ヘッド走査方式の変遷に見る磁気記録の動向と展望
奥田 治雄
*Trend and prospect of magnetic recording technology from the viewpoint of head
scanning system
Haruo OKUDA
Abstract:
Magnetic tape storages have been used for long time for recording audio, video and data of sensor, computer and so on. Various scanning systems were developed for tape storage, and after all, linear scanning and helical scanning survive. The two systems have been struggling with each other. After 2010s, the superiority of the linear scanning became clear. While the performances of the other storage systems come near to the physical limitation, the magnetic tape storages are progressing. They will be used from now on to record expanding digital data.
KEY WORDS : magnetic recording, magnetic tape, storage, head scanning system, helical scanning, linear scanning 要旨: 磁気記録は音声,映像,センサーやコンピュータ等のデータの記録に長く使われてきた。磁気テープストレージ は走査方式で特徴づけられ,さまざまな方式が開発された。結局,リニア走査とヘリカル走査が生き残り,競い合 いながら進歩してきたが,2010年以降,リニア走査の優位が明確になった。他の記録方式の特性向上が物理限界 に近づいてきた中で,磁気テープストレージは進化が続いている。増大するディジタルデータの記録に今後も利用 が拡大し続けるだろう。 キーワード:磁気記録,磁気テープ,ストレージ,ヘッド走査方式,ヘリカル走査,リニア走査
1.まえがき
磁気記録は記録密度が高く,安定で信頼性も高い ことから,音声,映像,センサーやコンピュータ等 のデータの記録に中心的役割を果たしてきた。近年 は光ディスクや半導体メモリなど新しい記録デバイ スの性能や使い勝手が向上し,それらの間で激しい 競争が続いている。磁気記録はデータを磁気ヘッド で読み書きする走査方式によりさまざまな特徴があ る。このうち回転ヘッドを用いるものは有力な方式 として広く使われてきたが,実用化されて60 年が経 ちその寿命を終えようとしている。一方,古くから 使われてきたリニア走査方式は進化を続け,これを 用いたデータ記録は競争力を維持している。このよ うな時期に当たり,本稿では磁気記録のうち主に磁 気テープを用いたストレージについて歴史的変遷を 踏まえて展望する。2.ストレージに求められる特性
半導体メモリを除く記録システムは,記録媒体(メ ディア)と記録・再生のための装置(ドライブ)で 構成される。ドライブはヘッド,ヘッドで記録媒体 に読み書きするための機構,信号処理回路などから なる。それら全体をストレージと呼んでいる。 ストレージの特性を決める主な項目は,記憶容量 (または記録密度),転送速度(ビットレート),ア クセス時間である。記録媒体にとって,この他に保 存可能期間,書き換え可能回数,取扱いの容易さ, テープ収容サイズ,アクセスの容易さ,価格(ビッ ト単価),信頼性(エラーレート)なども考慮する必 要がある。ドライブでは機構,サーボの安定性,価 格(初期コスト,保守の容易さ),寸法,消費電力な *湘南工科大学 工学部 電気電子工学科 教授表1.最新のストレージの特性例 ストレージ 記憶 容量 (TB) 転送速度 (読出時) (Gb/s) アクセス 時間 (概数値) メディア サイズ (mm) メディア 価格 (千円) 製品例 磁気テープ 10 2.88 ~数10s 109×125×24.5 43 IBM TS1150 ハードディスク 10 1.68 8ms 102×26.11 ×147 55 Seagate 3.5 inch HDD Skyhawk
