欝13巻第2号(1962) 99 禾穀類の根翰に関する研究 Ⅴ 異常環境下における根鞘の性状
野田 愛三,林 甚太郎
Ⅰ 緒 言 根聯の異常環境に・おける研究は西村が粟く7),NoRSTOGがえん麦(1U叱ついて行われて:いるに過ぎず,他の芽生器官 の場合に比して業街が甚だ少ない 肇者等は土壌水分の過少条件で水稲の種子発芽時の根鞘の性状と品種の耐単性の強弱との関係(8),従来高塩分中で 発芽が不可能とされて−いるNaC15%乃至4%の水溶液の発芽で玄米状態とした場合ほ根鞘が種被を破って出現可能 のこと,その出現の遅速が品種の耐墟性の強弱と密接の関係のあること(9)について報告した 本報でほ禾穀類10種類の作物種子の空気の供給を制限した場合の根鞘の生態の差異及び水中における小麦品種の椴 耶の性状とそれらの耐湿性の強弱との関係,水稲品種の最高種子発芽温度附近における根鞘の性状とそれらの地理的 分布との関係を追究したものである 本研究遂行に当′=〉て.当学部植物病学研究墓教官各位より胚の呼吸に閲し実験上種々な便宜と指導を与えられたこと に対し謝意を表す Ⅱ 実験材料および方法 (1)空気の供給を強度に制限した場合の禾穀類10種作物の根鞘の性状に関する実験 材 料:種 類 品 種 名 種 類 品 種 名 水 稲 中 神 力 とうもろこし Longfellow 大 麦 群 益 も ろ こ し 苛もろこし 小 麦 珍 子 き び し ろ き び え ん 麦 AmeIican こト ぇ Crydesdal あ わ ら い 麦 ProfいHeinrich 鮮号 ︹∪ わ 朝 あ 方 法:250cc容景のエレンマイヤ−フラスコに50分間煮沸した水道水を満たし急速に冷却,種子を入れ,流動 パラフィンを水面に浮べた.. とうもろこしは25粒宛,その他は50粒宛2区制乃至4区制とした. MinesotaGerminator(185・−27Oc)で発芽歩合は10日で〆切った..標準として空気の供給の充分に行われる発 芽床の場合を作った巾 根網島は席被外紅出た部分の長さを測定したが,生育中良大伸長をした時のものを表示した. (2)小麦品種の井戸水中における根鞘の性状に関する実験 材 料:小 麦 耐湿性強乃至精々強 農林72号,新中島 耐湿性謁乃至梢々弱 埼玉27号,ヒラキ小麦 方 法‥250cc入りの・エレンマイヤーーフラスコに簡易水道水(井戸水)を満たし,1個20粒宛4区制とした.空 気の供給を充分にした標準区を設けたり 水中溶存酸素測定はWINXlER法によったい(北大編:植物生理学実習(4)による) (3)水稲品種の種子発芽叔高温皮附近における根鞘の性状に関する実験 材 料:水 .稲北輝噂品嘩
早生錦,挙光,白光香川大学農学部学術報告 址00 内 地 品 種 朝軋香川箪乳濁卿0号 印 度 品 種 り Tadukan,Karalath,Charnack 方 法‥根鞘が発芽に際し種被を破って出現する歩合を中心として’比較した関係上,粗ほ実験者手前丁寧に1
J 粒宛手で脱穀し,粗の脱穀による玄米の掛傷を極力避けた.
