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経済的自由権に関する判例と立法の展開

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(1)法 科 大 学 院 論 集 第 4号. 経済的自由権に関する判例と立法の展開. 本. 哲. 治. 松. はじめに. 筆者は,いわゆる目的二分論についてその基礎っ・けを含めた批判的な検討を 行ったことがある・ l。本稿は,そ の後・ 2 の判例の展開を確認するとともに,近 年進展した規制緩和の評価について若干の考察を行うものである。. 一職業選択の自由の規制 1 . 判例の展開 職業選択の自由の分野では,最高裁判例として,つぎの 3つをみておく必要 があるだろう o. ( 1 ) 積極目的規制 まず,平成 1 7年の 2つの最高裁判決が,目的二分論を打ち出したとされる判 決のうち, I 著しく不合理であることの明白である場合に限って」違憲であると. *1. 拙稿・経済的自由権を規制する立法の合憲性審査基準(ー)(二 ・完)民商 1 1 3巻 4=5号 7 3 6頁 ,. 6号 8 4 0頁 ( 9 9 6 )。. *2. おおむね,平成 7年以降ということになる 。 なお,本稿の論述の一部が,佐藤幸治 =土井真一. 編 ・ 判 例 講 義 憲 法 上 同 n(悠々社,近刊)に収録される拙稿と部分的に重複する場合があること をあらかじめお断りしておく 。.

(2) 経済的自由権に関する判例と立法の展開. いう積極目的規制についての緩やかな審査基準を適用した小売市場事件判決 (以下「小売市場判決J )・ 3 を先例として引用している。 その一つは,農業災害補償法に関する第三小法廷判決(以下「農業災害補償 法判決J )吋である o 事案は,農業共済組合(被上告人)の区域内で水稲耕作の 業務を営む者(上告人)が,農業共済組合に対し,農業共済組合が農業災害補 償法(本件では,平成 1 5年法律第 9 1号による改正前のもの) 8 7条の 2に基づき 滞納処分としてした差押えの無効確認又は取消しを求めたものである O 農業災 害補償法は,いわゆる当然加入制(水稲等の耕作の業務を営む者でその耕作面 積が一定の規模以上のものは農業共済組合の組合員となり当該組合との問で農 作物共済の共済関係が当然に成立するという仕組み。同法 1 5条 1項 , 1 6条 1項 ,. 1 9条 , 1 0 4条 1項)を採用するが,この仕組みについて,判決は, I 公共の福祉 に合致する目的のために必要かっ合理的な範囲にとどまる措置ということがで き,立法府の政策的,技術的な裁量の範囲を逸脱するもので著しく不合理であ ることが明白であるとは認め難 ~\J と判示した 。判決は ,ここで,小売市場判. 決を先例として引用している・ 50. *3 *4. 最大判昭和 4 7 年1 1月2 2日刑集 2 6巻 9号 5 8 6頁。 最三小判平成 1 7 年 4月2 6日判時 1 8 9 8号 5 4頁。本判決の評釈として,村山健太郎・法教 3 0 6号別. 冊附録(判例セレクト 2 0 0 5 )1 1頁 ( 2 0 0 6 ),小山剛・平成 1 7年度重判解 2 1頁 ( 2 0 0 6 ) がある。小山・. 2 2頁は,この問題を結社の自由に対する積極目的規制の問題として捉えるべきことを示唆する。 同時に,判決は,国民健康保険条例の合憲性を支持した最大判昭和 3 3年 2月1 2日民集 1 2巻 2号 1 9 0頁も引用している。この大法廷判決は, r 国民健康保険は,相扶共済の精神に則り,国民の疾病,. *5. 負傷,分娩文は死亡に関し保険給付をすることを目的とするものであって,その目的とするところ は,国民の健康を保持,増進しその生活を安定せしめ以て公共の福祉に資せんとするものであるこ と明白であるから,その保険給付を受ける被保険者は,なるべく保険事故を生ずべき者の全部とす べきことむしろ当然であり,また,相扶共済の保険の性質上保険事故により生ずる個人の経済的損 害を加入者相互において分担すべきものであることも論を待たな L、」として,国民健康保険の強制 加入制度が憲法 1 9条 , 2 9条 1項 , 9 8条に違反するとの主張を退けている 。 この大法廷判決の評釈で. 2頁 ( 2 0 0 0 )1 3頁は,この強制加入制度の根拠とされ ある安念潤司・社会保障判例百選[第 3版] 1 る逆選択がそもそも発生するのか,発生するとして強制加入制が必要かを疑問視し,結局租税との アナロジーが正当化根拠になっていると指摘する 。 なお,最三小判平成 1 8年 3月2 8日判時 1 9 3 0 号8 3頁は,農業共済組合が組合員に対して賦課徴収す る共済掛金及び賦課金について,旭川市国民健康保険料条例訴訟に関する最大判平成 1 8年 3月 1日. - 52-.

(3) 法 科 大 学 院 論 集 第 4号. もう一つは,健康保険法に基づく保険医療機関指定に関する第一小法廷判決 (以下「健康保険法判決J )・ 6 である。事案は,鹿児島県内で診療所を開設して いた. x(原告 ・上告人)が,さらに病院を開設し,県知事に対し,健康保険法. (本件では平成 1 0年法律第 1 0 9号による改正前のもの) 4 3条ノ 3第 l項に基づき, その病院につき保険医療機関の指定を求める申請をしたところ,県知事が,申 請を拒否する処分をしたので,その取消を求めたものである。本件では,そも そも,. xが,医療法(本件では平成 9年法律第 125号による改正前のもの) 7. 条 1項所定の病院開設許可を求める申請をしたことに関して,県知事が,医療 法3 0条の 7の規定に基つ き , i 当該病院の開設を計画している指宿保健医療圏 e. は病床過剰地域であって,特に同病院開設の必要を認めない」との理由を付し て,本件病院の開設を中止するよう勧告していたところ,. xが,県知事に対し,. 勧告に従わない旨通知したため,県知事は開設を許可したという経緯がある o そのため,県知事の拒否処分の理由は,そのような勧告にもかかわらず開設さ れた病院については,昭和 6 2年 9月2 1日付け保発第 6 9号厚生労働省保険局長通 知等の趣旨に照らして,健康保険法4 3条ノ 3第 2項所定の指定拒否要件である 「其ノ他保険医療機関若ハ保険薬局トシテ著シク不適当ト認ムルモノナルトキ」 に該当するというものであった。 判決は, i 医療の分野においては,供給が需要を生む傾向があり,人口当たり の病床数が増加すると 1人当たりの入院費も増大するという相関関係がある」 というのが, i 原審の適法に確定したところ」であるとした上で, i 良質かっ適. 民集 6 0巻 2号 5 8 7頁を引用し, I 賦課徴収の強制の度合いにおいては租税に類似する性質を有するも. 4条の趣旨が及ぶ」 としつつ, I 共済事故に より生ずる個人の経済的損 のであるから,これに憲法 8 害を組合員相Eにおいて分担することを目的とする農作物共済に係る共済掛金及び賦課金の具体的 な決定を農業共済組合の定款文は総会若 しくは総代会の議決にゆだねている 」ことは,. I 農業共済組. 合の自治にゆだね,その組合員による民主的な統制の下に置くものとしたものであって,その賦課 憲法8 4条の趣旨に反しな L、」と判示している 。 に関する規律として合理性を有するもの」として, I. *6. 最一小判平成 1 7年 9月 8日判時 1 9 2 0号 2 9頁。本判決の評釈として,山田洋・法令解説資料総覧 2 8 8号 8 0頁 ( 2 0 0 6 ),田村達久・法セミ 5 1巻 7号 1 1 6頁 ( 2 0 0 6 ) がある 。. - 53-.

