感情
第8回 感情と脳・自律反応 2010年9月15日(水曜日) 第1時限目 C302教室 心理学各論 A – II参考文献
感情心理学(鈴木直人編、朝倉書店、2007) – 第3章 感情と認知 – 第4章 感情の発達 – 第5章 感情と健康 – 第6章 感情と脳・自律反応 バイオサイコロジー:脳-心と行動の神経科学(ピネル、西村書店、2005) – 第17章 感情、ストレス、健康のバイオサイコロジー ヒルガードの心理学(第14版、ブレーン出版、2005) – 第11章 感情 新脳の探検(下)(講談社ブルーバックス、2004) – 第8章 情動感情
脳の構成
大脳
高次の知的情報処理を調整する 大脳 大脳皮質 辺縁系 中心核 視床 小脳 延髄辺縁系
情動を制御する中心核 (脳幹)
原始的行動を調整する辺縁系 (limbic system)
中心核を取り囲み、視床下部や脳幹の本能的な行動を制御 – 魚や爬虫類は、原初的な辺縁系を持つ。摂食、攻撃、逃走、交配を紋切り的行動として行う – 哺乳類は、この本能的な行動を制御し、生体が環境変化に対応できるようにしている 構成: 扁桃体、海馬、脳弓、帯状回、中隔、乳頭体 海馬 (hippocampus) 記憶に特別な役割を果たす 扁桃体 (amygdala) 恐怖などの情動にとって重要な役割を果たす 辺縁系 (出典:ヒルガード, p.55、ピネル, p.57) 海馬 扁桃体Quiz1:感情に関連する部位の名称を答えよ
(B) (A) (E) (C) (D) (D)感情 (emotion)
行動するための準備状態を作り出す、複雑で他要素からなる事象 感情過程の6つの構成要素 – 認知的評価: 本人の置かれた現在の状況についての個人的な意味に関するその人の評価 – 主観的経験: 個人的経験を色づける感情状態あるいは気分の性質 – 思考=行動傾向: 特定の仕方で考えたり行動するように駆り立てる力 – 内面的な身体的変化: 生理的反応、とくに心拍数や汗腺活動の変化のような自律神経系が関与するもの – 顔の表情: 頬、唇、鼻、眉毛のような顔の際立った構造物を特定の布置へと動かす筋肉の収縮 – 感情に対する反応: 自分自身の感情や感情を引き起こした状況に関する調整法、反応の仕方、対処方法 (出典:ヒルガード, pp.507-508)感情とそれらの認知的要因
(出典:ヒルガード, pp.512-513)異なる感情における覚醒の差異
(出典:ヒルガード, p.526)
気分による評価や判断の変化
感情と記憶
(出典:感情, pp.40-41)感情と記憶: 一年後の再生
覚醒レベルが高い場合、 ネガティブな画像の方が 長期間記憶されやすい! (出典:感情, p.44)肯定的な感情と寿命
(出典:ヒルガード, p.517) (1930年代~40年代の修道女180名の自叙伝の記述内容の分析) 肯定的記述 の多い群Quiz2:感情が私たちの活動に与える影響をまとめなさい
感情と脳
フェニアス・ゲージの症例
(出典:ピネル, p.336)
損傷は主に内側前頭前野
ジェームズ‐ランゲ説
1800年代にウィリアム・ジェームズは、デンマークの心理学者カール・ランゲの考え をもとにして、情動に関するジェームズ‐ランゲ説を唱えた 涙が出るから悲しい 人を殴るから腹が立つ 身震いするから恐ろしい (出典:脳の探検, p.73)キャノン‐バード説
1929年、生理学者ウォルター・キャノンは、情動経験と生理的変化は同時に起こる という説を唱えた 後に、フィリップ・バードにより修正された。 外部刺激は視床で情報分岐 1つは大脳皮質へゆき情動経験 1つは視床下部へゆき生理的変化 (出典:脳の探検, p.75)リスクに関連する 刺激が知覚される
「あたかも身体ループ」 (as if body loop)
皮膚伝導反応 (SCR) ソマティック・マーカー説 (Damasio, 1991)
ソマティック・マーカー説 (somatic marker)
1991年、アントニオ・ダマジオは、不確実な条件が沢山ある状況では 脳が自動的に身体の変化を生じさせそれが脳にフィードバックされることで、 リスクを回避するように誘導するというソマティック・マーカー説を唱えた (ジェームズ・ランゲ説の現代版) このソマティックマーカーが感情の意識の源泉になる と考えられている 皮膚伝導反応(SCR: skin conductance response)
