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幼児の協同的な活動に関する一考察~友達との関わりを大切にし、思いや考えを共有したダムづくりを通して~: 沖縄地域学リポジトリ

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全文

(1)

大切にし、思いや考えを共有したダムづくりを通して∼

Author(s)

赤嶺,優子; 平安名,盛孝; 安里,悦子

Citation

沖縄キリスト教短期大学紀要(46): 75-87

Issue Date

2017-10-16

URL

http://hdl.handle.net/20.500.12001/22139

Rights

(2)

幼児の協同的な活動に関する一考察

~友達との関わりを大切にし、思いや考えを共有したダムづくりを通して~

A Study on Cooperative Activity of Preschool Children

~ Through Dam Building Activity in which the Children Cherished

their Friendships and Shared Thoughts and Ideas ~

赤嶺 優子・平安名盛孝・安里 悦子

Yuko Akamine・Moritaka Henna・Etsuko Asato

要 約 本研究の目的は、幼児の協同的な活動の成立過程を、幼児の日常的な活動や友達同士での遊び、人との かかわり方の点から明らかにすることである。幼児教育における「協同性」は、「友達とのかかわりを通して、 互いの思いや考えなどを共有し、それらの実現に向けて、工夫したり、協力したりする充実感を味わいな がらやり遂げ るようになる。」注1 ものとして、5領域の「人間関係」を視点とした研究である。 そこで、本研究では、幼稚園5歳児クラスの保育の実践場面に着目して、幼児期の終わりまでに育って ほしい10の姿の目標の一つ「協同性」の「友達との関わりを通して、互いの思いや考えなどを共有し、それ らの実現に向けた取り組み」注2について考察することとした。

1.問題と目的

⑴ 幼児教育において育む「人間関係」 現行の幼稚園教育要領には5領域の一つ「人間関係」が目指すものとして、「他の人々 と親しみ、支え合って生活するために、自立心を育て、人とかかわる力を養う。」注3 があり、 13項目の内容が示されている。言うまでもなく、それらは人とかかわる力の基礎であり、 教え導き、養い育む能力として「心情」「意欲」「態度」そのものだと言える。 人とかかわる力とは、「保護者や周囲の人々に温かく見守られる」ことによって、「人に対 する信頼感をもつ」、そして、「信頼感に支えられて自身の生活を確立していく」注4 ことによっ て培われるとある。 加えて、体験を通して培われる点において、幼児同士とのかかわりの中で起きるぶつか り合いや葛藤など、肯定的な体験のみならず、戸惑いや困惑等、否定的体験も同時に経験 することの重要性もあるため、教師の適切な見取りや援助が不可欠になる。即ち、人とか かわる中で人とのかかわり方を学んでいく過程を支え育んでいくのが幼児教育における 「人間関係」であると言える。 ⑵ 「協同性」の捉え 平成30年度、新幼稚園教育要領が施行される。その改訂のポイントして、幼稚園におい て育みたい資質能力はもとより、「幼児期の終わりまでに育ってほしい姿」の明確化を図る ことなどの改善・充実が示された。 「幼児期の終わりまでに育ってほしい姿」とは、5領域のねらい及び内容に基づく活動 全体を通して資質・能力が育まれている幼児の幼稚園修了時の具体的な姿であり、教師が 指導を行う際に考慮するものである。

