広島大学におけるデジタルものづくり領域での産学官連携
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(2) J. Jpn. Soc. Intel. Prod., Vol. 17, No. 1, 2021. う人づくり」を柱とした, 「ひろしまものづくりデジ タルイノベーション創出プログラム(以下,プログ ラム) 」に取り組んでいる.プログラムの特徴の一つ は,Ⅰ研究→Ⅱ開発→Ⅲ生産→Ⅳ消費/サービスと いった,ものづくりのバリューチェーン全体のデジ タル化に向けて,産学官共創による先端的な研究開 発や産業人材の育成を推進することである.この中 で,センター1) (図 1)は,Ⅰ~Ⅲを受け持つことを 目的に,広島中央サイエンスパーク内に 2019 年 2 月 に発足した.なお,Ⅳについては,広島大学 AI・ データイノベーション教育研究センター(2020 年 10 月設置)が主として受け持ち,データサイエンスに 関する社会人向けの実践的な人材育成を行っていく.. 図 1 センター外観(ひろしま産学共同研究拠点). ⑵ センターの特徴 広島県は 2017 年まで 14 年連続で製造品出荷額等 が中国・四国・九州地方で第一位であり,ものづく りが盛んな地域である.マツダ株式会社がシミュ レーションを駆使して効率的な開発を行う MBD 手 法を導入し高効率エンジンを開発するなどの成果を あげ,広島大学ではマツダ株式会社やコベルコ建機 株式会社と MBD に関する共同研究講座・研究所を 学内に設置するなど,デジタルものづくりに取り組 む素地(先行優位性)がこの地域にある.特に MBD. 手法は,多くの産業における共通技術となりえ,波 及範囲が広い.そこで,センターでは,この MBD を起点とし,研究領域として広島大学が保有する強 い技術を 3 つ選定し活動することとした.また,開 発技術を短期かつ確実に社会実装へ繋げるためには シーズ起点だけではなくニーズ起点からの開発プロ セスが有効である.つまり,センター活動は,この 「ニーズからのバックキャスティング」と「MBD に よる産学官連携」の 2 つを研究管理手法として採用 している. さらに,MBD を利用し「産学官のアンダーワン ルーフ」で人材育成・研究活動を行う計画である. 従来,大学・研究機関と産業界との連携活動におい ては,シームレスにつながりにくい構造であったが (図 2 参照),モデルを共通言語とすることでその境 界を超え,基礎研究から社会実装まで一体とした連 携を目指す. ⑶ 産学官連携のしくみ センターでは,図 3 に示す「人材育成と社会実装 への枠組み」により活動を行っている.それは,大 学が保有する知見,プログラム予算等による研究機 器の整備,招へい研究者を活用し,参画企業が技術 の社会実装と産業人材の創出を行うための創造的・ 効率的活動である.日本は欧米諸国と比較し,イノ ベーションの取組みに見合う成果が得られていない2) との指摘もあり,図 3 上から下への迅速/着実な流 れをつくるため,プロジェクトが取り扱う技術の特 徴や参画企業の要望に応じた共創コンソーシアムを 運営している.社会実装が近くなるにつれ企業の個 別課題に対応しなければならないことが多く,技術 の共通課題(人材育成活動を含む)はオープン活動 (コンソーシアムの覚書による規定),個別課題(製 品化に向かう活動)は共創コンソーシアムから移行 したクローズ活動(個別の共同研究契約による規定) とし,特に情報・知財の“分離と連携”の構造と なっている.また,共創コンソーシアムを包含する. 図 2 MBD とアンダーワンルーフによる産学官連携. ― 2 ―.
