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タイ南部の大学における日本語教育の現状と課題 プリンス・オブ・ソンクラー大学ハジャイ校の一般教養科目を事例として

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Academic year: 2021

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特集

タイ南部の大学における日本語教育の現状と課題

―プリンス・オブ・ソンクラー大学ハジャイ校の

一般教養科目を事例として

トーンディノック・スカンヤー

1 タイ南部の大学における主な日本語学習者は、一般教養科目の一つとして日本語を履修している学 生である。タイ南部で一般教養科目としての日本語教育を行う人材を育成するために本稿はプリンス・ オブ・ソンクラー大学ハジャイ校を例に、タイの地方の大学における日本語教育の現状について報告し 今後の課題について検討した。その結果、適切な教材が開発されていないこと、日本語学習に継続性が ないこと、授業時間の減少、地域・コースに合わせた教員養成といった問題への対処が必要となってお り、大学一般教養科目としての日本語教育の特有の問題があることが浮き彫りとなった。 キーワード:地方における日本語教育、一般教養科目、日本語学習の動機

1.タイ南部の大学における日本語教育略史

バンコクの高等教育機関で初の日本語講座は 1965 年にタマサート大学に開設されたが、タイ南部の高等 教育機関における日本語教育は、それに遅れること14 年後の1979 年にプリンス・オブ・ソンクラー大学(以 下PSU)ハジャイ校に一般教養科目の一つとして日本 語講座が開設されたことに始まった注1。次に、1986 年PSU パッタニー校においても一般教養科目の一つ として日本語講座が開設され、ここでは1989 年には 副専攻、そして 1996 年には主専攻として日本語教育 が展開されるようになった。この翌年の1997年には、 タクシン大学が一般教養科目の一つとして日本語講座 を開設し、2005 年に主専攻として日本語教育を開始し た。2002 年にナコーンシータマラート・ラチャパット 大学が主専攻として日本語教育を開始したが、2006 年 度以降現在まで新入生を受け入れてはいない状態にな っている注2。現時点(2018 年)では、タイ南部の高等 教育で主専攻として日本語教育を実施している機関は 2 校であり、ここ数年ではタイ南部において日本語主 専攻の高等教育機関は増加していない、一方、一般教 養科目の一つとして日本語教育を実施している高等教 育機関は以前より増加し、計7 校になっている。つま り、タイ南部の大学における主要な日本語学習層は「一 般教養科目の一つとして日本語を履修している学生」 であると言えるであろう。 そこで、本稿では PSU ハジャイ校を事例として、 タイ南部の大学における一般教養科目としての日本語 教育の現状、及び、課題を述べ、地方に高等教育機関 における日本語人材育成と日本語教育環境の整備につ いて考える一助としたい。

2.

PSUハジャイ校における一般教養科目と

しての日本語教育

PSU ハジャイ校では、必修の英語基礎科目の他に、 選択必修の一般教養科目として英語、中国語、韓国語、 マレー語、ドイツ語、日本語の6 種の外国語科目群が ある注 3。当初、これらの外国語科目は3 単位、週 3 時 間で合計 45 時間の開講時間が確保されていたが、 2018 年度(2018 年 8 月)にカリキュラム改編があり、 各科目の単位数が3 単位から 2 単位へと削減され、授 業の開講時間も週2 時間、合計 30 時間となった。た だし、現在はカリキュラム改編以前に入学した学生も いるため旧制度も残るが、2019 年 8 月には全学的に 外国語科目2 単位の制度に移行する予定である。 1プリンス・オブ・ソンクラー大学講師