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「健康な心と体」「自立心」「共同性」「道徳性・規範意識の芽生え」「社会生活との関わり」 「思考力の芽生え」「自然との関わり・生命尊重」「数量や図形、標識や文字などへの関心・感覚」 「言葉による伝え合い」「豊かな感性と表現」など、10項目の中に「協同性」も明確に設定さ れている。 ⑶ 「協同的な活動」とは 「協同的な活動」とは、現行『幼稚園教育要領』内容⑻「友達と楽しく活動する中で、共 通の目的を見いだし、工夫したり、協力したりなどする。」という項目に基づく保育活 動 を指す。 この「協同的な活動」は、幼児教育の充実を図り効果的に展開する上で、また、幼児の 活動の工夫や協力、望ましい交流機会の確立をねらう上でも重要であり、園行事などの全 体的取り組み場面は言うまでもなく、園生活の内外での集団遊びや生活場面、幼児同士の かかわりの中で、教師が意図的に操作することを通して実施されている。 例えば、保育園や幼稚園の行事など、クラス全体で取り組む活動として、幼児同士の交 流機会から共通の願いや目的を見出すことが有効な「モノづくり」を通した活動は、幼児 同士の人間関係の広がりと深まりを形成するために大きな効果を得るものであるため、学 びの活動の重要な実践内容として取り入れている。 一人遊びで自らの存在そのものしか知る由もなかった幼児が、他の幼児とのかかわり、 一緒にいることや同じことをすること、仲間意識を感じた遊びの中で共に作り上げていく 楽しさや人とつながる喜びを体験する。そして、思いを伝え合いながら、工夫・協力した りするなど、「協同的な活動」を築き上げていくのである。 ⑷ 「協同的な活動」の事例検証を通して 入園当初の幼児の園生活全般での過ごし方や遊び方、他の幼児とのかかわり方、教師と の接し方やかかわり方は様々である。大別すると、次のように分類できる。 人とのかかわりはもちろん、遊びも含めどんな場面でも主体的に活動ができる子がいる 反面、全く対照的に一人だけで行動することが目立ち、一人遊びに興じることが多くなる 子がいる。また、教師の傍らから離れることなく常に寄り添い、一人では何もできずに不 安を抱えて園生活を過ごす子がいるのである。 このような幼児の実態は決して特別ではない。生活環境や生育状況、個性を考えれば現 状はこれ以上に細分化され、幼児同士の共通の願いや目的を育み、生き生きとするような な関係性を築いてあげるためにも、教師の役割は大きいのである。 まず、自ら主体的に活動できる子については、「協同的な活動」を容易に捉え、教師の 援助の仕方によっては、より高い達成感や満足感を得るものである。単に遊びの活動だけに とどまることなく、目的を共有し、工夫し、相互の力を合わせて問題解決するなど、ねらい に即したものとなるのである。 次に、一人で行動することが多い幼児に関しては、よりよい人間関係を形成させ協同の 意識を養うためには、寄り添い方や援助の仕方、その子が受け入れられる友達を関わらせ るなど、デリケートに判断しなければならない。他者とのかかわりの中で自分らしさも損 なうことなく発揮し、思いを伝え共有しながら遊びや生活を共にする。時にはぶつかり、 折り合いを付けることを繰り返しながら工夫したり、協力したりする楽しさと充実感を得 るため、集団やグループでの遊びや活動を経験したことがない幼児にとっては、かなり貴

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重なチャレンジになるといっても過言ではない。 一人では何もできない幼児の実態は、生育環境や保護者のかかわり方、人間関係が形成 できるような生活状況が整備されていたかどうかが要因として考えられる。このような実 態のある幼児については、上記の幼児以上に接し方やかかわり方、手立てを工夫し、様々 な配慮を施した援助に努める必要がある。 「協同の活動」の成立過程の一つに友達関係を起点とする論もあり、園での生活経験を 集団生活や同年齢グループでの初めての体験となる幼児にとっては、人と繋がる喜びや遊 びの共有、共通の願いや目的などを認識する術がないため、友達とのかかわりを通して得 ることができる喜びや楽しみを強く感じさせるとともに、友達のよさを理解させることが 重要になる。 平成30年度より施行される「新幼稚園教育要領」の改訂において、第1章総則第2に5 歳児までに育ってほしい具体的な姿を「幼児期の終わりまでに育ってほしい姿」として明 確化し、幼小接続の推進を視点としたことをポイントの一つとしている。 無藤隆によると、この10の姿は、現行幼稚園教育要領、⑴「健康」、⑵「人間関係」、⑶「環 境」、⑷「言葉」、⑸「表現」の「5領域を具体的な姿として表したものであり、5領域と は別個の目標ではない。」注5とある。そして、その10の姿の一つとして設定されている「協 同性」の内容として次の4観点が示されている。 「協同的な活動」を幼児の日常の幼稚園生活や幼児同士のかかわりを通して認識すると ともに、協同の意識を育み、かかわり方の大切さを学びの重要なポイントして感じてもら うためには、言うまでもなく、4観点を視点とした保育実践に努めなければならない。 即ち、「協同性」の目標「友達との関わりを通して、互いの思いや考えなどを共有し、そ れらの実現に向けて、工夫したり、協力したりする充実感を味わいながらやり遂げるように なる。」とは、幼児同士が共通の場所や時間を共有し、単に仲良くし遊びを通したか ◇友達と積極的に関わり、様々な出来事を共有しながら多様な感情の交流を通し て、友達の異なる思いや考えなどに気付いたり、自己の存在感を感じたりしなが ら行動するようになる。 ◇幼児同士の関わりが深まる中で互いの思いや考えに気付き、分かるように伝えた り、相手の気持ちを理解して自分の思いの表し方を考えたり、我慢したり、気持 ちを切り替えたりなどしながら互いに関心を寄せ、分かり合えるようになる。 ◇友達との関わりを通して互いの感じ方や考え方などに気付き、互いのよさが分か り、それに応じた関わりを通して、学級全体などで楽しみながら一緒に遊びを進 めていくようになる。 ◇人と共にいる喜びを感じ、学級皆で目的や願いを共有し志向する中で、話し合った り、取りなしたり、皆の考え方をまとめたり、自分の役割を考えて行動したりす るなどして折り合いを付け問題解決し、実現に向け個々のよさを発揮し工夫した り、協力したりする楽しさや充実感を味わいながらやり遂げるようになる。 平成28年7月11日 教育課程部会 教育課程企画特別部会 資料3 幼児教育部会における取りまとめ案

