに効果的で ない。』及び『技能形成において、Off-JTはOJTよりも多くの時間を必要とする。』である。」こ
とを明らかにした。
第6章では、農務官(監督者的上司)、熟練農業普及員(同僚)、農民(受益者)と言う3者に よって評価された8つの農業普及技能レベルについて、「計画関連の技能とモニタリング/評価関 連の技能が低位である」、「計画技能を除けば、他の7つの農業普及技能レベルは勤続年数と負の 関係になっている」、「計測された7つの(計画技能を除く)農業普及技能の成長曲線を見る限り、
技能レベルは勤続15年まで漸減的に上昇し、その後定年退職年齢まで加速的に下降する」、とい う特徴が明らかにされた。
第7章では、農業普及技能を構成する一般技能および熟練技能を具体的に同定した上で、農業 普及技能レベルの低位農業普及員群と同高位農業普及員群を比較した結果、8つの農業普及技能 のそれぞれにおいて、後者は前者よりも多くの熟練技能を習得していることが明らかにされた。
第8章では、統計的検定によって農業普及技能レベルの低位農業普及員群と同高位農業普及員 群を比較した結果、両群の間にOJT認識に有意な差がみられるが、Off-JT認識に有意な差はみら れないことが明らかにされた。合わせて、定量的な重回帰分析の結果、農業普及技能レベルに有 意に寄与する7つの具体的OJT認識を同定し、それらのなかで比較的幅広く寄与する具体的OJT 認識が「OJTは知識及び技能の継続的な向上を保証する。」「OJTは、問題解決と言う意味におい て、学習(習得)環境と成りえる職場を創ることができる。」であることを明らかにした。
第9章では、統計的検定によって農業普及技能レベルの低位農業普及員群と同高位農業普及員 群を比較した結果、ほとんどのOff-JTにおいて両群の間に訓練参加の有意な差、OJT実践におい て高位農業普及員群の幅広い実践、低位農業普及員群の狭い(限定的)実践という有意な差がみ られることを明らかにした。あわせて、重回帰分析及び判別分析の結果、既存のOff-JTの約半数 が農業普及技能レベルの説明に寄与しない一方で、上司の監督を受けない形のOJTは展示圃の設 営・運営技能、農民が抱える問題の評価技能、モニタリング・評価技能の形成及び発展に、上司 や熟練農業普及員と議論する形のOJTは問題センサス技能、普及計画技能、活動実施計画技能の 形成及び発展にそれぞれ寄与するという差異が明らかにされた。
これらの分析結果及び関係する考察に依拠した第10章では、Off-JTの質的改善及び効果の確実 化、OJTの充実という短期的視点の政策提言、OJTを熟知するが故に可能となる「効果的なOJT を保障するためには、ユニオンという行政単位を管轄範囲として複数の農業普及員が一緒に働け るように、『1人の農業普及員が1ブロックを管轄する』という現行の制度を見直す必要がある。
この場合、複数の農業普及員が若手と熟練者の構成である。」という中期的視点の制度改革的提言 は説得力をもっている。
以上、OJT、認識、熟練という概念を取り込んだ斬新な「訓練」「技能」分析を巧みに活かして、
農村開発の一翼を担う農業普及員の技能発展及び熟練構造を考察した本論文は、農業普及学、農 村開発学、労働経済学の発展に寄与するものであり、博士論文として十分な価値があると判断し た。