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Jリーグ川崎フロンターレに見る「地域密着型プロスポーツ」の形

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Academic year: 2021

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J リーグ・川崎フロンターレに見る

「地域密着型」プロスポーツの形

学生番号 40713080 小沢 庸子

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目 次 はじめに Ⅰ 川崎市と川崎のスポーツ 1 川崎市について 2 川崎フロンターレ誕生以前の川崎のスポーツ 3 現在の川崎のスポーツ 4 川崎フロンターレについて Ⅱ 川崎フロンターレの経営戦略 1 フロンターレの SWOT 分析 2 経営戦略の実践・第一段階 3 経営戦略の実践・第二段階 4 経営戦略の実践・第三段階 5 経営戦略の効果 6 今後の課題 Ⅲ まとめ 最後に 参考資料

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はじめに 昔からスポーツ観戦は、洋の東西を問わず、人間の「娯楽」の代表的存在である。 古代のあらゆる文明下においても、例えばギリシャ文明では古代オリンピック、 日本でも時代は下るが大相撲など、スポーツを観戦することは「文化」であった。 人間社会が豊かになり、娯楽の種類も多様化している中で、依然娯楽として根 強い人気があるスポーツ観戦。こと日本では、野球とサッカーがプロの「興行」 としての人気が高く、最近ではバスケットボールがプロリーグ(bj リーグ)を発足 させており、今後他のスポーツでも暫時プロ化へ進む動きがある。 戦前からの歴史があるプロ野球と比べ、サッカーやバスケットボールのプロ化 はごく最近だが、野球に遅れてスタートした種目が共通して謳っているのが「地 域密着」ということである。特にサッカーJ リーグについては、リーグの発足当 初から会員加盟(リーグへの参加)の条件として「地域と密着した運営ができてい る」ということが謳われている。 しかしその「地域密着」の程度もクラブによって差があり、地元での試合以外の 「地域活動」が殆どなかったクラブも過去には存在したと言うのが実際のところ である。最近では過去に比べて各クラブともさまざまな方法で「地域密着」を実 践しているが、その背景には多様になった他の娯楽との「差別化」、更には近隣 地域、あるいは同一地域内の他クラブ(東京・横浜・大阪には J のクラブが複数 ある)との顧客争奪というのもある。 そのような中、ここで扱うJ リーグのクラブ「川崎フロンターレ」は、J リーグへ の加盟は遅かったものの、徹底して「地域密着」にこだわって活動し、観客動員 やチームの成績も著しく成長している。プロモーション活動においても自クラ ブのみならず、他クラブのサポーターからの評価も高い。 以前から川崎は「プロスポーツの根付かない街」と言われていた。しかし川崎フ ロンターレが発足からわずか12年でここまで知名度を上げ、日本代表選手も 輩出し、ある程度の定着を見せているのは、川崎と言う街の「特殊な事情」を克 服した結果といえる。(「特殊な事情」については本文で述べるとする) 川崎フロンターレはどうやってここまで知名度を上げたか、その背景に何があ るのか、そこまで活動する必要がなぜあるのか・・・ファンでいると普通は表 面的なものしか見えないものだが、その中身を分析することで、その背景にあ るものを見つけて述べていこうと思う。