420cを標準とする定温器坤の発芽試験器で行った. 胚の呼吸の測定はWARBURG検圧計で温度420Cで測定したが,呼吸宴と水温の温度差をなくするため空振りを充 分に行い,冥験胡料を入れない検圧計によっで気圧の変化による補正な行った (吉川外編:ワールプルグ検圧討(16)による) Ⅱ 実 験 成 績 筋2表 禾穀類作物の根間島比較(192■7) 第1表 禾穀類作物の根鞘出現歩合の比較(1927) 警監禁㌣1彗蕊戸 作物 名l品種 名】煮守炊中1塞′敷中 作 物 名l品 種 名 中 神 力 朝 鮮 白き び あわ1D 骨 箱もろこし Lo叩珂】0㌣ 珍 麺 群 益 Ame工ican Clydesdal Prof\Heinrich 水 稲 ひ ぇ き び あ わ も ろ こ し 1・弓0 1・42 1..52 2い20 2い55 こ ろ も スノ と−小 大 麦 え ん 麦 ら い 麦 備考(1)稲の根鞘は外胚葉が大で両者の境界が当時ほ 明白ならず測定しなかつた (2)水中発芽では何れの作物も本葉,種子根は伸 長せず,とうもろこし及び小麦では根鞘出現 のみが見られた.子静間虹楓 ひえのみ異常 仲良した 郡5表 水中の小麦輝子発芽時の溶存酸素鼠の琴化(mg/1) A 1955 B 195る 備考(1)標準区(空気中)では.2品種とも発芽良好 (21耐湿性の検定は.鳥取県農業試験場において行 った成績 備考(1)標準区では5品種ともに発芽良好 (2)耐湿性の強弱ほ池田利良等(・1)の検定結果匹よる 節4表 種子発芽最高限界附近紅おける根廊出現歩合の比板(19る0) 4 20 c、区 措 、蹄 后 日 5′00 C 区 置 床 眉 日 2 11 】 2
70nU 9nUO 011 12 朝 風 香 川55 号 農林10 号 ′074 124 88nU 999 0nU︵〓r OOnU・ 111 内 地 TJadukan Kar・alath ChaInaCknUO5 nU99 0nU4
nUnU9 J﹁り1 nUO′0 ︵UnU07
′0〓JnU
989 0nU7 099
印 度
備考 標準区においては置床2EJ后において種子根は何れも根鞘を破って出現したが,高温区では5日后も 碍子根は根鞘を破って出現せず
101 第13巻第2号(1962) 1 2 5 4 龍 床 后 日 数 第1図 水中における根鞘出現歩合の 品種間差異(195る) 〟1/50mg 〟1γ50mg 1 2 5 4 5 る 苗 床 后 時 間 第ち図 乾燥種芋及び420cに.12時間おいた胚の高温(420c)紅おける酸素吸収経過(19朗) Ⅳ 実験成績の考察 根鞘の異常環境下の研究として西村(7)ほ粟の種子を水中発芽させると空気中の場合に比してよりよく伸長すると し,えん麦についてNoRST・OG(10)ほ酸素供給の少ない場合紅は根糊毛は形成されないが,板糊がよく伸長することを 示している。.野田(1927)ほ京大農学部において佐々木番博士の指導を受けて,煮沸水を速かに冷却した中で禾穀類 の1D樺の作物梯子について発芽を行った処上根鞘の性状は作物の種類によつて差が認められた 即ち根鞘が種被を破って出現する歩合ほ,水稲及びひえで最毎高く,きび,あわ,もろこしは稽々高く,とうもろ
102 香川大学農学部学術報嘗 こしでは44%,小麦では僅かに占%の根鞘出現歩合を示し,大麦,えん麦,らい麦では全々出現が見られなかった. 西村,NoRSTOGの実験よりも酸素供給制限の程度の大なる条件 ̄ ̄Fのために水稲,ひえのほかの作物では板鞘の異 常伸長が見られなかった. 其の后酸素の供給制限を緩和すると麦頬で酸素供給の充分な場合に比して伸長のよいこと,異常な伸長を起すのは 根鞘細胞の増加でなく個々の細胞の膨大伸長によること,及び水稲では根鞘は外胚柔との境界がよく判定し得なかっ たが19る0年報告(8)で,酸素供給をN2ガスで置換して酸素の供給制限を強くすると税関の異常伸長を確認した… 沼沢に起原をもっと考えられる水稲,及びひえが酸素の供給の強く制限される環境で根哨がよりよく伸長するこ と,とうもちこし,小麦で根鞘出現歩合の少ない板鞘の先端のみが僅かに種被を破って出現するに過ぎず,何れの作 物でも本葉,種子根ほ殆んど生育を行わないことが明らかになった.. 根鞘は空気(酸素)の供給を強く制限された場合最も出現し易き器官であること,根耶出現可能な供給制限程度, 根鞘の異常伸長を起す供給制限の限界は作物の種類匿よって異なることを明らかにするに至った. 佐々木(11)は空気の供給を制限した場合子葉鞘がよく伸び,本来と種子根は伸長しない稲の発芽を異常発芽とされ たが,子葉鞘出現以前において−根鞘の異常伸長が起るが,このような発芽も異常発芽と云い得るであろうー. 次ぎに酸素供給制限を緩和した場合即ら水中溶存酸素鼻mg/15..占占乃至5.d8の水中発芽で小麦品種の発芽を行つ た処,根鞘出現速度に品種による遅速が明らかに認められた空気中の発芽でほ供試品種は根鞘出現歩合が何れも高 く,その遅速ほ認められなかった. 従来麦類の湿害を起すメカニズムについては種々検討されて来たが,山崎川)の研究により冬期湿害と春期湿害は 区別して考察することが明らかになったが,土壌水分過多による障害として−,板の呼吸障害は原因の一つとされてい る麦品種の耐湿性の強弱と碍子発芽の期間に消費する酸素鼠の多少との問紅ほ密接な関係のあることは既に山 田(H),原田(β)等により知られて小る..