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アメリカ合衆国カリフォルニア州における刑務作業運営と同州の経済面に及ぼす影響に関する評価研究の概要

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(1)法政治研究 第 7 号(2021 年 3 月). 31. アメリカ合衆国カリフォルニア州における刑務作業運営と 同州の経済面に及ぼす影響に関する評価研究の概要 漆 畑 貴 久 1.はじめに 2.アメリカ合衆国における刑務作業運営の歴史的推移 3.カリフォルニア州刑務作業局による刑務作業運営 4.刑務作業の経済的影響―カリフォルニア州における評価研究を中心に 5.検討 6.おわりに. 1.は じ め に 19 世紀以降のアメリカ合衆国の各州において運営されていた刑務作業は,1920 年代から 1930 年代に制定された一連の連邦法によって,合衆国から排除される こととなった 1)が,その後に制定された連邦法等を根拠として,一定の要件を充 足した場合に限り,各州において実施することが可能となっている。本稿は,合 衆国における刑務作業運営の歴史的推移を概観したうえで,現在,カリフォルニ ア州において実施されている刑務作業の現状,並びに刑務作業が同州の経済面に 及ぼす影響に関する評価研究を検討して,刑務作業が犯罪者処遇上において有す る意義について考察することを目的とする。 なお,本稿で検討の対象とする「刑務作業」とは,懲治監,監獄,ジェイル, 刑務所,あるいは矯正施設等のいわゆる刑事施設が,被収容者の就業によって経 営する作業の一切を指すものとする2)。. 2.アメリカ合衆国における刑務作業運営の歴史的推移 (1)19 世紀から 20 世紀前半における刑務作業運営の推移 ① オーバーン制とペンシルバニア制 アメリカ合衆国では,1820 年代以降において,2 つの代表的な監獄(penitentiary) 制度に基づいて刑務作業が展開されてきた3)。すなわち,1819 年から 1823 年に かけてニューヨーク州オーバーンに設立された州立刑務所において採用された.

(2) 32. アメリカ合衆国カリフォルニア州における刑務作業運営と同州の経済面に及ぼす影響に関する評価研究の概要(漆畑貴久). 「オーバーン制」(Auburn System),並びに 1826 年から 1829 年にかけてペンシル バニア州によって採用された「ペンシルバニア制」 (Pennsylvania System)である。 これらの制度は,個々の被収容者の分離,刑務所当局への服従,そして最も重要 な要素としての肉体労働によって特徴付けられていたが,特に肉体労働の実現の 方法に相違があった。すなわち,オーバーン制では,夜間独居と昼間の集団労働 が用いられていた一方で,ペンシルバニア制では,昼間・夜間を問わない完全な 分離・独居に基づいた沈黙の下での労働が用いられていた。そしてこの両者の差 異は,刑務所という施設に生産という要素を導入する可能性に重大な影響を及ぼ したとされた。 完全な孤独に基礎を置いたペンシルバニア制というシステムは,刑務作業として 導入され得る作業が熟練工的な性格を有する手工業に限定されることになるがゆえ に,刑務所に生産的な作業を導入する可能性に重大な制約をもたらした。この制約 は,作業の目的は治療的なものであって生産的なものではないと位置付けられた場 合に限って,刑務所にとって受け容れられ得るものであった。それゆえ,ペンシル バニア制に基づいた就労のシステムは,被収容者が沈黙の中で手工業的な作業に就 労する労働者であることを根拠として,刑務作業の理念的な模範と位置付けられた。 しかしながら,模範と位置付けられたこのシステムは,当時の社会における産業化 の発展がもたらした複数の要因によって,次第に時代遅れなものとなっていった。 すなわち,第一に,実務的な観点から,完全な孤独に基づいた作業というシステムは, 急速な刑務所の拡大の時代において,維持されることが困難となっていったという ことが挙げられる。次いで第二に,経済的な観点から,このシステムが,生産的な 労働力の養成を困難にしたことが挙げられる。そして第三に,刑事政策的観点から, 被収容者が強制的に就業させられる経済的ではない作業というこのシステムの本質 が,被収容者に教育を及ぼすものではなく,そしてそれゆえに,被収容者がもとも と有していたとされる就労に関する能力を減退させることとなった結果,治療的な 機能を果たしていないとされたことが挙げられる。被収容者を改善させるために作 業を行わせるという当時の刑事政策的な観点からすれば,作業は,社会経済の動向 に合致した生産的なものであること,そして刑務所というシステムに基づいて組織 されるものであることが必要であると考えられていた。 他 方,集 団による作 業を前 提としたオーバーン制は,民 間 事 業 者(private sector)が刑務所内において作業を展開させるために必要な条件を備えていたとい えた。オーバーン制のもとでは,被収容者の改善は,最新の工場生産方式における.

(3) 法政治研究 第 7 号(2021 年 3 月). 33. 訓練に依存していると考えられていた。それゆえ,刑事政策学的な観点に基づいた 刑務作業の目的は,国家経済における主要な産業システムのために機能することと 容易に合致した。自給自足可能な刑務所の運営がもたらす財政上の利点,並びに改 革主義者が主張した刑罰の目的を充足するための考え方は,州の立法者並びに政策 策定者の両者にとって魅力的なものであった。このことから,たとえ批判者と支持 者とが,オーバーン制並びにペンシルバニア制の長所と欠点とについて多年にわた り様々に議論を続けてきたとしても,集団による作業という方法は,20 世紀中庸ま での刑務所システムの支配的なモデルとして位置付けられることとなった。 ② 刑務作業運営方式の諸類型 合衆国における刑務作業の運営方法は,国内のそれぞれの地域の経済的要因, 並びに個人的見解の両者に依存して,様々な形態をとった。当初,刑務作業は, 公共事業に被収容者の労働力を使役する公共事業制(public-work system)によっ て運用されていたが,この方法は,自動車の普及に伴って道路整備の必要性が認 識されるようになった 1880 年代以降に,本格的に展開していった 4)。北部諸州に おいては,請負制(contract system)が刑務作業運営の一般的な方法として普及 した。請負制において用いられた請負契約は,刑務所内で行われた労働に対して 一定額の金銭を支払うことを条件としてなされた刑務所の被収容者による労働に ついて,民間の事業者と刑務所との間で形成された法的な合意を意味していた。 当時,行われていた作業は,帽子製造,靴製造,若しくは縫製等の工場労働が中 心であった。請負制と類似した運営方法である出来高払制(piece-price system) は,契約者が,日々の労働に対する賃金の代わりに,生産された製品に対して一 定の金額を支払うという点で,請負制とは異なっていた。 南部諸州においては,賃貸制(lease system)が刑務作業の運営方法として一 般的であった。賃貸制が注目されたのは南北戦争以降のことであり,南部では, 特に南北戦争によって荒廃した社会基盤の再整備の必要性,並びに南北戦争時の 奴隷解放がもたらした労働力不足によって高まった労働力に対する需要を,被収 容者の労働力で満たすことが試みられた。戦争で疲弊した南部の各州政府は,自 らが被収容者を就業させることが困難若しくは不可能であったがゆえに,被収容 者の労働力の使役を民間事業者に委ね,その賃料を得た。賃貸制の下では,請負 制の場合とは異なり,作業のほとんどが刑務所外で,例えば鉄道工事,鉱山にお ける採掘,若しくは農園における農作業等の形態で行われた。請負制と賃貸制と.

