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パーソナリティ研究 2005 第13巻 第2号 156–169

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問題と目的

Bowlby (1973) は愛着理論において,青年期で も親は安全基地となり,自律を促す働きをしてい ると述べている.Hill & Holmbeck (1986) も,青 年期の自律性達成は親との親密な絆と正の相関関 係があるとしている.従来は Hollingworth (1928) による心理的離乳の概念のように,親との強い絆 は自律の障害になると考えられてきたが,その後 愛着研究により,青年期においても親への愛着は 青年の発達や社会適応に大きな役割を果たしてい ることが知られている. 親への愛着は,親との相互作用から作られる個 人特有の心的ルールによって異なる様相を示す. そのような個人特有の心的ルールを内的作業モデ ルという. 内的作業モデルという概念は Craik (1943) によって作られたが,Bowlby (1973) によっ て愛着という現象に特化した形で再構成されたも のである.本研究では Bowlby による概念を内的 作業モデルと呼ぶことにする.内的作業モデルと は,愛着対象が誰であり,どこに存在し,どのよ うな応答を期待できるかについての主観的な確信 と,自分自身が愛着対象にどのように受容されて いるかについての主観的な確信から構成される, 自己と他者の有効性に関する内的表象のことであ る.Bowlby (1973) は前者を愛着対象の作業モデ ル,後者を自己の作業モデルと呼んでいる.これ ら 2 つのモデルは理論上独立しているが,相互補 © 日本パーソナリティ心理学会 2005

青年期における親への愛着と環境移行期における適応過程

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丹 羽 智 美

名古屋大学大学院教育発達科学研究科 本研究の目的は,親への愛着を測定する尺度を作成し,親への愛着がストレス状況における適応過程へ与 える影響について検討することであった.Brennan, Clark & Shaver (1998) は愛着を不安と回避によってとら えられるとしたことから,本研究では親への愛着をその 2 側面からとらえる尺度作成を試みた.研究 1 にお いて,親への愛着,自己受容,親子関係からなる質問紙に回答を求めた.親への愛着は愛着不安と愛着回避 の 2 因子が得られ,その信頼性と妥当性が確認された.研究 2 では,学校間移行という環境移行に焦点をあ て,親への愛着の適応過程に及ぼす影響について縦断的に検討を行った.2 回の調査において,親への愛着, 自尊感情,孤独感,大学生活不安からなる質問紙に回答を求めた.その結果,愛着不安高群の方が愛着不安 低群よりも,第 1 回調査時期と第 2 回調査時期における孤独感と対人関係不安の差が大きかった.このこと より,親への愛着不安の低い方がストレス状況における孤独感と対人関係不安を緩衝していることが示唆さ れた. キーワード:親への愛着,適応過程,環境移行,ストレス 1) 本論文は名古屋大学大学院教育発達科学研究科に提 出した修士論文の 1 部を加筆修正したものです.本 論文の作成にあたりご指導を賜りました名古屋大学 大学院教育発達科学研究科速水敏彦教授に深く感謝 申し上げます.また,名古屋大学大学院教育発達科 学研究科梶田正巳教授(現中部大学人文学部教授), 野口裕之教授,三重大学教育学部中谷素之助教授に は貴重なご意見を賜りました.また,名古屋大学大 学院教育発達科学研究科高井次郎助教授には英文ア ブストラクトを添削していただきました.そして,本 論文の査読にあたってくださいました先生方からは多 くの有益な示唆をいただきました.心よりお礼申し 上げます.

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完的に形成されるとしている.

青年期における親への愛着を最初に尺度でとら えようとしたのは Armsden & Greenberg (1987) で あり,その尺度は親への愛着を安定−不安定でと らえるよう構成されている.それ以降,親への愛 着は 1 次元でとらえられてきた.ところが,不安 定的愛着には安定型以外の愛着スタイルがすべて 含まれ,その質的差異については検討されてこな かった.各愛着スタイルにはその機能の仕方に差 異があるため,愛着を 1 次元でとらえる方法では 愛着の機能を適切に検討する上で限界があると思 われる. そこで Bartholomew (1990) は,内的作業モデ ルの概念を用いて愛着スタイルをとらえる方法を 提唱した.Bartholomew は愛着対象の作業モデル が他者に般化されたものを他者モデル (model of others) とし,自己の作業モデルを自己モデル (model of self) とした.各モデルを肯定的か否定 的かでとらえ,その組み合わせにより安定型 (se-cure),とらわれ型 (preoccupied),愛着軽視型 (dismissing),拒絶不安型 (fearful) という愛着ス タイルに類型した. このような Bartholomew (1990) の概念は愛着のタイプをより詳細,具体的 に概念化した有益なものといえるだろう.