(3) 産学連携学 Vol. 17, No. 1, 2021. 図 3 人材育成と社会実装への枠組み. 枠組みとして研究プロジェクトがあり,主として強 いシーズを持続的に提供するための大学を中心とし た研究活動と位置付けている.なお,共創コンソー シアムは,すぐに規定等が決定され整備されたもの ではなく,企業へコンソーシアム参加の声掛け活動 を経て徐々に構築されたものであり,その経緯は次 章に示す. ⑷ 組織体制 センターの組織体制を図 4 に示す.主宰者は湯㟢 英彦広島県知事(官) ,事業責任者は小飼雅道マツダ 株式会社代表取締役会長(産) ,そして大学責任者で ある越智光夫広島大学学長(学)のトップ 3 者の産 学官連携体制となっている.事業責任者とは毎月研 究プロジェクトの進捗管理の場を持つ.また,セン ター長は研究及び産学連携経験が豊富な中條善樹京 都大学名誉教授を招へいし,副センター長 2 名は産 業界出身と官出身の構成で,センター内組織も産学. 官の視点を持つ.なお,企業との個別共同研究では, 副センター長が専門領域別に産学の間に立ち調整役 も担う. 各研究プロジェクトでは,招へい研究者として, アルバータ大学名誉教授から特任教授 1 名,インド 工科大学デリー校等から特任教授 2 名など海外研究 者の招へい,国内他大学やベンチャー企業から客員 教員などの受け入れ(計 5 名)に加え,県内産業群 から出向による研究者として特任教員(計 11 名)を 迎え,多彩かつ社会実装に向けた人員構成となって いる.. 3 .共創コンソーシアム ⑴ 設立までの経緯 イノベーション創出のしくみに関する議論は多く されており3),コンソーシアムは大学内での共創活 動としても選択されている.センターではニーズ/. 図 4 センター組織体制. ― 3 ―.
(4) J. Jpn. Soc. Intel. Prod., Vol. 17, No. 1, 2021. シーズのマッチング度合いや参加への高い合意性が 研究開発効率に重要と考え,企業の参画への思いを 聞くことからスタートした.当初,後述する 3 つの コンソーシアムは同一構造の覚書(規定)にて管理 することを予定していたが,技術者面談や,コン ソーシアムごとの説明会を実施していく過程で,研 究分野や進展度などによりコンソーシアムに対する 考えの違いがあることがわかってきた.また,これ までの大学とのコンソーシアム参画の経験から,特 に知財運用での難しさを懸念し,参画の躊躇がみら れた.そこで,コンソーシアム規定である覚書(秘 密情報取扱規程,知財と成果の取扱いに関するガイ ドラインを含む)は,基本部分を共通にして,研究 プロジェクトの特性に応じて活動内容(すなわち規 定の一部)を変更するという二段構造で運用するこ ととした. ⑵ 共創コンソーシアム 2019 年 6 月 6 日に 214 名の参加を得て開所記念講 演会を実施し共創コンソーシアム活動はスタートし た.3 つのコンソーシアムの参画企業・機関数は想 定を超え,それぞれ 18,18,19 社・機関,コンソー シアム全体参加者数(登録者数)は延べ 565 名と なっている.すでに個別企業との共同研究・共同研 究講座は延べ 15 件(2020 年度 10 月末時点)となっ た. 以下に本連携活動で注視している点を示す.まず, プロジェクトリーダーは,産学官連携に対し理解レ ベルを上回る,言わば熱意ある教員になっていただ いている.これは産学官連携成功の秘訣として帰着 することともいえる.また,共創活動では多様/価 値観の異なる技術者の関与が重要であり,互いに意 思疎通を図るしくみが必要となる.センターでは, 課題事象をモデル化する MBD の考えを共通言語, コミュニケーションツールと位置付けている.さら に,イノベーション創出にはパートナー選びが重要. であることから,コンソーシアム参画企業の選定で は,コンソーシアム活動への貢献度を評価軸の一つ とし,大学シーズ/企業ニーズのマッチング可能性 を互いに実感できた段階で,参画手続きをさせてい ただいている.これらがコンソーシアム内の活発な 活動,共同研究ステップの確度を高くする要因とな り,実績数値として表れていると考える.. 4 .研究プロジェクト プログラムでは,地域の技術の強みである MBD を起点として,様々な領域に拡大することを構想し て,3 つの研究プロジェクトを立ち上げた.各プロ ジェクトの関係を図 5 に示す.MBD をリサーチ領 域まで展開して自動車用途の革新的多機能材料の創 出を目指す「材料モデルベースリサーチ」,生産プロ セスの環境/劣化変動等へのロバスト性向上を指向 する「データ駆動型スマートシステム」,さらには製 品開発・製造現場で生じる様々な(振動)現象を データ収集する高速ビジョンによる「スマート検 査・モニタリング」である.次節以降,技術紹介は 要約のみとし,主に産学連携の視点から示す. ⑴ 材 料 モ デ ル ベ ー ス リ サ ー チ(MBR:Model Based Research) まずモデルについて示す.これは,複雑な現象に ついてメカニズムをベースに単純化した理論や数式 モデルで明らかにすることであり,狙いは,1. 技術 者の発想力を高め新しい価値創出,2. 試作品を作ら ず机上開発による効率化,3. モデルを共通言語とし て部門外との連携強化,である.これまでの産学共 同研究では,大学よりで基礎理論の実用化研究の位 置づけが見られた.それに比し,材料 MBR で狙う 産学共同研究は,3. モデルを共通言語とすることで, 大学と産業界の境界を超える活動を行う(図 2).ま た,図 6 に示すように,MBD のターゲットは製品/. 図 5 各研究プロジェクトの位置づけ. ― 4 ―.
