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高等学校「英語表現I」教科書における文法練習問題の写真及びイラストの分析

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第37号(2021年 3 月15日発行)

甲 斐   順

高等学校「英語表現Ⅰ」教科書における

文法練習問題の写真及びイラストの分析

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高等学校「英語表現Ⅰ」教科書における

文法練習問題の写真及びイラストの分析

1.はじめに  平成25年度より高等学校で「英語表現Ⅰ」の授業が始まった。この科目の目標は, 「英語を通じて,積極的にコミュニケーションを図ろうとする態度を育成するとと もに,事実や意見などを多様な観点から考察し,論理の展開や表現の方法を工夫し ながら伝える能力を養う」(文部科学省,2010,p. 25)こととされている。そして, 科目の内容としては,「(1)生徒が情報や考えなどを理解したり伝えたりすること を実践するように具体的な言語の使用場面を設定して,次のような言語活動を英語 で行う」こととされ,「ア 与えられた話題について,即興で話す。また,聞き手 や目的に応じて簡潔に話す」「イ 読み手や目的に応じて,簡潔に書く」「ウ 聞い たり読んだりしたこと,学んだことや経験したことに基づき,情報や考えなどをま とめ,発表すること」の3つが示されている(文部科学省,2010,pp. 25-27)。上 記のように「英語表現Ⅰ」の目標及び内容では,「文法」という言葉は使われてい ないにもかかわらず(中井,2016),教科書の多くは文法シラバスに基づいている ことが指摘されている(中井,2016;下山田,2018;鵜澤,2016)。「コミュニケー ション英語Ⅰ」で扱うべき文法事項の解説と文法練習問題に多くを割いているのが 実態である(鵜澤,2016)。  文部科学省(2010)は,「第3款 英語に関する各科目に共通する内容等」の中で, 「文法については,コミュニケーションを支えるものであることを踏まえ,言語活 動と効果的に関連付けて指導すること」 (p. 49) 「コミュニケーションを行うために 必要となる語句や文構造,文法事項などの取扱いについては,用語や用法の区別な どの指導が中心とならないよう配慮し,実際に活用できるよう指導すること」 (p. 50)としている。金谷(2012)は,従来の文法指導では,これらの点が不十分だっ たためにあえて当然のことが書かれていると考えてよいと述べている。その上で, 金谷は文法を「使いながら身に付けさせる」ためには,言語活動の質を高めること が必要であると訴える。  文法シラバスに依拠した英語表現Ⅰの教科書の文法練習問題に目を向けると,活 字一辺倒の教科書もあれば,学習者が意欲的に取り組めるように写真やイラストを 取り入れ,視覚的に興味・関心を持たせる工夫をしている教科書も見られる(甲斐, 2020)。教科書における写真やイラストは言語学習を促進する(Roohani & Sharifi, 2015),生徒の情操のレベルに合わせた適切なイラストは,教科書の印象を親しみ やすいものにする(小串,2011)などの言語学習に対する肯定的な側面があること

