教科経営の評価ツールとしてのTask-Valuesの可能性Ⅱ ― 北海道教育大学附属中学校での調査結果より ―
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(2) 北海道教育大学紀要(教育科学編)第71巻 第1号 Journal of Hokkaido University of Education(Education)Vol. 71, No.1. 令 和 2 年 8 月 August, 2020. 教科経営の評価ツールとしてのTask-Valuesの可能性Ⅱ ― 北海道教育大学附属中学校での調査結果より ―. 花 輪 大 輔 北海道教育大学札幌校美術科教育学研究室. Possibility of Task-Values for Subject Management as Evaluation ToolⅡ ― From the Survey of the Junior High School Attached to Hokkaido University of Education ―. HANAWA Daisuke Department of Art Education, Sapporo Campus, Hokkaido University of Education. 概 要. 本研究は,カリキュラムマネジメントが求められる今日において,中学校美術科の教科経営 の評価ツールとして「Task-Values 」活用の可能性を模索するものである。本学附属中学校 における調査結果では,興味価値が他の課題価値と比較して高く,標準偏差が小さいことから, 子どもたちが美術の学習自体を目的的に捉えている傾向が明らかとなった。その一方で,デザ インの学習内容が日常生活と結びついていない,或いはデザインの学習の本質と向き合えてい ない傾向を明らかにした。また,中学2〜3年生男子において,私的獲得価値が低い場合,興 味価値全般が低調となる傾向(r=0.68,p<0.01)が見られたことから,これらの改善に向け た学習内容及び題材の是正がカリキュラムマネジメントの鍵と考えるに至った。. れたものに接して感動する,情感豊かな心」3とさ. 1 はじめに. れているが,先述の2つの定義を重ねると,美の. 1−1 本研究の背景と目的 本研究のそもそもの動機は,美術科の目標とし てこれまで扱われてきた「情操」が本来「価値感 1. 情」であること,さらに価値が「主体の欲求を満 2. たす客体の性能」と定義されることにある。 「情操」は学習指導要領では「美しいものや優. 対象への欲求があって初めて発現すると同時に, 子ども一人一人の求めによって異なることを意味 する。 しかし,美術科教育における「情操」を取り上 げた先行研究は僅少であると同時に,現在の学習 指導要領の目標の編成では「豊かな情操」を養う. 353.
(3) 花 輪 大 輔. ことには繋がらないとする報告も見られる。一方, カリキュラムマネジメントが求められる今日にお. 2 先行研究について. いて実践報告事例等は散見できるものの, 「美術. 本研究における先行研究として松村(2013),. 科経営」に関する報告は僅少であり,とりわけ美. 武田・宮田(1958),大泉(2018),伊田(2004). 術科経営の評価となると,その例を見ることがで. の4件を挙げる。. きないことが本研究の着想に至った経緯である。 後述する本研究の方法では,先述の「情操=価. 2−1 村松和彦,2013,「豊かな情操と美術科. 値感情」が豊かに養われた,或いは培われたかま. 教育に関する一考察」,『美術教育学』 ,美. でを明らかにできるものではない。しかし,課題. 術科教育学会. の遂行にどのような価値を感じているかといった. 村松は美術教育を人がつくり出した制度・人工. 自律的動機づけ理論の手法を用いた子どもたちの. 物・メディアと捉え,学習指導要領の学年の目標. 価値意識の考察・検討が,美術科経営の改善のた. とマクルーハンらのメディアの4法則とでマト. めの評価ツールとなり得る可能性に着目した。そ. リックスを作成し,美術科教育と「豊かな情操」. こで本研究では,中学校美術に対する子どもの課. との関係性を考察した。その結果,美術科教育は. 題価値測定のために開発した「中学校美術版・課. 