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The Japanese Journal of Psychology 1989, Vol. 60, No. 4, Changes of body sensation through muscular relaxation: Using the method of measuring

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1989, Vol. 60, No. 4, 209-215

弛 緩 に よ る 身 体 感 覚 の 変 化

-

触二点間弁別閾の測定を用いて-文 教 大 学 今

Changes

of body sensation

through

muscular

relaxation:

Using

the method

of measuring

tactile

two-point

lien

Yoshitaka

Konno (Faculty

of Education,

Bunkyo University,

Koshigaya,

Saitaa

343)

The purpose of this study was to explore changes in body sensation

through

muscular

relaxa

tion by means of measurement

of tactile two-point limen.

This study comprised two experiments

The first experiment,

in which twenty

female college students

participated,

was carried out to

examine the effect of relaxation

on two point limen, and the relationship

between the acceptance

of relaxation

and two-point

limen.

The second experiment

involved three physically handicapped

children with cerebral palsy and hemiplegia.

To determine

whether

they would show a decrease

in two-point

limen in the shoulders

and forearms

as a function

of improvement

of relaxation,

they were given a week long intensive Motor Action Training,

which was administered

by means

of the relaxation

and movement

training

method established by Naruse.

The results showed that

the two-point limen decreased remarkably

for both normal adult subjects and physically handicapped

subjects

as they relaxed muscular

tension.

Concerning

the acceptance

of relaxation,

the high

acceptance

group showed a large decrease in the two-point

limen,

whereas the low acceptance

group did not show any change.

Key words: relaxation, body sensation, two-point limen, physically handicapped children, accept ance of relaxation. 近 年,障 害 児 の 指導 ・教 育 の 領 域 や 臨 床 心 理 学 の分 野 に お い て,動 作訓 練(成 瀬1973)か ら発 展 した身 体 ・ 動 作 的 な ア ブ ロー チ の方 法 な い し動 作法(成 瀬, 1984) が 関 心 を集 め て い る.す なわ ち,脳 性 ま ひ児 を は じめ と して,自 閉 症 児 や 多 動 児,神 経 症 患 者,分 裂 病 患 者 な ど は,精 神 的 な過 程 と身 体 的 な過 程 との問 にあ る種 の乖 離 をお こ し,そ のた め に 自 己意 識 の確 立 は も とよ り,行 動 や 動 作 に対 す る 自 己 コン トロー ル の確 立 に困 難 を きた し て い る.そ こ で,こ の ア プ ロー チ で は,筋 緊 張 の弛 緩 や 能 動 的 な身 体 の動 き に よ っ て もた ら され る身 体 に対 す る 気 づ きを 媒 介 に して,情 動 や 感 情,更 に は 自己 へ の気 づ きを もた ら し,身 体 動 作 の コ ン トロ ール とと も に精 神 過 程 に 対 す る コ ン トロ ール の 確 立 を 援 助 す る. この 方 法 は,自 閉 症 児 や 多 動 児,重 度 の精 神 発 達 遅 滞 児 の 発 達 援 助 の方 法(今 野, 1978, 1984 a;大 野 ・田 中, 1983;大 野, 1984)や 慢 性 分 裂 病 患 者 の 自発 性 回 復 の 援 助 方法(鶴, 1982, 1984),そ れ に 心身 症 の治 療 法(今 野, 1987)な ど と して,そ の 効 果 が 認 め られ て い る.た とえ ば,脳 性 ま ひ児 は,筋 緊 張 の弛 緩 に よっ て そ の部 位 の 身体 認 知 が 向上 し,そ の部 位 に対 して動 作 意 図 を正 し く伝 える こ とが で き る よ うに な る.ま た,自 閉 症 児 や 多 動 児 に腕 あ げ 動 作 コ ン トロ ール 訓 練(今 野, 1978)に よっ て 腕 や 肩 の筋 緊 張 の弛 緩 を 行 うと,こ れ らの 児 童 は,そ れ ら の部 位 を 動 か した り,つ ね った り触 った り して,身 体 の感 じの変 化 を確 認 す る よ うに な る.そ して,こ う し た 自己確 認 行 動 の 出現 に とも な っ て,感 情 の コン トロ ルや 不 適 切 な行 動 の コ ン トロー ル が可 能 に な る こ とが 見 いだ され て い る(今 野, 1984 b).心 身 症 患 者 の臨 床 的 な 観 察 に よれ ば,腕 や 肩 の筋 緊 張 の弛 緩 を行 う と,し ば し ば 肩 の付 け 根 あ た りが 鮮 明 に図 と して浮 か び 上 が り,そ こに 生 き生 き と し た 身 体 の 感 じや 躍 動 感 が 体 験 され た り,そ の部 位 に 自分 の気 持 ちが 直 接 的 に伝 わ って い くよ うな充 実 感 が 体 験 され,そ の こ とを 契 機 に して 種 々 の症 状 に改 善 が 生 じ る こ と が 見 い だ さ れ て い る(今 野, 1987).ま た,今 野 ・大 野(1987)は,正 常 成 人 に 動 作 訓 練 を 用 い て 筋 緊 張 の弛 緩 を 行 い,弛 緩 感 覚 の受 容 に 関 し て 因 子 分 析 的 な 検 討 を 行 った.そ の 結 果,弛 緩 感 覚 の 受 容 に と もな って,そ れ ま で の 自分 の 身体 とは 異 な る,よ り分 化 的 ・統 合 的 な 自己 身 体 像 を 体 験 で き る よ うに な る こ とが 見 い だ さ れ た. この よ うに,筋 緊 張 の弛 緩 の 効 果 の1つ は,身 体感 覚 に 対 す る気 づ きを 高 め,そ の こ とに よっ て精 神過 程 に 対