(5) 産学連携学 Vol. 17, No. 1, 2021. 図 6 MBD と MBR の関係. モジュール/部品単位であるが,材料 MBR は,適 用範囲を材料開発まで,スケールはミクロ/ナノレ ベルまで広げた活動である. 本プロジェクトのテーマの一つに,省エネと快適 性の複数機能を実現する「熱マネ・NVH(Noise, Vibration, Harshness)制御材料の開発」 (図 7 参照) がある.従来は熱と NVH の機能をそれぞれで制御 した材料を開発していたが,ここでは熱と NVH の 機能を同時制御する技術(モデル)の確立とそれを 実現する材料開発を目指す.また,共創コンソーシ アムではカーメーカーから生産を担う企業まで参加 しており,材料開発から生産工程までの研究体制と なっている.導入機器も,ポリウレタン高圧注入成 形システム,小型不織布開繊/混綿装置システム等, 実装に近いサイズの成形を可能としている. さらに,共創コンソーシアム内の人材育成活動と して,大学では提供が困難な,例えば生産工程や品 質評価技術の知見は参画企業が多く保有しており, 大学教員・学生と企業技術者が共に学ぶ「共育」の 場を目指している.. ⑵ データ駆動型スマートシステム 様々な生産設備では,経年変化や日々の環境条 件・動作条件に応じて,製品/部品の品質特性が変 化する.日本では長年稼働している設備(IT ではレ ガシーシステム4))が存在し,変化や老朽化に対応 し絶えず同じ性能を維持管理する技術が求められて いる.これを,MBD とデータベースを活用し実現 するのが「データ駆動型スマートシステム」研究で ある.開発する MBD アプローチとデータ駆動型ア プローチのインタープレイによる新しい開発プラッ ト フ ォ ー ム(図 8 参 照)は,IoT や CPS(CyberPhysical System)との親和性が高い点から,また実 際の社会課題への適用性に強みを持つことから,多 くの生産システムの基本制御技術になることを狙っ ている.本プロジェクトでは,個別の課題解決活動 は共同研究に移行・実施し,共創コンソーシアムで は技術習得のための人材育成と基本技術の理解・普 及に特化している.既に共同研究/共同研究講座が 多く進んでおり,広島大学内での“産学連携モデル” となっており,その活動事例を他のメンバーにも理 解いただくための「産学連携活動の見える化」ワー. 図 7 材料 MBR における吸音・断熱特性向上研究. ― 5 ―.
(6) J. Jpn. Soc. Intel. Prod., Vol. 17, No. 1, 2021. 図 8 データ駆動型スマートシステムで開発するプラットフォーム. クショップも実施している. ⑶ スマート検査・モニタリング このプロジェクトで提供する高速カメラ技術は, 画像を高速(リアルタイム)に撮り込み,画像処理, 課 題 抽 出 す る も の で あ る.こ れ が 振 動 レ ベ ル (1,000f/s 以上)まで高速処理できれば振動の見える 化が可能となる.当初は「高速カメラ技術」と表現 していたが,機器等の振動現象を非接触・リアルタ イムに見える「振動(の見える化)カメラ」とする ことで,産業現場から様々な課題があがってきた. プ ロ ジ ェ ク ト で は,「振 動 カ メ ラ」技 術(現 在 12,500f/s まで)と工場/敷地全体(かつ 100m 先の 見たい複数個所を詳細に)観察可能な「広域カメラ」 技術の開発(図 9 参照)を,共創コンソーシアムで はこれらを用いた現場での測定一次トライアルと画 像処理・カメラ技術のトレーニングを実施している. 研究プロジェクトでは知財マップに基づく研究進 捗管理も目指している.2 つのシーズに対応する. 様々なニーズの掘り起こし,それらを整理・共通化 することで,共創コンソーシアム内にいくつかの共 創チーム形成が出来つつあり,新たな活動の芽を見 出すことができている.. 5 .今後の計画 ⑴ 実証環境(テストベッド)整備 プログラムでは,センター提供技術をトライアル し社会実装に繋げるための新たな拠点としてテスト ベッド(材料 MBR 棟,データ駆動棟,図 10 参照) を整備予定である.いわゆるテストベッドは表 1 に 示すように,PoC(Proof of Concept,概念実証を試 みる)ものと,実証実験プロトタイプ(実用化に向 けて課題検証する)ものの 2 タイプがあるが,材料 MBR 棟は後者を,データ駆動棟は前者に重きを置 いている.いずれにしても,コンソーシアム企業と 社会実装に向けた「アンダーワンルーフ」でのトラ イアルの場となる.例えば,企業技術者に社内のシ. 図 9 「スマート検査・モニタリング」プロジェクトの活動概要. ― 6 ―.