また,Griffin & Bartholomew (1994) は,他者モ デルと自己モデルが他者からの回避 (avoidant) と 他者への不安 (anxiety) という形で現れるとして 次のように述べている.“他者モデルとは他者の 利用可能性や支援への期待を指す.他者モデルが 肯定的な人は他者に対して支援を期待できる存在 であると考えているため,他者に対して親密性を 希求し,回避が少ないという形で現れる.一方, 自己モデルとは自己への価値意識を指す.そのた め,自己モデルが肯定的な人は自己への価値意識 が高いため,他者との関係に対する不安の低さと いう形で現れる.”(p. 431) しかし,Bartholomew (1990) の概念は特定の愛 着対象が想定されていないため,青年の適応感に 対する個々の愛着対象の機能を検討することがで きない.一方,Brennan, et al. (1998) によって行 われた様々な愛着尺度のメタ分析の結果,愛着対 象に関わらず愛着尺度は回避と不安で構成されて いることが明らかとなっている.このことより, Bartholomew (1990) が提唱した自己モデルと他者 モデルは親を含めた特定対象への愛着でも不安と 回避という形で現れるものと考えられる.そこで, 親に対する愛着を愛着不安と愛着回避の 2 側面か らとらえる尺度を作成することを本研究の第 1 の 目的とする. では,親への愛着はどのような過程によって青 年の対人関係や社会的適応に影響するのであろう か.親への愛着は,自尊心 (Engels, Finkenauer, Meeus & Dekovic, 2001),抑うつ (Laible, Carlo & Raffaelli, 2000),アイデンティティ (Lapsley, Rice & FitzGerald, 1990; Samuolis, Layburn & Schiaffino, 2001),大学への適応 (Kenny, 1987; Lapsley, et al., 1990),情動制御 (Kobak & Sceery, 1988),友人関 係 (Markiewicz, Doyle & Brendgen, 2001) に影響を 与えることが示されている.また,愛着システム は内外の脅威にさらされたときに活性化し,安心 感や安定感を回復するように機能することが知ら れている(例えば,Mikulincer, Florian & Tolmacz 1990).これらのことから,ストレス状況において 愛着の機能を検討する方が,青年の適応感に及ぼ す愛着の影響がより明確に現れると考えられる. さて,これまでストレス状況における親への愛 着と適応感を扱った研究はいくつかみられるもの の,あるストレス状況の 1 時点において検討がな され,継時的に検討された研究は少ない.Berman & Sperling (1991) は,親への愛着とストレスにつ いて継時的に検討しており,大学入学時の親への 愛着が 3 ヶ月後のストレスの高さに影響すること を明らかにしているが,高いと思われる大学入学 時のストレスには言及していない.愛着システム はストレスの高い状況において活性化するため, ストレスの最も高い時期をすぎた大学入学後 3 ヶ

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月の時点では,親への愛着の機能が見られにくく なると思われる.また,愛着システムが活性化し ているストレス状況と愛着システムが活性化して いないストレス低減状況での適応感を比較するこ とによって,親への愛着の機能差が明確になると 考えられる.そのため,ストレス状況において各 愛着スタイルが示す適応感は,ストレス状況の 1 時点だけでなく継時的に焦点をあて,ストレス状 況とストレス低減状況を含んだ適応過程を検討す る必要があるだろう.

また,親への愛着は,Armsden & Greenberg (1987) の尺度のように 1 次元でとらえられてきた ため,不安定的な愛着の質的差異による適応過程 の違いははっきりしていない.Larose & Boivin (1998) は,親への愛着は大学入学時のストレス状 況における適応感に影響することを明らかにして いるが,不安定的な愛着の質的差異による適応過 程の違いは検討していない. では,親への愛着によって適応過程はどのよう に異なるのであろうか.佐藤 (1998) においてスト レス状況における愛着による機能の違いが述べら れており,それを要約すると以下のようになる. 愛着が回避的な人は,ストレス状況において親に 接近や助力を求めても拒否されるということから 起こる 藤をなくそうと,接近や助力を回避する ために,ストレスから注意をそらして感じられに くくする.一方,愛着に不安の強い人は,親から の接近や助力が得られるかに対する不安が強く, 親がそれに反応してくれるか予測できないために, ストレスに敏感になる.そして Bowlby (1973) は, このような親子関係において形成された反応の仕 方は,相手が親以外の他者でも適用されるとして いる.そのため,愛着不安の高い人はストレスを 感じやすく,愛着回避の高い人はストレスを感じ にくいと考えられる. 愛着システムが活性化するストレス要因は,個 人内要因(空腹,痛み,疲労,病気),環境要因 (不安を喚起する出来事),対人関係要因(愛着対 象の長期的な不在,愛着対象による近接の拒否) にまとめられている (Simpson & Rholes, 1994).小 泉 (1992) において青年期前期の中学校進学過程 は高い不安やストレスを抱えている時期であるこ とが示されているように,学校間移行という環境 の変化は非常にストレスフルな事態である.そし て,青年期は修学期と重なっている期間が長いた め,学校への入学,卒業といった学校間移行を比 較的短い期間で体験しなくてはならない.その時 おこる物理的,社会文化的な環境の変化や対人環 境の変化といった様々な変化に適切に対処できる かどうかが,その時だけでなくそれ以後も新環境 で適応的な生活を送れるか否かを左右する.その ため,学校間移行は危機的な時期であると考えら れる. このように様々な側面の環境の変化に伴い, 様々な問題や困難が生じてくる時,人はサポート を必要とする.適切なサポートを得られることは, 新環境で適応していくために非常に重要である (南・山口,1991).また,和田 (1995) は,環境 移行期における孤独感と疾病徴候との間に関係が あることを実証的に示していることから,対人環 境の変化に適応することは,適応的な大学生活を 送るうえで特に重要なことであると思われる. そこで本研究では,高校から大学への学校間移 行という環境移行に焦点を当て,親への愛着の差 異が適応過程2)に与える影響について検討するこ とを第 2 の目的とする.それによって青年期の適 応感の促進という介入援助の示唆が得られると思 われる.適応指標には,Armsden & Greenberg (1987) で適応感の検討に使われたように,青年の 適応指標として広く用いられている自尊感情と, 学校間移行で感じられやすい孤独感,大学生活不 安を扱うものとする. 2)本研究では入学時に感じられやすい不安や孤独感を 克服していく状態の変化について適応過程という言 葉を用いる.