「子どもたちに自我の拡張感をもたらし,人. 4 を用いた意識調査及び調査結果 題価値測定尺度」. 間性を回復することで豊かな情操を養う足が. の分析・考察から,中学校における美術科経営の. かりになり得るが,それを養うことにはつな. 改善に向けた方法論の適用を目的とする。. がらない」5. 子どもたちの意識が,美術科の学習にどんな価. と結論づけている。更に,. 値を見いだしているのかTask-Values(課題価. 「教師が教科の目標達成のために指導性を強. 値)の視点で捉え直すことは,カリキュラムマネ. め過ぎたり価値観を押し付けたり,言語化を. ジメントに直結する生徒観になり得ると考えるも. 強いたりすれば,(中略)制度としての美術. のである。. 科教育の時間は,単なる「表現と鑑賞」の時 間に形骸化されてしまう危惧の念を抱かざる. 1−2 研究の方法 本研究では,先行研究の検討並びに先行研究を 基に開発した 「中学校美術版・課題価値測定尺度」. をえないのである」6 と問題点を指摘する。 松村の考察は,学習指導要領の学年の目標を手. を用いた意識調査及び調査結果を用いて,それぞ. がかりとしたものであり,教科経営や授業論,題. れのTask毎の学年別Ave.や性差との相関から,. 材論等と結びつけているものではない。また子ど. 調査対象とした集団の価値意識の傾向を明らかに. も論については一般論が多い。しかし,美術科教. する。その上で,導き出された知見から,教科経. 育の時間の形骸化を非とし,「美術」の本来の在. 営改善に向けた考察及び提案をする。. り方やその特性を「情操」を育む足がかりとして,. 実際の調査及び結果については,2015年に本学 附属学校の生徒580名(有効回答数496)を対象と したデータを使用し,相関検定及び多変量解析を 実施する。 なお,紙面の関係上「情操」についての学習指 導要領の歴史的変遷及び概観については割愛する。. 354. それを養い培おうとする営みこそが教科経営の本 質だとしている。 本研究との方向性とは異なるものの,美術科経 営を論じる前に,村松の指摘に耳を傾ける必要性 を強く感じるものである。.
(4) 教科経営の評価ツールとしてのTask-Valuesの可能性Ⅱ. 2−2 教科経営の要素. ⑵ 大泉義一,2018,「授業論」,『美術教育ハン. ⑴ 武田一郎・宮田文夫,1958, 『図画工作科の 教科経営』 ,明治図書. ドブック』,三元社 大泉は美術科の教科経営計画について. 学校経営や学級経営に比べて,教科経営に関す. 「学校ごとの教科学習における児童生徒の実. る文献・報告は圧倒的に少ない。それは,1975年. 態に即して教科の目標と方針が設定され,そ. の学校教育法施行規則一部改正によって必置の主. れを実現するための方法・方策等が計画さ. 任として法制化された教務主任や学年主任とは異. れ,さらにその実践を通して評価と改善がな. なり,教科主任は必置ではなく,明治以来「教科. されていく営みである。」9. 経営」は法的な根拠を伴わずに現在に至ることが. と述べる。更に,学習環境や教室風土をはじめと. 根底にある。つまり,法的なエビデンスを必要と. した「教育的雰囲気」醸成のための授業の成立要. されなかったといえる。. 因としての授業者自身の在りように言及する。. 教科経営とは,「各教科ごとに,教育目標を設. 武田・宮田らとの共通点は,授業の主体者であ. 定し, 教授・学習されるべき内容と方法を計画し,. る児童生徒(子供)の実態を把握した上での教科. 実施し,児童生徒の実態を踏まえてたえず修正し. 経営の目標・方針の決定を優先事項とし,その評. 7. ていく営み」とされる。2017年度改訂の学習指導. 価・改善について示している点である。前掲の「情. 要領においてはカリキュラムマネジメントの重要. 操」は心の働きであるから,当然それは不可視的. 性が強調されたことからも,また,文部科学省が. なものである。だからといって,児童生徒の作品. コンテンツベースからコンピテンシーベースへと. に表れた傾向のみに頼った実態の把握だけでは,. パラダイム転換を強調していることからも,今ま. 村松が指摘した「美術の授業の形骸化」の危険性. で以上に教科経営の評価が求められているといえ. の排除は困難である。