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210  心 理 学 研 究  第60巻  第4号

す る コ ン トロー ル の 向 上 を もた らす ご とで あ る と考 え ら れ る.こ の点 は,自 律 訓 練 法(Schultz & Luthe, 1969) や 漸 進 的 筋 弛 緩 法(Jacobson, 1929),ヨ ー ガ(番 場 1986)な ど の広 義 の身 体 ・動 作 的 な ア ブ ロ ーチ と も共 通 す る も の であ る. Jacobson (1929)に よれ ば,漸 進 的 な 筋 弛 緩 法 に よ って 弛 緩 が 上 達 す る と,筋 の 緊 張 や 弛 緩 に 対 す る感 受 性 が 鋭 敏 に な り,身 体 の操 作 性 が 向 上 す る と とも に,感 情 の コ ン トロ ー ル能 力 も向 上 す る こ とが 指 摘 され て い る.と ころ で,従 来,こ う した 身 体 感 覚 の変 化 は,主 と して被 験 者 の 内省 報 告 や 身 体 動 作 の観 察 な どを 通 して,間 接 的 に把 握 され て きた.そ こ で,本 研 究 で は そ の変 化 を直 接 的 に把 握 す る ため の1つ の試 み と して, 触 二 点 間 弁 別 閾 を指 標 に用 い て検 討 す る.本 研 究 は, 2 つ の実 験 に よ っ て構 成 され て い る.実 験 Ⅰで は,正 常 成 人 に対 して筋 緊 張 の弛 緩 を行 い,弛 緩 の受 容 に とも な う 触 二 点 間 弁 別 閾 の変 化 を検 討 す る.次 に,実 験 Ⅱ で は, 脳 性 まひ 児 に動 作 訓 練 を実 施 し,弛 緩 動 作 や 意 図的 な身 体 動 作 の 向上 と触 二 点 間 弁 別 閾 の変 化 との間 の関 係 につ い て検 討 す る. 実 験  Ⅰ 方 法 被 験 者  被 験 者 は,女 子大 学生20名(年 齢19歳 か ら21歳)で あ る.こ れ らの 被 験 者 は いず れ も皮 膚 感 覚 に 障 害 を も って い な い 者 で あ る.と ころ で, Griesbach (1895)に よれ ば,触 二 点 弁 別 閾 は,疲 労 に よっ て増 大 す る こ とが 明 らか に され て い る.そ こで 実 験 に先 立 っ て 睡 眠 不 足 や 身 体 的 な 疲 労 を 訴 え る者 は 被 験 者か ら除 い た.こ れ ら20名 の被 験 者 は,右 肩 の筋 緊 張 を弛 緩 す る グル ー プ10名 と左 肩 の 筋 緊張 を弛 緩 す る グル ー プ10 名 の2つ の グル ー プに 分 げ られ た. 触 二 点 間 弁 別 閾 の 測 定 方 法  触 二 点 間 弁 別 閾(以 下, 弁 別 閾 と呼 ぶ)は,ス ピア マ ン式 触 覚 計(竹 井機 器 工 業 株 式 会 社 製PAT. NO. 449584)を 用 い,極 限 法 に よ っ て行 った. 1回 の測 定 で は,そ れ ぞ れ の部 位 に お い て, 5ミ リメ ー トル の増 減 幅 で,下 降 系 列,上 昇 系 列 の 順 に 4試 行 ず つ 計8試 行 実 施 した.被 験 者 は,測 定 に 際 して ア イ マ ス クに よ っ て眼 隠 しを され,そ れ ぞ れ の 刺 激 に対 して “一 点 と感 じる” か “二 点 と感 じる” か のい ず れ か 1つ の反 応 を求 め られ た.弁 別 閾 は,各 系 列 に お い て, 被 験 者 の報 告 が “二 点 ” か ら “一点 ”へ,ま た は “一 点 ” か ら “二 点 ” に変 わ った とき の2つ の距 離 の中 間 値 を と っ て,各 系 列 の推 定値 と した. 測 定 の部 位 と して は,左 右 の肩 を選 んだ.肩 の測 定 位 置 は,肩 峰 と第7頸 椎 を直 線 で結 んだ 線(僧 帽 筋 に相 当 す る)の 中 心 と した.肩 を 測 定部 位 と した理 由 は,① 肩 ぽ 他 の 身 体部 位 と比較 して,筋 緊張 の感 じや 弛 緩 の感 じ を 被 験 者 が 把 握 しやす い,② 一 般 的 な経 験 や 臨 床 的 な観 察 か ら,肩 の筋 緊 張 の弛 緩 は,身 体 感 覚 の変 化 や 精 神 的 な 安 定,心 身 の調 和的 な体 験 な どを被 験 者 に もた ら しや す い,こ とな どに よ る もの で あ る. 測 定 に 際 して は,左 右 の 肩 の どち らか 一 方 を実 験 条 件 と し,も う一 方 の 肩 を統 制条 件 と した.す なわ ち,実 験 条件 に お い て は.弁 別 閾 に お よぼす 弛 緩 の効 果 を検 討 す るた め,弛 緩 の 前 後 の2回 にわ た っ て測 定 を行 っ た.測 定 の順 序 は,実 験 条件 に お け る弛 緩 前 の8試 行,次 に統 制 条 件 で の1回 目の8試 行,実 験 条件 に お け る弛 緩 後 の 8試 行,統 制 条 件 で の2回 目の8試 行 と した. 弛 緩 の 方 法  弛 緩 の 方 法 と し て は,一 点 弛 緩 誘 導 法 (今野, 1984 a)を 用 いた.こ の 方法 は動 作 法 の訓 練 技 法 の1つ であ り,対 象 者 の 筋 緊 張 の部 位 を弛 緩 援 助 者 が 親 指 で押 し,そ の と きに 生 じ る身 体 感 覚 に 対 して対 象 者 の 注 意 集 中 を 促 し,そ の 感 覚 を受 容 させ な が ら 自己弛 緩 の 実 現 を はか る も ので あ る.こ の 方 法 を 用 い た の は,主 と して次 の3つ の理 由に よ る.① この 方 法 は,比 較 的 限 定 され た 身 体 部 位 の筋 緊 張 の弛 緩 に 適 して お り,一 方 の 肩 の弛 緩 の効 果 が 他 方 の肩 に ま で及 ぶ こ とが な い.② こ の 方 法 は,被 験 者 に苦 痛 や 不 安 を 与 え る こ とが ほ とん どな い.③ こ の方 法 は,実 施 手 順 が 簡 便 で しか も短 時 間 で 弛 緩 が実 現 す る.ま た,筋 緊 張 の弛 緩 の程 度 ない し弛 緩 実 現 の基 準 は,① 当該 部 位 に温 感 が 感 じられ る,② 当 該 部 位 に広 が りが 感 じられ る,と い う身 体 的 な感 覚 の変 化 に 加 え て,③ 当該 の肩 の位 置 が他 方 の位 置 よ りも下 が る こ と と した. こ の他,そ れ ぞれ の被 験 者 は,測 定 が 終 了 した 後 に, 弛 緩感 覚 の受 容 に関 して,質 問紙 に よる調 査 と内省 報 告 の聴 取 が行 わ れ た.質 問項 目は,今 野 ・大 野(1987)が 弛 緩 の受 容 に 関す る 因 子分 析 的 な研 究 で使 用 した も の と 同 じで あ り,“身 体 の感 じの変 化 ”“全 身 の 軽 さ ”“実 験 場 面 や 雰 囲 気 の受 容 ”ct身体 の 暖か さ ” “緊 張 に対 す る気 づ き ” “身体 の だ るさ ” な どの20項 目か ら な る。 各 項 目 は,“ あ て は ま る”か ら “あ て は ま らな い ”ま で の5段 階 尺 度 で 評 定 され た.な お,こ れ らの 質 問 項 目は,“ 実 験 場 面 の 心 理 的 な受 容 ” “身体 に 対 す る 分 化 的 ・統 合 的 な 気 づ き” “漠 然 と した全 般 的 な 弛 緩 感 覚 ” の3つ の 因 子 に 集 約 さ れ る こ とが 見 い だ さ れ て い る. 結 果 上 昇 系 列 と 下 降 系 列 の 弁 別 閾 の 比 較 Table 1と Tabie 2は,実 験 条 件 に お け る弛 緩 実 施 前 後 の測 定 と統 制 条 件 に お け る前 後2回 の測 定 に お け る上 昇 系 列 と下 降 系 列 各4試 行 に お け る弁 別 閾 の平 均 値 と標 準 偏 差 を 示 し た も ので あ る.こ れ ら の表 か らわ か る よ うに,そ れ ぞ れ の条 件 にお いて,上 昇 系 列 と下 降 系 列 の値 の問 に はほ と ん ど差 が な く,統 計 的 に も有 意 差 は 見 られ なか った.ま た,各 条 件 お よび各 測 定 部 位 にお い て,上 昇 系 列 の弁 別 閾 と下 降 系列 の 弁別 閾 の 相 関関 係 を ピァ ス ソ の相 関 係 数