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研究 1

目 的 「愛着不安」と「愛着回避」からなる親への愛 着尺度を作成し,その信頼性,妥当性を検討する ことを目的とする. 方 法 調査協力者 大学生・短期大学生・専門学校生 1187名(男性 496 名:平均年齢 18.44/SD.78〔年 齢不明 1 名〕,女性 691 名:平均年齢 18.24/SD.83 〔年齢不明 2 名〕).うち 628 名(男性 306 名,女 性 322 名)のデータは再検査と研究 2 に,559 名 (男性 190 名,女性 369 名)のデータは並存的妥 当性の検討に用いられた. 調査時期 628 名のデータは 1 回目が 2001 年 4 月中旬,2 回目が 2001 年 6 下旬から 7 月上旬に実 施された調査による.559 名のデータは 2001 年 6 下旬から 7 月上旬に実施された調査による.調査 は心理学に関する授業中に行われた. 調査内容 親への愛着尺度 Bartholomew (1990) の概念に 基づき,Brennan et al. (1998) の尺度を参考にし て,「愛着不安」と「愛着回避」からなる親への 愛着尺度を独自に作成した.「愛着不安」とは, 必要とするときに親から助けや受容が得られるか について不安をもつことである.「愛着回避」と は,助けを必要とするときでも親に頼ることや近 接することを回避することである.尺度項目は, 「愛着不安」が 12 項目,「愛着回避」が 13 項目の 計 25 項目であった.各項目について,自分にあ てはまると思う程度を「よくあてはまる」から 「まったくあてはまらない」までの 5 段階で評定す るものであった. 自己受容尺度 宮沢 (1988) による自己受容尺 度を用いた.「自己理解」8 項目・「自己承認」6 項目・「自己価値」6 項目・「自己信頼」7 項目 からなる.4 段階評定で回答を求めた.それぞれ の評定値を加算した下位尺度得点を以降の分析に 用いた. 親子関係尺度 落合・佐藤 (1996) の親子関係 尺度より,「子が親から信頼/承認されている親 子関係」11 項目,「子が困った時には親が支援す る親子関係」12 項目を用いた.5 段階評定で回答 を求めた.「子が親から信頼/承認されている親 子関係」の原項目は 20 項目あるが,落合・佐藤 (1996) の因子分析結果より因子負荷量が .40 以上 で,青年に対する親の態度を記述する項目のみを 使用し,それぞれの評定値を加算した下位尺度得 点を以降の分析に用いた.また,評定しやすいよ うに,文頭が“親は,…”となるように文章をそ ろえた. 結果と考察 まず愛着尺度について主因子法による因子分析 を行ったところ,固有値や結果の解釈可能性から 2因子解が適当であると思われた.自己モデルと 他者モデルは互いに独立であることが Griffin & Bartholomew (1994) によって確認されていること から,直交回転(バリマックス回転)を行い,当 該因子の因子負荷量が .45 以上で他の因子負荷量 が .30 以下の項目を抽出して再度因子分析を行っ た結果が Table 1 である.第 1 因子には「必要な 時に親は私の近くにいてくれないのではないかと 不安に思う」といった,愛着不安に関する 8 項目 がみられたため,「愛着不安」因子と命名した.第 2因子には「困ったことがあっても,親に相談し たくない」といった,愛着回避に関する 9 項目が みられたため,「愛着回避」因子と命名した.下 位尺度間の相関係数は r.23(N1187) であり低 い相関がみられたが,愛着不安と愛着回避はある 程度の独立性があると判断した.以上の結果より, 親への愛着は「愛着不安」と「愛着回避」の 2 側 面でとらえられることが示されたと考えられる. a係数を算出したところ,愛着不安では a.87, 愛着回避では a.83 が得られ,高い内部一貫性が 示された.2 ヶ月半から 3 ヶ月後の再検査より得 られた再検査信頼性は,愛着不安で r.65,愛着

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回避で r.81 であり,一定の信頼性があることが 確認された.以降,それぞれの評定値を加算した 下位尺度得点を分析に用いた. 次に,並存的妥当性を確認するため,親への愛 着尺度と関連概念尺度との関係を検討した.愛着 への不安は自己モデルと関連があり,愛着への回 避 は 他 者 モ デ ル と 関 連 の あ る こ と が Griffin & Bartholomew (1994) によって示されている.この ことから,愛着不安は自己への価値意識と,愛着 回避は親との信頼関係・支援関係と関連があると 考えられる. そこで,親子関係尺度,自己受容尺度と親への 愛着尺度との偏相関係数を求めた結果が Table 2 である.並存的妥当性の検討に用いたデータでは, 愛着回避と愛着不安との相関係数が r.49(N  559)であり,中程度の相関がみられたので,偏相 関係数を算出することにした.偏相関係数を求め るに当たって,愛着回避については愛着不安の, 愛着不安については愛着回避の影響を除いている. その結果,愛着回避では,親子関係尺度の「子が 困った時には親が支援する親子関係」3)(r.59, p.001) と「子が親から信頼/承認されている親 Table 2 親への愛着尺度と自己受容,親子関係の偏相関係数 親支援 親承認 自己価値 自己信頼 自己理解 自己承認 愛着回避 0.59 ∗∗∗ 0.40 ∗∗∗ 0.08 0.08 0.11 ∗ 0.01 愛着不安 0.41 ∗∗∗ 0.33 ∗∗∗ 0.28 ∗∗∗ 0.18 ∗∗∗ 0.30 ∗∗∗ 0.02 * p.05, *** p.001 Table 1 親への愛着尺度因子分析結果(バリマックス回転後) 項目 F1 F2 h2 愛着不安 10 必要な時に親は私の近くにいてくれないのではないかと不安に思う .77 .06 .59 19 親は私と一緒にいたくないのではないかと不安になる .74 .14 .57 4 親に見放されるのではないかと不安になる .72 .00 .52 8 私が親の近くにいたがる時,親はうっとうしく思っているのではないかと心配になる .67 .07 .46 12 私が親に頼ることを,親は迷惑に思っているのではないかと心配になる .66 .00 .43 16 親は本当は私を理解してくれていないのではないかと不安になる .64 .20 .45 2 親は私にあまり関心がないのではないかと心配になる .62 .09 .39 6 親は困った時に私を助けてくれるか不安に思う .61 .16 .40 愛着回避 1 困ったことがあっても,親に相談したくない .18 .71 .54 9 親に助言や助けを求めない .20 .65 .46 22 親に自分のことを必要以上に話すのを好まない .14 .65 .44 13 親に助けてもらわず,自力でやることを好む .00 .51 .26 ∗25 私は親から愛されているという安心感を必要としている .19 .48 .26 ∗23 親がいなくなったときのことを考えると不安になる .01 .51 .26 ∗17 気軽に親に頼ることができる .27 .58 .41 ∗11 親に個人的な感情や考えを打ち明ける .13 .65 .44 ∗24 親と一緒にいると安心する .14 .66 .45 寄与 3.94 3.44 7.38 寄与率 (%) 23.18 20.24 43.42 ∗ 逆転項目.