光ディスク 3.3 2 100ms 138×140×18 18 SONY Optical Disc Archive Cartridge ODC3300R (Archival Disc 11 枚装填) 半導体メモリ 2 4.32 100μs 100×70×6.8 125 Samsung SSD 850 PRO ども重要である。 最新の磁気テープ,ハードディスク,光ディスク, 半導体メモリの特性例を表 1 示す。アクセス時間を 除けばいずれの方式も特性が似通っていることが分 かる。 コンピュータなどのデータ記録において最も重要 な特性は,記憶容量である。IDC (Internet data Center) によると,全世界で発生するディジタルデ ータ量は2013 年に 4.4 ZB(Z(ゼタ)は 1021)であ ったのが,2020 年には 10 倍の 44 ZB になると予測 されている1)。表1 のように最近の記録媒体は 1 メ ディアで数TB という容量がある。しかし,増大する 需要を満たすにはさらなる大容量化が求められる。 一方,高速に読み書きできることは望ましいが,ビ ットレートが一定である必要はない。記録・再生は ファイルを単位として行われ,アクセス時間も性能 を決める重要な要素である。 これに対して,音声や映像の記録では,ストリー ムの周波数帯域やビットレートを欠けることなく記 録・再生できることが必須である。記憶容量は必要 とする記録時間に応じて決まる。音声(ステレオ非 圧縮)の帯域は20kHz ,ビットレートは 1 Mb/s, 映像(HDTV 非圧縮)の帯域は 20 MHz,ビットレ ートは1 Gb/s 程度であるので,1 時間記録する場合 の容量は音声が4 GB,映像は 4 TB 程度となる。音 声や映像の記録・再生はストリームに対して連続的 に行うので,アクセス時間は編集するときを除いて それほど重要でない。
3.磁気記録の特長
磁性材料に情報を書き込む磁気記録は,電気信号 を半永久的に記録する有力な方法として長い歴史を 持つ。磁気記録は,磁石の材料で構成される磁性媒 体(磁気記録媒体)の上に,電気情報の信号波形に 対応した長さと強さの微小磁石(グレイン)を並べ ることにより記録する技術である。そして,その記 録された媒体から電流(または電圧,抵抗値など) の変化として情報を読み出し,元の信号波形を再生 する。磁性媒体は 2 次元の平面上にグレインを並べ た構造であるために,磁気ヘッドと媒体のどちらか または両方を移動させながら摺動させることにより 情報を読み書きする。このことを走査(Scanning) と言う。磁性媒体はそれ自体の厚みは1μm 以下で薄 いことから,それを保持するための紙,プラスチッ ク,アルミニウムのような非磁性の金属やガラスな どの支持体(ベース)が必要となる。ベースを含む 記録媒体の形状により磁気テープ,磁気ディスク(ハ ードディスク),磁気カードなどがある。 磁気記録には光記録や半導体メモリに比べて記録 された情報が長期にわたって安定で,記録・再生の 繰り返し回数にほぼ制限がないという特長がある。 磁気で記録された情報が消え去る原因はグレインの 残留磁化(磁気的強さを表す量で残留磁束密度とも いう。単位はT(テスラ))が熱により擾乱を受ける ことである。記録密度が高まれば相対的に擾乱の程 度も大きくなるが,最近の高抗磁力(磁化された磁 性体を磁化されていない状態に戻すために必要な外 部磁界の強さ。保磁力ともいう。単位は A/m)の磁 気記録媒体で問題になることは殆んどない2)。すなわ ち磁性体を保持するベースが破壊されなければ記録 された情報は半永久的に残る。 磁気記録は半導体メモリのような信号を取り出す 配線が不要であることから,媒体の全面を記録のた めに使うことができ,記録密度が高く容量を増やし 易い。さらに磁気テープではテープを巻き取ること で磁性媒体の面積を増やすことができることも大容 量化に有利である。4.走査方式の変遷
4.1 磁気記録の走査方式 走査とは,前述のように 2 次元の記録媒体上のト ラックと呼ぶ走路に情報を記録し,再生時には記録 されたトラックを正確になぞって(トラッキングと いう)情報を取り出す操作のことである。 ハードディスクではトラックは同心円状であり, 回転するディスクに固定したヘッドを当てて摺動さ せることで走査が行える。ヘッドとディスクは対で, 組合せは常に変わらない。トラック幅数10nm,回転 速度10,000rpm 程度での高精度・高速のトラッキン グが要求されるが,その機構は比較的に単純といえ る。 これに対してテープ記録ではテープとドライブが 独立に存在する。テープ上のトラックパターンなど の記録フォーマットを正確に決めなければ,他のド ライブでの再生はもちろん,記録に使ったドライブ 自身での再生(自己再生)もできない。様々の走査 方式が試みられた中で,実際に記録・再生に成功し たのは以下の5 つの方式である。固定したヘッドを 用いるリニア走査方式を除くと他の全ては磁気ヘッ ドを回転させて記録・再生する回転ヘッド方式であ る。 4.2 リニア走査方式(固定ヘッド方式) リニア走査方式は固定した磁気ヘッドで移動する テープ上に信号を記録することから,固定ヘッド方 式とも呼ぶ。情報を記録するトラックがテープの走 行方向と平行であるため長手走査(Longitudinal scan)とも言われる。構造が簡単で,早くから音声 やデータの記録に使われてきた。この方式のテープ 走行系とトラックパターンを図1 に示す。 