作成日: 2010/12/9 石油企画調査部: 伊原 賢 公開可
石油開発における研究開発投資の傾向と国営石油会社 NOC の台頭
(JOGMEC 石油企画調査部、世界石油工学者協会 SPE 資料) ・ 近年、石油開発をめぐる環境の変化には、油価の高値変動、イージーオイル(在来型油田)の減 退、新規需要市場のシフト、人材入れ替え、低炭素化、資源ナショナリズムの台頭が挙げられます。 ・ このような環境変化の下、国営石油会社 NOC の支配力と、国際石油会社 IOC の力と技術トレンドと の関係を考えてみたいと思います(図 1)。 図 1 埋蔵量の支配状況と石油開発対象のシフト 1/6まず、1 バレル(159 リットル)の油を深海から取るのに 30 ドル、難しくても 40 ドルで採算が取れる時 代になっています。これは、中東の陸上油田の数ドルと比べれば非常に高いのですが、今、油価が 1 バレルあたり70~90ドルぐらいですから、その差額が利益になるわけで、経済的な合理性があります (図 2)。 (出所: IEA、SPE 資料を基に JOGMEC 石油企画調査部作成) 図 2 原油の可採埋蔵量と採算コスト 1.研究開発投資の傾向 大水深や非在来型資源といった開発が難しい油田については、IOC はその開発操業の実績と技 術力や交渉力から一定の力を維持するでしょう。それは、IOC が今までの技術開発をリードしてきた 実績があるからです。しかし近年では、NOC の研究開発投資の近年の伸びや石油開発サービス会 社の頑張りから、IOC の技術力支配は、NOC や石油開発サービス会社から挑戦を受けています(図 3)。
(出所: ADL analysis, Company financial disclosures, Herold)
図 3 主要石油会社(IOC/NOC)と石油開発サービス会社の研究開発投資(2003 年~2009 年) 2/6
図 3に示すように、IOC の売り上げトップ 5 社(BP, Chevron, ExxonMobil, Shell, Total)の研究開発 投資の伸びは 2003 年から 2009 年までの数字で年平均 9.8%です。5 社の内、Total の伸びが一番小 さいのですが、2003 年の投資額は 5 社の中で一番多くなっています。単位生産量当りの研究開発投 資でも 0.8 米ドル/石油換算バレルと他社に比べて高いことが分かります(図 4)。Chevron は 2003 年 来、年 18%で投資を伸ばしましたが、トップには届いていません(図 3)。Shell は 2006 年より開発の難 しい案件への投資を増やし、IOC の中では最も研究開発投資を行なうようになりました(図 3)。BP は 他社に比べ研究開発投資が少ないのですが、それは、技術投資がパイロット試験や現場での実証試 験に集中しているからです。
(出所: ADL analysis, Herold)
図 4 主要石油会社(IOC/NOC)の単位生産量当りの研究開発投資の変遷
IOC の投資は堅調増なのに対し、一部の NOC の投資は急増しています(図 3)。Petrobras の投資 は 2003 年以降、年 23%で急上昇しており、その額は Total や ExxonMobil と肩を並べるまでになりま した。しかし、もっと投資を加速化させているのは、中国の PetroChina で年 31%増を示しています。 2009 年、PetroChina は「投資額」のみならず、「単位生産量当りの研究開発投資」でも、Petrobras や Shell を抜き去りトップに立ちました(図 3、図 4)。 図4はご覧のように、単位生産量当りの研究開発投資の 2003 年から 2009 年までの変遷を示してい ます。Total以外は生産量の多寡にかかわらず、2005年まではほぼ0.3~0.4米ドル/石油換算バレル の範囲に固まっていました。しかしその傾向は 2006 年からは、ばらけてきて Petrobras、Shell、 3/6
4/6 PetroChina のように生産量当りの投資を増やす石油会社が出てきました。これは新たな石油開発対 象が非在来型に大きくシフトし、開発技術力への期待が高まっている表れと見ます。 掘削技術強化を目指し、今年2 月に 110 億ドルで Smith International 社の買収を発表した大手石油 開発サービス会社Schlumberger は投資額で BP や Chevron を凌ぐこととなりました。売り上げに対する 技術開発投資は、まだ石油会社と石油開発サービス会社の間で隔たりがあります。石油会社の場合 売り上げの 1%未満ですが、サービス会社は 3~4%も投資しています。この研究開発投資を増やす サービス会社のビジネスモデルは、自身の技術力を高めたい産油国の国営石油会社 NOC の関心を 呼ぶのに有効です。 2.国営石油会社NOCの台頭 研究開発投資額を急激に伸ばしている PetroChina や Petrobras にしても、開発現場への技術適用 には時間を要します。石油会社の持つ特許数を見てみると、NOC に比べ IOC がリードしています。 今までの技術開発の歴史と厚みの違いが、理由の一つに挙げられます。技術戦略を立て、増加する 研究開発予算を管理することは生易しい仕事ではありません。研究開発の費用対効果を上げるには、 4 つの目標をバランス良く管理することが大事です。①事業戦略に合った技術ニーズ、②開発現場で の短中期的な技術ニーズ、③自社およびパートナーの研究開発能力の評価、④長期的な研究開発 投資。例えば Petrobras は④に、PetroChina は②に注力しているように思います。PetroChina は④に 重きを置かないため、非在来型の資源開発には少し弱いかも知れません。Petrobras は④に注力する ことで、ブラジル沖合の大水深石油開発に成功した実績があります。