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子関係」3)(r.40, p.001) との間には有意な負 の偏相関が見られたが,自己受容の下位尺度との 間には「自己理解」との間にのみ有意な正の偏相 関が見られた (r.11, p.05) . また,愛着不安では自己受容の下位尺度である 自 己 価 値 (r.28, p.001) と 自 己 理 解 (r.30, p.001) との間に有意な正の偏相関が,自己信頼 (r.18, p.001) との間に有意な負の偏相関が見 られた.そして,親子関係尺度の下位尺度である, 「 子 が 困 っ た 時 に は 親 が 支 援 す る 親 子 関 係 」 (r.41, p.001) と「子が親から信頼/承認され ている親子関係」(r.33, p.001) との間にも有 意な負の偏相関が見られた. 愛着回避は親との信頼関係・支援関係と,愛着 不安は自己への価値意識と有意な負の相関がみら れたことは想定された相関のパターンであったが, 愛着不安と親との信頼関係・支援関係との間にも 有意な相関係数が得られた.自己モデルが肯定的 である人は自己への価値意識が強いため,他者か ら必ず反応が得られると思っている.そのため, 愛 着 へ の 不 安 が 低 い .(Griffin & Bartholomew, 1994).これは,不特定対象である他者だけではな く,具体的対象である親にも適用できる.つまり, 自分への価値意識を強くもっており,必要なとき には親から必ず反応があると確信しているため, 親への愛着不安が低くなるのである.そして,親 との信頼関係・支援関係を測定する項目は,親が 子どもの様子に敏感に反応し,かつ,利用可能性 の高いことを測っていると思われる.親が子ども の様子に敏感に反応しているという意味が親との 信頼関係・支援関係を測定する項目に含まれてい るため,愛着不安と親との信頼関係・支援関係と の間に有意な相関が見られたのだと思われる.こ れらの結果より,親への愛着尺度に対するある程 度の妥当性が示唆されたと考えられる. 以上より,親への愛着尺度は一定の信頼性と妥 当性が得られたと判断し,研究 1 において作成し た親への愛着尺度を用いて,親への愛着が適応過 程に与える影響を研究 2 において検討していくこ とにする.

研究 2

目 的 親への愛着の違いによる青年の環境移行期での 適応過程の差異について検討する. 方 法 調査協力者 大学 1 年生・短期大学 1 年生 628 名(男性 306 名:平均年齢 18.22/SD.51,女性 322 名:平均年齢 18.08/SD.28).研究 1 の調査協力者 より,2 回の調査項目に全て回答している 1 年生 を分析対象とした. 調査時期 2001 年 4 月中旬から下旬と 6 月下旬 から 7 月中旬.前者をストレス期,後者をストレ ス低減期とした.以下,前者を第 1 回調査,後者 を第 2 回調査と呼ぶ.調査は心理学に関する授業 中に実施した. 学校間移行期は非常にストレスフルな時期であ る.特に新環境への移行直後は,物理的環境,対 人的環境,社会文化的環境の変化にさらされるた め,非常にストレスフルであると考えられる.そ のため,第 1 回調査時期をストレス期として設定 した. そして,環境移行後は新環境にあった対人ネッ トワークに作り変えられ,そこからサポートを得 ながら新環境に適応していくことが知られている. その対人ネットワークの再構成は 5 月までに行わ れ,以降その状態が安定する(南・山口,1991). また,Hays & Oxley (1986) は,入学してから 8, 12 週間後のネットワークサイズと大学での適応感が 有意に関係していることを示している.これらの ことから,対人ネットワークを構成する各対象か ら得られるサポートによって入学 2 ヶ月後から比 3) Table 2では,「子が困った時には親が支援する親子 関係」を「親支援」と,「子が親から信頼/承認され ている親子関係」を「親承認」と略記する.