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に よ っ て 求 め た と こ ろ,す べ て の 組 み 合 わ せ に お い て 統 計 的 に 有 意 な 正 の 相 関 関 係 が 認 め ら れ た(実 験 条 件:弛 緩 前 右 肩r=.782;左 肩r=.784;弛 緩 後 右 肩7=.768 ;左 肩r=.653.統 制 条 件:1回 目 右 肩r=.763;左 肩r=.689; 2回 目 右 肩r=.716;左 肩r=.668).

Table 1

Comparison

of tow-point

limen (mm) between down and up series when a

right shoulder

was assigned to experimental

condition

Table 2

Comparison of tow-point

limen (mm) between down and up series when a

left shoulder was assigned to experimental

condition

以 上 の結 果 か ら,そ れ ぞ れ の条 件 お よび そ れ ぞ れ の部 位 にお いて,上 昇 系 列 の弁 別 閾 と下 降 系 列 の弁 別 閾 は, 等 質 であ る と考 える こ とが で き る.従 って,以 下 の結 果 は,両 系 列 の弁 別 閾 の 平均 値 に も とつ い て 述 べ る. 弛 緩 に よ る弁 別 閾 の 変 化  Fig. 1は,実 験 条 件 に お け る弛 緩 前 の 弁 別 閾 に 対す る弛 緩 後 の 弁 別 閾 の割 合 の平均 値 と統 制 条件 に お け る1回 目の 弁 別 閾 に 対す る2回 目の 弁 別 閾 の 割 合 の 平均 値 を示 した もの で あ る.そ れ に よ れ ば,実 験 条件 に つ い て は,右 肩 が83.37%,左 肩 が 76.90%で あ っ た.一 方,統 制 条 件 につ い ては,右 肩 が 105.50,で あ り,左 肩 は109.62%で あ った.そ して, 個 々 の パ ー セ ン トの値 を角 変 換 法 に よ って 変 換 し,変 換 後 の値 を 用 い て,条 件(実 験 条 件 と 統 制 条 件)と 部 位 (右肩 と左 肩)問 の 比 較 を 行 った.そ の結 果,条 件 の 要 因 に関 して, 1%の 水 準 で主 効 果 が 認 め られ た(F=7.968, df=1/36).一 方,部 位 の要 因 に つ い て は 統 計 的 に有 意 な 主 効 果 は 見 られ な か った,ま た,測 定 の 反 復 に よ る弁 別 閾 の 変 化 の有 無 を み るた め に,実 験条 件 に お け る弛 緩前 の右 肩 の弁 別 閾 と統 制 条件 に お け る左 肩 の1回 目 と2回 目の 弁 別 閾 を1要 因 の分 散分 析 に よっ て検 討 した.そ の 結 果,こ れ ら3つ の 弁別 閾 の 間 に は,有 意 差 が 見 られ な か った(F=.020, df=2/27).同 じ よ うに,実 験 条 件 に お け る弛 緩 前 の左 肩 の弁 別 閾 と統 制 条 件 に お け る右 肩 の 1回 目 と2回 目の 弁 別 閾 の問 に も 有 意 差 は なか った(F =.002 , df=2/27).

Fig. 1.

Comparison of two-point

limen(mm)

between

experimental

condition

and control condi

tion for right and left shoulder.

弛 緩 の受 容 と弁 別 閾 の変 化  次 に,弛 緩 の受 容 の違 い が弁 別 閾 に どの よ うな 影 響 を 及 ぼ す か を 検 討 す る た め に, 20名 の被 験 者 を 弛 緩 感 覚 の 受 容 に 関 す る 質 問 項 目 に よ る調 査 の結 果 に も とつ いて,高 受 容 群 と低 受 容 群 に 分 け た 。 す なわ ち,今 野 ・大 野(1987)に よ る と,筋 緊 張 の弛 緩 の過 程 に対 して,意 図 的 に 注 意 を 集 中す る こ と が で きた 被 験 者 は,弛 緩 感 覚 の 受 容 に 優 れ て お り,弛 緩 後 の質 問 紙 法 に よ る調 査 に お い て,“ 身 体 の感 じの変 化 ” や “自分 の身 体 と して の 充 実 感 ” “気分 の 良好 ” “緊 張 に 対 す る気 づ き” な ど,“ 身 体 に対 す る 分 化 的 ・統 合 的 な 気 づ き” の因 子 を 構 成 す る質 問 項 目の 平均 評 定 点 が4.5 以 上 であ った.そ こで,こ れ らの 項 目に対 す る平均 評 定

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212  心 理 学 研 究  第60巻  第4号 点 が4.5以 上 の被 験 者 を 高受 容群 と した.一 方,筋 緊 張 の弛 緩 の過 程 に,注 意 を集 中 す る こ と ので きな か っ た 被 験 者 は,弛 緩 感 覚 の受 容 が 不 十 分 で,平 均 評 定 点 が2.5 以 下 であ った.そ こ で,平 均 評 定 点 が2.5以 下 の者 を 低 受 容群 と した.そ の結 果,高 受 容 群 と して9名,低 受 容 群 と して6名 の被 験 者 が 選 ぼれ た.こ れ ら2つ の群 の 弛 緩 前 と 弛 緩 後 の 弁別 閾 の 平 均 値 は, Fig. 2に 示 す よ うに,高 受 容群 が そ れ ぞ れ41.74mm (SD=11.48)と 28.40mm (SD=6.84),低 受 容 群 が そ れ ぞ れ40.02mm (SF)=17.94)と41.88mm (SD=11.21)で あ っ た.次 に,各 被 験 者 につ い て,弛 緩 前 の弁 別 閾 に対 す る弛 緩 後 の 弁 別 閾 の 割合 を 求 め,そ の値 を角 変 換 し,そ れ ら の平 均 値 を 高受 容群 と低受 容群 の 問 で比 較 した結 果,両 群 の 問 に は1%の 水 準 で 有 意 差 が 認 め られ た(t=4.459, df=13). 実 験 難 方 法 被 験 者  被 験 者 は3名 の脳 性 ま ひ 児 で あ る.そ れ ぞれ の対 象 児 の プ ロ フ ィー ル は,以 下 の とお りで あ る. ① 対 象 児J. N. (8歳4ヵ 月,女 児)知 的 に は正 常 腰 か ら下 肢 に か け て の 筋 緊 張 が 強 く,立 位や 歩行 は で き な い.移 動 は 両 手 でい ざ る よ うに して 行 う.座 位 で は 脚 を前 方 に 投 げ 出 して お り,腰 を 伸 ぼす ご とは で き な い. 上 体 のバ ラ ンス を 保 持 した り,上 体 を 起 こ した りす る と き に首 や 肩 に強 い力 を 入 れ て しま うた め に,首 の後 ろや 両 肩 に強 い筋 緊 張 が あ る.利 き手 は 右 で あ る.左 右 の筋 緊 張 を比 較 す る と全 般 的 に左 側 の筋 緊 張 が 強 く,右 肩 よ りも左 肩 の方 があ が っ てお り,肘 も屈 曲 して い る. ② 対 象 児H. O. (9歳3ヵ 月,男 児)知 的 に は 正 常. 右 側 の片 ま ひ の た め,左 手 はほ ぼ 自 由 に動 か す ご とが で き るが,右 手 は左 手 にそ え る程 度 しか 動 か す ご とが で き な い.筋 緊 張 の程 度 は左 の腕 や 肩 が右 に比 べ て強 い.ク ラ ッチ 歩 行 を して い るが,そ の 際 腰 が前 傾 してお り, 両 肩 を 内 側 に捻 る よ うな 力 を いれ て しま うた め に4両 肩 に 強 い 筋 緊 張 が あ る.