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Ⅰ 川崎市と川崎のスポーツ 1 川崎市について 川崎市は北側を東京都、南側を横浜市に挟まれた東西に細長い市で、1924 年 7 月1 日に市制施行された。1972 年より政令指定都市となり、現在 7 つの区(川崎・ 幸・中原・高津・宮前・多摩・麻生)に分かれている。 人口は約138 万人(2008 年 5 月現在)。東側(南部)臨海部は工業地帯として有名、 西側(北部)は昨今住宅地としての発展が顕著で、緑が多く、多摩川梨の産地とし ても有名である。 (別紙資料 1) 2 川崎フロンターレ誕生以前の川崎のスポーツ (1) プロスポーツ以外のスポーツ 川崎という街は元々、京浜工業地帯を中心に発展してきた「工場の街」 である。スポーツ観戦の文化も古くからあった。主にそれは工場で働い ている人たちの「(今風の表現で言うと)アフターファイブの娯楽」であ り、川崎のスポーツ観戦の文化は工業とともに発展してきたといっても 過言ではない。 その文化の中心であったのが「社会人野球」である。川崎市には大企業 の工場も多く、その企業が社会人野球のチームを持っていた。その企業 に勤務する人たちには「おらが会社の代表」であり、そうでない企業の 社員でも何らかの業務上の繋がりがあって、みんなで酒を酌み交わしな がら試合を楽しんだ。プロ野球のホームスタジアムだったこともある川 崎球場も元は社会人野球のために作られた球場であり、2000 年に取り壊 されるまでは都市対抗野球の地区予選などに使われていた。 現在でも2社(三菱ふそう川崎と東芝…前者は今季限りでの活動休止が 決定している)が社会人野球のチームを持っており、日本のアマチュア野 球の世界においてもトップクラスの戦績を上げている。 (2) 川崎のプロスポーツ(プロ野球) かつて川崎に本拠を置いたプロスポーツチームは4 チームある。そのう ち3 つがプロ野球で、1 つがプロサッカー(J リーグ)である。 最初に川崎に本拠を置いたのはプロ野球の高橋ユニオンズだった。1954 年に本拠を川崎に構えたが、財政難からわずか2 年で大映に合併吸収さ れ、移転した。 その次に川崎に来たのが1955 年の大洋ホエールズ(現・横浜ベイスター ズ)だった。やがてロッテオリオンズ(現・千葉ロッテマリーンズ)も川崎 球場をフランチャイズとし、2 つのチームが 1 つの球場を併用する形と

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なった。 それがしばらく続いたのち、1978 年に大洋が横浜へ移転、ロッテオリオ ンズが 1992 年まで川崎球場を使用した。実はこの大洋球団の移転の際 に、ロッテ球団は横浜スタジアムの併用を横浜市側に申し入れていたが、 断られて川崎に残ることになったという経緯がある。本当は移転したか ったということが明るみになってしまい、川崎市もそういうチームのた めには予算を出すこともしない。故に川崎球場は改修されることもなく、 古い設備のまま時が経ち、最終的には千葉に新球場ができた時にロッテ に(言い方はよくないが)逃げ出された形になった。 (3) 川崎のプロスポーツ (サッカーJ リーグ) ロッテオリオンズの移転と同じころ(1993 年)にサッカーの J リーグが 10 クラブで発足した。(J リーグについての詳細は後述する) 旧 JSL(日本サッカーリーグ)の名門読売クラブを母体に誕生したヴェル ディ川崎が等々力陸上競技場を本拠地と定めた。しかし実はヴェルディ も、本当は川崎ではなく東京に本拠地を構え(国立競技場をホームスタジ アムにする)て、全国規模のクラブにすることを希望していた(だから正 式なクラブ名はFC ニッポンフットボールクラブという)。しかしリーグ 機構側がそれを認めず、それでもリーグに参加するためにホームタウン は設けなければいけなかったので、仕方なく川崎にホームを置いた。 もともとがJSL でも人気が高いクラブで、代表選手も多々輩出していた ことから、特に地域に何をしなくても最初のうちは観客も多かった。東 京への移転志向が強く、しかも特に地域へ何もすることがないクラブに は行政も予算は出さない。結局ホームスタジアムをJ リーグ基準にする ために改修を行ったこと以外に大きな予算は出さず、ヴェルディ自身も 2001 年に東京スタジアム(味の素スタジアム)が完成したことで東京へ 移転した。 (前述の「特殊な事情」はヴェルディの存在のことを指す) 3 現在の川崎のスポーツ 現在は川崎フロンターレ以外にも、プロではないがスポーツチームは数 多く存在している。川崎市はそれらのスポーツチームを通じて街づくり をしていこうという構想のもと、川崎の街づくりに寄与するスポーツ活 動を「ホームタウンスポーツ」と位置づけ、「ホームタウンスポーツ推進 パートナー制度」を導入した。これは2004 年に創設され、川崎フロンタ ーレを含めた7 団体 1 個人がパートナーとして認定されている。 (川崎フロンターレ・三菱ふそう川崎野球部・東芝野球部・東芝男子バス