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較的ストレスが低減し,適応感が得られてくると 考えられるため,第 2 回調査時期をストレス低減 期とした. 調査内容 第 1 回調査と第 2 回調査とも以下の 尺度を用いた. 親への愛着尺度 研究 1 で作成された親への愛 着尺度が用いられた.愛着不安 8 項目,愛着回避 9項目の計 17 項目,5 段階評定で回答を求めた. それぞれの評定値を加算した下位尺度得点を以降 の分析に用いた. 自尊感情尺度 山本・松井・山成 (1982) によ る Rosenberg の self-esteem 尺度 10 項目.5 段階 評定で回答を求めた.それぞれの評定値を加算し た下位尺度得点を以降の分析に用いた. UCLA 孤独感尺度 工藤・西川 (1983) による UCLA孤独感尺度 20 項目.4 段階評定で回答を求 めた.それぞれの評定値を加算した下位尺度得点 を以降の分析に用いた. 大学生活不安尺度 古城 (1994) による大学新 入生が抱く不安と悩みの自由記述結果を参考に作 成された.自由記述の大カテゴリーである「学業 全般について」「自分の大学生活」「対人関係」よ り,複数人の記述があるもの,また,自由記述の 中でよく似た意味の記述をまとめて項目化した. 24項目,4 段階評定で回答を求めた. Table 3 大学生活不安因子分析結果(プロマックス回転後) 項目 F1 F2 F3 対人関係不安 信頼できる友人が見つかるかどうか不安だ .92 .06 .01 本当の友人ができるか不安だ .91 .05 .01 自分と気のあう友人ができるか不安だ .88 .07 .05 同級生とうまくやっていけるかどうか不安だ .87 .01 .04 周りの人とうちとけられるかどうか不安だ .86 .03 .03 同級生の考え方についていけるかどうか不安だ .74 .02 .02 先輩とうまくつきあっていけるかどうか不安だ .61 .08 .08 サークルの人たちとうまくつきあっていけるかどうか不安だ .59 .08 .06 大学になじめるのか不安だ .49 .03 .37 勉学不安 授業内容についていけるか不安だ .02 .84 .07 大学の試験でちゃんと点数が取れるか不安だ .06 .82 .05 勉強でみんなについていけるか不安だ .03 .79 .06 単位が取れるかどうか不安だ .00 .76 .04 4年(短大の場合 2 年)で卒業できるか不安だ .10 .72 .09 大学の試験のことがよくわからなくて不安だ .07 .70 .01 大学の成績のことがよくわからなくて不安だ .01 .63 .12 進路不安 この大学が自分にあっているのか不安だ .03 .02 .89 この大学に来るという進路選択は間違っていなかったか不安だ .12 .05 .86 自分の目的が大学にいくことによって達成されるのか不安だ .13 .06 .52 充実した生活が送れるかどうか不安だ .33 .08 .46 自分のしたいことがみつけられるかどうか不安だ .21 .07 .45 因子間相関 F1 F2 F3 F1 1.00 0.36 0.50 F2 0.36 1.00 0.25 F3 0.50 0.25 1.00

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結 果 1.大学生活不安尺度の因子分析 第 1 回調査での回答を用いて,大学生活不安尺 度の作成を行った.主因子法による因子分析を 行ったところ,固有値や結果の解釈可能性から 3 因子解が適当であると思われた.そして,斜交回 転(プロマックス回転)を行い,当該因子の因子 パターンが .40 以上の項目を抽出し,再度因子分 析を行った結果が Table 3 である.第 1 因子は, 「信頼できる友人が見つかるかどうか不安だ」と いった対人関係不安に関する 9 項目がみられたた め,「対人関係不安」因子と命名した.第 2 因子 は,「授業内容についていけるか不安だ」といっ た勉学不安に関する 7 項目がみられたため,「勉 学不安」因子と命名した.第 3 因子は,「この大 学が自分にあっているのか不安だ」といった進路 不安に関する 5 項目がみられたため,「進路不安」 因子と命名した.「バイトと勉強が両立できるか どうか不安だ」「大学で学んだことを身に付けら れるかどうか不安だ」「自分にあったサークルがみ つけられるかどうか不安だ」の項目は,当該因子 の因子パターンが .40 未満であったため,項目か ら削除した.a 係数は,対人関係不安で a.94, 勉学不安で a.90,進路不安で a.82 であり,高 い内部一貫性が得られた4).以上より,それぞれ の評定値を加算した下位尺度得点を以降の分析に 用いた. 2. 親への愛着による環境移行期での適応過程 の検討 親への愛着による環境移行期での適応過程の差 異について検討するために分散分析を行った.親 への愛着の 2 側面である愛着不安と愛着回避につ いて,各平均値以上を高群,平均値未満を低群と した.そして,自尊感情,孤独感,大学生活不安 (対人関係不安・勉学不安・進路不安)について, 愛着回避 (2) 愛着不安 (2) 時期 (2) の 3 要因 分散分析を行った (Table 4).愛着回避と愛着不安 4) 第 2 回調査での回答結果を用いて因子分析したとこ ろ,同様の因子構造がみられている.a 係数は,対 人関係不安では a.93,勉学不安では a.90,進路 不安では a.86 で,高い内部一貫性が確認された. Table 4 心理的適応感に対する愛着不安×愛着回避×時期の 3 要因分散分析結果 愛着不安低群 愛着不安高群 主効果 愛着回避 第 1 回調査 第 2 回調査 第 1 回調査 第 2 回調査 ①愛着回避 ②愛着不安 ③時期 自尊感情 低群 31.93 ( 6.50) 31.73 ( 6.74) 28.93 ( 5.00) 28.81 (5.13) 0.01 41.72∗∗∗ 2.14 高群 32.08 ( 6.48) 31.88 ( 6.36) 29.03 ( 6.33) 28.60 (6.69) 低群高群 孤独感 低群 35.81 ( 8.97) 35.74 (10.21) 41.89 ( 9.45) 40.69 (9.06) 14.05∗∗∗ 55.01∗∗∗ 2.80 高群 38.49 (10.14) 38.84 ( 9.74) 44.28 (10.10) 43.31 (9.30) 高群低群 高群低群 対人関係不安 低群 20.41 ( 7.02) 18.80 ( 7.03) 23.23 ( 6.18) 20.39 (5.60) 2.02 46.56∗∗∗ 79.60∗∗∗ 高群 18.74 ( 7.03) 17.02 ( 5.95) 23.39 ( 6.57) 20.93 (6.69) 高群低群 第 1 回第 2 回 勉学不安 低群 20.74 ( 4.87) 21.97 ( 4.47) 21.36 ( 3.82) 22.12 (3.81) 4.60∗ 6.06∗ 62.29∗∗∗ 高群 19.49 ( 5.16) 20.78 ( 5.24) 20.83 ( 4.73) 22.11 (4.79) 低群高群 高群低群 第 2 回第 1 回 進路不安 低群 11.82 ( 3.88) 12.04 ( 4.13) 13.12 ( 3.34) 13.25 (3.64) 0.39 26.52∗∗∗ 6.24∗ 高群 11.70 ( 3.87) 12.17 ( 3.99) 13.30 ( 3.40) 13.75 (3.75) 高群低群 第 2 回第 1 回 交互作用 愛着回避 ① ③ ②  ③ ①  ② ①  ②  ③ 自尊感情 低群 0.21 0.04 0.04 0.21 高群 孤独感 低群 0.29 4.25∗ 0.07 0.03 高群 対人関係不安 低群 0.08 4.15∗ 4.81∗ 0.27 高群 勉学不安 低群 1.04 0.71 1.91 0.62 高群 進路不安 低群 1.24 0.04 0.37 0.01 高群 ∗ p05, ∗∗∗ p001

