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相互作用に着目した「比較・検討」段階の授業構想とその実践的検討

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(1)

相互作用 に着 目した「比較・検討」段階の

授業構想 とその実践 的検討

数学科教育教室

教学科教育教室

ShOZO SASADA,lVTasahiro TAKAKI*and夕

roshiaki YABE

は じ め :こ 算数・数学科 の問題解決指導で は、授業がい くつかの学習段階に区分 されて展開 してい くが

,

と りわけ

,自

力解決 に委ね る段階 と教師 と子 ども

,あ

るいは子 ども同士 による集団で高めあう段階が 重要であると考 えられている。 しか しなが ら

,著

者 らが実践 した り

,見

聞 した りす る多 くの経験 を ぶ り返 ってみて も

,集

団で解決す る段階が豊かに展開 された例 は極 めて少 ない。問題 を工夫 し

,自

力解決の時間 を十分 とって子 ども達 に考 えさせ

,多

様 な解決がで きるようにす るところまで は比較 的よ く実践 され

,成

功 もしている。 しか し

,そ

の後

,子

ども達の考 えをどのように生か し

,高

めて い くか ということになると

,こ

れ は実際 には難 し く

,教

師の力量 によるところとされてい る。 自力解決 を主 とする段階を問題解決指導の前半部分 とし

,集

団による解決 の段階 (この部分 を以 下「比較・ 検討」段階 と呼ぶ ことにす る

)を

後半部分 とすれば

,問

題解決の指 導で は

,上

述の よう に後半部分 の授業構成が難 しく

,そ

の展開 もうま くいかない。著者 らの現場での経験 (実践・観察) を踏 まえなが ら

,そ

の失敗 の原因 を探 ってみると次の ような実態が浮かび上が る。 ① 自力解決の過程で用い られた子 ども達 の考 えのうち教師の意図にあった ものだけを発表 させて 終わ る。 ② 一応子 どもに発表 させるが

,そ

の直後「みんなよ く考 えたね。で も

,…

…君 の考 えがいいか ら, この考 え (やり方

)で

やってみましょう。」 あるいは,「今 日は

,時

間が足 りないね。 い ろい ろな 考 えがでたけれ ど……君の考 えです るといいね。」な どといって

,他

の考 えは無視 して授業 を終わ る。 ③ 誤答や素朴な解 き方 (どちらか というとレベルの低い考え

)を

発表 させておいて

,教

師はそれ らの考 えに対 して何の解釈 も加 えずに,「もっと他に考えた人はあ りませんか。」などと

,教

師の 意図にあった考えが出るまで子 どもに聞いかけ

,や

っと出ると「 これはよい考 えですね。」といっ て授業のまとめをして終わる。 ④ いろいろな考えを発表させ,「どの考えがいいでしょう。」 と聞 き

,教

師の意図している考 えと *鳥取 県船 岡町立 船 岡小学校 教諭

Department of h/fathematics Education,Faculty Of Education,Tottori l」 niversity

*Funaoka Elementary School,Tottori Prefecture

(2)

笹田昭三・高木政寛・ 矢部敏昭 :相互作用に着 目した「比較・検討」段階の 授業構想 とその実践的検討 違 っていれば,「ほん とにそれでいいかな。

Jな

どといってさらに聞いかけて

,教

師の考 えに誘導 す る。 これ らに共通す ることは

,教

師が意図 した方向に授業 を進 めてい くことに気 をうばわれ

,あ

まり にも結論 を急 ぎす ぎている。つ まり

,ゆ

とりがない とい うことである。 このゆ とりがない ことの根 拠 には

,一

つに

,子

ども達 の思考・ 論理 に対す る教師の洞察力 と把握力が欠 けてい る点があ り

,も

う一つに

,算

数・ 数学の学習 における集団の相互作用の重要性 と「比較・ 検討」段階 にお ける相互 作用の位置付 けについて

,教

師が確かな認識 を持 っていない ことが挙 げられ よう。 「比較・ 検討」段階 は

,自

力解決 の過程 で生 み出された子 どものさまざまな考 えや解決 の し方の 中か ら「 よ りよい考 え」「よりよい解決」をみんなで見つけ出 してい く過程 であ り

,子

どもの自主的 で協力的な活動が望 まれる場である。つ まり

,数

学的な価値 の自主的・協力的な追究段階であ り, また

,子

どもの思考 を深 め

,高

める とい う算数・ 数学の授業 の中で最 も大切 な段階で もあると考 え る。 このような「比較・ 検討」段階にふ さわ しい子 ども達 の主体的

,協

力的な学習活動 を展開 して い くためには

,ど

うして もそれ らの活動 を促す教師の援助活動が必要であ り

,ま

た「士ヒ較・ 検討」 段階 における授業構想 を明確 にしてお くことが重要である。 本研究で は

,発

問。応答過程 に見 られ る相互作用 に着 目し

,子

ども達 の追究活動が よ り深 まる「Iヒ 較・ 検討」段階の学習の場の構成 を追求 した。相互作用 を「コ ミュニケーション

Jと

「ネゴシエー ション」の 2つ に分 け(1ち この 2つ の概念 を「比較・検討」段階に位置づけることによって

,そ

の段 階の授業構想 を確立 した。また,「共有プロセス」の概念(りを援用して,「比較・検討」段階における 授業の記述 と分析のための枠組みを構成 した。 さらに

,こ

れ らの考えにもとづいた授業の計画 と実 践 を行い,「共有プロセス」の枠組みを活用 しての実践的検討を行った。

│.算

数・ 数 学 の授 業 に お け る集 団解 決 の重 要性 問題解決の過程 を①問題の理解 (問題意識・ 問題把握

)②

解決計画の開発③計画の実行④比較・ 検討⑤適用 。発展の段階で考えることにすると

,

とりわけ①②③⑤は子 ども一人ひ とりの自力解決 の場であり

,④

は教師 と子 ども

,子

ども同士の間でよりよいものを追求 してい く集団解決の場 とい えよう。集団解決の場 は

,子

ども一人ひ とりが自力解決の場で得た考えを出し合い

,そ

れをもとに して話 し合 う場である。つまり

,一

人ひ とりの考 えを比較・検討 し

,数

学的な価値 を追求する場で ある。 このような「比較・検討」段階の集団解決 (「練 り上げ」 と表現されることもある

)の

重要性 を心理学や人間関係の育成の面から考えてみたい。

1.心

理学的立場か らの集団解決の重要性 スケンプは

,生

徒相互間における討論のもたらす利益 を「数学学習の心理学」の中で述べている0。 第一に自分の思考を単に伝達するという行為が

,思

考過程 を明確にする助けとなっている。つまり, 言語による適切な記号化 (口頭で述べる

,あ

るいは説明する

)や

その他の記号による記号化 によっ て自分の思考過程 を意識化するというのである。第二に討論には

,単

なる発語思考以上の価値 とし て「他の人々の考 え方 と自分の考え方 とを関係付 ける因子がある。」 ことを指摘 している。つまり, 自分の考 えを他者に話すことによって,「自分のシェマと他者のシェマの違いが どこにあるかを悟 る (「他者の視点か ら物 を見るJ)台ヒカをもたらし

,そ

のギャップをうめるにはどんな説明が必要 とな るか も知 らせて くれる。」第二にお互いに思考の内容 を高め合 うというのが討論のもた らす利点であ

(3)

鳥取大学教育学部研究報告 教育科学 第 33巻 第

1号

(1991) 3

る。 さらに興味深い ことは,「書 く」ことに言及 している点である。討論 の過程で は

,黙

って相手 の 考 えに耳 を傾 けることや紙 と鉛筆つ まり「書 く」 ことが

,後

になってアイデアを再検討す るのに役 立つ こと

,ま

,簡

単 に意見 を話すために助 けになる とい うのである。 これ は,「書 く」ことが

,討

論 を活発 にし

,意

義 あるもの とす るために大切 な役割 を演 じているとい うことである。 以上 のことか ら考 えると

,ス

ケンプは

,次

のような子 どもの活動 を引 き起 こす契機 としての討論 の重要性 を述べているもの といえよう。 ① 自分の考 えた筋道 を反省 した り評価 した りす る活動 ② 自分 と同 じ考 えや似ている考 えを比較 しなが らいつで も使 えるように一般化 してい く活動 ③ 相違点 を探す ことで問題意識 を持 ち