実際の身体変化を引き起こす回路とは別に、 「あたかも身体ループ(as if body loop)」と呼ばれる 一種のシミュレーション回路が前頭前野を中心とした 脳部位に存在すると仮定されている
Quiz3: 感情に関する3説とその特徴を述べなさい
(ソマティック・マーカー説) (ソマティック・マーカー説)
パペッツ回路 (Papez)
1937年、解剖学者ジェームズ・パペッツが行った研究により、情動は特定の脳の中 枢の機能ではなく、脳の神経回路の機能であると唱えた ポール・ヤコブレフによるヤコブレフ回路も有名だが発表の経緯は不明 (出典: http://web.sc.itc.keio.ac.jp/anatomy/koki/seisinkiso/kiso.html )感情評価における扁桃体の活動
扁桃体感情と自律反応
感情に伴う神経内分泌反応
(出典:感情, p.82)
感情経験時の扁桃体と自律神経系の関連
帯状回による交感・副交感神経のバランス制御
(出典:感情, p.96) 副交感神経 との関連 交感・副交感神経 のバランス制御と関連 吻側(ふんそく) = 口のある方向の意感情反応の遺伝的影響
(出典:感情, p.98)感情
第9回 不安障害(強迫性障害) 2010年9月15日(水曜日) 第2時限目 C302教室 心理学各論 A – II参考文献
脳研究の最前線(下)(講談社ブルーバックス、2007) – 第9章 精神疾患から脳を探る(加藤 忠史) バイオサイコロジー:脳-心と行動の神経科学(ピネル、西村書店、2005) – 第18章 神経障害のバイオサイコロジー ヒルガードの心理学(第14版、ブレーン出版、2005) – 第15章 心理的障害 パニック障害:心の不安は取り除ける(渡辺登、講談社、2003) 心の悩み(渡辺登、ナツメ社、2006)不安障害
DSM-IV
精神疾患の診断・統計マニュアル第4版
Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders, 4th edition: DSM-IV 1. 通常、幼児期、小児期または青年期にはじめて診断される障害 2. せん妄、痴呆、健忘性障害、および他の認知障害 3. 精神活性物質使用障害 4. 統合失調症 5. 気分障害 6. 不安障害 7. 身体表現性障害 8. 解離性障害 9. 性障害および性同一性障害 10. 摂食障害 11. 睡眠障害 12. 虚偽性障害 13. 衝動制御の障害 14. 人格障害 15. 臨床的関与の対象となることのあるその他の状態 不安が主症状であるもの (全般性不安障害、パニック障害)、その 人が恐れる状況を避けられない場合に不安がおこるもの(恐怖症)、 儀式や脅迫的な思考をやめようとすると不安がおこるもの (強迫性 障害) がまる。心的外傷後ストレス障害 (PTSD) も含まれる。
主要な障害の生涯発生率、文化総合症候群
4人に1人各文化圏では、特有の DSM-IV には対応しない症候群や精神障害を認めている
(出典:ヒルガード, p.693)
Quiz1: パニック障害に関して○×で答えよ
(出典:渡辺, pp.6-7)パニック障害 (panic disorder)
パニック障害とは、突然、激しいパニック発作(panic attack)に襲われ、 発作がまた起こるのではないかと不安になる病気 不安障害のひとつ。からだに異常がないのに、突然、動機や息切れ、めまいなどの 激しいからだの症状が起こり、さらに強い不安にとらわれる 旧名: 不安神経症、心臓神経症、自律神経失調症 新名: パニック障害 (1980年のDSM-IIIで明記、以降世界で表記を統一) 働き盛りの男女に多い (出典:渡辺, pp.6-7)時間と共に心理状態が移行する
(出典:渡辺, pp.18-19, 51) 発作を誘発しやすいもの 広場恐怖(agoraphobia) 閉じ込められそうな場所や 緊急事態が起きたときに 助けを呼べなさそうな場所を恐れるパニック障害の脳内回路
(出典:渡辺, 2006, p.57) 扁桃体・前頭前野・視床の恐怖回路が誤った情報を流す ⇒ パニック発作 扁桃体:情報を「危ない」「安全」を判断 ⇒ 治療は薬で扁桃体に入る情報を抑える不安や恐怖を抑えるメカニズム
