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常識を疑う(PDF:108KB)

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Academic year: 2021

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日本労働研究雑誌 1 常識を疑うことは,社会科学の常識である。だ が,日々暮らしていく中で,常に疑い続けること はなかなか難しい。歳をとると,疑う力が低下 し,それもこれも当たり前のように見えてきてし まう傾向があるようだ。戦略的に疑い深くなるよ うに努めているのだが,周りからは,単なる非常 識と見られているのかもしれない。 さて,非正規雇用をめぐる議論は盛んだが,ま だまだ疑い方が足りないように思えてならない。 最近,私がいだいた疑問は,派遣労働者の時間管 理についてである。派遣労働者も残業をしてい る。彼らに残業をさせるためには,労働基準法の 定めにより,過半数代表との間に三六協定を締結 しなければならない。派遣労働者の三六協定は, どのように結ばれているのだろうか。実務に詳し い専門家に質問してみた。すると,派遣元で結ん でいるということであった。確かに,派遣労働者 の雇用主は,派遣会社であるから,派遣会社が残 業時間の上限を定める協定を結ぶべきなのかもし れない。だが,いったい,誰が過半数代表になる のだろう。「ちゃんと選んでますよ」というのが 専門家の回答であった。大手派遣会社が全国の職 場に派遣している多数の労働者の代表をどうやっ て選ぶのだろう。「過半数代表候補者を選定して 全ての派遣労働者にメールで連絡します。それで 過半数の支持が得られれば,その人が代表になり ます」。確かに,それなら可能だろう。しかし, いったい,そのような過半数代表に意味があるの か。 そもそも,なぜ,法は,残業時間の上限を定め るときに過半数代表との協定を求めているのだろ うか。それは,適正に選ばれた過半数代表が当該 職場で働く労働者の意向を代弁して使用者と話し 合い,それに基づいて協定にサインするのである から,労働者の利益を損なうような長時間の協定 を結んだりしないだろうという期待を持っている からだろう。過半数代表は,代表すべき労働者の 意向を聴取したり,協定結果の報告をしたりする ことを求められてはいない。しかし,同じ職場の 労働者であれば,日頃,それなりのコミュニケー ションがあり,別段アンケート調査をしなくと も,仲間の労働者たちが労働時間についてどんな 希望をもっているかを推測するのにそれほどの困 難はないだろう。だが,大規模な登録型派遣を実 施している派遣会社の場合,派遣労働者たちは全 国の職場に散在し,相互のコミュニケーション は,限られたものとならざるをえない。そもそ も,派遣労働者たちは,たまたま同じ職場に派遣 された人を除き,同じ派遣会社で働く他の労働者 を一人も知らないことのほうが多いのではない か。だとすると,このようにして選ばれた過半数 代表に,派遣労働者の意向を代表して意味のある 協定を結ぶことができるのだろうか。 よく考えると,派遣労働者に残業をさせること そのものが制度の趣旨に合わないのではなかろう か。本来定められた労働時間を超えて,事業の都 合に合わせて柔軟に働くのは,いわゆる機能的柔 軟性の一部をなすもので,これは,ある事業体に 定着してそこで必要とされる仕事に応じて働く組 織的雇用とも呼ぶべき働き方の労働者には適して いるが,短期間だけその職場で働くことしか期待 されておらず,契約で定められた特定の業務しか 遂行しない数量的柔軟性型雇用に従事する派遣労 働者には,不適当な働き方であるように思える。 派遣労働者の残業は,一律禁止すべきではない か。もし,派遣労働者には残業を全くさせられな いのは,あまりに硬直的で労使双方にとって不便 というなら,三六協定方式のかわりに,法律で最 長残業時間をたとえば月間 10 時間に定め,派遣 労働者の個別同意によって残業をさせることがで きるというようにすることも考えられる。常識あ る法律家に,「また暴論を言っているね」と言わ れそうだが,ちょっと常識を疑ってみました。 (にった・みちお 国士舘大学経営学部教授)

提 言

常識を疑う

仁田 道夫

参照

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