然しこれらの場合は種子根が生育し得る程度の酸素供給下であるが,根鞘のみ が出現し得る程度の場合は検討されていない 本実験では根鞘のみが仲島し得る程度の井戸水中の種子発芽で野田等が鳥取県農業試験場において行った耐湿性特 性検定で強,弱と判定した品種と池田(1)等が強弱程度を検討された合計4品種の場合ほ耐湿性が強乃至梢々強と判定 された品種ほ弱乃至梢々弱と見られた品種に比して,種子発芽中の酸素の消費量は少なかった. 耐湿性の強乃至梢々強い品種は井戸水中の発芽で根耶出現歩合が比較的高い関係にあることを示したい 次ぎに水稲における種子発芽について井上(2)は多数の品種を用いて,最適,最高,最低温度を詳細に研究された が,松田(5)は最低発芽温度附近において産地を異にする品種間に発根歩合において差異があり,寒冷地の品種が低湿 においてその歩合の高いことを明らかにされている. 叉海野(1S)は特に高温,短時間処理による発芽障害ほ.寒地産のものが最も大で,暖地のものがこれに次ぎ,台湾の ものは障害の少ないことを示されている. 本実験でほ42aCを標準とする高温 ̄Fの種子発芽で玄米状態にした場合,北海道の品番は根鞘出現歩合が最も低く, 内地のものは中イ立で,印度産のものは板哨出現歩合が最も高く,500C標準の場合と大差がなかったり 尚このような発芽では根鞘部(外胚葉を含む)が出現したあと子葉鞘が櫻か紅仲尾する個体な見たのみでその他の 器官の生育は極めて遅々とした発芽型を示した.. 最低発芽限界100c附近で玄米発芽を行った処,置床后2週間,5週間において栄光(北海道)は根鞘出現歩合そ れぞれ19%,95%を示し,農林10号(内地)ほ高温の場合と反対に,8%,89%と栄光の場合よりも低かった.置床 后5週間に至るも種子根は出現せず最高温度附近におけると同様な発芽型を示した. 正常な温度では水稲の品種間に発芽の遅速の起ることはしばしぼ認められるが,高橋(12)ほ乾煉種子から胚と胚乳 を分離して,胚と胚乳の呼吸速度,物質代謝の速度を比較した処,種子発芽の早い品種は遅れる品種に比し,それら の速度が特に胚において比較的迅速に行われていることを明らかにしたり 本実験では乾燥種子から胚を分離したものと420cに12時間発芽試験器発芽床上に置床したものから胚を分離し, 酸素の吸収速度をWAR8URG検圧計で420cで測定した処,根哨出現が遅れた北海道の栄光は内地の農林10号の場合 に比し測定る時間の間において,胚の呼吸速度は遅れた.根鞘出現の遅速と胚の呼吸の速度との間には密接な関係を 示した‖ 以上により異常環境下の種子発芽で板鞘の性状から考察すれば種類及び品種間の変巽が大で奉ること,小麦品稗の
第13巻第2号(1962) 103 耐湿性の強弱,水稲の地理的分布との間に密接な関係のある場合のあることが判明した 最近中山(¢)は,種子発芽に関する多数の研究を引用し,発芽生理を精しく述べられているが,根闇に対して:ほ何等 触れてはいない 根鞘の異常環境における研究は品種の実用的特性の解析の上において,発芽の分解的研究の上において志義をもつ ものであり,更に品種数を増加し検討すれほ育種上においても,特性検定の−・方法として一発展の可能性を有するもの と考察するものである。 Ⅴ 摘 要 1927年の実験は京都大学虚学部で行ったもので1955年からの実験は香川大学農学部で施行したものである 以上の実験で得た結果ほ次のようである (1)禾穀類の用種類の作物を煮沸した(急速に冷却,酸素の供給を可及的に制限)水中で種子の発芽を行うと大な る差異が生じた 即ち沼沢に起原をもっと認められている水稲,ひえでは根聯が程被を破って出現する歩合が最も高く,黍,粟,筍 黍の場合ほ之等に次ぎ,玉筍黍は根鞘出現歩合ほ44%,小麦は4%に過ぎず大麦,えん麦及びらい麦ほ根鞘が仝々出 現しなかった (2)小麦種子を井戸水そのまゝ(水中溶存酸素鼠5・るる−5.‘8)の下では,根鞘出現歩合は高くなったが耐湿性の強 いとされる農林72号と新中島ほ耐湿性の弱いと認められるヒヲキ小麦,埼玉27号の場合粧比較して,憾瀾出現が迅速 且その歩合は高かった. 根鞘が出現する発芽初期に至る迄の酸素の消費鼠ほ.耐湿性の強い品種は弱い品種に比べて少なかった (3)水稲の玄米を発芽最高温度限界附近420cにおくと北海道の5品種は根鞘出現が抑制された.内地産の5品種 の根鞘出現歩合は50−45%を示したが,印度の5品種その歩合が高く,r500Cの場合と殆んど同様であった 少なくとも供試した品種の範囲内でほ水稲品種の地理的分布と根鞘の性状との問にほ密接な関係が存在した 乾燥種子と420cに12時間おいたものから分離した胚の占時間における呼吸速度は内地の農林10号が北海道栄光の 場合より迅速に行われた‖胚の呼吸の速度は根鞘の出現と関係があるようである 引 用 文 献 (1)池田利点,東駿次,川出武夫,西郷昭三郎:東海近 (9)−,−:仝上,29,225(19占1) 敬農試報,栽培部,(1),21(1954)・ (1α NoRSTOG,K・J・:0肋.J.5ぐ壷\,55,240(1955ト (2)井上重陽‥日作紀,7,2CO(1955) (11)佐々木喬:農学会報,(288),4る1(192る) (3)原田 昇:仝上,25,る0(1954) (12)高橋成人:東北大農研弟,7,1(1955) (4)北大理学部植物生理学教室:植物生理学実習,155,(13)海野元太郎:日作紀,15,211(1944) 東京,養賢堂(194る) n蔚 山田登:最近の農巣技術,79,東京,養賢堂(1949) (5)松田清勝:日作紀,2,2る5(195D) 個 山崎伝:農技研報,B,(1),1(1952). (6)中山 包:発芽生理学,1,東京,内田老鶴圃(19 (摘 吉川春寿,小倉安之,関根魔光,森田茂広,高橋帝 劇). (編):ワールプルグ検圧計,15占,東急 南江蛍 (7)NISIiIMURA,M∴一Jα♪・JりβoJい,1,55(1922). (195占). (8)野田愛三,林甚太郎:日作紀,29,る5(19占0)u