そうならないための努力は,. る。 表1に, 「図画工作・美術科の教科経営の要素」. 大泉の指摘する「授業者としての在りよう」の前. (武田・宮田,1958)を抽出するが,昭和33年に. 提であり,そのための方法論の提案の必要がある. は教科経営の評価に基づいたマネジメントサイク. と考えるに至った。. ルが示されていることがわかる。 2-3 伊田勝憲,2004, 「高校生版・課題価値測 8. 表1 図画工作科(美術科)の教科経営の要素. 1.子供の実態や教科経営の方針 2.行事や他教科との関連 3.小・中の一貫性 4.学級担任と教科担任との関係性 5.教科経営についての評価 ・学習指導法の評価 ・教科経営の評価 ・学習効果の評価 ・教師の自己評価 ・要録と通信簿の管理 6. 環境・カリキュラム・研究運営カリキュラ ムの改訂 ・教室環境 ・資料・表現材料 ・用具の選択・購入・配置・管理 ・展示と掲示教科指導の責任分担 ・時間計画 ・児童生徒のグループ編成. 定尺度妥当性の検討」,『名古屋大学大学院 教育発達科学科研究紀要51』,名古屋大学 先述の通り,本研究では「情操=価値感情」が 豊かに養われた,或いは培われたかどうかまでを 明らかにできるものではない。なぜなら,. 「“美”が直感であるとすれば,それは一人 一人の人間の心に感じるものであるから,個 別のものであり,個々人よって相違があるば かりではなく,同一人でも,対象によっても, 時によっても異なるものである。それは即ち, 言葉の持つ曖昧さとともに,それぞれにとっ ての“美”は限りなく多様な形をしているこ とから,個別の『感情』に対する尺度の設定 は困難を極める」10 ものだからである。. 355.
(5) 花 輪 大 輔. しかし,授業者としての指導のあり方が子ども. 公的獲得価値の2項目に,利用価値を進学先・希. にとってどうであったかの評価があってこそカリ. 望する職業での有用性を意味する学業的利用価. キュラムマネジメントが成立するのであり,美術. 値,進学や就職のための制度的利用価値,職業や. の授業を“単なる表現と鑑賞の時間”として形骸. 日常における有用性を意味する実践的利用価値の. 化をさせないためにも,生徒作品やワークシート. 3項目に分節化し,高校生を対象とする場合の測. の記述だけに頼らない,内的な意識を捉えるため. 定尺度を開発した。. の指標が必要であると考えた。そこで,学習者そ. 本研究においては,本学附属学校の生徒580名. れぞれが美の対象との出会いや美的価値の創造過. を対象とし,伊田の測定尺度を基に開発した「中. 程を通して自覚する学びに対する課題価値に着目. 学校美術科版:課題価値測定尺度」を用いた意識. することとした。. 調査を7件法(7…とてもあてはまる,6…あて. 本研究で扱う課題価値は,「学習者が現前の課. はまる,5…どちらかといえばあてはまる,4…. 題遂行することおよびその結果にどのような価値. どちらでもない,3…どちらかといえばあてはま. 11. を捉えているか」 という視点で学習動機を捉え. らない,2…あてはまらない,1…まったくあて. ようとするものである。従前は,課題の内容が面. はまらない)により実施し,その結果を用いた分. 白いという興味価値,課題の遂行が望ましい自己. 析・考察をする。. 概念の獲得につながるという獲得価値,課題の遂 行が将来の職業的目標と関連するという利用価値 の3段階に整理されていたが,伊田は,獲得価値. 3 分析及び考察. を自分の内面に注意を向ける私的獲得価値と,自. 表2は,中学校美術版:課題価値測定尺度及び. 意識を他者からどう見られているかに注意を払う. 測定結果,表3はそれぞれの質問項目間の相関,. 表2 中学校美術科版:課題価値測定尺度及び測定結果(全体) 質問項目 1. 進学のための成績(内申)にとって大切な内容。 2. 学んだことが他の人に自慢できるような内容。 3. 普段の生活における問題解決に必要とされる内容。 4. 将来の仕事に関わる社会的な問題を理解するのに役立つ内容。 5. 学んでいて,おもしろいと感じられる内容。 6. 中学校を卒業した後の学習活動につながる内容。 7. 学ぶことによって,より自分らしい自分に近づくことができる内容。 8. 学校以外の場面で自分が実際に使える内容。 9. 