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脳梗塞モデルラットの記憶障害に対するトレッドミル運動の効果

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Academic year: 2021

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(1)理学療法学 第 42 巻第 8 号 667 ~ 脳梗塞モデルラットの記憶障害に対するトレッドミル運動の効果 668 頁(2015 年). 667. 合同シンポジウム 4(日本生理学会). 脳梗塞モデルラットの記憶障害に対するトレッドミル運動の効果* 石 田 和 人 1) 山内(嶋田)悠 2) 濱川みちる 3). 運動による記憶機能改善効果 運動は脳梗塞発症後の機能回復に有効な手段である。特に, トレッドミル運動に代表される有酸素運動は,動物モデルを用 いた先行研究において,脳梗塞の機能回復に寄与することが報 –4). 告されている 1. 。また,有酸素運動は海馬での細胞死を抑制. し,短期記憶の回復を図ること 5),また海馬での神経新生が促 進され空間記憶の回復がもたらされること 6)などが報告され ている。このベースには,運動を行うことにより,海馬におい て脳由来神経栄養因子(brain-derived neurotrophic factor:以 下,BDNF)の発現増加が生じ,神経新生ならびにシナプス新 生を誘導するものと考えられる. 図 実験の概要 脳梗塞モデル作成手術の 1 日後,麻痺の有無を確認し,4 群 に分けた(低速度群,高速度群,梗塞群,Sham 群).トレッ ドミル運動を手術 4 日後から 4 週間毎日実施し,運動期間の 最後に記憶機能評価を行い,その後脳組織を採取して組織学 的評価に供した.. 7). 。すなわち,脳梗塞ラットに. 対する運動の効果について,運動障害の改善のみならず,海馬. る記憶機能改善効果についての検討を行った. 12). 。. 機能の促進に基づく記憶障害の改善効果も期待できることが想 定される。. 1.実験の概要. また,このような運動の効果を検討するうえで,その最適条. 実験動物には,Wistar 系雄性ラット(7 週齢,200 ~ 220  g). 件(運動の強度,時間,頻度,期間,種類,タイミング)を示. を用いた。脳梗塞モデル作成手術の翌日,高速度(22  m/ 分). すことは,臨床応用にもつながる重要な視点であると考えら. で運動させる高速度群,低速度(8  m/ 分)で運動させる低速. れ,現在,多くの研究者が注目している 8)。. 度群,梗塞を起こすだけの梗塞群,偽手術を施す Sham 群の. 正常マウスを用いた検討では,高強度運動よりも低強度の運. 4 群に振り分けた(図)。脳梗塞モデルには,中大脳動脈虚血. 動の方が,BDNF の発現増加を促進させること 9),また神経新. 再 潅 流 モ デ ル(transient middle cerebral artery occlusion:. 生が高まること. 10). が報告されている。また,運動の移動距離 11). t-MCAO)を用いた 13)。4%抱水クロラール溶液(10  ml/kg,. 。このよ. 腹腔投与)による深麻酔下で,4-0 ナイロン糸を材料として作. うな海馬における BDNF の発現および神経新生は,記憶形成. 成した塞栓糸を内頸動脈に向けて挿入し,中大脳動脈の起始部. に重要な機序であると考えられ,その効果が運動の条件(強度). に達するようにした。その後,塞栓糸を 90 分間留置し虚血状. によって異なるとすれば,記憶機能を高める運動(理学療法). 態を維持した後,抜去し血流を再灌流させた。なお,Sham 群. を処方する上で重要な視点となりうる。. は同様の手術展開を進め,塞栓糸の挿入は行わなかった。. に依存して BDNF の発現が高まるとの報告もある. 脳梗塞モデルを用いた記憶障害改善効果の検証 我々は脳梗塞モデルラットを用いて,トレッドミル運動によ. トレッドミル走は,手術 4 日後から 4 週間,毎日 30 分間実 施した。運動期間の最後 4 日間で記憶機能評価を行い,その後 脳組織を採取し組織学的評価を行った(図)。組織学的評価で は,まず 2,3,5-triphenyltetrazolium chloride(以下,TTC)染. *. Effect of Treadmill Exercise on Memory Dysfunction in Rat with Brain Infarction 1) 名古屋大学大学院医学系研究科リハビリテーション療法学専攻 准 教授 (〒 461–8673 愛知県名古屋市東区大幸南 1–1–20) Kazuto Ishida, PT, PhD: Nagoya University Graduate School of Medicine 2) 株式会社 ジェネラス Haruka (Shimada) Yamauchi, PT, MS: Generous Co., Ltd. 3) 医療法人タピック 沖縄リハビリテーションセンター病院 Michiru Hamakawa, PT, MS: Okinawa Rehabilitation Center Hospital キーワード:脳梗塞モデルラット,記憶障害,運動. 色を用いて,脳梗塞に陥った脳領域を同定し梗塞体積割合を 算出した。続いて TTC 染色に供した脳切片をパラホルムアル デヒド溶液で固定し,パラフィン包埋を行い,脳切片を作成 した。樹状突起マーカーとして知られる微小管関連タンパク (microtubule-associated protein 2: 以 下,MAP2) の 抗 体 を 用いて,免疫組織化学染色に供し,その染色性を光学濃度で解 析した。また,ニッスル染色を施し,海馬の各領域(歯状回, CA3,CA1)における神経細胞数をカウントし,細胞新生およ び傷害性に及ぼす影響を調べた。.