(4) 34. アメリカ合衆国カリフォルニア州における刑務作業運営と同州の経済面に及ぼす影響に関する評価研究の概要(漆畑貴久). を区別するための重要な基準は,賃貸制の下では,刑務所の職員が被収容者に対 して有する統制のための権限を民間の契約相手方に引き渡すことで,それを喪失 しているかどうかという点に存した 5)。 これらの他に,官業制(public account system) ,並びに官用制(state use system) と呼ばれる刑務作業の運営方法も存在した。官業制は,刑務所職員が被収容者 による労働と製品の販売について責任を負うものであり,そして官用制は,州内 の公共施設等によって購入される製品等を刑務作業によって生産するものであっ た。これらの作業運営の形態は,賃貸制とは異なり,刑務所職員がその被収容者 に対して完全な統制を維持していたうえに,州は,自身が就業させる被収容者に 適用される労働基準等を自ら設定した。官業制は,刑務作業の運営モデルの中で 最も経済的な効率が悪いものであることが認識されるようになり,これを採用す る州はほとんどなかった。その理由は,第一に,ほとんどの州が,十分な刑務作 業のために求められる作業設備への多額の資本投入を行うことを望んでいなかっ たことに,そして第二に,ほとんどの刑務所管理者が,民間企業の経営者の役割 を遂行する能力を有していなかったことに存していた。 ③ その後の展開 刑務作業運営をめぐる問題は,初期の産業資本主義に関する問題に還元され得 る。当時,刑務作業に就業していた被収容者は,労働者として位置付けられており, その扱いは,いわゆる自由労働者に対するものと変わるところがなかった。しか し,自由労働者が就業を拒否することができる一方で,被収容者が就業を拒否し たという事実が,その者が規則違反を犯したことを意味していたことを考慮すれ ば,自由労働者よりも保護されていなかったともいえた。更に,刑務作業を通し て利益を得るという現実的な目的は,労働を通して犯罪者を改善させるという理 念的な主張よりも優先されていた。 刑務作業運営に対する経済的な観点は,上述の賃貸制が刑務作業の主要な運営 方法として用いられていた南部諸州において,特に顕著に現れた。南部における 被収容者に対する搾取の問題は,従来から存在していた奴隷制度の遺産によって 悪化させられることとなった。既述のように,賃貸制は,被収容者の統制を完全 に民間の契約相手方に委ねていたがゆえに,民間事業者の利益の拡大という関心 は,被収容者の改善という関心を容易に排斥した。賃貸制は,刑務所と一部の民 間事業者との利益のみが尊重される作業運営の方式である点において自己破滅的.

(5) 法政治研究 第 7 号(2021 年 3 月). 35. なものであり,そしてそれゆえに,その衰退は,賃貸制が被収容者の就労に対す る伝統的な理念を侵食するものである点に求められた。また,賃貸制の下で就労 していた被収容者は,この制度が,被収容者が社会に対して返済の義務のある負 債を抱えているという信念を彼らに教え込むよりも,むしろ労働を通して彼らに 改善を求めていたがゆえに,この制度を軽蔑していた。 (2)刑務作業制限立法の制定と刑務作業運営 ① 刑務作業に対する反発 被収容者に対する搾取の問題ではなく,民間の事業者並びに自由労働者が多年 にわたり展開してきた努力が,刑務作業への民間事業者の参入の最終的な廃止を 導き出したといえた。労働集約的ではあるが比較的低水準の技能を要求する産業 において被収容者の労働力を効果的に活用する可能性は,最終的に,そうした産 業領域における被収容者労働力の使役の集中という事態をもたらし,そして,こ うした被収容者の使役は,刑務作業に参入する民間事業者の利益を確保するため に,自由労働者との直接の競争を導き出すこととなった。 労働市場における被収容者との競争の正確な影響を測定・評価することは困難 であるが,被収容者の労働力は,少なくともそれと競合する若干の産業において, 自由労働者の賃金を低下させたともいわれていた。州の立法者は,収益の確保並 びに費用の節約において非常にうまく機能していると考えられていた刑務作業の 運営方法である賃貸制を放棄することを望んでいなかった。この認識をもたらし た理由の中には,これらの運営方法が生み出した政治的な腐敗が含まれていた。 すなわち,立法者は,しばしば,その運営方式を含むシステム自体から利益を得 ていたがゆえに,彼ら自身にとって最良の利益となっているか否かを基準とし て行動した。また,賃貸制に関与できた民間事業者は,当然に,そのシステムを 活用することで自らの利益を拡大することを望んでいた。それゆえに,事業者と 州政府との間で不公正な政治的結び付きが形成されることは,珍しいことではな かったのであり,そしてそのことが,刑務作業に参入できなかった事業者の反発 を生じさせることも,また珍しいことではなかった。刑務作業の維持は,一方で は刑務所運営者と職員との間で示された被収容者の管理をめぐる見解の一致に, そして他方では刑務所運営者と民間の契約者との間で示された見解の一致に由来 していたが,民間の事業者と自由労働者との両者が示した政治的影響力は,自由 市場と直接に競合しない刑務作業への転換をもたらした。その結果,20 世紀が.

(6) 36. アメリカ合衆国カリフォルニア州における刑務作業運営と同州の経済面に及ぼす影響に関する評価研究の概要(漆畑貴久). 始まるまでに,民間事業者による刑務作業への参入は,州によって次第に廃止さ れるか,あるいはほぼ放棄されている状態にあった。 1920 年代末に発生した大恐慌(Great Depression)に由来する高い水準の失業 の問題は,刑務作業の運営に重大な影響をもたらした。特に,賃貸制や請負制に よって特定の企業と刑務所運営者のみが利益を得ることを根拠として刑務所に参 入し得なかった民間事業者,並びに刑務作業によって賃金を減じられあるいはそ の職を奪われるとされた労働者が刑務作業に対して示してきた敵意は,犯罪者に 対する伝統的な憤激と結び付いて,刑務作業から民間事業者を排斥するための連 邦法の制定をもたらす政治的な要因を構成した。特に,当時の労働運動は,全米 規模の労働者組織の形成等の観点から刑務作業を利用した。更に,当時,次第に 明らかにされてきた賃貸制の下での被収容者に対する非人道的扱いに向けられた 非難は,これらの刑務作業に対する反発を正当化することとなった。 ② 刑務作業制限立法 合衆国の連邦議会は,州際通商の概念を用いて,合衆国における刑務作業運営の 制限を開始しようとした。1929 年に制定されたホーズ・クーパ法(Hawes-Cooper Act of 1929)は,刑務作業製品をある州から別の州に移動させるにあたっては,そ の製品を受け入れる側の州の規制の対象となることを定めていた。加えて同法は, 自州外において被収容者によって生産されたものであると自州内において被収容 者によって生産されたものであるとを問わず,刑務作業製品を州内で販売するこ とを禁止する権限を州に付与した。1935 年に制定されたアシャースト・サムナズ 法(Ashurst-Sumners Act of 1935)は,ホーズ・クーパ法に基づいて制定された州 法に違反することが連邦の犯罪を構成することを定めていた。更に連邦議会は, 1940 年において,連邦政府あるいは他の州のために生産された製品を除いて,刑 務作業製品を州際通商に置く行為を連邦の犯罪とするサムナズ・アシャースト法 (Sumners-Ashurst Act of 1940)を制定した。そして連邦議会は,1943 年において, 連邦政府に対して 1 万ドルを超える役務等を提供するにあたり被収容者の労働力 を使用する相手方と契約を締結することを禁止するウォルシュ・ヒーリ法(WalshHealey Act of 1943)を制定した。これらの一連の制定法の累積的な効果は,被収 容者が生産した製品あるいは提供するサービスに対する市場を閉鎖させ,そして そのことによって刑務作業から民間事業者を駆逐することであり,その不可避的 な成果は,州立刑務所等における被収容者の不就業の拡大であった 6)。.

