博 士 ( 歯 学 ) 加 藤 尚 之
学 位 論 文 題 名
新しいりゾ糖脂質の定量法:病脳での分析
学位論文内容の要旨
I緒 言
糖 脂質は スフ アンゴ シン塩 基に脂 肪酸が 酸ア ミド結 合した セラミ ドに 種々の単糖やオルゴ糖が 結 合 し た 物 質 群 で あ り , リ ゾ 糖 脂 質 は 糖 脂 質 か ら 脂 肪 酸 が 解 離 し た も の で あ る 。 リ ゾ糖脂 質は 微量で 細胞毒 性をも ち,溶 血や 組織の 壊死を 引き起 こす 。これらの物質は特定の 先 天性糖 脂質蓄 積症の 組織 で増加 し,そ れが原 因で これら 疾患は ,細胞 障害を引き起こすとみら れ ている 。
リ ゾ糖脂 質を 分離す るには シリカ ゲルの 順相 吸着ク ロマト 法が用 いら れてきたが,インタクト の 糖脂質 や夾雑 物との 分離 が完全 でない 。
本 研究は りゾ 糖月旨 質と糖 脂質の疎水性の違いに着目して逆相クロマトおよび陰イオン交換ク口 マ トを用 い,リ ゾ糖脂 質の 新しい 分離, 定量法 を確 立し, それに よって 脳組織におけるりゾ糖脂 質 を定量 した。
n実験 材料お よび方 法
試 薬はす べて 特級の 製品を 用いた 。標準 リゾ 糖脂質 の調製 に用い た糖 脂質は,ブタ脳のGalCer と ス ル フ ァチ ド , ウ マ赤 血球膜 のLacCerおよび ブ夕赤 血球膜 のGb。ICerであ る。正 常ヒト 脳,
脳 に 病 変 のな い 脂 児 脳 ,異 染 性 脳 白 質 変性 症 (MLD)脳 は剖検 により ,脳腫 瘍組 織は手 術摘出 に よって 得られ た。
標 準 リゾ 糖 脂 質 を 得る た めGalCer,LacCer,GbヨCerおよび スルフ ァチ ドをヒ ドラジ ン分解 し ,SEP―PAKClヨ に てヒ ドラ ジンと 塩を除 去した 。スル ファ チド以 外のり ゾ糖目 旨質 と未反 応 の 糖 脂 質 は逆 相 カ ラ ム を装 填 し た 高 速 液体 ク ロ マ 卜 グラ フ ィ ー (HPLC)で メタノ ールと 水の 濃 度勾配 法によ る新た な分 離法を 確立し た。リ ゾス ルファ チドは 逆相ク ロマトの代わりに陰イオ ン 交換ク 口マト での分 離法 を確立 した。
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リ ゾ糖脂 質の微 量定 量法を 確立す るため に,上 記の 方法で 精製し たルゾ 糖脂質をダンシルク口 リ ド で 螢 光誘 導 体 化 を 行い ,UnisilQ60のHPLCの カ ラ ム に かけ , 分 光 螢 光検 出 器 に よ って ダ ン シル化 リゾ糖 脂質を 検出し た。
そ れぞれ の脳組 織( 湿重量 : 30mg〜2g) はク口 口ホルムーメタノール中でホモジェナイズレ,
室 温 で2h静 置 し , ホモ ジ ェ ネ ー ト を濾 過 し た 後 ,残 査 を 再 び ク口 口 ホルム メタノ ール で抽出 し ,各種 カラム ク口マ トグラ フィ ーによ ルリヅ 糖脂質 を溶 出した 。溶出 液を蒸発乾固した後,上 記 の よ う にダ ン シ ル 化 を行 い ,HPLCに て 分 離し , 標 準 の ダ ンシ ル 化リ ゾ糖脂 質を 用いて 定量 し た。
病 脳 組 織 よ り 分 離 し た り ゾ 糖 月 旨 質 の ダ ン シ ル 誘 導 体 をFAB/MSで 分 析 し た 。
m結 果
1. おのお のの糖月旨質のヒドラジン分解では未反応の糖脂質が残ったが,リゾ糖月旨質以外の反 応副産 物の生 成は 認めら れなか った。
リゾス ルフ ァチド 以外の 中性糖 脂質 のりゾ 体と未 反応の 糖脂質 を分 離する ために逆相カラムの HPLCを 用 い た 。 最 も 効 果 的 な 分 離 は , メ タ ノ ー ル ― 水 (6:4) か ら (10:O) ま で 直 線濃 度勾配 による 溶出 であっ た。こ の方法 によっ て得 られた 標準リ ゾ糖月 旨質 の収量は,リゾGalCer 72%,ル ゾLacCer68%, リゾGbaCer65%で あった 。
リ ゾス ル フ ァ チ ドの 分 離 に はDEAEセ フ ァデ ッ ク スAー25カ ラ ムを 使 用 し た 。 その 結 果 , ル ゾスル ファチ ドは 未吸着 画分に ,未反 応のス ルフ ァチド は吸着 画分に 回収 された。この方法によ るりゾ スルフ ァチ ドの収 率は76% であ った。 この収 率は逆 相カラ ムを 使用し た場合に比べ20〜30
%高か った。