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は個人間要因,時期は個人内要因である.分散分 析の各セルの人数は,愛着不安低群・愛着回避低 群 182 名,愛着不安低群・愛着回避高群 129 名, 愛着不安高群・愛着回避低群 138 名,愛着不安高 群・愛着回避高群 179 名であった. その結果,孤独感と対人関係不安において愛着 不 安 時 期 の 一 次 の 交 互 作 用 が み ら れ た (F (1,624)4.25, p.05; F(1,624)4.15, p.05).愛着 不安の単純主効果を検討した結果,孤独感では愛 着不安高群において第 1 回調査と第 2 回調査の間 に有意差がみられた (Figure 1).対人関係不安で は,愛着不安低群高群共に第 2 回調査の方が対人 関係不安は低くなっていたが,その変化は愛着不 安高群においてより顕著であった (Figure 2).そ こで,愛着不安高群低群の,第 1 回調査と第 2 回 調査における対人関係不安の変化量の大きさを比 較するため,第 1 回調査の対人関係不安得点から 第 2 回調査の対人関係不安得点を引いた値を求 め,愛着不安を独立変数にした 1 要因分散分析を 行 っ た . そ の 結 果 , 有 意 な 主 効 果 が み ら れ (F (1,626)4.08, p.05),愛着不安高群の方が第 1 回調査と第 2 回調査における対人関係不安の差が 有意に大きかった (Figure 3). また対人関係不安では,愛着不安 愛着回避 の 一 次 の 交 互 作 用 が み ら れ た (F(1,624)4.81, p.05).愛着回避の単純主効果を検討した結果, 愛着不安低群において愛着回避高群の方が愛着回 避低群よりも対人関係不安が有意に低かった. 自尊感情,孤独感,大学生活不安の 3 下位尺度 において愛着不安の主効果がみられ (F (1,624) 41.72, p.001; F(1,624)55.01, p.001; F(1,624) 46.56, p.001; F(1,624)6.06, p.05; F(1,624) 26.52, p.001),愛着不安低群の方が自尊感情が 高く,孤独感と大学生活不安が低かった. 孤独感と勉学不安において愛着回避の主効果が みられ (F (1,624)14.05, p.001; F(1,624)4.60, p.05),愛着回避高群の方が孤独感が高く,勉学 不安が低かった. 大学生活不安の 3 下位尺度において,時期の 主 効 果 が み ら れ た (F (1,624)79.60, p.001; F (1,624)62.29, p.001; F(1,624)6.24, p.05).対 人関係不安は第 1 回調査の方が高く,勉学不安と 進路不安は第 2 回調査の方が高かった.これらの Figure 1 愛着不安高群低群による第 1 回調査時期と 第 2 回調査時期での孤独感の平均値 Figure 2 愛着不安高群低群による第 1 回調査時期と 第 2 回調査時期での対人関係不安の平均値

