スタンダード・アンド・プアーズ 在日代表
張 毓宗
田中 滋
ヘイ コンサルティング グループ 代表取締役社長 ロイヤルホールディングス株式会社串田 覚
執行役員 人事部長兼CS・ES推進部長Vol.8 No.
2 2007
対談シリーズ/21世紀の「人と組織」を読むµ
格付けを
積極的に経営に活かす
企業が増えている
p.2
世界を代表する格付け企業S&Pに聞く
変化する格付けとその戦略的活用法。
先端企業ケーススタディ⑳
継続更改型の雇用関係で活性化を
図るロイヤルグループの人事制度
p.8
HAYマネジメントセミナー
ヘイからのお知らせ
持株会社制度への移行に合わせて導入した
新人事制度の狙いと成果は?
組織風土形成者が企業業績を大きく左右する
組織風土は自然現象ではなく
そのリーダーが形成しているという事実
ヘイグループ渡辺 俊一
パートナー 張氏「格付けには、
多様な活用方
法があります」
串田氏「社員が納得できる仕組みづ
くりが課題です」
ヘイグループのニュースレターは、そのと きどきに求められる変化や進歩について、 さまざまな企業とご一緒に学び、分析し、 提案してまいります。 小さい媒体ですが、多くの企業の皆様 とともに、ビジネスの革新を通じて社会に 貢献する一助でありたいと考えております。■対談シリーズ
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「人と組織」を
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■対談シリーズ
21世紀の
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格付けを積極的に
経営に生かす企業が
増えている
張 毓宗
(チャン・ユーツン) 1968年生まれ。台湾国籍を持つが日本生 まれの日本育ち。インターナショナルスクー ル卒業後、渡米しウィスコンシン大学入学。 1990年に卒業後、日本に帰国。1992年ス タンダード・アンド・プアーズ入社。証券化 案件の格付けで実績を残し、2000年1月1 日に、31歳の若さでマネージング・ディレクター となると同時に在日代表に就任。張 毓宗 田中 滋
ヘイ コンサルティング グループ 代表取締役社長 スタンダード・アンド・プアーズ 在日代表パーソナル・インテグリティが
格付けアナリストには必要
田中 ヘイグループは、御社スタンダード・アンド・プアー ズ(以下S&P)のリーダーシップ・トレーニングなどを、 お手伝いさせていただいていますが、先日も確かイン ドで実施されたと聞いています。 張 ヘイさんとは、7年前にアメリカ本社でお付き合い が始まり、日本でも5年前ぐらいから経営陣とマネジャー クラス以上の人を対象とした研修をお願いしています。 ヘイのコンサルタントの方は当社のことをよく理解してい ただいているので、大変助かっています。お話いただ いたインドで行ったトレーニングは、S&Pとインド最大の 信用格付け会社であるCRISILとで交流も兼ねたミーティ ングを行った際に、プログラムの一環として実施したも のです。S&Pは2年前にTOBによってCRISILの主要 株主となり、以降さまざまな分野で協力してきました。 田中 リーダーシップ・トレーニングを受けた方の評判 はいかがですか? 張 参加した人には評判がいいですね。こういう考 え方もあるということに気付けるという点で。参加して ない人は、トレーニングを受けたことによって、マネジメ ントクラス( 経営層 )がどう変わってくるかがまだ見え てこないので、効果について疑問を感じているかもし れません。やはり、すぐに成果が出るわけではありませ んから。でも、数年やってきているので、そろそろスタッ フも変化を実感し始めているようです。 トレーニングはコンサルタントの技量に左右されると 思うのですが、ヘイのコンサルタントはなかなか優秀で すし、そういう人にファシリテート(会議やワークショップ の流れをつくる)してもらうという点でもすごくいい効果 があります。トップが直接言うのではなく、回り巡ってい ろんなメッセージを伝えるときもあると思いますからね。 またトレーニングは実際のビジネスの目標を議論のテー マとする部分もあるのですが、トップと違った見解を上■対談シリーズ
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田中 滋 司に気兼ねすることなく部下が披露しやすい場になっ ていると思います。コンサルタントの方が第三者として 「本当にこれでいいの? 全員で話そうよ」というふう に介在してくれることで、上層部と中間管理職の意思 疎通が円滑になり、時として現場を理解していない上 層部の考えが改められることもあります。ある意味で は一つのガバナンスにもなってるのかなと思っています。 田中 自分の上司にものを言うことは、部下にすれば プレッシャーになることもあるでしょうしね。 張 とくに日本はそうですね。海外だと上に向かって「違 うんじゃない」と言えますが、日本のカルチャーだとそう はいきません。 田中 現在、格付け部門の方は何人くらいですか? 張 格付け部門アナリストだけで言えば世界中で約 2,500人以上います。ただ、格付け業務以外に従事し ているスタッフ、先ほど申し上げたインドのCRISILの スタッフ、3年くらい前に買収したCapital IQという企 業情報サービス会社などのスタッフも含めると8,500人 近い人がS&Pに在籍しています。日本は本社からの 派遣社員も含めて150人ほどです。 田中 格付け会社は、やはり格付けのアナリストが中 心になるかと思いますが、格付けのアナリストが格付 け分野でいい仕事をするための資質と、そういう人た ちを束ねるマネジャーとして必要な条件、さらには経 営陣という立場でいい仕事をするための条件として、 どのようなものが必要だとお考えでしょうか。 張 絶対に必要だと思うのは「パーソナル・インテグリ ティ」です。日本語では適切な言葉がないので困るの ですが、一言で言えば「業務の完全性に対する高い 倫理観」でしょうか。これが非常に重要な要素です。 格付けは、個人の意見ではなく会社の意見として発 表しているので、個々のアナリストが中立性、客観性 を重んじなければなりません。インテグリティがないと 間違った格付けになってしまう可能性があります。例 えば、発行体はできるだけ高い格付けが欲しいので、 格付け結果が低いとプレッシャーをかけてくるケース もあります。そのような状況の中で、正しい格付けが 何なのかを中立的、客観的な立場で分析を行う必要 があります。ですからインテグリティというのは非常に 重要なポイントだと思います。 チームワークも重要です。格付けアナリストは証券 会社のアナリストと違って、自分の意見ではなくて会 社としての意見を述べます。つまり、1人で格付けをし て1人で意見を出すのではなくて、自分で分析した結 果を格付け委員会に付議し、他のアナリストと議論を しながら最終的な格付けを決定するのです。したがっ て、最終的に自分が提案した格付けと異なる格付け に決着する場合もあります。そういう仕事のやり方をし ているので、チームワークを重んじることができないと、 仕事で支障をきたすことにもなりかねません。また、場 合によっては分析を分担し、チームとして格付け分析 を行うこともあります。複数のアナリストの意見を集約 した結果が格付け記号として市場に発表されるのです。 もちろん、個人の能力はミニマル・リクワイアメント(最 低条件)だと思っています。個人個人が十分な専門知 識と能力があるというのが大前提であり、加えてインテ グリティとチームワークがすごく重要だと思っています。市場と対話する能力が
