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話し合いの停滞期境界における参与者の振舞の分析~話し合いの相移行期の考察(2)~

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(1)

話し合いの停滞期境界における参与者の振舞の分析

∼話し合いの相移行期の考察

(2)

An analysis of participants’ behavior in the transition from a

stagnant phase of discussion in group discussions

水上悦雄

1

劉礫岩

1

森本郁代

2

Etsuo Mizukami

1

Liyan Liu

1

Ikuyo Morimoto

2 1

情報通信研究機構

1

National Institue of Information and Communications Technology

2

関西学院大学

2

Kwansei Gakuin University

Abstract: This study aims to investigate the characteristic behaviours of the participants of group

discussion at the phase transitions of discussion. Three scenes of group discussions were analyzed on a view point of phase transition. It was suggested that laughters could be a momentum of phase transition from a tentional phase, and the agreement/disagreement could influence the way of the phase transtion.

1

はじめに

本稿では、話し合いの「相」およびその相が別の相 に遷移する「相転移」という概念を導入し、その相転 移が生じている相移行期における参与者の行為に焦点 をあてる。話し合いを進めていると、場の空気が変わっ たな、という感覚を抱くことがある。それはそれまで の話の流れを遮るような誰かの一言によるものかもし れないし、盛り上がっていた話が一段落して話が途切 れ、ふっと間が空いたとき、あるいは案が出尽くして 行き詰まり、誰もが次の一言を発することがためらわ れるような張り詰めた空気を救うような、誰かの発言 があったときかもしれない。誰かが咳ばらいをしただ けでもそうなることはある。そんな場の空気を変える (換える)ものは何かを、実際の話し合い場面のデータ を分析することで紐解くことが本研究の目的である。 特に本稿では、日本人同士、あるいは留学生を含めた 大学生同士の、合意形成を目的とした話し合いのデー タを分析し、文化背景、知識の差異、視線や姿勢など の非言語的な要素が参与役割にどのような影響を与え、 相移行期に何が実践されているのかを考察する。特に うまく解決や議論進展に移行した場合とそうでない場 合で根本的な行為上の差異があるかどうかについて分 析を試みる。 連絡先:情報通信研究機構先進的音声翻訳研究開発推進センター       〒 619-0289 京都府相楽郡精華町光台 3-5        E-mail: [email protected]

2

話し合いの相と相転移について

本研究では、話し合いの「相」という単位(あるい は区切り)に関する概念を導入する。会話における単 位の研究はこれまで多く存在するが(例えば [1])、談 話構造上のまとまりやある程度の会話主題のまとまり を表す大局的な単位という意味では、「話段 [2]」や「ト ピック」などの概念が存在する。それに対して、本研究 において扱いたい「相」という単位は、「会話が盛り上 がっている」「会話が停滞している」「互いに譲らない 言い争いになっている」など、討論や議論の場で見ら れるような観察可能な1会話状況・状態のまとまりを指 す。そして、ある相から異なる相に変わることを「相転 移(phase transition)」と呼ぶこととする。本来これ らの用語は、物理化学用語であって、個体・液体・気体 のように同じ物質が条件によってその物理学的、化学 的性質を変えることを指す。無論、話し合いの相は物 質のそれのように確定した状態というものを定義する ことはできない。しかしながら、上記に示したような 状態は観察可能な事象として話し合いの過程で顕在化 し、それを記述することが可能なように思われる。本 稿においては、本稿で取り上げる話し合いデータ内で 観察された相について例示するとともに、相転移が生 じているような相移行期に着目し、相転移を生み出す 1ここにおける観察可能とは、専らそれをデータとして第三者視 点から事後的に観測できることを意味し、話し合い当事者がその場 で感得できるのは、相よりむしろ後述する相転移のほうである。こ の点については別稿で議論する。 人工知能学会研究会資料 SIG-SLUD-B509-10

(2)