(4) 経済的自由権に関する判例と立法の展開. 切な医療を効率的に提供するという観点から定められた医療計画に照らし過剰 な数となる病床を有する病院を保険医療機関に指定すると,不必要又は過剰な 医療費が発生し,医療保険の運営の効率化を阻害する事態を生じさせるおそれ があるということができる」とし,. I 良質かっ適切な医療を効率的に提供すると. いう観点からされた本件勧告に従わずに開設された本件病院についての保険医 療機関指定の申請につき,医療保険の運営の効率化という観点から『其ノ他保 険医療機関若ハ保険薬局トシテ著シク不適当ト認ムルモノナルトキ』に当たる. 3条ノ 3第 2項に違反するものとは認め としてされた本件処分は,健康保険法 4 られな L、」と判示した。そしてそのことを前提に,. I 医療法 3 0条の 7の規定に基. づき病院の開設を中止すべき旨の勧告・ 7 を受けたにもかかわらずこれに従わ. 3条ノ 3第 2項にいう『其ノ他保険 ずに開設された病院について,健康保険法4 医療機関若ハ保険薬局トシテ著シク不適当ト認ムルモノナルトキ』に当たると して同項により保険医療機関の指定を拒否することは,公共の福祉に適合する. *7. なお,本件は勧告にもかかわらず病院を開設した上で,保険医療機関の指定を求めて争った事. 案であるが,保険医療機関の指定なしに我が国で病院経営を行うことが事実上不可能であることに 。 この点に配慮し 鑑みると,ここまでのリスクを引き受ける当事者の登場は,通常は想定しがた L、. 7年 7月1 5日民集5 9巻 6号 1 6 6 1頁は,本件とは別の事案に関して,医療法上の勧 て,最二小判平成 1 告が抗告訴訟の対象になることを認め,事案を地裁に差し戻している 。 この判断が,当事者訴訟の 活用の方向を示す今般の行政事件訴訟法の改正の趣旨とどのような関係に立つのかについては,な お検討が必要とも思われるが,法改正前の,労災援護費支給決定に関する最一小判平成 1 5年 9月 4 日判時 1 8 4 1号8 9頁や食品衛生法違反通知に関する最一小判平成 1 6年 4月2 6日民集 5 8 巻 4号 9 8 9頁な ど以来,最高裁の処分性拡大傾向は一定の範囲で継続しているものである。 なお,病院開設勧告についてさらに同旨の判断を示した最三小判平成 1 7年 1 0月2 5日判時 1 9 2 0号 3 2 頁に付された藤田宙靖判事の補足意見は,このような判断が従来の理解とは異なるものであること を指摘しつつ,処分性を肯定する以上. I 取消訴訟の排他的管轄に伴う遮断効は(これを公定力の 名で呼ぶか否かはともかく)否定できな L、」とした上で. I この勧告につき処分性が認められるこ とになれば,今後は,通常の場合,当事者において,まずはその取消訴訟を通じて問題の解決が図 られることになるものと予想される外,必要に応じ,行政事件訴訟法4 6 条に定める行政庁の教示義. 4条 1項及び 2項における各ただし書を 務,出訴期間等徒過についての「正当な理由 J条項(同法 1 参照)等の活用がなされることにより,対処することが可能である」と弁明しており,注目される 。 他方で,この種の「公定力・不可争力」を伴うと理解すべきでないという立場(人見剛「行政事件 訴訟法の改正と行政救済法の課題」法時 7 9巻 9号 4頁 ( 2 0 0 7 )1 0 -1 1頁)もある 。. - 54-.

(5) 法 科 大 学 院 論 集 第 4号. 目的のために行われる必要かっ合理的な措置ということができるのであって, これをもって職業の自由に対する不当な制約であるということはできない」と 判示した。判決は,以上のことは小売市場判決の趣旨に徴して明らかで・ あると している o. ( 2 ) 消極目的規制 これらに対して, 目的二分論のもう一端を担う薬局距離制限違憲判決(以下 「薬事法判決 J )・ 8 を引用する判決として,司法書士法に関する第三小法廷判決. )・ 9 がある o 事案は,行政書士である Xが,司法書士 (以下「司法書士法判決J 会に入会している司法書士ではなく,かつ,法定の除外事由がないのに,業と して,嘱託を受け,. 1 7件の登記申請手続を行ったとして司法書士法 1 9条 1項違. 反の罪に問われたものである O 判決は,. r 登記制度が国民の権利義務等社会生. 活上の利益に重大な影響を及ぼすものであることなと、 にかんがみ,法律に別段 の定めがある場合を除き,司法書士及び公共嘱託登記司法書士協会以外の者が, 他人の嘱託を受けて,登記に関する手続について代理する業務及び登記申請書 類を作成する業務を行うことを禁止し,これに違反した者を処罰することにし たものであって,右規制が公共の福祉に合致した合理的なもので憲法 2 2条 1項 1 0と , に違反するものでないことは,当裁判所の判例…の趣旨に徴し明らか」・. ごく簡単に判示した。. *8 *9. 最大判昭和 5 0 年 4月3 0日民集 2 9 巻 4号 5 7 2頁 。 最三小判平成 1 2年 2月 8日刑集 5 4巻 2号 1頁。本判決の評釈として,井上亜紀・平成 1 2年 度 重. 要判例解説〔ジュリ臨増 1 2 0 2 )1 6頁 ( 2 0 01),小泉良幸・判セレ ' 0 0 (法教 2 46 別冊) 1 0頁 ( 20 01 ) ,. 5 巻 9号 1 0 5頁 ( 2 0 0 0 ),村木保久・判評 5 0 6号 2 1 3頁 ( 2 0 01),藤井俊夫・法教 2 4 2 倉田原志・法セミ 4 号1 5 2頁 ( 2 0 0 0 )。調査官解説の引用は,以下,福崎伸一郎・最判解刑平成 1 2年 度 l頁による。. *10. ここで薬事法判決とともに引用されているのは,歯科医師でない歯科技工士による印象採得,. 唆合採得,試適,蔽入を禁止した歯科医師法 1 7条,歯科技工法 2 0条について,国民の保健衛生を保 護するという公共の福祉のための当然の制限であり,職業の自由を保障する憲法 2 2条に違反するも のと解するを得ないとした最大判昭和 3 4年 7月 8日刑集 1 3巻 7号 1 1 3 2頁である 。. -5 5一.

(6) 経済的自由権に関する判例と立法の展開. 2 . コメン卜 以上によれば,職業選択の自由の規制が問題になる領域では,判例上,目的 二分論は維持されているといってよいかと思われる U 。ただし,いくつかの点 に留意が必要であろう。. ( 1 ) 積極目的規制. まず,平成 1 7年の 2判決は,両者とも明らかに積極目的規制が問題になった 事案と思われ・ 1 2,かつ,明示的に小売市場判決を引用しているが,それぞれの 事案そのものについては,判決文の上では,規制手段が「必要かっ合理的」で あるとの判断を示しており,. r T著しく不合理であることの明白』な場合でない. から違憲とはいわな Lリという論理をとっていな L、。このことは,読みように よっては,小売市場判決最判の法理からの離脱を暗示するものといえないこと もないが,判決文中に小売市場判決の書誌事項を掲げる両判決の同判決への依 * 1 1 ただし,後述( 2 )以下での検討とも関連するが,目的二分論がそもそも職業選択の自由全般につ 4 4頁。 この点を最近指摘する いて妥当しているのかという問題はある 。拙稿・前出注 ( 1 ) (ー) 7 1 2号 5 4頁 ( 2 0 0 6 )6 2頁。その点を別にすれば,酒税や公衆浴場の事 ものとして,野坂泰司・法教 3 件との関連で,目的二分論の判例法上どの程度強固に確立しているかという点に多少の疑念の余地 ( 拙稿・前出注 ( 1 ) (ー) 7 4 5 6頁参照)は あっても,職業選択の自由の領域で, 二分論が放棄され ているとまではいえないだろう 。 目的二分論との関係では中間的ともいうべき基準が示されている 酒税に関する分野の判例のその後の展開については規制緩和との関係で後述3 .の(1)で確認する 。. *12. 両判決は,いずれも, 立法の目的が積極目的であることを明言 していないが. I 著 しく不合理で. あることが明白」 というフレーズに言及する農業災害補償判決が,積極目的との認定を前提にして いることは明らかであろう 。 この点,小売市場最判の「趣旨に徴し明らかである」と述べるのみで, 「 必要かっ合理的」とのフレーズしか引用しない健康保険法判決に関しては,そもそも小売市場判決 の判決文自体が,消極目的の場合でも積極目的の場合でも規制が必要かっ合理的であることを要求 するもので,ただ,積極目的の場合には. I 著 しく不合理であることが明白」でな L、かぎり違憲と 言 わないというものであったのだから, 実は積極目的を認定 しているものではなく,小売市場判決 以来一般論としては常に要求されているはずの「必要かっ合理的」の基準に基づいて判断したに過 ぎないのだという理解がありえない訳ではな L、 。 しかし. I 良質かっ適切な医療を効率的に提供す る体制を確保」 あるいは 「医療保険の運営の効率化,給付の内容及び費用の負担の適正化並びに 国 民が受ける医療の質の向上」 というのが積極目的ではないという理解ではあるまい。 また,すぐに みるように. I 必要かつ合理的」かということを正面から問うのであれば,判決の結論には疑問が ある 。.

