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異分野の学生たちによる『ぐんま方言かるた』制作プロジェクトとその教育効果 : 仮想企業「繭美蚕」の活動を中心に(投稿原稿(査読付))

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Ⅰ.はじめに

 本学が位置する群馬県には,『上毛かるた』に代表 されるように,かるたへの愛着という伝統や教育文化 が存在する。このことを原口・山口(2010)では, 「全国最多の郷土かるたを有する他の追随を許さない わが国郷土かるた文化の最大中心地である」と紹介し ている。『上毛かるた』は,群馬県内の子どもに群馬 県の名物,歴史などを教えるために 1947 年に作られ た地方かるたである。現在でも冬になると,小学生を 中心に「上毛かるた大会」が地域ごとに行われ,県大 会も開催されている。そのため,群馬県民であれば, 誰でも読み句を言うことができると言われている。こ の他にも,郷土かるたが 115 種あり,この数は群馬県 が全国 1 位である。1)  『ぐんま方言かるた』は,このかるた文化を活用し ながら,かるたを通して地方文化の一つである群馬の 方言を地域の人々や子どもたちに伝えようとして考え られた商品である(写真1)。2012年度から3年計画の 本学の研究者 3 名による共同研究プロジェクトの一環 として,方言研究・美術教育・産学連携を学ぶ学生た ちが主体となって制作され,2012 年 12 月に販売が開 始された。全国各地に方言かるたは存在するが,大学 発で学生が制作に携わったものは珍しい。また,『ぐ んま方言かるた』は,学生たちの交渉により,㈱エフ エム群馬の協力を得ることができ,読み手 CD 付きか るたとなった点で,産学連携商品ともなっている。  本論文では,『ぐんま方言かるた』を制作していく プロジェクトの過程を,商品化・広報・販売を担当し た仮想企業「繭まゆ美み蚕さん」2)の活動を中心に概観し,さら に商品の完成後に新たに生まれた活動内容も追ってい く。また,このプロジェクトをアクティブ・ラーニン グ3)の 1 つとして捉え,異なる 3 つの分野の学生たち が主体となって協同して行いながら,どのような成長 を遂げていったのかを社会人基礎力4)の観点から分析 する。

Ⅱ.『ぐんま方言かるた』制作プロジェクト

 ここでは,共同研究の一環として行われた『ぐんま 方言かるた』制作プロジェクトの概要と,その制作が どのような流れで行われたのかを説明する。 1.概要  『ぐんま方言かるた』の制作企画は,若者の方言や 群馬の方言を研究している本学の佐藤髙司教授の立案 で始められた。全国各地にある方言かるたをヒントに, 群馬県でも方言かるたを制作することができないか, さらには本学の特徴5)を活かして制作することができ

Instructional Practice

The Journal of Economic Education No.33, September, 2014

実践記録

異分野の学生たちによる

『ぐんま方言かるた』

制作プロジェクトとその教育効果

─仮想企業「繭美蚕」の活動を中心に─

A Project for Creating “Gunma Dialect Karuta” by Students from Various Fields of Study and Its Educational Effects : Focusing on the Activities of the Virtual Company ‘Mayumisan’

兼本 雅章(共愛学園前橋国際大学) Kanemoto, Masaaki

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ないか,を考えたという。そこで,読み札選定,取り 札制作,商品化・広報・販売の 3 つの部門に分け,そ れぞれを学内の専門の研究者と学生に任せて行うプロ ジェクトにすることにした。  読み札選定は方言研究ゼミである佐藤髙司教授とそ のゼミ生たち(3 年生 6 名・4 年生 5 名(当時))が学 生公募とゼミ独自の考案により行った。6)佐藤ゼミは, 群馬の方言や若者の方言(新方言)を中心に研究する 佐藤髙司教授の指導のもと,群馬の方言や日本語の研 究を通して,国語教育・日本語教育・社会教育に積極 的に参加し,それに伴う様々な活動を行う国語を中心 とした教育系のゼミである。  取り札制作は美術教育ゼミである本多正直教授とそ のゼミ生たち(3 年生 6 名(当時))が担い,取り札に は群馬の方言がもつ素朴な温かみを表現するために 「切り絵」を用いた。本多ゼミは,美術教育と彫刻制 作(石彫と彫塑)を中心に研究・創作を行う本多正直 教授の指導のもと,芸術と美術教育の様々な表現活動 や分野別の技法など,多方面から表現活動や芸術によ る教育について考える美術を専門に学ぶ教育系のゼミ である。  かるたの商品化・広報・販売は筆者のゼミ生有志で 運営する繭美蚕(3 年生 7 名・4 年生 1 名(当時))が 担当した。繭美蚕とは,仮想企業プログラム7)を使っ た地域との連携に関する研究を行う筆者のゼミ生たち が代々引き継ぎながら,2005 年から運営する仮想企 業である。2009 年からは,この仮想企業プログラム からは独立し,商品開発だけでなく販売活動など,よ り実際の企業に近い形の活動に移行している。設立当 初は,シルクを使った商品開発を門倉メリヤス㈱とと もに行っていたが,2010 年には新たに㈱旅がらす本 舗清月堂とのお菓子の共同開発を開始した。8)この活 動を通して,繭美蚕がコンスタントに商品を出してい ること,特に『雪ぽんクランチ』9)というヒット商品 を生んだことが『ぐんま方言かるた』の制作に携わる きっかけとなった。  このような 3 つのゼミの学生たちが主体となって制 作された『ぐんま方言かるた』の目的は,商品を通し た地域文化・地域教育への貢献や地域経済の活性化で ある。また,このプロジェクトでは,異なる分野の学 生たち自らが主体となって,協同作業をすることに よって,社会で役立つ力の向上を目指し,学校や企業 等の社会現場で活躍できる人材の育成も視野に入れた。 そのため,教員たちは,プロジェクトの活動を支援す るファシリテーターに徹し,指導的・指示的な役割は 最小限に抑えることで,学生たちができるだけ自ら考 え行動できるようにサポートした。 2.制作の流れ  『ぐんま方言かるた』制作プロジェクトの内容が, 各ゼミに伝わり,学生たちが参加することが確認され ると,全体を統括する繭美蚕がまず手がけたのは,商 品開発スケジュールの見直しである。実は,教員が大 学に提出した共同研究の計画書には,読み札選定,取 り札制作,販売計画のそれぞれに半年ずつをかけ,1 年後の夏頃にかるたを売り出すスケジュールであった (表 1)。しかし,ここで繭美蚕の学生たちから,「か るたが最も遊ばれる時期として考えられるのが年末年 始であるのに,夏に発売するのはおかしいのではない か」という疑問が出る。売れる商品にするためには, 販売する時期も重要であることは,先代までの繭美蚕 の活動経験からわかっていた。そこで,製造を依頼す る予定の㈱ディスカバリーファームに繭美蚕が納期を 問い合わせてみると,データの入稿から納品までが最 短でも 1 ヶ月半は必要であるという。12 月の販売開始 のために 11 月末までに商品を納品してもらうことを 考えると,余裕を持って 9 月末までにすべてのデータ を完成させる必要があった。そこで,繭美蚕が本多正 直教授から取り札を制作するために必要とされる時間 表 1 当初の制作スケジュール 表 2 改訂された制作スケジュール