ような参与者の相互行為について分析する。

3

対象データについて

対象データは、関西の大学で行われた二つのタイプ のグループディスカッションの一部である。一つは、同 学年の日本人学生の 3∼4 名グループで、社会的に問題 となっているような一つのテーマに対して、別途調査 した資料を持ち寄り、その問題解決策についてグルー プでの結論を出し、後日他のグループに対してそれを 発表するために、取りまとめるよう指示されている。特 に本稿で取り上げるグループは、男子学生 3 名、女子 学生 1 名によるグループ2(以降、日本人グループ J1 と表記)で、「地域活性化」をテーマとし、どうすれば 人口減少、少子高齢化、産業衰退などの過疎地域が抱 える問題を解決することができるのかを、60 分の制限 時間で話し合っている。 もう一つは、日本人学生、韓国人留学生、中国人留 学生の男女 3 名によるグループ(多国籍グループ)で、 テーマはやはり社会的問題についてであるが、資料は その場で各自、少しずつ内容の異なる関連記事をまと めたものが配布され、事前に一読してから話し合いに 臨んでいる。本稿で取り上げるグループは、そのうち 日本人男子学生 1 名は固定で、韓国人男子学生 1 名と 中国人女子学生 1 名によるグループ(以降、多国籍グ ループ T2 と表記3)と、韓国人女子学生 1 名と中国人 男子学生 1 名によるグループ(以降、多国籍グループ T3 と表記)の 2 グループを取り上げる。T2 のテーマ は、ネット利用の年齢制限の是非についてであり、T3 のテーマは、学校給食費の未払い問題への対策につい てである。いずれも国や地域によって、仕組みや規制 が異なるため、文化の差異が意見に影響を与える可能 性がある。これらのテーマに対して、グループとして の結論を 20 分間で出すように指示されている。

4

分析

前述のように、話し合いの過程においては、様々な 「相」が観察されることが推定される。[3] では、「対立 相」と「協調相」と筆者が仮に名付けた相が見られた が、本稿では特に「停滞相(仮名)」に着目したい。こ こにおいて、さしあたり停滞相とは、話し合いをある 程度進めた段階で見られる、意見が出尽くしたにも関 わらず、詰めの一手が提供されずに、結論に至るまと めや、打開策が提示されずにくすぶっている状態、あ 2このグループの話し合いについては、認知科学会分科会「間合 い研」第 10 回研究分科会 [3] で間合いの観点から分析している。 3 「多国籍」を表す用語には、International、Global、Multina-tional、Transnational などがあるが、ここでは Transnational を 採用して略記として用いた。 るいは誰からも発言がなされず、なされたとしても主 に場をつなぐための本筋とは異なる発話がぽつりぽつ りと出ているような、文字通りの停滞状態を指す。こ のくすぶっている状態に至った要因は何か、また、そ の状態からの脱出4はいかに行われるのかについて分析 を進める。以下ではこの観点に基づいて、各グループ を一つ一つ分析していく。ただし、分析の関係上、T3 ⇒ T2 ⇒ J1 の順に以下に述べる。

4.1

T3 の停滞相周辺の分析

T3 のテーマは給食費の未納問題に対する解決案であ り、いくつかの事例を挙げた後、日本人学生 A(図 1 の A(J))が大学を二千兆円かけて無償化する案があっ て、それができるぐらいなら給食の無償化は可能なは ずだと意見を述べる。以下のやり取りは、その後、中 国人学生 C が、その分の税金負担が重くなるのではな いか、という懸念を表明したところからの会話を書き 起こしたものである5。即座に A は(20 行の→)、「(税 金を投入してでも)教育にはお金をかけるべき」とい う持論を展開する。これに対して C は(27 行の⇒)、 「理想上はそうかもしれないが、現実問題、貧しい家庭 には負担である」旨の主張を繰り返すが、A は(39 行 の→)「貧しい家庭こそ、無償化によって給食費が払わ なくてよくなる」とこの反論を退ける。この流れ(反 論→再反論の繰り返し)は、[3] で取り上げた(後述す る J1 グループの)「対立相」と同じ構図である。