学ぶと,自分自身のことがよりよく理解できるようになる内容。 10. 技能や知識の高まりが他者から尊敬されるような内容。 11. 進学後の専門的な勉学において必要とされる内容。 12. 将来,仕事における実践で生かすことができる内容。 13. 興味を持って学ぶことができるような内容。 14. 就職や進学をしようとする際に役に立つ内容。 15. 自分という人間に対して興味・関心をもつような内容。 16. 自分の日常生活の中で実際に役に立つ内容。 17. 学ぶと人より表現力や感受性が高まると思えるような内容。 18. 将来,仕事の中で直面する課題を解決するのに役立つ内容。 19. 学んでいて好奇心がわいてくるような内容。 20. 就職または進学する際に要求されると思う内容。 21. 進学してからの高度な学習内容の理解に役に立つ内容。 22. 知っていると周囲からできる人として見られるような内容。 23. 学んでいて楽しいと感じられる内容。 24. 学ぶことで人間的に成長すると思えるような内容。. 356. 分類 (制) (公) (私) (学) (興) (学) (私) (実) (私) (公) (学) (実) (興) (制) (私) (実) (公) (実) (興) (制) (学) (公) (興) (私). Ave 5.85 5.50 4.66 5.01 6.37 5.36 5.91 5.43 5.53 5.63 5.25 5.24 6.30 4.81 5.66 5.23 6.14 4.81 6.24 4.76 4.97 5.25 6.39 5.83. S.D 1.28 1.37 1.40 1.44 1.14 1.43 1.37 1.54 1.43 1.39 1.50 1.54 1.19 1.45 1.47 1.53 1.25 1.50 1.21 1.46 1.54 1.50 1.14 1.35.
(6) 教科経営の評価ツールとしてのTask-Valuesの可能性Ⅱ. 表3 中学校美術科版:課題価値測定尺度及び測定結果の質問項目間の相関 1 2 3. 1. 2. 3. 4. 5. 6. 7. 8. 9. 10. 11. 12. 13. 14. 15. 16. 17. 18. 19. 20. 21. 22. 23. 24. 1. 0.23. 0.25. 0.20. 0.20. 0.31. 0.16. 0.14. 0.21. 0.23. 0.24. 0.22. 0.16. 0.26. 0.20. 0.22. 0.12. 0.21. 0.14. 0.35. 0.27. 0.28. 0.22. 0.28. 1. 0.34. 0.34. 0.37. 0.38. 0.37. 0.43. 0.36. 0.46. 0.32. 0.30. 0.41. 0.32. 0.40. 0.35. 0.37. 0.36. 0.28. 0.29. 0.33. 0.39. 0.34. 0.36. 1. 0.56. 0.24. 0.42. 0.29. 0.37. 0.35. 0.25. 0.28. 0.38. 0.25. 0.45. 0.39. 0.48. 0.27. 0.49. 0.24. 0.43. 0.47. 0.33. 0.26. 0.38. 1. 0.29. 0.46. 0.32. 0.41. 0.31. 0.29. 0.37. 0.43. 0.29. 0.45. 0.34. 0.42. 0.31. 0.52. 0.24. 0.40. 0.48. 0.33. 0.26. 0.33. 1. 0.43. 0.45. 0.38. 0.42. 0.35. 0.30. 0.26. 0.64. 0.29. 0.43. 0.40. 0.41. 0.31. 0.64. 0.30. 0.28. 0.27. 0.67. 0.46. 1. 0.39. 0.45. 0.41. 0.32. 0.40. 0.48. 0.42. 0.45. 0.45. 0.42. 0.31. 0.50. 0.34. 0.49. 0.54. 0.38. 0.37. 0.47. 1. 0.44. 0.56. 0.34. 0.21. 0.29. 0.48. 0.35. 0.49. 0.36. 0.39. 0.33. 0.44. 0.25. 0.27. 0.28. 0.44. 0.44. 1. 0.37. 0.35. 0.33. 0.48. 