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ケットボール部・富士通女子バスケットボール部・富士通アメリカンフ ットボール部・NEC 女子バレーボール部・トランポリン中田大輔選手) 4 川崎フロンターレについて (1) J リーグについて J リーグは 1993 年、10 クラブでスタートした。1999 年には 2 部制 (J1:16/J2:10)を導入。2008 年現在、33 クラブの加盟(J1:18/J2:15)と、 J2 入会を目指すクラブで一定基準を満たしたものを準会員として認定 している(現在 5 クラブ、すべて JFL)。 (組織に関しては別紙資料 2) (2) 川崎フロンターレの概要 川崎フロンターレは1992 年に JFL(ジャパンフットボールリーグ)に加 盟した。当時は川崎フロンターレとしてではなく、前身の「富士通川崎」 としてであった。1997 年に「川崎フロンターレ」として J リーグ加盟 を目指してプロ化。2000 年には J1 へ昇格したが 1 年で J2 へ降格。2005 年にふたたびJ1 へ復帰すると、その年のリーグで 8 位、翌 2006 年には 2 位となり、2007 年は日本の代表としてアジアチャンピオンズリーグに 参加。その年のJ リーグ戦は 5 位、ナビスコカップでは準優勝している。 ここ数年は日本代表の選手も続けて輩出しており、J リーグにおいては 比較的新しいクラブではあるが着実に力をつけてきている。 Ⅱ 川崎フロンターレの経営戦略 1 フロンターレのSWOT 分析 川崎フロンターレはJ リーグの中では比較的歴史の新しいクラブである。後発 組である分、また、クラブ発足当初に同じ川崎にクラブがあったということで、 まっさらな状態で始めるのとはわけが違ったと思われる。創立時点での川崎の 街と川崎フロンターレというクラブを合わせてSWOT 分析した。 (1)強み(S) ・プロモーションはまっさらな状態から始められる できたばかりのクラブは宣伝活動については何の前例も持たない。決ま った形をもたない分、どんなことでもやることができる。 (2)弱み(W) ・チーム自体を知られていない 新興クラブだけにこれは仕方がない。 ・川崎市のイメージ

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いろいろな人に川崎のイメージを尋ねてみると、工場の街、公害の町、 労働者の町、というイメージが多い。そのイメージのせいか、川崎に生 まれ育った人でも「地元意識が薄い」と感じているという。地域密着を 打ち出しているJ クラブにとっては、住民の地元意識の薄さは弱みであ る。 また、住民イメージだけでなく、「プロスポーツが根付かない」というイ メージも強い。これはヴェルディ川崎が移転する頃にメディア上で大々 的にそう謳ったことからそういうイメージが定着したといわれるが、実 際に川崎に本拠を置いたプロスポーツのチームは最終的に移転をしてい ることから、市民の中でもそのイメージを持つ人は多い。 ・川崎市の地形、交通の便 東西に細長く、東京都と横浜市に挟まれているためにどちらにも行きや すいが、市内の南北移動が非常に不便である。 (3) 機会(O) ・政令指定都市で人口が多い エリアの人口が多いということは、当然、その分営業はしやすくなる。 また、その人口も最近1 年ほどの間、1 カ月に 5000 人近いペースで増 加しており、その大半が流入人口(他の地域からの転入)である。 (4) 脅威(T) ・他のレジャー ・近隣地域へのレジャー客の流出(特に近隣の J クラブ) 東京都と横浜、どちらにも行きやすい地形と交通で、よほどのエンター テイメント性があるレジャーがないと、レジャー客は川崎でレジャーし ない。レジャーをJ リーグに置き換えても同じことが言える。 2 経営戦略の実践・第一段階 試合に客を呼ぶためには、まず知名度を上げていかなければいけない。後発の クラブで、しかも当時はまだヴェルディのイメージが強い川崎において、川崎 フロンターレという新しいクラブができた、ということを知らせると同時に、 川崎に根付く努力をしますよという姿勢を見せなければいけない。根付かない イメージがあるからである。 そこで、フロンターレが知名度を上げるために実践してきたことを挙げていこ う。 (1)商店会・青年会議所・商工会議所などへの働きかけ 地域の中心はやはり商店街であろうとの考え方から、地元の商店街を片 っ端から回って歩き、ポスターを貼ってもらうなどの働きかけをした。

