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SuperKEKBルミノシティ記録更新

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「加速器」Vol. 18, No. 1, 2021(2–9)

話 題

SuperKEKB

ルミノシティ記録更新

杉本 寛

*

SuperKEKB Achieved the New Luminosity Record Hiroshi SUGIMOTO*

Abstract

SuperKEKB achieved the world’s highest luminosity record of 2.40×1034

cm−2 s−1. SuperKEKB adopts a novel collision meth-od named nano-beam scheme in which the colliding beams are squeezed to extremely small sizes at the interaction point. The crab waist (CW) collision scheme was also applied in April 2020 to suppress beam–beam blowup. Following a brief introduction of the nano-beam and CW collision schemes, the overview of collision operation and beam tuning, and the issues which should be solved for further luminosity performance are reported.

1

.は じ め に

SuperKEKBは KEK の電子–陽電子の衝突型円 形加速器である1).ビーム衝突によって B 中間子 とその反物質である反 B 中間子を生成すること を目的としている.これら生成粒子の崩壊過程 を粒子検出器(Belle II 検出器)で解析することで 標準理論を超える素粒子物理の探索を目指す2) SuperKEKBの主リングは7 GeV の電子蓄積リン グ(HER)と4 GeV の陽電子蓄積リング(LER)か らなり,その周長は約3 km である.電子ビーム と陽電子ビームは前段の入射リニアックから供給 される.また,入射リニアックには陽電子ダンピ ングリングが併設されている. SuperKEKBは2010 年に運転を終了した KEKB3) の ア ッ プ グ レ ー ド で あ り,KEKB の 数 十 倍 の 衝突性能を目指している.KEKB 運転終了後, SuperKEKBに向けた改造を約6 年間行った.2016 年にビームパイプの真空焼きを主な目的とした ビーム衝突なしの運転4)を開始した.約5ヶ月間 の運転終了後,ビームを衝突点(Interaction Point, IP)で絞る最終ビーム収束電磁石システム(QCS と呼ぶ)5)のインストール作業を開始した.2018 年3 月からビーム衝突調整に着手し,同年4 月 25日にビーム衝突の確認に成功した6).その後も ビーム調整を続けて2020 年6 月15 日に KEKB を 超える衝突性能を達成した. 本稿では,SuperKEKB の衝突スキームの概説 から始めて,これまでに我々が行ったビーム調整 の概要と現在の到達点を示す.最後に我々が現在 直面している課題に触れる.

2

.衝突スキーム

2.1 ナノビームスキーム 衝突型加速器の性能はルミノシティで評価され るのが一般的である.実験の目的とする素粒子反 応の反応断面積σと単位時間当たりの反応回数を dN/dtとした場合にルミノシティ L は, / dN dt L= ×σ (1) で定義される.ルミノシティが高いほど物理デー タをより短期間で蓄積できるため,ルミノシティ は衝突型加速器の性能を端的に表す量である. ルミノシティは加速器の各種パラメータを用い て次の式で計算できる. 0 1 4 2 b y y x y e x y N N n f I L R er γ σ ξ πσ σ σ β ±  ∗  ± ±   ∗ ∗ ∗ + = + (2)

*高エネルギー加速器研究機構  KEK, High Energy Accelerator Research Organization (Hiroshi Sugimoto E-mail: [email protected])

(2)

ここで,N はバンチ当たりの粒子数,nbは全バ ンチ数,f0は周回周波数,σ

*

x,yは IP での水平及び 垂直方向のビームサイズ,γはローレンツ因子,e は素電荷,I はビーム電流,β

*

yは IP での垂直方 向ベータ関数,ξyは垂直方向のビームビームパラ メータ,R は両ビーム軌道の交差角や後述の砂時 計効果に由来する幾何学的な補正項である.添え 字の±はそれぞれ陽電子,電子ビームの物理量で あることを意味する.ビームビームパラメータは ビームビーム相互作用によって生ずるベータトロ ンチューンのシフト量に相当し,垂直方向のエ ミッタンスεyを用いて近似的に次式で書ける. / 2   e y y y x r N ξ ± π γ σ β ε ± ∗ ≈  (3) 一般にビーム電流積が増加すると,ビームビー ム相互作用によってビームサイズが増大するため (ビームビームブローアップ),ルミノシティの 上昇には限界がある.しばしば,ビームビームブ ローアップの程度を評価する指標としてルミノシ ティをバンチ電流 Ib±とバンチ数を用いて規格化 したスペシフィックルミノシティ, − ≡ + sp  b b b L L n I I (4) を定義する.スペシフィックルミノシティは理想 的にはビーム電流積に依存しない. 式(2)からビームエネルギーと電流が固定であ る場合,衝突性能を上げるにはβ