アナリストに求められている
田中 そうすると、格付けアナリストと監査法人の会 計士などとの違いはどこにあると思いますか? 張 答えになっているかどうかわかりませんが、一昔 前のアナリストといまのアナリストでは、要求される能 力が違うと思います。一昔前の格付けのアナリストは、 ある意味で出された情報を元に、会社の信用力を分 析し、格付けという形でお客さんに結果を返すという 感じでした。いま注力しているのは、ただ格付け結果 を返すだけではなくて、われわれの方法論や格付け の結果に関し充分に説明し、お客様との対話を通し てさまざまなニーズを感じ取ることです。そうすることによって、格付けの取得がお客 様に格付け記号以上の付加価 値を提供することになると思って います。 その際お客様のニーズを聞き 取ろうという心構えがないと話に なりません。市場のニーズやトレ ンドに精通し、お客様がどういうも のを求めているのか、お客様が困っ ているのはどういうところかという ことも理解して、初めてさまざまな 提案やサービスができると思いま す 。われわれは、ただ格付けを 付与する、ただ分析するというこ とから脱皮して、われわれの考え方を提供することに 力を入れています。お客様にも、そうしたサービスが 会社にとってどう役立つかもう一度考えてもらいたい ですし、理解をしてもらえればと思っています。 田中 評論家のように、ある分析手法で分析して、結 果が出たらお墨付きを出すという仕事ではないのですね。 張 市場は刻一刻と変わっていくので、われわれがク ライテリア(格付け規準)と呼んでいる格付けのフレー ムワークや手法も市場に合わせて変えていかなけれ ばならないのです。市場やお客様との対話ができな いと、古くなってしまった手法をそのままあてはめてし まう。しかし、その古い手法が必ずしも最も有効だとは 限りません。つまり、アナリストは市場の変化に応じて 分析や考え方も変えなければならないのです。お客 様のニーズの変化に応じて、自分たちも変えていかな くてはいけないことを、絶えず考えながら仕事をしてい かなければいけないと思います。 田中 いまはビジネスマインドも必要になっているとい うことですね。 張 ビジネスマインドは必要ですが、格付けの水準や 分析を妥協するという意味ではありません。なぜこうい う格付けになったのかという理由や背景を説明して、 同業他社との比較や海外の業界の話をしたり、きちん と説明をするからこそ、経営者が価値を感じてくれると 思います。つまり、単に結果を示すだけでなく、そこに至っ た経緯などを理解して初めて使える格付けになる。格 付けを資本市場の資金調達のためだけではなくて、 資金調達以外にも利用してもらわないともったいない。 格付けは、もっと多様な使い方があると思っています。 田中 例えば、格付けが下がると、すごく文句を言う 会社があります。格付け会社がおかしいと。そういう 反応は減ってきていますか? 張 一昔前に比べたら、理由もなく文句を言う会社 は減りました。そういう意味では、日本市場の格付け に対する理解が進んだと言えるでしょう。格付けの最 終結果しか興味がなかった時代から、いまは上がる 場合も下がる場合もどのような理由でそうなったのか という点に、すごく注目するようになっています。 田中 日本企業も成熟してきたということでしょうね。 張 ええ、格付けに対する考え方はこの数年で相当 変わったと思います。格付けを取得する企業には、大 きく三つのベネフィットや使い方があると思います。一 つは資金調達の際に格付けを使って債券等の発行 を円滑に行うこと。もう一つはIRの一環として、格付け をディスクロージャーのツールとして使うこと。そしても う一つは健康診断的、つまり自分の会社はどこをどう すればもっとよくなるのかということを、格付けを通じて 戦略的に考えるために使うことです。中立的な第三 者であるアナリストから提供された分析を見ることによっ て、会社の長所と短所を客観的に知ることができます。 また、S&Pはグローバルにネットワークをもっています ので、日本のアナリストを通じて海外の情報の収集や 海外の同業他社との比較も可能です。この三つの大 きなメリットをもっと感じてもらいたいと思っています。 田中 ちなみに、いったん出した格付けはどれぐらい の期間有効なのでしょう? 張 いったん格付けをしますと、発行体が取り下げる までずっとモニタリングしています。ですから、格付け を取り下げるまではずっと有効と考えていただいてい いです。ある意味アナリストは日々格付けを更新して います。格付けしている発行体や市場で何か特別な イベントが発生したらすぐに格付けを変えるべきかど うか、判断しなければいけません。やはり、タイムリーな 格付けをしないと投資家のニーズに合わないですから。 田中 なるほど。格付けは監査のように、ある期間に 集中して実施するというものではないのですね。 張 経営陣とは半年、あるいは1年に1回程度、定期的 にミーティングをしています。ただ、格付けの担当部門と は頻繁に連絡を取り合いながら情報や意見を交換し たり、例えば、同業他社で何か起きたらそれに対する対 応や考えを聞いたりしながら、モニタリングをしています。
中小企業や自治体も
格付けの必要性を感じている
格付けアナリストも市場の変 化やお客様のニーズの変化を 感じることが必要です。田中 最 近 、中小 企 業 向けの 格付けを始められたと聞いてい ます。