(2) 668. 理学療法学 第 42 巻第 8 号. なお,4 週間連続のトレッドミル運動の最後 4 日間で,記憶. ぞれに対し有意に増加した。しかし,梗塞側歯状回では高速度. 機能試験を実施した。これについては次項で述べる。. 群が低速度群に比較し有意に減少した。また,梗塞側 CA1 で は梗塞群が Sham 群に比較し有意に減少した。. 2.記憶機能評価. 理学療法へのトランスレーション. 1)物体認識試験,位置認識試験 14) これはラットが新奇性を好む特性を利用したものであり,物. 脳梗塞モデルラットに対し 4 週間のトレッドミル運動を実施. 体認識試験では視覚的認知記憶,位置認識試験では空間的認知. することで,記憶機能の改善をもたらし,特に低強度の運動で. 記憶を評価する 14)。40 cm 四方の箱の中に 2 つの同一物体(A1. 高い効果を示すことがわかった。その背景には,海馬における. と A2)を配置し,その中で 3 分間自由に探索させる(訓練試. BDNF の発現増加,樹状突起の拡大および神経新生などをもた. 行) 。その 1 日後,訓練試行と同じ物体(A1)と異なる物体(B). らしている可能性が示唆される。今後,記憶機能改善メカニズ. を同じ位置に置き,その中に再びラットを入れ 3 分間自由に探. ムの解明,神経栄養因子の発現,神経新生などの検討も必要で. 索させる(保持試行) 。このとき,新規物(B)に興味を示した. あると考えられるが,このような生理学的な根拠に基づいたエ. 時間を計測し,総探索時間(A1+B)に対する新奇物探索時間. ビデンスは新たな理学療法の展開に向けた重要な礎となるもの. (B)の割合を算出し,記憶の評価指標とする。すなわち,総探. と考えられる。近い将来,理学療法へのトランスレーションを. 索時間に対する新奇物探索時間の割合の多い方が 1 日前のでき. 念頭においた臨床研究に橋渡しすることにより,脳梗塞患者の. ごとを記憶していると判断する。また,位置認識試験では,2. 記憶機能改善または予防的運動療法の確立などの方向性が期待. つの同一物体(A1,A2)の内,1 日後,物体(A2)のみ,そ. できるものと考えている。. の位置を変え,それを新規物として興味を示す時間を計測する。 2)受動的回避試験 15) これはラットが暗い場所を好む特性を利用した記憶機能評価 法であり,恐怖条件に対する記憶を評価する手段でもある. 16). 。. 暗室(20 × 15 × 25  cm)と明室(40 × 25 × 25  cm)を隣り あわせにセットし,その間をラットが通過できるように穴をつ くっておく。まず,ラットを明室に入れ,暗室に移動した際に は電気刺激(0.3  mA,5 秒間)を与える(訓練施行)。訓練施 行の 3 日後,再びラットを明室に入れ,暗室へ入るまでの時間 を計測し(保持施行),これを記憶の指標とする。ラットが 3 日前の電気刺激(嫌悪刺激)を記憶していれば,本来,好きな 暗室であっても決して入ることはなく,記憶が保持されている と判断される。 3.脳梗塞後の運動による記憶障害改善効果 12) 脳梗塞群は Sham 群と比較して新奇物探索時間の割合が減 少し記憶障害を示した。しかし,4 週間毎日施行するトレッド ミル運動により記憶機能の改善が認められ,その効果は物体認 識試験および位置認識試験の低速度群でより有効であった。一 方,受動的回避試験においても梗塞群が Sham 群に比較し暗 室に入るまでの時間が短縮し記憶障害を示したが,この試験で は,低速度群,高速度群ともに梗塞群に比較し有意な増加を示 し,速度に依存せず記憶機能が改善することを示した。 今回の脳梗塞モデルを用いた検討では,梗塞領域が大脳皮質 体性感覚野,視覚野,聴覚野,嗅周囲皮質,嗅内皮質,線条体 外側部,扁桃体に及んでおり,梗塞体積割合は,低速度群(21.6 ± 2.1%),高速度群(20.7 ± 1.4%)とともに梗塞群(29.3 ± 2.2%)に比較し有意な減少を示した。また樹状突起マーカー である MAP2 の光学濃度は,梗塞側では海馬各領域において 高速度群が Sham 群,低速度群に比較し有意に低かった。また, 非梗塞側では海馬 CA3,CA1 において高速度群が低速度群に 比較し有意に低く,さらに CA1 においては Sham 群に比較し ても有意に低かった。加えて海馬細胞数は梗塞側,非梗塞側歯 状回において低速度群,高速度群ともに Sham 群,梗塞群それ. 文 献 1) Yang YR, Wang RY, et al.: Early and late treadmill training after focal brain ischemia in rats. Neurosci Lett. 2003; 339: 91–94. 2) Matsuda F, Sakakima H, et al.: The effects of early exercise on brain damage and recovery after focal cerebral infarction in rats. Acta Physiologica. 