*

yを小さくする かξyを大きくする必要がある.一方,図1(a)に 示したようにベータ関数は IP から遠ざかるにつ れてβ(s)=βy

*

y+s 2/ β

*

yと急激に大きくなるため, β

*

yをバンチ長σzより小さくしてもルミノシティ は逆に小さくなってしまう.この効果は砂時計効 果と呼ばれている.さらに,ビームがベータ関数 の大きな場所でビームビーム相互作用を感じるた めにビーム不安定性が誘起されやすくξyが低電 流で限界に達してしまう.これらの理由からベー タ関数をバンチ長以下に絞っても性能向上は期待 できない. SuperKEKBでは砂時計効果を克服するために 水平方向に十分に細く絞ったビームを大きな交差 角をもたせて衝突させる方式をとる.このアイ デアはイタリアの SuperB 計画の検討時に P. Rai-mondi氏によって提案された手法である7).我々 はこの手法をナノビームスキームと称している. 図1(b)に示したように水平方向に交差角2ϕxをつ けることでビーム衝領域を狭めることができる. この場合,実行的なバンチ長と水平方向のビーム サイズが, ,eff / , z x x σσ∗ φ (5) ,eff / x z x σσ∗φ (6) となる.SuperKEKB の設計ではσ

*

x=10 µm, ϕx= 41.5 mradとすることで,σz=6 mmに対してβ

*

y= 0.3 mmまで絞ることを可能にする.マシンパラ メータの詳細に関しては参考文献1)を参照され たい. 2.2 クラブウェイスト ナノビームスキームで鍵となる交差角の導入に は副作用がある.それは水平方向に有限振幅をも つ粒子がベータ関数の大きな場所で相手ビーム と衝突することである.クラブウェイスト(Crab Waist, CW)はこの効果を打ち消す方法として提唱 された手法である8) IPで水平方向に振幅をもつ陽電子のウェイス ト(β

*

yが最小となるビーム進行方向の位置)を図 2(a)に示した波線から最適な位置, / tan 2 x s x Δ =− ∗ φ (7) 図1 (a)正面衝突においてβ*yをバンチ長以下に絞った場合 と(b)ナノビームスキームの場合のビーム衝突の概念 図.

(3)

に変える方法を考える.これは水平方向の位置の ズレに比例する収束力を与えることに相当する. このためには IP でハミルトニアン, 2 CW 2tan2y x x p H =− ∗ ∗φ (8) があれば良い.CW では IP と適切なベータトロ ン位相の関係にある六極電磁石を使うことで IP にハミルトニアン式(8)がある状況を(近似的に) 実現する. 六極電磁石での単粒子のハミルトニアン 3 2 sx 2( 3 )/6 H =K xxy (9) を考える.ここで IP と六極電磁石のベータトロ ン位相の差を以下のように選ぶ. 2 ,   2.5 x y Δφ = π Δφ = π (10) このとき IP と六極電磁石の正準座標の関係は ,    / / x x y y y x=x β βp∗=y β β∗ (11) となる.この関係式を使うことで式(8)は 2 CW 2  tan 2 x/ x y y x xy H =β β β β∗ φ (12) と書き換えられる.式(9)と比較して, 2 1  tan 2 x / x y y x K = β β φ β β∗ (13) と選べば,式(9)の第二項が所望のハミルトニア ン式(8)になる.図2(b)に示すように CW では IP の両側に設置した六極電磁石ペアを使うことで, 六極電磁石による不要な非線形キックをなるべ くキャンセルさせる.CW はビームビーム相互作 用に伴う共鳴不安定性を抑え,その結果,不要な ビームテールの発生を抑制できることが数値シ ミュレーションにより示されている. 元々,SuperKEKB の設計では CW を導入しな いことになっていた.その理由は CW の導入に よって生じるより高次の非線項が力学口径を狭く するためである.特にその効果はβ

