1 産地の概況と背景 大阪府南河内地域は府の南東部に位置する.この 地域は,府内最大のブドウ産地であり,奈良県との 府県境の金剛生駒山系沿いの傾斜を利用して,約 260ha でブドウが栽培されている.主力品種はデラ ウェアで,約 80% が簡易な構造の波状型ハウスで 栽培されている(第 1 図). 波状型ハウスは,低価格で傾斜地にも設置が可能 な反面,棚と天井ビニールとの距離が近く,果実が 高温になり,加えて近年の温暖化の影響もあって, デラウェアの着色不良が現場で問題となっていた. また秋から春にかけては,換気のため朝夕にハウス を開閉する必要があるが,ぶどう栽培農家の平均栽 培面積が約 1ha あることから,その労力が大きな負 担となっていた.そこで,現場の課題解決を図るた め,普及組織である大阪府南河内農と緑の総合事務 所,大阪府中部農と緑の総合事務所,研究機関であ る(地独)大阪府立環境農林水産総合研究所(以下, 研究所),大阪府農政室推進課などの関係機関が連 携して,波状型ビニールハウスの換気を適正かつ効 率的に行う天井ビニールの自動開閉装置の開発及び 実証を行った.加えて,ハウス内の温度を適切に管 理するため,側面の自動開閉装置の実証を南河内地 域 2ヵ所で行った. 2 産地での取り組みと結果 研究所が 2014 年に開発した,層状に被覆してい る天井ビニールの自動開閉装置(第 2 図)および設 定した温度で段階的(4 段階)に開閉する側面の自 動開閉層(第 3 図)を 2015 年から府内 4ヵ所(羽曳 野市,太子町,柏原市)に設置し展示ほとした. 調査の結果,導入対象の側面の自動開閉装置は, レース状に開く手動開閉に比べて,上下に広くかつ 素早く開閉するため,急速な換気が可能になった. 加えて,段階的な開閉により,きめ細かな開閉がで 新近畿中国四国農業研究 1 62 -64,(2018) 〔普及活動レポート〕
特産ブドウの ICT による省力的高品質化技術の普及
湯ノ谷彰・田中璃子・谷 秀樹
*・磯部武志
**・溝淵直樹
*** 大阪府 南河内農と緑の総合事務所 農の普及課 *大阪府 中部農と緑の総合事務所 農の普及課 **地方独立行政法人 大阪府立環境農林水産総合研究所 ***大阪府農政室推進課 第 1 図 ブドウの波状型ハウス 第 2 図 天井ビニールの自動開閉装置つながること,さらには,気温をデータ数値化する ことで,経験に基づき感覚的に行っていた温度管理 が必ずしも正確ではないことがわかった.これらの ことから,自動開閉装置と遠隔温度把握装置を組み 合わせることにより,省力的に早期に高品質なブド ウを生産できることを実証した. 3 省力的高品質化技術の普及 これらの技術を普及するため,2017 年 1 月に主産 地である羽曳野市と太子町の農業者約 100 人を対象 に講習会を開催し,自動開閉装置などの導入による 省力的高品質化について説明したところ,農業者は 熱心に聞くとともに,補助事業などについての質問 がでるなど,関心が高かった.(第 5 図).また,3 月には特に関心のある若手農業者 10 人を対象に現 地検討会を開催したところ,実際に装置を見て導入 意向を示す農業者も多数いた(第 6 図).さらに, きることで寒冷期の保温効果が高まることが確認さ れた(第 4 図).さらに,ブドウの着色が良好にな ることに加え,収穫時期も 4~13 日早まることがわ かった(第 1 表). しかし,自動換気装置は小動物の食害による電線 の断線や異物の巻き込みなどで,ごく稀に正常に作 動しないこともあった.このため,ハウス内の高温 が続き,ブドウの枯死につながる可能性もあること から,農業者はハウスに赴いて動作確認を行ってい た.そこで農の普及課では研究所と連携し,さらに 省力化ができるよう,2016 年度に太子町で遠隔温度 把握装置の実証試験を行った.その結果,離れたと ころで正確に温度を把握することができ,省力化に 第 3 図 側面の自動開閉装置 -5 0 5 10 15 20 25 30 35 40 45 0:00 1:25 2:50 4:15 5:40 7:05 8:30 9:55 11:20 12:4 5 14 :1 0 15 :3 5 17 :0 0 18 :2 5 19 :5 0 21 :1 5 22 :4 0 ℃ 時刻 展示区 対照区 外気温 第 4 図 ハウス内の温度変化 加温ハウス,2015 年 3 月 27 日. 収穫開始日 収穫終了日 展示区1 (H27/28) 5月27日 -13日 6月20日 -5日 対照区1 (H27/28) 6月9日 - 6月25日 - 展示区2 (H27/28) 6月28日 -7日 7月2日 -7日 対照区2 (H27/28) 7月5日 - 7月9日 - 展示区3 (H28/29) 6月28日 -4日 7月5日 -4日 対照区3 (H28/29) 7月2日 - 7月9日 - 第 1 表 自動開閉装置による出荷時期の早期化 第 5 図 自動換気装置などの導入に向けた講習会 63 湯ノ谷ら:特産ブドウの ICT 技術の普及
2017 年度にはこの技術の普及を加速させるため,自 動開閉装置などの導入マニュアルを作成した(第 7 図). 大阪府では,地産地消や減農薬・化学肥料栽培な どに取り組む農業者等を「大阪版認定農業者」とし て認定し,各自が設定した目標達成に向けた取り組 みを支援している.2017 年度には「大阪版認定農業 者支援事業」を活用して,4 戸の 6 ハウスで自動開 閉装置を導入し,うち 4 ハウスで,遠隔温度把握装 置を導入する予定である.また,大阪府では,2017 年度から民間企業と連携して,ICT 技術などの導入 を図る「スマート農業試験導入推進プロジェクト」 を進めており,本プロジェクトを活用して,遠隔温 度把握装置などのレンタルを行う予定である. 4 さらなる省力・高品質化へ 今後も,導入マニュアルの活用等により,自動開 閉装置や遠隔温度把握装置に加えて,簡易かん水装 置やミスト冷却装置などについて,研究所の技術開 発担当者と連携して,天候に左右されずに,安定的 に高品質なブドウを生産する環境制御技術の実証・ 普及を進めたい.これにより,大阪府のブドウをブ ランド化し,農業者の所得を向上させるとともに, 産地を活性化していく. 第 7 図 自動開閉装置導入マニュアル 第 6 図 実証ほ場での現地検討会 新近畿中国四国農業研究 第 1 号(2018) 64