(7) 法政治研究 第 7 号(2021 年 3 月). 37. (3)刑務作業規制の修正の試み ① 刑務作業再編局 刑務作業を規制するために行われた上述の一連の連邦法の制定(以下, 「刑務 作業制限立法」という)は,合衆国の諸州においてそれまで実施されてきた刑務 作業を実質的に各州から排斥したが,刑務所において回避されるべきと考えられ た「無為」をこれまで以上に増大させた。この刑務作業の排斥が,合衆国におい て「科学的処遇と言われる作業療法,グループ・カウンセリング,学校教育,社会 教育,職業訓練等」という形態で実施される矯正処遇技法の発展をもたらしたと も指摘されている7)。他方で,上述の刑務作業制限立法以降の合衆国において,刑 務作業に対する関心が皆無となったわけでもなかった。というのは,刑務作業制限 立法は,自由市場に向けて刑務作業製品を生産することを停止させたに過ぎなかっ たのであって,刑務作業の代替策を規定したわけではなかったからである。連邦 政府は,アシャースト・サムナズ法の制定直後の 1935 年には,大統領令 7194 号 (Executive Order 7194)によって刑務作業再編局(Prison Industries Reorganization Administration)を設立して, 刑務所における不就業という問題に対応しようとした。 刑務作業再編局は,各州の関係機関と共同して,それぞれの州における刑務作業の 在り方について調査・研究を実施し,刑務作業を実施する方法を各州に助言・勧告 等することを意図していたが,およそ 2 年を経て廃止された。州からの申出に基づ いて調査,勧告,あるいは助言等を行うことが予定されていた刑務作業再編局は, それらのことを行う権限を有していたにすぎず,上述の刑務作業制限立法の効果を 取り除く可能性を持つ組織ではなかったと評された 8)。 ② 1979 年司法制度改革法による刑務作業規制の修正 刑務作業に対する関心の再度の高まりは,1970 年代以降に生じた矯正思想をめ ぐる「社会復帰モデル」から「公正モデル」へという変化が,そのイデオロギー 的な端緒となったといわれている。この変化において,有罪の言い渡しを受けた 者を病人と,矯正施設を病院と,そして矯正処遇を治療と位置付けて,その者の 社会復帰を志向する「医療モデル」は,犯罪者処遇のモデルとしては根拠のある ものではないとされた。こうした中で,当時の刑事司法システムの改革を求める 圧力は,治療を志向したあるいは心理学的知見に立った矯正処遇とは,早期の釈 放を獲得するための「信用詐欺」を被収容者に行わせるための,あるいは「人間 性を欠いたロボット」を作り出すための,当局による試みであるとして,それぞれ.

(8) 38. アメリカ合衆国カリフォルニア州における刑務作業運営と同州の経済面に及ぼす影響に関する評価研究の概要(漆畑貴久). 保守派及び改革派の両者から批判された。他方,既存の処遇理論に対する不満と 同様に,国家の財政状況の悪化も,生産的な刑務作業に対する関心を高めること となった。1980 年までに多くの州と連邦政府とが,刑務作業に対する自らの立場 を修正し,刑務作業を積極的に展開することを求めるようになった 9)。 連邦議会が 1979 年に制定した司法制度改革法( Justice System Improvement Act of 1979)は,その第 827 条第(a)項において, 「合衆国法典第 18 章第 1761 条は, 同条に以下の通り第(c)項を加えることによって修正される」として,刑務作業 製品の州際通商を連邦の犯罪とする上述の刑務作業制限立法に一定の例外を定め た。すなわち,同条第(c)項においては,「本条第(b)項において定められてい る例外に加えて,本条の規定は,法執行援助局長によって策定された 7 つを超え ない試験的計画のうちの 1 つのプログラムに参加している,有罪の言い渡しを受 けた者又は受刑者によって作成され,生産され,若しくは産出された製品,販売 対象物,若しくは商品には適用されない」とすることで,連邦法上の犯罪として 禁止されていた刑務作業製品の州際通商を一部許容することとした。この修正の 具体的方策として,同条同項では,「…これらの有罪の言い渡しを受けた者若し くは受刑者は,(1)これらの作業との関連において,その作業が行われている地 域において同じような性格を有する作業に対して支払われているものを下回らな い金額の賃金を受け取る。但し,その賃金が,総計において賃金総額の 80%を超 えず,かつ以下に定める通り限定された控除の対象となる場合は,除かれる」こ とが定められた。この「控除の対象となる場合」としては, 「 (A)連邦,州,及び カウンティ等の地方に支払われる税金,(B)州の矯正機関の長によって定められ た規則によって決定された,居室並びに寝台に要する合理的な費用, (C)州の制 定法,裁判所の命令,若しくは犯罪者自身による合意に従って行われる家族への 扶養,(D)その賃金総額の 20%を超えず,かつその 5%を下回らない範囲で,犯 罪の被害者に対して補償を行うために法律によって設立された何らかの基金に対 する寄付」が定められた。 上述の試験的なプログラムに参加することによって刑務作業に就業する被収 容者に対しては,同条第(c)項(2)において,「犯罪者という地位のみによって, 労働者に対する補償と同じく,連邦政府あるいは州政府によって,自らの雇用を 根拠としてその他の個人に対して機能させられている給付金制度に参加する権利 を剥奪されない」が, 「これらの有罪の言い渡しを受けた者又は受刑者は,反対に, 法律その他の条項にかかわらず,拘禁されている間,失業に関する補償のための.

(9) 法政治研究 第 7 号(2021 年 3 月). 39. 何らかの給付を受ける権利を有しない」こととされた。このことは,刑務作業に 就業する被収容者が,失業補償を除いて,労働者としての補償の対象となり得る ことを意味していた。 更にこの法律は,上記のプログラムに参加している被収容者について,同条同 項(3)において,彼らが「自発的にそうした雇用方法に参加しているのであり, かつ本条に従って賃金の総額からなされる特定の控除,及びその雇用方法への参 加の結果として行われる上記を除くあらゆる調整について,あらかじめ同意して いること」を要求している。 次いで,上記司法制度改革法第 827 条第(b)項では,ウォルシュ・ヒーリ法に ついて,「但し,本条の規定又は連邦政府による製品の購入に対する同種の禁止 を含むその他の法律若しくは大統領令は,合衆国法典第 18 章第 1761 条第(c)項 に定める条件を充足する被収容者による労働には適用されない」旨が追加された。 これは,一定の金額を超える連邦政府向けの役務等の提供について被収容者の労 働力を使役するものとの契約の締結を禁止したウォルシュ・ヒーリ法の適用につ いて,上記法執行援助局によって策定されたプログラムに参加している被収容者 が就業する場合は例外となることを意味していた。 更に,司法制度改革法第 827 条第(c)項は,上記に加えて, 「刑務所製品の市 場性に関する連邦政府による制限に対する免除を構成する本規定は,以下の場合 に限って適用される」として,州の刑務作業運営者が本プログラムに参加する条 件を明示している。すなわち,第一に,地域の労働中央委員会あるいは同種の労 働者組織の代表者が,本条の規定によって構成される免除を認定される何らかの 計画の導入に先立って,意見を求められている場合であり,そして第二に,本規 定で示した賃金の支払いを受ける被収容者による就業が,既に雇用されている労 働者を駆逐するものではなく,又は地域の有用な有給の余剰労働力の有する技能, 技術,若しくは職業において適用されず,あるいは既存の役務提供契約を侵害し ない場合,である10)。 (4)刑務作業実施認可プログラム ① プログラムの目的 上述の 1979 年司法制度改革法による修正は,刑務作業制限立法によって規制さ れた州の刑務作業運営を,連邦による認可を条件として,例外的にその規制の対 象外とした。そしてこの連邦による認可の方法として,刑務作業実施プログラム.