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その活動は現在でも続いており、それを制度化したものが「サポートシ ョップ制度」と呼ばれるものである。ポスター掲示や店頭ディスプレイ などで「フロンターレを応援しています」ということを前面に出してく れる店舗を登録していくものだが、同じような制度を採用しているJ ク ラブは多いなかでフロンターレのサポートショップの登録数は約700 店 舗。これはJ リーグの中でもトップクラスである。 (2)行政への協力要請 クラブを知ってもらうためには、行政のバックアップも必要である。 川崎市に毎月3000 人の転入者があるというが、転入者に向けて「こうい うクラブがありますよ」という広報活動をするのに行政のバックアップ を依頼。市役所や区役所で配布する広報紙や暮らしの手帳のような冊子 でフロンターレを紹介、また、転入者向けの招待チケット配布などの活 動を支援してもらっている。 また、公園の整備時にフロンターレ色の感じられるディスプレイやモニ ュメントを作ってもらったり、道路の舗装を水色にしたり、ターミナル 駅の連絡通路(管理者は川崎市)にバナーを掲出するなどの働きかけもし ている。 (別紙資料 3) (3)地元幼稚園・保育園・小中学校への普及活動 イベントとしてのサッカー教室で選手が地元の学校などに出向くことは どこでもやっているが、イベントではなく授業の一環としてコーチ派遣 を行っているクラブはフロンターレのほかでも数少ない。 また、子供向けのサッカーニュースを毎月7 万部、学校を通じて配布。 子供は親に見せるので、親が子供を連れて観戦に行くようになる・・・ というのがクラブの描く図式である。 3 経営戦略の実践・第二段階 ある程度名が売れただけでは観客は集まらない。集客のために色々と努力も重 ねた。次に集客に向けての戦略を挙げていく。 (1)家族連れをターゲットに「レジャー」としてのサッカー観戦の呼びかけ 転居による流入人口が多い川崎市。当然のように世帯数は増え、子供の 数も増加してきている。 前項で上げた子供向けのプロモーションと合わせて、家族でサッカーを 見てもらうために子供用チケット(特にシーズンチケット)の値段を極力 安く設定。小さいうちからサッカー観戦する習慣をつけてもらい、将来 の顧客として大事に育てていく。

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(2)独自のプロモーション J リーグにおいては、情宣に関しては広告代理店へ外注に出すところがほ とんどだが、川崎フロンターレはクラブ創設当初からすべて自前で行っ ている。「予算がない」というのが表向きの理由だが(実際にフロンターレ のクラブ職員にそのあたりを聞くと大抵そう答える)自前のプロモーショ ンには独特の手作り感が出る。外注に出すとその手作り感が出ない。 また、自前で企画することにより、他にはない独自性も出る。たとえば フロンターレの試合告知ポスターは、クラブ名よりも選手の名前と背番 号の大きな活字が躍る。さながら選挙のポスターのように。これは試合 に来る前にまず選手名を覚えてもらうことが目的だという。初めて会場 へ行って選手がよくわからないまま観戦するより、一人でもわかってい た方が面白く見える。「ああ、あのポスターの選手だ」とわかっただけで、 観戦初心者の精神的なものはかなり変わってくるらしい。その企画もク ラブ職員からのアイディアであった。 メディアによく出てくるマーケティング課長の言葉を借りると「手あか のついたプロモーション」というそうだが、手あかがついたといえばも う一つ、後援会会員への挨拶状に選手が直筆署名する、というのもそれ に当たる。次の項で挙げる内容とも被るが、後援会会員への挨拶状に選 手が自筆署名(サインではなく万年筆で楷書)を入れる。こういう活動でク ラブの地道さや誠実さが伝わるのである。 (別紙資料 3) (3)選手の社会貢献活動・市民イベントへの参加 川崎市内では毎週のように多くのイベントが行われ、そこには9 割以上、 何らかの形でフロンターレが参加している。マスコットの参加や宣伝ブ ースやゲームの参加も多いが、シーズン中でも選手が参加するイベント の割合が非常に高い。しかもレギュラークラスの選手が地元のお祭りに 来るのだ。これはフロンターレの選手契約の中にそういうイベントへの 参加義務が含まれているためである。これはJ リーグの他のクラブでは ほとんど例がない。それを契約に盛り込むことで、選手にも社会貢献活 動への意識を高めてもらい、それを集客につなげていこうという考えが 根底にある。 (別紙資料 3) 4 経営戦略の実践・第三段階 せっかく来てもらった観客も、固定させないことには意味がない。集客活動と 連動して、顧客の固定の活動も進めていかねばならない。