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から,文法練習問題に写真やイラストが添えられているものと思われる。あるいは 文法を使いながら身に付けさせるための教科書会社の工夫ととらえることも考えら れるが,中には文法練習問題を解答するのに参照する必要のないと思われる写真や イラストも掲載されている(甲斐,2020)。  本研究では,平成29年度から使用されている「英語表現Ⅰ」の教科書の文法練習 問題について,写真やイラストに焦点を当て,現状と課題を明らかにするとともに, 今後の教科書編集に係る文法練習問題の作成に資することを目的とする。 2.先行研究  本節では,教科書における写真やイラストの役割に係る先行研究及び文法練習に 係る先行研究について触れた上で,研究課題を設定する。  学習者が,目標言語に接する機会の少ない第二言語の環境において,教科書の中 の写真やイラストのような視覚要素を評価することは重要であることが指摘されて いる(Roohani & Sharifi, 2015)。日本は,日常生活が日本語で行われており,日本 人が英語を目標言語として学習する場合,接する機会の少ない第二言語,すなわち 外国語の環境であると言える。日本が,目標言語に接する機会が少ない外国語とし て英語を学習する環境であることを踏まえ,小学校,中学校や高等学校で使われて いる英語の検定教科書についても写真やイラストを評価するのは重要であると言え るだろう。  小串(2011)は教科書を適切に選択する前提として,教科書の内容を分析し,適 切に評価する必要性を指摘している。そして,教科書の判型,図版などを対象とし た外的評価と,指導目標,指導項目などを評価する内的評価の2つの評価に区別し ている。外的評価の一項目として,図版やイラストなどの分量を挙げている。図版 やイラストの多寡は,教科書の印象に大きく影響するもので教科書作成において重 要な位置を占めること,図版やイラストそのものが教材になり,本文理解のための 重要な要素にもなること,生徒の情操のレベルに合わせた適切なイラストは,教科 書の印象を親しみやすいものにするのに大いに役立つと小串は述べる。小串は写真 については言及していないが,「図版やイラストなど」の「など」の中に含んでい ると考えることができるだろう。学習者にとって教材や本文理解の要素になるだけ でなく,教科書そのものに対する印象を与える教科書の写真やイラストを評価する ことには意義があると言えよう。  教科書における写真やイラストは言語学習を促進するとされる(Roohani & Sharifi, 2015)。Romney(2017)は,言語学習教材に写真やイラストが使われる3 つの主な理由を挙げている。1つは,写真やイラストは学習者が教材に興味・関心 などを持たせる効果があり,2つ目としては学習者がレッスンの話題に関する既習 の知識,スキーマを活性化する手段になり,3つ目は言語活動を行う方法を制御す ることを可能にする選択権を学習者に提供するとされている。先行研究から教科書 における写真やイラストは学習者の言語学習を支援することが期待されていると言 える。

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 近年,教科書における写真やイラストの役割が,研究者の関心事となっている (Hill, 2013; Romney, 2017; Roohani & Sharifi, 2015)。Hill(2013)は,イギリスで 発行されている3種類の教科書に用いられている写真やイラストを decoration と use の2つの観点で分析した。Hill によると,例えばレストランにおける対話の場 面で,対話のそばにレストランの写真や絵があるだけで,学習者がそれらを参照す るよう求められないものが decoration となる。一方,use となる写真やイラストと は,絵と一致する文章を選んだり,リスニングの文章に基づいて絵の中の人や物を 学習者に認識させるなどの活動に用いられるものとしている。その結果,3種類の 教科書の写真やイラストにおける decoration は53.4%(写真が40.8%,イラストが 12.6%),use が46.6%(写真が33.4%,イラストが13.2%)で,decoration の比率が 半分以上を占めていることが明らかにされた。Roohani and Sharifi(2015)は,中 上級レベルを対象としコミュニカティブ言語教授法に焦点を当てた2種類の ELT の教科書を Hill(2013)と同じように decoration と use の観点で分析した。その結 果,decoration が7.84%(写真が5.15%,イラストが2.69%),use が92.16%(写真 が48.53%,イラストが43.63%)で,use の比率が圧倒的に多かったことが明らかに なった。

 Romney(2017)は Hill(2013)を発展させ,decorative images,instructional images,supportive images の3つの観点を導入した。decorative images とは学 習には直接貢献しないが,学習者の関心を引きつけ,学習に参加させる動機づけと なる images のことを指す。instructional images とは,学習のタスクや活動を仕上 げるのに学習者が使う images のことである。supportive images は,学習者を支 援するが,タスクや活動,練習問題を行うときに images を使うように指図されず, 場面を提供したり,テキスト本体以外に情報受容のため別の手段を提供することに より学習を支援する images のことを指す。supportive images の主要な機能として, 学習者のスキーマを活性化させるために方法が提供され,話題についてより深く理 解したり,意思の疎通を図れるようにしたり,文化的,地理的などの場面の中で学 習タスクを位置づけることを可能とする。Romney は supportive images をさらに strong supportive images と weak supportive images に分類している。前者は, 理解のために学習者に別の様式を提供するため,学習を強く支援するという。例え ば,日本での観光を勧めるために,訪れる場所やそこでできること,食べ物などを 考えさせる際に厳島神社や兼六園の写真などがタスクに配置されている場合,これ らの写真が広島や金沢を理解するための別の様式にあたる strong supportive images であるという。一方,weak supportive images は,テキストの限定的な説明, 発展,繰り返しで,学習者が有意義な方法でスキーマを活性化することはない images のことである。例えば,アメリカの大学生の写真とその横に付されている 例文を見て,自分自身のことを同じように書くような活動は学習者の思考を刺激せ ず,それらを通しては自分自身の考えが思いつかないため weak supportive images であるという。  Romney (2019) は, 上で述べた Romney (2017) の3種類 (実質4種類) の分類