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かわり方を通して楽しさを得る雰囲気や環境づくりを指すものではない。 「自他の思いや考えに気づき、存在感を失うことなく、相互の気持ちのやりとり、よさ の認識を深め、大きな喜びを共有し、個々のよさの発揮と工夫・協力を通して楽しさを得、 充実感が味わえる」など、「遊び」「生活」「活動」「かかわり」のキーワードを幼児の人間関係形 成に必要なすべてのエッセンスとして捉えることが重要なのである。

2.研究方法について

研究対象として、公立N幼稚園の5歳児の協同して遊ぶ「ダムづくり」の取り組み事例を 通して、検証することとした。 なお、研究に際しては、研究方法に次の3視点を位置づけ、幼児の日々の姿や生活や遊び の中でかかわる「人・もの・こと」を念頭に認識することにした。 ⑴ 研究の視点 ① 環境構成や援助の工夫 ◇ 日常の振り返りと週案の検討 幼児一人一人の思いや課題を読み取る工夫に努めるとともに、遊びの共通理解、環 境構成の確認を図る。 ② 遊びの実践を活かす ◇ ごっこ遊びや集団で行う運動遊びの実践 共通の目的に向かって話し合ったり、考えたり、工夫したり、協力したりして活動 を展開していく中で、友達とのかかわりを深め、思いやりが育つような実践をする。 ③ 人とかかわる力の育成 ◇ かかわる場の設定 保育園や小学校など、異年齢、異校種間のかかわりを日常的な教育活動として位置 づけるとともに、高齢者をはじめ地域の人々とのかかわる場を積極的に設定し、人と かかわる力の育成に努める。 ⑵ 研究方法 幼稚園における、幼児の集団遊びの内容や方法、幼児同士のかかわり方や教師のかかわ り方を対象とした研究をするとき、様々なデータの取り方や分析、考察方法を考えること ができる。一般的には、研究する側が観察者となって実際の保育の場に居合わせ、研究内 容に沿った様々な視点から筆記記録をとる観察法が用いられるのが常である。その際、記 録内容が客観的観点から検証できるよう、そして、より明確な事実や状況を把握できるよ うにするため、ビデオカメラや写真などの映像による記録も併用する。この方法は、幼稚 園生活の中で日常的に生活集団を構成し、園生活や遊びを通しての友達とのかかわりを体 験する幼児の実態把握にかなり有効である。また、園生活の中で多種多様に展開される協 同遊びを、遊び事例や構成要因、相互のかかわり方や発展要素、問題発生場面など、想定 可能な幼児同士の関係性、活動場面など、留意しなければいけない視点に保育者がどのよ うに対応するかを回答してもらう質問紙法も用いることができる。 本研究では、保育を直接担当する教師自身によって記録された文字記録と資料考察を主 として用いる。加えて、前述したように写真資料等も研究内容をより具体的に把握するた めの一方法であり、研究者である教師自身が観察し映像として記録収集したものである。