*

yを小さくす るほど顕著となり,設計値のβ

*

y=0.3 mmでは十 分な力学口径を確保できないことがシミュレー ションから予見されていた. SuperKEKBの2019 年 の 秋 の 運 転(2019c)に おいてルミノシティがシミュレーションから期 待される値より低いことが問題となり,この状 況を打開するための手段として CW の導入が検 討された.検討により現在のマシンパラメータ (β

*

y=1 mm)においては十分な力学口径を確保し たうえで衝突性能の改善が期待されることが示さ れた.この結果を受けて2019 年の冬のシャット ダウンから両リングに CW を導入するための改造 作業が開始され,2020 年の春の運転(2020a/b)か ら CW を導入した. 図2(c)に示すように SuperKEKB では QCS で発 生する巨大な色収差をなるべく局所的に補正す るために,IP の両側に六極電磁石のペアが設置 さ れ て い る(Local Chromaticity Correction, LCC). LCC用の六極電磁石ペアは共通電源に繋がれ,そ れらの磁場強度は同じである.電源を独立化し磁 場強度を独立に変えることで CW 用の六極電磁石 としても併用することが可能となった.LCC 用の 六極電磁石を CW に併用するアイデアは CERN の 将来計画である FCCee のデザインにおいて提案 されたものである9).SuperKEKB がこのアイデア を実際に導入した最初の加速器となった. 図2 (a)クラブウェイストの概念図.(b)通常の CW 用六極 電磁石の配置と位相関係.(c)SuperKEKB では4 台の 独立な六極電磁石で LCC と CW の両方を実現する.

(4)

3

.運転概況とビーム調整

3.1 運転概況 図3 に衝突運転を開始して以来の各リングの ビーム電流,ルミノシティ,各運転期間における 典型的なβ

*

yを示す.本稿で用いられる運転期間 の名称(Phase 2 など)に関しては図3 の下部分を 参照されたい. 衝突運転を開始した最初の期間である Phase 2 ではナノビームスキームの原理検証を主な目標と した.そのためにβ

*

yを8 mm から徐々にバンチ長 (∼6 mm)より十分に小さいβ

*

y=2 mmまで絞って いった.衝突運転はβ

*

y=8, 6, 4, 3 mmで行い,後 に触れるように低バンチ電流下ではルミノシティ がβ

*

yを絞ることにより増加することを確認した. 2019a/bではβ

*

y=2 mmでも衝突運転を行い,最高 ルミノシティは L=1.23×1034 cm−2 s−1であった. 2019cではさらにβ

*

yを絞り,β

*

y=1 mmで衝突運 転を行えるようになった.また,短期間ではある が,試験的にβ

*

y=0.8 mmでの衝突運転も行った. 2020a/bで は CW を 導 入 し ビ ー ム 調 整 を さ ら に 進め,2020 年6 月15 日に KEKB のピークルミノ シ テ ィ L=2.11×1034 cm−2 s−1を 超 え る L=2.22× 1034 cm−2 s−1を達成した.2020c 終了時点までの最 高ピークルミノシティは L=2.40×1034 cm−2 s−1 ある.このときのマシンパラメータを表1 に示す. 3.2 衝突点のベータ関数の調整 SuperKEKBではβ

*

yを極端に小さくするために QCSや LCC 領域においてベータ関数が不可避に 大きくなる.ベータ関数が巨大な領域が存在する ことでマシンがラティスエラーや外乱に非常に敏 感になる.通常,主リングは電磁石などの機器を 立ち上げただけでは閉軌道を見つけることさえ容 易でない.したがって,ベータ関数を絞るには, 入射調整,ビーム光学の補正などを繰り返しなが ら徐々に絞っていく必要がある. ベータ関数の絞り込みに注力した Phase 2 で は,超伝導電磁石である QCS のクエンチが問題 となった.これは何らかの原因でロスしたビーム 粒子が QCS のコイルに当たることが原因である. SuperKEKBには Belle II 検出器へのバックグラウ ンドを低減するためにヘッドが可動式のコリメー ターが設置されている.コリメーターを適切に使 うことでクエンチを避けながらベータ関数を絞り 込むことができた.2020c 時点で定常的な衝突運 転はβ

*

y=1 mmで行っている.これは IP のベータ 関数としては史上最小である. 3.3 ビーム光学補正と低エミッタンス調整 ビームビームパラメータの表式(3)からナノ ビームスキームではβ

*

yを絞ったときにビーム ビームパラメータを維持するためには同時にεyも 小さくしなければならないことが分かる.そのた め SuperKEKB において低エミッタンス調整が重 要な調整項目の一つとなる. 主要な垂直エミッタンス源となるマシンエラー は垂直方向のビーム軌道が六極電磁石の磁場中心 とずれた場合にビームが感じる歪四極磁場であ る.この効果を補正するために SuperKEKB の六 極電磁石にはその全てに歪四極コイルが巻いてあ る. ビーム光学補正ではステアリングマグネット 図3 ビーム電流及びルミノシティの履歴. 表1 マシンパラメータ.