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に基づいて日本で一般的に利用可能な3種類の英語の教科書を分析した。分析は, ページ毎,イメージ毎にまず「学習者や生徒に対して,学習タスクや活動の中のイ メージを使うための指示があるか」という問いを投げかけた。肯定的答えとなった 場合は,そのイメージを instructional images とし,否定的答えとなった場合は,「そ のイメージが学習を支援するか」という質問を行った。この質問に否定的答えとなっ た場合は, decorative images とし, 肯定的答えとなった場合は, strong supportive images とし,「多分」「間接的に」「幾分」といった答えが出た場合は,weak supportive images と 分 類 し た。 そ の 結 果,decorative images が0.8%,weak supportive images が17.6%,instructional images が37%,strong supportive images が82.4%であることが明らかになった。Romney(2019)は,decorative images と weak supportive image を「 役 に 立 た な い 」,instructional images と strong supportive images を「役に立つ」に分類して,先行研究との比較を行って いるが,Romney(2019)自身が認めているように weak supportive images は主 観的であり,strong supportive images と weak supportive images かどうか判断 するには,学習者からのフィードバックが必要である。また Romney(2019)は, weak supportive images は images が余白を埋めるため,あるいは教科書の視覚的 魅力を増加させるために主として含まれていることを示唆している一方で,images が文脈から完全に切り離すことができず,学習者にとって images が実際には役に 立つかもしれないとも述べている。

 甲斐(2020)は,Hill(2013)で教科書を分析する際に用いた decoration と use の2つの観点で「英語表現Ⅰ」の教科書の文法練習問題について,具体例をそれぞ れ紹介している。decoration と定義されるイメージを持つ文法練習問題の例として, 絵を見て関係代名詞を空所に補う問題を取り上げている。この例では,イラスト部 分を隠して各英文の空所の前後を見ることで,解答が可能であると指摘している。 また,写真やイラストがなくても日本語を参照すれば解答することができる和文英 訳等の文法練習問題が多数存在するとも指摘している。さらに,教科書によっては, 文法練習問題の中で使われているごく一部の語彙と関係する写真やイラストを問題 のすぐそばに配置しているだけ,あるいは文法練習問題とはほとんど関係のない写 真やイラストを配置しているものもあるとし,これらを decoration と位置付けて いる。一方,甲斐(2020)は,絵を見て書き出しの語句に続けて英文を作成する問 題で,イラスト部分を隠した場合,英文を作成することができないものについて, use と定義されるイメージを持つ文法練習問題として示している。ただし,甲斐 (2020)は「英語表現Ⅰ」で使用されている教科書における decoration と use の比 率については示していない。

 以上をまとめると Hill(2013)が decoration と use の観点で教科書の写真をイラ ストについて分析を行い,その後 Roohani and Sharifi(2015)や甲斐(2020)が decoration と use の 観 点 で 分 析 を 行 っ て い る。 一 方,Romney(2017) は, decorative images,instructional images,supportive images の3つの観点で教科 書の写真やイラストを分類する方法を提案しているが,supportive images につい

