リチウムイオン電池の
状態把握と寿命評価
[特集によせて] 2015 年に採択されたパリ協定に基づき,世界各国が温室効果ガスの削減に取り組んでいる.日本において も,政府は 2020 年 12 月 25 日の成長戦略会議(第 6 回)にて,2050 年カーボンニュートラル実現に向けた実 行計画であるグリーン成長戦略を発表した.その中で電力部門の脱炭素化は大前提であり,再生可能エネル ギーを最大限導入するために蓄電池を活用することが示されている.また,運輸部門でも電動化を推進する とされており,電動化のためには蓄電池の大規模化および低価格化が必須である. 再生可能エネルギーの最大限の導入や運輸の電動化は世界中で進められているため,蓄電池の需要が急増 している.このままでは蓄電池を構成する部材に使われる資源が足りなくなる恐れがあるため,資源の有効 活用が求められる.本誌前号(電気化学,89(1))ではリサイクルに焦点を当てた特集記事が紹介された.リ サイクルも重要であるが,その前に蓄電池の長期利用やリユースができるのであれば,資源をより有効に活 用することができる. リチウムイオン電池の用途は,携帯用,車載用,定置用の 3 つに分けられる.携帯用の小型蓄電池は持ち 運ぶことを想定しているので,寿命をある程度犠牲にしてでも高エネルギー密度を重視している.車載用蓄 電池に求められるのは高エネルギー密度と高出力密度の両立である.定置用蓄電池は用途により求められる 性能が多岐にわたっている.大型の定置用蓄電池の多くは,高エネルギー密度や高出力密度よりも,多くの 蓄電池をつなぎ合わせて充電できる電気容量を大きくすることが重視されている.そのため,車載用蓄電池 としては使えない程度に劣化した蓄電池を,定置用蓄電池としてリユースするための検討が世界中で進めら れている. 電気化学, 89(2) 99車載用に数年間使用した電池を定置用にリユースする場合,特に重要なのは安全性を確保することである. そのためには現在の劣化状態を正確に把握し,寿命を予測する技術が必要である.蓄電池は正極,負極,セ パレータ,電解液,集電体,ケースなど,様々な部材から構成されているため,充放電時にはそれらが影響 を及ぼしあう.そのため電池を分解することなく電池状態を把握する技術が求められている.そこで本特集 では,車載用蓄電池や定置用蓄電池として用いられる商用電池やそれを模擬した電池を用い,劣化状態把握, 寿命予測,劣化試験法に関する技術を開発している企業,あるいは産業界と密接な関係にある研究機関でご 活躍の先生方に,研究成果をご紹介いただく. それぞれの部材の劣化メカニズムを把握する方法,電池を分解せず電池状態を把握する方法,微小な変化 から劣化挙動を予測する方法,加速劣化試験方法など,蓄電池を活用したビジネスのヒントとなる実践的な 内容でありながら,学術的にも読みごたえのある記事を厳選したので参考にしていただきたい. 企画担当:吉田 洋之(関西電力),松島 永佳(北海道大学) [特集内容及び執筆者] 1.充電曲線解析法を用いた組電池のセルバランス・劣化状態ばらつきの推定 杉山 暢克,藤田 有美,森田 朋和(東芝) 2.高速パルスおよび交流インピーダンス測定による市販電池の劣化状態診断法の開発 小山 昇,山口 秀一郎,大澤 康彦,古館 林,望月 康正(エンネット) 3.電池評価のための高精度充放電容量測定法の開発 山崎 温子,宮代 一(電力中央研究所) 4.電気性能発現メカニズムに基づいたリチウムイオン電池性能の劣化推定モデルの構築 冨永 由騎(本田技術研究所) 5.放電曲線解析法に基づくリチウムイオン電池の容量減少・内部抵抗上昇の要因診断 本蔵 耕平(日立製作所) 6.機械学習・深層学習を用いたリチウムイオン電池劣化モデリング 高岸 洋一,山中 拓己,山上 達也(コベルコ科研) 7.リチウムイオン 2 次電池の加速信頼性試験 和田 哲明(品質技術実践研究所) 8.電気自動車用リチウムイオン電池の国際標準寿命試験法 松田 智行,安藤 慧佑,明神 正雄,今村 大地(日本自動車研究所) 電気化学, 89(2) 100