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を聞き,それを考慮に入れて,商品開発スケジュール を組み直した(表 2)。  佐藤ゼミが読み札を選定する時間は,当初の予定の 半年から大幅に削減され,2 ヶ月あまりになってし まった。この変更に対して,佐藤ゼミからは不満も出 たが,商品を完成させ,年内には販売を開始するため に納得してもらった。また,決まった読み札から順に 本多ゼミに回してもらうことにし,できるだけ取り札 を制作するための時間を確保するようにした。  本多ゼミは,取り札のデザインに切り絵を使うこと にした。その理由は,群馬県の地域性として,切り絵 が県内の美術館で多くみられることや『モチモチの 木』など小学校の教材にも多く取り入れられているこ とからである。ゼミ生の人数の関係上,図案担当・ カット担当・PC 着色担当の 3 つに作業を分担して制 作を行った。  繭美蚕主導のもと,月に 1 〜 2 回のペースで 3 つの ゼミが集まり,全体会議を行って,プロジェクトを進 めていった。繭美蚕としては,ぐんまちゃんの使用許 可,㈱エフエム群馬との交渉,販路開拓などを手がけ ることになるが,これらの詳細はⅢ節で述べることと する。学生たちは次々と出てくる様々な問題を何とか クリアして,10 月上旬にはすべてのデータを入稿す ることができた。10)

Ⅲ.繭美蚕の役割

 『ぐんま方言かるた』制作プロジェクトにおいて, 繭美蚕がプロジェクトの統括以外に主として行ったも のを大きく 3 つに分けて論述する。 1.商品価値の向上  『ぐんま方言かるた』をより魅力的で流通しやすい 商品とするために,次のようなことを行った。 (1)ぐんまちゃんの採用  『ぐんま方言かるた』は,地元を意識して,パッ ケージデザインなどに群馬らしさを出すことを考えて いた。11)そこで,群馬県のマスコット「ぐんまちゃ ん」を使うことにした。ぐんまちゃんは群馬県に申請 すれば無料で使用できる。どのような手順で許可が下 りるかを群馬県企画課の担当者に聞いた後に,本多ゼ ミで作成した切り絵風ぐんまちゃんの図案を持ってい くことになる。しかしながら,元にしたイラスト自体 が正式なぐんまちゃんと認定されていないものである という理由で却下されてしまう。そこで,デザインサ ンプルをもらい,作成し直したものを再度持っていく ことになる。しかし,その案も最初は通らなかった。 また,取り札「け」にはぐんまちゃんの正式イラスト をそのまま採用したが,これにも修正依頼がきた。と もに,ぐんまちゃんのイメージを損ねないことを配慮 した指示であることはよくわかった。結果として,群 馬県の指導に従い修正することで,利用許可を得るこ とができた。  このようにして,ぐんまちゃんを使うことができた おかげで,東京・銀座にある群馬県のアンテナショッ プ「ぐんまちゃん家」では,販売開始当初から置いて もらうことができた。また,ぐんまちゃんが『ゆる キャラグランプリ 2012』で第 3 位となったことで, 『ぐんま方言かるた』の商品価値も上げてくれたもの と考えられる。12)実際に,インターネット上では「ぐ んまちゃんの方言かるた」「ぐんまちゃんが目印」な どという記述が見られ,ぐんまちゃんを採用した効果 が出ている。 (2)㈱エフエム群馬の協力  『ぐんま方言かるた』は,当初から読み手 CD 付き にする構想があった。それを,地元マスコミとタイ アップすることで,産学連携の商品という位置付けに できないかと考えていた。そこで,白羽の矢をたてた のが本学との親交も深い,㈱エフエム群馬である。  繭美蚕は,5 月に入り,㈱エフエム群馬に協力を依 頼するために企画書の作成を開始する。しかしながら, このプロジェクトは,もともと学生たちが考えたもの ではなかったため,繭美蚕にとっても,これまでの商 品開発とは勝手が違った。企画書作りは難航し,学生 によって作成された当初の企画書はかなりひどいもの であった。しかし,群馬県企画課科学振興室の故上石 洋一室長(当時)の協力も得ながら,何度も書き直し て完成させることができた。繭美蚕は㈱エフエム群馬 にアポイントメントをとり,この企画書を持参して, 協力の依頼に行った。  その結果,㈱エフエム群馬は協力してくれるだけで なく,群馬の方言のより忠実な再現を考え,群馬県出 身のアナウンサー 3 名を選んでくれた。また,収録に 伴うスタジオの提供と音響係の手配もしてくれた。さ らに,販売時の番組等での宣伝も快く引き受けてくれ, 当初想定していた以上の協力を得ることができた。 (3)JAN コードの取得  サンプルとして持っていた多くの方言かるたには JAN コードがついていたため,教員も学生たちも JAN コードは,製造会社がつけてくれるものだと信