(7) 法 科 大 学 院 論 集 第 4号. 拠は明示的であり,そこまでは深読みしすぎではないかと思われる。結局,著 しく不合理であることが明白でない限り,必要かっ合理的でないとは判断しな いということであろうが,本来その点は判決文自体にその都度示されるべきこ とのように思われる o というのは,この点に関して付言しておきたいのだが,両事案とも,筆者に. r r 著しく不合理であることの明白』な場合でな L、から違憲とはいわない」 ということであるのならばともかく, r 必要かっ合理的だから合憲だ」とは到底. は ,. 思われないからである o 農業災害補償法判決は,. r 法が制定された昭和 2 2年当時,食糧事情が著しく. ひっ迫していた一方で,農地改革に伴い多数の自作農が創設され,農業経営の 安定が要請されていたところ,当然加入制は, もとより職業の遂行それ自体を 禁止するものではなく,職業活動に付随して,その規模等に応じて一定の負担 を課するという態様の規制であること,組合員が支払うべき共済掛金について は,国庫がその一部を負担し,災害が発生した場合に支払われる共済金との均 衡を欠くことのないように設計されていること,甚大な災害が生じた場合でも 政府による再保険等により共済金の支払が確保されていることに照らすと,主 食である米の生産者についての当然加入制は,米の安定供給と米作農家の経営 の保護という重要な公共の利益に資するものであって,その必要性と合理性を 有していたということができる」という o この評価自体,争いの余地があるよ うには思うが,その点は譲ったとしても,その後の社会状況の変化はあまりに も大き L、。判決も認めているように,米の供給が過剰となったことから生産調 整が行われ,また,政府が米穀管理基本計画に基づいて生産者から米を買い上 げることを定めていた食糧管理法は平成 7年に廃止されるに到っているのであ る。にもかかわらず判決は,. r 上告人が本件差押えに係る共済掛金等の支払義. 務を負った当時においても,米は依然として我が国の主食としての役割を果た し,重要な農作物としての地位を占めており,その生産過程は自然条件に左右. - 57-.

(8) 経済的自由権に関する判例と立法の展開. されやすく,時には冷害等により広範囲にわたって甚大な被害が生じ,国民へ の供給不足を来すことがあり得ることには変わりがないこと,また,食糧管理 法に代わり制定された主要食糧の需給及び価格の安定に関する法律(平成 1 5年 法律第 1 0 3号による改正前のもの)は,主要食糧の需給及び価格の安定を図るこ とを目的として,米穀の生産者から消費者までの計画的な流通を確保するため の措置等を講ずることを定めており,災害補償につき個々の生産者の自助にゆ だねるべき状態に至っていたということはできないことを勘案すれば,米の生 産者についての当然加入制はその必要性と合理性を失うに至っていたとまでは いえない」という o 当然加入制は,たしかに「著しく不合理であることが明白」とまではいえな いかもしれな L、。しかし, もし,今なお必要かっ合理的だというのだとすれば, それは,強弁が過ぎるのではあるまいか・ 1 3 。本件当時であれば,職業として農 業を選んだ者が,その遂行過程で直面するリスクを,どのように保険で回避し ようとするか(しないか)は,その本人の判断に委ねられるべきものであった のではなかろうか・ 140 健康保険法判決についても同様である O 判決は, I 供給が需要を生む」ことを 「原審が適法に確定した」として,本件での保険医療機関指定拒否を「必要か っ合理的な措置」と L寸。そもそも「供給が需要を生む」ことが適法に確定で きるのかにも疑問があるが,その点はここでは立ち入らない。あるいは, I 供給 が需要を生む」という前提で立法者がある場合に指定拒否を認める制度構築を. *13 -!!必要性・合理性が肯定された立法の,その後の社会状況の変化に伴う合憲から違憲への評 .参照。 価替えに消極的な判例の姿勢は, 一連の酒税法関係判決にもみられるところである 。後述 3. *14 平成 15年法律 91号によって,引受方式及び支払開始損害割合等の選択の拡大等,農業経営にお ける経営マインドの醸成等の観点からの改正が行われているが,当然加入制についての変更はない。. 6 8 号1 7頁 ( 2 0 0 4 ) 参照。 森本哲也他「農業災害補償法の一部を改正する法律」法令解説資料総覧 2 なお,農業共済組合に関しては,ある組合の理事長に留まったまま農林水産大臣の職に就いたも のの,当該農業共済組合の補助金受給をめぐる不祥事からごく短期間で大臣を辞任する例があった ことは周知の通りである 。. n o.

(9) 法 科 大 学 院 論 集 第 4号. したことが「著しく不合理であることが明白」とまではいえない,というので あればまったく理解不可能な話ではないかもしれな L、。しかし, I 人口当たり の病床数が増加すると 1人当たりの入院費も増大するという相関関係がある」 ことからなぜ,本件のような指定拒否が「必要かっ合理的」といえるのか。需 用がないようにみえていたのは,供給がないから消費者が諦めていただけなの かもしれな L、。筆者も実証的な分析を行っているわけではな L、から,以上につ いて確定的なことを述べる立場にはな L、。しかし,そうではないということを, 「著しく不合理であることが明白」かというレベルではなく, 1-必要かっ合理 的」かというレベルで主張するのであれば,判決にはこの点の説明の論理が欠 落している O この他,健康保険法判決については,医療法 3 0条の 7が認めている勧告は, 「病院の開設若しくは病院の病床数の増加若しくは病床の種別の変更又は診療 所の病床の設置若しくは診療所の病床数の増加に関して勧告」 という文言 ( 平 成1 8年法律 8 4号による改正後は同じ文言が同法3 0条の 1 1にある)に照らせば, 開設中止勧告はありえないはずだ(法の予定しているのは病院を開設させる, あるいは病床数を増やせという方向の勧告のはずである)という判決前から あった指摘・ 1 5 に全く答えていないという問題もある。 また,現在(平成 1 9年法律第 3 0号による改正後)は,健康保険法6 5条 4項 2 号 に,保険医療機関の指定を拒否できる場合として, I 当該申請に係る病床の種 別に応じ,医療法第 7条の 2第 1項に規定する地域における保険医療機関の病 床数が,その指定により同法第 3 0条の 4第 1項に規定する医療計画において定 める基準病床数を勘案して厚生労働大臣が定めるところにより算定した数を超 えることになると認める場合(その数を既に超えている場合を含む。)であっ て,当該病院又は診療所の開設者又は管理者が同法第 3 0条の 1 1の規定による都. *15 阿部泰隆「地域医療計画に 基づく 医療機関の新規参入規制の違憲 ・違法性と救済方法 自治研究 7 6 巻 2号 3頁 ( 2 0 0 0)1 2頁 。. -5 9-. ( 上) J.

(10) 経済的自由権に関する判例と立法の展開. 道府県知事の勧告を受け,これに従わないとき」という明文が加えられている が,本件当時は,この規定はなかった。本件で根拠になった同法4 3条の 3第 2 項は,現在は同法 6 5条 3項 5号にそのまま引き継がれており,さらに同法 6 5条. 4項 2号の後ろには, 3号として一般条項 ( 1その他適正な医療の効率的な提供 を図る観点から,当該病院文は診療所の病床の利用に関し,保険医療機関とし て著しく不適当なところがあると認められるとき J ) が置かれている O これら のことは,本件での勧告と指定拒否の組み合わせが,かなり変則的なもので あったことを示しており,通達によって実施されていた本件当時の扱いは,法 制局の審査を迂回しようとした「法治行政纂奪手法」であるとの批判を受けて いるところである $160 なお,病院開設申請の実務上の取り扱いには極めて問題のある事例がみうけ られることも,状況を全体的に理解しておくためには,ここであわせて指摘し ておく必要があろう。鹿児島地判平成 9年 1 2月 5日判例地方自治 1 7 6号 8 2頁 (確定)は,病院開設の許可申請書に対して応答しなかったことが違法な不作為 であると確認しているし,名古屋高裁金沢支判平成 1 5年 1 1月1 9日判タ 1 1 6 7号. 1 5 3頁(確定)は,前出の最二小判平成 1 7年 7月1 5日民集 5 9巻 6号 1 6 6 1頁の事 案について,申請が計 6回に及び,受理されるまで 1年以上かかったとして提 起された損害賠償請求訴訟で 3 0 0万円の損害賠償を命じている O さらに,同事 案の取消訴訟についての差戻後の富山地判平成 1 9年 8月2 9日判例集未登載は, 「審査に不公正な取り扱いがあった」として,勧告を取り消している O ちなみに,介護保険制度においても,介護保険法等の一部を改正する法律 (平成 1 7年法律 7 7号)によって,医療計画と保険医療機関指定との連携と「実 質的に同じ手法」・ 1 7が,市町村介護保険事業計画と地域密着型サービス事業者. 本. 1 6 阿部泰隆・ 「 地域医療計画に基づく医療機関の新規参入規制の違憲・違法性と救済方法 ( 下) J 自治研究1 6巻 3号 3頁 ( 2 0 0 0)1 4頁。. *11 岩村正彦 「 総論 一改革の概観」 ジュリ 1 3 2 1号 8頁 ( 2 0 0 1)2 2頁注 (9) 。. - 60-.