(出典:渡辺, 2006, p.64) 不安や恐怖を抑えるメカニズムが機能しない ⇒ 脅迫性障害 前頭前野 ⇒ 扁桃体の恐怖の記憶を消去 この消去機能が機能しない ⇒ PTSDパニック障害の治療
(出典:渡辺, pp.64-67) セロトニン ノルアドレナリンの活動 調整セロトニンの効果
自立神経を調整する – 覚醒時の交感神経と睡眠時の副交感神経の二種があり、セロトニン神経により調整されている 抗重力筋に働きかける – セロトニン神経は、運動神経の興奮レベルをあげうる作用をし、筋肉に緊張をあたえ、結果的に背筋 がピンとして姿勢がよくなる、顔つきにしまりがでる 痛みの感覚を制御する – セロトニン神経は、痛みに対する感覚を抑えている 心のバランスを保つ – セロトニン神経は、よしやるぞ!という感情とはぁ~、ダメだ~という感情のどちらか一方に極端に傾 かないようにバランスをとっています セロトニン神経を鍛える – リズム運動が効果的 – 日光を浴びながら歩行(散歩じゃなくエクササイズ歩行) – 咀嚼(最低5分。200回くらいを目安に噛む!) (出典: http://gotobed.chu.jp/2008/10/post_99.html ) ノルアドレナリン セロトニン 網様体抑制系 眠り 網様体賦活系 目覚めQuiz2: パニック障害の特徴とメカニズムをまとめなさい
強迫性障害
強迫性障害 (obsessive-compulsive disorder)
脅迫観念 (obsession): 不安を引き起こすいやな考え、イメージ、衝動が執拗に侵 入するもの 脅迫衝動行為 (compulsion): 不安を軽減する何らかの行動や儀式を行わずには いられない欲望に駆り立てられること 強迫観念と脅迫衝動行為は結びついていることが多い 例、病原菌がついているのではないかという脅迫観念は、 使う前に食器を何度も洗うという脅迫行為を引き起こす この障害の本質は、本人が制御を失った感覚を経験するところ 困った考えを振り払おうと、あるいは反復行為を中止しようと患者は努力するが、 それがどうしてもできないところに問題がある 脅迫性障害の主な種類:汚染、疑惑、病気、儀式 – 洗浄(汚染)タイプの人: 何かに触れたり何事かを思い出したりしたときに汚染されたように漢字、 洗って綺麗にする儀式に何時間も費やす – 確認(疑惑)タイプの人: ドアの鍵とか明かりとかオーブンの火とか、何かやったことが正確かどうか とか、それらを10回~100回も繰り返し確かめたり、儀式的な行為を何回となく繰り返す 治療法 – 薬物療法(SSRI)、行動療法(エクスポージャーと儀式妨害の組み合わせ: ERP)脳と脅迫性障害
正常統制群 脅迫性障害群 遺伝的要因と心理学的要因の複合として 脅迫性障害が生じる可能性 脅迫性障害群は尾状核や視床の活動が 正常統制群に比べて活発という結果 ⇒ SSRIや行動療法でこれらの活動が抑制 されることが確認されている (出典: ヒルガード、pp.703-704 )恐怖症、PTSD
不安と恐怖はどうちがうのか
不安: 対象となる要因が内的なもの 恐怖: 対象となる要因が外的なもの – 単一恐怖 (simple phobia): 高いところや嵐、病気、し、動物など、特定の場所やものに対して異常に 恐怖心をもつ – 社会恐怖 (social phobias): 人前に出るとあがってしまう対人恐怖などのように、人前や公の場で恥を かくことを恐怖に思い、避けるようになる – 広場恐怖 (agora phobia): パニック発作が起こったたら人前で恥ずかしい思いをする場所、すぐに逃 げられない場所、あるいは助けを求められない場所にいることを避けるようになる 恐怖症 (phobia) の一部は、実際の怖い体験がもととなって起こるが、 観察学習による恐怖症もある – 恐怖症の親は子供に恐怖を共有させやすい – 恐怖症の人の一親等以内の親族が同じ恐怖症になる確率は、通常の3~4倍 – 双生児研究から、一部は遺伝によるものと考えられている 治療法 – 薬物療法: パニック障害と同様、SSRIや抗不安薬などを使用 – 行動療法: 森田療法が効果的森田療法