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じていた。すべてのデザインが完成し入稿する際に, JAN コードを製造会社の㈱ディスカバリーファーム にお願いすると,それは制作者側で取得しないといけ ないという。繭美蚕は,すぐに前橋商工会議所に問合 せをした。前橋商工会議所の担当者からは,JAN コードを取得する場合には,個人・プロジェクト・大 学・学園などのどの単位で行うのか,また取得しない という選択肢もあることをアドバイスされる。時間の ない中で急いで協議をし,結局,大学で取得すること になった。相談の段階から,JAN コードが緊急に必 要である事情を知っていた前橋商工会議所の計らいも あってか,通常 2 週間程度かかるところを異例の 6 日 間で取得でき,商品の製造に間に合わせることができ た。加えて,JAN コードが取得できたことで,繭美 蚕が企業と取引交渉をする際,特に大手の取引先とは スムーズに話を進めることができた。結果として, JAN コードの取得は正解であったと言える。 2.販路開拓  『ぐんま方言かるた』の完成が近づき,繭美蚕は販 路を探すことになる。これまでの商品開発では,基本 的に支援企業が持っている販路を活用することが一般 的であった。よって,繭美蚕として,このプロジェク トが初めて販路を開拓する機会となった。13)  繭美蚕は,販路確保のための説明資料を作り,リス トアップした群馬県内の大手書店などに電話やメール などで営業をかけた。しかし,「担当者が不在」「また 後で連絡します」「上毛かるたが置いてあるから」な ど,営業先からの反応はあまり良くなく,資料を送っ てもその後の連絡はない,ということもあった。学生 たちは,あまりの反応のなさに,どのように対応した らよいのかがわからないまま月日だけが過ぎていった。 その結果,販売開始の段階で決まっていた販路は,大 学と取引のある㈱紀伊國屋書店の前橋店,繭美蚕の支 援企業である㈱旅がらす本舗清月堂の全店舗,伊香保 温泉にある旅館のいかほ秀水園,ぐんまちゃん家,大 学しかなかった。  販売開始と前後して,㈱エフエム群馬の複数の番組 で『ぐんま方言かるた』が取り扱われると,その番組 を視聴した人たちが書店に問合せをするようになった。 しかし,既存の出版社などが出したものではないため, 書店側はどこに問合わせていいのかがわからず,対応 が大変であったようである。繭美蚕は,大学に来る新 規の問合せに対応しながら,最初に営業をかけたとこ ろに引き続き交渉を続けていった。現物ができたこと や㈱エフエム群馬などで取り上げてもらったことが功 を奏し,順調に販路を拡大していくことになる。特に, 高崎駅の物産エリア「群馬いろは」に置けることに なったことは大きい。なぜなら,『ぐんま方言かるた』 は,お土産としての価値もあると考えていたからであ る。14)この取扱いには,学生たちが大学の授業でお世 話になった㈱ユアサが骨を折ってくれた。ここは,本 学におけるこれまでの学生たちの活動が功を奏したと 言える。  その後,12 月 23 日の上毛新聞(2012)で「群馬弁 かるた 前橋国際大生が商品化」と掲載されると県内 からは一気に問合せが来ることになる。また,ほぼ同 じタイミングで共同通信社が全国に配信を行ったため, 県外からも問合せが多数寄せられるようになった。学 生たちは冬休みにも関わらず,新規の取扱いおよび追 加発注の対応に追われることになるが,これは年が明 けても続くことになる。 3.話題作り  『ぐんま方言かるた』を売り出すにあたり,繭美蚕 は大学とともに,マスコミに取り上げてもらうための 話題作りをする計画を 2 つたてた。  1 つは,大学で記者会見を行うことである。内容と しては,平田郁美学長のあいさつと佐藤髙司教授によ る概要の簡単な説明に続き,読み札選定,取り札制作, 商品化・広報・販売のそれぞれを担当した学生たちの 代表者がパワーポイントによる発表を行う,という学 生をメインとしたものである。しかしながら,記者会 見の日程が衆議院議員総選挙期間とぶつかってしまい, 当日来たマスコミは,群馬テレビ・エフエム群馬・上 毛新聞・ぐんま経済新聞の 4 社しかなかった。しかも, 音声メディアの群馬テレビ・エフエム群馬は,すぐ取 り上げてくれたが,新聞社の 2 社はすぐには紙面に載 らなかった。学生たちの経験と言う面では貴重なもの となったが,『ぐんま方言かるた』の宣伝としては即 効性があまり高くない結果となってしまった。  もう 1 つは,大学が連携協定を結んでいる前橋市と 伊勢崎市の小中学校等に寄贈することである。15)これ は,もともと『ぐんま方言かるた』を教育現場で使っ てほしいという考えがあったからである。実際に,両 市の教育委員会を訪問し,教育長と対談しながら,学 生たちが『ぐんま方言かるた』の説明を行った。この 件自体が,マスコミに紹介されることはなかったが, これがきっかけで,伊勢崎市立北小学校では『ぐんま 方言かるた』を使った授業が行われることになっ

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た。16)このことが,『ぐんま方言かるた』を制作した というプロジェクトで終わらずに,商品完成後の今後 の新たな活動のきっかけとなることになる。