(11) 法 科 大 学 院 論 集 第 4号. の指定を連携(介護保険法 7 8条の 2第 5項 4号)させることによって導入され た。地域密着型サービスは,新たに創設された概念で,夜間対応型訪問介護, 認知症対応型通所介護,小規模多機能型居宅介護,認知症対応型共同生活介護, 地域密着型特定施設入居者生活介護及び地域密着型介護老人福祉施設入所者生 活介護のことである(介護保険法 2条 1 4項)。この改正は,在宅サービスへの参 入規制をゆるめた結果質のよくない事業者が参入していることや,認知症高齢 者グループ・ホームの数が急速に増加し,設置先の市町村の介護保険財政(及 び国民健康保険財政)を圧迫することになっていることへの対処のようであ る・ 1 8 0. ( 2 ) 消極目的規制. 以上,積極目的が問題になった事案の細部に立ち入り過ぎたかもしれないが, 次に留意されるべき点は,薬事法判決を引用する司法書士法判決が,極めて簡 単な検討で合憲の結論を導出している点である。「保健衛生」というからには 明らかに消極目的を認定しており,また,薬事法判決を引用していることから, 従来の枠組みを変更するものではないで、 あろうこの判決が,問題の検討を,. r 公. 共の福祉に合致した合理的なもの」の一言で済ませられると考えている理由は, 許可制が問題となった薬事法判決と異なり,本判決で問題になったのが,資格 制度であったことによるようである・190 たしかに,あまり注目されていないが切,薬事法判決は,厳しいと言われる その審査基準を,. r 単なる職業活動の内容及び態様に対する規制を超えて,狭義. における職業の選択の自由そのものに制約を課するもので,職業の自由に対す. *18. 岩村・前出注(17 )1 1 1 2頁参照。稲森公嘉「介護保険制度見直しの方向」ジュリ 1 2 8 2号 8 3頁. ( 2 0 0 5 )8 9頁は,改正の方向性を,保険者自治の観点から肯定的に評価する 。 *19 判決文からこの点は明らかではないが,調査官解説は本文のように明言する 。福崎・前出注 ( 9 ) 8頁。 本. 2 0 前出注(10参照。. - 61-.

(12) 経済的自由権に関する判例と立法の展開 る強力な制限である」許可制に限定して提示したものであり,司法書士法判決 は,このことを前提に,消極目的で許可制でない場合について,職業選択の自 由の規制の分野のおける審査基準論のさらなる展開を図ったものと評価するこ ともできょう・210 ただ,. しかし,それにしては,判決文の説明が簡潔に過ぎる O 多少説明を試. みている調査官解説にしても, I 専ら資格制度によるのであるから…右〔薬事法 判決〕の場合よりはゆるやかであることが許される」と述べるのみである・22。た しかに許可制による距離制限が問題になった薬事法判決と,資格制度が問題に なった司法書士判決の事案を比べれば,当事者の能力を問題にしない前者の方 が職業選択の自由の観点からみて問題が大きいことは一応推察できる O しかし, もともと,判例は,当事者の能力が問題になるかならないかで審査基準を変え るようなことは必ずしもしていない切。それに,薬事法判決が,許可制を厳し く扱ったのは, I 単なる職業活動の内容及び態様に対する規制を超えて,狭義に おける職業の選択の自由そのものに制約を課するもので,職業の自由に対する 強力な制限である」からであったところ,この点において,許可制と資格制度 で違いがあるのだろうか。 このように考えてくると,少なくとも判決文は説明不足であるし,消極目的 での資格制度についても,薬事法判決で述べられていたように, I よりゆるやか な制限である職業活動の内容及び態様に対する規制によっては右の目的を十分 に達成することができないと認められることを要するもの,というべきで J , 「この要件は, (資格制度〕そのものについてのみならず,その内容についても 要求されるのであって, (資格制度〕の採用自体が是認される場合で、あっても,. *21. なお,薬事法判決は,酒税法関係の事件でも引用されているが,そこでは適用される審査基準. .参照。薬事法判決がその審査基準まで含めて規範性を発探しているのは, は異なっている 。後 述3 本稿で扱っている期間で言 えば,経済活動の自由の場合ではなく,むしろ,泉佐野市民会館事件・. 9巻 3号 6 8 7頁の場合であろう 。 最三小判平成 7年 3月 7日民集 4. *22 *23. 前出注(19 ) に閉じ。 後出注 ( 2 8 ) 参照。 ハ hv.

(13) 法 科 大 学 院 論 集 第 4号. 個々の 〔 資格付与〕条件については,更に個別的に右の要件に照らしてその適 否を判断しなければならな Lリというべきだったように思われる・240 もしそうだとすると,報酬を得る目的の有無にも,登記の種類にもかかわり なく課せられている一律の禁止について,より立ち入った検討が必要になった はずである・250. 3 . 立法による規制緩和の展開 近年の,一連の規制緩和(改革)政策の進展により,従来合憲性が問題にな り,判例では合憲だとされてきた規制の中に,緩和・廃止されるものがでてき た。次に,そのうち酒類およびタクシーの問題をとりあげて,その評価につい て,若干の検討を行う。. ( 1 ) 酒類に関する規制緩和. まず規制とその緩和の展開の一例として,酒類についての状況を示そう O 酒類については,製造・販売について,厳しい規制があるが,それらの合憲. *24 *25. 同旨,小泉・前出注 ( 9 )。 実際,福崎 ・前出 注 ( 9 )1 1 1 3頁はこの点を検討し,前者については一律の排除にも 一応の理. 由があることから,制度としてどちらが合理的かという相当性の問題に帰着するとして立法府の裁 の問題だとし,後者についても,いずれか一方が絶対的に正しいといえるようなものではないと して,やはり裁量の問題としている。ということは,基準が緩められていなければ,違憲判断も十 分にあり得たのである。 なお,資格制度については,判例は,本文で見たように(上に見た調査官の検討にみるように), 許可制とは異なる審査基準を打ち出した訳であるが,本来,薬事法判決と区別する必要がないとす る見解が正当であるとすれば,司法書士以外の資格についても検証が必要なはずである 。 (従来の) 司法試験制度の下での合格者数のあり方に ついて,規制目的をどう考えるかという問題はありうる が(修習生が給費制だから積極目的ということもあるま L、),基本的には消極目的と考えざるを得な い(法曹資格を与えて仕事をさせても国民に害を及ぼさない程度の能力があるものについては,法 曹資格が付与されなければならな L、)とした場合,法科大学院・新司法試験制度が定着し,それで 問題がないということになれぼれ、かなる制度にも全く問題がないということはありえないが,人 数を増やした結果,それが原因となって利用者に今まで無かったような害悪が及ぶということにな らなければ),これまでの制度は,違憲であったということにもなろう 。 また,新司法試験下での人 数問題についても同様の視点が重要である 。. - 63-.