,そ

れぞれの考 えを検討 してい く活動 ④ お互いの考 えをよ りよい考 えへ と高め合 ってい く活動 このような思考 の伝達や討論 の重要性 について

,ピ

アジェもまた

,次

のように述べ

,子

どもの論 理の発達 にとって社会的相互作用が絶対必要であると主張 している。 「他人 との思考のや り取 り及 び協力な くして は

,個

人 は彼 の操作 を一団にして密着 した一つの全 体 とす ることは決 してないであろう。」 “ ) また

,ピ

アジェの構成主義 の立場 をとる

C.カ

ミイ も次のように述べている。「論理一数学的領域 においては

,観

点 の衝突が

,子

供 の推理力 をしだいに高次のレベルヘ と高 めるのに役立つのである。 それ故 に

,仲

間 との相互作用が最大限に尊重 され るべ きである。」。) 構成主義の立場で は

,本

,知

識 の獲得過程 においてそれほ ど伝達 に重 きをおいてない。しか し, 子 どもの理解や論理の発達 において は

,集

団による思考 の交流が重要であ り

,不

可欠である として いる。 これ ら心理学 の立場か ら得 られた集団解決 の重要性 に関す る考 え方 は

,子

どもの理解 とい う 面か ら「比較・ 検討」段階の展開 に貴重な示唆 を与 えて くれ るものである。

2.集

団解決 としての 「比較・ 検討」段階の重要性

(1)望

ましい人間関係の形成 としての「比較・ 検討」段階 算数科の指導で は

,算

数 の知識

,技

能 に関す る文化遺産 の効率的な伝達及 び創造性 の育成 と同時 に人間教育 の立場か ら

,共

同学習での望 ましい人間関係 の形成 をね らっている。自力解決の場で は, 一人 ひ とりの子 どもの程度 の差 こそあれ

,子

ども達 は自分 な りの考 えを持 ち

,問

題 を解決 しようと 活動 を行 っている。 しか し

,一

人で考 えることだけで は

,そ

の解決 は必ず しも十分 とはいえない。 算数の授業の場 を通 して

,お

互 いがいろいろな考 えや意見 を自由に出 しあって議論 し

,そ

れ らの考 えを生か し

,よ

りよい解決方法 を学級 のみんなで協力 し合 いなが ら創 り上 げてい くことが大切 にな って くる。集団の解決 は個性的な一人ひ とりの子 ども達 による協力的かつ相補的な交流のよさを生 か した学習活動である。 コープラン ド

(R.W.Copeland)│ま

ピアジェの社会的相互作用の必要性 についての文 を引用す る 中で,《協力

"に

ついて次のようにふれている。 「《協力"と い うことばは注 目に値するものである。競争 よりむ しろ学習過程 における協力 に強調 がおかれ るべ きである。」。) 集団解決 としての「比較・検討」段階 は

,子

ども達 の協力的な学習 によって成 り立 ち

,望

ましい 人間関係形成 の場 として も重要 な意味 を持 っているといえる。 鬱

)数

学的な態度・ 考 え方の育成 の場 としての「比較 。検討」段階の重要性 集団解決の場で は主 にどのような数学的な考 え方 。態度が働 くことになるのであろうか。 自力解

(4)

笹田昭三・高木政寛・矢部敏昭 :相互作用に着 目した「比較・検討」段階の 授業構想 とその実践的検討 決する過程で類推や帰納 によって答 えを求め

,そ

の後友達 の考 えを聞いて演繹的に考 え直 した り, よりよい解決 の方法 を見つけるために一般化 した り

,個

々別々の解決の仕方 を同 じもの として統合 した りす る活動 の場が,「比較・ 検討」段階

=集

団解決の場 となる。 この ことを踏 まえて

,特

に「比較・検討」段階 とかかわ りの深い数学的な考 え方・ 数学的な態度 を片桐重男氏 の分類0を参考 にして整理 してみると次のようになる。 数 学 的 な 態 度 数学 的 な考 え方 ○筋 道 のた った行動 を しよ うとす る。 ○ 内容 を簡 潔明確 に表現 しよう とす る。 (目的 に照 らして

,適

切 な もの をさが そ う とす る) ① よ りよい もの を求 め よう とす る。 (思考 や労力 を節約 しよう とす る こと) (よ りま とまったす っ き りした もの に しよう とす る こ と) (異な った新 しい もの を求 めようとす る こと) (よ り確実 な もの を求 め ようとす る こと) (よ り美 しい もの を求 め よ うとす る こと) 演繹 的 な考 え方 一般化 の考 え方 統合 的 な考 え方 発展 的 な考 え方 集団解決の利点 を生か した「比較 。検討」段階 は

,以

上 のような数学的な態度・考 え方の育成 の 場 として も重要である。 H。 相 互 作 用 に着 目 した 「比 較・ 検 討 」段 階 の授 業 構 想 イギリスのコッククロフ ト

(W.H.CockcrOH)レ

ポー トでは「 どの段階においても

,算

数 ,数 学の指導では

, 1つ

の要素 として教師 と子 ども

,子

ども同士の討論がある。」。)と述べ

,算

数・数学 の授業での討論の重要性を挙げている。また

,ピ

リエー とシュワルツェンベルガーらは算数・数学 での討論 (Mathematical discussion)を 次のように概念規定 している。。) ① 意図をもった会話であること。 ② 討論の内容が数学的な内容

,あ

るいはその過程 によって現れて きた事柄であること。 ③ 話 し合いが参加 している児童 。生徒にとって有益であること。 また

,そ

の中で

,児

童 。生徒に よる本質的な貢献があること。 ④ 相互作用があること。 ここで強調されていることは

,数

学的内容の理解に関わる相互作用である。 この相互作用に着 目 して,「比較・検討」段階の授業 を構想することとした。

1.授

業における相互作用 算数・数学の授業の中で

,

とりわけ「比較・検討」段階は

,教

師 と子 ども

,子

ども同士が各個人 の知識や経験に基づいて創 りあげた意味やアイディアを理解 し合い,発展させることが中心になる。 子 ども自らが考 え出した解決の方法や結果などの妥当性・有効性についての検討 は

,他

者 (教師,

(5)

鳥取大学教育学部研究報告 教育科学 第 33巻 第

1号

(1991) 子 ども

)と

の意見交換 (討論

)に

よって明 らかにされ

,さ

らに発展 してい くことが多い。 一般的 に相互作用 は

,二

人 もし くはそれ以上 の人が

,互

いに自分 自身の経験・知識 をもとにして, 他者 の行為や知識・ 経験 な どを解釈 し

,さ

らに他者へ働 きかけることと捉 えることがで きる。つ ま り

,授

業 の中での相互作用 は

,他

者 (教師

,子

ども

)の

行動 を自分な りに理解す ることと

,さ

らに 自分 の行動がその ことによって変容 す ることをもた らす過程である。実際

,授

業 を見 るとき

,教

師 と子 どもが 自分 自身の経験・ 知識 を考慮 しなが らお互 いに文脈 を作 り

,そ

れぞれがお互 いに働 きか けを行 っている。すなわち

,教

師 と子 ども

,子

ども同者 は発問 。応答 といつた直接的な関わ りはも ちろん

,間

接的にも関わ りなが ら相互作用 を行 ってい ることになる。問題解決 の過程 で

,自

らの考 えを変容

,発

展 させ るために必要かつ有効 な場 としての「比較・ 検討」段階 は

,こ

うした相互作用 の繰 り返 しの総体 として考 えることがで きる。 したがつて

,こ

の相互作用 とい う視点か ら授業 を考 察す ることが

,子

ども違の主体的な活動 を促す授業 を構想す ることに役立つ と考 える。 2.「比較 。検討」段階の授業構想 構成主義 の立場 に立つ研究者達 は

,学

級 における教師 と子 ども

,子

ども同者 の相互作用 を重視 し ているが

,こ

の考 えに通 じるビシ ョップ(A.J Bishop)は相互作用の方法 として

,活

動(Activity),

コ ミュニケーション(COmmunication)及 び,ネゴシエー ション(Negotiation)を 取 り上 げている。(1° コ ミュニケーシ ョンとは個々の子 どもがお互いに自分の持つアイディアや意味