Ⅳ.制作を通した学生たちの成長

 ここでは,商品開発の経過を追いながら,学生たち がどのように成長していったのかを,社会人基礎力の 観点から考察する。  商品がほぼ完成した 2012 年 11 月の段階で,それま での活動内容を振り返り,社会人基礎力の観点でまと めたものを,社会人基礎力育成グランプリ 2013 関東 地区予選大会において『「ぐんま方言かるた」制作プ ロジェクト〜異分野の学生たちによる新しい地域文化 の創造〜』というタイトルで学生たちが発表した。以 下はその内容の抜粋である。  異分野の学生たちが協同で制作することは,教員が 想像するよりも学生たちにとっては容易なことではな かった。コースやゼミが違えば,それぞれ学生の気質 も違い,繭美蚕自身もこれまでの企業との商品開発と は違う難しさを体験することになった。  プロジェクト開始当初は,ゼミの活動の一環だから 参加しているという佐藤ゼミ,「商品」ではなく「作 品」を作るという本多ゼミ,「売れる商品」を作ると いう繭美蚕と,それぞれがばらばらな方向を向いてい た。よって,全体会議をやっても何かぎこちない感じ が拭えず,お互いに自分たちのやることしか考えられ ずにいた。17)しかしながら,プロジェクトが進むにつ れて,それぞれの立場や考え方がだんだんとわかって くると,役割の分担を見直したり,新たに出てきた課 題を皆で解決したりと,少しずつではあるがうまく調 整しながら制作を進めていけるようになっていった。 全体とすると,「チームで働く力(チームワーク)」の 発信力・傾聴力・柔軟性が伸びたと考えられる。  商品作りという観点で見ていくと,当初,デザイン 関係はすべて本多ゼミにやってもらうことになってい た。しかし,取り札の制作で思った以上に時間がかか り,それ以外のデザインに関わる作業をすることが困 難であることが,時間が進むにつれわかってきた。そ こで,佐藤ゼミが,これまでに扱ったことがない AdobeIllustrator を学び,読み札レイアウトを制作す ることになった。佐藤ゼミは読み札の選定が終わった 段階で,自分たちの役割も終わったと感じていたが, プロジェクトの進捗状況から,全体のサポートをする 必要性を感じるようになっていたのである。また,繭 美蚕もパッケージや CD ジャケットのデザインの原案 を作成するなどの協力を行った。結果的に,データ入 稿の期限までにすべてを完成することができた。この ことは,本多ゼミの視点では働きかけ力や傾聴力が, 佐藤ゼミと繭美蚕の視点では課題発見力や主体性が伸 びたと分析することができる。  しかしながら,時間が経っても,なかなかうまくで きないこともあった。例えば,教員や企業に報告・連 絡・相談をしなければいけないことを学生たちだけで 判断してしまうことである。実際にそれが,プロジェ クトの進行に影響を及ぼしたケースもあった。この他 には,教員の立場から見ると,発信力やコミュニケー ション力は,もっと強化する必要があると感じていた。  この取組みに対し,社会人基礎力育成グランプリ 2013 関東地区予選大会の審査委員からは,「チームで 働く力(チームワーク)」が他のチームと比較しても 評価が高く,「考え抜く力(シンキング)」がチームの ポイントの中で評点が高かった項目とされた。また, 良かった点として,「『チームで働く力(チームワー ク)』の大事さに気づき,大きく成長している様子が 伝わった。3 つのゼミの共同作業という点が面白く, チーム間の対立を克服する途中の課題がよく整理され ていた」,改善すべき点として,「地域文化の創造にい かにつなげていくかがあるともっと良い」との指摘を 受けた。  結果として,この発表において優秀指導賞を受賞で きたことから,第三者からも社会人基礎力の観点で高 い評価を得たプロジェクトであったと言える。学生た ちにとっては,このことが「自分のゼミが頑張ってで きたかるた」という認識から「プロジェクトメンバー 全員が協力して制作したかるた」に変わるきっかけに なった。それが,商品完成後の活動によい影響を与え たことは確かである。

Ⅴ.新しいステージでの活動

 当初の予定通り,繭美蚕は主に販売活動に移ってい くが,想定していなかったことが次々と出てくること になる。一方,佐藤ゼミと本多ゼミも『ぐんま方言か るた』が完成して終わりではなく,地域との活動へシ フトしていくこととなっていった。 1.繭美蚕の新たな業務  『ぐんま方言かるた』を取扱う前までの繭美蚕の基 本的な活動スタイルは,支援企業と協力しながら,商

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品開発を行い,それをイベント などで販売する,というもので あった。繭美蚕の収益は,商品 開発の開発協力費とイベントな どでの売上げの一部から得られ る,というシンプルな構図で, 会計上もあまり難しいことはな かった。  しかしながら,今回の『ぐん ま方言かるた』に関しては,商 品の取扱いも含めて,すべてが 任されることになった。当初は, 自らが販路を見つけて,販売活 動をしていく,という程度で考 えていたが,事務的な作業も含め,やらなければなら ないことが想像以上に膨大にあることが活動をしてい くにつれてわかってくる。例えば,取扱店との間では, 取扱いの形態や仕入値,納品方法や支払い方法などの 交渉,それをもとにした覚書の作成,納品書や請求書, 領収書の発行など多岐にわたった。販売店の形態など によって,形式や内容も変わり,それぞれに合わせた 対応をしなければならなかった。また,在庫や支払い の管理など,企業における総務的な役割をきちんと担 う部門の強化をする必要も出てきた。さらには,商品 を売るための販促用 POP・ポスターの準備とそれら の掲示依頼,Twitter や facebook などの SNS や繭美 蚕のブログやホームページを使った宣伝活動,商品の 配達・配送なども繭美蚕が担う活動であり,当初から プロジェクトに携わっていたメンバーだけでは足りず, 繭美蚕全員で対応する体制になっていった。  この他に,3 刷の際には,資金を大学から融資して もらうための販売計画書の作成を義務付けられたり, 2014 年 4 月からの消費税増税に伴う価格改定や取引先 との交渉に追われたりと,実在する企業と同じような 業務を行っている。これらを通して,社会を知るため のかなり貴重な経験ができているとともに,繭美蚕自 体が様々なタイプの人材が活躍できる場に変貌してき ていると言うこともできる。 2.地域との活動へ  繭美蚕は,これまで行ってきた活動と同様に地域の イベントに積極的に参加し,『ぐんま方言かるた』の 販売をした。その販売活動は,2014 年 2 月末日までに 延べ 35 日に上る。販路に関しても繭美蚕が主体と なって交渉を続け,当初 5 つしかなかった取引先は, 2014 年 2 月末日時点で,取扱店舗数が 100 以上となっ た。また,取引先が楽天市場や Amazon などのイン ターネット通販でも販売するようになった。  その一方で,制作をメインとしてこのプロジェクト に携わっていた佐藤ゼミと本多ゼミの学生たちは,佐 藤ゼミを中心に『ぐんま方言かるた』を使って,地域 と関わる活動にシフトしていくことになる(表 3)。 共同研究の段階では,「小学生対象の『ぐんま方言か るた大会』を学生主導でやらせてみよう」という程度 しか考えていなかったが,地域の小学校や公民館など からの依頼もあり,予想以上に地域に出て活動をする ことになった。このことは,社会人基礎力育成グラン プリで審査委員から指摘された「地域文化の創造にい かにつなげていくか」をまさに実践するものとなった。