リニア走査方式では記録する信号の帯域に反比例 して記録波長(トラック上の磁化の1周期の長さ) が短くなる。記録波長が短くなると再生出力が下が ることから,十分な出力を確保するにはテープの走 行速度を信号の帯域に応じて速くしなければならな い。しかし,テープ走行が速くなるとテープ消費量 が増え,記録時間が短くなる。そこで走行速度を速 めないで済むように,トラック幅を狭め,複数のト ラックを同時に用いるマルチトラック化により,ト ラック当たりの帯域を下げることも行われる。 4.3 ヘリカル走査方式 ヘリカル走査方式は回転する円筒形の磁気ヘッド アセンブリ(形状から「ヘッドドラム」「シリンダ」, 働きから「スキャナ」などと呼ぶ)に磁気テープを 図 1 リニア走査のテープ走行系とトラックパターン 斜めに走行するように巻きつけ,テープ磁性面に傾 斜した多数の記録トラックを形成する方式である。 シリンダを高速回転させることでヘッド・テープ間 の相対速度を大きくできるため,広帯域の信号でも 記録波長を長くすることができる。テープ走行系に は図2 のようにアルファ巻とオメガ巻などがある。 同図にトラックパターンも示す。ヘリカル走査方式 はテープを安定に走行させるための機構が複雑で, 正確なトラッキングが難しいという問題がある。 4.4 アーキュエイト走査方式 アーキュエイト走査(Arcuate scan)方式は,円 板の板面に取り付けたヘッドを回転させながらテー プ上に円弧を描きながら記録させる方式である。テ(c) Track pattern on a tape Tape running direction
(b) Tape transport mechanism (Dual reel cassette) Fixed head
Supply reel Tape
Take-up reel (a) Tape transport mechanism (Single reel cartridge) Fixed head
Take-up reel
Tape
図 2 ヘリカル走査のテープ走行系とトラックパターン 図 3 ア-キュエイト走査のテ-プ走行系とトラックパタ-ン ―プ上のトラックが弓の形になるのでこのように呼 ばれる。この方式のテープ走行系とトラックパター ンを図3 に示す。 アーキュエイト走査では複数のヘッドとテープを 安定して接触させることが難しいため,再生信号の 振幅も不安定になりがちである。 4.5 トランスバース走査方式 トランスバース走査方式は円弧状に変形させたテ ープの内側を回転ヘッドで走査することで信号を記 録する。テープ上のトラックはテープ走行方向に対 してほぼ直角であることからこの名前が付いた。テ ―プは金属製のテープガイドを通過させ,真空で吸 引して整形する。ヘッドは円板の外周に取り付けら れる。この方式のテープ走行系とトラックパターン を図4 に示す。 4.6 マトリクス走査方式 マトリクス走査方式はヘリカル走査方式よりも簡 単な機構のVTR を目指して民生用に考案された3)。 他の回転ヘッド方式と異なってテープ走行方向とヘ ッドの回転方向が一致している。当初はテープ上に 記録に使用しない部分ができる欠点があったが,の ちにテープのほぼ全面を使用して記録できる方式が 考案された4)。 図 4 トランスバ-ス走査のテ-プ走行系とトラックパタ-ン (b)Track pattern on a tape
(c) Track pattern on a tape Writing direction
Tape running direction
Tape running Scanner
Heads
(a) Tape transport mechanism
(b) Track pattern on a tape Tape running direction (b) Tape transport mechanism
(180 degree Omega wrap) Lower cyrinder (Fixed) Heads
(Hidden under the tape)
Tape running Upper cylinder (Rotate) Cylinder
(a) Tape transport mechanism (Alpha wrap) Tape running Head
(Hidden under the tape)
Tape running direction (a) Tape transport mechanism
Tape
(Shaped into a quarter of a cylinder) Vacuum pump Vacuum chamber Tape guide Heads Tape running Scanner
この方式のテープ走行系とトラックパターンを図 5 に示す。マトリクス走査方式は安定した記録・再生 が可能であったが,開発された当時すでにヘリカル 走査方式の完成度が高く,ストレージが実用化され ることはなかった。 図 5 マトリクス走査のテープ走行系とトラックパターン