,解

決 の方法 な ど を説明 した り

,解

釈 した りす ることによって

,そ

れ らを共有する相互作用の方法であ り思考の交流 ともいえる。 また

,ネ

ゴシエーシ ョンは

,共

有 された意味やアイディアをさらに発展 させ る相互作 用の方法であ り

,教

師 と子 ども

,子

ども同士の間で行 われるや り取 りで はあるが

,あ

る目標 に向か って相互 に関わ り合 うことを強調 しているものである。 そして

,教

師が適切 に授業 をコン トロール すれば

,教

師 と子 ども

,子

ども同士のネゴシエー ションを助 けることがで きる と主張 している。つ まり

,教

師が コミュニケー ションを制限す るような ことがあれば

,意

味やアイディアの共有 もで き ず

,

もち ろん

,ネ

ゴシエー ションも起 こり得 ない とい う意味で

,教

師の授業 に対 す る構 えの一つ と して言及 しているとも受 け取れ る。 さて

,以

上のようなビシ ョップがい う「コミュニケーション」 と「ネゴシエー シ ョン」 とい う概 念 は

,授

業 における相互作用 を考 える上で も,「比較・検討」段階の授業構想 を確立す る上で も極 め て重要な概念であるといえる。 また

,人

間が

,主

体的活動で個人的な経験 。知識 を生み

,ま

たそれ を他者 との交流の中で公的な経験・ 知識 に広げ

,さ

らに科学的な経験・ 知識 に高めてい くという学 習プロセスで は

,ビ

ショップのい う「活動」「コ ミュニケーション」「ネゴシエー ション」が基本的 かつ重要 な役割 を果たしているのである。 「比較・ 検討」の段階が重要だ といわれなが ら

,実

際 には

,算

数・ 数学の授業 の多 くはこの段階 が実 に貧弱 に展開されてい る。 その原因の多 くは

,ビ

ショップがいうこの2つの概念が教師 によっ て明確 に意識 され

,区

別 されていない ことか らくるもの と考 えられる。つ ま り

,授

業 の中にお ける 話 し合い活動が,「コ ミュニケー シ ョン」と「ネゴシエーション」の混在 によ り

,そ

の適切 な)頁次性 と交流 の成熟がなされていない とい うことである。 そこで

,授

業 における有効 な相互作用 を生むため

,ビ

ショップの考 えを援用 し

,

これ を「比較・ 検討」段階 に位置づ け

,次

の図式で示 されるような「比較・検討」段階の授業構想 を立 てた。

(6)

笹田昭三・ 高本政党・ 矢部敏昭 :相互作用に着 目した「比較・検討」段階の 授業構想 とその実践的検討

「比較 。検討」 の段 階 活動 (Act ity) コ ミュニ ケー シ ョン

ネブシエー シ ョン (COmmunication) (Negotiation) また

,指

導のあ り方の一方策 として

,吐

ヒ較・検討」段階 を2つのステ ップに分 け

,Aを

「相手 を わか る場」

,Bを

「よりよい解決方法 を見つける場」 とした。 「比較・ 検討」段階の学習が有効 かつ意味あるものにするためには

,A→

Bの

順次性 と各 ステ ッ プ

A,Bに

おける交流活動がそれぞれの意味で成熟 していることが重要である。これ らについては,

3で

論述す る。

3.「

比較・ 検討」段階における話 し合いの観点 と留意点 「比較・ 検討」段階での授業 を展開 してい く上で

,次

の2つのステ ップにわ けて指導 を行 うこと を考 えた。 相手 をわかる場 (それぞれの児童 の考 えを検討する:考えの確か さや根拠の確 認 と理解) よりよい解決方法 を見つける場 (ある観点か ら児童の考 えの相互関係 を検討す る:よ さの追求)

(1)相

手 をわか る場での話 し合いの留意点 相手 をわか る場で は自力解決 した ことの発表 を聞 き

,質

問 をす ることでそれぞれの考 えを理解す ることになる。 この とき

,整

合性 ともい うべ き立場か ら児童の解決が論理的に筋道立 っているかを 調べ る (検討す る

)こ

とになる。指導 にあたっての留意点 をBiShOpとGoffreeの「基本原則」(詳し くは13)に述べている

)を

参考 にして次のように考 えた。 【留意点】 。どのような考 えも認める。 ・ 自分の考 えを図や絵 な どを使 って説明す る。(確かめる) 。自分の解決のもとになっている考 えや特色 を話す。 個 々が構 成 した した意味 や アイ デ ィア (個人 的 な知 識 。経験) 公的知識 。経験 数学 的知識・ 経験

(7)

鳥取大学教育学部研究報告 教育科学 第33巻 第

1号

(1991) 7

・ も とにな ってい る考 えに矛盾や誤 りはないか検 討 す る。(質問 す る) 。意見 とそれ を言 つた人 とを切 り離 して考 える。 修

)よ

りよい解決 方法 を見 つ ける場 での話 し合 いの観 点 と指導上 の留意点 よ りよい解決 方法 を見 つ ける場 は

,児

童相互 に認 め られた考 えや修正 された考 えを

,そ

れ ぞれ の 観 点 と関係付 けなが ら検 討 を加 えてい く場 で あ り,よ さの追求 を してい く場 で もあ る。したが って, 関係付 け る観点 はよさを追求 す る活動 (数学 的 な態度

)を

起 こす もので な くて はな らない だ ろ う。 その意 味 で次 の よ うな観 点 と留意点 を挙 げた。 【関係付 ける観点】 ・ わか りやすいもの (明確性)一―――より確実なものを求めようとすること 。より簡単なもの (簡潔性) 一―一思考や労力を節約 しようとすること ・広 く使 えるもの (一般性, 発展性) (他の場合で も考えがあてはまる) (いつで も使える) 【指導上の留意点】 ・ 出された考えの相互の関係を吟味する。(共通点

,相

違点) 。例 を挙げて説明する。 (類似な例

,身

近な例

,あ

てはまらない 。成立 しない例

,特

殊な例) は

)ネ

ゴシエーションのための基本原則 算数・ 数学の指導にネゴシエーションを取 り入れるために学級での話 し合いのルール と同様 なネ ゴシエーションのための「基本原則」について

,Bishopと

Goffreeはっぎのように述べている。(11) ① 自分の意見をみんなに述べ』 ②他の人にも意見を述べる機会を与 えよ。 ③他の人の意見 を尊重せよ。 ④ もしだれかの理解ができなければ質問せよ。 ⑤ もしある意見が何 らかの点で不適切であると感 じたら

,異

議を唱えよ。 ⑥ 自分の意見について理由を述べよ。 ⑦意見 とそれをいった人 と切 り離 して考えるようにせよ。 さらに

,上

の「基本原則」に加 えて

,次

の「指導方略」を与 えている。 ①質問をし

,質

問を求めること ②理由を述べ

,理

由を尋ねること。 ③明快 にし

,明

快にすることを要求すること。 ④類似なことを上げ

,類

似なことを挙げるように求めること。 ⑤記述 し

,記

述するよう求めること。 ③説明 し

,説

明するよう求めること。 ⑦例 を挙 げ

,例

を挙げるように求めること。 算数・数学の問題 を解決 しようとするとき

,教

師や子 どもが これ らの「基本原則」叶旨導方略」 を 意識 し活動することは

,数

学的な経験・知識への発展の機会 をより生 じさせることになる。子 ども 達にこれ らのことを習慣化 させる意味で も指導上考慮 してお く必要がある。

(8)

笹田昭三・ 高木政寛・ 矢部敏昭 :相互作用に着 目した「比較・ 検討」段階の 授業構想 とその実践的検討 III。 「比 較・ 検 討 」 段 階 に お け る相 互 作 用 と共 有 プ ロセ ス の枠 組 み