1919年(大正8年)に、森田正馬によって創始された、恐怖症などに対する心理療法 ○第一期 絶対臥褥(がじょく)期 – まず、患者を外からの刺激を受けない個室に隔離し、食事・排泄時以外の活動を制限して、 ただただ布団で寝ているようにさせる ○第二期 軽作業期 – 臥褥時間を減らし、外界に触れさせ、軽作業をさせたりする ○第三期 重作業期 – 睡眠時間以外は、ほとんど何かの活動をしているという生活にして、肉体的な重作業を行う 趣味なども自由に行えるようにする ○第四期 退院準備期 – 日常生活に戻れるように、社会生活訓練を行う。この課程を通常約一カ月間かけて行う その間、患者は日記をつけ、専門医が添削をする 森田療法の目的は、自分の考え方のパターンを気づき、行動パターンを修正し、 そして「あるがままの自分を受け入れる」ということ 森田療法は、恐怖症に最も効果があるとされていますが、健康保険は効かない (出典: http://kyouhusyou.com/18/19/000081.php )心的外傷後ストレス障害 (PTSD)
心的外傷後ストレス障害 (post-traumatic stress disorder: PTSD) 日常生活からの重篤な解離 – 世の中を生き生きと感じられなくなり、何に関しても心動かされなくなってしまう 外傷的出来事を繰り返し再体験すること – 毎晩のように外傷的出来事の夢を見るため、眠りにつくことが怖くなる – 起きているときも、心の中に体験した外傷的出来事がありありと思い出され、再体験してしまう 睡眠障害、集中困難、過度の警戒心 – 外相体験を生き延びた人は、再びことがおこるのではないかと絶えずびくびくしている – 仕事をしたり、ヒットと会話をしたり、車の運転をすることに集中できなくなる 生き残ったことに対する罪悪感 – 生き残った人の中には、死んだ人がいるのに自分だけ生きていることに強い罪悪感を体験してしまう 治療法 – 薬物療法: SSRI – 認知行動療法: 暴露法(Exposure) – 催眠療法、グループ療法、家族療法など
Quiz3: 脅迫性障害、恐怖症、PTSDについてまとめなさ
い
脅迫性障害についてまとめなさい 恐怖症、PTSDについてまとめなさい感情
第10回 気分障害(うつ病・躁うつ病・アレキシサイ ミア) 2010年9月15日(水曜日) 第3時限目 C302教室 心理学各論 A – II参考文献
脳研究の最前線(下)(講談社ブルーバックス、2007) – 第9章 精神疾患から脳を探る(加藤 忠史) バイオサイコロジー:脳-心と行動の神経科学(ピネル、西村書店、2005) – 第18章 神経障害のバイオサイコロジー ヒルガードの心理学(第14版、ブレーン出版、2005) – 第15章 心理的障害 よくわかる!「うつ」(一ノ渡尚道・久保田浩也、PHP、2005) パニック障害:心の不安は取り除ける(渡辺登、講談社、2003) 心の悩み(渡辺登、ナツメ社、2006) 感情心理学(鈴木直人編、朝倉書店、2007) – 第8章 アレキシサイミアうつ病
大うつ病エピソード(Major Depressive Episode)
以下の症状のうち 5 つ 以上 が同じ 2 週間の間に存在し、病前の機能からの変化 を起こしている。これらの症状のうち少なくとも 1 つは、(1) 抑うつ気分または (2) 興 味または喜びの喪失である。 1. その人自身の言明 か、他者の観察 によって示される、ほとんど1日中、ほとんど毎 日の抑うつ気分 2. ほとんど 1 日中、ほとんど毎日の、すべて、またはほとんどすべての活動における 興味、喜びの著しい減退 3. 食事療法をしていないのに、著しい体重減少、あるいは体重増加、またはほとんど 毎日の、食欲の減退または増加 4. ほとんど毎日の不眠または睡眠過多 5. ほとんど毎日の精神運動性の焦燥または制止 6. ほとんど毎日の易疲労性、または気力の減退 7. ほとんど毎日の無価値観、または過剰であるか不適切な罪責感 8. 思考力や集中力の減退、または決断困難がほとんど毎日認められる 9. 死についての反復思考、特別な計画はないが反復的な自殺念慮、自殺企図、また は自殺するためのはっきりとした計画 (出典: http://www.utuban.net/medical/standard/standard01.html ) DSM-IV-TR
うつ病 (depressive disorders)