0.39. 0.36. 0.37. 0.53. 0.32. 0.43. 0.30. 0.31. 0.36. 0.33. 0.33. 0.38. 1. 0.4. 0.20. 0.29. 0.42. 0.37. 0.60. 0.34. 0.36. 0.38. 0.38. 0.29. 0.35. 0.34. 0.34. 0.56. 1. 0.36. 0.30. 0.40. 0.33. 0.37. 0.34. 0.38. 0.33. 0.37. 0.29. 0.33. 0.53. 0.32. 0.35. 1. 0.48. 0.33. 0.47. 0.28. 0.34. 0.28. 0.46. 0.22. 0.44. 0.47. 0.38. 0.25. 0.28. 1. 0.33. 0.52. 0.31. 0.42. 0.30. 0.50. 0.24. 0.43. 0.43. 0.33. 0.25. 0.27. 1. 0.30. 0.46. 0.39. 0.50. 0.26. 0.61. 0.26. 0.26. 0.30. 0.65. 0.48. 1. 0.34. 0.46. 0.28. 0.54. 0.19. 0.60. 0.53. 0.39. 0.26. 0.33. 1. 0.40. 0.47. 0.37. 0.45. 0.28. 0.37. 0.39. 0.41. 0.63. 1. 0.36. 0.53. 0.33. 0.41. 0.47. 0.42. 0.32. 0.41. 1. 0.27. 0.45. 0.20. 0.25. 0.32. 0.44. 0.41. 1. 0.25. 0.58. 0.62. 0.47. 0.22. 0.40. 1. 0.22. 0.24. 0.26. 0.62. 0.45. 1. 0.68. 0.39. 0.22. 0.31. 1. 0.53. 0.22. 0.41. 1. 0.26. 0.39. 1. 0.46. 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24. 1. 表4 中学校美術版:課題価値測定尺度及び測定結果(各Task毎の学年・性差別) Task-Values. 全 体. 興味価値. 男 子. 女 子. 1年. 2年. 3年. 全体. 1年. 2年. 3年. 全体. 6.33 (1.17). 6.09 (1.46). 6.04 (1.33). 5.97 (1.27). 6.06 (1.39). 6.63 (0.82). 6.52 (0.88). 6.65 (0.71). 6.58 (0.84). 私的獲得価値. 5.52 (1.47). 5.51 (1.55). 5.34 (1.51). 5.25 (1.65). 5.42 (1.54). 5.81 (1.36). 5.38 (1.42). 5.67 (1.41). 5.61 (1.41). 公的獲得価値. 5.63 (1.41). 5.64 (1.44). 5.49 (1.48). 5.33 (1.30). 5.55 (1.45). 5.84 (1.33). 5.58 (1.39). 5.51 (1.64). 5.70 (1.39). 学業的利用価値. 5.15 (1.49). 5.29 (1.61). 5.08 (1.51). 4.93 (1.57). 5.18 (1.57). 5.30 (1.44). 4.94 (1.32). 4.99 (1.47). 5.12 (1.40). 制度的利用価値. 5.14 (1.48). 5.24 (1.65). 5.18 (1.52). 4.93 (1.66). 5.20 (1.59). 5.26 (1.35). 4.98 (1.33). 4.51 (1.56). 5.08 (1.37). 実践的利用価値. 5.18 (1.54). 5.31 (1.67). 4.98 (1.64). 4.73 (1.58). 5.13 (1.66). 5.43 (1.40). 5.04 (1.39). 4.96 (1.48). 5.22 (1.42). 表4は各Taskを学年・性差別にクロス集計をし たものである。. 3-1 全体としての傾向 調査の結果から,興味価値が他の課題価値と比 較して高く標準偏差が小さいことから,美術の学 習自体を目的的に捉えている子どもが多いといえ. 357.