A(J)

B(K)

C(C)

図 1: T3「本当に払えない家庭はどうする」 • T3:対立相∼停滞相の会話 17 C: みんなの生活負担を:、 18 A: うん。 19 C: 重くなるんじゃないですか。 →20 A: [まあ]でも僕教育にそそぐ:= 4仮に脱出と言う言葉を用いるが、状況によってはこの言葉が相 応しくないこともある。 5書起し中の (数字) はポーズ長(秒数)を、(.) は 0.5 秒以下の短 いポーズ、「:」は発話語尾が延伸していること、「h」は笑い、「=」 は発話がつながっていることを示している。また、(文字) は、聞き 取りにくい音声で、フィラーは [] で囲んでいる。

(3)

21 C: h22 A: =お金って結構大事やと思ってて:、日本が:、 うん。 23 C: そう:ですね。(それは) 24 A: どんどん人口が減ってしまうことで国力が落ち ていくっていうのは、なんとか止めないといけな いから:、教育(.)に対して国がどんどんお金を 使うことは賛成ですね。僕は。 25 C: (それはそうです。) 26 A: う:ん。 (2.2)   ⇒ 27 C: 理論的に(.)はわかる(.)んですけど:(そう) 思うんですけど= 28 A: うん。 29 C: =現実的な話とは:、(.)やはり:(.)う:ん。 30 A: うん。 31 B: う:::ん。 32 C: 貧しい(.)家庭は:やはり:= ∼中略∼ →39 A: でも(.)逆に考えると:、貧しい:子どもを持っ た家庭は:、給食費が、(.)なくなるんですよ。 ⇒ 40 C: あ、それもそうなんですけど。 41 C: それはそうなんですけど。 42 A: うん。 43 C: う::ん。 相境界1 (2.8)44 A: ど、どうなん、う::ん。 (3.9)   →45 A: hhhh難しいですよねこれ税金:(.)税金の話と かが。 (1.3)46 A: [まあ]今でだいたい半分ぐらい。(.)半分ちょ いすぎくらい。 (3.7)47 A: 法律で払わせる。 48 C: 法律で。 ∼中略∼ ⇒ 54 C: でも法律にでれば:本当に払えない家庭は: 55 A: うん。 56 C: (どうする) 弱相境界2 . . . .57 B: [なんか](別の)制度とかってあるんじゃない ですか 58 A: う:ん、[なんか]補助:っというか[なんか]。 59 B: そうですね。補助(.)とか、ある:(みたい)と いうか。 60 A: う:ん。 61 C: う::ん。 62 A: 扱いになるとか。 (1.9)63 A: え、無償化についてどう:(.)思われます?僕、 無償化:がいいなと思(って×××)。 64 C: うん、無償化は、いいと思う。 [3] では、反論の連鎖の最後で、一方が引く(with-draw)ことで「対立相」を脱し(この様子は 4.3 節で 再考する)、その後の新たなやり取りによって「協調 相」に移行したところを分析したが、この A と C の やり取りでは少し事情が異なる。C は A の反論に対し て、一応同意を示す(40 行の⇒)ものの、「それはそ うなんですけど。」と納得していない様子であり、その ことは、後の C の発言(54 行の⇒)からも伺える。た だ、ここでは C の再度の反論がなされることはなく、 2.8 秒の沈黙が流れる。A の言い淀みを挟んで、10 秒近 い間が生じ、まさに場が「停滞」する。その後の A の 「難しいですよね」(45 行の→)が端的に行き詰まった 状況を示している。あえて「境界」を設けるとするな らば、会話中の “相境界 1” と書かれている時点かと思 われるが、これはあくまで反論の連鎖が続かなかった がゆえに、事後的に引かれる境界と言える。そして 1.3 秒の間を挟んで A は、一旦その流れを切るように、時 間が制限時間の半分ぐらいであることを告げる。その 後、A が話題を転換するが、結局 C の同様の反論(54 行の⇒)に会い、完全には停滞を抜けることができな い。その後、ずっと話を聞いていた B が別の制度があ るのではないかと助け船を出し、A もこれに同意して、 貧しい家庭には補助が出る(から問題ではない)と主 張する。この B の発言によって、停滞状態を脱したと いう強い論拠を確認することはできないが、もし、こ の B の介入が、会話例最後の C の「無償化はいいと思 う」という三者の合意形成状態に貢献しているとする ならば、ここに「弱い相境界」(“弱相境界 2” と示す箇 所)を引くことができるかもしれない。