Fig. 2.

Comparison of two-point

limen(mm)

between

high and low acceptance group for relaxa

tion.

③ 対 象 児T. O. (12歳7ヵ 月,女 児)知 的 に はや や 低 いが 正 常 範 囲 に あ る.中 程 度 の ア テ トー ゼ型 の脳 性 ま ひ 児.独 歩 も可 能 で あ るが,不 随 意 運 動 の た めバ ラ ン ス を 崩 しや す く,数 歩 で 倒 れ て しま う.普 段 は ク ラ ッチ歩 行 を して い る.立 位 や 座 位 で上 体 のバ ラ ンス を保 持 した り上 体 を 起 こ した りす る際 に,首 や 肩 に強 い 力 を い れ て い るた め,肩 の 筋 緊 張 が 強 くな っ て い る.特 に 左 の腕 や 肩 の筋 緊 張 が 強 い.利 き手 は 右 で あ る. 測 定 方 法 お よび 測 定 部 位  弁 別 閾 の 測 定 は ア イ マ ス ク に よ っ て眼 隠 しを して 実 施 し,実 験 Ⅰと同 じ測 定 器具 を 用 い,極 限 法 に よ って5ミ リメー トル の増 減 幅 で,下 降 系 列,上 昇 系 列 の順 に実 施 した.そ れ ぞ れ の 系 列 に お け る試 行 数 は,対 象 児 が 疲 労 しや す い こ とを 考 慮 に 入 れ て,一 箇 所 の測 定 につ き下 降 系 列,上 昇 系 列 そ れ ぞ れ3 試 行 ず つ と した.弁 別 閾 の推 定 は,実 験 Ⅰと同 じ方 法 に よ っ て行 った. 測 定 部 位 は,全 対 象 児 を 通'じて,左 右 の前 腕 部 と左 右 の肩 と した,肩 の部 位 は実 験 Ⅰと同 じ であ る.前 腕 部 の 位 置 は,肘 頭 か ら僥 骨 茎 状 突 起 を 直 線 で結 ぶ 手 掌 側 の 中 間点 と した.こ の部 位 は,浅 指 屈 筋 に 相 当 す る部 位 で あ る.測 定 の順 序 は,右 前 腕 部,左 前 腕 部,右 肩,左 肩 と した.測 定 中 の姿 勢 は,全 て の対 象 児 が 座 位 保 持 の困 難 や 不 安 定 さ を示 した た め,左 右 の前 腕 部 につ い て は仰 臥 位 と し,左 右 の肩 の測 定 につ い て は伏 臥 位 と した. 弛 緩 の 方法 と 灘定 回数  弛 緩 訓 練 は,成 瀬(1973)の 動 作 訓 練 の方 法 に も とつ い て 実 施 した.訓 練 は, 1週 間 の 宿 泊 集 中 方 式 で 行 っ た.主 な訓 練 内容 は,腰 や 脚, 首,肩,腕 〓 幹 の 筋 緊 張 の弛 緩 訓 練 と腰や 脚,腕 の 動 か し方 の 訓 練 で あ る.弁 別 閾 の測 定 は9訓 練2日 目(第 1回)と5日 目(第2回 目)の2回 実 施 した. 結 果 対 象 児J. N.は,腰 や 脚,〓 幹 部 の筋 緊 張 が 緩 み,首 や 肩 に不 当 な力 を 入 れ ず に,座 位 で 腰 を 伸 ばす ご とが で き る よ うに な った.ま た,肩 や 肘 の筋 緊 張 も緩 み,肘 の 曲 げ伸 ぼ し動 作 や 手 首 の掌 屈 や 背 屈 の動 作 をす る こ とも で き る よ うに な っ た. 1回 目の測 定 と2回 目 の測 定 にお け る弁 別 閾 は, Fig. 3に 示 す よ うに,そ れ ぞ れ,右 前 腕 部 が50.00mmと33.75mm,左 前 腕 部 が80.00 mm と47.50mm,右 肩 が67.50mmと37.50mm,左 肩 が77.50mmと36.50mmで あ った.こ れ らの結 果 か ら明 らか な よ うに,対 象 児J. N.の 場 合 は,弛 緩 動 作 の 進 歩 に と もな って,ど の 測 定部 位 に お い て も弁 別 閾 が低 下 した.ま た, 1回 目の 測 定 で は 筋 緊 張 の 強か っ た 左前 腕 部 や 左 肩 の弁 別 閾 の方 が,右 側 のそ れ に 比 べ て 大 きか っ た が, 2回 目の測 定 では 左 右 の弁 別 閾 の 差 が 減 少 した. 対 象 児H. O.の 場 合 は,特 に 腰 の筋 緊 張 の弛 緩訓 練