(7) 花 輪 大 輔. る。興味価値の次にAve.が高かった項目は「17.. れる内容(私的獲得価値:4.66). 学ぶと人より表現力や感受性が高まると思えるよ. 4.将来の仕事に関わる社会的な問題を理解. うな内容(公的獲得価値:6.14) 」 , 「7.学ぶこ. するのに必要な内容(学業的利用価値:. とによって,より自分らしい自分に近づくことが. 5.01)(r=0.56,p<0.01). 出来る内容(私的獲得価値:5.91) 」 , 「1.進学 のための成績(内申)にとって大切な内容(制度. ③ 1.進学してからの高度な学習内容の理解に 役立つ内容(学業的利用価値:4.97). 的利用価値:5.85) 」と続く。総体的に男子が女. 22.知っていると周囲からできる人として見. 子に比べて低調なことと,また,中学3年生女子. られるような内容(公的獲得価値:5.25). の興味価値が持ち直しているものの,女子の私的. (r=0.53,p<0.01). 獲得価値を除いた全ての課題価値が学年進行に 伴って減退し,多くのTaskの分散が広がってい ることがわかる。. ①からは,美術科の学習内容に興味を持って学 べると同時に,それらは表現力や感受性を高める. 成績のために美術の授業に臨むことが子どもに. ことができるとの認識が見られ,Ave.からも美. とって第一義的になった場合には意図的・無意図. 術の学習や表現や鑑賞の活動に高い価値を見いだ. 的にかかわらず,そこで発揮される資質・能力は. している傾向が分かる。一方で,②は,社会や日. 自己の内面と向き合ったものではなく,教師に“ウ. 常の問題解決に関する美術の学習価値を認識でき. ケそうなもの”を求める危険性があるばかりか,. ていないことを示している。先述の通り,特にデ. 経験によりフィードバックされるもの,いわゆる. ザイン領域の学習内容及び題材の是正が急務と考. 美術の行為から教授されるものの質的低下を招か. えることができる。子どもたちがデザインの学習. ざるを得ないと考えられる。. を「形や色彩のヴィジュアライズのみの問題」と. また,全てのTaskのうち「3.普段の生活に. 狭義に認識している可能性も大いに想定される。. おける問題解決に必要とされる内容(私的獲得価. ③については,他者からどう思われたいかといっ. 値:4.66) 」が最も低調であることから,デザイ. た社会的な欲求との関係が深いとの推察が可能で. ンの学習内容が日常生活と結びついていない,或. ある。一般的に美術は唯一解ではなく,自分独自. いはデザインの学習の本質と向き合えていないと. の最適解を求める教科であり,一人一人の作品は. の推察が可能である。特に学年進行に伴った減退. まさに「みんな違ってみんないい」といわれる。. 傾向が見られるため,デザイン領域の学習内容及. しかし,学習の主体である子どもにとって,他者. び題材の是正がカリキュラムマネジメントの鍵だ. の目を気にしなければならない状況があるという. と考えられる。. ことがわかる。 左の①〜③以外では,中学2〜3年生男子に. 3-2 学年・性差別のTaskの相関 Taskを越えた相関が見られた項目を以下に示 す。. 「24.学ぶことで人間的に成長すると思えるよう な内容(私的獲得価値)」が低い場合,興味価値 全般が低調となる傾向(r=0.68,p<0.01)が見 られるとともに,制度的利用価値,いわゆる成績. ① 13.興味を持って学ぶことができるような内 容(興味価値:6.30) 17.学ぶと人より表現力や感受性が高まるよ うな内容(公的獲得価値:6.14). に関する項目に2極化の傾向を見ることができ た。男子は学年の進行に伴って,美術の学習がよ り手段的に向かっていく傾向が確認されたため, カリキュラムマネジメントのもう一つの鍵は,私. (r=0.50,p<0.01). 的獲得価値に中学2〜3年生男子を向かわせる動. ② 3.普段の生活における問題解決に必要とさ. 機づけであるとの推察が可能である。. 358.