4.2

T2 の増長相周辺の分析

T3 で—例に挙げた箇所以外にも—何度か見られたよ うな目立った停滞相は、実は T2 では見られなかった。 しかしながら、それは違う形となって現れる場合があ る。このグループでは、小中学校で問題となっている ようなネット利用に関する被害やいじめの問題を背景 に、利用制限の是非をテーマとしていて、以下の日本 人学生 A は、制限には消極的であるのに対して、韓国 人学生 B(図 2 の B(K))は少なくとも SNS には規制 が必要だと主張するところから始まる。

A(J)

B(K)

C(C)

図 2: T2:「なんもなかった時代がよかった」

(4)

• T2:増長相の会話 62 B: ただ、SNSだけは制限をかけ:たほうがいい んじゃないかなと。 63 A: うん。 64 B: ちょっと思うんですよね。 65 A: なるほど。 66 C: そのあれ友達追加するときですか? ∼中略∼ 73 C: で、(.)実際に会えたら、でも怖いことがあっ て:、するかもしれません。 74 B: そうなんですよ。だから、(.)子どもはね、(.)[あ の:]判断能力は(.)すんごい落ちてるんですよ。 落ちてるいうか大人に比べたらね。ガキですよ。 ∼中略∼ 81 B: [もう]警戒心がないし:、[もう]それが犯罪っ ていうことにちかく自体が[もう]ないと思うん で:。 ∼中略∼ 87 B: やっぱ制限が必要です。 88 A: なるほど。 89 B: 自分でさしたらだめなんですよ。こういうの は。 91 A: う::::ん。 弱相境界1 . . . .92 C: そういえば、SNSで:、[あの:]中国のQQと いう、チャット:(.)道具しっていますか? ∼中略∼ 105 C: で、こういう(カナサ:)きたら、[なんか:] 公式的な[あの:]、[なんか]知らせがでるんで。 で、今の[その]キとかお金に(×)こと:とか、 話しているのでもしキザ6の場合があんで、ご慎 重にって書いています。 ∼中略∼ 117 C: でも:子ども:確かに[なんか:] 118 C: [もう]だから小学生で、みんながスマホ、フォ ン持っていて、自分が持っていないって:、[な んか:]。 119 A: はい。 120 A: あ::あれですね。今中学校とか 121 C: そうですね。 122 A: [あの:]い今中学校で[こう]ライングループっ て必ずクラスにあって:、そのライングループで: [こう:]。 ∼中略∼ 130 A: その、ラインがはい(.)できてないっていう のが一つ不利になっていじめにつながるっていう のがあるらしい。 131 C: [なんか]特に日本で、中国はあんまり:::(.) そういう(の)がないですね。 ∼中略∼ 136 B: ただちょっと僕的に理解でき:ないっていう か:、h[あの]ジェネレーションギャップってい うか、僕は:。 137 A: う:ん。 ∼中略∼ 150 B: だから別にラインとかSNSっていう存在自体 なかったんで:。 151 A: はい。 6詐欺のことを指していると思われる 152 B: 別にそういう(.)理不尽なことに巻き込まれ ることだけはなかったんですよね。 ∼中略∼ 159 B: むしろ昔のようになんもなかった時代の方が よかったっていう。 160 A: う:ん。 161 C: そうですね。 162 B: [もう]余計なこと作っちゃって:、(.)こんな ん(.)社会現象巻き起こしてるわけなんでしょ。 163 A: うん。 164 C: う::ん。 165 B: 時代がもっと。 相境界2166 C: でも仕方がないですね。その(××××) 167 B: 自然の流れがね:。 168 A: hhhh169 B: いや怖いもんでね。 B は、C のネット犯罪に巻き込まれる可能性につい ての発言を受けて、最近の子どもらは判断能力が低下 していて警戒心がないために、制限が必要であると持 論を展開する。この時点でかなり最初のトーンよりも 選択する言葉(ガキ)を含めて少し強めの発言となって いる。それを受けて C が(92 行の→)、中国のチャット システムでは金銭トラブルに繋がる可能性のあるキー ワードが出ると、警告通知が来る(同様の機械的支援 は可能なのではないか)と少し弱めの反論(あるいは B の主張を弱める意見)を述べる。が、その後自ら、小 学生が自分だけスマホを持っていないというのは、と 言いながら言い淀むがすぐに A が、いじめの種となり 得ることだろうとフォローする7。これを受けてか、B は、それ以降で、自分の子どもの頃にはなかった SNS が諸悪の根源であって、それを作ってしまったことが問 題であるかのように持論をさらに展開させていく。つ まり B は、発言するたびに発言がエスカレートして子 どもらの問題ではなく、SNS 自体をも否定するに至っ てしまった。この間を(発言の)増長相と仮に名付け ることとする。 冒頭で違う形の停滞と述べたのは、合意形成に向け てグループの結論をまとめるという目的に対して、B の発言(止められない技術の進歩に対する怒りにも似 たようなもの)はあまり建設的とは言えず、その意味 で形を変えた停滞とも言える。この点については 5 章 でも考察するが、「相」を局所的な行為の連鎖としての 現象としてとらえるのか、話し合いの大域的な目的か ら見た場合の位置づけとしてとらえるかによっても変 わってくるかもしれない。 この B の主張を和らげたのが、やはり C の発言(166 行の→)であり、これによって、B も「自然の流れには 逆らなえない」と場の緊張が解けることとなった。こ 7ただし、その後の C の発言(中国ではそういうことはない)で、 いじめまでとは考えていなかったのかもしれない。