香川大学虚学部学術報告
Studies on the coleorhiza of cereals
V 曾he nature of cbleorhiza under abnormalconditions of seed germination
Aizo NoDA andJintaIO HAYASHI
104Surn血ary The畠ⅩPeriment of1927was held at the F左culty of AgricultuIe,Kybto University and the experiments from1955to19占1were heldin the Faculty of Agriculture,Kagawa Univer岳ity.
Results obtained a工e aS follows:
(i)Seed germinaモion oflOcropsofcerealsin once,boiled water(reduceddissoIved oxygen conte甲t)
Were Very different one another.Paddyrice and Sawamillet,Of which oIigins are considered to bein a lTlOOrland,gaVethehighestp甲・CentageOfcoleorhizaeme!genCe・Commonmillet,Italianmi1let and Sor・ ghum camenext to the above2cropsThe emersion of coleorhizawas44%inIndian corn and only牛%
ipWheat..Barley,Oat,and Rye did not emerge the coleorhiza at all.
(亭)Vhentheseedsofwheat wereplacedin wellwater(amountofdi9SOIvedoxygenis from5J56to
5.68mg/1),the emergence of coleorhiza becamehigherAs for the time of emergence of coleorhi?a, WheatN6rinno・・72andShinchunaga,チeSistantvarietiesofsuperabund?nCeOfsoilmoisture,WeIeearli由 than non−reSistant varieties,HirakiKoml】giand Saitama noh27h Amounts of oxygen consumed during tth占early stage ofseedgerrhination,Whenthecoleorhizaemerged,WereSma11erintheIeSistantv.arietie9
thanin the non・reSistant varieties
(3)When
cole6ihizaemergencein5varities of鱒OkkaidowasgreatlyIeSt!ained,While5varietiesof fIonshushowed
50to45percentofthecoleorhizaemergence・Butthecoleorhizaemergenceof5vaIietiesof7ndiaat420C
was almost as high asin the case of5DOc‖Thusitfo】lows that a close relationlies between the geogra・ phic distritbution ofriceand thenatuIe Ofcoleorhiza atleastin the varieties mentioned abovelTherespi・
Iation rates ofembryos obtainedfromdryseedorfromseedbeddedfor12hムurs at420c.,Were faster in Norin no。10(Honshu)thaninEiko(Hokkaido)atleast during thefirstsixho甲S・The velocityof
respirationof emb事yOis seemed to be closely related with thespeed of coleorhiza emergencelIOmtheseed
C叫