5.磁気テープストレージ開発史
5.1 音声記録 磁気テープストレージの起源は,1898 年にデンマ ークの Valdemar Poulsen によって発明された鋼線 式磁気録音機“テレグラフォン”である。1930 年代に は鋼線よりも音質の優れた鋼板テープが開発され, イギリスのBBC が短波放送の記録再生用に使ったが 実用的とは言えなかった。 ドイツではそれより前の1928 年に Fritz Pfleumer が紙テープに酸化物を塗布した磁気録音テープとこ れを使った録音機を製作した。この技術をAEG 社と IGF 社 (現在の BASF 社)が協力して改良し,1934 年に “マグネトフォン”を完成させた。その後,第 2 次世界大戦末期にはテープの磁気材料がガンマ酸化 鉄(γFe2O3)に,ベースはPVC になり,再生周波数 は50 Hz~10 kHz,ダイナミックレンジは 60 dB に 達した。これが戦後の6 mm オープンリールテープ レコーダにつながった。その後,1962 年にオランダ のフィリップス社がコンパクトカセットを開発し, 民生用音声記録の事実上の標準となった。 音声情報のディジタル記録を最初に開発・公開し たのはNHK 放送技術研究所である。1967 年に標本 化周波数30 kHz,12 ビット量子化のディジタル信号 を,ヘリカル走査方式でテープ幅が1インチのVTR を使用して記録した。1969 年には英国の BBC 研究 所がリニア走査方式のディジタル記録の実験を行っ た。1970 年代中ごろまでには日本の各社からリニア 走査方式のマスターレコーダーの提案が続いた。そ の後1987 年に,ヘリカル走査方式を採用し,4 mm 幅のテープを使用する民生用 DAT(Digital Audio Tape)が製品化された。1991 年にはフィリップス社 がアナログのコンパクトカセットと同じサイズのテ ープにリニア走査方式で記録する DCC(Digital Compact Cassette)を発表し,翌 1992 年に同社と 松下電器(現パナソニック)が製品を発売した。ま た,同じ1992 年にソニーがボイスレコーダ用にデジ タルマイクロカセット(商品名スクープマン)を発 売した。カセットは切手サイズで,2.5 mm 幅のテー プにヘリカル走査で記録した。しかし,1989 年に記 録可能なCD,1992 年に MD などの扱いやすい光デ ィスクや光磁気ディスクメディアが現れたことで音 声用磁気テープは次第にこれらに置き換わった。 5.2 データ記録 データ記録は,第2 次世界大戦の前から軍事や計 測の分野で必要とされた。最初はデータを音声で読 み上げて記録する方法がとられたが,トランスデュ ーサの技術が進歩すると,データをディジタル記録 するデータレコーダの開発が望まれた。要求された 記録帯域は,音声の10 kHz 程度より大幅に広い 200 kHz にもなり,これを満たすためマルチトラック方 式が採用された。1940 年代の終わりころ,特に米国 でインストルメンテーション記録と言われる記録装 置の研究が盛んになった。この結果,1 インチ幅テー プにマルチトラック記録し,4 Mb/s 程度のディジタ ルデータが記録できるようになった5)。 1946 年にコンピュータが開発されると,その入出 力装置としてストレージが求められるようになった。 世界最初の商用コンピュータであるUNIVAC I には 鋼板テープを使用したテープストレージが附属した。 そして,その後開発されるコンピュータからは磁気 テープ装置が附属するようになった。最初の磁気テ ープストレージは 1952 年に製品化された IBM Model726 オープンリールテープユニットである6)。 磁気テープには 3M 社(現在のイメーション社)の 開発した1/2 インチ幅が使われた。このユニットは高 (b)Track pattern on a tapeTape running direction Cylinder
(Moving up and down)
Tape running
Heads (Hidden under the tape) (a) Tape transport mechanism
速入出力装置として位置づけられ,当時使われてい たパンチカードの50 倍以上の性能を有していた。7 トラック(うち1 トラックはパリティ用),100 b/inch の線記録密度で,10.5 インチのリールに巻いたテー プに250 kB のデータを記録できた。オープンリール 方式のテープストレージは1984 年に単 1 リールカー トリッジの IBM3480 ファミリーが現れるまで改良 されながら長期にわたって使われた。 これらのストレージはエンタープライズ用といわ れ,開発社が独自に製品仕様を定める自由な設計と なっている。その後,ワークステーションやPC など 中小型のコンピュータが現れると,標準化されたオ ープンフォーマットによるミッドレンジやエントリ ー向けのテープストレージも現れた。