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を 中 心 に訓 練 を行 った.そ の結 果,腰 が 安 定 し,ク ラ ッ チ歩 行 に お い て上 体 の前 傾 姿 勢 が 改 善 した.ま た,そ れ と平 行 して,上 体 や 上 肢 の動 作 の改 善 をは か るた め,首 や 肩 の筋 緊 張 の弛 緩 訓 練 を行 った.そ の結 果,両 肩 を 前 方 に丸 く縮 め る よ うな姿 勢 に改 善 が 見 られ た.し か し, 右 手 の動 作 に関 しては 筋 緊 張 の弛 緩 が 認 め られ た に もか か わ らず,特 別 の改 善 が 得 られ なか った.弁 別 閾 の測 定 の結 果 は, Fig. 4に 示 す よ うに, 1回 目の測 定 で は,前 腕 部 につ い て は右 が52.50mm,左 が48.50mmで あ り, 若 干 の左 右 差 が 見 られ た.同 じ よ うに,肩 につ いて も右 が67.50mm,左 が63.80mmで,左 肩 の 弁 別 閾 の 方 が い くぶ ん 小 さか った. 2回 目 の 測 定 で は,左 側 の 方 の 弁 別 閾 に 低 下 が 認 め られ,前 腕 部 が44.40mm,肩 が 41.50mmで あ った,こ れ に対 して,ま ひ 側 の右 肩 に 関 して は,弁 別 閾 の舅 瞭 な 低 下 が 認 め られ な か っ た.逆 に,右 前 腕 部 に お い て は,わ ず か で は あ るが 弁 別 閾 が上 昇 した.

Fig. 3.

Changes

of two-point

linen

with

relaxation

in Subject J. N.

Fig. 4.

Changes

of two-point

linien

with

relaxation

in Subject H. O.

対 象 児T. O.の 場 合 は,立 位 動 作や 歩 行 動 作 の安 定 を はか るた め に,腰 か ら背 にか け て の筋 緊 張 を弛 緩 さ せ る と と もに,首 や 肩 の筋 緊 張 の 弛 緩 を 行 っ た.そ の結 果, 全 身 的 に弛 緩 動 作 が 進 歩 し,あ ぐ ら座 位 や 正 座 位 に お い て首 や 肩 に そ れ ほ ど力 を 入 れず に,上 体 を 保 持す る こ と が で き る よ うに な った.肩 や肘 の 筋 緊 張 も弛 緩 し,腕 を 肩 よ りも高 く上 げ た,肘 を ま っす ぐ伸 ばす ご とが で き る よ うに な った.ま た,訓 練 前 は 左 側 の 筋 緊 張 が 強か っ た が,訓 練 に と もな って 左 右 差 が な くな っ た.し か し, 立位 動 作や 歩 行 動 作 の とき は,背 や 両 肩 を丸 くす る姿 勢 を とっ て しま う.弁 別 閾 の 測 定 結 果 は, Fig. 5に 示 す よ うに, 1回 目の 測 定 で は 全 般 的 に 左 側 の 弁 別 閾 の方 が, 右 側 の そ れ に比 べ て 大 き く,右 前 腕 部 の74.54minに 対 して 左 前腕 部 は82.80mmで あ った.同 じ よ うに,右 肩 の73.80mmに 対 して 左 肩 は85.00mmで あ った.し か し, 2回 目の 測 定 で は こ う した 左右 差 は 消失 し,右 前 腕 部 の60.00mmに 対 して 左 前 腕 部 は57.50mmと な っ た.ま た,肩 につ い て も右 の71.30mmに 対 して左 は 75.00mmと た つた.

Fig. 5, Changes of two-point limen with relaxation in Subject T, O.

ま と め と 考 察

本 研 究 で は,筋 緊 張 の弛 緩 に よ る身 体 感 覚 の変 化 を弛 緩 の実 施 前 後 の触 二 点 問 弁 別 閾 の変 化 を指 標 に用 い て検 討 した.実 験 Ⅰで は,成 人 に お い て検 討 し,そ の結 果,