(出典:うつ, p.95, 97, 107) 躁病エピソードなしに一度またはそれ以上の 抑うつ状態におちいる 気分障害 (mood disorders)の患者は、 重いうつ、または躁(むやみに意気揚々とすること)、 あるいはうつと躁の両方の期間を経験するうつ病とうつ状態のちがい
(出典:渡辺, p.24)うつ病の症状が表れるしくみ
(出典:渡辺, 2006, p.88)うつ病者の脳機能
視床、視床下部、扁桃体、海馬などの ストレスに対する反応の制御に関係する 部位の異常活性が認められた (出典:ヒルガード, p.712) (出典:渡辺, 2006, p.57)前頭前野の機能低下は防御反応
(出典:渡辺, 2006, p.91)
時間と共に心理状態が移行する
(出典:うつ, p.99, 109)
うつ病のきっかけとなる状況、なりやすい性格
うつ病の発症メカニズム
(出典:脳研究, p.139, 143) うつ病患者の一親等の親族 に関しては一般の2~4倍 ほどうつ病になりやすい 親が養育しなかった子供は ストレスに弱くなる自己評価式抑うつ性尺度
(出典:うつ, pp.78-79)
うつ病自己診断テスト
(出典:うつ, p.93, 105, 187) (出典:渡辺, 2006, p.89)
養育環境とストレスとの関係
(出典:脳研究, p.139, 143) 親が養育した子供は ストレスに強くなる 親が養育しなかった子供は ストレスに弱くなる抗うつ薬とその副作用
(出典:うつ, p.179, 181) ⇒ 最近うつ病治療が変化 (ビデオ再生)血液診断の可能性: サイトカイン(cytokine)
2009年8月26日2時30分配信 毎日新聞 – 大阪市大大学院医学研究科の関山敦生・客員准教授(43)=心身医学、分子病態学=が兵庫医科 大と共同で、うつ病や統合失調症などの精神疾患を判定できる血液中の分子を発見、血液検査に基 づく判定法を確立した。問診や行動観察が主流だった精神科診療で、客観的な数値指標を診断に取 り入れることができる。疾患の判定だけではなくストレスの強度や回復程度もわかるという。関山准教 授は27日午後、京都市の立命館大学で開かれる日本心理学会で発表する。 – 関山准教授によると、ストレスや感染などを受けて、生成し分泌されるたんぱく質「サイトカイン」の血 中濃度データの差異を積み上げて分析。データをパターン化することで、心身の変調やうつ病、統合 失調症などを判定できることが分かった。うつ病や統合失調症について3000人近くのデータから疾 患の判定式を作成。別の400人の診断に用いた結果、うつ病の正診率は95%、統合失調症は96% に達した。 – 精神疾患の判定だけではなく、健常者に対するストレスの強度、疲労からの回復スピードも数値化し た。80人の男女を対象に、計算作業で精神的ストレス、エアロバイクなどで身体的ストレスを加える 実験を実施。いずれのストレスを受けたか100%判別することに成功し、ストレスの強度を数値で評 価できる方法もつくり出したという。【深尾昭寛】 – サイトカイン (cytokine) とは、細胞から分泌されるタンパク質で、特定の細胞に情報伝達をするものを いう。多くの種類があるが特に免疫、炎症に関係したものが多い。サイトカインはすでに数百種類が発 見され今も発見が続いている。(出典:ウィキペディア)Quiz:うつ病の特徴とメカニズムをまとめなさい
双極性障害 (bipolar disorders)
抑うつ状態と躁状態の間を行き来し、その間に正常な期間もある 躁状態 (manic episodes) の人はちょうど、うつの正反対のように見える行動をとる – 精力的で熱心で、自信にあふれている感じ – 絶えずしゃべり続け、あまり睡眠をとることなく次々と物事に手を出し、 実現が可能かどうかは気にせずに壮大な計画を立てる 双極性障害にかかる傾向は遺伝する可能性が強い – 双極性障害者の一親等親族は一般の2~3倍双極性障害になりやすい – 一卵性双生児の間の一致率は50~100%にわたっている – 双極性障害はうつ病とは異なる遺伝的背景をもつと考えられる – 視床下部の神経伝達物質の受容体が迅速に働かないことが気分の変化と関係している可能性双極性障害患者の脳機能