Hで

,学

習 における社会的相互作用の重要性 に着 目して,「比較・検討」段階の授業 のあ り方 を 考察 した。 この章で は

,学

習 にお ける相互作用 を分析 し,「共有」「共有 プロセス」 とい う概念 を導 入す ることによって,「比較・検討」段階における授業 を記述 し

,分

析 す るための枠組 みを考 える。

1.相

互作用 と共有の概念 最初 は子 ども一人 ひ とりの個人的な経験・知識であって も

,教

室 の中で教師 と子 ども

,子

ども同 士のや り取 りを通 して

,共

通 に認 め られた公的な経験 。知識が得 られ る。 そ して

,そ

れ をもとにし なが ら

,ま

た新 しい何 らかの共通 な知識や経験 を子 どもが創 り出す。 このような授業の場合

,そ

れ が途 中であろうと終 わ りであろうと

,子

ども達 は

,相

互作用 によってお互 いにある程度共通 な経験 や知識 を獲得す る。教師 もまた

,授

業の目標達成 とともに

,子

ども達 との間に共通の何かを捉 えて いるのである。お互 いの経験や知識 にもとづいて判断 し

,共

通 の経験や知識 を創 りなが ら

,さ

らに よりよい ものへ と発展 させている。熊谷氏 は

,こ

の過程 においてお互 いの共通の理解 に着 目す る共 有の概念 を重要視 している。 そしてまた

,こ

の共通 の知識 。経験 をつ くりだす過程 において

,共

有 するということは「次の相互作用 を行 うことが可能 となるような基盤 を確立す ることである。」(1り 捉 え

,相

互作用 を分析 している。つまり

,共

有す ることを相互作用の相 として

,授

業 を考察す る枠 組みを考 えているのである。 このように

,教

師 と子 ども

,子

ども同士の相互作用 を共有 の繰 り返 しとして捉 え

,分

析 の枠組 み を考 えることは

,子

ども達が

,討

論 によって数学的な経験・ 知識へ と高 めてい く授業 を構成 し

,創

造 してい く上で

,発

問や教材分析等の教師の授業 に関わ る行動 に重要な示唆 を与 えて くれ るもの と 考 える。

2.共

有プ ロセスによる授業分析の枠組み

(1)共

有 プロセスの単位 について 熊谷氏 は論文 の中で

,共

有プロセス という概念 を導入す ることによって授業 の基本モデルを構成 し

,そ

れをもとに授業 の分析

,修

正 を行 っている。共有 プロセスを

,共

有が成立するまでの教師 と 子 ども

,子

ども同士の相互作用 として捉 え

,次

の3つの要素で表 し,図 1のように表現 してい る。(1の 共有 しようと目指 しているものを「共有すること iS」 共有す ることに関係付 けられている経験 。 知識 を「同意 の内容 ;r」 そして

,子

ども自身 の経験・ 知識

,ま

たはそれ らを得 る活動が「共有す るときの手がか り ,a」 でぁる。例 えば,「問題解決場面であれば

,あ

る問題が提示 され解決がなさ れ ることを想定す ると

,問

題 の解決の結果が共有す ることとな り

,解

決 の方法が同意 の内容

,そ

し て

,個

々の子 どもが問題へ最初 に とり組 んだ ときの経験・知識が共有す るときの手がか りとなる」(10 としている。 そして

,算

数・ 数学の授業で は

,こ

のような共有 プロセスを通 して

,同

意の内容や共 有す ることの関係が変容 し

,公

的そして

,数

学的経験 。知識へ と変容 してい くと考 えている。 (図1) 共有するときの手がかり 同意の内容 共有すること

(9)

鳥取大学教育学部研究報告 教育科学 第33巻 第

1号

(1991) り

)共

有 プロセスの関係 と分類 熊谷氏 は

,授

業 を記述す る中で

,共

有プロセス を次のように問題構築 プロセス と問題解決プロセ ス とに分類 し

,以

下 の図のように表 している。(15) ① 問題構築プロセス 先行す る共有プロセスがす ぐ後 に続 く共有 プロセスの共有す る手がか りに影響 を及ぼす場合の類 型 を問題構築プロセス と呼び

,先

行す る共有 プロセスはす ぐ後 ろに続 く共有 プロセスで問題 を作 り 出す とい う働 きをしている。 (関係 I) (関係

H)

(関係Ⅲ) 数学的アイディア Sl Sl S2 Sl S2 (関係Ⅲ) Sl S2 ② 問題解決プロセス 先行す る共有 プロセスが

,後

に続 く共有 プロセスの内容 に影響 を及 ば している場合 の類型 を問題 解決プロセス と呼び

,先

行す る共有プロセスが後 に続 く共有プロセスにお ける問題解決 に貢献 して いる。 (関係 I) (関係 Ⅱ) 数学的アイデイア Sl S2 Sl S2 r■ 卜下司 Sl r2日 S2

(10)

笹田昭三・高木政寛・ 矢部敏昭 :相互作用に着目した「比較・検討」段階の

10

授業構想 とその実践的検討 Ⅳ

.共

有 プ ロセ ス に よ る 「比 較・ 検 討 」段 階 の実践 的検 討 実際に授業 (船岡小学校

5年 2組

23名

)を

行い

,共

有プロセスの枠組みで「比較・検討」段階を 記述 し考察 して

,そ

の修正モデルを作成 した。 【単元 と授業の内容】 単元 :面 積(三角形 の面積

)5

問題

BCを

一定 に して点

Aを

図のように

BCに

平行 に 動かすことによってできる 三角形 の面積 を求 める。 (第

1時

)一

般三角形 の求積 を考 えるために特殊化 した直角三角形で考 えてみる。 (第

2時

)直

角三角形 の求積 の仕方で他 の三角形 の面積 も求 めることがで きるか

,そ

れぞれで 三角形 をつ くり検討す る。

1.共

有のプ ロセスを使 った「比較・ 検討」段階の計画 とその視点 授業前 に次のような視点で「比較・ 検討」段階の計画 を立てた。 ・共有す ることは

,教

師 と子 どもあるいは子 ども同士が共有 しようと目指 してい るものであるか ら, 計画の段階では

,授

業 の目標 とそれ を達成す る段階の目標 とを加味 して計画 を立 てた。 ・ 問題構築 プロセスの関係

Sl, S2,次

に問題解決 のプロセスの関係

S3,S4を

考慮 して計画 を試みた。 ・第

2時

において は「直角三角形 の求積方法が一般三角形で も使 えるか。」の検討であるために問題 解決のプロセスの繰 り返 しと考 え

,そ

の枠組 みで記述 し計画 を立てた。 授業前のモデル (三角形 の面積) 【第 1時】 【共有するときの手がかり】 【同意の内容】 【共有すること】 直径 三 角形 の面積 は1∬の ますが30個で30∬ 1∬の ます をつ くる ます の数 を数 える 直 角三 角形 を もう一枚 持 っ て きて長 方形 を作 る 10× 6■2 長 方形 をか く 辺 方 広 長 ヽ る る は す あ 積 と で 面 縦 分 の を 半 形 さ の 角 高 積 三 ヽ 帥 球 胸 直 角 三 角 形 を横 長 の長 方 形 の 形 に変 え る 10× 3 三角形 を分割 す る 直 角三 角形 の面積 は長 方形 の半分 にな る。 長 方形 の面積 は縦 ×横 で 求 め る

(11)

鳥取大学教育学部研究報告 教育科学 第 33巻 第

1号

(1991) 【第 2時 】

2.第

1時の共有プ ロセスによる授業の記述 と考察

1で

の共有 プロセスに従い実際に授業 を行 い

,そ

のプロ トコール をもとにして共有 プロセスの記 述 を行 った。 さらに授業 の考察 も行 った。 次に示すのは

,点

Aを

移動 してで きた直角三角形 の面積 を求める問題で

,自

力解決後 の「士ヒ較 。 検討」段階のプロ トコール とその相互作用の様相 を共有 プロセスを用いて表 した図である。

(1)第 1時

のプロ トコール 【自 授業記録 (12/7);船岡小学校5年 2組 力解決後 の話 し合 い】 久典 くんが困 つていたので,そのことか ら話 しを進 めてみたい と思い ます。 ここは,ちゃん と四角 になっているけれ ど,ここは ちゃん と四角 になっていないか ら数 えれ るところと 数 えれない ところがあって,困りました。 久典君 はどんな考 えをしたのだ ろうか。 久典君 は,ます を数 えてその数 を数 えようとしたん です。 ます と言 うのは何ですか。 1証です。 困 つたの は,なぜですか。 数 え られないか ら。 下 は四角 になってい るけれ ど,上のほうが中途半端 になって しまって数 えるのが うま くで きない。 全部が ま四角の正方形 だった らいいんだ けれ ど,ま 四角 になっていない。 和也君 はそ こで考 えたんです。で は,和也 くんの考 えを聞 きましょう。 T