(10) 40. アメリカ合衆国カリフォルニア州における刑務作業運営と同州の経済面に及ぼす影響に関する評価研究の概要(漆畑貴久). (Prison Industry Enhancement Program)が導入され,現在では,刑務作業実施認 可プログラム(Prison Industry Enhancement Certification Program)として展開さ れている。このプログラムは,第一に,被収容者が,社会に貢献し,自身の拘禁 に要する費用を賄い,犯罪被害者等に対して補償を行い,そして自身の家族を扶 養することが可能となるような就労の機会を提供することを,そして第二に,矯 正施設内における不就業を減少させ,被収容者の職業的な技術を向上させ,そ して釈放時における地域社会への当該被収容者の再統合について準備させること を,意図するものと位置付けられている11)。 ② 認可手続と認可の条件 本プログラムに基づく認可を得ようとする州の矯正当局は,おおよそ以下の 過程を経ることが必要とされている。すなわち,認可を受けることを希望する 矯正当局が,司法援助局(Bureau of Justice Assistance)又は全米矯正作業協会 (National Correctional Industries Association)に対して本プログラムの適用を申請 し,申請者が必要な基準を充足していることを示す文書による証拠を提出し,そ して申請内容を確認した司法援助局が本プログラムへの参加の認可をその矯正当 局に通知することになる。なお,この認可は,認可に必要な基準に適合し得なく なった場合,あるいは本認可の後 6 か月以上利用されなかった場合には,終了す るとされている12)。 本プログラムへの参加を申請しようとする矯正当局は,以下に挙げる基準のす べてに適合していることが必要とされる。すなわち,①矯正当局が,自由市場に おける刑務作業製品の生産並びに販売に民間事業者を関与させる権限を付与され ていること,②矯正当局が,同一地域の民間事業者において類似の作業に対して 支払われるものを下回らない金額で賃金を支払うことについて,立法府から権限 を付与されていること,③本プログラムに基づく刑務作業の実施が,本プログラム の実施以前から雇用されていた労働者の解雇をもたらさないこと,あるいは既存 の契約を損なうことがないことについて書面による保証があること,④矯正当局 が,社会保障を含め,労働者に対する補償その他の,類似した状況にある民間事 業者が雇用する労働者に対して連邦政府あるいは州政府が実施しているものと同 等の補償を,被収容者たる労働者に提供する権限を付与されていること,⑤矯正 当局が,被収容者たる労働者の賃金から控除を選択することができるものとされ るが,その対象は,税金,施設内での生活費,家族の扶養,及び被害者に対する.

(11) 法政治研究 第 7 号(2021 年 3 月). 41. 補償に限定され,かつ,被害者に対する補償のために控除がなされた場合,その 控除額が賃金の 5%を下回らずかつ 20%を上回らないこと並びに控除総額が賃金 の 80%を超えないことにつき文書による保証があること,⑥被収容者が自発的 に参加していることにつき文書による保証があること,⑦プログラムの実施に先 立って行われた労働者組織との協議に関する文書による証拠が存在すること,⑧ プログラムの実施に先立って行われた地域の民間事業者との協議に関する文書 による証拠が存在すること,⑨本プログラムの実施に先立って全米環境政策法 (National Environmental Policy Act)が要求する環境基準を充足していることにつ いて文書による証拠が存在すること,である13)。. 3.カリフォルニア州刑務作業局による刑務作業運営 (1)カリフォルニア州刑務作業局による刑務作業運営の概観 以下では,前章で概観した刑務作業実施認可プログラムに基づいてカリフォル ニア州で実施されている刑務作業運営について,同州の 2015-2016 会計年度報 告書 14)を中心に概観していく。 ① 運営主体等 カ リ フ ォ ル ニ ア 州 矯 正 保 護 省(California Department of Correction and Rehabilitation,以下,「矯正保護省」という)は,その管轄下にあるすべての被収 容者に対して,何らかの日課を提供することが重要であるという考えに基づいて, 同州の刑務作業を展開している15)。そして,被収容者に対して刑務作業という形 態で日課を提供するために,同州では,カリフォルニア州刑務作業局(California Prison Industry Authority,以下,「刑務作業局」という)が設置されている。この 刑務作業局は,カリフォルニア州において,民間事業者と同様の手法によって刑 務作業を運営することを目的として,矯正保護省内に設置され,カリフォルニア 州刑務作業委員会(California Prison Industry Board,以下, 「刑務作業委員会」と いう)の監督の下で運営されている。この刑務作業局は,再犯を減少させ,そし て社会公共と刑務所内の安全を増進させるために,同州内の矯正施設等の被収容 者に対して,就労並びに労働技術の向上の機会を提供するための,自給自足型の 州機関として位置付けられている16)。.

(12) 42. アメリカ合衆国カリフォルニア州における刑務作業運営と同州の経済面に及ぼす影響に関する評価研究の概要(漆畑貴久). ② 根拠法 カリフォルニア州において刑務作業局が運営する刑務作業については,カリ フォルニア州刑法典(Penal Code)第 2800 条以下に規定されている。例えば,そ の運営目的について,第 2801 条では,①カリフォルニア州矯正保護省の管轄下 にある被収容者に就労機会を提供し,カリフォルニア州政府の関連諸機関の需要 に合致した製品並びにサービスを提供する生産業,農業,及びサービス提供の各 事業を展開すること(第 2801 条第(a)項),②可能な限り民間企業において一般 的に普及している労働環境を刑務作業局内の事業体に整備しかつそれを維持する こと,刑務作業局が運営する諸事業で生産的に就労する機会を得た犯罪者に資金 獲得の手段を確保すること,及び効率的な労働習慣あるいは職業的な技術を獲得 しあるいは改善させること(第 2801 条第(b)項),そして③そのあらゆる支出を 賄うために製品並びにサービスの売却から十分な資金を獲得することを通して自 立的であり,そしてそれによって矯正保護省が提供する作業以外の代替的なプロ グラムのための支出を回避する,犯罪者向けの作業プログラムを運営すること(第 2801 条第(c)項)と規定されている。この運営目的に基づいて,刑務作業局は, 地域社会において優れた技術,良好な労働習慣,基本的な教養,及び職業的な技 術を有する,訓練され,そして釈放された際には再び矯正施設に戻ることのない 元犯罪者として社会復帰を実現させることによって,矯正保護省が担う公共安全 の確保という使命の達成を支援することを志向して,作業プログラムを設置・運 営するものとされている17)。 ③ 刑務作業の概況 刑務作業局は,2015-2016 会計年度において,矯正保護省が管轄する 34 の矯 正施設等において,製造事業,サービス提供事業,農業,及び運営管理事業を展 開し,およそ 7,000 人分に相当する雇用機会を提供している。これらの事業にお いて生産される製品並びにサービス等は,カリフォルニア州の省庁あるいは地方 政府等の行政機関あるいは関連機関等に対して,優先的に売却されている。特に 矯正保護省は,刑務作業局にとって最大の顧客であり,2015-2016 会計年度にお けるその売上額は 1 億 3,060 万ドルに及ぶ。これは,同会計年度中における刑務 作業局の売上額の 59.7%に相当する18)。 刑務作業局では,2015-2016 会計年度において,5,098 人の被収容者に就業機 会を提供している。すなわち,製造事業として,家具,金属製品,自動車ナンバー.