LER HER Unit

Energy 4 7 GeV I 712 607 mA nb 978 εx 4.0 4.6 nm β*x/β*y 80/1.0 60/1.0 mm νx 44.523 45.531 νy 46.581 43.577 σza) 4.6 5.1 mm ξy 0.0389 0.0261 σ*yb) 0.27 0.20 µm Lsp 5.43×10 31 cm−2 s−1/mA2 L 2.40×1034 cm−2 s−1 a)設計値(ゼロ電流) b)X 線ビームサイズモニターによる測定値

(5)

の磁場や高周波加速空洞の周波数の変化に対す る閉軌道の応答を測定する.測定された応答が SuperKEKBの加速器モデルとなるべく一致する ように歪四極コイルなどの補正磁場の調整量を決 めている.SuperKEKB で到達できた垂直エミッ タンスはβ

*

y=1 mm,単独ビームの場合でεy=10∼ 20 pm程度である.ビーム光学補正は低エミッタ ンス調整のためだけでなく,ビーム入射効率改善 や Belle II 検出器へのバックグラウンド低減のた めにも不可欠であり頻繁な調整が必要である. 3.4 ビーム衝突調整 両ビームは IP で相手ビームが発する電荷に起 因する電磁力によって蹴られる(ビームビーム キック).その蹴り角は両ビーム間の位置関係に 依存する.ビーム衝突の確認は IP での軌道の変 化に対するビームビームキックの応答を観測する ことで行う.ビームビームキックは IP 前後に設 置したビーム位置モニタ(BPM)で測定したビー ム位置から推定する. 図4 は SuperKEKB で初めての衝突調整で測定 された水平方向のビームビームキックである.こ こでは陽電子ビームが IP を通過するタイミング を変えながら水平方向のビームビームキックを測 定した.ナノビームスキームでは水平方向に交差 角があるため,IP を通過するタイミングを変え ると両ビーム間の水平方向の距離が変わり,それ に応じてビームビームキックが変化する.ビーム ビームキックが変曲点を迎える図4 の波線が最適 な衝突タイミングとなる.IP での軌道は,HER に立てた局所的なバンプ軌道を33 kHz の繰り返 しでフィードバック制御し維持している. 衝突軌道の最適化はいわば最低次の衝突調整で あり,それだけでは十分な衝突性能を達成できな い.軌道そのものに加えてその微分情報である, ビーム光学パラメータを調整する必要がある.IP でのベータ関数は言うに及ばず4 次元さらには 6次元のビームの位相空間分布を IP で設計どお りの直立した楕円体にすることが肝要である.こ れは言い換えると,ビームの位相空間分布におけ る非対角成分であるベータトロンカップリング, Twissパラメータのα,分散関数などを消すこと である. Phase 2においてベータ関数を絞ってもルミノ シティが増加しないという問題に直面した.シ ミュレーションや理論計算から,衝突点付近に何 らかのマシンエラー(QCS の回転誤差など)が存 在することで,IP に局所的に大きな水平方向と 鉛直方向の運動の結合,ベータトロンカップリン グが残っていることが原因であると推測された. QCSには回転設置誤差を補償するために歪四極 補正コイルがインストールされている.IP での光 学パラメータを直近の BPM の情報などから推定 することはβ

*

yが非常に小さいために測定精度に限 界がある.そのため補正磁場の最適値をビーム光 学測定から決定することは非常に困難である.そ こで,我々はビームビームブローアップが十分無 視できる極低バンチ電流におけるルミノシティを 最大化するように補正磁場を最適化した.図5 に 調整前後の Lspのβ

*

yに対する依存性を示す.補正 後はβ

*

yがバンチ長以下の領域でもβ

*

yを小さくす ることで Lspが増加していくことが分かる. 図4 初めての衝突タイミング調整で観測された水平方向の ビームビームキック.変曲点である Tcol≈0.85 nsec(波 線)が最適な衝突タイミングである. 図5 IP の光学パラメータ調整前後の Lspのβ*y依存性.