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(1) 他のレジャーとの差別化 ファンクラブやシーズンチケットによる差別化は、たいていのクラブが 行っている。特にシーズンチケットは試合のないオフの間に売り出すこ とで、その時期の貴重なキャッシュ収入になるので、クラブとしては販 売に力が入る。おまけをつけるところもある。フロンターレも例外では ないのだが、そのおまけのDVD が内容が濃く(セル DVD よりも時間が 長く内容も充実)それだけで元が取れるという人もいる。その DVD のネ タにしようと、クラブスタッフはいつでもビデオカメラを手にしている が、そこまでの差別化は他のクラブでは例がないようで、移籍選手も大 抵驚いているという。 (2) アウェイゲームへの動員 アウェイの試合は、クラブには1 文にもならない。しかしサッカー観戦 が日常化すると、アウェイへ行く。当然ホームのサポーターの応援が多 い中で選手はプレーするが、味方サポーターの声が聞こえれば奮起する。 そしてチーム力も上がる。「等々力へ行く習慣」から「サッカーを見る 習慣へ」変えていくことでチーム力をアップさせようとしているのだ。 また、近隣のアウェイサポの等々力への動員にも力を入れている。これ は先ほどのSWOT 分析の「脅威」を逆手にとったものである。近隣サ ポを呼び込むことで動員は増える。さらにはゴール裏に川崎の物産コー ナーを設置して、川崎の良さをPR する。もし寝返ってくれたらラッキ ー…という魂胆もあるような気がしないでもない。 (3) 「川崎市民のフロンターレ」という意識づけ SWOT の弱みの一つでもある「地元意識の弱さ」を変えていこうという 動きで、大きく分けて二つの方策がある。 ①応援に川崎らしさを出す 試合前に「川崎市民の歌」を歌うようになった。昨年のナビスコカップ あたりからだろうか。「川崎市民の歌」は、市制60 周年のころに作られ た歌で、以降川崎市の小学校では必ず教えていて、市内の小学生はみん な歌える歌である。普段はゴミ収集車が流している曲だが、地元の学校 で教わってみんなが歌える歌を応援に取り込むことで川崎市民の誇り を再認識してほしいということなのである。 ②街の活性化 先に述べたサポートショップなど、フロンターレと商店会のつながりは 深い。サポートショップは当初、クラブを応援してもらうための制度で あったが、大規模小売店の増加で街の商店街が衰退気味なのは川崎もよ その都市と同じである。今度は逆に、そんな商店街がフロンターレに元

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気づけられている。J リーグの観客調査の中ではクラブが社会貢献して いるから観戦しているという客がいるというのも事実で、フロンターレ が街の活性化に貢献することで観客をつなぎとめる役割になる、という ことらしい。 5 経営戦略の効果 観客数については、別紙資料4 にデータを載せているが、2007 年の 1 試合当た り平均入場者数は17338 人となっている。グラフを見るとわかるが、J2 だった 時期でも観客数は増加している。たいてい、クラブがJ2 に落ちると、観客数は 減ることの方がはるかに多い。しかし増え続けているということはそれだけ地 元での認知度が上がったか、ということだろうか。 また。平均動員数におけるシーズンチケット率は約55 パーセント。この数字は ファンクラブ(後援会)のリピート率の 80 パーセントと合わせ、同規模のクラブ と比較するとトップクラスである。後援会員の数も2008 年はすでに 2 万人を突 破し、この数字は近隣のFC 東京や横浜 F マリノスよりも多い。 さらにJ リーグの調査によれば、サポーターの交通費(310 円は J 最小)や所要時 間(2 位)が圧倒的に安くて短い。それだけ地域密着が進んでいるということなの だろう。これに関してはリーグからも高い評価を受けている。 ちなみに所要時間と交通費のトップは両方とも鹿島アントラーズであるが、こ れは地域密着ができていないというより、サポーターが広範囲にわたって住ん でいるということの顕著な例だと思われる。 6 今後の課題 チーム強化の面以外では大きく分けて二つの課題があると考えられる。 (1) サポーター増加(特に北部地域・小杉近辺再開発地域) 川崎市の特徴である長細い地形は、フロンターレに対する温度差も生み 出している。等々力競技場のある中原区は後援会員も多いが、北部地域 は等々力との距離もあり、また、等々力へのアクセスが良くない。これ は最近、区役所や地元サポがクラブと一緒に専門の委員会を立ち上げて 対策に臨んでいる。 また、小杉近辺では再開発地域に高層マンションが多くでき、人口がこ れから万単位で増えると予測されている。このあたりは等々力競技場に も徒歩で行くことができるくらい近いが、その利便性を目玉にしたセー ルスプロモーションをかけていくのは今後必須になるであろう。 (2) ハード面強化 主にスタジアムの施設面のことになる。平均17000 人強の観客が入る