(7) 産学連携学 Vol. 17, No. 1, 2021. 図 10 実証環境(テストベッド)整備 表 1 テストベッドの類型 材料 MBR 棟. データ 駆動棟. 基礎的なシーズ研究の成果を社会に実装するために検証・実証する開発ラボ. ◎. ○. 類型. 機能. A. ラボラトリー (開発). B. トライアル(試 作)/ FS. 開発成果の PoC・経済性等の検証・実証,導入効果の測定,改良実施. ○. ◎. C. ブリッジング/ マッチング. 産学官連携の強化機能,共同活動への橋渡し機能. ○. ○. D. シェアリング. 開発・試験に必要な装置・ソフトウエア等を共同化し,低コスト化・リスク分散. ○. ○. E. ショーケース. 新技術の導入に向けた装置・機器・ソフトウエア等のデモ・疑似体験. △. △. F. エデュケーショ ン. 人材育成,ORT/PBL 等の実施. ○. ◎. 【凡例】◎:備えるべき必須機能,○:備えるべき機能,△:必要性が薄い機能. ナリオ提案力(考え方と検証データ収集)にも活用 することで,社会実装と産業人材育成の同時実現が 加速することを期待している. なお,公設試験機関や企業では様々な試験機,実 用成形機を保有しており,昨今のコロナ禍やデジタ ルシフトへの進行も踏まえ,データ駆動棟では一部 のコンソーシアム参画企業・機関とリモートで結ぶ 「リモート」計測/制御機能も付加し,バーチャルな アンダーワンルーフへ拡大させる. ⑵ スマートイノベーションプログラム 広島大学では,2021 年 4 月から,先進理工系科学 研究科の学位プログラムとして「スマートイノベー ションプログラム」がスタートする.これは,各プ ロジェクトリーダーが中心教員となり,学生(博士 前期 22 名,後期 3 名)がイノベーション論なども学 ぶコースである.企業技術者からみるとコンソーシ アム活動および個別共同研究で短期的に技術習得し, 学位プログラムでは体系的に学び学位取得を目指す という好循環を想定している.これまで社会人枠の. 学生が学内に実証設備を得ることは困難な場合が あったと思われるが,テストベッドを活用し,教育 と社会実装の両立を目指す.. 6 .おわりに センターは,現在,申請計画書に基づき手探りな がら運用している段階である.始まったばかりの評 価は早計だが,多くの参画企業を得て活動ができて いること,社会実装に向けた共同研究が順調に進展 していることから,良好なスタートが切れたと感じ ている.今後は,活動の拡大に向けたアクションプ ランが必要となる.いくつかの社会課題から新たな 研究領域と強いシーズの継続的創出,これらを戦 略/戦術/実行レベルで循環していくものである. センターの活動資金は現在,地方大学・地域産業創 生交付金事業(2018 年 10 月~2023 年 3 月)が中心 となっており,センターの自立化に向けた資金計画 も策定することになる.価値観が異なるメンバー間 の産学官連携では,参画機関の経営層・技術トップ. ― 7 ―.
(8) J. Jpn. Soc. Intel. Prod., Vol. 17, No. 1, 2021. の理解を得て,積極的に参加いただける環境をつく るといった実行レベルでの地道な活動も大切となる. センターは「モデル」と「データ」その連携を基 軸に活動し,社会実装を見据えバックキャスティン グすることの意義・効果を実証する場,テストベッ ドを拠点とした新たな産学官連携モデル形成の場と しても評価していく.. 引用文献. ― 8 ―. 1 ) 広島大学デジタルものづくり教育研究センター: http://hudmerc.hiroshima-u.ac.jp/ 2 ) 内閣府:平成 27 年度年次経済財政報告,第 3- 1-13 図. 3 ) 一般社団法人日本経済団体連合会:「科学技術・イ ノベーション基本計画」策定に向けて,2020 年 10 月 13 日. 4) デジタルトランスフォーメーションに向けた研究 会:DX レポート,平成 30 年 9 月 7 日..
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