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214  心 理 学 研 究  第60巻  第4号 筋緊 張 の弛 緩 に と も な って,弁 別 閾 が 低 下 す る こ とが 見 いだ され た.と ころ で,一 般 的 に弁 別 閾 の測 定 に お い て は, Hebb (1966)やGiiford (1954)が 指 摘 して い る よ うに,学 習 効 果 の影 響 を 考 慮 す る必 要 が あ る.高 木 ・域 戸(1953)に よ る触 二 点 弁 別 閾 の研 究 に 関 す る展 望 に お い て も,弁 別 閾 は 練 習 効 果 に よ って 低 下す る こ とが 指 摘 され て い る.そ れ では,実 験 Ⅰで 得 られ た 弛 緩 実 施 後 の 弁 別 閾 の 低 下 は,学 習 効 果 を 反 映 した もの な の だ ろ う か.実 験 Ⅰで は,測 定 の 順 序 を,① 実 験 条件 に お け る弛 緩 前 の測 定,② 統 制 条 件 に お け る1回 目の 測 定,③ 実 験 条 件 に お け る弛 緩 後 の 測 定,④ 統 制 条件 に お け る2回 目 の測 定,と した.従 って.も し も学 習 効 果 が反 映 さ れ て い る とす るな らば,統 制 条件 に お け る2回 目の 測 定 に お い て 弁 別 閾 が 低 下す るは ず で あ る.し か し,統 制条 件 に お け る1回 目 と2回 目,そ れ に 実 験 条件 に お け る弛 緩 前 の 弁 別 閾 の 問 に は,統 計 的 な有 意 差 は 見 られ なか っ た. この こ とか ら,弛 緩 後 の 弁 別 閾 の 低 下 は 学 習 効 果 に よ る もの で は な い こ とが 明 らか で あ る.ま た,実 験 Ⅰで は, 実 験 条件 に お け る弛 緩 前 の 弁 別 閾 の 平均 や 統 制 条 件 に お け る弁 別 閾 の 平均 の範 囲 は, 45.75mmか ら48.90mm で あ る こ と が 見 い だ さ れ た.こ れ らの値 は, Weber (1846)の 測 定値 とほ ぼ 同 じで あ るか,も し く は 井 出 (1986)の 展 望 に 紹 介 され て い るWeinstein (1972)の 測 定値 と比 較 す る とや や 大 き い も の で あ る.し か し,弛 緩 後 の値 は これ よ りも小 さか っ た.従 っ て,こ の結 果 は 弛 緩 の効 果 を裏 づ け る も の で あ る と考 え られ る. 次 に,実 験 Ⅱ で は, 3名 の脳 性 ま ひ児 に対 して動 作 訓 練 を実 施 し 筋 緊 張 の弛 緩 の獲 得 や 動 作 の改 善 に とも な っ て弁 別 閾 に ど の よ うな変 化 が生 じ るか を検 討 した.そ の結 果,対 象 児J. N.に お い て は,身 体 各 部 の 筋 緊 張 の 弛 緩 に とも な い,腕 や 肩 の 動 作 に 改 善 が 見 られ た.ま た,右 側 に比 べ る と左 側 の筋 緊 張 の弛 緩 が 良 く,弁 別 閾 の低 下 の度 合 を 見 て も右 側 に 比 べ て 左 側 の 方 が 大 きか っ た.対 象 児T. O.の 場 合 は,前 腕 部 に比 較 す る と肩 の 筋 緊 張 の弛 緩 は 左 右 とも困 難 であ り,動 作 の改 善 も乏 し か った.ま た,弁 別 閾 の低 下 の度 合 が,肩 に比 べ て 前 腕 部 の方 が 大 きか った.同 じよ うな結 果 は,対 象 児H. O. に お い て も認 め られ た.す なわ ち,筋 緊 張 の弛 緩 に と も な っ て動 作 に改 善 の見 られ た 左 の前 腕 部 や 左 の 肩 の弁 別 閾 の低 下 の度 合 が,右 側 の度 合 よ りも大 き い こ とが 見 い だ され た.こ の こ とは,良 く動 か す ご と の で き る よ うに な った 部 位 ほ ど 弁 別 閾が 小 さ くな る こ とを 示 唆 して お り,運 動 性 の法 則(vierordt, 1870)の 現 象 と類 似 して い る た だ し,こ の法 則 に よれ ぼ,肩 に比 べ て 前 腕 部 の 弁 別 閾が 小 さ く な るが,本 実 験 の 脳 性 ま ひ 児 に お い て は,こ の よ うな法 則 性 は必 ず しも認 め られ な か った.