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遊びの状況や実態、幼児同士のかかわり方、教師がその場面をどう捉え、どのように対処 しているかも反映され、意図や思いを容易に把握し援助に繋げているかが明確で有効であ ることから取り入れることにした。 その点で、協同遊びの実態や保育記録そのものが、研究者であり教師自身によって記述 されているので、その場面の捉え方や幼児一人一人の行為の状況、教師の視点、援助の在 り方も適切に認識でき、幼児の見守り方や保育に込められた教師の意図や思いを再確認す る機会にもなった。ただ今回取り上げた「ダムづくり」の事例だけを考察対象としたため、 「幼児の協同的な活動の一考察」の研究テーマに即した内容として適切か否か、「協同遊び」 や「集団遊び」の中での幼児同士のかかわりや人間関係の深まりが全体的見地から判断する点においては 不十分な要素が残る。しかし、教師が選定し研究事例として設定した保育場面の保育的意味を分析・考察 し検証することは、理論的にも実践的にも意義があるものと捉えている。 ⑶ 調査の概要 公立幼稚園の教頭先生に研究の趣旨を説明し、クラス担任の同意を得て調査を実施し、 研究内容の充実に努めた。下記の表にまとめたのがその概要である。 場 所 N村の公立N幼稚園 期 日 夏休み明け 9月 時間帯 登園後の園庭での遊びの時間 対 象 5歳児の男児3人を中心とした集団 園及び クラス の状況 入園児の数が減少傾向にあり危惧する面もあるが、行事等の実施に際して は、保護者の協力体制が充実している。また、園児数が少ない分、一人一人 の細部に目配りでき、幼児の関係づくりにも適切に努めることができる。 5歳児のみの1年保育で保育活動が実施される公立N幼稚園では、年齢的な相違はない にしても、個々の成長の度合いや家庭での教育状況、幼児の遊びに対しての意識や友達同 士のかかわり方、そして個に応じて大きな差異が生じるものである。 今回の研究対象として位置づけた「ダムづくり」という協同遊びは、幼児が遊びを心か ら興じることができる幼児の魅力あるスペースとしての砂場が場面設定になっているため、 最初に活動した幼児だけでなく、周囲で観察していた幼児達にも即座に興味関心がもたら されるものとして効果は大きかった。 なお、研究対象「ダムづくり」の協同遊びを通しての「協同の活動」に関する事例検証 に入る事前の調査内容として、園生活の日常的な外遊びの中での一人遊びと集団遊びの実 態(7月)を保育記録として整理していた。この日常の幼児同士のかかわり方や成長過程 との関連でまとめたデータを「ダムづくり」への発展過程の一つとして捉えると、相互の 活動の様子やかかわり方の変容が見られるとともに、教師のかかわり方や見守り方、援助 の在り方と役割が明確になる。

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3.保育記録から見えたかかわりの現状

⑴ 子どもの遊びの実態 ① 一人遊びと集団遊び 入園して3ヶ月。幼児の実態としては、園生活や遊びの中でも自ら主体的に行動し、 むしろ、他の幼児に積極的に働き掛け友達を増やして活動できる子もいれば、いつも一 人だけで行動してしまう子がいたり、自分の思いをうまく伝えることができず、トラブ ルを起こしてしまう子がいる。 一人だけで行動する子やトラブルを起こ してしまう子の場合、他の幼児とのかかわ りが友達同士という関係性まで発展するこ とが極めて困難なことが多い。そのため、 結果的には「一人遊び」の状況を呈してし まい、「集団遊び」のよさを感じるどころ か「協同性」を得ることはないのが現状で ある。 ② 遊びの実態から見えたよさの認識 幼児期は、「人とのかかわりの中で様々な出来事を通して、多様な感情体験を味わう時期 である。」(幼稚園教育要領解説人間関係の内容⑸)。幼児が自由に活動を展開する「遊びの 場」は、この様々な感情体験を意識することがなくても、直接感じることができる場である。 喜怒哀楽の感情が交錯する機会を相互に共有することで、確かな人間関係を築くよさへと発 展するのである。 「砂遊び」に一人で興じていた幼児の傍 らに、何人かの幼児たちが加わった。一人 一人が自分が「できる、やりたいこと」を することで協同のかかわりが生まれ、そし て、喜びや楽しさの歓声や動きが見られる ことで、興味関心を持った数人の幼児が加 わって来た。「砂遊び」の交流機会が「異な る思いや考えの気づき、存在感の確立」に繋 がるのである。 ⑵ 集団遊びで感じた「かかわり合い」の楽しさ ① かかわり合いを通して結ばれた仲良しグループと集団遊びの効果 園生活や遊びの中での幼児同士のかかわりは、幼児にとっては心身共に疲労感を感じ るものである。登園時の心の有り様、園庭清掃の場面、そして、室内遊びや外遊び、園 行事での自分自身のかかわり方など、すべての場面や内容が大きな成長の場であり、チャ レンジの機会となる。 このようなかかわり合いを通して、相手に親しみを感じ、思ったことを相互で共有す る仲へと発展し、興味や親しみが深まることで、独りよがりだった伝え合いが相互理解 へと繋がり、かかわりが深化するのである。 「砂遊び」を通して増えた仲間、協同的な遊びへと発展した幼児たちのかかわり合い