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てはさらに strong / weak supportive images の2つに分類している。実質この4 つの観点で Romney(2019)は教科書について調査したが,Romney 自身が認めて いるように supportive images における strong / weak supportive images の分類 方法に関しては,weak supportive images の判断基準が主観的であり,strong か weak については学習者からのフィードバックが必要であるといった点で,教科書 を分析する分類基準としては確立されているとは言えないだろう。現段階では, Hill(2013)が示した decoration と use の2つの観点による分類が複雑でなく取り 組みが容易であると考えられる。  ところで,Ur(2009)は,文法練習に関する著書の中で,validity(妥当性), quantity(量),success-orientation(成功志向),heterogeneity(異種混交性), interest(興味深さ)の5つの特徴によって練習が効果的なものになると述べてい る。validity とは目標とする文法構造を練習することでそれ以外のことを練習する ことではない。quantity は目標とする文法構造にふれあう機会の量を指し,量が少 なければ練習は効果的でないという。success-orientation とは学習者の応答が誤り であるとか修正が必要であるというよりも,容認可能で成功となる応答を引き出す ようにデザインされるべきであるという。それが自信や動機づけなどに良い影響を 与えるという。heterogeneity とは教室内の学習者のレベルが異なることから,異 なるレベルでも行えるような open-ended 型の練習のことを指す。interest とは練 習を成功させる極めて重要な特徴で,興味深くなければ学習者が集中できず,注意 が散漫になるという。練習において interest を高める実践的な方法の一つに Ur (2009)は,visual focus を挙げている。あるものを見たり,それが描かれたものや 象徴的なものを見ることで,それについて集中して考えるのは,聴いただけの場合 と比べてはるかに容易であると述べている。視覚教材は普通絵の形をとるが,図や 記号,表などの場合もあるという。  文法練習を効果的なものにするには上記の5つの特徴が求められており,その5 つのうちの1つである interest を高めるには visual focus という方法もあることが わかる。教科書の文法練習問題に写真やイラストが添えられているのも interest と いう特徴も考慮されていることが考えられる。  そこで,本研究では先行研究で取り上げられている decoration と use の観点を 用いて,平成29年度から使用されている高等学校「英語表現Ⅰ」の教科書で扱われ ている文法練習問題について調査分析を行う。なお,先行研究で触れた Hill(2013) は decoration について,筆者が述べた例しか示しておらず,明確に定義を行って いない。そこで,本稿では文法練習問題を解くのに明らかに無関係な写真やイラス トは decoration であることがわかっているため,最初から分析の対象とせず,指 示文に 「絵を見て」 や “Look at the pictures” 等の文言が含まれ,写真やイラスト を何らかの形で参照することが示されている練習問題を分析の対象とした。写真や イラストを参照せずに解答が可能な場合は decoration とし,参照しなければ解答 できない場合は use と分類した。文法練習問題で用いられている写真やイラストを decoration と use に分類することで,現状を示し,課題を明らかにするとともに,

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今後の教科書編集に係る文法練習問題作成に資することを目的とする。そこで,次 を本研究の研究課題として提起する。  ・ 「英語表現Ⅰ」の教科書に記載されている文法練習問題において,写真やイラ ストは decoration と use の2つの観点で比較した場合,どちらの比率の方が 多く占めているか。 3.方 法  本節では,本研究で行った調査について,調査対象の教科書及び手順について示 す。 3.1 調査対象の教科書  分析対象とする教科書は,平成28年度に検定された高等学校「英語表現Ⅰ」の13 の発行者による合計20冊である。具体的には,Atlantis,Attainable,be Advanced, be Standard,Big Dipper,Crown,Departure,Dualscope,Echo,Mainstream, My Way, New Favorite,New One World,Perspective,Polestar,Select ,Vision Quest Advanced,Vision Quest Core,Vision Quest Standard,Vivid である1) 3.2 手順

 調査対象とする「英語表現Ⅰ」の教科書20冊における文法事項の説明が記載され ている箇所以降に載っているすべての文法練習問題について,問題の指示文に写真 やイラストを参照することが言及されているものを分析対象とした。例えば,「絵 の内容に合うように,例にならって[ ]内の動詞を適切な形にして,肯定文を完 成させなさい」(Vison Queset Core, p. 11)や,“Look at the pictures and make questions.”(Big Dipper, p. 15)などが分析の対象となる。そのため,文法練習問 題中に写真やイラストが掲載されていても,問題の指示文自体に写真やイラストに 言及する文言がない教科書は,分析の対象から外した。問題の指示文に写真やイラ ストに言及する文言があれば,写真やイラストを隠した上で,文法問題の小問毎に 解答が可能かどうかを1つひとつ吟味した。写真やイラストを参照せずに解答が可 能な場合は,decoration とし,参照しなければ解答できない場合は,use と分類した。 例えば,絵を参照するように指示文に書かれているものの,イラストを隠しても 「1. Excuse me, but      a picture of us? (写真を撮ってほしい)」 (be Advanced, p. 35) の よ う に 解 答 が 可 能 な も の は decoration に 分 類 し た。Hill(2013) や Roohani and Sharifi(2015)といった先行研究では,写真(photos)とイラスト (drawings)を区別しているので,それにならい,写真で decoration の場合は PD,