T

C

C

T

C

C

直 角三 角形 の面積 の求 め方 直 角三角形 A B は   一 一 〓 形 る 2 2 角 き ■ ■ 三 で 6 6 B 般 割 × × + 一 分 8 2 A 三 角形 の面積 は30訂にな る 分割 して移 動 して も面積 は変 わ らない 作 る。三 角形 の底 辺 を横 、三 角形 を分割 して長 方形 を 高 さの半分 を縦 とす る長 方 形 の面積 と三 角形 の面積 が 等 しい 10× 3 (6■ 2)

こ奪絲 冦霞ぢそ薇じて等

長 方 形 を作 る 2

ヽ底辺を横、

組できる。

た る が 積 し い 2 形 面 と て ■ 角 の 縦 つ 6 三 形 を な × じ 角 さ に 10 同 三 高 分 どの三角形 も長方形 の面積 の1/2になっている 長 方形 の面積60∬ 三 角形 の面積60■

2=30

直角三 角形 の面積 を求 めた ときの と同 じ長 方形 の面積 の半分 にな って い る

(12)

C

C

C T C

C

T

T 笹田昭三・高木政寛・矢部敏昭:相互作用に着 目した「比較・検討J段階の

12

授業構想 とその実践的検討 説明 します。(画用紙 にかいた図で)ま四角 になるよ うにかんが えてみて,それが全部 で60個あつたか ら 直角三角形 の面積 を)60cド としました。 質問があ ります。 それ は四角形 の面積 で はないですか。 この問題 は

,三

角形 の面積 を求 めるんだか ら,長方 形 の面積 で はいけない と思い ます。60cぱは長方形 の 面積 です。 和也君 は,この三角形 の問題 なのに, くっつけて三 角形 を2つかいて四角形 にしている。だか ら

,数

が 大 き くなって しまって本 当の三角形 になっていない。 この三角形 の面積 は同 じだか ら,それ を全部合わせ て60とでたんな らこれ を2で割 った ら,これだけ(直 角三角形 の面積)の面積がでて くるか ら,60■

2=

30で答 えは30∬ にな ります。 これで はで きないか ら,全部 出 してみよう,数えら れ るように してみ ようとしたのですね。 lcぱの正方 形 をもとに して考 えようとしていることは素晴 らし い考 えですね。 で も,この ようにして考 える と,いちいちlcばの ま す を作 らない と大変ですね。 もっ と簡単 に求 め られ る方法 はないか を考 えてみたい と思い ます。 (指名 して,説明 を聞 く) ぼ くは

,最

初 に この三角形 と同 じ三角形 を考 えて, 長方形 を作 って,その面積 は 6×10で60証 として, 三角形 の面積 はその半分 だか ら, 2で割 って30証 と しました。 青木 くんの考 えを代わ りに説明 して くだ さい。 ほん とうは,この直角三角形 を求 めたんだか ら,長 方形 の半分 に してい ます。 いいですか。 いいです。 他の考えを聞いてみてほしいんだけれど。 2人 で一 度にでて くるか らよく見て考えて質問して ください。 この三角形のままでは,計算 しに くいか らこの三角 形を半分 に分 けて,さ らに長 方形にしようと思って,こう して,回して長方形にして, 長方形が出 きたら

,後

は公式 を使 えばいいので,ここは6 cmになって,こ漁′の半 分だか ら

3m,だ

か ら3×10で30∬としました。 三角形のままでは面積がでないから,長方形に形 を 変えてみようと考えたんですね。 では,あづささんの考えはどうかな。聞いてみまし ょう。 どうせ,半分 にな るんだった ら,わた しも初 めに, 長方形 の面積 を10× 6で60とだ して,その半分 を知 りたいんだか ら,60■ 2で30∬としました。 もう一度説明 して くだ さい。 このように□囲 で どうせ半分 になるんだか ら,し郷 で もいいか ら, ここで もいヤゝと思 って, 60■ 2で30 としました。 それ じゃあ,長方形 になっているん じゃあないです か。今 は,三角形 だのに,この考 えは,四角形 を考 えてい るか ら問題 が違 うと思い ます。 直角三角形 も半分 な ら,この長方形 も半分 だか ら, これで もいい。

Si三

!:を

:::?ぞ

:与

2つは面積が等 しいだ ろうか。 沈黙 じゃあ説明 しようか。図 を使 って,この三角形 の部 分 を切 って持 って くる と,長方形 になる。 この縦 は 6 cm よこは 10cmの半分 だか ら5 cm 面積 は 6× 5ヤ030∬ や っぱ り半分 になっていますね。 こんなふ うにして考 えて くると,直角三角形 の面積 は,何を使 ってい ますか。 長方形 です。 公式 を作 る とどうな りますか。 長方形 ■2でいい。 どんな直角三角形 で もこの公式で出 るだろうか。 自 分で直角三角形 をかいて,面積 を求 めてみ よう。 T C C

C

C

T

C

T

C

T

C

T

T

C

T

C

T

(13)

鳥取大学教育学部研究報告 教育科学 第33巻 第

1号

(1991) 13

(2)第 1時

「比較・ 検討」段 階 の共有 プ ロセス に よる記述 「三 角形 の面積

(5年

)」 授業 の記 述 【共有するときの手がか り】 【同意の内容】 【共有すること】 各自が自由に直角三角形 を作 って面積 を求める の三角形の面積 は何証か。(M児 の疑問) 直角三角形の面積 は 1耐 の ますが30個で30∬ 三角形 の中にlcばの ます をつ くる ます の数 を数 え る 長方形 で はl cm2のますが60 個、直角三角形 はその半分 で30個 で30cぽ 長方形 にで きるます を数 え て半分 にす る 長方形 にす る とlcぱの ま すがな らぶ 直角三角形 の面積 は、長方 形 の面積 の半分 になってい る 長方形 をか く 直角三角形 をもう一枚持 っ て きて長方形 を作 る 10× 6■2 直角三角形 を横長の長方形 の形 に変 える 10× 3 直角三角形の面積 は、底辺 をよこ、高さを縦 とする長 方形の面積の半分 に等 しい 三角形を分割する 直角三角形 を縦長の長方形 の形 に変 える 5× 6 直角三角形 の面積 はたてX よこで もとめることがで き る 直角三角形 の面積 は長方形 をもとにして、 その面積 を 半分 にす るば求 め られ る 6×10■ 2で直角三角形 の面積 は求められる 直角三角形に分割 してそ り ぞれの面積 を求める方法 直角三角形の求積公式 直角三角形の面積 は49cm2 直角三角形の面積 は49配 直 角三 角形 の面積 は7× 14■2で49∬となる 長方形 に変形す る

(14)

笹田昭三・高木政寛・矢部敏昭 :相互作用に着 目した「比較・検討」段階の 授業構想 とその実践的検討 偲

)第

1時

「比較・ 検討」段階の授業 の考察 。

Slの

共有プ ロセスの単位の不成立 l cm2のます を作 るとい う既習の経験 を使 い

,直

角三角形 の面積が30研 であることを共有 しようと 目指 しているが,「ます 目を数 えることは困難 だ」 ということで結局 は共有 されずに終わつている。 しか し

