フィリピンの移転価格
税制に関連する新ルール
(
BIR Form No.1709)
の導入とその
Q&A
今月のTOPIC
フィリピンの移転価格税制に関連する新ルール(BIR Form No.1709)の導入とその Q&A (RR No.19-2020、RMC No.76‐2020)
今回は、2020 年 7 月 8 日にフィリピンの税務当局である内国歳入庁(BIR:Bureau of Internal Revenue)から公表
された歳入規則(Revenue Regulation No. 19-2020)、および 7 月 29 日に同 BIR から公表された税務通達
(Revenue Memorandum Circular No. 76-2020)の概要ついてお伝えします。RR No. 19-2020 は移転価格税制に
関連した新フォーム(BIR Form No.1709)の導入を定めたもので、フィリピンのこれまでの移転価格ルールを大きく
変える重要な変更と言えます。また、RMC No.76-2020 は、前述の歳入規則で取り扱いが不明確な点が多くあった ため、それらの疑問点を Q&A 形式で説明する内容となっています。本税務情報では、歳入規則の概要をまず説明 し、その後、Q&A で特に重要と思われる項目をピックアップして解説します。なお、Q&A で、新ルールが 2020 年 3 月 31 日決算企業から適用されることが明記されたため、対象となる在比日系企業におかれましては十分ご留意い ただきますようお願いします。なお、本号は8 月 10 日時点で公表されている情報に基づいています。
RR No.19-2020 の概要
今般公表されたRR No. 19-2020 において、関連当事者間の取引情報を記載する新 BIR フォーム 1709(BIR Form
No. 1709)が導入されることになり、今後、納税者は同フォームに必要情報を記載し、移転価格文書その他の必要 書類と合わせて年次法人所得税申告書に添付し、BIR に提出することが求められます。フィリピンでは、2013 年に 出された移転価格ガイドライン(RR No.2-2013)で移転価格文書の作成・保持義務が規定されたものの、毎年の法 人税申告書に添付して当局に提出する必要はなかったため、今回、ルールが大きく変わることになります。 一方で、フィリピンの場合、各企業の監査済み財務諸表のデータが証券取引委員会(SEC:Securities and Exchange Commission)から入手できるのが通常は決算日から半年以上経ってからであるため、当該年度の移転 価格文書をタイムリーに更新して税務申告期限に間に合わせることは実務的には容易でないと考えられます。なお、 BIR による移転価格調査は、2019 年 8 月に移転価格調査ガイドライン(RAMO No.1-95)が公表されたものの、現
在に至るまであまり実施されていない状況が続いています。この点、RR No.19‐2020 では、BIR 調査官は提出され
た資料をもとに関連当事者間の取引によって引き起こされる収益の過少計上、費用の過大計上がないかの調査を 行うと規定されており、今後の移転価格調査の本格化をうかがわせる内容となっています。
<関連当事者の定義・関連当事者との取引>
RR No. 19-2020 では、関連当事者との取引の開示に関して、フィリピンの財務報告基準である PAS 24 号
(Philippine Accounting Standards 24:関連当事者についての開示)の規定を厳格に適用することを求めています。
具体的には、RR No.19-2020 では下記が関連当事者の定義として定められています(PAS24 号 9 項にも同様の 定義が示されています)。なお、フィリピンの財務報告基準(PFRS)は、国際財務報告基準(IFRS)と同等の基準で す。 a) 個人または当該個人の近親者は、当該個人が次のいずれかに該当する場合には、報告企業と関連があ る (i) 報告企業に対する支配または共同支配を有している (ii) 報告企業に対する重要な影響力を有している (iii) 報告企業または報告企業の親会社の経営幹部の一員である b) 企業は、次のいずれかの条件に該当する場合には、報告企業と関連がある