インストルメ ンテーション記録とコンピュータ用ストレージとは 要求仕様が似通っていることからデータストレージ として共用されることが多くなった。 データストレージのテープ幅は,19 mm (3/4 イン チ),12.65 mm (1/2 インチ),8 mm,6.3 mm (1/4 イ ンチ),3.81 mm (4mm) など多くの種類があり,リ ニア走査方式,ヘリカル走査方式ともに使われる。 テープは単1 リールのカートリッジか 2 リールのカ セットに収容される。記録媒体の形状により QIC (Quarter Inch Cartridge) 型(リニア走査),1/2 イ ンチ単1 リール形(リニア走査,一部ヘリカル走査), 放送用ディジタルVTR をベースとするもの(ヘリカ ル走査),民生用の8 mmVTR や DAT をベースとす るもの(ヘリカル走査)などに分類できる7)。 5.3 映像記録 第2 次世界大戦後の 1947 年,アメリカでテレビジ ョンの定時放送が始まると,東海岸で制作された番 組の西海岸での時差再生が求められ,映像信号を録 画するVTR 開発の機運が高まった。開発当初は音声 記録と同様に,固定ヘッドを用いるリニア走査方式 が試みられた。1951 年にビング・クロスビー・エン タープライズ社およびRCA 研究所がそれぞれリニア 走査による映像信号の記録に成功した。音声信号の 100 倍以上の帯域を記録するためテープの走行速度 はともに約9 m/s と非常に高速で,記録時間は直径 45 cm のリールに巻かれたテープでもわずか 4 分程 度であった。その後,マルチトラック方式により, 1953 年にはソニーの木原信敏が試作機を,1956 年 に BBC 研 究 所 が VERA (Vision Electronic Recording Apparatus) と呼ぶ VTR を発表した。 カラー映像は1955 年に RCA が 10 ch のマルチト ラックにより記録に成功したが画質は満足できるも のではなかった。 回転ヘッドによる走査方式も早くから検討された。 1950 年には RCA 社がヘリカル走査方式を発明し, VTR を試作した。ヨーロッパでは西ドイツのテレフ ンケン社やイギリスのBBC 研究所が 1956 年にそれ ぞれヘリカル走査方式によりVTR を開発した。 日本では東芝の澤崎憲一がヘリカル走査方式,日 本ビクターの高柳健次郎は回転2 ヘッドヘリカル走 査方式の研究を行い,VTR を完成させた。同じ頃, ソニーと松下電器も研究を進めたが,いずれも画質 的に放送用途の要求を満たすものではなかった。 一方,アンペックス社は1951 年にアーキュエイト 走査方式の研究を開始した。1952 年に開発した VTR は,ヘッド回転数18,000 rpm,テープ走行速度が約 75 cm/s で,2~3 MHz の帯域の映像信号を記録した 8)。しかし,ヘッドとテープの安定な接触が難しく画 質は良くなかった。 トランスバース走査方式はこれらにやや遅れ, 1954 年にアンペックス社が実験を始めた。そして 1956 年にこの方式による VTR を初めて公開した9)。 このVR-1000 は 2 インチ幅のテープと 4 個のヘッド を用いたことから,2 インチ 4 ヘッド型,またクアド ラプレックス (Quadruplex) とも呼ばれた。この VTR はそれまでのものに比べて画質が非常に優れて いたことから,RCA もアンペックス社と共同でこの 方式のカラーVTR を製造した。その後,公開された 仕様を基に日本と西ドイツも量産に成功した。この 方式のVTR は高画質で安定という放送用の要求を満 たす録画が可能であったため,その後20 年以上にわ たって世界中の放送局で使用された。 一方,いったん下火となったヘリカル走査方式の 開発はその後も続けられ,1970 年代になるとトラン スバース走査方式よりも小型になり性能も向上した。 1976 年に開発されたテープ幅 1 インチのオープンリ ールVTR(Type B および Type C)は 2 インチ 4 ヘ ッド型に代わって放送用の標準VTR となった。その 後も開発が続き,テープは次第に幅が狭くなって 2 リールのカセットに収容されるようになった。映像 信号の帯域がこれまでのテレビの 5 倍以上ある HDTV (High Definition Television) を記録できる ものも作られた。 テレビジョン信号のディジタル記録の検討は1970 年 代 に 始 ま り , イ ギ リ ス の IBA (Independent Broadcasting Authority) がヘリカル走査方式でア ナログ記録と同程度のテープを使ってディジタル記 録が可能なことを実験で示した。BBC も 1975 年に 1 インチ幅のテープに42 個の固定ヘッドで記録する実 験機を完成させた。日本を含む各国で様々な実験が 行われる中,ディジタル記録方式の統一化の必要性