双極性障害の患者の帯状回と支障において 代謝率が比較的低くなっていること 重い単極性のうつ病や双極性障害の患者の 前頭葉皮質において機能低下が見られた 前頭前野は認知機能の多くの側面と感情の制御とに関係 ⇒ ここの機能低下が認知機能や感情の暴走を招く可能性 (出典:ヒルガード, p.711)アレキシサイミア (alexithymia)
情動の言語化障害 – a = 欠如、lexis = 言葉、thymos = 感情 – 失感情症、感情言語化困難症状の訳もあるが、現在はそのままアレキシサイミと使う アレキシサイミア概念の構成要素 – 感情を認識し、感情や情動喚起に伴う身体感覚を区別することが困難である – 他者へ感情について表現することが困難である – 空想が貧困で、限られた想像過程を有している – 刺激に規定された、外面性志向の認知様式を有している 因子 – 社会文化的因子: 幼少期の母子関係、家族機能、文化的基盤 幼少期に母親から受ける養護(care)が少ないほど、アレキシサイミア傾向が高い 家族内の親密性、レクリエーション性が低く、纏綿状態(互いに過剰に反応しあい、問題に巻き込まれ、 各成員の自律性が阻害される状態)と自由放任な家族スタイルで、アレキシサイミア傾向が高い – 神経学的因子: 脳内情報処理の機能不全 左右半球間における伝達障害不全説、右大脳半球機能不全説、前部帯状皮質機能不全説 ⇒ うつ病の感情面の症状とも類似 (出典:感情, p.138, 140, 142)感情
第11回 統合失調症 2010年9月15日(水曜日) 第4時限目 C302教室 心理学各論 A – II参考文献
脳研究の最前線(下)(講談社ブルーバックス、2007) – 第9章 精神疾患から脳を探る(加藤 忠史) バイオサイコロジー:脳-心と行動の神経科学(ピネル、西村書店、2005) – 第18章 神経障害のバイオサイコロジー ヒルガードの心理学(第14版、ブレーン出版、2005) – 第15章 心理的障害 新脳の探検(下)(講談社ブルーバックス、2004) – 第12章 正しく働かない心 心の悩み(渡辺登、ナツメ社、2006)統合失調症
統合失調症 (schizophrenia)
現実と非現実の区別をつけることや、自分の志向の筋道を外れないようにすること、日 常的な出来事に反応することが著しく困難 症状 – 知覚障害 (存在しない声を聞いたり、ありもしない「毒」ガスを嗅いだりする) – 思考障害、ひどくいいかげんな連想 (車から、自分自身を制御していると思い込んでいる人の顔を連想) – 情動障害 (不適切なときに笑ったり、ないたりする。しばしば極端な反応から別の反応へ変化) – 陽性の症状 (奇妙な行動の付加) 幻覚や思考異常や妄想 – 陰性の症状 (行動の欠損) 情動反応の消失、活気のない姿勢、自発的な発話の消失、動機付けの欠落 治療 – 薬物療法: 抗精神病薬(定型(従来型)抗精神病薬、持効性抗精神病薬、非定型抗精神病薬) (出典:脳の探検, p.352)思考過程の障害
思考過程と思考内容の両方の障害 (出典:ヒルガード, pp.715-716) 前頭前野注意の障害
(出典:ヒルガード, pp.715-716) 帯状回 韻を踏んだ音から連想が浮かぶ傾向 注意を制御できない、考えに集中できない知覚の障害
視覚野 知覚の障害 (出典:ヒルガード, p.717)感情表現の障害
(出典:ヒルガード, p.717) 感情表現の障害 辺縁系統合失調症の脳内回路:ドパミンの過活動
(出典:渡辺, 2006, p.110) 生物学的要因、心理社会的要因によるドパミンの過活動 ⇒ 統合失調症正常な人の脳、統合失調症の人の脳
過剰なドーパミン ⇒ 幻覚、妄想 ドーパミンの活動低下 ⇒ 思考と注意の障害 統合失調症の人の脳 ⇒ ドーパミンの複雑な不均衡 正常な人の脳 周囲組織の 圧迫、退化 (出典:ヒルガード, pp.719-720)スウェーデン最北部の孤立した地方の大きな家系
図
(出典:脳の探検, p.360)正常な人の神経細胞、統合失調症の人の神経細胞
健常者の海馬の神経細胞 統合失調症者の海馬の神経細胞 ・ 形、大きさの異常 ・ 数が異様に少ない (出典:脳の探検, p.362)文化的相違、遺伝的関係
文化の違いと統合失調症の経過 遺伝的関係と統合失調症
(出典:ヒルガード, pp.718-719)