(13) 法政治研究 第 7 号(2021 年 3 月). 43. プレート,製本,繊維製品,靴,マットレス,清掃用具,モジュール式組み立て 製品等の生産作業に 2,345 人,サービス提供事業においては,食肉加工,パン焼き, コーヒー豆焙煎,飲食物包装,印刷,歯科技工,デジタルサービス,洗濯,レン ズ研磨等の作業に 2,115 人,そして農業において,酪農等を中心に 199 人の被収 容者を,それぞれ就業させている。刑務作業局は,これらの事業を運営する運営 管理事業においても被収容者に就業の機会を提供している。例えば,同会計年度 において,運営支援,販売,配送等の運営管理に 439 人の被収容者を就業させて いる19)。 刑務作業局における 2015-2016 会計年度における売上額(revenue)は,製造 事業が 9,140 万 2,000 ドル,サービス提供事業が 1 億 90 万 1,000 ドル,そして農 業が 2,650 万 1,000 ドルであった。他方,支出額(expense)は,製造事業が 6,623 万 5,000 ドル,サービス提供事業が 6,824 万 9,000 ドル,農業が 2,422 万 9,000 ド ルであり,売上額から支出額を控除した総売上利益(gross profit)は合計で 6,009 万 1,000 ドルであった。更に,総売上利益から,同会計年度における販売費及び 一般管理費(selling and administration)である 5,061 万 4,000 ドルを控除した営業 収入(operating income)は 947 万 7,000 ドルであった。なお,売上額は,2013- 2014 会計年度以降の 3 会計年度において増加傾向にある20)。 ④ その他の事業 上 述 の 各 事 業 の 他 に, 刑 務 作 業 局 は, 合 弁 事 業 プ ロ グ ラ ム( Joint Venture Program)等を通して,矯正施設に収容されながら民間企業で就業する機会を被 収容者に提供している。こうした被収容者は,自身の時間に民間事業者に労働を 提供して,一般の労働者と同等の賃金を得ている。被収容者が本プログラムを通 して得ている賃金については,課税の対象となるとともに,その被収容者の生活 費,犯罪被害者に対する補償,被収容者の家族扶助,釈放後の貯蓄等のための控 除の対象とされている21)。 刑務作業局は,被収容者への就業機会の提供とともに,被収容者向けのキャ リア教育を展開させている。例えば,キャリア技術教育プログラム(Career Technical Education Program)は,州内の熟練工による技術指導と徒弟関係に基 づいた釈放後の就職先の確保を目指すものであり,他方,産業雇用プログラム (Industry Employment Program)は,被収容者が修得した職業的な経験,技術,教 育等について認証を行うことで,釈放後の生活のために社会資源と接する機会を.

(14) 44. アメリカ合衆国カリフォルニア州における刑務作業運営と同州の経済面に及ぼす影響に関する評価研究の概要(漆畑貴久). 提供するものである。特に,キャリア技術教育プログラムの修了者の再犯率は 7% 程度であるとされており,カリフォルニア州内で最も効果的な矯正処遇プログラ ムの一つと位置付けられている22)。こうしたキャリア教育に加えて,刑務作業局 は, 被収容者に対する職業訓練の一環として,コンピュータ支援設計(CAD)やコー ディング等のプログラムを展開している。その他に,薬物乱用障碍者処遇プログ ラム(Substance Use Disorder Treatment Program)を展開している。本プログラ ムは,刑務作業局が提供する作業並びに薬物乱用者向けの処遇プログラム等を受 ける機会を,対象となる被収容者に提供するものである23)。 (2)刑務作業局による刑務作業運営に対する評価 これまで概観してきた刑務作業運営について,2015-2016 会計年度報告書で は,上記カリフォルニア州刑法典第 2801 条に規定されるその運営目的を,①被 収容者に対して就労機会を提供し得る各種事業を展開すること,②被収容者に対 して民間に類似した労働環境を提供すること,及び③刑務作業局が自給自足的な 組織として自立的に活動することと位置付けたうえで,これらの目標との関係に おいて良好な成果を得ていると評価している。例えば同報告書は, 「刑務作業局 は有効に機能しているのか?」という問題設定に対して,2007-2008 会計年度以 降の 3 会計年度において刑務作業局が運営する刑務作業に就業していた被収容者 の再収容率が,矯正保護省が被収容者に提供する他の矯正プログラムの参加者の 場合に比して,26%から 38%低いことを示しつつ,犯罪者の改善更生・社会復帰 という観点から,肯定的な評価をしている24)。この評価は,刑務作業局が提供す る,上述のキャリア技術教育プログラムに参加していた元被収容者の再犯率(再 収容率)が特に低くなっているという事実 25)によって強化されている。また,本 報告書提出当時,刑務作業局の財務状況について,民間の会計事務所によって「適 正意見」が提出される予定となっており,その自給自足的な運営という観点から, 肯定的な評価がなされている26)。 他方で同報告書は,運営上の問題点として,人員の問題を, 「重要な影響を及 ぼす可能性のある事実」としている。すなわち,刑務作業局による作業に欠員が 生じているという問題である。例えば同報告書は,2015-2016 会計年度における 1 カ月あたりの欠員は 1,388 人である旨を報告しており,このために,矯正保護 省との共同による対応の必要性が指摘されている27)。 報告書が指摘するこうした問題点以外にも,例えば 2018 年 9 月末日現在に.

(15) 法政治研究 第 7 号(2021 年 3 月). 45. おいて同州が運営する矯正施設等に収容されている被収容者数がおよそ 12 万人 である28)一方で,2015-2016 会計年度において刑務作業局が運営する刑務作業に 就業している人員が,既述のように,5,098 人であり29),あるいは,例えば 2018 年 9 月末日現在のサン・クエンティン刑務所の被収容者数が 4,365 人である30) 一方で,同刑務所で刑務作業局の提供する作業に就業している被収容者は 253 人 であること31)に着目する必要がある。この事実は,刑務作業局が運営する刑務作 業に就業できる被収容者は,カリフォルニア州の被収容者全体のうちの極めて限 られたものに限定されていることを示している。 これらの事実からは,カリフォルニア州において刑務作業局による刑務作業運 営が,重要な役割・機能を果たしている一方で,そこには一定の限界が存在して いることを指摘できる。そしてこのことから,刑務作業局による刑務作業運営は, すべての被収容者に対して「適当な日課」を提供することを目的として実施され る施策の一つであって,刑務作業局の被収容者に限定して,刑務作業局による刑 務作業運営は,カリフォルニア州政府にとって好ましい影響を及ぼすとともに, 被収容者自身の社会復帰のために重要な役割を果たしているという評価がなされ 得るとも考えられる。そして,この範囲内で,刑務作業局による刑務作業に対し ては,本報告書において指摘されているように, 「刑務作業局は有効に機能してい る」という評価が認められてよいのではないかと考えられる32)。但し,その一方 で,本報告書による評価は,あくまでも刑務作業局というカリフォルニア州の機 関の活動実態を示すものにすぎず,同州の矯正全体を俯瞰するものではない点 33) に留意する必要はある。そのうえで,同州において刑務作業局が肯定的にとらえ られる要因として現在に至るまでにもたらしてきた様々な成果から,刑務作業局 による刑務作業運営は同州において重要な意義を有しているということができる と思われる。. 4.刑務作業の経済的影響―カリフォルニア州における評価研究を中心に カリフォルニア州における刑務作業局による刑務作業運営が同州内におけ る経済活動にどのような影響を及ぼしているのかについての評価研究(以下, 「本評価研究」という)が,刑務作業委員会による 2012-2013 会計年度の立法府 向け報告書に基づいて行われている34)。以下では,この評価研究について概観し ていく。.

