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大正大学大学院研究論集37号 010首藤卓哉「大正大学蔵『源氏物語』研究― 書写者の背景に見えるもの ―」

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Academic year: 2021

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大正大学蔵『源氏物語』研究

 

書写者の背景に見えるもの

本発表は、 大正大学蔵 『源氏物語』 (以下、 大正本) が持っている、 様々な問題の中で、 特に書写者に焦点を当て、書写者の人物相関や、経歴などに注目し、そこから浮かび 上がる大正本の書写形態を考察、その他、特徴を挙げた。そして、これらの大正本の 特徴を明かにすることは、書写が行われた室町期の歌壇や文壇の新たな部分の解明に 繋がると考えられる。 書写者 大正本には、各巻に極札が貼られており、それぞれの巻の書写者の名前が書かれて い る ( 1 ) 。これらの人物は、計四十名にものぼり、その中には、関白、太政大臣、大納言 といった公家、法親王、大僧都、大僧正などの僧、また、連歌師や、女性まで、幅広 い人々で構成されている。本発表では、これらを踏まえた上で、大正本と天台宗との 関係、また、公家を中心とした関係について考察した。 大正本の書写者の中には、 天台座主が三人も名を連ねている。梶井宮堯胤法親王 (天 台座主一六一世) 青蓮院宮尊鎮法親王 (同一六三世) 、梶井宮應胤法親王 (同一六五世) である。また、和歌所堯孝法印、堯孝門人堯恵、堯孝門人堯憲らも、天台の僧と推測 される。さらには、實相院増運大僧正も、天台の僧と考えられる。なお、これらの人 物以外にも、僧門関係者とみられる書写者がいる。勧修寺宮常信法親王、相国寺聯輝 軒就山、大慈院大僧都らである。 大正本は、書写者の約四分の一を僧侶が占めており、さらに、そのうちの半数以上 が天台宗の僧侶である。大正本書写当時の宗派の規模や、人物関係などが影響してい ると考えられるが、 『花鳥余情』が、その一因であると考えられる。 花鳥余情 源 氏 物 語 の 注 釈 は、 『 花 鳥 余 情 』 を 境 に し て、 古 注 と 旧 注 に 峻 別 さ れ る ( 2 ) 。 特 に 注 目 するべきところは、今までの古注が故事、出典、引き歌などの説明が中心であったの に対して、注釈にあたって『花鳥余情』は天台教学を応用した点にあ る ( 3 ) 。 この点から、 『源氏物語』を書写するには、単に能書家であるだけではなく、 『源氏 物語』に対する知識や、しっかりとした内容把握が求められていたのではないかと予 想し、書写者を選定する際に、天台宗関係者を多く含めたと考えた。 その考察の一助として、 『花鳥余情』の著者である兼良の次男の一条関白冬良公(以 下、冬良)が書写者の中に入っているのも、非常に興味深い事実である。冬良は、父 兼良の学才を受け、 『新撰 莬 玖波 集 ( 4 ) 』を関白として選進し、 さらには序文を著している。 この点からも、兼良から十分な天台教学について学んでいると推測され、 『源氏物語』 の解釈にあたって、天台教学を活用できたと考えられるのである。 大正本と天台宗 さらに、大正本の書写者による、天台宗に関連する書籍を発表し た ( 5 ) 。数が多い順に 述べていくと、 尊鎮が三十六本、 堯胤が十本、 應胤が六本、 忍継が五本、 眞賢が二本、 堯恵、蓮空、基綱、増運が一本ずつである。なお、忍継は徳大寺太政大臣實淳、眞賢 は万里小路賢房、蓮空は甘露寺大納言親長の、それぞれの法名であり、基綱は姉小路 基綱のことであ る ( 6 ) 。 特に、基綱の名が見られるのが、非常に気になる点である。基綱は、最終巻の書写 を担当していることから、大正本書写にあたっての責任者や発起人と考えられる。さ らに、基綱が著した『禁中御八講記』は仏教教学振興の目的も考慮したと考えられて おり、天台教学と大正本書写の関連を示唆する資料と思われる。詳細の内容について は、精査、精読が未了であるので、その他の書籍の性格、大正本、天台教学などの調 査も含め、今後の課題とした。 こ の よ う に、 天 台 宗 に 関 す る 書 籍 の 数 も、 多 く あ る こ と か ら、 天 台 教 学 の 知 識 と、 大正本の関わりは薄いものではないということが窺える。早急な結論付けは避けたい が、先述したように、天台宗関係者を意図的に多く、書写者として選定した可能性も 充分にあると考えられる。 大正本と公家 また、大正本の書写者の中で、公家の相関関係についての考察を発表した。 前 田 雅 之 の 主 張 ( 7 ) を 足 が か り に し 、 歌 合 や 、 歌 集 編 纂 な ど の 、 公 的 行 事 の 秩 序 で あ っ た

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61 「 公 」( 院 ・ 天 皇 ― 公 家 ・ 寺 家 )の 形 が 、大 正 本 の 書 写 者 に と 同 じ 構 成 で あ る こ と を 発 表 し た 。 また、親長家の歌合の月次会に注目し、それが、大正本の書写者との関連を考察し た。勧修寺家や万里小路家、中御門宣胤、さらには、飯尾家、三善家らが歌合に参加 しており、 これらの人々は、 大正本の書写者と符号することを指摘し、 歌合のメンバー が大正本の書写者の母体になった可能性があるということを示した。 以 上 の よ う に、 概 説 的 に で は あ る が、 大 正 本 の 書 写 者 に つ い て、 新 た な 見 地 か ら、 その関係性をまとめた。書写者の天台宗の関係、また、親長の交流圏の人物も非常に 重要だといえる。まだ、結論づけるには早急ではあるが、より関係性をはっきりさせ るために、今後の考察や研究が重要である。 (1)桐壷巻には、書写者以外にも、箱書きと外題を書いた人物の名の極札が貼付され ている。また、本発表の書写者は、この極札に依るものである。 (2)伊 井 春 樹 ほ か 編『 講 座 源 氏 物 語 研 究 第 三 巻 源 氏 物 語 の 注 釈 史 』( お う ふ う   平 成十九年二月) (3)三角洋一 「源氏物語と仏教」   (仏教文学会合同例会資料   平成二十三年   十二月) (4)『新撰 莬 玖波集』は宗祇を中心として、宗長、肖柏らの協力により撰集され、明 応四年(一四九五)成立したものであるが、宗長、肖柏らは、大正本の書写者で ある。また、大正本の書写者の多くが、同集に入集していることから、なんらか の関係性が見て取れる。 (5)『 昭 和 現 存   天 台 書 籍 綜 合 目 録 』( 渋 谷 亮 泰   法 蔵 館   昭 和 五 十 三 年 ) に 掲 載 さ れているものを参考にした。また、発表時には、書籍と著者(または書写者)の 一覧表をレジュメとして添付したが、紙幅の都合上割愛する。 (6)た だ、 眞 賢 に 関 し て は、 そ の 著 書 に 自 筆 の 序 文 が あ り、 『 昭 和 現 存   天 台 書 籍 綜 合 目 録 』 に よ る と、 「 寶 永 ……」 と 始 ま る こ と か ら、 年 代 に 矛 盾 が 生 じ、 別 人 と 思われる。 (7)「和歌は〈公共圏〉を生み出す――室町期武家詠作から」 (『聖なる声――和歌に ひそむ力』三弥井書店   平成二十三年五月) (大学院文学研究科博士後期課程国文学専攻)

参照

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