(14) 経済的自由権に関する判例と立法の展開. 性が問題になった事案では,以下のように,すべて合憲との判断が下されてい るo. まず,酒税法は,酒類を製造しようとする者は,製造しようとする酒類の種 類別に,製造場ごとに,その製造場の所在地の所轄税務署長の免許を受けなけ ればならないと定め(7条 1項),無免許製造を未遂も含めて処罰するものと定 めている ( 5 4条 1項. 2項)。そして,製造免許を受けるためには,法定数量. (清酒については年間 6 0キロリットル)に達する製造見込数量が必要(7条 2 項)であったため,自家用ないし自己消費目的での酒類製造は不可能であった。 これについて,最一小判平成元年 1 2月1 4日刑集4 3巻 1 3号 8 4 1頁は, I 立法府の裁 量権を逸脱し,著しく不合理であることが明白であるとはいえず,憲法 3 1条 ,. 1 3条に違反するものでな L、」と判示した。ここでは 1 3条と 3 1条が問題になって いるが,これは本来それらの問題ではなく,経済的活動の問題であろう・260 次に,酒税法 1 0条 1 0号は,酒類小売業の免許について, I 経営の基礎が薄弱で あると認められる場合」には免許付与を拒否できると定めているが,最三小判. 2月1 5日民集4 6巻 9号 2 8 2 9頁は,これについて, I 租税の適正かっ確実 平成 4年 1 な賦課徴収を図るという国家の財政目的のための職業の許可制による規制につ いては,その必要性と合理性についての立法府の判断が,…政策的,技術的な 裁量の範囲を逸脱するもので,著しく不合理なものでない限り,これを憲法 2 2 条 1項の規定に違反するものということはできない」として,その合憲性を支 持した勺70 さらに,最ー小判平成 1 0年 7月1 6日判時 1 6 5 2号 5 2頁は,酒税法 1 0条. *26 土井真一 ・憲法判例百選 1 [第 5版]52頁. ( 2 0 0 7 )。. なお,判決はここで,サラリーマン税金訴訟判決・最大判昭和 6 0 年 3月2 7日民集3 9巻 2号 2 4 7頁 を先例として引用する 。 ただし,サラリーマン税金訴訟判決が「明らか」と述べていたところを, 本判決は「明白」と 言 い換えている 。 出田幸一 ・最判解刑平成元年度 3 6 0頁 , 3 7 5頁は,本判決は 「明白性の原則」を採用するものと述べている 。. *27. さらに,最三小判平成 1 0 年 3月2 4日刑集5 2巻 2号 4 9 2頁 弘 昭 和 5 7年から 5 8 年にかけて行われた. 0年 3月2 6日判時 1 6 3 9 号3 6頁 無免許販売の処罰を支持し,最一小判平成 1. ι 平成元年になされた,. 法1 0条 1 0 号該当を理由とする免許拒否処分を支持している。最三小判平成 1 4 年 6月 4日判例時報. 1 7 8 8 号1 6 0頁は,平成 2年から 5年にかけて行われた無許可販売の処罰について,酒税法を合憲とす. - 64-.

(15) 法 科 大 学 院 論 集 第 4号. 1 1号の需給要件条項をも合憲と判示した・28。この事案は,平成元年当時,酒類 販売業免許等取扱要領(国税庁長官の通達)は,販売地域を三段階に区分し, それぞれの基準人口をもとに新たに付与しうる免許の数を決定すると定めるほ か,特例的にそれ以上の数の免許を付与しうる場合についても定めていたが, 原告の免許申請に係る地区では基準人口から導かれる数を大幅に上回る数の免 許がすでに付与されていたため,税務署長が,法 1 0条 1 1号の定める「酒税の保 全上酒類の需給の均衡を維持する必要がある」場合に該当するとして拒否処分 を行ったというものであった。判決は,同号が「立法目的を達成するための手 段として,合理性を有するものということができる」と判示している・2 9 0 しかし,以上の規制については,部分的にではあるが,重要な緩和が進展し ている O まず,上記取扱要領の需給調整要件については,段階的緩和の後,距離基準 は平成 1 2年 9月 1日,人口基準は平成 1 5年 9月 1日をもって全廃された・3 0 。法. 1 0条 1 1号自体はそのまま維持されているのであるが,同号が適用されることは, 実際上ほとんどありえなくなったといってよ L、。ただし,. r 緊急調整地域J( 酒. る判断を維持している 。ただし,最二小判平成 1 0年 7月 3日判時 1 6 5 2号4 3頁のように,法 1 0条 1 0 号. 1号)該当性判断について厳しい姿勢を示したものもある(東京高判平成 6年 1 2月 8日判 (および 1 タ8 6 5号 7 0頁も.. 1 0号について同様。確定)。. *28 この判決については,拙稿・平成 10年度重要判例解説(ジュリ臨増 1157号) 16頁参照。 *29 以上みたように,酒税法に関する平成 4年判決は,サラリーマン税金訴訟判決と小売市場判決 著しく不合理でなければ違憲と 言わな L、 」 という中間的な(?)基準を打ち出 をかけあわせて. i したのであるが(この判決は「必要性と合理性についての立法府の判断が,右の政策的,技術的な. 2条 1項の規定に違反 裁量の範囲を逸脱するもので,著しく不合理なものでない限り,これを憲法 2. 1号に関する判決は. i 酒類販売 するものということはできない」という論理を明確にしている). 1 業免許制を存置させていたことが,立法府の政策的,技術的な裁量の範囲を逸脱するもので著しく 号は. i 立法目的を達成するための 不合理であるとまで断定することはできな Lリとしつつも .11 手段として,合理性を有するものということができる 」 と言い切っている 。細かな文言 にとらわれ. 1号が「著しく不合理であるとまで断定できな」いとしても. i 合理 過ぎかも知れないが,かりに 1 ) 本文での議論参照。 性を有する」ということは困難ではないか。前出注(12. *30. i 酒類販売業免許等取扱要領等の一部改正について」平成 1 0 年 3月3 1日付課酒 3- 3 (例規)課. 法 3-5。. - 65-.

(16) 経済的自由権に関する判例と立法の展開. 類小売業者の経営の改善等に関する緊急措置法(平成 1 5年 5月 1日法律第 3 4 号) 3条〕においては,平成 1 7年 8月3 1日(同法附則 4条)まで,酒類小売業 の免許の付与等が制限され(同法 4条) (~、わゆる「逆特区J) ,この制限は, さらに 1年延長された(酒類小売業者の経営の改善等に関する緊急措置法の一 部を改正する法律〔平成 1 7年 8月1 0日法律9 2号J)が,その後ようやく廃止と なった。また,構造改革特区の「濁酒」については,酒税法 7条 2項は適用さ. 4年法 1 8 9号J2 8条)こととなった。 れない(構造改革特別区域法〔平成 1 以上に示した酒類に関するものは,そのわずか一例であるが,このような規 制緩和の進展に対しては, I 規制緩和推進論者は…まるで規制緩和の推進こそ が日本国憲法の前提とする自由主義経済秩序を真に実現することだといわんば かりだ。この論者達が,規制緩和の憲法適合性に疑問を持つことはないだろ う」と懐疑的な論調引や,小売市場判決を引きつつ,最高裁の問題設定にたつ 限り「小泉改革は違憲である」とする立場・32 もある o 公法学全体のこれまで傾 向としては,これらが一般的かと思われる・33が,上にみた懐疑的な論調に対し, 自らの新古典派思考を擁護する論陣を張る必要性すら感じることなく,それと , は「異なる考え方が有力に存在しているという事実そのもの」に「睦目 J*34 し 規制改革を推進する立場もある情。 筆者は,日本国憲法が各種のいわゆる社会権を「権利」として保障している. *31. 中島徹「規制緩和は憲法学の主題たりうるか」法セ 5 1巻 7号 1 2頁 ( 2 0 0 6 ) (同・財産権の領分 ( 2 0 0 7,日本評論社) 1頁以下に「社会経済構造の改革は憲法学の主題たりうるか」と改題して所. 収)。. * 3 2 石川健治「ラオコオンとトロヤの木馬」論座 2 0 0 7年 6月号6 7頁" 6 8頁。石川教授は,同時に, 日本の議会政治は憲法 9条なしに軍事力を「域内」に取り込み,国民の 〈自由〉を確保できるだけ. 5頁。 の力量を備えるにいたのかどうかを疑問視する。同・ 7. *33. もちろん,棟居教授(例えば,同・憲法学再論 ( 2 0 01,信山社) 3 3 7頁以下(,規制緩和の憲法. 論J ) ) や阪本教授(例えば,同・法の支配ーオーストリア学派の自由論と国家論一 ( 2 0 0 6,勤草書 房))のような「例外的」立場も以前から存在する。. *34 安念潤司「国家vs市場」ジュリ 1334号82頁 (2007)82-83頁。 *35 安念教授は,福井秀夫教授とともに,内閣府に設置された規制改革・民間開放推進会議(平成 1 9年 1月終了。後継組織 は規制改革会議)の専門委員であった。. - 66-.