,操

作が複雑であるとか

,難

しい とかの困難 に直面 したために

,次

の問題構築へ と進んだ と 考 えることがで きる。つ ま り

,困

難 さに直面 した ことで

,長

方形 を考 えることに気付 き

,倍

積変形 のアイディアが生み出 された と考 えられ る。 ・ 教材の内容 とレデ ィネス

S4で

,同

意 の内容 の2つ とも子 どもによって説明 されているものの共有 されたか どうかにつ いては疑間が残 る。 それ は

,説

明だけで

,子

ども達 の間で議論が されていない点である。 また

,子

どもの発言「今 は、三角形 なのにその考 え方 は四角形 を考 えているか らおか しい。」にみ られるよう に

,面

積 の保存性 の素地がで きていなかった ことが原因であつた とも考 えられ る。 この単元 にいた るまでに

,共

有の手がか りとして,「分割

,移

動 して も面積 は変わ らない」とい う面積 の保存性 につ いての経験が必要である。 ・「思考の困難 さ」か ら くる問題構築のプ ロセス

Slと

S2の

関係が問題構築 プロセスであるのは

,解

決が複雑であった り

,困

難であつた りする 場合 に

,新

たな手がか りを模索 しようとした結果である。 このように

,問

題解決が不十分であったためにその後で は

,新

たに問題 を構築す る必要が起 こっ た もの と考 えられ る。 そして

,S2の

同意 の内容 は

S3の

同意の内容 「直角三角形 をもう一枚持 っ て きて長方形 を作 る」に影響 を与 え

,S3の

共有 プロセスを成立 させ ることになった と考 えられる。 思考が行 き詰 まった り矛盾が起 きた りす ることによって

,問

題構築 プロセスそして問題解決プロセ スヘ とつながった。 ・ 共有することの変容 「共有す ること」 を考 えてみると

,時

ヒ較・検討」段階での学習の進 み方 を捉 えることがで きる。 最初 は,「方眼」 を使 うことか ら「倍積変形・等積変形」のアイディアを使 い「直角三角形の面積が 長方形の半分である」 ことを発見 し

,さ

らに

,公

式へ と発展 させ一般化 をはかっている。 このよう に

,子

ども達の思考の数学的な経験・ 知識への変容 をみることがで きる。 しか し

,S5は

,ほ

とん どが教師の手 によって誘導的 に進 め られ

,S4か

らの影響 はあまり無かった と考 えて もよい。子 ど も同士のや り取 りによって

S5が

成立す るためには

,何

らかの教師の関わ りが必要 になって くるも の と考 える。 ・ 教師の発間の内容 とその時期

S3か

S4へ

の関係 は

,教

師の「他 の考 えを聞いてみて欲 しい」 とい う指示的な発間 によって 展開 している。 また

,

ここで共有が されたか どうかについては

,前

述 したが

,S5の

共有 プロセス が成立す るためには

,教

師の発間が大切 な役 目を果たしていると考 えられ る。 ここで は

,S3と

S

4を「似 ている考 えは」といった

,個

々の考 えの関連性 を検討す る発間が必要 となって くるだろう。 そして

,そ

のことによって

,

もう一度全体 をぶ り返 る活動 を子 ども達 自らが行 っていれば

,子

ども 同士の力で「直角三角形 の面積 は長方形の半分である」 ことに気付いただ ろう。子 どもの自主的な 活動 を促すためには教師の発間が どうして も必要 になって くる。

(15)

Sl 鳥取大学教育学部研究報告 教育科学 第33巻 第

1号

(1991)

3.修

正モデルの構成 とその視点 授業 の記述 の考察 を基 に共有プロセスの枠組 みの修正 を行 った。 ・子 ども達 の既習の経験である「面積 の保存性」 についての理解 は

, 5年

生のこの面積 の授業 にい たるまでに認識 されていなければな らない重要な概念であることがわかった。 この ことを考慮 にい れて

,修

正モデル を作成す る。 ・ 教師の関わ り方 について

,発

間 を考 えなが ら共有 プロセスを修正す る。 授業の修正モデル (三角形 の面積

(5年

)) 【第 1時 】 【共有するときの手力潮ゝり】 【同意の内容】 【共有すること】 《参考》

4.第

2時

のプロ トコール と共有プロセスの記述 第

1時

と同様 に授業分析の考察 と授業モデルの修正 を行っているが

,こ

こでは第

2時

のプロ トコ ール と共有プロセスによる記述のみを示すことにする。 三角形の中に 1∬ のます をつ くる ますの数 を数 える 長方形 で はlcぱの ますが60個直 角三角形 はその半分 で30個 で30 ば 長方形 にで きるますを数 え て半分にする 長方形 にす るとlcぽのま すがな らぶ 直角三角形の面積 は、長方形の 面積の半分で30carになっている 長方形 をか く 直角三角形 をもう一枚持っ てきて長方形 を作 る 三角形を分割する 直角三角形を横長の長方形 の形に変 える 直角三角形の面積 は、底辺 をよ こ、高さを縦 とする長方形の面 積の半分の3o研に等 しい 直角三角形 を縦長の長方形 の形に変 える 形が変わって も、面積 は 変わ らない 6×10■ 2で直角三角形 の面積 は求められる 直 角三 角形 の面 積 はた て ×よ こ■2でもとめる とがで きる 直角三角形の面積 は長方形 をもとにして、その面積 を 半分にすればもとめられる

(16)

笹田昭三・高本政寛・ 矢部敏昭 :相互作用に着 目した「比較・ 検討J段階の

16

授業構想 とその実践的検討 みんなのかいた三角形の面積 は長方形の半分になっ ているだろうか。 ぼ くは,直角三角形のときのように折ってしようと したけれ ど

,合

わなかったのでここの ところを切 っ て合わせてみた ら, もとの三角形に重なって 2枚 で きました。だか ら長方形の半分になります。 じゃあ

,式

を作 ってみようか。 10× 6■2 答 えも30で 60証の半分ですね。 もう一人

,幸

栄 さんの考 えを聞いてみましょう。 わたしは,こ この所に高さをかいて,半 分に切って, 半分か ら上 を下にもってきて長方形の形にしました。 真ん中に線 をひいてここの三角形 をもってきたら(図 を動か して説明をする)長方形にな ります。 計算で確かめてみましょう。 10×

3=30

3×10=30で60∬の半分 になっています。 確かに計算 をしても長方形の半分 になっていること がわか りますね。 もう一人

,形

の違 う三角形で説明して もらいます。 わたしは

,久

典君 と同じ考えで,三角形で 2つ で き たので,やっぱり長方形の半分にな りました。 ところで,先生 も考 えつかなかったことを青木君が 考 えています。聞いてみましょう。 この三角形の面積を求めようとして,こ こに線を引 いて四角形を作って,ここを切って持ってきて,長 〈第

2時

の共有 プロセ 【共有するときの手がかり】 【同意の内容】 方形 に してか ら長方形 の面積 を求 めて半分 に しまし た。 青木君 は,この三角形 を考 えたんだね。 (ほとん どの子 ども違がわか らない。) 考 えてみたいですか。 はい この三角形 の ままでは計算 しに くいか ら

,平

行四辺 形 に して,平行四辺形 の ここが余分 でい らないか ら, このす き間 に持 って きてた ら正確 な長方形がで きる。 この長方形 は, 6×10で60cドそれ を2でわ らない と 三角形 の面積 にな らないか ら,60■ 2で30∬ になっ た。 三角形 の ままで は面積がでないので

,長

方形 に して いるんだ と思い ます。 はしを切 って もうま く長方形 にはな らない と思 い ま す。 切 って確かめてみようか。(切って移動 してみ る。) どの考 えを見 て も,三角形 の面積 は長 方形 の半分 に なってい ますね。底辺 と高 さを使 って公式 が作れな いだ ろうか。 底辺 ×高 さ■2 長方形 の面積 もたて とよこの長 さを使 って表 してい たたけれ ど

,三

角形 の面積 も底辺 と高 さを使 つて表 す ことがで きます。これか らは,この公式 を使 つて, 三角形 の面積 を求 めてい くと便利ですね。 ス に よ る記 述 〉 【共有すること】

T

C

T

C

C

T

C

T

T

C

T

C

C

T

T

C

T

T

C

T

一般三角形 を直角三角形 に分割す る 8×6■2=24 2X6■2=6(311T) 24+6=30 直 角 三 角 形 の面 積 の求 め方 三角形の面積 は30∬ とな る

/=空

坐坐二

\ 三角形 を分割 して長方形 を作 る。 三角形 の底辺 を横、高 さの半分 を 長 方 形 の面 積 を求 め る 縦 とす る長方形 の面積 と三角形 の 面積が等 しい。 10X3=30 (6■ 2) 三角形の面積は、長方形の半分で 60■2で311ばになっている / 同 じ三角形が2組で きる を縦 とした長方形 の半分 になって いる 10×6■ 2=30 長方形 の面 積は60献 三角形 の面積 は60■2=30 どの三角形 も直 角三角形 の面積 を 求 めた ときと同 じで、長方形の面 積の1/2になっている 三角形 の面積 は、底辺 ×高 さ■2で 求め られ る

(17)

鳥取大学教育学部研究報告 教育科学 第 33巻 第

1号

(1991)

5.

