高齢期の住まい
∼グループリビングという住まいについて∼
青柳 育子
*
Residence for the Senior Years
―
A Residence Named
“
Group Living
”―
Ikuko AOYAGI
1 はじめに
わが国の65歳以上高齢者数は、2009(平成21)年に2901万人となり総人口に対する高齢化率 は22.7%となった1)。戦後すぐに出生した団塊の世代が順次高齢者の仲間入りし始めており、高 齢者数はしばらくの間増加し続け、およそ23年後あたりには33%を越すといわれ3人に一人が 高齢者の社会となるという。 世帯でみると、2008(平成20)年の高齢者のいる世帯は1977万世帯であり、その中で単独世 帯は435.2万(22.0%)世帯、高齢夫婦世帯は588.3万世帯(29.7%)である。単独世帯と高齢夫 婦世帯でその半数を超えている。反対に1980(昭和55)年には世帯の半数を占めていた三世代 世帯は年々減少し、2008(平成20)年では367万世帯(18.5%)となった2)。今後、高齢化率の 上昇とともに、しばらくの間は高齢者単独世帯と高齢夫婦世帯は確実に増加するだろう。 人は人生の後半を迎え、夫婦又は単独世帯になった時、また、介護が必要になった時、どこで どのように暮したいと考えるのだろう。いつまでも自宅で暮したいと考えるのだろうか。 1980年代に注目されはじめたグループリビングとは、非血縁関係の人が一人暮らしの不安や孤 独、身体機能低下を補うために自立支援や生活支援を目的に一つ屋根の下で共同で暮す住まい方 である。 本稿では、「グループリビング川崎 COCO宮内」の事例から、高齢期の住まいとしてのグルー プリビングを考察する。 研究ノート Study Notes2 高齢者住宅とグループリビング
グループリビングの先駆けの一つは、1970年代に新しい暮らし方としてテレビで繰り返し報道 され話題となった我孫子の事例と考えられる。同じ病院で働いていた4人の元看護師が、退職後 に千葉県我孫子市の同じ敷地に4軒の家を建てて、お互い助け合いながら共同生活を送っていた。 厚生労働省の「介護予防・地域支え合い事業実施要綱」で記された「高齢者共同生活(グルー プリビング)支援事業」では、グループリビングを「加齢による身体機能の低下を補うため、共 同で生活している形態」とし、「5人から9人」の「おおむね60歳以上の高齢者であって、同一 家屋内で食事等、お互いに生活を共同で行う事ができるもの」としている3)。また、大江らは、グルー プリビングを表1のように定義した4)。グループリビングは、高齢者自らが高齢期を過ごす住ま いとして選択する住居の一つと考えられる。 現在わが国にある高齢者向け集合住宅・施設は、表2のようにおよそ14種類になる5)。その他、 数年前に群馬県で火災のあった無認可有料老人ホームのようなものや、本論で取り上げるグループ リビングなどいくつか考えられる。