2. リ ゾGalCer, リ ゾLacCer, リゾGb t Cer,リ ゾ ス ル フ ァ チド の ダン シル誘 導体 を順相 カ ラ ム (UnisilQ60)に よ るHPLCで そ れ ぞれ 分 離 し , 螢光 に よ っ て 検出 し た 。 溶 出溶 媒 と し てn― ヘ キ サ ンー2一 プ ロ パノ ー ル ― 水 の 比率 を(58:39:3) から(52:45:3) までの 直線濃 度勾 配 を 設 定 す るこ と に よ り ,約30分 間 でり ゾ ス ルファ チドか らり ゾGbエCerまで のりゾ 糖脂 質を 分 離 , 検 出 する こ と が で きた 。 本 法 に よる り ゾ 糖 脂 質の 定 量 性 を ダンシ ル化リ ゾGalCer にっ い て 調 べ た とこ ろ ,1〜200pmolま で 螢 光強 度 が 直 線 関 係を 示 し , この範 囲で の定量 性が 確認さ れた。
3. 上 記 の方 法 に よ っ て正 常お よび疾 病脳の りゾ糖 脂質を 定量 した。 その結 果,MLD以外 の全 て の 脳 組織 で 検 出 さ れ たり ゾ 糖 脂 質 はり ゾGalCerのretention timeを 示 し, 陽 イ オ ンFA B/
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MSに よ って も同 定 され た。
2例 の 正 常 脳 の り ゾGalCerは8.7,7.4pmol/mg蛋 白 であ るの に 対し ,4例 の胎 児 悩の うち 2例 は 検 出 限 界 以 下 で あ り , 他 の2例 は2.2と2.5pmol/mg蛋 白 と 低 い レ ベ ル で あ っ た 。 他 方 脳腫 瘍で は ,星 膠芽 腫19. 6pmol/mg蛋 白, 髄芽腫14.5pmol/mg蛋白および星 細胞腫10.5 蛋白 で は対 照脳 に 比べ て高 値 を示 した が ,神 経鞘 腫2. 4pmol/mg蛋白,髄膜種3.9pmol/mg蛋 白 と6.7pmol/mg蛋 白で 低 い傾 向を 示 した 。
MLDで は り ゾGalCerは検 出さ れ ず, リゾ ス ルフ ァチ ド が検 出さ れ た(2.2pmol/mg蛋白 )。
W考 察
リ ゾ糖 脂質 は 細胞 膜の 成 分である糖脂質の分 解産物であり,組 織に極く微量にし か存在しない た め ,収 率が 高 く, より 簡 便な測定法が望まれ ていた。従来のり ゾ糖脂質の分離, 精製には,シ リ カ ゲル の順 相 吸着 ク口 マ ト法 およ び 調整 用シ リ カゲ ルTLCプレ ー トか らの か き取 り法 な どが 報 告 され てい た 。し かし , 前者はりゾ糖脂質の アミノ基が硅酸と 相互作用を起こす 結果,ク口マ ト 上 でテ ーリ ン グを きた し ,良好な分離とはい えず,また後者は ,シルカゲル標品 に由来する爽 雑 物 が混 入す る ため ,そ の 精製にゲル濾過など のカラムを通すこ とが必要となり, いずれも効率 のよ い回収が困難であ った。
本 研究 にお い て, リゾ 糖 脂質と糖脂質の疎水 性の差に着目して 逆相カラムおよび 陰イオン交換 ク口 マトを用いてりゾ 糖脂質の分離,精製を行ワた。それによって上言己の短所は大幅に改善され,
リ ゾ 糖 月 旨 質 の 簡 便 で し か も , 在 来 法 に 比 べ て 高 収 率 で 得 る こ と が 可 能 と な っ た 。 生 体組織に存在する ルゾ糖脂質は,先天 性糖月旨質蓄積症 病脳におけるマイ ナーな蓄積物質とし て同 定され,その細胞 毒性の故に注目されてきた。月畄月重瘍に関しては,脳腫瘍関連糖脂質の分析 に よ り, 脳腫 瘍 の悪 性度 を 分類しようとする試 みがみられる。し かしながら,癌に おいてりゾ糖 脂 質 にふ れた 研 究が 皆無 で あるのは,量的に僅 かな成分であるた め,分離,同定が 困難であった こと によると思われる 。
本 研 究 に お い て , 正 常脳 と 比較 して 脳 腫瘍 組織 に 微量 成分 と して のル ゾGalCerが 増 加傾 向 を 示 す こ と が 認 め ら れ た。 現 在の とこ ろ ,生 体内 に おけ るル ゾGalCer形 成 にっ いて ス フィ ン ゴ シ ンの ガラ ク トシ ル化 の 系は報告されている が,ガラク卜シル セラミドの脱アシ ル化の系は存 在 し な い と さ れ て い る 。今 後 ,リ ゾGalCerの 代謝 経 路に っい て はさ らに 検 討を 重ね る 必要 が ある と考えられる。
