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2018年の国際情勢について 古岸啓良
著名な外交評論家の岡本行夫氏が捕らえる今年の国際情勢に関する講演を聞いた。下記 要旨を整理し、併せて自分の思いも付け加えたい。 1989年のベルリンの壁崩壊や天安門事件、1991年のソ連邦の解体と湾岸戦争と それまでの冷戦体制が崩れ、冷戦に勝ったアメリカが唯一のスーパーパワーとなり、自分 たちが最も崇高な価値の体現者であり、圧倒的な軍事力を背景に価値の制定者・執行者・ 裁判官となった。 しかし、2015年ごろからそれに対するバッククラッシュが始まり、宗教と悪質なナ ショナリズムを伏線として中東をはじめ各地域で地域紛争が激化しテロの多発と相まって 混迷の時代となってきた。 そこで鍵を握る3人の独裁者(国家)とトランプ大統領(米国)に関して述べてみたい。 1.プーチン大統領(ロシア) 2000年に大統領に就任。崩壊したソ連邦の共産主義体制を立て直すため、ゴル バチョフの「西欧の国家と社会の理念をロシアも持ち、欧州世界の一翼としてロシア というアイデンティティを確立する現代西欧派というべき志向」即ちペレストロイカ の失敗を見、アフガニスタンへの攻撃に中央アジアの基地提供までしたのに何ら益が なかったアメリカへの恨み等から、旧いロシアの伝統と革新を通じた新しい理念の構 築、即ち「ロシアの伝統に戻り、非ヨーロッパ的なスラブ民族の原点にアイデンティ ティを復古的に再構築していこうとする現代スラブ派の志向」即ち「ユーラシア主義」 の考えを確立していこうとしている。彼は新しいロシアの皇帝として、今年の選挙を 大勝し2024年まで、そして恐らく年齢的にも若いので2030年まで君臨するの ではと思われる。 ソ連時代からロシアはその周りに緩衝国家を置いてきているが、その崩壊のあと西 部ではNATO の東欧への展開、東欧の脱ソ連化を許したため、新たな緩衝地帯を作る べく動いている。クリミア、ウクライナ問題はその一環であり、エストニア、ポーラ ンドなどには内政の不安定化を仕掛けてくるものと思われる。中東への進出はもちろ ん 北朝鮮においてもアメリカの戦略に協力するはずはなく原油の供給をはじめ裏での支 援を行うに違いない。 北方領土の問題も日ソ平和条約締結時の歯舞・色丹2島返却合意も、日本外務省の 4島返還固執でご破算となり、絶対に帰ってこないと思う。3000億の日ロ経済協2 力の行方もどうなるか不明。原油価格の下落で経済的にも苦しい中でこそその土俵に あがってきているが安易な希望としかいえない。 2.習近平国家主席(中国) 2012年共産党中央委員会総書記に、翌2013年国家主席に就任。毛沢東・鄧 小平・江沢民・胡錦濤に続く第5世代のトップとして君臨している。 彼は就任演説で国民生活の向上と腐敗撲滅を唱え、中華民族の復興を掲げたが、そ の後腐敗撲滅をたてにしての権力闘争に勝ち抜き独裁者としての地位を確固たるもの にしている。2022年までの任期だったが、第6世代の孫政才を汚職容疑で排除、 胡春華の政治局員昇格を防ぐなど2027年に続く皇帝を狙っている。 ロシアと同じく、かって世界に君臨した大国の歴史を持つ国として復活する野望を 持ち新しい覇権主義国家としての姿を見せてきている。「一帯一路」構想の推進、アジ ア・アフリカ諸国への経済支援のほか、尖閣諸島への侵害や南シナ海での軍事拠点化 を露骨に進め、「外洋海軍力」強化による軍事行動をも明言している。 尖閣問題に関しては、アメリカは日本の実効支配や管轄権は認めているものの領土 権については曖昧な態度で日本領土と明確に表明していない。今のままでは中国の侵 略を許すことになりかねない。ここは安倍さんとトランプ大統領の親密な関係で決着 をつけてもらいたい。 日中関係については2年前が最悪で少しずつは良くなってきていると思うが。 3.