その中で病院のように多床室があるのは、要介護高齢者等が入居 する、「介護老人福祉施設」、「介護老人保健施設」、「介護療養型医療施設」である。その他、介護付 き有料老人ホームの中にも、多床室を見ることがある。現在、グループリビングは、国の支援事業 があったのにも関わらず一般的に知名度が低く、高齢者住宅を示す表に表されることは少ない6)。千 葉県成田市で「グループリビングももとせ」を運営し、高齢者グループリビング研究会の夏目氏7) 表 1 大江らによるグループリビングの定義 ・目的:非血縁関係のある者が同一家屋内で共に暮らすことで、高齢期における身体機能の 低下や精神的な不安を補い合うこと。 ・対象:自己判断能力があり、一定の生活支援があれば自立した生活ができる高齢者 ・人数:3名から15名程度のグループ ・住まい方:家事労働への「協働」参加の強制はないが、自発的参加が求められる参加型共 同住居形態。共に暮らすことで得られる人との触れ合いや安心感をより重視す る。 ・建物の特徴:同一家屋内でプライバシーの確保できる「個室」と食事を中心とする「共同の場」 を持つ。 ・支援の状態:家事労働や日常生活の支援を共同で得たり、互いに提供し合う。特に、介護 を専門とするスタッフが常駐していないのが原則。 大江守之他「日本建築学会大会学術講演集」『高齢者グループリビングに関する基礎的研究』2002年8月 によると、現在、グループリビングは全国に20カ所に満たないという。一時期注目されたグルー プリビングであったが、その数は増加しなかった。現在の高齢者には、非血縁関係の人が一つ屋 根の下で共同で暮す住まい方が受け入れられなかったのかもしれない。表 2 高齢者向け住宅の種類の比較 ᚩ ≉ 㢮 ✀ ᭶㢠⏝ᩱ䠄䠅 ධᒃ⪅ྜィ䠄ே䠅 䈜 㻜 㻟 䡚 㻡 㻝 ⣙ ౪ ᥦ 䜢 ㆤ 䛜 ဨ ⫋ 䝮 䞊 䝩 ே ⪁ ᩱ ᭷ 䛝 ㆤ 㻝 㻟 㻠 㻠 㻚 㻢 㻜 㻞 䈜 㻜 㻟 䡚 㻜 㻞 ⣙ 䜛 䛡 ཷ 䜢 䝇 䝡 䞊 䝃 ㆤ Ꮿ ᅾ 䛾 ⯡ ୍ 䚸 ㆤ せ 䝮 䞊 䝩 ே ⪁ ᩱ ᭷ ᆺ Ꮿ ఫ 㻞 䈜 㻜 㻟 䡚 㻡 㻝 ⣙ ཤ ㏥ 䛷 ㆤ せ 䚹 䛝 䝇 䝡 䞊 䝃 ➼ 㣗 䝮 䞊 䝩 ே ⪁ ᩱ ᭷ ᆺ ᗣ 㻟 㻠 㧗㱋⪅ᑓ⏝㈤㈚ఫᏯ 㧗㱋⪅ྥ㈤㈚ఫᏯ䚹ᇶ‽䜢‶䛯䛫䜀ㆤ䝃䞊䝡䝇䜒ཷ䛡䜙䜜䜛 ⣙㻣䡚㻞㻜䈜 㻟㻟㻚㻝㻣㻟 㻞 㻤 㻝 㻚 㻡 㻟 㻝 䡚 㻡 ⣙ Ꮿ ఫ ㈚ ㈤ ⏝ ᑓ ⪅ 㱋 㧗 䛯 䛧 䛯 ‶ 䜢 ௳ ᮲ 䛾 ᐃ ୍ Ꮿ ఫ ㈚ ㈤ Ⰻ ඃ ྥ ⪅ 㱋 㧗 㻡 㻢 㻞 㻣 㻚 㻞 㻞 㻟 㻝 䡚 㻝 ⣙ 䜛 䛔 䛜 ဨ ຓ ά ⏕ 䚹 Ꮿ ఫ ㈚ ㈤ ⓗ බ ྥ ⪅ 㱋 㧗 䜾 䞁 䝆 䜴 䝝 䞊 䝞 䝹 䝅 㻢 㻡 㻝 䡚 㻣 ⣙ 䜛 䛒 䛜 䝇 䝡 䞊 䝃 ᾎ ධ 䞉 㣗 䚹 ⏝ ᑓ ⪅ ❧ ⮬ 䠅 ᆺ ❧ ⮬ 䠄 䝇 䜴 䝝 䜰 䜿 㻣 㻤 㻝 䡚 㻤 ⣙ 䜛 䜜 䜙 䛡 ཷ 䜢 䝇 䝡 䞊 䝃 ㆤ 䛾 㝤 ಖ ㆤ 䠅 䛝 ㆤ 䠄 䝇 䜴 䝝 䜰 䜿 㻤 㻥 ㍍㈝⪁ே䝩䞊䝮䞉䠝ᆺ ᐙ᪘䛸ྠᒃ䛜ᅔ㞴䛺㧗㱋⪅䛜ᑐ㇟䚹㣗䞉ධᾎ➼䝃䞊䝡䝇䚷䚷䚷䚷䚷䚷㻌⣙㻢䡚㻝㻠䚷䚷䚷䚷䚷䚷㻌㻝㻟㻚㻟㻟㻡 㻞 㻝 㻠 㻚 㻝 㻡 㻚 㻠 䡚 㻡 䠊 㻜 ⣙ ែ ≧ ᗣ 䛾 ᗘ ⛬ 䜛 䛝 䛷 ⅕ ⮬ 䚸 䛜 䛰 ᵝ ྠ 䛸 ᆺ 䠝 ᆺ 䠞 䞉 䝮 䞊 䝩 ே ⪁ ㈝ ㍍ 㻜 㻝 㻡 㻠 㻤 㻚 㻢 㻠 㻝 㻤 㻝 䡚 㻞 㻝 ⣙ 䚹 ά ⏕ ྠ ඹ 䛾 ༢ ே 㻥 䛷 ⪅ 㱋 㧗 ▱ ㄆ 䝮 䞊 䝩 䝥 䞊 䝹 䜾 ⪅ 㱋 㧗 ▱ ㄆ 㻝 㻝 㻝㻞 ㆤ⪁ே⚟♴タ ᖖせㆤ䛾ே䛜ධᒃ䚹⏕ά⯡ㆤ䝃䞊䝡䝇䛜ཷ䛡䜙䜜䜛䚷䚷䚷䚷䚷䚷⣙㻡䡚㻝㻡䚷䚷䚷䚷䚷䚷㻌㻠㻠㻥㻚㻥㻠㻞 㻝㻟 ㆤ⪁ேಖタ 㝔䛸⮬Ꮿ䛾୰㛫タ䚹䝸䝝䝡䝸タ䚹 ⣙㻢䡚㻝㻢 㻟㻟㻠㻚㻜㻢㻞 㻝㻠 ㆤ⒪㣴ᆺ་⒪タ ≧䛜Ᏻᐃ䛧䛶䛔䜛㧗㱋⪅ྥ㛗ᮇධ㝔་⒪タ䚷䚷䚷䚷䚷䚷䚷䚷䚷䚷䚷䚷䚷㻌㻌⣙㻣䡚㻝㻣䚷䚷䚷䚷䚷䚷䚷㻥㻡㻚㻟㻡 ฟ䠖㐌หᮾὒ⤒῭㻞㻜㻝㻜㻚㻝㻞㻚㻝㻤ྕ䚸㐌ห䝎䜲䝲䝰䞁䝗㻞㻜㻝㻜㻚㻝㻜㻚㻞㻟ྕ䠄➹⪅୍㒊ኚ᭦䠅䠖ධᒃ⪅ᩘ䛿䚸㻞㻜㻝㻜䠊㻝㻜⌧ᅾᩘ䠄㻷㻷䝍䝮䝷䝥䝷䞁䝙䞁䜾䠅 䈜䠖ධᒃ୍㔠䞉ᩜ㔠䞉♩㔠➼䛾ᚲせ䛺䝩䞊䝮䜒䛒䜛䠄㻜䡚ᩘ༓䠅 㻣㻠㻚㻤㻢㻣
3 「グループリビング川崎 COCO 宮内」
「グループリビング川崎 COCO宮内」(以下「COCO宮内」とする)は、川崎市中原区にあり、 2003年12月に「NPO法人グループリビング川崎」により開設され、今年で8年目になる。現在 入所している人は、女性6名、男性2名の計8人で あり、年齢は60∼90歳代で、平均年齢は70代半 ばである。入居にあたっては、「COCO宮内」の理 念である「自立と共生」を理解し、入居時に生活が 自立しており、共同生活が可能なことである。 費用は入居一時金として450万円(20年間で月計 算の償却;途中退去は残金を返却)、月費用は、15万 円(家賃7万円、共益費2万円、家事契約費3万円、 食費3万円※昼・夕のみ)である。表2の他の高齢者 住宅の利用料と比較しても、大きな違いはない。 「COCO宮内」の建物は、図1のように3階建てで、 1階にヘルパーステーション、パワーリハビリステー ション、カフェ、趣味の教室、2階には学童保育所 がある。2階と3階が「COCO宮内」の住居スペー スになる。建物機能は、入居者だけではなく地域に 住む人々も利用できる多機能型になっている。 個人の居室は、IHキッチンユニット、車いす対応 トイレ、洗面所、テラスが備わったワンルームであ り(24.89∼25.76㎡/約15.5帖)、2階に5部屋、3 階に5部屋ある。共用設備として、大浴室・小浴室、 図 1 「COCO 宮内」見取り図ンテラスがあり、ゲストルームには家族が泊まれる。 日々の食事作りや掃除、外出付き添い、通院、相談支援等の生活支援は、約50名のNPO法人 のライフサポーターがシフトを組んで支えている。