2011; 201: 275–287. 3) Hamakawa M, Ishida A, et al.: Repeated short-term daily exercise ameliorates oxidative cerebral damage and the resultant motor dysfunction after transient ischemia in rats. JCBN. 2013; 53: 8–14. 4) Endres M, Gertz K, et al.: Mechanisms of stroke protection by physical activity. Ann Neurol. 2003; 54: 582–590. 5) Sim YJ, Kim SS, et al.: Treadmill exercise improves short-term memory by suppressing ischemia-induced apoptosis of neuronal cells in gerbils. Neurosci Lett. 2004; 372: 256–261. 6) Luo CX, Jiang J, et al.: Voluntary exercise-induced neurogenesis in the postischemic dentate gyrus is associated with spatial memory recovery from stroke. J Neurosci Res. 2007; 85: 1637–1646. 7) van Praag H: Exercise and the brain: something to chew on. Trends Neurosci. 2009; 32: 283–290. 8) Ploughman M, Austin MW, et al.: The Effects of Poststroke Aerobic Exercise on Neuroplasticity: A Systematic Review of Animal and Clinical Studies. Transl Stroke Res. 2015; 6: 13–28. 9) Soya H, Nakamura T, et al.: BDNF induction with mild exercise in the rat hippocampus. Biochem Biophys Res Commun. 2007; 358: 961–967. 10) Lou SJ, Liu JY, et al.: Hippocampal neurogenesis and gene expression depend on exercise intensity in juvenile rats. Brain Res. 2008; 1210: 48–55. 11) Cotman CW, Berchtold NC: Exercise: a behavioral intervention to enhance brain health and plasticity. Trends Neurosci. 2002; 25: 295–301. 12) Shimada H, Hamakawa M, et al.: Low-speed treadmill running exercise improves memory function after transient middle cerebral artery occlusion in rats. Behav Brain Res. 2013; 243: 21–27. 13) 小泉仁一,吉田洋二,他:虚血性脳浮腫の実験研究 第 1 報 ラッ トを用いた血流再開可能な脳梗塞モデル.脳卒中.1986; 8: 1–8. 14) Ennaceur A, Neave N, et al.: Spontaneous object recognition and object location memory in rats: the effects of lesions in the cingulate cortices, the medial prefrontal cortex, the cingulum bundle and the fornix. Exp Brain Res. 1997; 113: 509–519. 15) Yamamoto M, Tamura A, et al.: Behavioral changes after focal cerebral ischemia by left middle cerebral artery occlusion in rats. Brain Res. 1988; 452: 323–328. 16) 田熊一敞,永井 拓,他:学習・記憶行動の評価法.日本薬理学 雑誌.2007; 130: 112–116..

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