(5)

のように、対立相はいつまでも反論が続くわけでもな く、増長相もいつまでもエスカレートしていくわけで はない。次節の J1 で分析する場面は、T3 の場面と対 立相からの脱出という点において類似している。

4.3

J1 の対立相周辺の分析

地域活性化をテーマとして話し合われたこのグルー プでは、最初に各自が持ち寄った情報をもとに現時点 での自分たちなりの案を提示し、それらを元にグルー プの結論を出そうとしている。主に話し合いの進行役 となっていた参与者 B(図 3)は、「若者が集まるよう な仕組み(安定した産業など)が必要」との考えに基 づいて、具体案をまとめようとしているが、これに対 して A は「その地域の住民の幸福度が上がることが活 性化であり、知らない若者が沢山移住してくるくらい なら、衰退していくほうがいいと考えている人は多い はずだ」と主張し、しばらくこの対立が続く。しかし、 その対立は、A がそれ以上反論(あるいは説得)しな いことで、逆に C の撤退を促すこととなった [3]。

A

D

C

B

図 3: J1:「ちょっと話がずれてきた」([3] から再掲) • J1:対立相脱出時の会話([3] から抜粋) 305 A: でも[なんかな]。[えっとな:]俺結構さ:[あ の]ボランティアで地域活性化系のボランティア とか行くことあんねんけど:[あの]話聞いたら [もう]このまま衰退して[もう]町と一緒に[もう] 家も衰退してっていいよっていうかたが結構多い ねやんか。 306 B: あ:そうなんだ。 307 A: 割と。 308 A: ほんまにそういうおじいさんおばあさんだけ の地域やったら。 309 A: 地域もあるっちゃあるやん。 相境界1 (2.1)   →310 A: まあまあ[ま]ちょちょっと話ずれてきたなh。 311 B: それを言い出すとなかなかこのテーマはな。 ⇒ 312 A: そうそうそうそうそう。 313 A: む(.)幅広いからこれ結構。 314 B: うん。 今回着目したいのは、[3] で分析した、会話中の “相 境界 1” で示す境界直後の 2.1 秒の間ではなく、その後 の A の発話(310 行目の→)における 引、 き、 方である。、 確かに [3] で分析したように、ここで A が再反論する ことなく引いたのは、B の反論の不在と、視線が既に 自分に向けられていないことで、我に返った結果かも しれない。しかしながら、その後、B が「それを言い 出すとこのテーマはな」と発言することができたのは、 この A の 笑、 い、を 、 伴、 っ、 た発話であるとは考えられないだ、 ろうか。つまり、B は、それまでも何度も、「それを言 い出したら議論が進まない」ことを指摘したかったは ずである。なぜなら A の主張は、極論として住民さえ よければ衰退しても構わない、というものであるから で、話し合いのテーマそのものを否定するような主張 だったからである。この A の笑いによって、B はやっ とそのことが言えたのではないだろうか。 以降の考察では、上記の分析と、T3 の対立相、T2 の増長相からの脱出(相転移)における共通点につい て考察するとともに、彼らが何者として会話に臨んで いたかが、話し合いにどう影響を与えていたかについ ても考察する。