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は、一人一人が思いや考え、アイディアを 提供したり、身近な材料や道具等を活用し たりすることで、思いもかけない発見と驚 き、大きなや喜びと楽しさへと進展した。 まさに、一つの出来事や試みの共有が個か ら友達同士、小グループ、集団へと規模の 拡大に繋がり、相互理解と「かかわり合い の楽しさ」、「創造性のある遊び」、「魅力あ る遊びと「協同性」のある人間関係づく りに発展するのである。 保育記録1<7月午前中の砂遊びの様子> ☆「協同する経験」を通して、遊びを工夫する力が育つ Y男が樋を見つけて、一人でペット ボトルの水を流し始めた。そこに、 「一緒にやっていい。」とK子とA子が 仲間に加わった。Y男から「じゃー、水 を入れて来て。」と言われ、二人が水 を入れて一緒に流し始めた。横でジ ーと見ていたK男とG男の二人が急 いで靴を脱いで仲間に入る。M子が やって来て、樋の片方を上に傾け る。「M子が上を持つからここから流して~。」と伝えた。流して水たまりができた 所にG男がショベルを持ってきて掘り始めた。 池ができた。そこにK男、R男、U男の3人がその縁に座り、K男が「あ~、お 風呂みたいだ。」、G男が「違うよ、足湯だよ。」、「本当だ~。」と、ぎゅうぎゅう詰 めなので、「あっちに寄って。」と言いながらちょっと押し合いを始める。ショベルを持 って最初から掘っていたG男が自分が入れないのに気付いて「そこは、二人しか入れない お風呂です。」と言う。すると、R男がすっーと立って抜ける。バケツを持って水を入れ に行く。するとG男が替わりに足湯に入る。 後ろで一人で容器に砂を入れて遊んでいたE男が容器の砂の上に草で飾り付け をしたピザを、足湯に入っている子たちに「はい、ピザができましたよ。」と持っ て来る。座っている皆は「あ~、おいしい~。」と言って容器の砂を食べる真似して 砂をひっくり返す。といった場面が展開された。 ② 仲間を大切にした意識の芽生え 前述したように、新幼稚園教育要領第1章総則の改訂のポイントとして、「幼児期の 終わりまでに育ってほしい10の姿」がある。この「10の姿」は、従来の5領域を具体的 な姿として表したものであり、その一つの姿としての「協同性」の内容に、「友達との関 わりを通して互いの感じ方や考え方に気付き、互いのよさが分かり、それに応じた関

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わりを通して、学級全体などで楽しみながら一緒に遊びを進めて行くようになる。」注6 とある。 園児同士の、相互を理解し、認め合い、協同する活動は、遊びの中で互いのよさなど が生かされ、一緒に活動する楽しさが時間とともに増していく様子が見られた。材料や 道具の数が増え、活動スペースや遊びのスケールも拡大した。また、一人一人が遊びの 中から発見した工夫を素直に提供したり、役割分担も生まれ、多様性のある展開となり、 「集団遊び」を通しての協同のモノづくりが効果的に進む様子が数多く見られた。加え て、一人一人が自らのかかわり方を主体的に発揮するとともに、仲間を大切にした意識 の芽生えがはっきりと認識できる様子もひしひしと感じることができた。 ③ 集団グループによる「協同の活動」 大人数へと膨らんだ集団遊びは、「共通の目的を見いだし、工夫したり、協力したりする」こ とで、個々の思いや考えが様々に絡み合 い拡大発展した動きへと活動の幅を広げて いく。パイプ(水を流す道具)の上部から ペットボトルで水を流す子、流れて来た水 を砂場のどこの場所に流し込むかと通路を 築く子、流し込んだ水や砂をどのように活 用するかを考える子など、一人一人の主体 的なかかわりと意思で進み出した役割対応 は、見事に「協同の活動」の実践となった。 保育記録2<同じ砂場での砂遊びの様子> ☆遊びの中で起きるトラブルは、「ルール」や「相手の思いに気付く良い機会」 R男が横に置いていた容器をK男が取る。R男が「俺のだよー」と追いかける。 いきなり、R男がK男の顔をパチンと手で叩く。顔中砂だらけになった。ところが、今 度はK男がR男を同じように叩いた。教師が近くまで行き事情を聞くと、二人と も、自分の方が正しいと主張した。しかし、R男は自分が先に叩いたことを自覚し ていたのか、「ごめんね」と謝った。K男は鼻の頭をちょっと触って、ひょう きんな顔 をして「てへっ」と変な顔をして笑わせる。すると、R男が「借りていいよ」と言い、はに かみながらその場を離れた。