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2.1 開講科目、及び、日本語学習者 PSU ハジャイ校の全学生を受講対象とした、日本語 を全く学習したことがない学生向けに「日本語Ⅰ」そ れに続く「日本語Ⅱ」という科目があり、「日本語Ⅱ」 以降も更に日本語が学習できるよう、「漢字」、「文法Ⅰ」、 「文法Ⅱ」、「聴解」と、計6 科目からカリキュラムが 構成されている。「文法Ⅱ」と「聴解」以外の科目は毎 学期開講されている。 「日本語Ⅰ」の履修者には理系の学生も文系の学生 もいる。主な履修者は学部の全学年の学生であるが、 まれに大学院生もいる。また、履修者の中には高校で 日本語学習した履修者も少数いる。表1 に示すように、 履修者数は第1 学期より第 2 学期のほうが多い。この 傾向が生じる背景には、第1 学期には所属学部の専門 科目が優先されるという事情がある。各年度の「日本 語Ⅰ」の履修者数は年度によって増減があり、例えば、 2017 年度の履修者数は 393 名であるが、2016 年度と 比較して約26.7%減少している。履修者数が減少した 理由の一つは、タイ人教員が授業以外に担当する様々 な業務の負担量も増加したことにより、開講クラスが 減少したことにある。 履修者数は年度によって増減はあるものの、平均的 には年間で約400 名強となっており、約 1 割の学生が 一般教養科目としての6 種の外国語の中から日本語を 選択しているという状況である。学科によっては選択 必修の外国語科目として英語履修が指定されていたこ ともあり、英語の履修者が最多であったが、それを除 くと、2017 年度の履修者数は日本語が第 1 位であり、 人気は高いといえる。第2 位はマレー語、第 3 位は中 国語である注4 このような状況で、実際の履修者は、一般教養科目 としての日本語学習にどのような期待を持っているの であろうか。2017 年度第 2 学期の「日本語Ⅰ」履修者 を対象に、日本語学習の動機、および最終的に到達を 希望するレベルを調査した。質問内容は資料 1、資料 2 に示す。 まず、動機については、「日本語に興味があるから」、 「日本に興味があるから」、「日本に行きたいから」の 順となった。つまり、学習者は就職などの実利的な理 由や学習しやすさなどの消極的理由で日本語を選択し ているのではなく、日本の言語、文化習慣、日本人の 生活などに興味があると言え、日本語と日本について の知識を得るため履修しているものと考えられる。 到達を希望するレベルを 4 技能別に尋ねたところ、 最も多かった回答は以下のようになった。 読む:簡単な文章ならだいたい理解できる。 書く:簡単なメモを書くことができる。 聞く:会話の中で、相手の考えや意見をだいたい理 解することができる。 話す:日常生活に必要な表現を状況に応じて使える。 つまり、全体としては、初級レベルまででよいとす る履修者が多いといえる。しかし、2 番目に多い回答 をみると、 読む:母語と同じように読める。 書く:母語と同じように書ける。 聞く:母語と同じように聞いて理解できる。 話す:会話の中で、意見や考えを伝えることができ る。 となっている。つまり、少なからぬ学習者が上級レベ ルまでの到達を希望していることがわかった。こうし た希望が「日本語Ⅰ」以降も学習を継続し、六つの日 本語科目をすべて受講する動機となっていると思わ れる。 しかし、毎学期、「日本語Ⅰ」の受講終了後に「日本 語Ⅱ」を履修する学生がいるものの、専門の必修科目 と開講時間が重複してしまうなどの問題がある場合 もあり、そうした場合には「日本語Ⅰ」のみの履修で、 日本語学習が終了してしまっているという状況も目 表1 「日本語Ⅰ」の履修者数 年度 第1 学期 (クラス数) 第2 学期 (クラス数) 年度計 (クラス数) 2013 年度 145 名(5) 197 名(5) 342 名(10) 2014 年度 166 名(5) 198 名(5) 364 名(10) 2015 年度 246 名(6) 200 名(5) 446 名(11) 2016 年度 253 名(6) 283 名(6) 536 名(12) 2017 年度 213 名(5) 180 名(5) 393 名(10) 2013 年度~ 2017 年度 (直近 5 か年) の平均 204.6 名 (5.4) 211.6 名 (5.2) 416.2 名 (10.6)

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立つ。直近5 か年の「日本語Ⅱ」の履修者数の平均は 74.8 名(「日本語Ⅰ」の履修者の約 18%)にとどまっ ている。さらに、他の四つの日本語科目まで全て履修 する学生は毎年度 2、3 名であり、少数しか存在しな いというのが現状である。 また、学習者のほとんどが授業以外で日本語を使用 する機会に恵まれていないということも、学習が継続 しにくい要因となっていると思われる。 2.2 日本語教員 タイの国立大学の常勤教員(正教員)には、タイ人 教員、及び、日本人教員のいずれも日本語、又は、日 本語教育学科を卒業した者が採用されている。特に専 攻科目担当教員を雇用する条件は厳しく、常勤教員だ けでなく契約教員も日本語教育または関連分野での修 士号を取得していることが求められる。これに対して、 一般教養科目の場合は比較的条件が緩く、日本人契約 教員については学士号または修士号を取得していれば 分野は問われない。ただし、日本語教授経験が求めら れる。 PSU ハジャイ校は現在(2018 年)、日本語教員はタ イ人の正教員1 名と1年ごとに契約が更新される日本 人1 名となっている。契約教員は日本語教育以外の分 野を卒業したが、一定の日本語教育経験を有している ことが採用の条件となっている。公務員の正教員であ るタイ人教員は他の様々な業務をも負担する必要があ るため、「日本語Ⅰ」のクラスは、主に契約教員である 日本人教員が担当している状況である。 ここで、タイ南部における日本語教員のネットワー クについて述べてみたい。2001 年から南部タイ日本語 教師会が開催されており、現在までに、大学だけでな く高校の日本語教員もともに交流できる機会として年 1 回集合し、日本語教育についての研修会、意見交換、 日本語を学習する学生のための様々な行事などが実施 されている。これは教員育成の良い機会であると考え られる。しかし、学生のための行事は継続して実施さ れているものの、教員たちは様々な業務を抱えており、 土日にも時間を割かなければならないことが多く、ま た高校と大学の年度休みの時期の違いなどのため、機 会の確保が困難になってきている。以前は年1 回実施 されていた研修会も、2016 年以降は開催されてはいな い。 2.3 日本語教材 PSU ハジャイ校では大学の学生の日常会話に合わ せた自作教材を使用している。毎回、プリントとして 学生に配布しているが、プリント形式の教材より書籍 形式の教材のほうを要望する学生もいる。 ただし、印刷媒体以外の教材を排除しているわけで はなく、日本語教育への ICT 導入が進められている。 実際に、コンピューターで作成した教材、パワーポイ ント、インターネットのビデオクリップなど、日本語 に関係する物を教材として使用している。積極的な自 己学習を推進するため、大学のウェブサイト、オンラ ンシステムも整備されている。