まとめ 。共有プロセスを考 えることによって

,子

どものアイデイアをもとにした授業 を構成す ることが可 能になる。 ・共有す ることを授業 の目標 との関連で組 み立ててい くときに

,発

問の内容やその時期 についての 示唆が得 られた。 ・ 教師 と子 ども

,子

ども同士が どのように相互作用 をしているか を考察す ることによって

,場

当た り的であった「比較・ 検討」段階 を計画的 に扱 うことがで きる。例 えば

,前

述 した教師が指導上配 慮 しな くてはな らない発間についてのみな らず

,子

どもの理解 を記述することで

,教

材 を扱 う上で のレディネスについて も示唆 を与 えて くれ る。 。しか し

,記

述がかな り複雑であ り

,今

,簡

素化す る方法 を考 える必要が ある。

V.共

有 プ ロセ ス を使 つた協 力 的 な 学 習 の 実 践 的 検 討 第

1時

の導入問題 の解決後,「問題で扱 った直角三角形 とは形 の異 なった他 の直角三角形で も,そ の面積 は長方形 の1/2で求 め られ るだろうか。」の問いに対 して

,子

ども自らが問題 を作 り確かめる活 動 を行 った。教室 の中で

,一

人 の子 どもが 自分の作 った直角三角形 の面積が求め られな くて悩んで いた とき

,席

を隣 にす る子 ども達がその解決 に加わった。隣の子 ども達 はそれぞれ 自分 の直角三角 形について解決 していた。 自然発生的に生 まれた子 ども同士の協力的な学習である。 この状況 を共 有プロセスの枠組 みを使 って記述す ることを試みた。子 ども同士の相互作用 を個々の子 どもの立場 で検討す ることで

,そ

の子 どもの思者の進展す る様 相

,ま

,そ

の契機 となるものが指摘で きると 考 えたか らである。

1. 3人

の話 し合 いの状況 とその記録 以下の記述 は

,授

業後 に

3人

の話 し合 いの様子 をインタビュー して記録 した ものである。 〔

M児

の疑間の起 こ りとその経緯〕

M児

:とにか くどんな直角三角形で も長方形の半分で面積がで る と思 った。先生が授業 の初 めに点

Aを

動か したので

,

どこかで直角三角形が できるような気が した。ち ょうどそばに直角三角形 の定規があったので

,B

それを使 って直角三角形 をかいて考 えてみた。(右図)

M児

は自分の作 つた直角三角形 の面積がい くらになるのか解決で きないで困つていた。そこへ隣 の席の

S児

,Y児

が加 わって話 し合いが始 まった。(自然発生的な

3人

のグループでの話 し合 い) 点

Aか

ら高 さを引いて測 った ら7 cmだった。底辺 は14餌だっ た。つ ぎに

,か

いた図 を回 してみた。 けれ ども分か らない。 その後

,長

方形 (点線

)を

作 ってみた。 (隣の席の

S児

が相談 にのった。 その時点での

S児

は図

Aの

考 えで自分 の作 った三角形 の面積 を求 めている)

(18)

S児

M児

S児

M児

S児

S児

M児

Y児

S児

M児

Y児

笹田昭三・ 高木政寛・矢部敏昭:相互作用に着目した「比較・ 検討

J段

階の 授業構想 とその実践的検討 こうした ら

,今

日やった直角三角形 になるん じゃあないか。 なんでそれでいいだあ。直角三角形 で も形がちが うけえ

,い

けん じゃあ ないか。 だった ら

,半

分 になればいいか ら, 半分 になるような図にしてみた ら。 ここの所 をこっちに持 つて きた ら, なんかしらんけど半分 になっとるが。 これでいい じゃないか。 図

A

30×3=9090■2=45 答 え 45cma 持 って きて もい い だか。 いい じゃあないか。直 角三角形 の とき

,平

木君 は (右図

Bを

示 し

)こ

う して切 って持 って き とったが あ。 わか らんか。それ じゃあ。こうしてみた ら。(図のように折っ て説明 をした。)こ こを折 ってみた ら

,ち

ょうどいい具合いに 重なるし

,長

方形の半分でいい じゃあないか。(急に思いつい たように

)そ

うだ

,切

ってみ ようか。

(S児

,自

分で用紙 を取 りに行 って

,切

ることを実行 し, 直角三角形が

2枚

で きた と言 って

,自

分のノー トに張 り付 け た。) (首をか しげて

,や

っぱ りわか らない様 子

)何

だか ごち ゃ ごち ゃになってわか らん ようにな った。

(Y児

が その

2人

の様 子 を見 て

,話

に力日わ つた。) 面積 を出す んだ ろ。長 さはわか っ とる し

,計

算 で 出 して みた らい い ん じゃないか。

(3人

は自分 の ところで個 々 に計算 してみて

,ま

た話 し合 いが再 開 され た。) 式 を書 かず に筆 算 をプ リン トの隅 に して49♂ と求 めた。 や っぱ りで きない。 7× 14で 98になった。 (その後

,一

斉での授業が始 まり

,話

し合いは途中で終わった。) クラス全体 の場で この

M児

の直角三角形 を取 り上 げ

,こ

の直角三角形 も長方形の半分であ り

,し

か も面積 は49配であることの理解 をはかることにした。そして

,そ

の授業後

,ノ

ー トで確認 してみ ると

S児

,M児 ,Y児

3人

とも解決 に至 っていた。

一け一一Y一″

′/

′/1\ り 、4 14 49 ×

7 2) 98

98

(19)

鳥取大学教育学部研究報告 教育科学 第 33巻 第

1号

(1991) 19

2.共

有プ ロセスによる記述 とその考察

M児

の思考が不連続であるので

,イ

ンタビュー して記述 し

,グ

ループ (最初 は

2人

で後か ら

1人

加わった)の話 し合いでの相互作用 の様相 を

,共

有 プロセスの枠組 みを使 つて図解 し分析 を試 みた。 図解 にあたっては

,M児

の思考過程 に視点 をあてて行 った。 また

,図

中の数字 は

,M児

の思考 の進 展 を表 し

,=は

理解が進 んだ状況 を表 してい る。

STOPは

,同

意内容が共有 されない ことを示す。 《共有プ ロセスの単位 による話 し合 いの記述》

共有するときの手がかり】

同意の内容】

共有すると】

長方形 の半分 にな る 全体 の話 し合 い

STOP

⑫ ⑦′ l⑥

直角三角形 にす る △ と

Zの

面積 が等 しい 分割 して移動す る もとの直角三角形 の面積 とで きた正方形 の面積が 等 しい 直角三角形 の面積 は 長方形 の面積 の半分 折 って重ね る 折 り重ねた部分 の面積 は 等 しい 直角三角形 の面積 は 長方形 の面積 の半分 直角三角形 の面積 は 長方形 の半分 長方形 の面積 とで きた2 組 の三角形 の面積 は等 し Vゝ 切 って重 ね る

直角三角形 の面積 は

4鋲

ギとなる

直角三角形 の面積 は長方 形 の面積 の半分 長 方形 の面積 は たて ×よ こ

(20)