Ⅵ.2 年間を通した学生の成長

 当初からこのプロジェクトに関わってきた学生が卒 業することになるため,この 2 年間のプロジェクトを 通した各個人の成長度を,社会人基礎力を基にしたア ンケートで測ってみることにした。この対象者は,佐 藤ゼミが 5 名,本多ゼミが 6 名,繭美蚕が 4 名の合計 15 名である。18)アンケートの内容は,社会人基礎力レ ベル評価基準表のモデル(経済産業省編(2008))を ベースに達成度を 3 段階で評価するものと,このプロ ジェクトを開始する前と比べて,能力が上がったと思 われる能力要素を自己分析して回答するものの 2 種類 とした。  表 4 は,社会人基礎力の達成度に関しての結果をま とめたものである。学生たちの 3 段階の評価を合計し, 人数で割った平均値となっている。全体としてポイン 表 3 2013 年の地域活動一覧 日付 内  容 参加ゼミ・団体 1/23 総合的な学習の時間「ぐんま方言かるたを楽しもう」(伊勢崎市立北小学校) 佐藤ゼミ・本多ゼミエフエム群馬 2/11 「ぐんま方言かるたで遊ぼう!」(ぐんま総合情報センター(ぐんまちゃん家)) 繭美蚕 3/21 「ぐんま方言かるた作ったんさー」(『新しい学びフェスタ 2012』(東京大学)) 佐藤ゼミ・本多ゼミ 4/22 「ぐんまの方言で遊ぼう!ぐんま方言かるた大会」(喫茶去 艸庵:高崎市) 繭美蚕 10/9 3 年生 PTA 行事「ぐんま方言かるた大会」(前橋市立敷島小学校) 佐藤ゼミエフエム群馬 11/17 小学生対象「ぐんま方言かるた大会」(前橋市永明公民館) 佐藤ゼミ・本多ゼミ繭美蚕 12/19 みどり市大間々地域高齢者教室「知ってる?群馬の方言」(みどり市大間々公民館) 佐藤ゼミ・繭美蚕

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トが最も高かったものは実行力・傾聴力・柔軟性の 2.33 で,逆に最も低かったものは働きかけ力・計画力 の 1.87 であった。  この結果をゼミ毎に見ていくと,佐藤ゼミは,全体 的にすべての能力要素で高い傾向にあるが,特に 「チームで働く力(チームワーク)」の項目が高い。こ れには,主に 3 つの理由があると思われる。1 つめは, 制作スケジュールの変更によって,読み札を選定する 時間が短くなったことで,ゼミ内で一致団結して作業 する必要性が出てきたことである。当初予定していた ゼミの授業時間だけでは足りなくなり,授業以外の時 間にも積極的に取組み,期限内に本多ゼミに読み札を 渡すことができた。佐藤ゼミの選定が遅くなれば,か るた全体の制作に影響がでることを十分に理解したか らこそであろう。2 つめは,Ⅳ節でも書いたように, 制作開始当初にあった読み札を選んだら終わり,とい う感覚から,プロジェクトとして携わることに気づき, 完成までコンスタントに作業をしながら,他ゼミとと もに完成に向けて協力して作業していったことである。 3 つめとしては,販売開始後も,地域と関わるイベン トに積極的に関与したことである。特に,2013 年 11 月 17 日に行われた小学生対象『ぐんま方言かるた大 会』は佐藤ゼミが中心となり,地元の公民館との共催 で行った。地域を巻き込みながらも,無事に大会の運 営ができたことは,「チームで働く力(チームワー ク)」を十分に発揮したからだと考えられる。  本多ゼミは,創造力が 2.33 と最も高いのが特徴であ る。これはやはり,取り札の制作という創造的活動が 主であったからであろう。佐藤ゼミから選定された読 み札の中には,「つるべ」など本多ゼミの学生たちが あまりなじみのない言葉も数多く入っていた。そこで, インターネットで調べただけではわからないものは, できるだけ現物を見ようと,可能な限り県内各地に出 かけて行ったのである。つまり,本多ゼミの学生たち は,よりよい取り札を制作し,新しい価値を生むため の努力をしていたのである。「取り札デザインの案を 自ら積極的に出した」「取り札のイメージに添うよう にデザインを考え描けた」「自分のイメージだけでは 足りない部分は,他のメンバーが考えたものを参考に した」という学生たちの記述も,このような背景が あったからこそであろう。逆に,計画力が 1.33 と最も 低いのは,Ⅳ節でも書いたように取り札の制作が当初 の計画通りにいかず,取り札以外のデザイン部分を佐 藤ゼミ・繭美蚕にお願いすることになったことからも わかる。計画力のところに「計画を定めたがうまく進 められなかった」「マイペースにやってしまった」「予 定や作業効率を考えるのが苦手だった」などと書かれ ていた。  繭美蚕は,「前に踏み出す力(アクション)」の項目 が全体的に高い。この背景には,商品化するための統 括する部門を担っていたことから,自分たちだけでな く,プロジェクト参加メンバー全員に対して行動する 意識を常に持っていたことである。このことは,「プ ロジェクト参加メンバーに一人でも多く参加意識を 持ってもらう」「プロジェクト参加メンバー全員の意 見を交換できるように」「他のゼミに迷惑にならない ような行動」という記述が見られたことからもわかる。 また,柔軟性が 2.50 と最も高くなっており,苦労しな がらも意見や立場の違いを理解して進めていった様子 が想像できる。この他に,商品の価値をあげるために ぐんまちゃんの使用や㈱エフエム群馬など学外との交 渉,商品完成後には販路の拡大のための商談など,ど れも最初からうまくいったわけではないが,外部に対 して自分たち自らが行動しなければ何も進まないこと を理解して,積極的な行動をした成果と言えるであろ う。  今度は,このプロジェクトを通して,どの社会人基 礎力の能力要素が伸びたかに注目してみよう(表 5)。 伸びた能力要素として全体の半数以上が答えたのは, 発信力(9名)と実行力(8名)の2つであった。発信 力については,達成度では 2.07 とあまり高くはない。 これは商品完成時の教員の評価で「発信力の強化が もっと必要」と答えていることと一致している。しか しながら,最も伸びた能力要素であると学生たちが答 えていることから,学生たちがもともと持っている発 表 4 社会人基礎力の達成度