写真で use の場合は PU,イラストで decoration の場合は DD,イラストで use の 場合は DU とした。

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4.結 果

 調査対象とした「英語表現Ⅰ」の20冊の教科書のうち,上記手順に則り,文法練 習問題の指示文で写真やイラストを参照して問題を解答させている教科書は10冊で あった。最終的に分析対象とした教科書は Atlantis, be Advanced,be Standard, Big Dipper, Dualscope, Mainstream, New Favorite, Perspective,Polestar, Vision Quest Core の10冊である。最終的に分析対象となった「英語表現Ⅰ」10冊の教科 書で扱われている文法練習問題について,写真で decoration の場合は PD,写真で use の場合は PU,イラストで decoration の場合は DD,イラストで use の場合は DU に分類し,それぞれの頻度と比率を表したのが表1である。図1は,各教科書 における観点毎の比率を表したものである。 教科書名 PD PU DD DU 合計 Atlantis 29 5 0 0 34 85% 15% 0% 0% 100% be Advanced 0 0 3 0 3 0% 0% 100% 0% 100% be Standard 0 0 2 0 2 0% 0% 100% 0% 100% Big Dipper 4 0 43 23 70 6% 0% 61% 33% 100% Dualscope 0 0 4 19 23 0% 0% 17% 83% 100% Mainstream 0 0 0 6 6 0% 0% 0% 100% 100% New Favorite 0 0 1 8 9 0% 0% 11% 89% 100% Perspective 4 0 3 29 36 11% 0% 8% 81% 100% Polestar 10 2 25 29 66 15% 3% 38% 44% 100%

Vision Quest Core 0 0 8 11 19

0% 0% 42% 58% 100%

合計 47 7 89 125 268

17% 3% 33% 47% 100%

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 「英語表現Ⅰ」10冊の教科書における文法練習問題の観点毎の分布は,全体で見 ると PD が17%,PU が3%,DD が33%,DU が47%であった。PD と PU を合わ せると20%,DD と DU を合わせると80%で,写真が2割,イラストが8割を占め ている。「英語表現Ⅰ」の教科書の文法練習問題は,イラストが多くを占めている ことがわかる。また,PD と DD を合わせると50%,PU と DU を合わせると50% となっており,decoration と use の比率が半々であることがわかる。つまり,「英 語表現Ⅰ」の文法練習問題は,写真やイラストを参照しなくても解答できる問題が 半数を占めていることになる。ただし,文法練習問題に写真やイラストを使用して いる頻度が高い教科書もあれば,be Standard のように極端に低い教科書もあり, 結果の取扱いには慎重を要する。  ここで特に DD の頻度が高い Big Dipper の教科書の練習問題について取り上げ てみたい。Lesson 10の Exercises 2(p. 33)はイラストを参照して,語句を並べか える問題となっている。指示文は“Look at the pictures and put the words in the right order.”となっており,(1)~(4)のそれぞれにイラストが掲載されている。(1) は,Ben という男性が Meg という女性に花を手渡そうとしているイラストが描か れているが,問題を見ると(1)Ben (some, gave, Meg, flowers).と書かれている ので,イラストを参照しなくても Ben gave Meg some flowers. と並べかえること ができる。もちろん Big Dipper にはイラストを参照しなければならない問題もあ るが,decoration のイメージが用いられた問題が多い。

 次に DU の頻度が高い Perspective の教科書の練習問題について取り上げたい。 Lesson 10の Practice B(p. 47)はイラストを参照して,文頭で示されている語句 に続けて英文を完成させる問題となっている。指示文は,「イラストを参考に文を