(6)

ルミノシティ性能を上げるためにはバンチ電流 積を大きくしたときに Lspをなるべく維持しなけ ればならない.図6 に2019c と2020a/b における Lsp のバンチ電流積の依存性を示す.Lspはバンチ電 流積の増加とともに減少していくことが分かる. バンチ電流積が増えるとビームビームブローアッ プによるビームサイズの増大が顕著になり,ルミ ノシティの増加を制約している.ルミノシティ性 能を上げるにはビームサイズ増大の具体的な原因 を突き止め,その影響を最小化する必要がある. 2019cと2020a/b の主な違いは CW の有無の違 いである.CW の導入はビームサイズの増大を抑 制し衝突性能を改善していることが図6 から示唆 される.また,Belle II 検出器へのバックグラウン ドの低減も報告されている. 今後の調整項目として光学パラメータの色収差 (運動量依存性)の調整が挙げられる.特に IP で のベータトロンカップリングの色収差がルミノシ ティに大きな影響を与えることが数値シミュレー ションにより示されている. SuperKEKBにはベータトロンカップリングの 色収差を制御するために六極電磁石の一部に回転 機構が備わっている.既に述べたように IP での 光学パラメータの推定は困難であるため,回転角 の最適値は最終的にはルミノシティを見ながら探 ることになる.現在,そのためのシステムの準備 が進行中である.

4

.課

SuperKEKBは KEKB のピーク衝突性能を凌駕 することに成功したが,目標性能は KEKB の数 十倍であり,長い旅路の入り口に過ぎない.ここ では我々が現在直面している課題の中から二つを 紹介する. 4.1 バックグラウンドとコリメーター SuperKEKBで は ル ミ ノ シ テ ィ の 向 上 に 伴 い Belle II検出器へのバックグラウンドが増える. ここでいうバックグラウンドとはタウシェックや ビームガス散乱などの何らかの理由で生じた損失 粒子がビープパイプや粒子検出器内部で発する電 磁シャワー,もしくはビームが発する放射光など のうち検出器に到達する成分を指す.バックグラ ウンドは検出器の破壊を起こし得るため,その低 減が安定な衝突実験のために必須である. バックグラウンドを直接的に削減する方策と してヘッドが可動式のコリメーターが HER に20 台,LER に11 台設置されている.運転可能な最 大ビーム電流は加速器側の事情だけでなく Belle II検出器が許容できるバックグラウンドの上限に よっても制約される.一般にバックグラウンドを 減らすにはβ

*

yを絞るほどコリメーターの開口径 をより狭めなければならない.一方で,コリメー ターを狭めるとビーム入射の難易度が上がるだけ でなく,蓄積ビームが感じるインピーダンスが増 えてビーム不安定性を誘発することが懸念され る. 実際に SuperKEKB ではインピーダンスを原因と するビーム不安定性が弊害になり始めている.図7 は LER のバンチの垂直方向の振動のスペクトラム である.主に二つのピークが確認できる.これらは ベータトロンチューンをνβ,シンクロトロンチュー ンをνs, mを整数とした場合のビームのコヒーレン ト振動の固有モード(νβ+mνs)の内の m=0 と m= 図6 2019c(CW なし),2020a/b(CW あり)の Lspのバンチ 電流積依存性. 図7 LER で観測されたバンチの垂直方向の振動スペクト ル.バンチ電流は0.5 mA.二つのコヒーレントモード が確認できる.

(7)