(17) 法 科 大 学 院 論 集 第 4号. ことを真剣に捉えるべきだと考えつつ・36 も,後者の立場に基本的な共感を寄せ るものであるが,そのことはともかくとして,次の諸点を指摘しておきたい。 まずーっは,少なくとも上にみた酒類に関する規制緩和の例に関しては,緩 和した結果具体的な問題が生じていることはなさそうだという点である o この 点は,実証的な判断を確定するにはやや時間が必要であろうが,もしそうだと いうことになれば,一旦緩和された規制を復活させることには強い疑念が生じ ることになる O 緩和以前には, i 著しく不合理とまでは L、えな L、」といえた規制 であっても,緩和後はその論理は通らないということになろう o 構造改革特区 の試みは,この実証的な確定をこそ目的とするものであるといえよう O もう一点,考えておく必要があるのは,限定的にせよ,このような規制緩和 が,司法部門が政治部門に敬譲を払っている聞に,政治部門によって実現した ことをどう評価するかという問題である。この点については,この間の展開を 重視し,司法部門はやはりこの分野では積極的な役割を引き受けるべきではな いとする立場もありえよう O 合衆国の人種別学の解消についてすら,究極的に は最高裁ではなくて政治部門によって実現されたのだとみるべきだとする立場 が存在するのであるから引,このような立場がある程度の説得力をもつことは 認めざるを得な L、。もっとも,政治部門のこのような姿勢が継続するのかどう かについては疑問があるし,また,一般的にはある程度政治部門に期待するこ とが適当であると論じうるとしても,酒類の製造・小売に関する上にみたよう なかなり奇矯な規制・38を撤廃するのに,これだけの時間がかかったということ. *3 6 棟居・前出注. ( 3 3 )3 4 8頁以下や藤井樹也・「権利」の発想転換(19 9 8,成文堂) 3 6 7頁以下参照。. 4 6 ー 8 4 8頁。 拙稿・前出注(1) (二) 8. *3 7M i c h a e lJ .K l a r m a n,T h eP u z z l i n gR e s i s t a n c et oP o l i t i c a lP r o c e s sT h e o r y,7 7 V a.L.R e v. 7 4 7,( 19 91 )7 8 S ー 8 1 4. 阪口正二郎・立憲主義と民主主義 ( 2 0 01,日本評論社) 1 90 2 0 6頁参照。. *3 8 佐藤幸治教授は, r 人格的自律にとって経済的自由は手段的性格を有することも否定しがたい」 J樋口陽一他編集代表・現代立憲主義の展開(上)( 19 9 3, (同「立憲主義といわゆる 『 二重の基準論J 有斐閣). 3頁 , 2 9頁)と明言し, r 機能論的(ないし権限分配論的)観点 J(同・ 3 1 -2頁)から目的. 二分論を肯定されるが,それでも,上述の酒税法に関する平成 4年最高裁判決については批判的で ある(同「職業選択の自由規制と司法審査一酒類販売業免許制度 に関する判決に寄せて一」芝池義. - 67-.

(18) 経済的自由権に関する判例と立法の展開. にも鑑みると,政治部門に全面的にまかせておいていいということにはならな いように思われる o この種の規制が継続すると,利権が発生し,その利権から 産み出された富が政治過程を歪める可能性切についても(もちろん本筋は政治 資金等についての厳格な規制を施すべきだということになるのであろうが), 注意を怠るべきでないと思う。. ( 2 ) タクシーに関する規制緩和 なお,規制緩和の結果,問題が発生しているとして,再規制が実際に論じら れている分野もある。包括的な検討の用意はないが,ここではタクシー免許の 問題を取り上げて,再規制をめぐる議論の問題性について垣間みておきた L 。 、 タクシーの免許制に関しては,目的二分論が論じられるようになる前の最高 裁判決で,合憲性が支持されている。最大判昭和 3 8年 1 2月 4日刑集 1 7巻 1 2号. 2 4 3 4頁は,自家用自動車を有償運送の用に供することを禁止した道路運送法 1 0 1条 1項(当時)について,道路運送法の目的を「道路運送事業の適正な運 営及び公正な競争を確保するとともに,道路運送に関する秩序を確立すること により道路運送の総合的な発達を図り,もって公共の福祉を増進すること」と 捉え,免許制の採用を, I わが国の交通及び道路運送の実情に照らしてみて,同 法の目的とするところに副うもの」とした上で,. I 自家用自動車の有償運送行為. は無免許営業に発展する危険性の多いものであるから,これを放任するときは 無免許営業に対する取締の実効を期し難く,免許制度は崩れ去るおそれがある。 それ故に同法 1 0 1条 1項が自家用自動車を有償運送の用に供することを禁止し ているのもまた公共の福祉の確保のために必要な制限と解される」と判示した。 一他編・租税行政と権利保護 0 995,ミネルヴァ 書房) 3 5 7, 頁 3 7 8頁)。. *39. なお, I 全国小売酒販組合中央会」の事務局長による年金資金流用事件に関連して,平成 1 3年. から 1 4 年にかけて,. I 全国小売酒販政治連盟J(中央会と事務局長は同一人物)で多額の使途不明金. 0 0 万円を着服した業務上横領の容疑で追起訴 が生じていること問題となっていたが,事務局長が 9 され,捜査は終結している(朝日新聞平成 1 8 年 3月2 5日朝刊)。. - 68-.

(19) 法 科 大 学 院 論 集 第 4号. そして,最三小判昭和 3 9年 1 2月 2 2日判時 3 9 7号 5 7頁は,道路運送法 4条 1項・ 1 2 8 条 1号がタクシー営業(一般常用旅客運送事業)を免許制にしているのは合憲 であることを,前記大法廷判決の「趣旨とするところである」として判示して いる。これらの判決によってその合憲性を支持されていたのは,需給調整条項 によって新規参入を抑制し,増車規制・運賃規制. r c同一地域・同一運賃」と. いう運用)を組み込んだ「護送船団方式」の免許制であった明。 このようなタクシー免許制について,平成 9年 3月の閣議決定. r c 規制緩和推. 進計画の再改訂J )で需給調整規制の廃止の方針が定められ,順次需給調整が緩 和され,最終的には道路運送法及びタクシー業務適正化臨時措置法の一部を改 正する法律(平成 1 2年法律8 6号)の施行(平成 1 4年 2月)によって,需給規制 は完全に撤廃された・410 その後,タクシーの事故が増加している,あるいは運転手の労働条件が悪化 しているなどとして,再規制を求める声が上がっている・420 しかし,タクシー の事故増加の原因を,規制緩和に求める議論には,事実的な基盤がないようで ある明。事故増加を理由に再規制を行うのであれば,消極目的規制の議論であ. * 4 0 安念潤司・ 憲法判例百選 1 [ 第 5版] 2 0 2頁 *41. ( 2 0 0 7) 。. 山越信浩「需給調整規制撤廃で疲弊しつつあるタクシ一事業を救えるか. タクシー業務適正化. 6 7号 6 6頁 ( 2 0 0 7 )6 8頁。ただし,道路運送法 特別措置法の 一部を改正する法律案 -J立法と調査2. 8条 l項は. 1 国土交通大臣は,特定の地域において一般乗用旅客自動車運送事業の供給輸送力…が 輸送需要量 に対し著しく過剰となっている場合であって,当該供給輸送力が更に増加することによ り,輸送の安全及び旅客の利便を確保することが困難となるおそれがあると認めるときは,当該特 定の地域を,期聞を定めて緊急調整地域として指定することができる」と定め,この指定が行われ た場合,新規参入・増車は不可能となる(同条 3項. 4項) 1 緊急調整地域」制度が残されている 。 沖縄本島ではこの指定が 2 0 0 2 年から 2 0 0 6 年まで行われている 。朝日新聞 2 0 0 7年 5月2 7日朝刊。. *42. タクシー業界の規制緩和による競争の激化で賃金が下がり,道路運送法の定めた安全な輸送と. 適正な競争ができなくなったとして,タクシー運転手 5人が近畿運輸局長が過去半年聞に出した新 規参入や運賃の引き下げなどの許認可取り消しと,国に l人 5 0万円の損害賠償を求めて提訴した例 まである 。朝日新聞平成 1 7 年1 0月1 7日夕刊(大阪版)。. *43. 交通政策審議会 ( 国土交通省)のタクシーサービスの将来ビジョン小委員会報告書 ( 1-総合. 性かっ移動産業への転換を目指して J) 等に資料が掲載されているが,事故件数の推移(同 1 0頁 図1 0 ) についてみても,所得の推移(同 1 2頁図 1 4 ) についてみても. 1 低賃金化は 9 7年から 0 0 年に. - 69-.