張 SME(Small & Medium Sized Enterprise)格付けとい うもので、売上高が10億円から 100億円の非上場の日本の中堅・ 中小企業を対象としています。日 本リスク・データ・バンクと共同で 開発したもので、2005年12月に 開始してからすでに80件の企業 に格付けを付与しました。 SME格付けは、過去5期分の 財務データをベースに従来の格 付けスケールとは違う記号を用いて企業の信用力を 表したもので、中堅・中小企業の中にも格付けを取得 したいというニーズに応えたものです。格付けを取得 することで宣伝効果もありますし、採用面でも効果が 期待できます。上場会社であれば財務諸表も公に発 表されていますし知名度も高いですが、中堅・中小企 業は上場企業ほどの知名度がありません。中堅・中 小企業ももちろん優秀な人材が欲しいのですが、自 分の会社の信用力を説明できる客観的なベンチマー クがありません。SME格付けを利用してもらえれば、 例えば、採用時に活用できるケースもあります。SME 格付けは日本発の商品で、今後世界展開できればい いなと考えています。 田中 ベンチャー企業には必要かもしれませんね。 資金調達の際に有利に働くでしょうから。 張 ただ、これまでSME格付けを取得した会社は、 必ずしも上場を目指しているわけではないんです。上 場は目標としていないが、いい会社であるというアピー ルはしたいという企業はたくさんあります。例えば、店 舗を借りるにしても、上場会社と中小企業だと上場会 社に貸したほうがいいだろうとなります。そういったとき に、格付けがあると非常に助かるのだと思います。 また、SME格付けの結果と同時に分析レポートを 提供しています。他の中小企業と比べて自分たちの 財務状況がどうか、つまり他と比べてキャッシュフロー が弱いとか資本が弱いとか、そういうレポートを出して います。それを見ることでどうすれば相対的に信用力 が上がるかということの参考になります。実際にそういっ た目的でSME格付けを取得している会社もあります。 田中 詳細なレポートなのですか? 張 財務分析を中心としたレポートです。日本リスク・ データ・バンクは日本の銀行から収拾した膨大なデー タベースを持っており、そこが持っている統計データと 比較して個々の企業の状況を分析した結果をとりまと めたものです。 田中 自治体の格付けも行っているのですか? 張 去年の9月に、日本では初めて依頼を受けた形で、 横浜市に格付けを付与しました。他の自治体も格付 けには高い関心を持っています。これまでは、自治体 が破綻することはないと思われていましたが、マーケッ トはもうそうは見ていません。市場のトレンドとしては、 自治体の信用力も適切に見ていかないといけないと いうトレンドになっています。最近では、海外の投資家 も日本の地方債には興味を持っていますので、これか ら大きな市場になると思います。
大きかった経営陣の意識のズレが
トレーニングでほとんどなくなった
田中 将来の幹部候補生の育成については、具体 的にどういった点を重視されていますか? 張 一人ひとりのステップがあると思うので、そのステッ プを作ってあげることをまず考えています。本社のほう で、次世代のマネジメントになるような人たちをリストアッ プし、数年先を考えながら最適なポジションに置くよう にしています。個人の特性を考えてキャリアパスを考 えるのは大切で、弊社では最近真剣に取り組みはじ めました。例えば、いままでは格付けのアナリストのキャ リアパスとして、アナリストからシニア・アナリストになり、 マネジャーになる人が多かったのですが、必ずしもい いアナリストがいいマネジャーや経営者になるとは限り ません。そこが面白いところでもありますし、難しいとこ ろでもあります。 田中 プロフェッショナルサービスの会社というのは、 どうしてもそうなりますね。 張 いいアナリストであり、いい経営者にもなれる素 質を誰が持っているのかということも、ちゃんと見てい かないといけないと思います。ただ、素質があっても経 営に携わりたくないという人もいます。アナリストは、分 析が好きである分野における権威にはなりたいけれ ども、人をマネジメントするとか、ビジネスをマネジメント することをしたくない人もいるわけです。会社と個人 の意向がマッチしないと、無理をしてもうまく進まない ことになります。 田中 入社したあとの人材育成について、特別に工 マネジメント能力という意味では、 グローバル展開を狙える人材 がいません。夫していることはありますか? 張 いま会社全体としてとくに力を入れようとしている のは、経営者候補のローテーションです。これからビ ジネスをどうマネジメントしていくかという点に主眼を 置いているので、そういった人材を育てるには、やはり ローテーションを一番重要視しています。 田中 冒頭のリーダーシッププログラムは、そういう中 でどういった目的で取り入れられているのですか? 人 材の育成という点もあるのか、マネジメント層における コンセンサス作りだけなのかということですが。 張 その両方と考えています。戦略を確定させ、それ をどのようにスタッフにコミュニケートしていくかという 仕組みを作るときに、ヘイさんと一緒にやらせていた だいているという感じです。コミュニケーションをどうとっ ていくのか、スタッフにどうコーチングをしていくかは、 戦略を確定させるためのコミュニケーションの一部だ と考えています。そういった意味で、両方重要だと思っ ています。
国を超えたローテーションで
グローバル人材を育てる
田中 トレーニングを受けたことの大きなメリットは、ど ういった点にあると見ていますか? 張 トレーニングでは、最初にシニアチームを集めて、 オーガニゼーションクライメット( 組織文化 )をめぐる 意識合わせをやりますが、そのとき、びっくりするくら い大きな意識のズレがあったのです。それが、数年 間トレーニングすることで、シニアチームの中でのズレ が本当にほとんどない状況にまでもってこれました。 これは一つの大きな成果だと思っています。シニアチー ム、経営陣の意識のズレはかなり解消されてきたと思 います。 現在は、経営陣とスタッフ間の意識のギャップをで きる限り解消していきたいという段階になっています。 そこは、コミュニケーションとか、戦略をどう理解しても らうかということをやっていかなければと思っています。 どの会社もそうかもしれませんが、どうやって経営陣の やりたいことや意思を、全従業員に伝えるかというとこ ろが大きな課題だと思っています。何度も繰り返し説 明する必要もあると思います。 田中 グローバル人材を作っていく、あるいは育てて いくうえで、御社ならではの方法をお持ちでしょうか? 張 国を超えてのローテーションをできる限りしていこ うとしています。昔は、本社のあるニューヨークから、 シニアアナリストなどが日本に来ることがよくありました が、いまはオーストラリアとか、インドから来る。あるいは、 日本からそういった国々に行くということも増えています。 実際、日本から台湾に行って格付け部門のトップとし てやっているというケースもあります。 今後は、できればインドや中国などこれから大きな 発展をする市場に行ってもらいたいですね。とくにイ ンドはアウトソーシング先としてわれわれもかなり注目 していますし、冒頭申し上げたCRISILの主要株主 でもありますので。言語の問題で日本語はアウトソー スしづらいというのは事実ですが、それでもいろいろ やり方を考えればアウトソースできることはあると思い ます。例えば、日本のアナリストやスタッフが現地に赴 任して指示するというのも一つのアイデアかと思いま す。そういった形でいろんな所で仕事をすることによっ て、グローバルな感覚を養ってもらえればと思ってい ます。 田中 アメリカ本社の人が、各国に出ていくというパター ンもまだ残っているわけですね? 張 もちろん残っています。逆に、東京や他のオフィス からニューヨークに行って、シニアなポジションを担うと いうケースも最近ではありますね。 