5

考察

5.1

笑いによる緊張状態の緩和

J1 の対立相からの脱出は、A が引くことで達成され たが、A 自身、納得して引いたとは限らず、その後も 何かのきっかけでまた持論が復活することもあり得た かもしれない。しかし、笑いながら、話がそれたこと を自嘲するかのようにすることで、B の「それを言い 出したら」という発言を引き出し、これによって、B が 次の発言(市町村合併のメリット)をスムーズにする ことができ、その他の参与者をも巻き込んだ協調相に 移行することとなった [3]。 同様に、T2 における B のエスカレートの後、C の 発言の後、笑いが起こる。この笑いは主に A によるも のだったが、その笑いが共通のリソース [5] として共有 されたからこそ、B は「自然の流れは怖いもんで」と、 抑えることができたのではないだろうか。 また、T3 において、停滞相に入った後の A の 45 行 目の発話は、笑いながら「難しい」と発言しているの は偶然であろうか。この笑いと、上記の J1、T2 の笑 いは同じ機能ではないかもしれない。事実、対立相か ら停滞相に相移行したものの、まだ C の反論は継続し ており、ある意味対立しながら話し合いが停滞してい るような状態となっていて、57 行の B の発言がなけれ ば、それはもっと続いていた可能性もある。その意味 で、この笑いは A だけのもので、少なくとも C には共

(6)

有されなかった可能性はあるが、事実として、C も無 償化はよいという同意を得るに至ったことに、「税金の 問題は難しい(=ここで語るべき内容ではない)」とい う A のメッセージが笑いを伴って、B や C のその後の 発言に影響を与えた可能性はないだろうか。これらに ついては、より多くのデータとその共通性を見ること で明らかにしていく必要がある。

5.2

相転移の観点から

先に、T3 の対立相と、J1 の対立相は同型であると 述べた。T3 はその後、停滞相に移行したが、J1 では目 立った停滞と呼べるものがなく、短い中間状態を経て、 B のスマホを全員の真ん中に置くという行為の後、全 員参加の協調相に移行した [3]。この差は、J1 における B の行為の有無の差なのであろうか。J1 と T3 の対立 相からの相境界直後のやり取りを見ると、J1 では、A の「それを言い出すとこのテーマは(まとまらない)」 との発言に対して、強く同意しているのがわかる(313 行の⇒)。これに対して、 T3 において、同様に引く側 となった C が、A のその後の発言で強く同意している 行為が見当たらない。それが明確に表れたのは、やり 取り最後の「無償化はいいと思う」であって、結果、そ こまで停滞相が続くこととなった。つまり、緊張状態 とも言える対立相から、停滞相に移行してしまうかど うかは、対立相を脱する際に、引いた側が引かせた側 にどれだけ同意をもって引いたのかということに関係 している可能性がある。この同意/不同意の行為の連鎖 [4] についてもより詳しく分析する必要がある。