こ の点 につ い て は,今 後 の 研 究 を 待 た なけ れ ぼ な ら ない が,弛 緩 訓 練 が 前 腕 部 に比 べ て肩 の方 に集 中 して 行 わ れ た こ とや 脳 障 害 との 関連 な どを反 映 して い る も の と考 え られ る.し か し,い ず れ に して も,こ の結 果 は,筋 緊 張 の弛 緩 と身体 感 覚 の 変容,そ れ に 動 作 の 改 善 との 間 に は,相 互 に 密 接 な 関連 の あ る こ とを示 唆 して い る.つ ま り,こ れ ま で の臨 床 事 例 に よる と,筋 緊 張 の弛 緩 に よ っ て 自分 の 身体 が,生 き生 き と感 じられ た り,弛 緩 した 部 位 が 他 の 身体 部 位 か ら 図 と して 浮 か び あ が った り,そ の部 位 の感 覚 が 明確 に な っ て くる とい うこ とが 体 験 され て,そ こで は じめ て それ らの部 位 に動 作 意 図 を 正 し く伝 え る こ とが で き る よ うに な る こ とが 見 いだ され て い る. 成 瀬(1985)に よれ ば動 作 の遂 行 過 程 は,動 作 感 覚 と運 動感 覚 に よっ て支 え られ て い る.す なわ ち,運 動 感 覚 と い うの は,動 作 を遂 行 した とき の フ ィー ドバ ッ ク の情 報 と して体 験 され る求 心 性 の情 報 であ る.こ れ に対 して, 動 作感 覚 とい うの は,主 体 が 自分 の身 体 に動 作 意 図 を 伝 達 して い く とき に体 験 され る遠 心 性 の情 報 であ り,普 段 は ほ とん ど意 識 され な い も の であ る.し か し,筋 緊 張 の 弛 緩 に よっ てそ の部 位 を図 と して感 じ と る こ とが で き る よ うに な る と,動 作 感 覚 を 体 験 す る こ とが で き る よ うに な るこ とが観 察 され て い る(今 野, 1986).す なわ ち,筋 緊 張 の弛 緩 に よ っ て,身 体 の中 に動 作 意 図 を 受 け て 動 か す ご との で き る身 体 が 準 備 され て7は じめ て 動 作 感 覚 が 正 常 に機 能 す る よ うに な り,更 には,そ の こ とが 動 作 意 図 の活 性 化 を もた らす も の と考 えられ る. とこ ろ で,対 象 児H. O.の 場 合 は,筋 緊 張 の 弛 緩 そ の も の は全 身 的 に進 歩 した が,ま ひ のあ る右 の 腕 や 肩 の動 作 に は改 善 が 見 られ なか った.ま た,弁 別 閾 の 低 下 も そ れ ほ ど 顕 著 には 見 られ ず,右 前 腕 部 で は 逆 にわ ず か で はあ るが 上 昇 した. Bender, Shapiro, & SchapPell (1949)に よれ ば,片 ま ひ患 者 の多 くは,ま ひ 側 に 感 覚 障 害 の兆 候 を示 す こ とが 指 摘 され て い る.こ れ は, 1つ の 理 由 と して は,皮 膚 感 覚 情 報 の 分 析 に 関 与す る中 枢 神 経 の機 能 の障 害 に よ る も の と考 え られ る が,そ れ と と も に,片 まひ 特 有 の非 活 性 的 な 筋 緊 張 の 性 質 も理 由 の1つ に な って い る ので は な い か と思 わ れ る.す な わ ち,片 ま ひ に よ る筋 緊 張 は 他 の 脳 性 ま ひ の 筋 緊 張 と異 な り,リ ジ ッ ドで 緩 み に く く,緩 ん で もそ こに 動 作 意 図 が 反 映 され に くい とい うこ とが 特 徴 的 で あ る.し か し,こ の よ うな 性 質 の 筋 緊 張 で も,長 期 間 に わ た る訓 練 に よっ て,徐 々 にで は あ るが 弾 力 性 を 帯 び る よ うに な り,そ の部 位 に対 して 動 作 意 図 が 反 映 され る よ うに な って く る こ とが知 ら れ て い る.従 って,対 象 児H. O.に お い て も,筋 緊 張 の 性 質 に そ の よ うな 変 化 が 生 じた 時 点 で は,弁 別 閾 に もそ れ に対 応 した 変 化 が 生 じ る こ とが 予 想 さ れ る. 最 後 に,筋 緊 張 の 弛 緩 に よ る身 体 感 覚 の 受 容 と弁 別 閾 の変 化 の関 係 に つ い て 考 察 す る.本 研 究 で は,実 験 Ⅰに お いて9被 験 者 の 内 省 報 告 や 筋 緊 張 の 弛 緩 に 関す る質 問 調 査 に よ る反 応 に も とつ い て,被 験 者 を弛 緩 感 覚 の 受 容