金正恩(北朝鮮) アメリカCIAがスイス留学時代の金正恩の性格分析したとき、彼の周りの反応は 暴力的である・残酷性を持つ・猜疑心が強いとの意見が多かったが、自分の親族も含 め 300~400名も惨殺する理由もうなずける。 人権無視の悲惨な独裁国家である北朝鮮。彼の狙いは祖父である金日成の夢であっ た朝鮮半島の赤化統一の実現にある。1950年北朝鮮の大攻勢により始まった朝鮮 戦争はアメリカを中心とする国連軍と中国・ソ連の支援を受けた北朝鮮との間で一進 一退のあと1953年北緯38度を境に休戦協定が結ばれ今日に到っている。 強大な軍事力を持つアメリカに対抗するためには、核兵器の保有と米本土それも首 都ワシントンに届くミサイルを持ち抑止力とするしか無いと考えている。核兵器の実 戦化はやめる訳が無く、火星15号による弾頭の小型化と大気圏突入技術の確立まで 対話政策で時間稼ぎをすると思う。 核兵器を保有した金正恩も馬鹿じゃないから核攻撃の実施はしないだろう。アメリ カの反撃で自身が滅亡することは自明の理だから。しかし問題は金を稼ぐためにテロ
3 リストへの移転が起こる可能性が否定出来ない。 ではアメリカによる先制攻撃はあるのかどうかだが、15%ぐらい起こりえるかも。 4.トランプ大統領(米国) 私自身は視野の狭い、粗野なトランプは好きではないが、日本にとっては良い大統 領かもと思う。ロシアンゲートの問題もあり、11月の中間選挙の結果次第では弾劾 を受け失脚する可能性もある。戦争となれば結束して大統領を支持するアメリカ国民 の属性もあり、北朝鮮への攻撃へ持ってくる可能性も否定できないが、半島にいる3 0万人及ぶ非戦闘員の避難計画(NGO)が表面化するとマーケットへの影響も考慮 しなければならない。核兵器を使えないとなると38度線に並べられた北朝鮮の通常 兵器の攻撃でソウルは間違いなく火の海になる問題もある。 現在、アメリカは核戦略の見直しを進めている。具体的には小型核(広島の1/1 0ぐらい)の検討で、ロシアは既に多数の小型核を保有している。大型で使えない核 兵器からの転換をはかろうとしている。 日本にとって良い大統領というのは、日本の防衛にコミットメントしてくれるかも しれないということで、日米安保条約を背景に日本の尖閣領有権を明示し中国の侵略 を抑止することをはっきりするということである。 近隣に3つの独裁国家を持ち、いずれも核保有国となれば日本の安全保障には米国との 同盟は絶対に維持しなければならないとともに、日本として核抑止力として敵地に対する 報復に敵地攻撃能力を持たなければならないと思う。 最近の明るい話題としては、テクノロジーの驚異的な進歩がある。全自動運転の自動車 が既に実用化されてきた。また人口の爆発的な増大や急速な情報化の進展で世界は全く新 しい世界に入ったといえる。 以上が2月14日「二水会」における岡本さんの講演の概要です。 小生も全く同感の感を深くしました。しかし、何故日本の政治家にこうした考えが持て ないのか。野党はいざ知らず与党の国会議員においても昨今の憲法改正論議の右往左往を みていて情けなく思います。 岡本さんも冷戦終了後のバックラッシュとして、宗教と悪質なナショナリズムを伏線に 地域紛争とテロの激化で混迷を迎えた時代と言われていますが、国家間の問題ではエゴイ ズムがぶつかり合う世界で日本人だけがボンヤリと絶対平和主義に浸っていていいのでし
4 ょうか。 体制を立て直したプーチンの長期政権は周辺にロシアの影響下にある緩衝国家群を作る とともに西側に対してはその内政に混乱をもたらす攻撃を仕掛けてくるはずです。朝鮮半 島の赤化統一支援も続けるでしょう。アメリカにおける「ロシアンゲート」問題もその一 つですし、日本に対しては北方領土を餌に経済協力を引き出し、ゾルゲ事件じゃないがマ スコミを使った国論の分裂ぐらいはお茶の子でしょう。 覇権主義国家として台頭する中国は、冷戦時代のイデオロギー的な対立で無く「中華思 想」のもとアメリカと並ぶ超大国として国際秩序における新しいパワーを持つ国として影 響力を強めてくるに違いない。