田中 そうすると、本社主導型、本社集中型では既 になくなっているということですね。 張 ええ、既に脱皮し始めていると考えていただいて いいと思います。“完全”かというとまだそこまでいって ないなと思いますが、10年前とは感覚が全然違います。 田中 グローバルなレベルでの経営ということでは、 経営メンバーはアメリカ人が中心ですか? あるいは、 いろんな国の人が参加しているのでしょうか? 張 国籍で言えば、まだアメリカ人が中心だとは思い ます。ただ、オーストラリアやインドなどの海外出身者 がメンバーになっていますので、これからは本社の経 営陣ももっとグローバル化し、多様化すると思っていま す。これから日本出身のマネジャーにも経営に参画し てもらいたいです。 田中 日本のオフィスから、他の国や本社へ異動し た人はいらっしゃるのですか? 張 ローテーションで3ヵ月や6ヵ月間本社に行った人 はいます。ただ、マネジメント職として本社に行ったケー スはまだありません。ニューヨークや本社から日本に 来て10年くらいいた人が、香港や他の国々に行って います。私にしてみれば、東京で育ててあげた人材だ と思っていますが、そういった人も含めて、日本ベースのスタッフが海外に出ていって活躍する例は増えて います。
さらにグローバル化するためには
日本企業の人材育成は遅れている
田中 S&Pの在日代表として、あるいは格付け会社 という視点から見て、ここ5年ほどの間に、日本でビジ ネスをしている会社の、ここが変わってきたと思うとこ ろがありますか? 張 最近思うのは、日本の会社が再び世界に目を向 けるようになったということです。バブルがはじけて金 融危機があり、その間、日本の会社の多くは、日本国 内のコンペティションをどう勝ち抜くかということにフォー カスをしていました。必要なリストラや構造改革を行い、 日本市場でどう生き抜くかをずっと真剣に考えていた ため、海外でのコンペティションというのが比較的なお ざりだったのではないかと思っています。 いまではそういったリストラも一巡し、銀行も不良 債権問題もそれなりに解決して、ここ数年景気もよ くなってきました。厳しい不 景 気の中 、日本 市 場の 競争を勝ち抜いた企業が残りました。ただし、これ からはグローバルの時代であり、グローバルの競争 をどう勝ち抜くかを考えないといけないということで、 グローバルの視点でまた 考えるようになったかな という気がします。 先ほど言いましたが格 付けの使い方もだんだん 変わってきています 。以 前は資金調達 、とくに海 外での資 金 調 達のため に格付けを取得していま した。しかし最近は、資金 調達のためだけではなく、 海外の会社と比較しても らいたいとか、アナリストと 話をすることによって海 外の事 情を間 接 的に勉 強できるメリットを考えて いるようです。 田中 数年前に格付け が厳しすぎるといってい たのとは、かなり様変わり しているわけですね。 張 当社のアナリストは、日本市場だけではなく海外 のマーケットも熟知しています。そのため、そうした知 識や状況を、アナリストを通じて間接的に勉強したい というニーズはあります。当社の商品の中にも、日本国 内海外を問わず同業他社との信用力の観点から比 較分析する商品があります。格付けを取得したあとに、 そういうレポートをお願いしますという会社は増えてき ています。 田中 確かに当社の顧客でも、1997年くらいから世 界を一つのマーケットと見て展開するという方針のも とに、日本人も外国人も、本社の人間も現地法人の人 間も区別せずに人材を見つけて育成していこうという ことに手をつけはじめた会社が出てきました。3∼4年 前からは、かなり増加しています。 張 海外の会社を買収するM&A、しかもかなり大型 の案件が最近出てきています。それは、海外でのコン ペティションを生き抜くために必要だと考え始めた証 拠だと思います。ただ、昔はニューヨークやロンドンで したが、いまはアジアです。アジアでどう展開するのか が重要だということが、一昔前と違う点ですね。実際、 インドや中国に行くとその発展のすごさを身にしみて 感じます。インドのあの雰囲気を肌で感じると、ひょっと して1950年代∼70年代の高度成長期の日本はこん な感じだったのかと思いますよ。全員が同じ方向を向 いていて、国を挙げて発展させていこうという、努力や 雰囲気が感じられますね。 田中 海外進出でも欧米一辺倒ではない。むしろア ジアのほうに軸足がある企業がほとんどですね。 張 昔のように、何か海外展開をしなくてはいけない んじゃないかという強迫観念からではなく、ちゃんと目 的意識を持った形での海外展開が多くなった気がし ます。 田中 ただ、マネジメント能力という意味では、グロー バル展開を実際に担える人が全然いない状況です。 張 これからでしょうね。某外資系金融機関の日本 支店長と話をしていた時に彼が言っていたことですが、 バブルがはじけてから15年くらいは、あまりにも国内の ことしか考えてなかったので、グローバルマインドを持っ たトップが育ってきていないと。だからいつまでたっても、 古くから活躍している人に頼ってきており、次の世代 がグローバルマインドを持ってない。これをどう解決す るかが日本の大きな問題だと。それは本当に一理あ るなと思います。 田中 これからの日本企業の課題でしょうね。 トレーニングによって経営陣や シニアチームの中での意識の ズレは、かなり解消されました。先端企業ケーススタディ⑳
ファミリーレストラン「ロイヤルホスト」で知られる、ロイヤルホー ルディングスは、1951年に創業以来、お客様の心を楽しませ、 社会を明るくすることを経営理念の一つにおき、外食産業 のリーディングカンパニーへと成長を遂げた。市場環境が厳 しさを増す中、経営構造改革の集大成として、2005年には 持株会社への移行と6社分割を実施。新たな経営計画のもと、 「市場環境とお客様のニーズに即応できる体制の構築と明 確な責任と権限の下、自主独立の運営」を実現すべく、さま ざまな取り組みを行っている。今回は、新しく生まれ変わり つつある同社の人事部門における取り組みについてうか がった。串田 覚
ロイヤルホールディングス株式会社 執行役員 人事部長兼CS・ES推進部長 (聞き手:浅川港=ヘイグループ・プリンシパル)継続更改型の雇用関係で活性化を図る
ロイヤルグループの人事制度
独自の教育研修
時代に対応するために
意識改革が必要だった