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ことから,対人関係不安は第 1 回調査時期よりも 低減しているが,勉学不安と進路不安は第 1 回調 査時期よりも高くなっていることが示された. 考  察 1.親への愛着における適応過程について 愛着不安の高い人の方が,ストレス期である第 1回調査で感じる孤独感や対人関係不安と,スト レス低減期である第 2 回調査で感じる孤独感や対 人関係不安との間の差の大きいことが示された. 環境移行期は対人ネットワークの再構成時期で, 特に対人ストレスの高い時期である.そのような 対人ストレスの高い第 1 回調査時期においては, 対人関係不安を感じやすいと思われる.高校生に 対する調査であるが,古川・小泉・浅川 (1991) が まとめた高校入学をはさんだ 3 月から 7 月までの 対人関係に関する適応過程では,環境移行期であ る 4 月に適応感が低下し,友人関係は 5 月に,対 教師関係は 6 月に適応感が上昇し,以後そのまま 維持されている.つまり,環境移行期である第 1 調査時期に入って低下した対人関係に関する適応 感が第 2 調査時期になると上昇し,環境移行期前 の状態近くまである程度回復するという過程をた どると思われる. ところが,親への愛着不安の低い人は,他者に 近接や助力を求めた時に必ず反応してくれるとい う確信を持っているので,第 1 回調査時期におけ る対人関係不安や孤独感を緩衝できていると考え られる.一方,親への愛着不安が高い人は,他者 に近接や助力を求めた時に反応してくれるという 確信を持っていないので,対人ストレスの高い第 1回調査時期において感じやすい対人関係不安や 孤独感を緩衝できないと考えられる.これらのこ とより,親への愛着不安の高い人の方が親への愛 着不安の低い人よりも,第 1 回調査と第 2 回調査 との間の対人関係不安と孤独感の差が大きかった と思われる. ところで,勉学不安と進路不安については,第 1回調査よりも第 2 回調査の方の不安が高いとい う結果がみられた.これらの結果は,大学に入学 して実際に講義を受け,大学の様子について知る につれ,入学時に持っていた期待が低くなり,そ の上,大学生活を体験した上での現実的な勉学不 安や進路不安が高まったからだと考えられる.こ れらの理由より,勉学不安と進路不安に関しては 第 1 回調査より第 2 回調査の方がストレスの高い 状況にあったのだろう.このような結果は想定さ れていなかったが,考えうる結果だと思われる. このように,第 1 回調査時期がストレス期に なっていない側面もあるが,環境移行後の新環境 で適応的に過ごすためには,特にその環境にあっ た対人関係を再構成することが必要であろう.な ぜなら,例えストレス状況に陥っても,他者から のサポートによりストレスに適切に対処でき,ス トレスを低減させられるからである.つまり,対 人関係に関するストレスを低減し,環境に合った サポート源を確保することが環境移行期において は重要であると思われる.そのため,親への愛着 が環境移行期において対人関係不安や孤独感を低 減するという結果がみられた本研究は,親への愛 着の働きを明らかにしたという点で意義のあるも のと考えられる.その一方,勉学不安と進路不安 は対人関係不安や孤独感とは異なった適応過程を たどると考えられるため,今後はより長期的な縦 断調査による検討が必要であろう. Figure 3 愛着不安高群低群による第 1 回調査時期と 第 2 回調査時期での対人関係不安の差の平 均値

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また本研究は,学校間移行においては高い不安 やストレスがかかる(小泉,1992)ことが比較的 明らかなため,操作チェックを行わなかった.だ が,ストレスの程度を確認するために,今後操作 チェックを考慮に入れる必要もあるだろう. 2. 親への愛着回避と愛着不安の組み合わせに よる適応感の差異について 対人関係不安において愛着不安×愛着回避の一 次の交互作用がみられた.そこで,愛着不安の単 純主効果を検討したところ,愛着不安の低い人に おいて,愛着回避の高い人の方が愛着回避の低い 人よりも対人関係不安が低かった. 愛着回避が高く,愛着不安の低い人は,親へ近 接を求めたり,頼ったりすることを回避し,必要 なときに親は受け入れてくれるか,助けてくれる かについての不安が低い人である.つまり,必要 なときに要求すれば親からの受容や助力が得られ るとは思っているが,親に近接を求めたり頼った りしたくないと考え,また,親以外の他者に対し ても同様に考えていると思われる.これらのこと から,愛着不安が低く,愛着回避の高い人は,他 者にあまり期待をしていないため,他者とうまく やっていけるかといった対人関係不安を感じにく いと考えられる. 一方,愛着回避が低く,愛着不安の低い人は, 必要なときには親へ近接を求めたり,頼ったりす ることができ,親は受け入れてくれるか,助けて くれるかについての不安が低い人である.つまり, 必要なときに親からの受容や助力が得られると 思っており,また,親に近接を求めたり頼ったり することに抵抗はないと思われる.そして,親以 外の他者に対しても同様に考えていると思われる. これらのことから,愛着回避が低く,愛着不安の 低い人は,必要なときに助けを求めることができ, 相手も助けてくれると思うため,対人関係不安が 低いと考えられる. 以上より,両者とも対人関係不安を低く感じて いると思われる.しかし,その中でも愛着回避が 高く,愛着不安の低い人の方が,愛着回避が低 く,愛着不安の低い人よりも対人関係不安が低 かったという結果がみられたのは,両者の対人志 向性の違いが示された結果であると考えられる. 先行研究においては親への愛着が安定的である と,友人関係の質がよく(Markiewicz, et al., 2001), 大学内での対人経験もよい (Lapsley, et al., 1990) という結果が明らかとなっているが,不安定的な 愛着の質の違いによる差異については言及できて いなかった.本研究において愛着回避が高く,愛 着不安の低い人は対人関係不安が低いという結果 が得られたことから,不安定的な愛着の質の違い によって対人志向性に差異のある可能性が示され た.今後は対人行動と合わせて検討することで, 不安定的な愛着の質の違いによる対人関係傾向の 差異が明らかになってくると思われる.