また一方で「九段線」に代表されるように自国を正当化す る論理展開で旧中華圏の取り込みを臆面も無く進めてくることでしょう。 日本にとっては、尖閣問題・沖縄問題ひいては台湾問題が浮上してくるに違いない。沖 縄に対しての動きは既に土地買収やマスコミ活用による分裂工作が水面下で進んできてい ると推測する。 北朝鮮においては論を待たない。拉致問題における対応や核武装ひいてはテロ組織への 核の拡散懸念を考えると、このような無法なならず者国家は抹殺すべきだと思う。強固な 経済制裁はもちろんだが、人権問題に注意しながらの朝鮮総連対策も地道に進めていくべ きと思う。 韓国・文政権の対北融和政策も今のままなら北朝鮮の核武装実現への時間稼ぎに協力し ているにすぎなくなる。日・米・韓の結束が必要な時に疑心暗鬼を招く動きはどうなんだ ろう。慰安婦問題に対する姿勢も宜なるかな。 そうした状況を考える時、岡本さんの言われる対敵地攻撃能力の保有はもちろんだが、 そのためにも真っ当な憲法改正論議を進めて、今の時代に合った新憲法の発布と新しい安 全保障体制を一刻も早く整備しなければいけないと思う次第である。 以上 岡本さんの講演が2/14で、その後一カ月半ほど経過した。北朝鮮問題も含め国際情勢 は大きく進展している。各国の主な動きを中心に追記します。 1. ロシアにおいては、岡本さんの言われたとおり、プーチンは3月18日の大統領選 挙で圧勝した。プーチン支配は長く続くと思われる。年次教書演説では米国への対抗 意識を露わにし、米国が欧州・韓国で進めるミサイル防衛(MD)配備や、クリミア併
5 合に伴う対露制裁に激しく反発している。 又、英国に亡命したロシア軍情報機関の元大佐と娘に対する殺害工作は、米英や西 欧各国との間で大規模なお互いの外交官追放問題に拡大して、ますます対立の構図が 深刻化してきている。2月に公表した核戦略の新指針「核戦力体制見直し(NPR)」では 限定的核攻撃も辞さずとエスカレートしている。 2. 中国においては、習近平の独裁体制がますます強化されつつある。3月5日から始 まった全国人民代表大会(全人代=国会)で、国家主席の任期撤廃の改憲案が予想ど うり議決された。習近平一強体制による中台統一構想や巨大経済圏構想「一帯一路」 を通じた中国主導の新国際秩序構築への動きは、世界のパワーバランスの転換点にな るかも知れない。 3月22日発表された、米国の中国に対する「知的財産権の侵害」問題や貿易赤字 による中国製品に対する関税付加問題は中国の反発により貿易戦争を生み出している。 両国間の軋轢は北朝鮮問題に大きな影響を与えるだろうと思われる。 3月28日金正恩は電撃訪中し、習近平との首脳会談を行い5月の米朝首脳会談に 備えて事前に対応策を協議した。関係改善とともに中国の影響力保持をして朝鮮半島 問題での主導権を握ろうとしたものと思われる。 3. 平昌オリンピックからの一連の動きのあと、3月8日、急遽5月までに米朝首脳会 談が開催されることが決まった。トランプ大統領は非核化の意思確認と実践には必須 と判断したと思われるが、過去に何度も合意を破棄してきた北朝鮮だけに一筋縄には いかないと考えられる。 その後、トランプ大統領は対話派のティラーソン国長官とマクマスター首席補佐官 を解任し、強行派と言われる人物を後任に指名。この人事により金正恩は米国の方針 が読めなくなり、中国の後ろ盾を求めて緊急の中朝首脳会談へ繋がったと思われる。 4. トランプ大統領の今後の動きはよく読めないが、過去のクリントン、ブッシュ、オ バマの対北朝鮮政策を強く失敗だと批判していることや,強行派メンバーに変わったこ とを考えると、その動向は予断を許さない。 馬鹿な選択をするとは思わないが、もし戦争勃発に繋がりきれない事態に進展する と、中距離弾道ミサイルの射程距離にある我が国にとっては大変なことになる。 脳天気に森友問題で騒いでいる野党とマスコミ、国会審議には怒りを覚える。 機会があれば、次は「核戦争の瀬戸際で」について述べてみたい。