−1のモードであると考えられる.バンチ電流 Ib

増加すると,インピーダンス由来のチューンシフ トで二つのチューンが重なり不安定化する(Trans-verse Mode Coupling Instability, TMCI)10).2020c で はνs=−0.0235に 対 し て dνβ/dIb=−0.02 mA−1と い う大きなチューンシフトが LER で観測されてい る.この TMCI が問題となり LER のバンチ電流を 0.8 mA以上蓄積することができなかった.また, コリメーターを狭めることでビームサイズが増大す ることも確認された.TMCI を避け且つバックグラ ウンドが許容できる運転条件を模索することが喫 緊の課題である. 2020cで TMCI が大きな問題となった原因とし て,2020c 前のシャットダウン中に行われたコリ メーターヘッドの材質変更が有力視されている. これまでに何らかの理由で不安定化したビーム が照射されることによるヘッドの損傷が計8 回確 認されている.損傷を避けるために LER のコリ メーターのうち一台のヘッドの材質を現状のタン タルから損傷しにくいカーボンに試験的に変更し た.ところが,最新の計算によればこの材質変更 によりコリメーターのインピーダンスが50% 程 度増加してしまう.この計算結果と2020c での運 転状況を鑑み,2020c 終了後に材質をタンタルに 戻すことが決定された. コリメーターの損傷に関しては未だ原因不明の ビーム不安定性がその引き金となっていると考え られており,その原因を理解しなければ大電流で 安定した運転は困難である. 4.2 再現性と安定性 図3 に示したように直近の運転である2020c は最高ルミノシティを達成した2020a/b に比べ てルミノシティが低い.各種マシンの条件を 2020a/bに な る べ く 近 づ け る 努 力 を 行 っ た が, TMCIの問題もあり2020c では2020a/b に比べて低 いビーム電流で運転せざるを得なかった. 2020a/bの性能を再現できなかった別の原因に ビームサイズの変動が挙げられる.図8 にビーム サイズ変動の様子をビーム電流と共に示す.LER のビーム電流が増加するに従い,特に HER の ビームサイズが激しく振動を始める.周波数解 析から変動の周期は約60 秒であること,また同 じ周期の軌道変動が LCC 用の六極電磁石で発生 していることが分かっている.既述のとおり LCC 用の六極電磁石での軌道変化は大きなエミッタン ス源となるため,ビームサイズ変動と相関がある ことはコンシステントであるが,これらの変動が 発生するメカニズムは分かっていない.この例に 限らず,例えばマシンメンテナンス後の立ち上げ 前後でマシンの性能を確実に再現するのはそう容 易ではないのが現状である. ビーム入射も安定性を担保するのが難しい項目 である.これは主リングのアクセプタンスが狭い ため,ビーム入射機器の性能やビームの品質に対 する要求が非常に高いためである.とりわけ入射 ビームの質(軌道,位相空間での形状)を長時間 にわたって維持することが重要な課題となってい る.ビーム軌道及びエネルギーに対する各種の フィードバックシステムが整備されているが,そ れだけでは入射性能が良い状態を維持できず,頻 繁な調整が必要となっている. 最後にハードウェアの老朽化も深刻であること を付け加えておく.SuperKEKB のハードウェア やインフラはその多くが KEKB もしくはそれ以 前の TRISTAN から流用されている.システム老 朽化に伴うトラブルも度々発生しており,これも 安定な運転を妨げている.

5

.ま と め

SuperKEKBは衝突運転開始から約3 年で KEKB のピーク性能を更新した.これは KEKB がその ピーク性能到達までに運転開始から約10 年か かったことを考えると驚異的なスピードである. これは一重に KEKB 時代に培われてきたノウハ ウの賜物である.一方で設計値までの道のりは険 しいものであることが浮き彫りになった3 年間で 図8 垂直方向ビームサイズの変動.

(8)

あった.今後,さらなる性能向上を目指すために は,まずは安定した営業運転が行えるだけマシン を理解し制御できるかがポイントになるだろう. 我々は既に人類未踏のパラメータ領域に踏み込 んでいる.そのため,SuperKEKB の調整はまず 試しにやってみないと何が起こるか分からない, という部分が多分にある.SuperKEKB がさらに 大幅にルミノシティ性能を更新したとき,設計当 時のコンセプトとはまったく別のマシンパラメー タで運転を行っているかもしれない. 参 考 文 献

1) Y. Ohnishi, T. Abe, T. Adachi, K. Akai, Y. Arimoto, K. Ebihara, K. Egawa, J. Flanagan, H. Fukuma, Y. Funa-koshi, K. Furukawa, T. Furuya, N. Iida, H. Iinuma, H. Ikeda, T. Ishibashi, M. Iwasaki, T. Kageyama, S. Kamada, T. Kamitani, K. Kanazawa, M. Kikuchi, H. Koiso, M. Masuzawa, T. Mimashi, T. Miura, T. Mori, A. Morita, T. Nakamura, K. Nakanishi, H. Nakayama, M. Nishiwaki, Y. Ogawa, K. Ohmi, N. Ohuchi, K. Oide, T. Oki, M. Ono, M. Satoh, K. Shibata, M. Suetake, Y. Suetsugu, R. Sugahara, H. Sugimoto, T. Suwada, M. Tawada, M. Tobiyama, N. Tokuda, K. Tsuchiya, H. Yamaoka, Y. Yano, M. Yoshida, S. Yoshimoto, D. Zhou and Z. Zong: Prog. Theor. Exp.