がEBU (European Broadcasting Union) やアメリ カ の SMPTE (Society of Motion Picture and Television Engineers) で認識され,SMPTE に研究 グループが作られた。その結果,統一規格 D-1 が完 成し,1986 年にソニーと西ドイツのボッシュ/フェル ンゼ社が製品化した。その後,次々に多くのフォー マットの放送用,民生用ディジタルVTR が開発され た。2000 年前後には放送のディジタル化・HDTV 化 が進み,VTR も HDTV を記録できるものが中心とな った。これら全てがヘリカル走査方式を採用した10)。
6.リニア走査とヘリカル走査
表2 に実用化された音声,映像,データ記録用磁 気テープストレージを発売された年代順にまとめた。 表から,音声のアナログ記録ではリニア走査方式, ディジタル記録では主にヘリカル走査方式が使われ, 映像記録では初期の2 インチ 4 ヘッド型を除けば全 てヘリカル走査方式が使われているのが分かる。デ ータ記録はリニア走査方式,ヘリカル走査方式とも に使われている。すなわち,実用的に成功した走査 方式はほぼリニア走査とヘリカル走査に限られる。 以下にそれぞれの得失について述べる。 6.1 走査機構 ヘリカル走査ではテープ走行とヘッド走行を別々 に行うため機構が複雑で,ドライブも大きくなる。 またトラックがテープ走行方向から傾いていて,テ ープ・ヘッド相対速度も高いためトラッキング制御 も難しくなる。さらに,高速に回転するヘッドで確 実にトラッキングするためにテープテンションを高 くする必要があり,テープへのダメージが多くヘッ ドの摩耗も早いなど,リニア走査に比べると不利な 点が多い。ただ,リニア走査においてもマルチトラ ック化でトラック密度が高くなるにつれて,トラッ キング制御やヘッドとテープ間の安定した摺動に高 度な技術が求められるようになっている。 6.2 記憶容量 テープの記憶容量はテープの表面積と面記録密度 で決まる。テープの表面積はテープの幅と長さの積, 面記録密度はトラック密度(単位幅当たりのトラッ ク数)と線記録密度(トラックの単位長あたりのビ ット数)の積である。同じ体積の中でテープの表面 積を増やすにはテープ厚を薄くすればよい。このこ とはリニア走査方式,ヘリカル走査方式双方の記憶 容量増加に同じ効果をもたらす。現在のテープはベ ースに引っ張り強度の高いPEN や PA を用いること で,厚さが6μm 以下と非常に薄くなっている。 同じ線記録密度で記録する場合,リニア走査方式 では固定トラックの密度を上げること,すなわちト ラック数を増やすことが容量増加の必要条件である。 これに対し,ヘリカル走査方式では回転ヘッドのト ラック幅を狭め,テープ速度を遅くしてトラック密 度を上げることで容量を増やすことができる。記憶 容量は激しい開発競争で両走査方式ともに向上して きた。 6.3 転送速度 転送速度はヘッド・テープ相対速度と線記録密度 の双方に比例する。リニア走査においてヘッド・テ ープ相対速度はテープ走行速度と同じであり,転送 速度はテープ走行速度と並列記録数すなわち同時に 読み書きするトラック数の積である。トラック数を 増やすことが容易でなかったころには,転送速度を 上げるにはテープ走行速度を早くせざるを得ず,テ ープ消費量が多くなるという問題があった。これに 対して,ヘリカル走査では回転ヘッドの回転速度が ヘッド・テープ相対速度に比例することから,転送 速度は当初から高かった。ヘリカル走査においても ヘッド数を増やして並列記録すれば,さらに転送速 度を上げられる。 転送速度とテープ走行速度の関係はリニア走査と ヘリカル走査とで大きく異なる。上に述べたように リニア走査では転送速度とテープ走行速度は比例す る。ヘッドから出力される再生信号のエンベロープ (再生信号の振幅の包絡線)は定格のテープ速度で 最大となるが,図 6(a)に示すようにそれ以外の速度 でもエンベロープが閾値以上であればデータを読み 出すことができる。これに対してヘリカル走査では 回転ヘッドの回転数を変化させるのは容易でないた め転送速度は一定になる。テープ走行速度が規定値 からずれると,ヘッドはトラックを追従できなくな り,図 6(b)のようにエンベロープは菱形状に変動す る。つまり,データは断続的にしか読み出すことが できなくなる。これはデータ記録にとって致命的で ある。一方,映像記録では正しく読み出すことので きた情報と,エラー修整(コンシールメント)され た情報を用いて不完全ながらも映像を表示させるこ とができ,これにより,早送りやスローモーション 再生を行うことができる。 6.4 アクセス時間 アクセス時間とは磁気ヘッドが目的の記録位置に 到達し,正常に記録・再生できるようになるまでの 時間である。