総合的考察

本研究では,愛着回避と愛着不安からなる親へ の愛着尺度を作成することと,環境移行期におけ る親への愛着による適応過程の差異について検討 することを目的とした.その結果,設定されてい た愛着回避と愛着不安の因子が抽出された.そし て,内部一貫性,再検査信頼性,並存的妥当性を 検討した結果,ある程度の信頼性,妥当性が確認 された.Brennan & Bosson (1998) が Bartholomew & Horowitz (1991)の強制選択法による愛着尺度を 用いて自尊感情との関連を検討したところ,安定 型と愛着軽視型の方がとらわれ型と拒絶不安型よ りも自尊感情が高いと報告している.Griffin & Bartholomew (1994)によれば,安定型と愛着軽視 型は愛着に対する不安が低く,とらわれ型と拒絶 不安型は愛着に対する不安が高い型である.本研 究でも愛着不安低群の方が愛着不安高群よりも自 尊 感 情 が 高 か っ た . こ の よ う に , Brennan & Bosson (1998)とほぼ同じ結果が得られている.

愛着対象について,Brennan & Bosson (1998) は 愛着の対象を特定しない一方,本研究では親を愛

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着対象としているという違いはある.不特定対象 への愛着と親への愛着との特徴を比較した研究は 見当たらないが,親への愛着が親だけでなく親以 外 の 他 者 と の 関 係 に も 般 化 し て お り (Bowlby, 1973),安定した愛着には父母とパートナーの存在 が関与しているという結果が示されている(Trinke & Bartholomew, 1997).不特定対象への愛着と親 への愛着が完全に重なりはしないが,近似すると は 考 え ら れ る . そ の た め , Brennan & Bosson (1998)と本研究の結果を比較することはある程度 可能であると思われる.以上より,Bartholomew & Horowitz (1991)の愛着をとらえる枠組みが親と いう愛着対象に特定されても有効であることを示 していると思われる. 次に,環境移行期における親への愛着による適 応過程の差異について検討した結果,親への愛着 不安の低い人は,親への愛着不安の高い人よりも, ストレス期において孤独感や対人関係不安を緩衝 で き て い る こ と が 示 さ れ た . Larose & Boivin (1998)では,環境移行前の時期の愛着が大学入学 時の孤独感に影響することを示し,Berman & Sperling (1991)は,大学入学時の親への愛着が大 学入学 3 ヶ月後のストレスに影響することを明ら かにしていたが,適応過程としては検討されてこ なかった.本研究では,短期的ではあるが縦断的 に検討し,親への愛着による適応過程の差異につ いて示すことができたと考えられる.特に,愛着 不安の強い人における適応感の低さが本研究で明 らかになったため,環境移行時に愛着不安の強い 人に対してアセスメントや支援行動を行うなど, 適応感の低さをケアするような方法も考えていく 必要があるだろう. また,対人関係不安において親への愛着回避と 愛着不安の組み合わせの間で差がみられ,その結 果から愛着回避が高く,愛着不安の低い人と,愛 着回避が低く,愛着不安の低い人の,対人志向性 の違いが示された結果となった.Brennan et al. (1998)は, 回避と不安の高低で Bartholomew (1990)の 4 類型がとらえられるとしている.そう すると,愛着回避が高く,愛着不安の低い場合は 愛 着 軽 視 型 に 分 類 さ れ る . Bartholomew & Horowitz (1991)によれば,この類型は他者とのか か わ り を 軽 視 す る こ と を 特 徴 と し て お り , 本 研 究 で 考 察 さ れ て い た こ と と 一 致 す る . し か し , 本 研 究 の 親 へ の 愛 着 尺 度 に よ る 分 類 と , Bartholomew (1990)の 4 類型を単純に同一のもの としてみることはできないため,これらの関連性 を検討することが必要だろう. 今後の課題として以下のことがあげられる.第 1に親への愛着の機能についてさらに検討するこ とがあげられる.本研究では特に心理的側面に焦 点をあて,検討を行った.それ以外にも対人行動 やストレスコーピングなど,行動的側面も検討す ることは,親への愛着の機能を明らかにする上で 必要なことであろう. 第 2 に愛着対象間の関係について明らかにする ことがあげられる.青年期には複数の愛着対象が 存在する.親への不安定な愛着を形成した場合, 他の対象が親への愛着を補償しえるのか,その場 合どの程度補償されるのかについて検討すること は,青年の社会適応を援助するための介入を考え る上で必要なことと思われる. 引用文献

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IWA

Graduate School of Education and Human Development, Nagoya University THEJAPANESEJOURNAL OFPERSONALITY2005, Vol. 13 NO. 2, 156–169

The purpose of this study was to develop a scale to measure attachment to parents, and to examine the role of the attachment in adjustment to transitional stress. Brennan, Clark & Shaver (1998) proposed two at-tachment facets of anxiety and avoidance, and in this study, a scale intended to tap the two toward parents was constructed. In Study 1, attachment to parents, self-acceptance, and parent-child relationship were ex-amined. Factor analysis revealed two factors in the attachment: Anxiety to Attachment and Avoidance of At-tachment. Two subscales corresponding to the factors showed good reliability and validity. In Study 2, the role of the attachment in social environmental adjustment was examined through a short-term longitudinal study, focusing on school transition. Attachment to parents, self-esteem, loneliness, and college life anxiety of first-year students were measured. Results revealed that those high on Anxiety to Attachment showed larger increases in loneliness and apprehension toward interpersonal relationship between two time periods than the low. The findings suggested that those who were low on the Anxiety were able to cope better with stress arising from loneliness and apprehension toward interpersonal relationship.

参照

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