(i) 当該企業と報告企業が同一のグループの一員である(これは、親会社、子会社および兄弟会社 は互いに関連があることを意味している) (ii) 一方の企業が他方の企業の関連会社または共同支配企業(または、他方の企業が一員となっ ているグループの一員の関連会社または共同支配企業)である (iii) 双方の企業が同一の第三者の共同支配企業である (iv) 一方の企業が第三者の共同支配企業であり、他方の企業が当該第三者の関連会社である (v) 当該企業が報告企業または報告企業と関連がある企業のいずれかの従業員の給付のための 退職後給付制度である。報告企業そのものがそのような制度である場合には、拠出している事 業主も報告企業と関連がある (vi) 当該企業が(a)に示した個人に支配または共同支配されている (vii) (a)(i)に示した個人が当該企業に対する重要な影響力を有しているか、または当該企業(もしくは 当該企業の親会社)の経営幹部の一員である (viii) 企業(または企業が属するグループの一員)が報告企業または報告企業の親会社に経営幹部 サービスを提供している また、関連当事者間の取引例として以下が挙げられています。 a) 物品(完成品または未完成品)の購入または販売 b) 不動産およびその他の資産の購入または販売 c) サービスの提供または受領 d) リース e) 研究・開発の移転 f) ライセンス契約に基づく移転 g) 財務契約に基づく移転(貸付けおよび金銭出資または現物出資を含む) h) 保証または担保の提供 i) 未履行契約を含め、将来において特定の事象が発生した場合または発生しなかった場合に、何らかの履 行義務を負うコミットメント j) 企業に代わって行う負債の決済または当該関連当事者に代わって企業が行う負債の決済 <BIR フォーム 1709 の BIR への提出>
BIR フォーム 1709 は、RR No. 19-2020 の付録(Annex 1)として既に公表されており、同フォームに以下の内容を
記入してBIR に提出する必要があります。 a) 以下の各項目に関して、 i. 親会社 ii. 企業に対して共同支配または重要な影響力を有する企業 iii. 子会社 iv. 関連会社
v. 企業が共同支配投資者となっている共同支配企業 vi. 企業の経営幹部またはその親会社の経営幹部(*) vii. その他の関連当事者 (*)PAS24 の 9 号に「経営幹部」の定義が規定されている。「経営幹部」とは、企業の活動を直接、間接に計画し、指 示を行い、そして支配する権限および責任を有する者(企業の取締役<業務執行権がある者もそれ以外の者も>を 含む)をいう。 b) 以下の取引情報を記入する i. 取引金額 ii. 未決済残高(コミットメントを含む)の金額とそれらの契約条件(担保が設定されているかどうかな ど)および決済に用いられる対価の内容、付与しているまたは付与されている保証の詳細 iii. 未決済残高に対する貸倒引当金 iv. 関連当事者に対する不良債権について期中に認識した費用 また、RR No. 19-2020 では、次の書類を BIR フォーム 1709 に添付することを要求しています。 a) 関連する契約書の認証コピー、または取引の証明 b) 源泉税の申告書(*1)、およびこれに対応する BIR への納税証明 c) 外国税の支払い証明、もしくは外国税務当局から発行された証明(*2) d) APA のコピー(該当する場合)(*3)
e) 移転価格文書(Any transfer pricing documentation)
(*1)“Withholding tax returns”としか書かれておらず、国外関連者との取引に係る最終源泉税申告書を指すのか、
あるいは国内関連者との取引に係るEWT(拡大源泉税)なども対象に含まれるのかが明確でない。
(*2)フィリピン企業が国外関連者からロイヤリティを受け取っているような場合、国外で課税されているケースがあり、
そのような場合の納税証明などが該当するのではと考えられる。
(*3)事前確認制度(APA:Advanced Pricing Agreement)は、現時点でフィリピンでは導入されておらず、APA ガイ
ドラインも公表されていない。 <ペナルティ> RR No.19-2020 の Section 7 では、当歳入規則の規定に違反した場合、税法 250 条およびその他の関連規定に 沿ってペナルティの対象になるとされています。なお、税法 250 条を見ると、必要な情報などの提出に違反した場合 には違反ごとに1,000 ペソ(暦年中に最大で 25,000 ペソ)のペナルティと規定されています。ペナルティについては、 後述するQ&A の Q22 にも BIR の見解が示されているため併せてご覧ください。 <RR No.19-2020 の適用時期>
本歳入規則は、2020 年 7 月 10 日付の Malaya Business Insight 紙に掲載されており、15 日後の 2020 年 7 月 25
日より有効となります。よって、2020 年 4 月決算(税務申告期限 8 月 15 日)以降の企業は、当歳入規則の適用対
象になると考えられます。一方で、2020 年 3 月 31 日決算企業については、その税務申告期限が 2020 年 7 月 15
日であるため、BIR フォーム 1709 の今回の提出は必要ないと当初考えられていましたが、BIR はその後の Q&A で
RMC No.76-2020(新ルールに係る Q&A)の主な内容