(16) 46. アメリカ合衆国カリフォルニア州における刑務作業運営と同州の経済面に及ぼす影響に関する評価研究の概要(漆畑貴久). (1)評価研究の着眼点 刑務作業局による売上額は,1996-1997 会計年度から 2012-2013 会計年度 ま で の 間 に 16.1 % 拡 大 し て お り,2012-2013 会 計 年 度 に お い て 1 億 8,024 万 6,000 ドルであった。これは,合衆国内の諸州が運営する刑務作業の中で最大規 模の売上額である35)。この売上額は,特に 2013 年度以降において,増加傾向に あり36),このことは,既述のように,刑務作業局が公的機関等に対して優先的に 製品やサービス提供を行っていることからも注目に値する。特に,矯正保護省は, 2012-2013 会計年度における刑務作業局の売上総額の 57.4%を占める,同局に とって最大の顧客である。そして刑務作業局は,原材料の購入,労働者たる被収 容者の監督,労働者たる被収容者に対する賃金,製品の輸送・配送,あるいは資 本の獲得等の刑務作業運営のための費用を,刑務作業から得た収益から支出して いるのであり,本評価研究は,刑務作業局が展開する諸活動がカリフォルニア州 という経済圏において,生産,雇用,及び労働収入に対して及ぼす影響を評価し ている。本評価研究は,刑務作業局が製品及びサービスの提供者として州の経済 に関与していることを前提とし,特に刑務作業局が,自身の事業の運営のために, 原材料等の中間投入を行っている点に着目している。本評価研究では,この中間 投入を刑務作業製品ごとの売上額に転換する方法によって,刑務作業局の州経済 に及ぼす影響が評価されている。 2012-2013 会計年度についてみると,製造事業の売上額はおよそ 8,571 万 1,000 ドルである。その内訳は,繊維製品が 2,230 万ドル,自動車ナンバープレート 1,530 万ドル,家具 1,350 万ドル,金属製品 871 万ドル等である。次いで,サービス提 供事業の売上額はおよそ 6,699 万ドルであり,特に飲食物包装,食肉加工,及び パン焼きの各事業の収益は,食品の個包装作業の導入,及び飲料水販売事業の拡 大等の要因から,2012-2013 会計年度には増加しているが,洗濯サービスは,上 述した就労者たる被収容者の人員の問題によって売上額を減少させている。そし て農業の売上額 2,755 万ドルは,前会計年度よりも減少しているが,これは,サー ビス提供事業と同じく,就労者たる被収容者の人員の問題に由来するものとされ ている37)。 刑務作業製品の販売及び刑務作業運営に要した販売及び一般管理費は,州全 体でおよそ 3,809 万ドルである。これらの支出は,刑務作業局による製造並びに サービス提供に関連する経費を含まないが,配送等の輸送費並びに中央事務所 (Central Office)の運営費を含んでいる。2012-2013 会計年度において,刑務.

(17) 法政治研究 第 7 号(2021 年 3 月). 47. 作業局は,平均 5,408 人の被収容者を就業させているが,それと同時に平均 664 人の民間人を雇用している。なお,被収容者は 1 時間あたり,0.58 ドルの賃金の 支払いを受けている38)。 (2)経済的な関連性 本評価研究における経済的分析は,刑務作業局が雇用しているのは,収容され ている間に就業しない場合にはカリフォルニア州の経済に一切貢献しないであろ う被収容者であるという事実を考慮している39)。それゆえ,この場合,刑務作業 局によって雇用される被収容者は,州の公的機関に売却される製品等を生産する ことで,州の経済に機会費用(opportunity cost)を発生させていないことになる。 すなわち,被収容者を就業させることが経済的な貢献をしている一方で,被収容 者を就業させないことは別の経済的な貢献をせず,それゆえにその間,被収容者 は,同州の経済に利益を生じさせていないのである。 刑務作業局による事業活動がカリフォルニア州にもたらす経済的な貢献の重要 部分は,刑務作業局が自身の製品を生産する最終的な段階において,例えば収入 のような,様々な形態の付加価値をカリフォルニア州内に生じさせているという 事実に存している。それゆえ,同州において刑務作業が存在しない場合,刑務作 業局によって販売されている製品の多くが州外で生産されることとなり,更に, 州内で刑務作業局に対して原材料を販売する機会が失われる等の影響が,州内に 生じるであろうことが予測される。 刑務作業局によってもたらされる付加価値の一部は,被収容者たる被用者に対 する賃金となり,そしてこの賃金は,その多くがカリフォルニア州という経済圏 において消費されることとなる。このことに加えて,この付加価値には,再犯の 減少に貢献することで州の刑事司法運営に要する費用の節減も含まれるのであ り,更には,刑務作業局が,犯罪者に対して,職業的な技術を提供し,あるいは 良好な労働習慣を向上させるために提供する多様なプログラムの運営にもつなが ることとなる。 (3)評価研究の意味 ① 評価研究のための視点 本評価研究においては,カリフォルニア州の経済システムについて,州内の 産業を基幹産業(basic industry),世帯(household) ,及びサービス産業に分け,.

(18) 48. アメリカ合衆国カリフォルニア州における刑務作業運営と同州の経済面に及ぼす影響に関する評価研究の概要(漆畑貴久). そして相互の「流通」並びに州内外の「流通」によるつながりとして把握して, 刑務作業局がこの構造にどのように関与するのかを分析している40)。この場合に おける基幹産業,世帯,及びサービス産業の関係は,以下のように把握される。 すなわち,第一に,基幹産業は,州外との関係において,製品あるいはサービス という形態で生産物を売却して代金を得る一方で,生産要素(inputs)並びに労 働力を購入して代金を支払う。他方,州内においては,サービス産業から生産要 素を購入して代金を支払う一方で,世帯から労働力を購入して代金を支払う。第 二に,世帯は,州外との関係では,労働力を提供して収入を得る一方で,生産物 を購入して代金を支払い,州内においては,基幹産業に労働力を提供して収入を 得る一方で,サービス産業から生産物を購入して代金を支払う。そして第三に, サービス産業は,州外との関係において,生産物を売却して代金を得る一方で, 生産要素並びに労働力を購入して代金を支払う。州内においては,基幹産業に対 して生産要素としての生産物を売却して代金を得る一方で,世帯に対して生産物 を売却して代金を得る41)。 州経済の基礎には,その製品又はサービスの全部又は一部を州外の購入者に売 却する事業としての基幹産業が存在する。州外へ製品並びにサービスを流出させ, そしてそのことによって州内へ金銭を流入させる輸出産業は,州外に輸出する製 品並びにサービスを生み出すために,①州内外から資金を得,あるいは原材料等 の生産要素を購入し,②州の居住者若しくは世帯から労働力を購入し,そして③ 州内のサービス事業者から生産要素を購入する。州内における労働力,製品,及 びサービスの流れは,世帯が,州内の事業者から製品並びにサービスを購入する ために自身の収入を消費することで完了する。このように州の経済の枠組みを捉 えた場合,州経済の一部分における変化が州の全経済システムの様々な部分に反 映されることになる。例えば,刑務作業局の事業活動は,それが州の公共機関に 第一次的に売却をしていることを考慮すれば,サービス産業として位置付けられ る42)が,サービス産業たる刑務作業がもたらす金銭は,刑務作業局で就業する者 を地域内から雇用するという意味において, 雇用を生じさせている。しかしながら, 地域の経済的なつながりの大部分は,刑務作業局が他のサービス事業者等から製 品等を購入することに由来する。こうしたつながりには,このサービス事業者の 他に小売業者(retail businesses)も含まれる。これらの業者は, 収益が増加すれば, 更に多く雇用を生み出し,そしてより多くの生産要素を他の事業者から購入する。 それゆえ,刑務作業局の経済活動における変化は,地域経済全体に及び得る。.