笹田昭三・高木政寛・矢部敏昭 :相互作用に着 目した「比較・検討J段階の 授業構想 とその実践的検討 《考察》 ①

M児

の思考の不連続性

M児

の理解 の過程 に視点 をあてて

,こ

の共有 プロセスの枠組 みで考 えてみると

,

この場 は熊谷氏 の一般的な枠組 みか ら外れ る例 となった。グループの話 し合 いで は

,M児

は同意 しきれず半信半疑 の状態で

S児

か ら示 され る手がか りだけを受 け入れている。結局

, 3人

の話 し合いの場面で は

,M

児 は解決で きなかった。 しか し

,全

体 の場で

,

もう一度説明 を聞 くことで

,直

角三角形 の面積が長 方形 の面積 の半分であることを理解 し

,問

題 を解決す る過程 をた どっている。後 になって

,以

前理 解で きなかった ことの全貌が見 えて くるといった理解 の進展である。外面的には

,思

考が不連続 の ように見 える状況であるといって もよい。 ②

M児

の内面 における理解の実態

M児

S児

の説明 を理解 し

,問

題 を解決 してい く過程 は

,必

ず しも外面的には連続的 に思考が進 展 しているようには見 えない。む しろ

,拒

,拒

否 そして突然わか るといった不連続 の ように見 え る。 しか し

,M児

の内面では

,連

綿 と (連続的 に

)理

解 のための諸条件 を整 えているので ある。 そ れが

,②

④⑥ である。

M児

,S児

と対話す る中で

,そ

の諸条件 を整 えていき

,そ

の結果

,全

体 の 話 し合 いによって

,今

まで拒否 していたことを全て理解 したのである。 このことは

,子

どもの内面 で起 こっている理解 の実態 を示 してい るといえる。 ③ 共有プ ロセスの成立 しなかった原因 共有 プロセスの単位が成立 しなかった原因 は

, 1つ

には

,面

積 の既習経験の不足 にあ ると考 えら れ る。

M児

の疑問「直角三角形で も形が違 うか ら面積 は等 し くない。」「切 って持 って きて もいいの か。」に見 られ るように

,共

有す るための手がか りを納得いかずに拒否 しているの は

,形

が違 って も 面積 は保存 され ること

,す

なわち

,分

,移

動 に関す る面積 の保存性 の素地が豊かでなか った こと にある。 また

,S児

が共 にコミュニケーションす るための努力 を行 っているにもかかわ らず

,一

致 点 を見つけ出す ことがで きなかったの は

,あ

くまで も

S児

が 自分 の解決方法 を説明 したにす ぎず,

S児

の働 きが

M児

自身 の思考 につなが っていかなかったか らである。 しか し

,M児

S4ま

で進 ん で これたのは

,S児

の存在 によるところが大 き く

,こ

れ はまさに相互作用 によるものである。 ④

S児

の思考の進展

3人

(実質 は

2人

)の

自然発生的な話 し合 いをさらに

S児

の立場で分析することがで きる。

S児

か らすれば

,こ

の状況 は自分 の考 えを相手

(M児

)に説明す る状況である。

S児

はこの状況 の中で,

M児

の課題 を新 たな自分 の課題 として解決方法 を一緒 に考 え

,説

明 しなが らその課題 の解決 に自分 自身で至 っている。 ここでは

,S児

M児

の「何でそれで もいいだあ。直角三角形で も形が違 うけ え

,い

けんじゃあないか。」「切 って持 って きて もいいだか。」といった質問や疑間によって

,自

分 の 思考 をぶ り返 ることを行 っている。

M児

に説明 をしなが ら

,共

に考 えるといった状況が

,M児

の思 考 を高 める結果 につながった といえる。 まさに

, 2人

の子 ども同士の相互作用が

,S児

の思考 の進 展 に寄与 している。 3。 まとめ ①

M児

S児

と行 った

S3,S4の

活動が

,そ

の後 の全体 の話 し合いの中で

,M児

が理解す るた めの経験 となった。言い換 えれば

,S児

S3,S4の

説明 をす るといった活動がなか ったな らば, 全体で話 し合いを行 った として も

,M児

は理解で きないままで終わつた と考 えられ る。 それ は

,M

児 の「何 だか

,ご

ちゃごちゃになってわか らんようになった。」の発言か らもうかがわれ る。

(21)

鳥取大学教育学部研究報告 教育科学 第33巻 第

1号

(1991) 21

② 全体の話 し合いの中で

,M児

自身が問題の理解 に至るまでの過程 をみると

,数

学的な経験の必 要性 とともに

,学

習者の思考が自らの考える筋道に位置付けられてはじめて

,理

解へ進むことがわ かる。子 ども自らが活動 し

,そ

れを自らがふ り返 る (反省する

)こ

とによって

,数

学的知識 は構成 されるというピアジェやスケンプの考 えをここにみることができる。 ③

M児

の疑間 は

, S児

の疑間 にもな り

,さ

らに

,S児

はこの問題 に対す る理解 をいっそう深 める ことがで きた。 もし

,こ

の問題が

,S児

にとっての問題意識 になっていなければ

, 2人

の このよう な相互作用 は起 こり得 なかった と考 えられる。 ④

M児

の「聞 く」 とい う活動 は

,一

見受動的な行為 のように見 えるが

,実

,こ

の活動 を通 して 他者

(S児

)の

シェマ を自分のシェマ と結合 させ ようと試みている心的な含ヒ動的行為であ り

,M児

の発 した数々の疑間 は

,心

の中での矛盾や葛藤 の現れ と考 えることがで きる。そ うした準備があつ たか らこそ

,全

体 の場でぶ り返 ることによって理解が進展 した と考 えられ る。 Ⅵ 。 ま とめ と今 後 の 課 題 本稿で は

,算

数・数学の授業 における「比較・ 検討」段階が

,場

当た り的な扱 いにな りがちであ った反省 に立 ち

,そ

の授業構想 を確立す るとともに

,共

有プロセスの概念 を使 い授業分析 とその考 察 を行 った。「比較・検討」段階での教師 と子 ども

,子

ども同士の学習の流れ を記述することによっ て

,授

業 を計画的 に構成す る手がか りを得 ることがで きた と考 える。 また

,共

有 プロセスの中で, 子 どもの思者の様相 をさらに「共有」 の概念 を使 い記述す ることで子 どもの理解 の進展 を捉 えるこ とがで きた。 その結果

,次

のような結論 を得た。

1,研

究の まとめ

(D

プロ トコール を手がか りとした共有 プロセスの記述 は

,子

ども達 の交流活動 を捉 えるのに有効 であった。 しか し

,プ

ロ トコールにあ らわれない部分での子 どもの理解 の形成過程 を分析 していか なければならない。 そのために

,授

業後 のインタビューな どを活用 しなが ら共有 プロセスの記述 を 試みる必要がある。 磁

)共

有 プロセスの枠組 で記述 された「共有す ること」 を検討す ることによって

,Sl,S2…

… へ と「共有す ること」が段階的 に数学的な価値へ と変容 してい く過程 を捉 えることがで きた。 した がって

,共

有 プロセスによる記述 は

,数

学的な考 え方の育成や算数・ 数学のよさの感得な どを図る 授業研究 において有効 な授業評価法 にな り得 るもの と考 える。 は

)共

有 プロセスの成立 しない原因 を探 ることによって,「既習経験 として どのようなことが必要か, また

,足

りなか ったか。」な どの子 ども達 の学習 に関す るレディネスを考 えることがで き

,教

材 の配 列や展開に役立てることがで きた。また,「子 ども同士で生産的な活動 をするためにはどのような手 だてが必要か」 な ど教師が行 うべ き手だて

,つ

まり

,

とりわ け発間の内容や時期 について も

,共

有 プロセスの枠組 みによる授業記述 は

,授

業者 に多 くの示唆 を与 えるもの となった。 次の

3項

目は

,小

集団の交流活動 を共有プロセスの枠で記述す ることによって得 られた知見であ る。 は

)共

有 プロセス内の個々の子 どもの理解の進展状況 を「共有」 の概念 を用い記述す ることで

, 2

人の相互作用の様相 を明 らかにす ることがで きた。 その意味で共有プロセスの枠組 は

,表

面 には見 えない子 どもの内面で起 きている理解 の進展の様子 を把握す る1つの手段 とな り得た。

参照

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