Petrobras、PetroChina 共、ほか の NOC と同様に、自前の人的資源を技術の評価および適用に活用させています。Petrobras や PetroChina が自前の研究開発能力を高めているのは、長期的な研究開発を担う技術者を確保してい る表れと見てとれます。これは人材入れ替えに苦慮している他社とは対照的です。他の国際展開をし ている NOC にとって、海外での事業展開には研究開発力が必要と認識され始め、研究開発投資が 増えています。また、技術ネットワークや共同技術開発プロジェクトへの NOC の参加は今後増えると 予想されます。 Petrobrasの研究開発投資: ブラジルは 70 年代のオイルショック以降、大水深石油開発を可能とする 技術を高めることで、原油輸入国からの脱皮を図ろうとしました。92 年以来、Petrobrasは売り上げの 1%を研究開発投資に回してきました。それが研究開発投資額の増加に結びついた訳です。共同研
5/6 Pe 究プロジェクトへの積極参加を通じて、技術ノウハウの獲得に努め、それが大水深開発技術の礎とな ったことは業界では広く認識されています。並行して、石油開発に伴うロイヤルティ収入の一部を財 源とする「ブラジルの石油研究開発基金」は、Petrobrasにとって、ブラジル国内の17州の75研究機関 との共同研究や技術者育成に大きく貢献しました。Petrobrasは技術開発プロジェクトへの参加、リー ダーシップ、人的ネットワークを通じて、技術力を積み重ねてきたのです。技術適用も、外からの技術 導入から大水深開発に必要な技術を自前で開発するまでに進化しました。90 年代後半までPetrobras がブラジル国内の石油開発事業を独占したことは、技術適用にとって良好な環境を適用することにつ ながり、世界的にも大水深開発技術のリーダーシップを取るまでに、Petrobrasの技術力は高まりまし た。その技術開発の歴史は、大水深という過酷な環境から石油を採り出す技術力の価値をPetrobras は良く理解していたことを物語っています。大水深開発技術をリードするPetrobrasは、現在では大水 深開発を推進したいと願う他の会社にとって、共同技術開発プロジェクトの魅力あるパートナーとなっ ています。 troChinaの研究開発投資: 中国CNPC/PetroChinaの投資は、国家の科学技術開発の中長期計画 (2006 年~2020 年)に沿ったものになっています。これが、中国の研究開発投資が 2004 年~2009 年 の間に年 23%のスピードで伸びている推進力になっています。中国の強みの一つに、Petrobrasと同 様、技術者を自前で育成していることが挙げられます。投資の大半は実験・実証研究に充てられてい ます。基礎研究に充てる予算割合は 5%とOECD諸国の 10~20%に比べ、低いと言わざるを得ませ ん。中国企業はIOCの持つ技術のキャッチアップに努めていますが、技術開発失敗の恐れから、応 用研究に焦点を当てています。彼らは知的所有権保護の観点から、海外のベンダーが提供する技術 に付随する技術開発要素へのアクセスが制限されており、最新ではなく一世代前の技術の提供を受 けるケースが多いようです。しかしながら、近年のPetroChinaの目覚ましい研究開発投資額の伸びは、 技術アクセス制限を弱める交渉材料にもなっています。中国は、例えば採油増進法(Enhanced Oil Recovery)といった技術力の底上げを、国際協力を通じて図ろうとしています。また、中長期の研究開 発にも焦点をあて、研究開発の失敗を享受するようにもなってきています。 3.国際石油会社IOCの対応 IOCは90年代の初めの油価低迷時に研究所の多くをたたみ、広範囲な技術のリーダーシップを石 油開発サービス会社に任せ始めました。それが、技術リーダーとしての IOC の位置付けを弱めました。
6/6 位置付け回復に向けて、幾つかの IOC は技術開発投資を増やす必要があるのかもしれません。そ れは氷海や深海といった単位生産量当りの採算コストの高い非在来型の石油開発(図 2)には、特に 必要となるでしょう。また、LNG プロジェクトといった上中流に及ぶ複雑な案件の推進には、様々な技 術分野の統合が必要になるでしょう。ノルウェーの Statoil は複雑な案件には組織の関わり方を増やし ています。Shell は、研究開発を一つのプロジェクト・イノベーション部門へ組み込んでいるようです。 同時に幾つかの IOC は最新技術および技術専門家にアクセスできるよう、自分たちの研究開発部門 の国際化を進めています。これは Statoil を除く NOC にとって、まだまだ難しい試みのようです。 4.まとめ 図 3に示したように、スーパーメジャーIOC に匹敵する研究開発投資を続ける幾つかの NOC は、 その技術レベルもスーパーメジャーIOC と同等になることが期待されます。幾つかのリーディング NOC による研究開発投資は目覚ましいものがありますが、研究開発投資を技術力に変えるには数年 かかります。技術戦略と持続性のある投資が新技術の石油開発現場への適用に必要です。研究開発 投資に対する NOC や石油開発サービス会社の意欲に対して、スーパーメジャーIOC は技術力優位 を保つべく、投資を増やし続けています(図 3)。石油開発において技術の重要性が増すのは、IOC や NOC に技術サービスを提供する石油開発サービス会社にとって朗報です。技術理解の世界的広 がりは、IOC/NOC/サービス会社間の持つ技術の境界をぼやけたものに、し続けるでしょう。 IOC/NOC/サービス会社の全てにとって、研究開発は石油開発事業推進にとって、その重要性を増 し続けるでしょう。 以上述べてきたように、「石油開発における研究開発投資の傾向と国営石油会社 NOC の台頭」を 理解するには、需給のファンダメンタルズ、石油資源へのアクセス、技術革新、インフラ、地政学、経 済条件に注視する必要がありそうです。 以上