(20) 経済的自由権に関する判例と立法の展開 るから,薬事法判決を基準として考えれば,判例法理に照らしても違憲という ことになろう O もし,労働条件の悪化自体が問題だというのであれば,最適賃 金や労働時間規制を守らせればよいことであって,需給レベルでの規制を再導 入する理由にはならないはずである。ただし,こちらの場合は,かつてはとも かく・44,現在ではタクシー運転手は経済的弱者であるのかもしれず,その保護 を正面から掲げられると判例法理の上では合憲だということになろう O 経済的 自由権を真剣に捉えるのであれば,それ自体必要かっ合理的とは L、えない消極 目的規制を,積極目的規制を隠れ蓑にして実施できてしまうのは目的二分論の 問題点の一つである・45。道路運送事業については,たしかに深刻な事故・46 も起 こっているが,問題は需給についての再規制ではなく,法令違守の徹底等に よって解決されるべきである叩。 かけての 3年間に大きく進んでいて,. 1人あたりの年間所得が 6 7 万円も下がった。 これに対して, 0 2 年の規制緩和後の 3年間の所得の減少は, 2 3万円程度J ,r タクシーの人身事故について見ると, 7-00年の聞に,年間 2万件から 2万 6千件近くまで大きく増えている 。その後の事故件 不況期の 9 2年の規制緩和の後は, 1千件程度の増加にとどまっている」との指摘(小林慶 数は微増傾向で, 0 0 0 6 年 7月 3 1日朝刊)の通り,その原因は規制緩和 一郎「タクシーの規制緩和誤りか ?J朝日新聞 2 にではなく,不況にあるとみるのが穏当である 。. * 4 4 安念・前出注. ( 4 0 )2 0 3頁は,タクシー運転者の低賃金が格差社会の象徴のように言われるよ. うになったのは最近のことだと指摘する 。. * 4 5 拙稿・前出注(1) ( 二) 8 5 1 8 5 2頁。ただし,長谷部教授が判例について示されるような目的二 分論理解によれば,まさにこの場合こそ,合憲性が支持されるべきであることになる 。参照,長谷. 2 0 0 4,新世社) 2 4l t 2 5 3頁。 部恭男・憲法第 3版 (. * 4 6 平成 1 9 年 2月 1 8日に吹田市で発生したあずみの観光パス〔現・ダイヤモンドパス 〕の事故では, 5人が重軽傷を負った。 同社が,規制緩和後の新規参入零細業者であ 添乗員 1名が死亡し,乗客ら 2 り,事故の背景に過酷な労働環境があったことから,規制緩和による低価格競争が事故の原因であ るとの指摘がある 。例えば読売新聞平成 1 9 年 2月 2 2日夕刊〔大阪版〕。なお,大阪地判平成 1 9 年 9月. r. 6日判例集未登載は,運転手について , 連続勤務で疲労が極限状態にあることを認識しながら,安 易に運転を引き受けた過失は大き L、」とする一方,. r 会社が過重な乗務を強いた事情もある」として,. 懲役 2年 6月,執行猶予 4年を言 い渡している 。 同社の社長と専務,法人としての同社については. 道交法違反(過労運転下命)の罪で公判中である 。. *47 前出注. ( 4 3 ) の報告書をうけ,指定地域制度の見直し,タクシー運転者の登録制度の見直し,. 講習受講命令制度の創設等を内容とするタクシー業務適正化特別措置法の一部を改正する法律(平 成1 9 年法律8 7号)が成立した。なお,国土交通省は,運輸審議会の答申を受け,平成 2 0 年 1月 9日 から,仙台市を緊急調整地域に指定することを決定した。朝日新聞 2 0 0 8 年 1月 9日朝刊。 しかし,. - 70-.

(21) 法 科 大 学 院 論 集 第 4号. ニ財産権の規制 以上,職業選択の自由の領域で,目的二分論の判例上の展開,立法等の展開 をみてきた。次に,簡単にではあるが,財産権に関して,判例法理の展開につ いて,若干確認をしておきた L、。財産権の分野では,森林法判決唱が,一方で, 薬事法判決を引用して詳細に立法事実を検証した上での違憲判決でありながら, え 他方で「立法の規制目的が前示のような社会的理由ないし目的に出たとは L、 ないものとして公共の福祉に合致しないことが明らかであるか,又は規制目的 が公共の福祉に合致するものであっても規制手段が右目的を達成するための手 段として必要性若しくは合理性に欠けていることが明らかで・あって,そのため 立法府の判断が合理的裁量の範囲を超えるものとなる場合に限り,当該規制立 法が憲法 2 9条 2項に違背するものとして,その効力を否定することができるも のと解するのが相当である」と, I 明らか」という語の意味の取りようによっ ては緩やかなものと評価できる基準を提示し,その判例法理の理解を巡って 様々に議論があった。森林法判決の調査官解説が,多数意見について,森林法 の規制目的を「政策的制約の類型に当たるとしている」と理解し, I 違憲審査 基準として,. r 厳格な合理性の基準』に立っていないことはいうまでもない」. 供給過剰が元凶であるとした上で「輸送の安全及び旅客の利便」を理由に,このような規制が許さ れるのかについては,慎重な検討が必要であろう。なお,この他,国土交通省は, I 緊急調整地域 の指定に至る事態を未然に防止するための運用上の措置」として,. I 特別監視地域」を指定し, I 重. 点的な監査や行政処分の厳格化等」の措置を講じているが,なお「安易な増車などの供給拡大が運 転者の労働条件の悪化を招いている」として,同地域の指定を拡大するとともに,試行措置として 準特定特別監視地域」の指定を行い,増車の最低車両数を引き上げたり,場 「特定特別監視地域JI 合によっては,減車の勧告を行うとしている 。緊急調整地域から解除された沖縄本島については 「特別重点監視地域」に指定されている。「一般乗用旅客自動車運送事業(タクシー)に係る緊急調 整地域の指定等について J(平成 1 9年 1 1月2 0日,国土交通省報道発表資料)参照。「運用上の措置」 の濫用が,護送船団の復活になりはしな L、か注意を要する。. *48. 最大判昭和 6 2年 4月2 2日民集4 1巻 3号 4 0 8頁。. -71-.

(22) 経済的自由権に関する判例と立法の展開. とする(ただし,. r 目的がかなり抽象的であるところから,規制の必要性 ・合. 理性の点については厳格に立法事実の検証をするという審査方法」だとす る)*49のに対し,有力な学説が,. r 消極目的規制の要素が強いと判断した」切と. 理解するのであるから,判決の理解をめぐる見解の相違は著しい・510 森林法判決の多数意見の違憲審査基準と目的二分論との関係については,大 内裁判官の意見や香川裁判官の反対意見のように目的二分論の枠組みに乗って いる意見との対比や,一方で立法事実を検証し違憲の結論を導き出し薬事法判 決を引用しつつ,他方で. r r 著しく』不合理」との文言を用いず, r r 重要な』. 目的」にもより制限的でない手段にも言及しないという中間的な性格からして, 薬事法か小売市場かという形では理解することは困難で,その意味で,森林法 判決では目的二分論は採用されていないとみるべきだと考えるが切,この点に ついて,重要なのは,その後 2 9条について最高裁の大法廷判決. r c 証券取引法. 判決J )引があることである。 証券取引法判決は,森林法の一般的説示の部分から消極・積極の文言を省略 した上で,その他の点では森林法判決を踏襲する判示を行っている。目的二分 論は,森林法事件が特殊な事件であったから財産権について採用されなかった のではなく,財産権全般について採用されなかったと見るべきであろう・540 これに対しては,目的二分論を機能論的に理解する論理からは,職業選択の 自由と財産権でどれほどの違いがあるのか,判例が財産権について目的二分論 を採用しないと明言していないのに,そう断定するのは早すぎるのではな L、 か との疑問があるかもしれない。. * 4 9 柴田保幸・最判解民昭和 6 2 年 度1 9 8頁 ,. 2 4 8頁。. *50 芦部信喜(高矯和之補訂)・憲法第 4版 (2007,岩波書店) 221頁。 *51 他の見解については,拙稿・前出注(1) (ー) 744-745頁参照。 *52 向上。 *53 最大判平成 14年 2月 13日民集56巻 2号 331頁。 *54 証券取引法判決については,拙稿・判例セレクト ' 0 2 (法教 2 7 0号別冊) 9頁 百選 1 [ 第 5版] 2 1 4頁 ( 2 0 0 7 ) 参照。. - 72-. ( 2 0 0 3 ),同・判例.