Phys. 2013, 03A011 (2013).

2) 飯島 徹:加速器15, 221 (2018).

3) T. Abe, K. Akai, N. Akasaka, M. Akemoto, A. Akiyama, M. Arinaga, Y. Cai, K. Ebihara, K. Egawa, A. Enomoto, E. Ezura, J. Flanagan, S. Fukuda, H. Fukuma, Y. Funakoshi, K. Furukawa, T. Furuya, J. Haba, K. Hara, T. Higo, S. Hiramatsu, H. Hisamatsu, H. Honma, T. Honma, K. Hoso-yama, T. Ieiri, N. Iida, H. Ikeda, M. Ikeda, S. Inagaki, S. Isagawa, H. Ishii, A. Kabe, E. Kadokura, T. Kageyama, K. Kakihara, E. Kako, S. Kamada, T. Kamitani, K. Kana-zawa, H. Katagiri, S. Kato, T. Kawamoto, S. Kazakov, M.

Kikuchi, E. Kikutani, K. Kitagawa, H. Koiso, Y. Kojima, I. Komada, T. Kubo, K. Kudo, S. Kurokawa, K. Marutsuka, M. Masuzawa, S. Matsumoto, T. Matsumoto, S. Michi-zono, K. Mikawa, T. Mimashi, T. Mitsuhashi, S. Mitsu-nobu, T. Miura, K. Mori, A. Morita, Y. Morita, H. Nakai, H. Nakajima, T. T. Nakamura, H. Nakanishi, K. Nakanishi, K. Nakao, H. Nakayama, M. Nishiwaki, Y. Ogawa, K. Ohmi, Y. Ohnishi, S. Ohsawa, Y. Ohsawa, N. Ohuchi, K. Oide, T. Oki, M. Ono, T. Ozaki, E. Perevedentsev, H. Sakai, Y. Sakamoto, M. Sato, K. Satoh, M. Satoh, Y. Seimiya, K. Shibata, T. Shidara, M. Shimada, S. Stanic, M. Shirai, A. Shira kawa, T. Sueno, M. Suetake, Y. Suetsugu, R. Suga-hara, T. Sugimura, T. Suwada, O. Tajima, S. Takano, S. Takasaki, T. Takenaka, Y. Takeuchi, Y. Takeuchi, M. Tawada, M. Tejima, M. Tobiyama, N. Tokuda, K. Tsuchi-ya, S. Ue hara, S. Uno, Y. Wu, N. Yamamoto, Y. Yama-moto, Y. Yano, K. Yokoyama, M. Yoshida, M. Yoshida, S. Yoshimoto, K. Yoshino, M. Yoshioka, D. Zhou, F.

Zim-mermann and Z. Zong: Prog. Theor. Exp. Phys. 2013,

03A001 (2013).

4) 船越義裕:加速器13, 91 (2016).

5) 大内徳人:加速器15, 253 (2018).

6) 大西幸喜:加速器15, 245 (2018).

7) “SuperB Conceptual Design Report” INFN/AE-07/2, SLAC-R-856, LAL 07-15, March 2007.

8) P. Raimondi: Proceedings of the 2nd SuperB Workshop, Frascati, March 2006.

9) K. Oide, M. Aiba, S. Aumon, M. Benedikt, A. Blondel, A. Bogomyagkov, M. Boscolo, H. Burkhardt, Y. Cai, A. Dobl-hammer, B. Haerer, B. Holzer, J. M. Jowett, I. Koop, M. Ko-ratzinos, E. Levichev, L. Medina, K. Ohmi, Y. Papaphilip-pou, P. Piminov, D. Shatilov, S. Sinyatkin, M. Sullivan, J. Wenninger, U. Wienands, D. Zhou and F. Zimmermann:

Phys. Rev. Accel. Beams 19, 111005 (2016).

10) A. W. Chao: Physics of Collective Beam Instabilities in High Energy Accelerators, New York, Wiley (1993).

参照

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