リニア走査方式においては現在のテー表2 実用化された磁気テープストレージ(主なもの) 名称 発売年 用途 走査 方式 テープ幅(mm) 収容形態 開発者 開発国 6mm オープンリール* 1947 A L 6.35 O 3M アメリカ Model 726 1952 D L 12.65 O IBM アメリカ Model 727 1955 D L 12.65 O IBM アメリカ 2 インチ 4 ヘッド型* 1956 V T 50.8 O Ampex アメリカ Model 728 1958 D L 12.65 O IBM アメリカ Model 729 1961 D L 13.65 O IBM アメリカ コンパクトカセット* 1962 A L 3.81 C2 Philips オランダ EIAJ 統一 1 型* 1969 V H 12.65 O ソニー,松下ほか 日本 U-マチック* 1971 V H 19.01 C2 ソニー,ビクター,松下 日本 QIC (DC300) 1972 D L 6.27 C2 3M アメリカ Model 7330 1973 D L 13.65 O IBM アメリカ ベータマチック* 1975 V H 12.65 C2 ソニー 日本 VHS* 1976 V H 12.65 C2 ビクター 日本 1 インチ Type B* 1976 V H 25.35 O Bosch Fernseh 西ドイツ 1 インチ Type C* 1976 V H 25.35 O Ampex/ソニー 米,日本 1 インチアナログHDTV* 1983 V H 25.35 O ソニー 日本 IBM 3480 1984 D L 12.65 C1 IBM アメリカ DLT (TK50) 1984 D L 12.65 C1 DEC アメリカ 8mmビデオ* 1985 V H 8 C2 ソニー,松下ほか 日本 IBM 3490 1986 D L 12.65 C1 IBM アメリカ SLR1 (QIC-150) 1986 D L 6.27 C2 Tamberg Data アメリカ ベータカムSP* 1986 V H 12.65 C2 ソニー 日本 M-II* 1986 V H 12.65 C2 松下/ NHK 日本 ED ベータ* 1986 V H 12.65 C2 ソニー 日本 DAT 1987 A H 3.81 C2 ソニー 日本 Data8 (D8)/ Exabyte 1987 D H 8 C2 Exabyte アメリカ D-1 コンポーネント 1987 V H 19.01 C2 ソニー 日本 S-VHS* 1987 V H 12.65 C2 ビクター 日本 DDS-1 1989 D H 3.81 C2 ソニー, HP 日本, 米 QIC Mini 1989 D L 6.27 C2 3M アメリカ D-2 コンポジット 1989 V H 19.01 C2 ソニー/Ampex 日本,米 UNIHI (業務用 HDTV)* 1989 V H 12.65 C2 NHK-ES ほか 日本 1 インチディジタルHDTV 1989 V H 25.35 C2 ソニー,日立 日本 Hi-8* 1989 V H 8 C2 ソニー,松下ほか 日本 SD-1(ID-1), DIR 1990 D H 19.01 C2 ソニー 日本 D-3 コンポジット 1991 V H 12.65 C2 松下/ NHK 日本 DCC 1992 A L 3.81 C2 Philips,松下 蘭, 日本 デジタルマイクロカセット 1992 A H 2.5 C2 ソニー 日本 DDS-2 1993 D H 3.81 C2 ソニー, HP 日本,米 IBM 3495 1993 D L 12.65 C1 IBM アメリカ DCT 1993 V H 19.01 C2 Ampex アメリカ D-5 コンポーネント 1993 V H 12.65 C2 松下 日本 D-6 ディジタル HDTV 1993 V H 19.01 C2 BTS/東芝 日本,独 デジタルベータカム 1993 V H 12.65 C2 ソニー 日本 DLT Ⅲ 1994 D L 12.65 C1 Quantum アメリカ QIC-Wide 1994 D L 8 C2 3M アメリカ DV 1994 V H 6.35 C2 松下,ソニーほか 日本
GBR-2000D 1995 D H 19.01 C2 東芝 日本 IBM 3590 Magstar 1995 D L 12.65 C1 IBM アメリカ SD-3 Redwood 1995 D H 12.65 C1 StorageTek アメリカ TR-1 Travan 1995 D L 8 C2 3M アメリカ D-7 (DVCPRO ) 1995 V H 6.35 C2 松下 日本 DVCAM 1995 V H 6.35 C2 ソニー 日本 SD1 1995 D H 19.01 C2 ソニー 日本 AIT-1 1996 D H 8 C2 ソニー 日本 DLT Ⅳ 1996 D L 12.65 C1 Quantum アメリカ DDS-3 1996 D H 3.81 C2 ソニー, HP 日本, 米 Mammoth 1996 D H 8 C2 Exabyte アメリカ QIC-EX 1996 D L 6.27 C2 3M アメリカ HD-D5 ディジタル HD 1996 V H 12.65 C2 松下 日本 ベータカムSX 1996 V H 12.65 C2 ソニー 日本 D-9 (デジタルプロ S) 1996 V H 12.65 C2 JVC 日本 DTF-1 1997 D H 12.65 C2 ソニー 日本 SLR7 1997 D L 8 C2 Tamberg Data アメリカ TR-4 1997 D L 8 C2 3M アメリカ