今回のRMC No. 76-2020 は全部で 30 の Q&A で構成されていますが、特に重要だと思われる項目について、以 下に説明します。全ての項目について触れることができないため、より詳細については、BIR のウェブサイト (www.bir.gov.ph)上に掲載されているRMC 本文をご覧ください。なお、前述の 2020 年 3 月 31 日決算企業につい ては、税務申告を実際に行った日に関わらず、全ての2020 年 3 月 31 日決算企業が新ルールの対象になるという BIR の見解が示されているため、3 月決算企業の皆様は十分ご留意くださいますようお願いします。なお、2020 年 3 月31 日決算企業の BIR フォーム 1709、添付書類の提出期限は、2020 年 9 月 30 日となっています。 Q1. RR No. 19-2020 発出の根拠は何か。 RR No. 19-2020 は、関連当事者との取引について適切な開示が確実に行われるようにするため、また、そ れらの取引がアームズ・レングス原則(独立企業間原則)で行われていることを確認するために発行された。 最終的には、BIR の移転価格調査の改善と強化を目的としている。BIR フォーム 1709、その他添付書類で 収集された情報により、初期段階において移転価格リスクを評価し、特定の企業の移転価格調査を行うか どうか、適切な決定を行うことができる。BIR のリソースが限られる中、これによって、BIR は重要な移転価 格の問題にリソースを割くことができる。Q2. BIR はこの新フォーム(BIR Form 1709)に含まれる情報をどのように活用するのか。BIR はどのように RR No. 19-2020 を運用し、納税者のコンプライアンスをチェックするのか。 新フォームの目的は、移転価格調査の改善と強化である。また、移転価格文書のコンプライアンスのモニ ターのためにも使用する。 実際には、BIR は新フォームによって下記の情報を取得する。 1) 項目ごと(親会社、企業に対して共同支配または重要な影響力を有する企業、子会社、関連会社、企業が 共同支配投資者となっている共同支配企業、企業の経営幹部またはその親会社の経営幹部、その他の関 連当事者)の関連当事者との取引の総額 2) フィリピンの納税者が、関連当事者との取引を行った国、海外関連当事者の詳細 BIR は、税務調査の対象となる納税者を選択する時に、新フォームおよび移転価格文書の分析を行い、企 業の収益性や、納税金額等も分析する。BIR 調査官は、機能分析、比較可能分析を行い、個別の取引に関 するより詳細な移転価格分析を行う。 新フォームによって、租税条約パートナー国との国際協力、情報交換が容易になる。 Q3. 誰が新 BIR フォームの対象になるのか。 取引のボリュームに関係なく、関連当事者との取引がある納税者は、新フォームを記入する必要がある(*) (*)関連当事者との取引規模などによって、新フォームの提出が免除されるような取り扱いはないと解釈できる。 Q4. 新ルールはいつから有効となるのか。 RR No. 19-2020 は 2020 年 7 月 25 日に有効となっており、2020 年 3 月 31 日決算企業は、実際に税務 申告を行った日に関わらず、新フォームを提出する必要がある。また、それ以降に年次法人所得税申告書 を提出する企業は全て対象となる。よって、RR No. 19-2020 の有効日(2020 年 7 月 25 日)以前に、年次 法人所得税申告を行い、添付書類(監査済み財務諸表など)を提出した2020 年 3 月 31 日決算企業であっ ても、BIR フォーム 1709、および添付書類(移転価格文書など)を提出する必要がある。なお、2020 年 3 月
31 日決算企業の、BIR フォーム 1709、および添付書類の提出期限は本来は 2020 年 7 月 30 日である(た だし、後述の理由により、提出期限が2 ヶ月間延長されている)。 一方で、提出期限(2020 年 7 月 30 日)の 5 日前に RR No. 19-2020 が有効となることや、新型コロナウイ ルス感染症(COVID-19)の影響なども考慮し、2020 年 3 月 31 日決算企業においては、2 ヶ月の猶予を与 え、提出期限を2020 年 9 月 30 日とする。 2019 年 12 月 31 日決算企業、または、2020 年 3 月 31 日より前が決算日の企業は今回の対象にはなら ない。 Q6. 新フォーム、添付書類はどのように提出するのか。 電子での提出を規定する新たな通達が発行されるまでは、マニュアル(基本的には紙ベース)で提出を行う。 Q7. 新フォーム、添付書類はいつまでに提出するのか。 マニュアル申告者の場合、新フォーム、添付書類は、所得税申告期限までに、年次法人所得税申告書と共 に、登録しているBIR(大規模納税者課、RDO など)に提出する。 