――御社が人事関連で力を入れ ているのはどういう分野ですか? ここ数年取り組んで来たことは 意識改革です 。最終的には人の 活性化を狙っているのですが、弊 社の場合、その前段の土壌づくり をしっかりと行わなくてはならないと いう状況にありました。 というのは、もともとロイヤルホスト を中心とする、全国チェーンレスト ランが主たる事業でしたから、どう してもチェーンオペレーションという 名のもとで、マニュアルに定められ たとおりに行動することが是とされ ていたのです。 ただ、ご存じのとおり、外食産業 の市場規模が右肩下がりに縮小 している中において、やはり画一的 なことをやるのではなく、お客様を 意 識したサービスの提 供や商 品 開発をしなくてはいけない。そのた めには、やり方を変えていくことが 求められるわけです。 ――かつて求められた能力やコン ピテンシーだけでは、足らなくなっ たということですね。 もちろん、それまでのやり方のす べてを否定するわけではありません。 ただ、お客様のことを本当に考えて やってきたかというと、そうではない 部分もあったんです。 創業者がこうやりなさいと言った ことをやることが、ロイヤルらしいこと であると考えられていました。ところ が長い間に、ロイヤルらしさを守る のが仕事になってしまい、スタート時 点の「お客様が喜んでくれるものを 提供する」というロイヤルらしさが、 形だけのものになってしまったのです。 欠けていたのは、自分で考える ということでした。そこで、自分で考 え、自分で行動をとれるように切り 替えようと。そのためには、意識改 革のための仕組みづくりが必要で すが、人事制度はその一つだと考 えて改革を進めています。統一性と独自性の両立を
基本に新人事制度を導入
――人事制度を、どのように変え てきたのですか? 基本的には、持株会社体制の中 で、統一性と独自性という考え方で 進めています。統一性ということでは、 役割成果主義の発想を入れてい ます。そこは統一性として守りたい ところですが、評価制度について は各社の自由度の範囲内と思って います。 例えば、チャレンジシートと称して いる評価シートがあるのですが、名 前は一つですが中身は全部各社 で違っています。というのは、評価 の納得性を高めようという目的があっ たからです。 ホールディングスの人事部が基 本形を作って押しつけるのではな くて、どういう評価シートで、社員と 管理職もしくは経営がコミュニケー ションを図りたいのかを考え、その ためのツールとして評価シートを考 えてくださいということでやりました。 そこは独自性で運用をしています。 ですから、地域性や会社に与え られているミッションを十分踏まえた 形になっています。また、極端な場合、役職
半年ごとに評価シートそのものを変 えています。 ――評価基準にも、現場の社員の 声を反映させているそうですが? はい。コミュニケーションが大事 だと思っていますので。 評価シートはマネジメントツール と位置づけ、各事業会社の社長が どうマネジメントをしたいのかという ところを意識しながら利用しています。 社員の考えを社長が聞き入れたう えで、社長のやりたいところとの方 向性を合わせて、最終的に評価シー ト項目に落ちてくるという考え方を しています。 いままでは、社員にしてみれば、 評価が納得できないし、職務とも連 動してないというところに非常に不 満を抱いていた。事実、そういうア ンケート結果がありました。 そこを解消するためには、自分 たちで評価基準まで作って運用し てくださいと。それで納得できない のはおかしいと。逆に言えば、納得 できるために自由にやっていいで すから、とことん各事業会社の社 長と議論をして、新しい制度を立ち 上げてくださいと。そういう形で導 いてきたつもりです。 ――それはいつ頃からですか? 議論を展開したのは2005年夏 から秋にかけてです。いまロイヤル グループは、ホールディングスを入 れて全体で20社あります。2005年 7月に九州・北海道の地域分社が 成立し、この二つは2006年1月から 導入しました。また、同時に分社化 した、ロイヤルカジュアルダイニング、 ロイヤル空港レストラン、全国にロイ ネットホテルやリッチモンドホテルを 運営する優良企業アールエヌティー ホテルズなどが第一陣としてこの 新制度を立ち上げています。第二 陣は、おそらく来年1月1日付けで 同様の制度に移行する予定です。取締役も社員も
1年ごとに契約を更新する
――持株会社に移行する前のロ イヤルに所属されていて、分社後 に子会社の社長になった方は、本 籍はまだホールディングスに残って いるのですか? 100%子会社の社長のうち、もと もとロイヤル(株)出身の者は、ロイ ヤルを退職して代表取締役に就い ています。2005年7月1日の持株会 社移行で新設された会社の取締 役の任期は1年単位で考えること にしています。ロイヤルホールディ ングスも、今年3月の株主総会で取 締役の任期は1年にしました。 実は、ロイヤルグループに関わっ ている社員も役員も、新制度の移 行に 合わ せて継 続 更 改 型 の 雇 用契約にしています( 図2 )。1年 ごとに毎年自分のミッションと業績 を確認しあいながら、会社との関 係を作るということになっています。 私も、1年間の業務委託契約です から、いつクビになるかわからな い(笑)。 執行役員制度は委任型と雇用 型があります。委任型の執行役員 は1年の業務委託契約の毎年更新。 社員から執行役員になった者は雇 用型で、新制度に移行しない限り においては、従来の終身雇用を前 提とした執行役員となります。しかし、 新制度に移行すると大元の契約 を1年ごとの継続更改型にします から、必然的に執行役員と雇用契 約をセットにして、1年ごとに見直し ていきます。 ――それは厳しいですね。 この制度の本当の狙いは、ホー ルディングスのマネジメント力を高 めることにあります。外部から人を 招聘する際の受け皿として、この 制度を積極的に使おうと考えてい るのです。 多くの外食産業は、カリスマ的な [図1]グループ経営の背景と狙い 2001年以降 経営構造改革 推進 確定拠出年金制度 個店主義からマーケット至上主義へ、自主自立、資本主義 ロイヤルグループ行動基準 2004年12月 ・退職金・年金制度 改定 ・不採算店舗処分 ・減損前倒し適用 ・本社機能東京集約 2005年7月 ・持株会社体制移行 (第一次) 2007年度∼ ・持株会社体制移行 (第二次) ・新人事制度移行 明確な責任と権限の下、分社長による独立運営 《社員に求められるもの》 ○意識改革(会社と対等な関係) ○自主自立 ○自己主張 ○目標設定 ○成長と納得 ○法令・行動基準遵守 ○市場への関心(株価・業界) 事業のリストラ 生き残りを賭けた経営判断 チェーン理論、指示待ち、社会主義 中央集権体制(一人のトップがすべて決める)創業者のもとで会社が育って来て しまったので、マネジメント力はそう 強くはありません。ホールディング スの社長は、持株体制のもとでしっ かりとマネジメント力を高めていこ うと考えており、そのために必要な 人を外から求めようとしているから です。
マネジメント層も社員も
意識改革が進んできた