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「人と共にいる喜びを感じ、学級皆で目的や願いを共有し志向する中で、話し合ったり、取 りなしたり、皆の考え方をまとめたり、自分の役割を考えて行動したりするなどして折り合 いを付け問題を解決し、実現に向け個々のよさを発揮し工夫したり、協力したりする楽しさ や充実感を味わいながらやり遂げるようになる。」注7 と明記されている協同性の内容の 一つを明確に示すものである。 幼児は、園生活でこれらの経験を日々繰り返すことで、「協同の活動」のよさを感じ、一人や 小グループでは味わえない集団での遊びの楽しさと醍醐味を感じることができるのである。 ⑶ 「協同的な活動」が導く個の成長 ① 幼児一人一人の輝きと人間形成 「遊び」を通して得ることができた楽しさや活動の喜びは、人とのかかわり合いのよ さを理解するだけではなく、小学校就学後の「人間関係」づくりや学校生活や社会生活 の中での成長過程と生き方の発見に大きく関わってくる。 幼児は、幼稚園生活の場において、他の仲間たちとのかかわりで自らのことを理解し、かか わり合いを通した中で自他のよさや特性に気付く。そして、これらの関係性や交流、体験や経 験を繰り返す中から人とのかかわりが広がり、深まりを通して人間形成が図ら れるのである。 だからこそ、幼児にとっての「協同性」を見据えた指導は重要な意味を有するのである。 保育記録3<同じ砂場での翌日の様子> ☆遊びを通して発見した仲間のよさと新しい展開 砂場に昨日掘った穴が二つ残っているのを見つけたY男。「池が二つあるよ。二 つつなげて水を流そう」。T男「いいねー、面白そうだ。じゃー、一緒にやろう」 Y男とT男がショベルを持ってきて、池と池の間を掘り始めた。それを見ていた J男「面白そう、僕もやる」。Y男「いいよ、じゃー、ショベル取ってきて」。T 男 「水流れるかなー、大きかったら流れないよ。細いのにして」。Y男「分かった。細 くね」。そして、横で見ていたE子に「水入れてきて」と頼む。 いつの間にかB男、C子と仲間が増えていた。Y男「ねえー、先生ホース持ってきて、大 きいたらいにどんどん溜めて」と教師に協力を頼んできた。「分かりました」と一緒に参 加する。するとそこからどんどん水を流し始め、池から池に行く水の流れを楽しむ。 Y男「待って、よーいスタートと言ってから流そう」「先生、よーいスタートと言っ て」と、何度か合図を繰り返しながら川に水を入れて流れを楽しんでいた。

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② 幼児の心身の成長を見据えた教師のかかわり 友達のよさに気付き、園生活や遊びを通して友達と様々な心を動かす出来事を共有し、互 いの感じ方や考え方、行動の仕方などに関心を寄せ、相互の違いや多様性、行動パターンの曖昧 さと変化を知ることは大切である。未分化で心身共に不安定な幼児の発達段階においては、自分 自身の思いや考え方、活動場面での行動様式も明瞭で責任の伴った対応に努めることができない のが事実である。 だからこそ、良き理解者としての教師の役割は大きく、幼児の確かな成長とのかかわ りにおいて重要な役割と責任を担うものである。包み込むような愛情を直接感じ、温か い目で見守ってくれる教師との生活が、物事への興味関心、意欲や活力、自身の可能性 を見いだすことに繋がるのである。一人一人の幼児が十分に自己発揮し、他の幼児との かかわりが持てるように援助し、遊びを通した学びの中で楽しさを心身共に感じ、確か な成長へと結びつくようなかかわり方を工夫することが大切なのである。