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信力のベースがあまり高くなかったと推測される。つ まり,プロジェクトを始める前までは自分の意見を相 手にわかりやすく伝えることが得意ではなかった,と いうことになるだろう。このことから,「いまどきの 学生はコミュニケーション力が低い」と言われる一端 を表しているともとれる。実行力については,達成度 でも高い評価だったことからも,このプロジェクトを 通して,目標をクリアするために確実に行動し,学生 たちが成長してきたことがわかる。  逆に,最も少なかったのは課題発見力(2 名)で あった。課題発見力は,社会人基礎力育成グランプリ の際に行われたトークショーの中で,企業の複数の人 事担当者が 12 の能力要素の中で最も重要だとする一 方で,習得も難しいと答えていた。このプロジェクト は,異分野の学生たちが行った決して易しくないもの であったが,それでも課題発見力を伸ばすことは難し かったようで,「現状を分析することはできても,目 的や課題を明らかにすることがなかなかできなかっ た」と記述した学生が複数いた。社会人基礎力育成グ ランプリの時点では,課題発見力が伸びたと発表して いたが,この結果から見ると,個人としてというより はチームとしてその点に気づき伸びたと解釈すべきな のかもしれない。次に少ないのは,主体性と傾聴力の 4 名であるが,この 2 つの能力要素の達成度はかなり 高い。このことから,これらの能力要素はもともと本 学の学生たちが持っている可能性が高く,本学の学生 の特徴と言うことができそうである。19)  さらに,この結果をゼミ毎に見ていくと,佐藤ゼミ は,達成度が高いのと同様に各能力要素が伸びたと答 える学生が多かった。伸びた能力要素として,発信力 と 5 名全員が答えており,情況把握力・規律性も 4 名 いた。これらの能力要素すべてが「チームで働く力 (チームワーク)」の項目であることも,達成度と同じ 傾向であることから,その背景は同じであろう。本多 ゼミは,伸びた能力要素として,半数が実行力・創造 力・発信力・ストレスコントロール力と答えた。実行 力・創造力に関しては,取り札の制作と密接した関係 があったことがコメントから想像でき,理由は達成度 のところと同様であろう。ストレスコントロール力は 達成度では 1.50 とかなり低く,伸びたと答えた 3 名の 学生のうち 2 名は発揮できなかったというレベル 1 を 選んでいるという特徴がある。これより,本多ゼミの 学生は,もともとストレスに対する耐性が高くない学 生が多かったと推測できる。繭美蚕は,「考え抜く力 (シンキング)」の項目が最も伸びていない。これらの 項目は達成度でもあまり高くないため,繭美蚕のメン バーとしては得意分野ではないと言えそうである。  このように見てくると,それぞれのゼミに与えられ た役割の違いによって能力要素の達成度や伸びが異 なっていることがわかる。20)また,学生たちがこれま でに培われて持っている能力やゼミごとの特性・専門 性などが垣間見える結果となっていることもわかる。

Ⅶ.まとめ

 2012 年 12 月に販売が開始された『ぐんま方言かる た』は,販売開始の2ヶ月後には初回生産の3000箱分 がほぼ底をつく,という予想を超えるヒット商品と なった。2013 年 2 月末に緊急に 3000 箱の増刷をした ことがさらに話題となり,4 月には読売新聞(2013), 日本経済新聞(2013)と立て続けに紹介された。特に, 日本経済新聞は全国版の紙面であったため,東京・銀 座のぐんまちゃん家には問合せが殺到し,持っていた 在庫が 2 日間でなくなってしまう人気ぶりであった。 緊急に50箱を納品したが,それも1ヶ月も経たずに売 り切れてしまった。その後も,『ぐんま方言かるた』 は,順調に販売数を伸ばし,2013 年 11 月にはさらに 4000箱を増刷し,12月中にはその3刷分からの出荷が 始まった。  『ぐんま方言かるた』がここまでのヒット商品に なったのは,群馬県にある根強いかるた文化もあるだ ろうが,教育文化や群馬県人の郷土愛などに支えられ た部分もあるだろう。それは,読売新聞(2014)で 「幅広い世代が楽しめるよう工夫されており,小学校 や地域コミュニティーの集会などで活用されている」 と紹介されていることからも垣間見える。実際に,学 校関係者からは「クラスで使うためにまとめ買いをし 表 5 社会人基礎力の伸び