――冒頭におっしゃっていた意識 改革という面から言うと、かなり現 場は変わってきましたか? 二つの面で変わったと思います。 先日、ロイヤル九州の社長と話をし たときのことです。九州は150名く らい社員がいるのですが、社長自 らが3ヵ月に一度、目標チャレンジ シートを使って面談するようになっ たと。いままでは、日々の忙しさに 追われてやむをえない面もあった のでしょうが、全く行われていなかっ たのです。 新人事制度の導入によって、評 価ツールを使ってマネジメントして いこうと経営層が思うようになった ということは、経営方針を示し、そ れを制度に落とし込むことによって、 組織への浸透が図れるのではと 考えるようになったわけで、そこが 変わりつつある点です。 社員にもそれが現れていて、自 己主張をするようになったというの はあります。いままでは、あまり目立 たなかったけれど潜在的能力の ある人が、ここに来て急に目立つ ようになってきた、あるいは伸びて きたという声を聞きます。そういう 面では、意識改革といいますか、 新制度に期待したことが、評価で きる結果となって表れているので はないかと思っています。 ――具体的に、周囲でそうした事 例を見れば、他の社員の意識改 革や日々の行動の改革に、つながっ てくるでしょうね。 昔は、店長がいて、複数店を束 ねるエリアマネジャー的な人間が いてと、組織の階層が見えており、 自分のキャリアプランというか出世 コースが見えていた。ところが、体 制の効率化を進めていく中で中 間層を排除した結果 、現場の人 たちは何を目標にやればいいのか 迷いがあったと思うのです。 しかし、新制度のもとでは、同じ 店長でも頑張っている店長はきち んと処遇しますし、支配人という形 で自分の店を持ちながら周囲の 店を管理するようになります。そう して責任範囲が広がれば、給与も 増えるということで、自分の処遇を 高めていく方法が見つかった。 言い換えれば、組織の階層とし てのキャリアプランではなくて、自 分の活躍の場をどう広げていけ ばいいのかというのが見えるよう になってきたので、そこはプラス効 果が生まれていると思います。外食産業全体をにらんだ
体制づくりにも取り組む
――外食産業は右肩下がりになっ ているようですが、その中で、人材 も含めてどういった戦略をお持ち ですか? 2000年の売上を100としたとき、 現在は75くらいです。そうした厳 しさの中で、人の活性化に求める 部分だけでは対応できません。 われわれとしては、ロイヤルグルー プ内の仕組みを変えていくという ことでやってきましたが、今後、長く 生き延びるためには、外食業界全 体の中で協力できるところは協力 しながら、新しい仕組みづくりをし ていくことが必要だと思っています。 その仕組みづくりに向けて、積極 的に仕掛けていこうとしています。 現社長がホールディングスのマ ネジメント力にこだわるのは、マネ ジメント力をしっかり有していれば、 そういう新しい仕組みを作り、自ら がそれを運営することによって新 たな人材を呼び込める。資本が 動けば持ち株傘下に入ってくるし、 外にあっても共同でやっていける。 そこに、事業全体としての効率性 を見い出せるんじゃないかと考え ているからです。 ――そこが事業領域としては課題 ということなんでしょうね。 持株体制に移行してからM&A を何社かやってきました。いままで は、M&A対象会社を傘下において、 その会社をしっかり動かしていく、 あるいは新会社として立ち上げて いくことに、労力を費やしていたと 思うんですね。これからは、新たに 入ってきた会社を使って、どう事業 の発展性を考えていくかというのが、 目標としてあります。 そのためには、ホールディングス のマネジメント力の強化が必要になっ てくるのですが、中に人がいなかっ たら外に求めざるを得ません。そ こで、外部から人を招聘する仕組 みを作り、活用しながら強化しよう としているのです。 ――ところで、御社は社内コミュ ニケーションにもいろいろITを使 われているようですね。 インターネット上に「e-EAR」と いうサイトを設けて、社員の声をい ろいろ書き込めるようにしています。 書き込みは活発にあります。 中には二つあり、自由掲示板の 「ROYAL WEB」は、俗っぽく言えば当社が運営している2ちゃん ねるです。意識改革の一つとして、 自由にものを言える風土を作ろう という目的で作りました。もう一つが、 よろず相談の「e-EAR」で、書き 込みは非公開です。社員が健康 であってこそ効率や労働生産性も 上がるということで、心の健康サポー トを目的としています。 新人事制度への移行に伴い、 評価制度を変えて四半期に一度 はマネジメントと社員のコミュニケー ションを図るようにしています 。し かし、それをきちんとやってないと、 不平不満がこちらに書き込まれて しまいます。各事業会社の経営層 にしてみれば、自らの経営能力を 批判されることもあるわけで、しっ かりとやらなければというプレッシャー を感じてくれているのではないでしょ うか。
定量分析能力を高めるため
手挙げ方式の講座を準備中
――今後の課題については、どの ようにお考えですか? 一つは、人の育成だと考えてい ます。今年はいわゆる店長クラス のスキルアップを図ろうとしています。 具体的には、世の中の動きを学問 的に捉えていけるような講座を、マー ケティングの専門家を講師に迎え て開設するために、準備を進めて います。いまのところ、オーソドック スに講義方式で実施する予定です。 講義ではとくに、感性に頼った 従来のやり方ではなく、数字で物 事を判断できるような能力を高め ていきたいと思っています。将来 的には、この講座を次世代を担う 人の選抜コースになるように仕立 てたいと思っています。 ――選抜はどういう方法で行うの ですか? 最初は、やる気がある人に手を 挙げてもらうつもりです。ホールディ ングスの社長は、上から仕事を与 えられるのではなく、やる気のある 人じゃなければ組織は動かせな いという思いを持っていまして。手 を挙げてきた者にはチャンスを与 えるという考え方です。そういうこ ともあって、自分でやりたいという 意思表明をした人に対して実施 するつもりです。 ――人事・組織分野の課題として は、何が挙げられますか? いかに働きやすい職場にして いくかということですね。 1店舗でも50人からの組織にな りますと、世に言うハランスメント問 題があります。若い女性が多い職 場なので、セクハラが多いように思 われがちですが、アンケートを取る と8 割 がパワハラです。強い命令 口調や態度で指示を出す上司・ 店長の言動や、職場の特性もある かと思いますが、調理職の人のも のの言い方や指示が、若者たち には受け入れられないという「コミュ ニケーション」の問題が大半です。 もう一つは、労働時間をいかに 適正化していくかです。合理的な 手法で、適正な労働時間に向け てどう着地するかが、今年の大き な課題の一つです。 ――外食産業は人材確保が大変 のようですが、御社の場合はいか がですか? ある一時期から大卒の新卒採 用を止めたことや、もともと離職率 が高い業種であること、2000年の リストラなどもあって、20代後半か ら30代が手薄なのが現状です。 今年入社した大卒社員は、全 員が当社でアルバイトを経験した 人でした。彼らはアルバイト経験を とおして、人が働く組織のマネジメ ントに、面白さや仕事のやりがいを 見つけた人たちだと思います。また、 そういう人が育っていきます 。地 域事業社の社長もアルバイトから 入社して育った人が多いですか らね。そういう意味でも、働きやす い環境づくりが、大きな課題といえ ます。 [図2]新制度における雇用形態全社員を「継続更改型社員」に