be Ad = be Advanced, be St = be Standard, Vision Q Core = Vison Questa Core

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完成しなさい」となっており,(1)~(4)のそれぞれにイラストが掲載されている。 (1)は,女性が手を組みながら家とお金の絵が吹き出しで描かれており,問題は(1) Mary decided        . と書かれているだけなので, 何をしたいかは英文を見ただけでは不明である。Perspective はこの手の問題が多 く,イラストを否が応でも参照しなければ解答できなくなっている。  「英語表現Ⅰ」は,「英語を通じて,積極的にコミュニケーションを図ろうとする 態度を育成するとともに,事実や意見などを多様な観点から考察し,論理の展開や 表現の方法を工夫しながら伝える能力を養う」(文部科学省,2010)ことが目標であっ た。Roohani and Sharifi(2015)のコミュニカティブ言語教授法に焦点を当てた2 種類の ELT の教科書では,decoration が7.84%,use が92.16%で,use の比率が圧 倒的に多かったことから,decoration の比率が半分を占める「英語表現Ⅰ」の教科 書は,積極的にコミュニケーションを図ろうとする点で use ではない文法練習問題 が多いと言えるだろう。 5.考 察  本研究では,研究課題を1つ設定した。それは,「『英語表現Ⅰ』の教科書に記載 されている文法練習問題において,写真やイラストは decoration と use の2つの 観点で比較した場合,どちらの比率の方が多く占めているか。」であった。調査対 象とした「英語表現Ⅰ」の20冊の教科書のうち,文法練習問題で写真やイラストを 参照して問題を解答させている教科書は10冊であった。そして decoration と use の観点で分析した結果,文法練習問題に写真やイラストを使用している頻度が高い 教科書もあれば,極端に低い教科書も見られた。全体で見ると decoration が50%, use が50%で,それぞれ半分の比率を占めていた。「英語表現Ⅰ」の教科書におけ る文法練習問題で参照することが必要な写真やイラストの半分が decoration であ ることがわかる。教科書の写真やイラストの50%以上が decoration であれば,出 版社にとって大いなる無駄な労力であり,学習者と教員にとって大いなる無駄な機 会である(Hill, 2013)。今後,文法練習問題に use の比率を高める工夫が教科書会 社に求められるだろう。  また分析の結果,写真とイラストにおける decoration と use については PD が 17%,PU が3%,DD が33%,DU が47%であった。PD と PU を合わせると20%, DD と DU を合わせると80%で,写真が2割,イラストが8割を占めていた。先行 研究の Hill (2013)では,decoration が53.4%(写真が40.8%,イラストが12.6%), use が46.6%(写真が33.4%,イラストが13.2%)で,写真の占める比率は74.2%, イラストは25.8%で, 写真の方がイラストよりも約3倍の比率で多かった。Roohani and Sharifi(2015)では,decoration が7.84%(写真が5.15%,イラストが2.69%), use が92.16%(写真が48.53%,イラストが43.63%)で,写真の比率は53.68%,イ ラストの比率は46.32%で,写真の占める比率がイラストより少し多かった。Hill (2013)や Roohani and Sharifi(2015)における写真の比率と比べると今回調査し

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串(2011)が述べているように図版やイラストの多寡は,教科書の作成費用に関わ ることから,コストの面で写真よりもイラストが多用される理由なのかもしれな い。写真とイラストの比率,またそれぞれにおける decoration と use の比率により, 教科書の採択と関係しているかどうか調査するという視点も今後あってもよいので はないだろうか。 6.おわりに  本研究は,平成28年度検定を経て,平成29年度から使用されている高等学校「英 語表現Ⅰ」の教科書で扱われている文法練習問題について,写真やイラストを decoration と use の2つの観点で分析を行ったが,文法練習問題の中で使われてい るごく一部の語彙と関係する写真やイラストを問題のすぐそばに配置しているだけ の教科書も実際には存在する。教科書に写真やイラストを用いることで,学習者に 文法練習問題を解きたいという意欲をかき立てる意図が,教科書作成者や編集者に あるのかもしれない (甲斐, 2020)。これは Romney (2017) が指摘する decorative images,すなわち学習には直接貢献しないが,学習者の関心を引きつけ,学習に 参加させる動機づけとなる images にあたるとも言える。学習者が今日,際限なく 視覚イメージに取り囲まれた社会で暮らす中で,教科書の中に写真やイラストがあ るのが「心地よい」と感じたり「通常である」と感じているのはほぼ事実である(Hill, 2013)。  文部科学省(2009)は,「高等学校教科用図書検定基準」の第2章1(4)で高等 学校教科用図書について学習指導要領の関係から次のように述べている。   本文,問題,説明文,注,資料,作品,挿絵,写真,図など教科用図書の内容(以 下「図書の内容」という。)には,学習指導要領に示す目標,学習指導要領に示 す内容及び学習指導要領に示す内容の取扱いに照らして不必要なものは取り上げ ていないこと。 このような基準に則り教科書検定に合格した「英語表現Ⅰ」の教科書に decoration である写真やイラストが散見されるのは,Romney(2017)が指摘するように学習 者の関心を引きつけ,学習者に参加させる動機づけとなるという視点も関わってい るのだろう。英語の習熟度が低い学習者にとって,decoration の写真やイラストが, 学習の助けになっていたり,練習問題の解決の手がかりになっている可能性も否定 できない。今回は分析の対象に含めなかったが,教科書の難易度に応じて, decoration と use の比率を明らかにすることで,decoration の役割がより明確化す るものと思われる。高等学校では新しい学習指導要領が告示され,2022年度から新 しい科目が実施されるとともに新しい教科書が使用されることになる。今後教科書 の難易度にも着目し,研究が進められることを期待したい。