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学位論文審査の要旨 主査 教授 小口春久
副 査 教 授 久 保 木 芳 徳 副査 教授 松本 章
副査 教授 牧田 章(医学部)
審査 は主査 および 副査の 口頭 試問に より,研究目的ならびに,内容にっいて詳細に実施された。
リゾ糖 脂質 は,糖 脂質か ら脂肪 酸が 解離し たもの であり ,微量 で細 胞毒性 をもち ,溶血や組織の 壊死を 引き 起こす 。それ ゆえ, リゾ 糖脂質 を蓄積 する先 天性糖 脂質蓄積症でtま,リゾ糖脂質がこ れら病 態と 直接関 連する ことが 示唆 されて いる。 しかし ながら ,組 織中の りゾ糖 脂質の含量は極 めて少 ない うえ, 単離が 困難な ため ,脂肪 酸を結 合した 糖脂質 に比 ベ研究 が遅れ ていた。本研究 fま ,この 観点に 立ち ,リゾ 糖脂質 と糖脂 質の 疎水性 の違い に着目 して逆相ク口マトグラフィーお よび陰 イオ ン交換 ク口マ トグラ フィ ーを用 い,リゾ糖月旨質の新しい分離,定量法を確立し,それ によっ て脳 組織に おける りゾ糖 脂質 の定量 を行っ た。
実験 結果は 次のよ うであ った 。
1.逆 相 カラ ム を 装 着 し た高 速 液 体ク 口マト グラフ ィー法 によ り,個 々のル ゾ糖脂 質を 高収率 で得る こと ができ た。
2. リ ゾ ス ル ファ チ ド は 逆 相ク 口 マ 卜 グ ラフ ィ ー の 代 わり にDEAEセ フ ァ デ ッ クス ク 口 マ ト グラフ ィー で効率 よく分 離され た。
3. ダ ン シ ル 化 リ ゾ 糖 脂 質 は1〜200pmolの 範 囲 でdose一dependencyを 示 し, 高 感 度 に 定 量がで きた 。
4. 正 常 ヒ ト 脳, 胎 児 脳 , 脳腫 瘍 組 織 に っい て り ゾ 糖 脂質 を 検 索 し た 結果 , リ ゾGalCerが 検出さ れた 。
2例 の 正 常 脳 のり ゾGalCerは8.7,7.4pmol/mg蛋 白 で ある の に 対 し ,4例 の 胎 児 脳の う ち 2例 は 検 出 限 界 以 下 で あ り , 他 の2例 は2,2と2. 5pm ol/mg蛋 白 と 低 い レ ベル で あ っ た 。 他 方 , 脳 腫 瘍で は , 星 膠 芽腫19. 6pmol/mg蛋 白 ,髄 芽 腫14. 5pmol/mg蛋白 お よび 星細胞 腫 10. 5pmol/mg蛋 白で は対照 脳に比 べて高 値を 示した が,神 経鞘腫2.4pm ol/mg蛋白, 髄膜腫3.9 pmol/mg蛋白と6.7pmol/mg蛋 白で低 い傾向 を示し た。
異 染 性 脳 自質 変性症 でfまりゾGalCerは検 出さ れずり ゾスル ファチ ドが 検出さ れた(2. 2pmol/
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mg蛋白)。
生体組織に存在するりゾ糖脂質は,先天性糖脂質蓄積症病脳におけるマイナーな蓄積物質とし て同定され,その細胞毒性の故に注目されてきた。脳腫瘍に関しては,脳腫瘍関連糖脂質の分析 により,脳腫瘍の悪性度を分類しようとする試みがみられる。しかしながら,癌においてりゾ糖 脂質にふれた研究が皆無であるのは,量的に僅かな成分であるため,分離,同定が困難であった ことによると思われる。
本研究において,正常脳と比較して脳腫瘍組織に微量成分としてのりゾGalCerが増加傾向 を示すことが認められた。現在のところ,生体内におけるりゾGalCer形成にっいてスフィン ゴシンのガラケトシル化の系は報告されているが,ガラクトシルセラミドの脱アシル化の系は存 在しないとされている。今後,リゾGalCerの代謝経路にっいてはさらに検討を重ねる必要が あると考えられる。
以上のような学位申請者からの説明にもとづぃて,主査および副査から詳細な質問がなされた が,明解な解答が得られた。また,審査員から指摘された数多くの示唆に対しても申請者は十分 に理解した上で,端的に賛同し,将来における本研究の展望にっいても明確な説明を行なった。
本研究は,歯科医学において未開発のルゾ糖脂質の研究に道をひらき,歯科医学における基礎 的研究としてその発展に十分貢献するものであり,審査の結果,審査担当者全員によって,本研 究の論文は博士(歯学)の学位授与に値するものと認められた。
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