◎1年ごとに雇用契約を更改 ◎継続して更改するという前提に立つ グループ基本方針 1年ごとに各人のミッション(能力評価を含む)を会社と本人と が合意して、その成果を次の年の報酬に反映させるという成 果主義的な人事をより促進するのが狙い(=“納得性を高め る仕組み”との位置付け)。あくまでも、貢献と評価・報酬を単 年度でバランスさせるための一形態 働きやすい職場づくりに向けた活性化施策 評価 C(半期) 評価 C(半期) 評価 C(半期) 執行猶予期間(年度) ○教育的指導・ カウンセリング等の 措置を実施 ○結果評価& 最終結論 (協議会) ○所属会社・組合・本人 RHD人事部で “協議会”を開催 ○執行猶予期間の 目標設定を本人と 合意の上行う ※契約書には「乙は、甲が別途定める協議会にて目標設定に対する達成度が要求基準未満と判定された場合には、第○条に記載さ れている期限にて契約が満了することとなっても異議の申し出は行わないものとする」と明記世界中で注目されている企業はいずれも、
「GEバリュー」
「トヨタウェイ」などと呼ばれる
独自の価値観や行動規範を定着させています。
言い換えれば、
そうした企業は明確なビジョンとそれに基づく風土形成力があるからこそ、
個々人を動機づけ、
活力のある組織を維持し、
結果として成長を持続できているのです。
会社の業績は、
それを構成する各部門の業績、
また構成員である一人ひとりの業績の総和であり、
業績創出最小単位である個人の能力を最高度に発揮させられるマネジメントが鍵となります。
すなわち、
この構成員の考え方や行動に影響を与えていく風土形成者であるリーダーが、
適切にそれぞれのチームを運営することが業績の安定的向上をもたらすのです。
組織風土は自然現象ではなく
そのリーダーが形成しているという事実
ヘイグループ パートナー渡辺 俊一
Hayマネジメントセミナー
組織風土は自然現象ではなく
そのリーダーが形成しているという事実
「失われた10年」で失ったのは
自主的努力と社員と組織との強い絆
ヘイグループでは、組織の業績決定の要因を分析 するのに7サークルモデルを提案しています(図1)。 この中で組織風土は大きな要素を占めるのですが、 昨今の日本企業の多くは個人の期間業績結果追求 をマネジメントの中核にしてきたため、「組織風土」の 重要性を軽視してきたと考えています。 バブル崩壊後の経済不況を指して、よく「失われた 10年」と言われます。試行錯誤、とまどいの期間で、方 向感と成長感が失われたということでしょう。しかし組 織と人材のマネジメントという観点からすると、失われ たのはむしろ「自発的努力」や「社員のやりがい・意欲」、 「組織求心力」といった日本企業の強みではなかった かと考えています。 というのも、この間、企業は生き残りに目を奪われ、 社員が力を出しやすい会社の空気や職場の雰囲気 を作るよりも、短期での業績向上策などを性急に採り 入れてきたために、リーダーは、各社の強みであった 良好な風土の形成や維持といったことに目を向ける 余裕がなかったとも言えます。 成果主義は時代の要請で各企業が取り入れてい ますが、それを期間業績管理とやや狭く捉えられてい る傾向があります。本来、期間別個人業績管理はマ ネジメントの一部であって、健全な企業文化や風土の 中でこそ生きてくるものなのです。 ヘイグループとフォーチュ ン誌で実施してきた世界賞 賛 企 業ランキングで上 位に 入る会社は、「GEバリュー」 や「トヨタウェイ」など、風土と いう言葉は使わないものの、 その会社なりの行動規範や 独自の仕事の仕方、価値観 というものを維持・強化して いるのです。 昨今、M&Aや企業買収 [図1] 7サークルから見た組織の現状とあるべき状態 ビジョン戦略 方針戦術 人 材 結 果 マネジメント 結果の追及 体制づくり 組織編成 ビジョン戦略 方針戦術 ■現状 ■あるべき状態 適材適所 人 材 ピープル 組織力の 最大出力 リーダーシップ 体制づくり 役割の設定 組織風土 組織風土 行動規範組織風土は自然現象ではなく
そのリーダーが形成しているという事実
が話題をさらうようになり、各社は買収防衛策を検討・ 導入しています。しかし、最も有効な防衛策は、企業価 値を高める経営力なのです。仮に、トヨタやGEをどこか が買収したとして、継続的にその価値を向上させられ るかというと、おそらくできないでしょう。M&Aをしかけ る側はそこをわかっているから、仮に資金があったとし ても、こういう会社には決して手を出さないはずです。 こうしたことから、社員の活力を生み出すには、そ の企業独自の組織風土を作っていくことが重要であり、 それが企業価値にも反映されると言えるのです。2種類の風土−
全体と部門をどう見るか
ヘイグループは組織風土を六つのディメンション(観 点)で捉え(図2)、それを測定、評価することで組織 風土の改善に着手していきます。 活力ある会社や組織は、組織と個人が方向感を共 有し、一人ひとりが今期は何をどこまでやるのかという 成果意識を持ち、責任感と自主性を持って目標達成 に取り組んでいます。同時に、不必要な会議や書類を 極力減らし業務生産性を高めています。そして、業績 の評価・処遇をきちんと行い、最終的にはチームとして の一体感(組織的絆)を感じさせるという一連の仕事 サイクルを支援する風土を確立しています。 ヘイグループが日本を含めてさまざまな国で実施し た組織風土調査では、風土のパターンがいびつな会 社や組織もあります。例えば、業績結果追及を重視し ている組織では、目標感だけ突出した風土になってお り、一方方向性があいまいで、なぜこの目標なのかと いう背景や文脈がはっきりしません。その奥にある自 分の役割や期待も見えてないことがよくあります。自 由放任的組織では、部門の方向性なり個人への期待、 あるいは期ごとの目標がはっきりしません。夢追い的 なところでは方向感だけしか風土として認識されてな いといった調査結果が見られます。 では、なぜこうしたことになるのでしょうか。 一つは、会社であれ本部や事業部、部であれ、職 場や部門の組織風土が重要だという意識が希薄化 していることです。そしてそれ以上に重要なのが、リー ダーに「自分が風土形成者である」という自覚がない ことです。言い換えれば、「うちの会社はこうだから」「上 層部がこう言うので」と、リーダー自身が被害者の立 場に立ってしまっているケースが多いのです。三つめ は、いまの職場や風土がどういう状態なのかという認 識や観点を持てず、またその測定・評価ができていな いことがあげられます。組織風土のどこが、どの程度 問題なのかが測定・評価されないから、具体的な課 題の抽出やマネジメントができないのです。 留意していただきたいのは、この組織風土の六つのディ メンションは、個性的な風土を形成することとは異なり、ど の会社でもどの組織でも優れたパフォーマンスを達成す るための共通の組織風土条件であるということです。リーダー自らが率先して