3.まとめと今後の課題

これまでに述べた現状を踏まえ、PSU ハジャイ校に おける日本語教育の状況を整理すると、下記に列挙す る課題が浮かび上がる。 1)一般教養科目として日本語を初めて学習する学 生に真に適していると思われる教材は市販教材 にはなく、自作教材をプリントとして配布して いるのが現状である。彼らの動機、目的に適った 学習内容を改めて検討してみる必要がある。 2)外国語科目の中で日本語科目を選択しても、次 のステップに進まない学習者が多くいる現状を 改善するため、制度面からも内容面からも学習 継続を促進するための対策を考える必要がある。 3)授業時間の減少への対応として、より効率的に 進めるための学習項目や教育法の再検討が求め られる。授業外での学習を促進するため、自習用 教材やe-ラーニングの活用も考えられよう。 4)地域で活躍できる日本語教育人材の育成につい て、教員を取り巻く状況を整理して勤務環境に おける問題点を明らかにしその解決策を提言し ていくとともに、地域における教員間の連携の あり方を探っていく必要があると考える。 今後は、一般教養科目としての日本語教育に適切な 教材、少ない時間で教えるのに適した教授法を探って いきたい。さらに、日本語教育人材の育成のために他 の地方との比較検討を行い、タイ南部における日本語

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教育の今後の発展に生かしていきたい。また、今後増 えるかもしれないアカデミック日本語やビジネス日本 語への需要への対応も検討していく必要があろう。 注 注1 PSU ハジャイ校教養学部ウェブサイト1) 注2 参考文献2)P.183 より 注3 2017 年度までは、これら外国語科目群の中から、学 部・学科の指定により1 ないし 2 科目を選択するこ とになっていた。2018 年度より、外国語以外の科目 も含む3 科目 6 単位を自由に選択できるようになっ た。 注4 日本語科目の履修者数は393 名、マレー語 321 名、 中国語121 名、韓国語 102 名、ドイツ語 56 名となっ ている。 資料 資料1 学習動機の調査 学習動機を以下の16 の選択肢の中から 3 つ選び、1 か ら3 まで順位付けを行ってもらった。 1. 大学の入試科目にあって大学入学に有利だから 2. 学校の授業にあるから 3. 就職に有利だから 4. 日本人の知り合いがいるから 5. 親や知人などに勧められたから 6. 日本語を学ぶのは知的な事としてまわりから評 価されるから 7. 日本語は難しそうで、やりがいがあるから 8. 学びやすそうだから 9. 日本語に興味があるから 10. 国際的に重要な言語だから 11. 日本の文化や社会についての情報を得たいから 12. 日本の文学や歴史に興味があるから 13. 日本に興味があるから 14. 日本に行きたいから 15. 日本のもの(テレビ、映画、ゲーム、歌など)が 好きだから 16. その他____________ 資料2 到達目標の調査 将来日本語がどのぐらいできるようになりたいと思っ ているのか、4技能それぞれについて1 つ選んでもら った。 「読むこと」 1. ひらがなとカタカナが読める。 2. 商品のラベル、雑誌の見出しなどがわかる。 3. 簡単な文章ならだいたい理解できる。 4. 新聞や雑誌、専門書などがほぼ問題なく理解できる。 5. 母語と同じように読める。 「書くこと」 1. ひらがなとカタカナがかける。 2.簡単なメモを書くことができる。 3.一般的な手紙を書くことができる。 4.レポートや計画書などが書ける。 5.母語と同じように書ける。 「聞くこと」 1.日常生活で使う簡単な表現、挨拶などが聞いて理解 できる。 2.簡単な指示などを理解することができる。 3.会話の中で、相手の考えや意見をだいたい理解する ことができる。 4.テレビニュース、学校の講義など一方的に話される まとまった話がほぼ理解できる。 5. 母語と同じように書ける。 「話すこと」 1. 挨拶ができる。簡単な自己紹介ができる。 2. 日常生活に必要な表現を状況に応じて使える。 3. 会話の中で、意見や考えを伝えることができる。 4. 人前で論理的にまとまった話をすることができる。 5.母語と同じように話せる。 参考文献

1) Department of Languages and Linguistics Faculty of Liberal Arts:Background, http://www.libarts.psu.ac.th/ index.php/department-and-institute/department-of-languages-and-linguistics, 最終閲覧 2018 年 1 月 13 日. 2) Somchanakit, K., Dechasathit,P., Kakizaki, T., &

Theppradit, C. :Problems and Adaptation of Japanese Language Teachers in Higher Education in the Southern Border Provinces, Journal of Humanities and Social Sciences, Thaksin University, 12 (1), pp.181-205 (2017)

参照

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