また、入所者は「COCO宮内」の理念どおり、 できる範囲で相互に支え合って暮している。共同生活に馴染めずに退所する人もいるが、定住し ている人々は、それぞれ個人の生活を尊重して暮し、また、1階のパワーリハビリテーションや ヘルパーステーションの利用、趣味の教室等の参加は、地域の人々と同様に自由である。 「COCO宮内」を運営する法人は、入居者と地域のニーズに沿うように、定期的に運営会議を開き、 ライフサポーターの意見も聞いて運営方針を決めている。また、会報誌を発行し、ホームページ を開設して情報を開示している。 〈入居者Aさん〉 80代前半のAさんは、「COCO宮内」の近所に自宅があるが、歩行が不自由で歩行器を使うた めに、自宅での生活が困難となりバリアフリーの「COCO宮内」に入居した。介護保険では要介 護3の認定を受け、サポーターの支援で週3回通所リハビリテーションに通っている。近所に住 む家族は毎日面会にきてコミュニケーションを図っている。Aさんは、「ここでは皆に親切に手伝っ てもらい生活している。今度、COCOの趣味サークルに入って楽しみたい。」と話した。 〈入居者Bさん〉 80代前半のBさんは、それまで専業主婦として暮していたが、子どもたちの独立やご主人が亡 くなったことで一人暮らしになった。徐々に生活に不自由を感じるようになり、子どもたちの勧 めで「COCO宮内」に入居した。Bさんは毎日近所の川辺を散歩する事を楽しみにしており、「散 歩しながら昔の事やこれからの事を考えます。」と現在の思いを話した。居室を訪問した際には、 家族の写真や昔行った海外旅行の写真を出し、嬉そうに説明した。 〈入居者Cさん〉 90代前半のCさんは、70代まで仕事をしていたと話し、スマートで姿勢がよいのが印象的であっ た。徐々に生活に介助が必要になり、親族の勧めで関西方面から引っ越して「COCO宮内」に入 居した。「納得してきたのですが、引っ越してきた時は毎日泣いていました。でも、今は生活に慣 れ、近所の教会に通っています。短歌教室にも通うようにもなりました。」と話した。 「COCO宮内」の木田橋理事は、インタビューの中で現在の課題を3点あげた。一つは、入居 希望者に対し、「COCO宮内」の理念や暮らしを十分説明し、同意した人が入居しているが、入 居後に自分に合わないとか、介護施設と間違い、世話が足りないと訴える人がいる。お互いの 為に、グループリビングの暮らしについて、より理解を得てから入居してもらうことが必要で ある。二点目は、地域の人々に「COCO宮内」が高齢者住宅であることを理解してもらうために、 さまざまな機会を利用してもっと広報していく必要がある。三点目は、現在ライフサポートは 日中のみであり、常時介護が必要になった人は、介護施設への転居が必要になる。「COCO宮内」 に住み続けたいと望む人に対し、対応を検討しなければならない。