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ました」と言われることも多かった。21)  さらに,このヒットの後押しとなったのは,2013 年度前期の NHK 連続テレビ小説『あまちゃん』を きっかけに,「方言」に注目が集まったことである。 実際にその観点でも『ぐんま方言かるた』は話題とな り,2013 年 10 月には日経トレンディネット,11 月に は讀賣テレビの『朝生ワイド す・またん!』で,方 言のブームやトレンドというキーワードで取り上げら れた。全国各地にある 100 近い方言かるたの中から, 『ぐんま方言かるた』が選ばれたのは,学生たちが制 作して売れているというだけでなく,年配者が使用す る方言から若者が使用する比較的新しい方言まで網羅 したことも大きく寄与している。狙った商品コンセプ トに対し,ぶれずに学生たちが制作を行ってきた成果 とも言え,『ぐんま方言かるた』はただ単なる商品で はなく,付加価値も生み出している商品であると言え よう。  この『ぐんま方言かるた』の制作が,本来であれば あまり交わることがないような異分野の学生たちに よって協同して行われたことにより,実際の社会に出 る前段階の経験として大変貴重なものになったことは, 社会人基礎力のデータからも明らかである。また, 『ぐんま方言かるた』が売れたことにより,学生たち がこれまでやってきたことに自信が持てたことも大き い。さらに,商品完成後もプロジェクトが発展し, 『ぐんま方言かるた』を活用することによって,学生 たちが小学生やその保護者,地域の住民などと触れ合 う機会ができた。このことによって,学生たちは社会 人基礎力をさらに伸ばすことができただけでなく,地 域に対しても少なからず貢献することができたと言え そうである。実際に,地域活動に最も多く携わった佐 藤ゼミの学生の1人は,社会人基礎力の12の能力要素 のうちの 7 つに地域活動に関連したコメントを書いて いる。これは,自分の行動や自分たちの活動を通し, 地域に貢献した意義を感じていたからであろう。かる たという商品の特性もあるだろうが,ただ単に商品を 作って終わりではなく,それを通して地域とつながる ことも見据えた活動が成功したことを物語っている。 様々な困難と立ち向かいながら,自分たちの手で成功 に導けたことは,アクティブ・ラーニングの取組みと しても大きな成果をもたらしている。  以上のことから,異分野の学生たちが苦労しながら 行った『ぐんま方言かるた』制作プロジェクトは, 『ぐんま方言かるた』がヒット商品になるということ で,地域経済の活性化の一助になり,かるたを通した 活動によって地域文化・地域教育への貢献も徐々にで きている。販売から 1 年以上がたち,当初の目的を予 想以上に果たしていると言えよう。  一方,今後の課題としては,継続した広告・販売活 動を通した『ぐんま方言かるた』の販売数の持続がま ず挙げられる。これには,繭美蚕の広告・販売戦略だ けでなく,佐藤ゼミなどが主体となる地域活動との連 携も重要となるであろう。次に,『ぐんま方言かるた』 の制作に携わった学生たちが2014年3月にすべて卒業 することである。2013 年度の活動からは,制作に関 わっていない後輩たちも一緒にやってきてはいるが, 制作者いなくなる影響は少なからず出るだろう。これ は,繭美蚕において,これまでの先輩たちが残してき た商品を売るのと自分たちが作った商品を売るのとで は,モチベーションの違いが出やすいことからも見て 取れる。2014 年度は,群馬県内の小学生を募った大 規模な「ぐんま方言かるた大会」の計画もあるため, そのモチベーションをいかに維持しながら行っていく かが大きな課題となるだろう。  しかしながら,『ぐんま方言かるた』という商品を 通した活動は,その商品の特徴から様々な新たな展開 が考えられ,地域とのつながりや地域への貢献がさら に深まるようなこともできそうである。22)制作に関 わっていないメンバーだからこそできる新しい斬新な アイディアのもとで,『ぐんま方言かるた』を通した 活動がさらに発展していき,関わった学生たちが制作 メンバーとは違った形での社会人基礎力の成長を遂げ てくれることを期待したい。 註 1) 2008 年 4 月末日現在での調査集計数である(原口・山口 (2010))。 2) 繭美蚕については,Ⅱ.1 節で改めて述べるが,2005 年 度 か ら 5 年 間 の 繭 美 蚕 の 活 動 内 容 に 関 し て は, 兼 本 (2011)に詳しい。 3) アクティブ・ラーニングとは,教員による一方向的な講 義形式の教育とは異なり,学修者の能動的な学修への参 加を取り入れた教授・学習法の総称のことである。 4) 社会人基礎力とは,2006 年 2 月に経済産業省が産学の有 識者による委員会において『職場や地域社会で多様な 人々と仕事をしていくために必要な基礎的な力』として 定義したもので,「前に踏み出す力(アクション)」「考え 抜く力(シンキング)」「チームで働く力(チームワー ク)」の 3 つの能力から構成されている。この 3 つの能力 はさらに細かく 12 の能力要素に分かれており,「前に踏 み出す力(アクション)」は主体性・働きかけ力・実行力, 「考え抜く力(シンキング)」は課題発見力・計画力・創 造力,「チームで働く力(チームワーク)」は発信力・傾 聴力・柔軟性・情況把握力・規律性・ストレスコント ロール力となっている。