(19) 法政治研究 第 7 号(2021 年 3 月). 49. ② 経済変化の影響とその評価・測定 経済の変化によって生じる様々な影響は,直接的影響,間接的影響,及び誘発 的影響から構成される43)。直接的な影響は,例えば刑務作業局による運営の改善 において生じるような,影響力のある事業者による諸活動における変化を意味す る。刑務作業局のように影響力のある事業者は,直接的な影響の結果として自身 が行う生産要素の購入を変化させる。このことは,州内の民間事業者に間接的な 影響を及ぼす。直接的及び間接的な影響の両者は,州内の世帯に対する金銭の流 れを変化させる。この変化により,州内の世帯は,一斉に,自身の消費行動を変 化させるのであり,この変化が特定のカウンティの産業に及ぼす影響が,誘発的 影響である。 本評価研究においては,刑務作業局による刑務作業運営の影響は,2 つの観点 に基づいて分析される。第一の観点は,刑務作業局による製品並びにサービスの 供給がカリフォルニア州の経済に及ぼす経済的影響を測定するものである。ここ には,州における生産,収入,及び雇用に対する刑務作業局の影響が含まれる。 第二の観点は,刑務作業局が排除され,そして同様の製品並びにサービスが民間 企業から購入された場合の影響を測定するものである。これらの分析は,2012- 2013 会計年度において刑務作業局によって提供された製品並びにサービスの販売 価格に基づいて行われている44)。 経済的な影響は,①カリフォルニア州の総産出量(total output) ・総売上高(total sales) (これらは,直接的影響,間接的影響,並びに誘発的影響を有している) , ②カリフォルニア州の総収入に及ぼす影響(これは,直接的影響並びに誘発的影 響のみを有している),及び③雇用全体に及ぼす影響(間接的影響並びに誘発的 影響のみを有している)との関連において測定される。直接的な影響は,刑務作 業局が製品並びにサービスを生産・販売することによって生じるものであり,間 接的な影響は,刑務作業局が原材料等の中間投入を州内の卸売業者並びに生産者 から購入する場合に生じるものであり,そして誘発的な影響は,刑務作業局に原 材料を供給する州内の事業者に雇用される住民がその地域内で消費対象とする製 品あるいはサービスに費消される収入を受け取る場合に生じるものである。これ ら三種の影響は,全体として統合的な効果を生じさせる。投入産出モデル 45)は, これらの直接的,間接的,及び誘発的影響が経済に及ぼす総合的な影響を評価す るためにこれらの影響を測定する。このモデルでは,被収容者が自らの所得を現 に居住する地域社会という経済圏において直接に費消することがないがゆえに,.

(20) 50. アメリカ合衆国カリフォルニア州における刑務作業運営と同州の経済面に及ぼす影響に関する評価研究の概要(漆畑貴久). 刑務作業局の売上額が経済圏の総売上額にもたらす誘発的な影響を含まない。加 えて,刑務作業局による売上額が所得及び雇用にもたらす直接的な影響は,どれ ほど多くの労働者たる被収容者の収入がそのコミュニティにおいて消費されてい るか把握することが不可能であるため,含まれていない。しかしながら,労働者 たる被収容者は,彼らの金銭を施設内の売店で商品を購入するために使用し,家 族に送金し,そしてパロールに付された際には自身の生活費として消費している 点には留意する必要がある。 (4)経済的影響の測定 本評価研究においては,カリフォルニア州という経済圏における刑務作業局の 生産額,雇用,及び世帯収入(household income)に対する影響力が示されてい る46)。カリフォルニア州全土において矯正保護省が管轄する矯正施設等を通して 事業を展開している刑務作業局が同州の経済に及ぼす影響は,これらの施設にお ける製品並びにサービスの生産によってもたらされる上述の生産額,雇用,及び 世帯収入の影響力を反映している。 本評価研究における分析は,上述の 2 つの観点に基づく。第一は,刑務作業局 の売上額並びに支出額がカリフォルニア州経済に及ぼす影響である。これは, 「刑 務作業局から製品及びサービスを購入しなかった場合に,公共部門がそれらのす べてを州外から購入するとしたら,どのような影響が生じるか?」を意味しても いる。このことは,ある産業の経済的影響を分析する最も一般的な方法である。 第二の観点は,刑務作業局を排除し,そしてカリフォルニア州内外の最も類似し た民間の供給者から同一の製品あるいはサービスを購入することの影響について 検証するものである。これは, 「刑務作業局が存在しないとしたら,同じ製品ある いはサービスはどこから購入され得るのか,そしてこのことの影響はどのようなも のになるのか?」を意味している。この場合,一部の製品やサービスは州内で購 入可能であろうが,それ以外の製品やサービスは州外の事業者から購入されると 予測される。一部の製品並びにサービスが州内の民間事業者から購入され続ける であろうがゆえに,刑務作業局を排除することの影響は,第一の観点で示される 影響全体よりも小さくなり得ると予測される。他方,州外で生産される製品の割 合が拡大すれば,刑務作業局を排除したことの消極的な影響はより大きくなる47)。 本評価研究は,刑務作業局による事業活動の経済的影響を,各事業による「売上 額及び支出額」を明らかにし,そしてカリフォルニア州に及ぼす影響を,上述の.

(21) 法政治研究 第 7 号(2021 年 3 月). 51. 「売上額」,「世帯収入」,及び「雇用」という側面から評価している。刑務作業局 の資本支出(capital expenditures),及び運営管理費並びに人件費(operating and personnel)は,刑務作業局による売上額及び支出額等と同じく,刑務作業局によ る支出並びに雇用に影響を及ぼす。第一に,2012-2013 会計年度における刑務 作業局の直接的な売上額である 1 億 8,024 万 6,012 ドルは,刑務作業局が州内の 民間企業から生産要素を購入することによる直接及び間接の乗数効果の合計とし て,州内における売上額を 2 億 8,348 万 1,232 ドル拡大させている。また,この 刑務作業局の売上額は,間接的及び誘発的影響により,カリフォルニア州内にお ける世帯収入を 5,604 万 7,854 ドル拡大させ,そして州内の雇用を 901 拡大させ ている。第二に,刑務作業局による資本支出額 602 万 6,045 ドルは,州内の売上 額を 1,114 万 6,128 ドル,世帯収入を 242 万 2,463 ドル,そして雇用を 38 拡大さ せている。そして第三に,刑務作業局による運営費及び人件費 3,810 万ドルは, 州内の売上額を 8,090 万ドル,世帯収入を 3,410 万ドル,そして雇用を 974 拡大 させている。以上から,刑務作業局による売上額及び支出額の合計 2 億 2,436 万 1,900 ドルが,州内の売上額を 3 億 7,538 万 5,198 ドル,世帯所得を 9,256 万 6,146 ドル,そして雇用を 1,913 拡大させていることになる48)。 上述のような経済的影響に加えて,本評価研究では,カリフォルニア州全域に おいて刑務作業局が排除され,そして刑務作業局が販売している製品及びサービ スを民間企業から購入した場合の影響を評価してもいる49)。ここにおいては,州 外からの購入によって各部門において生じる売上額の減少率を示すために,刑務 作業局の不存在を前提とした売上額における損失,同種製品・サービスをカリフォ ルニア州外から購入する割合,そして売上額,所得,並びに雇用に及ぼす影響(損 失)についての評価が行われている。 刑務作業局に代位する州外からの製品並びにサービスの購入の程度は,刑務作 業局の排除が州経済に及ぼす影響を評価するうえで重要といえる。カリフォルニ ア州において,洗濯事業,デジタルサービス事業,及び建設事業,更に施設維持 管理等は,州外からの購入の割合は低く,刑務作業局が排除された場合には,州 内におけるその購入額を増加させると予想される。その一方で,洗濯や乳製品等 の事業に関する雇用並びに所得の面においては,刑務作業局の排除は州の経済に とって利益となることが示されている。しかしながら,靴生産や金属製品生産等 の分野は,その製品の大部分がカリフォルニア州外で購入されており,刑務作業 局の排除は州の収入並びに雇用において損失を生じさせると考えられる。但し,.