5.3

成員性の観点から

J1 において、A が笑いを伴って引くまで、他の参与 者 C、D が A と B の会話に介入することができず、B も そ、 の、 発、 言をすることができなかったのは、[3] で考察、 したように、A が「ボランティアで過疎地域の活性化 に関する活動に参加した」という 経、 験、者 、 と、 し、 て語って、 いたからである可能性がある。この何者として発言し ていたのか、という成員性 [6] の観点で言えば、T3 に おいて、A は終始「日本人として」発言していたと言 える。それは、「国力が落ちる」という発言からも感じ とることができる。特に T3 のテーマは “日本の” 学校 給食費未払い問題であって、中国や韓国の問題ではな いので、その問題に対して、中国人として、あるいは 韓国人として発言することは難しかった可能性がある。 C の発言(A への反論)は常にこの A の日本の税金事 情や教育事情を背景とした、日本人としての発言に対 する違和感に対して、発せられていたのかもしれない。 これに対して、T2 のテーマは日本の事情と言うより も、それぞれの国の事情に置き換えて議論することが できたため、それぞれが日本人として、韓国人として、 中国人として—QQ チャット等の自国の事例や体験談を 述べて—発言していたにも関わらず、それが目立って 問題となることはなく、ある意味各個人の意見として、 対等に話し合いが展開されていたことで、それが原因 となってあからさまな停滞を生むことがなかったので はないだろうか。何者として発言するか、ということ と、話し合いのテーマは密接に関係するため、テーマ の選定には注意が必要である。

6

おわりに

本稿では、三つの話し合いの場面の分析を通して、話 し合いの相、および相境界を規定することが可能かど うか、相と相の境界でどのようなことが起こっている のかを分析し、笑いや同意/不同意の連鎖、成員性の観 点から考察を行った。まだまだ何らかの法則性のよう なものを見出すには至っていないが、今後、さらに多 くの場面を分析、詳細に観察していくことで、相転移 の起こる—場の空気が変わる—メカニズムについて明 らかにしていきたいと考えており、それによって、逆 に場の空気を変えるための方法論も明らかにすること に繋がると考えている。

謝辞

本研究は JSPS 科研費 JP107K02766 の助成を受けた ものです。

参考文献

[1] 榎本 美香,石崎 雅人, 小磯 花絵, 伝 康晴, 水上 悦雄, 矢野 博之: 相互行為分析における単位に関する検討, 人工知能学会研究会資料, SIG-SLUD-A402, pp. 45–50 (2004) [2] ポリーザトラウスキー: 会話における『単位』につい て—『話段』の提案,日本語学,明治書院(1996) [3] 水上悦雄: 話し合いにおける参与者間の間合い∼話し合 いの相移行期の考察(1)∼,認知科学会研究分科会「間 合い研」第10回分科会発表原稿, http://maai/, (2018) [4] 水上 悦雄, 森本 郁代, 大塚 裕子,鈴木 佳奈, 柏岡 秀 紀: 賛否表現評価ラベルによる合議目的の話し合いの構 造化の試み,言語処理学会第18回年次大会発表論文集, pp. 1170–1171 (2012)

[5] Jefferson, G: A technique for inviting laughter and its subsequent acceptance/declination, In G. Psathas (Ed.) Everyday language: Studies in ethnomethod-ology, pp. 79–96 (1979) New York, NY: Irvington Publishers.

参照

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