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等々力だが、実は15000 も入ると席探しが大変になる。トイレや売店な ども含めた施設全体が小さく(ヴェルディがいたころに J リーグの規格 に会わせるために無理やり増築したから)、決して観客にやさしいとは言 い切れない。そういった施設の改修はもちろん(等々力の場合は)行政が 行うわけだが、ただし行政を動かすにはある程度の納得させる実績が必 要である。フロンターレの場合、クラブではそれを観客動員数の20000 人超えと設定しており2 年後の目標にしている。 Ⅲ まとめ ・フロンターレは川崎のスポーツ文化を変えたと言っていいだろう。スポーツ 観戦は「労働者の娯楽」から「レジャー」へと変遷した。これは旧来の川崎市 が「工場の街」から「(あえて言うなら)愛の街」へ変わったということである。 ・市のシンボル的スポーツチームの存在が市民にプラスとなるように、「クラブ」 「行政」「地域」がベクトルを合わせていく必要がある。 ・ホームタウン地域の特性(地形・交通・人口推移など)の分析は、特に地域密着 型のプロスポーツにおいては必須である。マーケティング活動においては当然 のことである環境分析ができていないままに地域密着をうたっても成功しない。 ・経営規模は器やクラブの規模相応であるべきだ。フロンターレの場合は本拠 地のキャパシティも大きくなく、クラブの規模的には中堅という感じだろうか。 J リーグには浦和レッズという巨大なクラブもあるが、無理に浦和のようなビッ グクラブになることはクラブも望まない。

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最後に 先日、横浜市内で横浜 F マリノスの試合告知ポスターを見かけた。それはフロ ンターレとおなじタイプの、選挙ポスタータイプのものだった。ポスターに限 らず、一部の企画ものについても、最近はいろいろなクラブでフロンターレと 似たようなことをしている。たいていの場合、それはフロンターレが効果を上 げたため、それに追随しようと真似をしているようである。 しかし単なる真似で、集客はできるのだろうか?一時的に観客が多くなっても、 リピーターになってくれるのか?同じ方法を取っても効果が出るとも限らない。 それは外部環境がクラブによって違うからである。 現在、自分はとあるスポーツチームのファンクラブ運営に携わっているので、 そのチームの集客やプロモーションなどについての話を聞くことがある。それ を聞くとどうも地域密着は打ち出しているものの、いまいち効果が出ていない という。当然だ。認知されてないから。地域を分析することなくいきなり片っ 端から頭を下げて回るだけでは認知はされない。ある程度の分析をしていれば、 もっと効果的に認知活動もできるはずなのである。

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参考資料 • 週刊サッカーマガジン(ベースボールマガジン社) • 週刊サッカーダイジェスト (日本スポーツ企画出版社) • サッカー新聞エルゴラッソ(㈱スクワッド) • 川崎市WEBSITE • J リーグオフィシャル WEBSITE • 川崎フロンターレオフィシャルWEBSITE • J リーグ選手協会オフィシャル WEBSITE • 2007 J リーグスタジアム観戦者調査報告書 (社団法人日本プロサッカーリーグ) • 神主さんがなぜプロサッカーチームの経営をするのか (池田弘/東洋経済新報社)

参照

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