風土を作りこむ
とくに、この点では、風土形成者としての自覚が問題と なります。仮に事業部長のAさんがいるとして、Aさんは 役員の一員として会社の全体的風土の影響を受けてい るかもしれませんが、同時に多数の部門を抱えるリーダー でもあり、下で働く人間に大きな影響を及ぼす立場です。 下の人間が、そのビジネス生活圏ともいえる職場を どう感じているのかということに、そのリーダーが意識や 責任を持つことが必要になるのです。部下にとっては、 上司が形成する部門体質の影響が圧倒的であり、上 司の日常行動に大きな影響を受けます。どちらかという と、その会社の全体的な企業体質からの影響よりも、 上司であるリーダーから受ける影響のほうが大きいこと がわかっています(図3)。 [図2] 働く人が力を最大に発揮できる組織風土の条件q
柔軟性
r
責任感
s
目標感
t
評価・処遇感
u
方向感
v
チーム意識
:不要と感じられる業務処理や仕事を進める上での制約や規制が少ない。 :いちいち了解を求めなくても、ある範囲では自立的に仕事ができる。 :何が期待されている成果であるかがはっきりしており、また業績向上感を感じている。 :結果にもとづく納得のいく評価が行われ、いいことをすれば誉められる。 :この組織の将来方向やビジョンが見えるとともに、個々人の期待や役割もわかっている。 :組織の一体感を感じるプライドや相互協力、信頼感を感じる。では、この組織風土を変えていくためには、どうすれ ばいいのでしょうか。実際のコンサルティングでは、まず、 調査結果をもとに風土形成者、つまりその組織のリーダー にきちんと現状認識、とりわけ、風土実態である部下の 風土認識の現状を知ってもらうことから始めます。ヘイ グループの組織風土調査では、現状と同時に期待す る将来風土についてもリーダー自身とメンバーの意見 を調査します。不足している風土とより強化すべき風 土などの部下の観察と期待にもとづき、目指すべき風 土状態を定め、変革への取り組みを行います。 その取り組みは、リーダーの個人的行動変革と、リー ダーシップチームとしての取り組みという、二つのリーダー シップの観点から構成されます。 なぜ、リーダーの行動変革という観点が必要かとい うと、ヘイグループでは、組織風土の70%はその組織 のリーダーの考え方と行動によって形成されると考え ているからです。つまり、会社、部門、部課などいずれ の場合でも、それぞれの組織の空気=部門体質とい うものは、そこの頂点に立っているリーダーの行動や 考え方によって形成されます。 ヘイグループでは、それぞれのリーダーシップの特 徴は、リーダーが採りうる六つのリーダーシップ・スタイ ルの組合せと強度で形成されると考えています(図4)。 この調査では、リーダー自身の認識と部下の捉え方を 調べます。例えば、強制型リーダーという、「俺の言っ たとおりにやれ」というスタイルがあります。リーダー自 身の認識ではそんなに強制的ではないと思っている のですが、部下から見るとこの部分が強く意識され、 結果大きな認識ギャップが出る場合もあります。 そうやって、自分のリーダーシップ・スタイルの特徴(パ ターン)を知り、なぜそのリーダーシップ・スタイルになっ ているのか、あるいはそのスタイルを決定づけた行動 は何だったのかを振り返ります。そして、その行動をとっ た根拠や状況を考えるという段階を踏みます。 [図3] リーダーシップスタイル調査結果の特徴(米国例) [図4] リーダーシップスタイルの六つのディメンション(尺度) ・社員の意見を取り入れず、何をすべきかについて、明確な指示を与える。 ・社員が即座に素直に従うことを期待している。 ・常に詳細な報告を要求する。 ・うまくやれないことについて否定的で強制的なフィードバックや時々目につくやり方(嘲笑・悪口)をする。(減点法的) ・組織のビジョンと方向性を考え、明確にしていくことに責任を持っている。 ・社員または会社にとって長期的な利益になることについて、わかりやすく社員に説明している。 ・ビジョンの進捗をみるのに、基準を設定したり、業績をモニターしている。 ・ポジティブ、ネガティブの両方のフィードバックをする。 ・社員間の友好的な関係が最も重要であると考えている。 ・雇用の保証、福祉や社員の幸せを考える。 ・メンバー間の軋轢を避ける。 ・個人の性格的なことを誉めたりする。処罰のようなことは滅多にない。 ・メンバーが持っている能力を信じている。 ・メンバーを決定するプロセスに参画させて、合意によって決断をしていく。 ・会議を頻繁に開催し、意見を聞く。 ・メンバーの意見を尊重し、傾聴していく。 ・高い水準を持ち、自己管理を期待する。 ・実施例やモデルを示してやっていく。 ・部下よりも自分のほうが仕事がより良くできると思っているので、任すことに抵抗がある。 ・経験不足で仕事ができない時には業務責任を取り上げて自分でやってしまったり、専制スタイルをとる。 ・低い業績の社員には同情しない。 ・社員各自の目的に沿って、長所および短所を見出せるように援助する。 ・能力開発の目標を長期的に考えるように奨励する。 ・フィードバックを行って社員の成長を促すだけでなく、論理的な根拠に基づいて具体的な指導をする。 ・現在の業績基準よりも将来の成長を重視することもある。
■
強制型
(Coercive) 「指示命令」 言われたとおりにやれ<即座の服従>■
権威型
(Authoritative) 「牽引・方向性の提示」 Whyの説明<将来の方向やビジョンを与える>■
関係重視型
(Affiliative) 「調和・世話役」 まず人、次に職務<調和の形成>■
民主型
(Democratic) 「集団運営」 参画<コミットメントの醸成>■
率先型
(Pacesetting) 「規範」 セルフマネジメントを期待 <模範を示し、介入する>■
育成型
(Coaching) 「育成」 長期的育成を重視 <社員の強みを生かした能力開発> リーダーシップスタイル 主な行動例 29 0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100 (%) 24 43 56 63 12 46 54 29 61 64 51 8 41 60 強制型 権威型 関係重視型 民主型 率先型 育成型 好業績リーダー → 部下(ピープル)を活かす、人的資源活用スタイル 平均業績リーダー → 目標管理を中心にしたスタイル 業績低迷リーダー → 業務遂行を中心にしたタスク管理のスタイル 77 74 69リーダーシップを発揮するとは、その組織の長として、 自分の「想いやビジョン」を実現できるような組織風土 を形成することであるとも言えます。 そのためには、成果を出すとともに、部下に働く意 欲を与え、仕事の面白さや達成感を味わってもらうこ とが重要になります。そこで、風土形成者であるという 自覚を強く持ち、この六つのリーダーシップ・スタイルを 状況や目的に応じて使い分けることを通じて、良き部 門体質を造り上げることが求められるのです。