4.実践事例の分析と考察

⑴ 「ダムづくり」の状況 砂場では、A男、B男、C男の3人がスコップで砂を掘り起こしながら山をつくってい る。「大きい山つくろう」「富士山くらいねー」とイメージを出し合いながら進めて いる。山が大きくなってくるとだんだんと仲間が増えてきた。 「仲間に入れてー」 「いいよー。いっぱいいた方がたくさんできるさーねー」 「スコップ大きいものとってきて」など、最初から遊んでいた子ども達が指示を 出しながら遊びが進んでいく。 人数が増えると、いろいろとアイディアも出てくる。 「たたかないでー、崩れるから」 「違うよ。たたいたら硬くなるんだよ」 「じゃあ、水もかけよう」と一人が提案すると、「じゃあ、僕が行ってくる」と バケツを使って何度も水を汲みに行く。 山はだいぶ大きくなってきた。山の周りには砂を掘った後の溝ができている。それ に気付いたB男が「この道をつなげよう」「この前やったみたいに川をつくろう」と 一学期にみんなで遊んだダムづくりを思い出し、みんなに指示を出している。溝を掘 る係、その砂をかけて山にする係など、遊んでいる子ども達の顔は真剣そのものだ。

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⑵ 実態把握と人とのかかわりの認識 ① 友達同士のかかわりから見えた実態 園生活にも慣れた2学期、仲間関係や遊びを通しての相互のかかわり方も少しずつ認 識してきている。ダムづくりでは、最初から遊んでいる3人に対して、後から加わった 仲間は様子を見て真似したり、指示を仰いだりしながら遊びに加わっていく姿が見られ た。途中、掘るのに疲れて抜ける子もいたが、教師は直接介入することを極力避けるよ うにした。幼児自身が大きな混乱に陥ってしまったり、対応の重要性が問われたときに 援助することで、幼児の遊びが主体的に展開されるものと捉えた。 これはまさに、教師が、「一人一人の幼児が十分に自己発揮し、他の幼児と多様なかか わりが持てるように援助し、共通の願いや目的を生み出し、工夫、協力させ楽しさを十分に 味わわせてあげなければいけない。」注8という点につきる。 ② 人とつながる喜びを通しての成長 いつもは自分の意見だけを無理に押し通そうとするB男だったが、その日は遊びのリ ーダーになり、他の幼児の様子を見て指示を出したり、自分から進んで一番大変な係を 受け持ったりしたことで、他の幼児からの信頼を得るとともに、他の幼児達も素直に納 得し指示に従っている様子が多く見られた。 幼稚園教育要領解説「人間関係」の内容⑻によると、「他の幼児と一緒にいることや同 じことをすることで、人と共にいることの喜びや人とつながる喜びを体験する。その後、自 分らしさを十分に発揮し、次第に仲の良い友達と思いを伝え合いながら、遊びを 硬くて掘れないところにぶつかると、「先生掘ってー」と保育者に助けを求めて いる。鉄のスコップで掘り起こし、溝の端っこからホースで水を流してみると、途 中流れが止まるところがあるので、また、そこをせっせと掘っている。 水を流す係は、みんなやりたがり、順番を交代して行っている。最初から遊び に加わっているB男も水流しに参加したいようで「替わってー」と言いながらも、 手を休めてしまうと流れが止まってしまうので、せっせと掘り進めている。

今度は, 僕に替わって

ここ, もうちょっと掘ったほうが

いいかな?

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進めるようになる。」ことに合致するものであり、一緒に活動する幼児同士が目的を共有 し、思いを一つに力を合わせて成し遂げようとした結果だと捉えることができる。 ③ 教師のかかわりと重要性 幼稚園で園生活を送る幼児は、園での生活や園行事、日常的な「遊び」を通した学び の中で様々な体験を心ゆくまで楽しみ、物事をやり遂げようとする気持ちや積極的に関 わることで達成感を得ることは、幼児の自立心を育む上で大切である。 今回、日常の保育記録から見いだすことができた「砂遊び」の幼児たちの仲間同士の かかわりや「ダムづくり」を通して検証した「協同的な活動」の実態は、思いや考えの 共有のみならず、幼児相互、教師と幼児のかかわりなど、人間関係の在り方や相互理解 の大切さにも踏み込むことができた。 「ダムづくり」はもとより、日常的な保育の場でも、教師のかかわり方としては幼児 一人一人を十分に把握しているため、個々のよさや成長の度合い、他者とのかかわり方 の力量や性格などを推し量り、様々な観点で得た情報を元に、「見守り・支え・助言」 を軸として、可能性の発揮と自立心、成長過程を見いだすことができた。 幼稚園教育要領解説「人間関係」の内容⑷に「教師は、幼児のやり遂げたいという気 持ちを大切にし、満足感や達成感を感じることができるように援助すること。やり遂げ たことを共に喜ぶこと。教師はその時々の幼児の心の動きを感じ取ること。楽しみなが らやり遂げることができるようにすることが大切である。」が、まさに今回の教師とし ての対応策とかかわり方であり、保育指導の在り方の重要な観点だと捉えている。