(22) 52. アメリカ合衆国カリフォルニア州における刑務作業運営と同州の経済面に及ぼす影響に関する評価研究の概要(漆畑貴久). これらの事業・分野ごとに特有の影響は,刑務作業局がこれらの製品やサービスの 生産と配送とを監督するために人員を雇用していることを考慮していないし,刑務 作業局による運営支出の残部の影響を説明してもいない点に留意する必要がある。 第二の観点に基づく刑務作業局の排除は,第一に,州外によって購入される総 額である直売総額を 9,775 万 7,609 ドル減額させる。これは,州内における製品 及びサービスの直接仕入れ額の 54%に相当する。この減額は,カリフォルニア州 における売上額を 1 億 2,214 万 4,031 ドル減少させ,州の売上額に対して直接的 並びに間接的な影響を及ぼしている。また,世帯収入を 611 万 4,575 ドル減少させ, 州内の民間企業における雇用を 49 失わせている。これらの減少は,民間企業が 製品の生産や輸送を監視するために人員を雇用する刑務作業局に対する直接的な 効果を含まないがゆえに,刑務作業局向けの収入並びに雇用に対する影響は,民 間企業のそれよりも大きくなるという事実に由来する。第二に,刑務作業局によ る運営費並びに人件費である 3,808 万 9,843 ドルの喪失は,州の売上額を 8,085 万 7,748 ドル,世帯収入を 3,409 万 5,829 ドル,そして雇用を 974 減少させる。そし て第三に,刑務作業局による資本投入額である 602 万 6,045 ドルの喪失は,売上 額を 1,104 万 6,128 ドル,世帯収入を 242 万 2,463 ドル,そして雇用を 38 の減少 させることが見込まれている。以上から,刑務作業局の不存在は,カリフォルニ ア州の経済に対して,総計では,売上額を 2 億 1,404 万 7,997 ドル,世帯収入を 4,263 万 2,867 ドル,そして雇用を 1,061 減少させることになる50)。 (5)小括 上述の通り,刑務作業局による刑務作業運営は,カリフォルニア州という経済 圏において,売上額を 3 億 7,538 万 5,198 ドル,収入を 9,256 万 6,146 ドル,そ して雇用を 1,913 増加させている51)。こうした影響の他に,刑務作業局に雇用さ れていた労働者であった被収容者による再犯の減少が刑事司法に要する費用を 節減させるという影響も存在する。例えば,2008-2009 会計年度以降の 3 か年 において,刑務作業局によって雇用されていた元被収容者は,矯正保護省から釈 放された一般的な元被収容者よりも 26 ~ 38%矯正施設に戻る者の割合が少ない こと52),並びに刑務作業局が運営する上述のキャリア技術教育プログラムを修了 して釈放された元被収容者 449 人のうち再犯に至った者が,2008-2009 会計年度 から 2010-2011 会計年度までの累計において 32 人であった(再犯率約 7.13%) こと等から,刑務作業局による刑務作業運営に対して,矯正保護省による他の.

(23) 法政治研究 第 7 号(2021 年 3 月). 53. 処遇よりも再犯の減少について肯定的評価が与えられている53)。こうした矯正処 遇上の効果は,2008-2009 会計年度から 2010-2011 会計年度までにおける再犯 の減少を通して,カリフォルニア州政府に対しておよそ 950 万ドルの刑事司法費 用の節減をもたらしていると解釈されている54)。これらの経済的影響並びに再犯 防止効果に対する評価から,本評価研究は,2012-2013 会計年度の刑務作業局の 指摘のように,「再犯の減少は,カリフォルニア州の治安を改善し,刑事司法に 要する費用を削減し,そして個々の被収容者の福祉を改善させている」55)とする 評価を受容しているということができる56)。. 5.検 討 これまでに概観してきた,カリフォルニア州における刑務作業運営の現状及び その経済的影響に対する評価からは,刑務作業運営は,肯定的な評価を得ている と評することができる。それは,以下のように導き出されると考えられる。 第一に,同州の刑務作業運営が,その目的からみて, 「有効に機能している」 とする評価がなされていることである57)。これは,既述のように,例えば 2015- 2016 会計年度の報告書において,5,098 人の被収容者に対して,製造事業,サー ビス提供事業,及び農業等の就業機会を提供していること,刑務作業局が売上額 や営業利益を得ている等の自律的な営業を実現していること,そして再犯の減少 に貢献していること等を通して指摘され得るものと考えられる。刑務作業局によ る刑務作業運営が州の経済に貢献しているという指摘は,今回概観した立法府向 け報告書においても強調されているといえる58)。そしてこの指摘は,刑務作業局 による刑務作業運営がカリフォルニア州の経済に及ぼす影響について評価した上 述の本評価研究によっても裏付けられている。その一方で,被収容者に対して民 間に類似した労働環境を提供することの意義等については,本報告書において必 ずしも明示されてはいないようにも思われ,今後,被収容者の就業する労働環境 がどのようなものであるのか等 59)について精査することが,刑務作業局による刑 務作業運営の目的との観点からも重要になるようにも思われる。 第二に,刑務作業局によって運営される刑務作業が,上述の経済的影響につい ての評価研究においても,カリフォルニア州の経済に対して一定の好ましい影響 を及ぼしていることが認められている点である。本評価研究では,刑務作業局が 同州に及ぼす経済的な影響について,刑務作業が現在していることが及ぼす積 極的な影響並びに刑務作業局がなかった場合に生じる損失が測定されており60),.

(24) 54. アメリカ合衆国カリフォルニア州における刑務作業運営と同州の経済面に及ぼす影響に関する評価研究の概要(漆畑貴久). 刑務作業局が刑務作業を運営するために州内の事業者から原材料その他の生産要 素を購入すること等が州経済の一部として,経済的な意味で,有効に機能してい るとする評価は妥当なものといえる。更に,この刑務作業局による刑務作業運営 が,再犯の減少に貢献し,そして州政府の刑事司法関連の費用を節減させている ことを通して,同州に対して経済的な意味で貢献していることも,公的な評価の 一部として把握することが可能である61)。他方で,刑務作業局が特定の製品並び にサービスを提供することで民間の競業者が排除される可能性は,上述の報告書 及び評価研究においては,言及されていないように見受けられた。こうした問題 は,いわゆる民業圧迫として,上述の刑務作業制限立法の要因となったとも考え られ,市場における競争を排除していないとしても,法定の公共機関への売却が 民業圧迫とされたとき,この批判に抗することは困難であるとも考えられる。 また,刑務作業局による刑務作業運営自体の限界も,その経済的効果に影響を 及ぼす可能性があるといえる。すなわち,上述の刑務作業局による刑務作業運営 がカリフォルニア州に肯定的な影響を及ぼすとする評価は,あくまでも,同州内 の被収容者の一部に対する評価であるにすぎないことである。刑務作業局が運営 する刑務作業がカリフォルニア州に肯定的な影響を及ぼすと断言し得るのであれ ば,その対象を同州の被収容者全体に拡大させることが許容・検討されるはずで あるが,そうした指摘はなされていない。その意味で,この積極的な効果は,極 めて限定的なものと位置付けることができるように思われる。ただ,そうした限 界を指摘できるとしても,刑務作業局によって運営される刑務作業においては, 被収容者に対して一般労働者と同程度の金額の賃金が支払われる一方で,自身や その家族の生活費,更には被害者に対する補償等を負担すること等が予定されて おり,矯正施設にありながら,社会とのつながりを維持し,そして社会における 場合に近い生活を実現させようとしていると評し得る点は,犯罪者処遇として刑 務作業を展開・運営することの一つの利点であるようにも思われる。. 6.お わ り に 以上,アメリカ合衆国における刑務作業運営の歴史的経緯を概観したうえで,カ リフォルニア州における刑務作業運営の現状,及びその経済的評価について概観 してきた。合衆国における刑務作業は,連邦による統制の下での州による運営と いう形態をとるのが原則といえる。カリフォルニア州における刑務作業運営も,こ うした運営方法によるものであり,それは,一部の被収容者に対して提供される,.

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