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の 高 い 群 と低 い群 に 分 け て,弛 緩 実 施 後 の 弁 別 閾 の 変 化 を 比 較 した.そ の 結 果,高 受 容群 は,弁 別 閾 の 大 きな 低 下 を 示 した が,低 受 容 群 で は,弛 緩 実 施 前 と実 施 後 の 弁 別 閾 の間 には ほ とん ど違 い が 見 られ な か った.こ の こ と か ら,弛 緩 感 覚 の受 容 と弁 別 閾 の変 化 と の間 には 密 接 な 関 連 のあ る こ とが 見 いだ され た.す なわ ち,筋 緊 張 の弛 緩 に よ っ て,身 体 感 覚 を分 化 的 ・統 合 的 に体 験 す る こ と の で きた 被 験 者 にお い ては 弁 別 閾が 低 下 し,そ うで な い 者 に は変 化 が 見 られ なか った.似 た よ うな ご とは,脳 性 まひ 児 の動 作 訓 練 にお い て も観 察 され る こ とがあ る す なわ ち,対 象 児 が弛 緩 感 覚 を受 容 で き なか っ た り,対 象 児 の弛 緩 能 力 の 限界 を越 え て弛 緩 を行 っ た りす る と,そ の部 位 の 身体 感 覚 が著 し く混 乱 し,と き に は そ の部 位 が 自分 の身 体 か ら離 れ て しま う よ うな 恐怖 感 に襲 わ れ る こ とが あ る.お そ ら く この よ うな場 合 は,触 覚 的 な 弁別 も 混 乱 す るの で は な いか と思わ れ る.こ れ らの こ とか ら, 身 体 感 覚 が 適切 な 方 向 に 変化 す るた め に は,筋 緊 張 の弛 緩 の過 程 に対 す る主 体 的 な取 り組 み と弛 緩 感 覚 の 受 容 と い う要 因 が重 要 で あ る こ とが示 唆 され た.

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