Posted at the Institutional Resources for Unique Collection and Academic Archives at Tokyo Dental College,
Available from http://ir.tdc.ac.jp/
Title
「研究の命」をつなぐ : 継承と発展
Author(s)
吉成, 正雄
Journal
歯科学報, 110(5):
5i-URL
http://hdl.handle.net/10130/2111
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「研究の命」をつなぐ−継承と発展−
吉 成 正 雄
小惑星探査機「はやぶさ MUSESC」は,2003年5月9日,アポロ群の小惑星イトカワに向けて飛
び立ち,2010年6月13日,地球へ無事帰還した。その間,幾多のトラブルに見舞われ帰還を絶望視され
つつも,それを乗り越えて地球への帰還を目指すはやぶさの航海は,多くの日本人の共感を呼び,何の
変哲もない「カプセル」の一般公開に長蛇の列をなした。しかし,これは単に「根性もの」の美談とし
て日本人の琴線に触れたからだけではあるまい。正確な飛行を保証した自然科学の素晴らしさに感動し
たからに違いない。具体的には,古典的なニュートン力学(小惑星からの引力)と量子力学(太陽光によ
る力)の集大成の成果であり,人間は自由の範囲を1つ拡大したといっても過言ではない。
天体運行の詳細な観測データの蓄積はバビロニア時代から行われていたが,コペルニクスはまさに
「コペルニクス的転回」により地動説である太陽系モデルを導入した。ケプラーはこの地動説を基にし
て,惑星の軌道を正確に記述するケプラーの法則を生み出した。一方,ガリレオは自らが作った天体望
遠鏡を駆使して,天動説では説明することが難しい金星の満ち欠けや,天の川(Milky Way)が無数の
星々の集まりであるにすぎない銀河系 Galaxy ; gala(乳)+kuklos(円環)であることを発見した。ガリレ
オはまた地上の法則である落下法則も発見した。ケプラーの「天上の法則」とガリレイの「地上の法
則」を統合したのがニュートンであり,万有引力による天体運行の本質的認識がなされた。月ロケット
時代に適用したニュートンの古典力学とフォトンに質量が存在するとした量子力学を駆使して「はやぶ
さ」の宇宙飛行は成功したのである。この過程には,天体運行の詳細な観測データを蓄積した「現象
論」的段階から,地動説を導入した「実体論」的段階を経て,万有引力による天体運行の「本質論」的
段階に至る弁証法の軌跡があった。物質に関する「万有引力の法則」を定式化し,実体の相互作用であ
る力と質量の関係を,その運動において加速度としてつかみ,古典力学としての「ニュートン力学」が
完成した。これにより,天王星の運行から海王星の位置を正確に予知し,それを発見する事ができたの
である。このニュートン力学も「万有引力」に関しては現象論になり,後の量子力学へ発展する。
以上のように,科学は必然性を明らかにし,人間の自由の範囲を拡大してきた。「自由とは必然性の
洞察である」とヘーゲルは言ったが,この自由は「自由に英語が話せる」と言ったときの自由ではな
く,自然の法則性や必然性を洞察するという自由概念のことである。対象の中に深く入り込み,厳しい
研鑽,刻苦精励によって,その中から本当の在り方を捉えて初めて勝ち取られる自由である。人類は,
世界に内在している法則を様々に究め,我が物とし科学を発展させ,認識を豊かにし,歴史を切り拓い
てきたといえる。
東京歯科大学における「自由の獲得」に繋がる研究とはどの様なものであろうか?東京歯科大学は,
優れた先輩方の成果に加えて,多くの同窓を輩出することから,日本の歯科界に与える影響が大きく,
黙っていても企業は治験や評価に関する研究を依頼してきた。このことが,東歯独自のトランスレー
ショナル研究に方向性を失わせた。今こそ,先達の優れた研究成果によって獲得された口腔科学研究セ
ンター(口科研)型の研究に転換するときである。すなわち,講座独自の研究を止揚するとともに,「東
歯で求められている研究課題は何か」を徹底的に議論することにより研究課題を峻別し,そこから臨床
に還元できる TDC 型の研究成果を生み出すことである。このことにより,東歯独自のトランスレー
ショナル研究を行い,研究に携わる者も臨床に携わる者も一体感を味わうことができ,若者に研究への
意欲を喚起し,東京歯科大学で研究を継続することが可能となるであろう。まさに「研究の継承と発
展」である。学会発表における所属は「東京歯科大学」のみでありたい。
(東京歯科大学 口腔科学研究センター・歯科理工学講座 教授)
巻 頭 言 ⑤