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1)正式な教科書名は,引用文献の後の「調査対象とした高等学校『英語表現Ⅰ』 教科書」に掲載した。

引用文献

Hill, D. A. (2013). The visual elements in EFL coursebooks. In B. Tomlinson (Ed.), Developing materials for language teaching (2nd ed.). pp. 157-166. London: Bloomsbury. 甲斐順.(2020).「英語表現Ⅰ」教科書の文法練習問題における写真やイラストにつ いて.英語教育,68(12),68-69. 金谷憲.(2012).[大修館]英語授業ハンドブック〈高校編〉DVD 付.東京:大修 館書店. 文部科学省.(2009).高等学校教科用図書検定基準(平成21年9月9日文部科学省告 示第166号).   Retrieved from   https://warp.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/11293659/www.mext.go.jp/b_menu/ hakusho/nc/1284728.htm 文部科学省.(2010).高等学校学習指導要領解説 外国語編・英語編.東京:開隆堂 出版. 中井弘一.(2016).高等学校「英語表現」の授業に求めたい活動.大阪女学院大学 教職課程機関誌 OJC 教職活動報告・研究,4,156-165. 小串雅則.(2011).英語検定教科書:制度,教材,そして活用.東京:三省堂. Romney, C. (2017). Considerations for using images in teacher made materials.

The 2016 PanSIG Journal, 273-282.

Romney, C. (2019). The purposes of images in ELT textbooks reexamined. The 2018 PanSIG Journal, 203-209.

Roohani, A., & Sharifi, M. (2015). Evaluating visual elements in two EFL textbooks. Indonesian Journal of Applied Linguistics, 4(2), 68-77.

下山田芳子.(2018).高等学校学習指導要領改訂のポイント.英語教育,67(5), 16-17.

Ur, P. (2009). Grammar practice activities: a practical guide for teachers (2nd ed.). Cambridge: Cambridge University Press.

鵜澤文子.(2016).高等学校新学習指導要領における『英語表現Ⅰ』教科用図書: 伝える能力と文法指導.東京女子体育大学・東京女子体育短期大学紀要,51, 81-89.

調査対象とした高等学校「英語表現Ⅰ」教科書

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Attainable English Expression I. 東京:第一学習社. be English Expression I Advanced. 東京:いいずな書店. be English Expression I Standard. 東京:いいずな書店. Crown English Expression I New Edition. 東京:三省堂. Departure English Expression I Revised. 東京:大修館書店. DUALSCOPE English Expression I. 東京:数研出版. ECHO English Expression I. 東京:三友社出版.

MAINSTREAM English Expression I Second Edition. 大阪:増進堂. MY WAY English Expression I New Edition. 東京:三省堂.

NEW FAVORITE English Expression I. 東京:東京書籍.

NEW ONE WORLD Expression I Revised Edition. 東京:教育出版. Perspective English Expression I NEW EDITION. 東京:第一学習社. Revised BIG DIPPER. 東京:数研出版.

Revised POLESTAR English Expression I. 東京:数研出版. Revised Vision Quest English Expression I Advanced. 大阪:啓林館. Revised Vision Quest English Expression I Standard. 大阪:啓林館. SELECT English Expression I New Edition. 東京:三省堂. Vision Quest Expression I Core. 大阪:啓林館.

Vivid English Expression I NEW EDITION. 東京:第一学習社.

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