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5) 本学は国際社会学部国際社会学科の 1 学部 1 学科しかな いが,その中に国際社会専攻の 4 コース(英語コース, 国際コース,情報・経営コース,心理・人間文化コース) と地域児童教育専攻の 1 コース(児童教育コース)が存 在している。この各コースが学科並みのカリキュラムを 持っているため,1 学部内に様々な専門分野が混在してい る状況となっており,多様性がある。プロジェクトに関 わった方言研究の佐藤ゼミと美術教育の本多ゼミは小学 校教員等を養成する児童・教育コースの学生,繭美蚕は ビジネスの基礎力を養成する情報・経営コースの学生が 主に所属している。 6) 読み札の制作過程とその特徴については,佐藤(2013) が詳しい。 7) 本学では,仮想企業プログラムとして,NPO 法人アント レプレナーシップ開発センター提供の教育プログラム 「バーチャルカンパニー」を使用し,実際に県内の企業の 支援を得ながら,商品開発に取り組む産学連携の授業を 2004 年度から行っている。「バーチャルカンパニー」とは, 現実の社会の課題や産業のしくみなどの理解を通じて, 国際化・情報化時代に対応するアントレプレナーシップ (起業家精神)あふれた人材育成をねらいとして開発され た教育プログラムである。2010 年 4 月,学校と産業界が 連携した教育活動を推進する国際的組織 International PartnershipNetwork が 2 年ごとに開催する国際会議にお いて,これまでの教育効果が評価され,「次世代の担い手 の職業能力開発部門」の GlobalBestAward の特別賞を 日本で初めて受賞した。 8) 2010 年 8 月,門倉メリヤス㈱の門倉重行社長(当時)が 急逝し,その後,会社も閉鎖してしまったため,現在は シルク商品の開発は行っていない。 9) 『雪ぽんクランチ』は,群馬県川場村コシヒカリ「雪ほた か」をポン菓子にして,ハート形のチョコレートに入れ たクランチチョコレートである。川場村の推進する 6 次 産業化・ブランド化に貢献する目的で開発された。繭美 蚕初の産学官連携商品であり,販売開始半年で 10000 箱, 2 年で 30000 箱を突破するヒット商品となった。 10) 制作過程で起こった問題に関しては,Ⅳ節で詳しく述べ る。 11) 読み手 CD のジングルに八木節を採用したことも群馬ら しさを出すことを意識している。 12) ぐんまちゃんは『ゆるキャラグランプリ 2013』でも第 3 位となり,ぐんまちゃんの使用を求める申請が群馬県へ 急増している。 13)『雪ぽんクランチ』の際には,新しい販路を開拓する準備 を㈱旅がらす本舗清月堂とともに行ったが,川場村の意 向でなくなった。 14) 実際に,販売開始から 1 年で,群馬いろはで 400 箱以上, ㈱旅がらす本舗清月堂でも 300 箱以上が売れた。取引先 としても,徐々に旅館やお土産店が増えてきており,お 土産としての価値が認識されてきていると見られる。 15) この寄贈がきっかけで,伊勢崎市教育委員会からの要望 により,伊勢崎市立の幼稚園へも寄贈することになった。 16) この授業には佐藤ゼミと本多ゼミの学生が参加した(表 3)。この様子が,新聞やラジオで取り上げられると,『ぐ んま方言かるた』は再び話題となった。 17) 全体会議には基本的には教員は参加せず,学生主体で進 めさせていたため,教員がその場で調整役を担うことは なかった。 18) 佐藤ゼミは留学生 1 名を除く 5 名とした。繭美蚕は販売 などだけに携わった者もいるため,積極的にプロジェク トに関わった 4 名のみを対象者とした。 19) このことは,達成度が最も高い能力要素の 1 つの柔軟性 に関しても言うことができそうである。 20) 与えられる役割を変えることで,十分ではない能力要素 に対しても,伸びるようなアプローチが可能であるかも しれない。全ての能力要素が一律に伸びることは難しい かもしれないが,そのようなアプローチは少なくとも社 会人基礎力を底上げする方策の 1 つとなりそうである。 21) 読み札選定に関して,「小学校国語教育の教材として利用 できる内容であること」(佐藤(2013),p.77)をきちんと 意識できており,取り札制作に関しても「切り絵」を使 うなど親しみやすさを出した結果であろう。また,CD 付 きかるたの価格相場は 2000 円前後であるにも関わらず, 価格を税込 1500 円と安めに設定したことも教育関係者が まとめ買いをしやすくしたと推察される。 22) 例えば,㈱エフエム群馬とタッグを組んで,『ぐんま方言 かるた』を使ったキャラバン隊を作り,学校や地域を 回って,制作過程の紹介や制作に携わったアナウンサー によるかるたを使った遊びを行うという案などがすでに 出ている。 参考文献 [1] 兼本雅章「繭美蚕(まゆみさん)による産学連携の取組 み」『共愛学園前橋国際大学論集』第 11 号,2011 年, pp.15-30。 [2] 経済産業省編「今日から始める社会人基礎力の育成と評 価〜将来のニッポンを支える若者があふれ出す!〜」角 川学芸出版,2008 年。 [3] 佐藤髙司「「ぐんま方言かるた」読み句の制作過程その特 徴」『共愛学園前橋国際大学論集』第 13 号,2013 年, pp.73-85。 [4] 上毛新聞「群馬弁かるた 前橋国際大生が商品化」『上毛 新聞』2012 年 12 月 23 日朝刊,p.19。 [5] 日本経済新聞「キャンパス発この一品 3 ゼミ連携,地元 文化を再認識 ぐんま方言かるた─共愛学園前橋国際大 学」『日本経済新聞』2013 年 4 月 11 日朝刊,p.25。 [6] 原口美貴子・山口幸男「郷土かるた,上毛かるたの魅力 と意義─郷土かるた王国「群馬」からの発信─」『群馬大 学教育学部紀要 人文・社会科学編』第 59 巻,2010 年, pp.9-20。 [7] 読売新聞「方言かるた「えれー人気」」『読売新聞』2013 年 4 月 5 日群馬版朝刊,p.27。 [8] 読売新聞「教育ルネサンス 方言を伝える 4 学生がかる た制作 教材にも」」『読売新聞』2014 年 2 月 14 日朝刊, p.15。

参照

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