eFPS(電子)申告者の場合、所得税申告期限もしくは実際に法人所得税申告を行った日のいずれか遅い 日から15 日以内に、新フォーム、添付書類のハードコピーを登録している BIR(大規模納税者課、RDO な ど)に提出し、”Received(受領)”スタンプをもらう。 Q10. 関連当事者との取引がある全ての納税者が、移転価格文書を添付する必要があるのか。 関連当事者との取引がある納税者は、その取引ボリュームに関係なく、移転価格文書を添付する必要があ る。 Q11. 要求される移転価格文書は何か。 提出する移転価格文書は、関連当事者との取引を行う前、もしくは行う時点での移転価格の妥当性を検討 した文書である。また、BIR は、課税年度の確定申告までに作成された移転価格文書も容認する。 つまり、BIR が求める移転価格文書は、取引前、もしくは取引を行う時点で準備された移転価格文書のほか、 取引後に作成されたものであっても、確定申告の前までに準備された移転価格文書である。 Q12. 移転価格文書は毎年更新する必要があるのか。 移転価格文書を毎年更新するかどうかに関わらず、以下の点を考慮する必要がある。 1) 移転価格文書に記載するビジネスやその他の項目に大きな変化がある場合や、関連当事者と の取引に変更があった場合には、移転価格文書は更新されるべきである。 2) そうでない場合は、過去に作成した移転価格文書も可とする(*)。 (*)BIR のコメントを見ると、企業の関連当事者取引やビジネスモデルに大きな変更がない場合、過去に作成した移 転価格文書の提出も認められると読み取れる。 Q13. 親会社が既に取引に関する移転価格文書を持っている場合、子会社はそれを使用できるのか。関連当事者 の移転価格文書、グループのマスターファイルを添付できるのか。 フィリピン納税者の移転価格の妥当性を検討したものであるならば添付は可能である。ただし、ローカルファ イルのほうが、特定の関連者間取引につ いてより詳細な情報を提供するものであるため、好ましい (Preferred)。
Q14. 今年度の提出の際に、過年度作成した移転価格文書を添付することは可能か。 下記の条件を満たす場合、以前作成した移転価格文書が、その後の関連当事者との取引にも適用できる。 1) 過去の移転価格文書が作成された取引と同じ種類の取引が該当する課税年度に行われ、同じ 関連当事者との間で行われた。 2) 納税者が過去に移転価格文書を作成した時と同じ条件であることを証明できる場合。 Q19. 全ての契約書を添付する必要があるのか。契約書が膨大な量の場合はどうなるのか。 契約書の量に関わらず、全ての契約書を添付しなければならない。ハードコピーのほか、当通達のルール に則ったスキャンデータ(DVD-R)での提出も認められる。 Q22. 新フォーム、添付書類を提出しなかった場合はどうなるのか。新フォームに移転価格文書を添付しなかった場 合はどうなるのか。 合理的な理由があり、故意の怠慢によるものではない場合、新フォーム、添付書類の未提出は、税法 250 条に従い、1,000 ペソ以上 25,000 ペソ以下のペナルティが科せられる。 違反が繰り返された場合、税法 274 条に従い、最大金額(25,000 ペソ)のペナルティが科せられる。 新ルールに従うよう当局からの召喚状を受領したにも関わらず、なお違反した場合、パートナー、社長、ゼ ネラルマネージャー、支店長、財務役、担当者、違反の責任を負う従業員などは、税法 266 条に従い、 5,000 ペソ以上 10,000 ペソ以下の罰金、および 1 年以上 2 年以下の懲役が科せられる。
今後の対応について
今回のQ&A で 2020 年 3 月 31 日決算企業について、新フォームおよび添付書類の提出が必要であることが明記 されましたが、一方で、提出期限が9 月 30 日であるため、もし過去に移転価格文書を作成されていないような場合、 非常にタイトなスケジュールになると考えられます。また、添付書類の一つである源泉税申告書(Withholding Tax Returns)などについては、どの範囲で提出が求められるのか本 Q&A でも明らかでないため、今後の対応について、 移転価格の専門家、監査法人などにもご確認いただきますようお願いします。資料に関するお問い合わせ先(PwC フィリピン日系企業部) 東城 健太郎(エグゼクティブディレクター) +63 (2)8459 2065 (直通) +63(917)899 3509 (携帯番号) [email protected] www.pwc.com/ph 林田 俊哉(シニアマネージャー) +63 (2) 8459 3186 (直通) +63(917)805 5728 (携帯番号) [email protected] www.pwc.com/ph
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