(8) 教科経営の評価ツールとしてのTask-Valuesの可能性Ⅱ. 詳細は次節で述べるが,同学年の女子が,制度. といった意識は,役に立たなければ取り組まない. 的利用価値を低く認識しているわけではなく,自. 意識と表裏一体であり,功利価値的な側面を有す. 己調整段階が進んでいると判断することが妥当で. る。「豊かな情操」を養うことを目指す教科性に. あると考えられることから,特に美術の学習に価. とって指導者として最も注意を払わなければなら. 値を見い出せていない層を意識した題材設計を含. ない傾向の一つである。. めた教師の関わり方を再検討する必要がありそう である。. 以上の課題価値に関する傾向が性差によって異 なることを前提とした題材開発・授業設計をする 必要性を確認するに至った。美術の学習を目的的. 3-3 多変量解析の結果 次に示す図1は,学年・性差別及び各Taskの コレスポンデンス分析結果である。学年進行に伴. に捉えるための方法論についての言及は割愛をす るが,彼らの美的な感動体験の質を問う必要もあ ると考えることが出来るだろう。. い,男子も女子も興味価値に近づく傾向は見られ るが,近接しているのは中学3年生女子のみであ る。. おわりに. また,中学2〜3年生男子と中学1年生女子の. 本研究は,子どもたち自身が,美術科の学習に. 距離が近く,公的獲得価値と実践的利用価値と近. どのような価値を見いだしているのかをTask-. 接関係にある事が顕著である。彼ら・彼女らは制. Values(課題価値)の視点で捉え直し,美術科経. 度的利用価値との距離は離れているが,興味価値. 営の改善に向けた方法論の適用を目的とするもの. との距離が近い訳ではない。女子は学年進行に. である。その結果,自律的動機づけの視点から女. 伴って興味価値に向かうが,男子についてはAve.. 子には学年進行に伴い概ね望ましい傾向が見られ. の比較だけでは見えなかった傾向が明らかとなっ. たが,男子は興味価値が減退傾向を示したことや,. た。. 特に中学1年生男子の低調さなど,中長期的なス. 実践的利用価値との距離が近ということは,美. パンで教科経営を考える必要性が明らかとなっ. 術の学習を目的的ではなく,手段的なものと捉え. た。また,日常生活や社会の問題解決と直結した. ている子どもが一定数存在することを示すもので. デザイン領域の学習内容及び題材の改善が直近の. ある。自分にとって役に立つのであれば取り組む. 課題であることが明らかとなった。. 図1.学年・性差別及び各Taskのコレスポンデンス分析の結果. 359.
(9) 花 輪 大 輔. その一方で,性差に応じた美術の学習内容や指 導方法を「自分の内面に意識を向ける」ための動 機づけの工夫,さらには感動体験の質の保証が, 調査対象校の教科経営改善の視点だと考えるに 至った。 しかし,本研究は,国立大学附属学校を対象と したものであるため,本研究の成果の一般化に向 けた研究継続の必要があること,更に本調査結果 はあくまでも「認知」の傾向であり,学習者の内 的で不可視的な心情やそして「情操」の豊かさの 検証には至っていない事が今後の課題だと考えて いる。. 謝 辞 本論文における調査にご協力いただいた冨尾拓 先生,更科結希先生,着想のきっかけを頂いた伊 田勝憲先生に心より御礼を申し上げます。. 引用文献 1 五十嵐清止,1957,「情操教育の概念」,『情操教育問 題』,東京学芸大学教育研究所,p.2 2 見田宗介,1966,『価値意識の理論』,弘文堂,p17 3 文部科学省,2017,「学習指導要領解説(美術編) 」 , p.20 4 花輪大輔,2016,「中学校美術科における教科経営の 評価ツール としての「課題価値(Task-Values)」の可 能性」,『アートエデュケーション思考』,Bookway, p.363 5 村松和彦,2013,「豊かな情操と美術科教育に関する 一考察」,『美術教育学』,美術科教育学会,p.455 6 前掲書5,p.466 7 依田新他,1979,『新教育心理学事典』,金子書房, p.405 8 武田一郎・宮田文夫,1958,『図画工作科の教科経 営』,明治図書,p2 9 大泉義一,2018, 「授業論」, 『美術教育ハンドブック』 , 三元社,p.235 10 前掲書4.p.361 11 伊田勝憲,2004,「高校生版・課題価値測定尺度妥当 性の検討」 , 『名古屋大学大学院教育発達科学科研究紀 要51』,名古屋大学,p.117. 360. . (札幌校准教授).
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