(23) 法 科 大 学 院 論 集 第 4号. しかしながら,薬事法判決以降の学説の議論を踏まえ,あえて,証券取引法 判決が,上のような措辞の変更を行ったということは,単に簡単に言い換えた というようなものではなく, 2 9条の分野で機械的な二分論を採用しないという ことを明言した(あるいは判例の立場から言えば再確認したと言うべきか)意 味をもつのではないだろうか。 また,証券取引法以降の最高裁判決は 2 9条違反の主張を退ける場合,当然な がら,証券取引法判決を先例として引用し,消極・積極の目的を認定せずに合 憲との判断を下している・550. *55 ①農地を農地以外のものにするには原則として都道府県知事等の許可を受けなければならない とする農地法 4条 1項,農地以外のものにするため農地について権利を設定し移転するには原則と して都道府県知事等の許可を受けなければならないとする同法 5条 1項,およびこれらの違反を処 罰する同法 9 2条の合憲性を支持した最二小判平成 1 4 年 4月 5日民集 5 6 巻 2号 3 3 1頁,②平成 3年法. 6号による証券取引法の改正前に締結された損失保証等を内容とする契約に基づいてその履行 律第 9 2条の 2第 1項 3号 が請求される場合を含め,証券会社による利益提供行為を禁止する証券取引法4 の合憲性を支持した最二小判平成 1 5 年 4月1 8日民集5 7巻 4号3 6 6頁,③旧会社更生法(平成 1 4年法律. 5 4 号による改正前のもの) 7 8条 1項 l号に規定する「更生債権者文は更生担保権者を害するこ 第1 とを知ってした行為」に当たると主張して管財人が否認権を行使する場合は,同号に該当する行為 の目的物が複数で可分であったとしても目的物すべてに否認の効果が及ぶと解すべきであるとし,. 9条に違反するものではないとした最三小判平成 1 7年 1 1月 8日判時 そう解される同号につき憲法2 1 9 1 6 号3 0頁,④消費者契約法 2条 3項に規定する消費者契約を対象として損害賠償の予定等を定め る条項の効力を制限する同法 9条 1号につき,解除される消費者契約と同種の消費者契約の解除に 伴い事業者に生ずべき平均的な損害の額を超える部分を無効とするにとどまるものと解した上で,. 9 条に違反するものではないとした最三小判平成 1 8 年1 1月2 7日判時 1 9 5 8号6 1頁である。 憲法 2 なお, ①判決については,農地改革以来の自作農創設・維持を目的とする我が国の農業政策・農 地政策からいえば,当然に合憲の結論になるとは思われるし,農地改革の超憲法的正当性を否定す るつもりもないが(拙稿「正当な補償」西村裕三編・自由の法理(仮題・阪本昌成先生還暦記念論 文集(近刊,有信堂高文社)所収参照).農業・農地だけを自由市場と隔離する政策が永続可能と は思われず,この分野に関しでも,自由の観点からの再検討が必要なのではな L、かと思われる 。 な お. r 経済財政改革の基本方針 2 007-r 美しい国』へのシナリオ -J (平成 1 9 年 6月1 9日閣議決定) では,農地の「所有」から「利用」を促すため,農地リースの加速(定期借地権的制度,農地利用 料における市場の需給の反映,農地の一般企業への賃貸促進等を通じて,農業経営者への農地の集 積を促進する 。).法人経営の促進(経営の多角化や資本の充実等の観点から,農業生産法人の要件 を見直す。農地の権利の設定・移転をしやすい仕組みをオプションとして用意する 。)などの検討. 9 年秋までにとりまとめるものとされ(第 2章 成長力の強化 4 地 を行い,改革案と工程表を平成 1 域活性化。).農林水産省でとりまとめが進行しているようであるが(同省の第 4回農地政策に関す 平成 1 9 年 8月2 4日開催〕では,同省作成の「農業政策の る有識者会議・第 8回専門部会合同会議 〔. - 73-.

(24) 経済的自由権に関する判例と立法の展開. このことをどう評価するか。財産権の分野で目的二分論が採用されないこと は,総合的にみて望ましいと思われる o 小売市場判決の基準が持ち込まれると, すなわち,違憲審査基準に「著しく不合理」の「著しく」が入ると,最高裁の 判例上違憲の可能性はゼロと言っていい。この基準が財産権の分野に持ち込ま れ , 目的認定について緩やかな態度が許容されるのであれば, 日本国憲法の財 産権保障は崩壊する・560 たしかに,引き替えに,薬事法判決の基準が持ち込め なくなるのは残念であるが,それでも,正面から小売市場判決の援用を認める 5 7 0 よりは,財産権保障にとっては望ましいと思われる ・. 三条例についての違憲審査基準. 最後に本稿での検討に附随して,条例についての違憲審査基準について若干 の考察をしておきたい。これは,職業選択の自由にも,財産権にもかぎらず, 本来,違憲審査基準論一般の問題だが,さしあたり本稿では,経済的活動の自 由についてのみ考えることとする O 規制対象や規制目的に基づいて,立法につ いて言われている違憲審査基準論は,条例についてどこまであてはまるのであ ろうか。 この問題を潜在的に含んでいたのは,東京都の外形標準課税条例事件であっ た。事件は和解に終わった・ 5 8 し,下級審判決・ 5 9 もこの点について判断するも のではなかったが,かりに租税に関する法律に関する先例を適用できるとすれ 見直しについて」について議論がされている 。),政治的な見通しは必ずしも明らかではないようで ある 。. * 5 6 財産権保障は,損失補償について,相当補償説が全面的に導入されても崩壊する可能性がある 。 5 5 ) 参照。 この問題については拙稿・前出注 (. *57. ただし,そもそも森林法判決一証券取引法判決の違憲審査基準は,多くの衡量要素を掲げる総. 合判断的な性質をもつものであるから,以上のように理解する限り ,機能論的な考慮から審査が緩 くなる場合はありうることには留意しておく必要はある 。. *58 朝日新聞 2003年 1 0月 9日朝刊。 *59 東京地判平成 14年 3月26日判時 1787号42頁,東京高判平成 15年 1月30日判時 1814号44頁。 - 74-.

(25) 法 科 大 学 院 論 集 第 4号. ば,東京都の側は「著しく不合理ではない」ことだけを示せばよかったことに なる。 銀行税に限らず,条例による経済活動の自由の規制は,近年活性化している ように見える。ここでは今後の展開に,注目すべき事例として,次の 2つの事 例を挙げておくにとどめる o 一つは,いわゆるまちづくり条例に関する事案である。中心市街地活性化の ため,郊外での大規模小売庖舗の出庖を,条例を用いて,都市計画によって規 制する例が現れている明。この種の条例について争う場合,処分性拡大論で対 応するのか,当事者訴訟の活用論で対応するのか,興味深いところであるが引, 条例制定前からの開発計画があった事案に関して損害賠償請求訴訟が提起され ているものがある唱。 もう一つ注目されるのは京都市の景観に関する政策の展開である・6 3 。これら. * 6 0 青森市特別用途地区内における建築物の制限に関する条例[平成 1 8 年条例 7 9号]。前提となっ ている法改正について, 山崎篤男「都市の秩序ある整備を図るための都市計画法等の一部 を改正す る法律一人口減少・超高齢社会にふさわしい都市計画の実現を一 」 ジュリ 1 3 2 3号8 2頁 ( 2 0 0 6 ) およ び御手洗哲郎「中心市街地における市街地の整備改善及び商業等の活性化の一体的推進に関する法 律の一部を改正する等の法律」ジュリ 1 3 1 8号3 8頁 ( 2 0 0 6 ) 参照。青森市は,富山市とともに,改正 中心市街地再活性化法に基づく地域認定の第 l号に選ばれている。なお,内閣府規制改革・民間開. 3回議事概要に,都市計画法等改正の担当者と福井教授の興味深 放推進会議農業・土地住宅 WG第 1 いやりとりをみることができる 。. *61. 従前の判例はもちろん否定的である 。最一小判昭和 5 7 年 4月2 2日民集3 6巻 4号7 0 5頁,最二小. 2日判時 1 4 9 9 号6 3頁等参照。 判平成 6年 4月2. *62. 青森市の味噌醸造会社で,条例による規制地域内で条例制定前に本社工場跡地の売買契約を締. 結していた「かねさ」は,条例施行により地価が下がり,不動産会社から契約額のうち 7億円を受 領できなくなったとして,岡市を相手取り,. 7億円の損害賠償を求めた民事訴訟を青森地裁に起こ. 0 0 7年 3月3 1日朝刊青森版。 した。朝日新聞 2 福島県では福島県商業まちづくりの推進に関する条例の制定に際して,イオンが憲法上の疑義を. 0 0 5 年1 0月 8日朝刊福島中会版。条例は,平成 指摘する通知書を県に送付した例もある。朝日新聞 2 1 7 年条例 1 2 0 号として成立している 。. *63. 京都市市街地景観整備条例(平成 1 9 年条例 3 1号による改正後のもの),京都市屋外広告物等に関. 2号による改正後のもの),京都都市計画(京都国際文化観光都市建設計画)高度地 する条例 ( 同3 7号),京都市眺望景観創生条例(同 3 0 区の計画書の規定による特例許可の手続に関する条例(同 2 号)。一連の新しい景観条例法制は平成 1 9 年 9月 1日に施行されている 。. -7 5一.

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