5.まとめと考察

本研究に際して、十分なデータ収集を図り、より具体的で内容の濃い検証方法を用いて結 果を探求することは不可能であった。「協同的な活動」を日常的に観察し、且つ「ダムづくり」場 面を通しての実態把握と比較検証では、幼児個々の活動状況やかかわり方、仲間意識や相互を理解 した変容など、明確な結果を示す点において課題が多かった。 しかし、幼稚園入園当初と園生活や他者とのかかわり合いに少しずつ慣れてきた時期を迎 えた頃とは明らかに違った。日常の観察を通しても、遊びを通した他者との接し方、行事の 中での一人一人のかかわり方など、心身共に逞しく成長するだけでなく、自他を理解した考 え方や態様で対応することが容易になっていた。本研究の「幼児の協同的な活動の成立過程 を、幼児の日常的な活動や友達同士での遊び、人とのかかわり方の点から明らかにする」目 的達成のため、「ダムづくり」の実践事例を検証し、次のことが明らかになった。 先ず、幼児の人間的な成長や遊びを通しての人間関係の形成は、教師や他者との様々なか かわりを体験しながら築かれたり、広がったり、深まったりするものである。一人遊びの状 況で興じていた幼児の側に興味関心を抱いた幼児が近づき、仲間を意識し協力を主体とした 遊びが始まる。この小集団としてのかかわりが砂場の至る所で発生し、やがては大きな集団 が構成され、幼児相互の魅力あるかかわりが一つになりスケールが拡大した「ダムづくり」 の醍醐味へと繋がったのである。 幼児の成長過程は1年保育の場であっても著しいものである。いろいろな友達や教師との 人間関係が深まるにつれ、共通の願いや遊びの目的が生まれ、相互が工夫し、協力すること によって遊びを展開する楽しさを味わうものである。勿論、互いへの関心に基づく遊びや同

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じ作業を通しての活動そのものが展開されるだけで「協同性」へと結びつくものではない。 出来ないと思ったことや苦手なことを避けたり、自らの願いや思いが叶わないとけんかにな ったり、折り合いをつけることがうまくいかなかったりと、人のかかわり方の根本的な課題 を抱えていては決して成立しないものである。 相互のよさや特性に気づき、友達関係を形成した交流、共通の願いや目的を見いだし、工 夫し協力することで「協同的な活動」を確立させ、「人間関係」を育み、園生活における幼児 の適切な育ちを築いていきたいものである。 〔注記〕 注1 平成28年7月11日 教育課程部会 教育課程企画特別部会 資料3 幼児教育部会における取りまとめ案 注2 平成28年7月11日 教育課程部会 教育課程企画特別部会 資料3 幼児教育部会における取りまとめ案 注3 文部科学省『幼稚園教育要領解説』 2008年 P90 フレーベル館 注4 文部科学省『幼稚園教育要領解説』 2008年 P90 フレーベル館 注5 特集『ニッポンの幼児教育は、どう変わるのか?』 座談会「新しい子ども観のもと、幼児教育はどこに向かうのか」2016年 11月 注6 平成28年7月11日 教育課程部会 教育課程企画特別部会 資料3 幼児教育部会における取りまとめ案 注7 平成28年7月11日 教育課程部会 教育課程企画特別部会 資料3 幼児教育部会における取りまとめ案 注8 文部科学省『幼稚園教育要領解説』 2008年 P101 〔引用・参考文献〕 文部科学省『幼稚園教育要領解説』 2008年 フレーベル館 教育課程企画特別部会 資料3 幼児教育部会における取りまとめ案

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参照

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