T9840A Eagle 1998 D L 12.65 C2 StorageTek アメリカ AIT-2 1998 D H 8 C2 ソニー 日本 TR-5/NS20 1998 D L 8 C2 3M アメリカ D-11 (HDCAM) 1998 V H 12.65 C2 ソニー 日本 VXA-1 1999 D H 8 C2 Exabyte アメリカ Mammoth-2 1999 D H 8 C2 Exabyte アメリカ DDS-4 1999 D H 3.81 C2 ソニー, HP 日本, 米 DTF-2 1999 D H 12.65 C2 ソニー 日本 LTO-1 2000 D L 12.65 C1 Seagate/HP/IBM アメリカ T9940A 2000 D L 12.65 C1 StorageTek アメリカ D-10 (MPEG IMX) 2000 V H 12.65 C2 ソニー 日本 D-12 (DVCPRO HD) 2000 V H 6.35 C2 松下 日本 SDLT Ⅰ 2001 D L 12.65 C1 Quantum アメリカ AIT-3 2001 D H 8 C2 ソニー 日本 T9840B 2001 D L 12.65 C2 StorageTek アメリカ T9940B 2002 D L 12.65 C1 StorageTek アメリカ LTO-2 2002 D L 12.65 C1 Seagate/HP/IBM アメリカ VXA-2 2002 D H 8 C2 Exabyte アメリカ TR-7 2002 D L 8 C2 3M アメリカ SAIT-1 2003 D H 12.65 C1 ソニー 日本 AIT-4 2003 D H 8 C2 ソニー 日本 SDLT Ⅱ 2003 D L 12.65 C1 Quantum アメリカ DAT 72 2003 D H 3.81 C2 ソニー, HP 日本, 米 IBM 3592 Jaguar 2003 D L 12.65 C1 IBM アメリカ T9840C 2003 D L 12.65 C2 StorageTek アメリカ D-16 (HDCAM-SR) 2003 V H 12.65 C2 ソニー 日本 DVC HDV 2003 V H 6.35 C2 ビクター,ソニーほか 日本 TS1120 2005 D L 12.65 C1 IBM アメリカ LTO-3 2005 D L 12.65 C1 Seagate/HP/IBM アメリカ VXA-3 2005 D H 8 C2 Exabyte アメリカ DLT S4 2006 D L 12.65 C1 Quantum アメリカ T10000A 2006 D L 12.65 C1 Oracle アメリカ
AIT-5 2006 D H 8 C2 ソニー 日本 SAIT-2 2006 D H 12.65 C1 ソニー 日本 DLT S4 2006 D L 12.65 C1 Quantum アメリカ DAT 160 2007 D H 8 C2 ソニー, HP 日本, 米 LTO-4 2007 D L 12.65 C1 Seagate/HP/IBM アメリカ TS1130 2008 D L 12.65 C1 IBM アメリカ T9840D 2008 D L 12.65 C2 Oracle アメリカ T10000B 2008 D L 12.65 C1 Oracle アメリカ DAT 320 2009 D H 8 C2 ソニー, HP 日本, 米 LTO-5 2010 D L 12.65 C1 Seagate/HP/IBM アメリカ TS1140 2011 D L 12.65 C1 IBM アメリカ T10000C 2011 D L 12.65 C1 Oracle アメリカ LTO-6 2012 D L 12.65 C1 Seagate/HP/IBM アメリカ T10000D 2013 D L 12.65 C1 Oracle アメリカ TS1150 2014 D L 12.65 C1 IBM アメリカ LTO-7 2015 D L 12.65 C1 Seagate/HP/IBM アメリカ 表の説明 名称に*がついているものはアナログ記録,他はディジタル記録。 同じ年内に発売されたものの発売順序は正確ではない。 用途 A:音声記録,V:映像記録,D:データ記録 走査方式 T:トランスバース走査,L:リニア走査,H:ヘリカル走査 収容形態 O:オープンリール,C1:単1リールカートリッジ,C2:2 リールカセット 図6 テープ速度と再生出力の関係 プの位置からテープを正逆に早送りし,目的の位置 に到達すれば,ほぼ同時に記録・再生を開始できる。 これに対して,前述のようにヘリカル走査方式では ヘリカルトラックだけで目的のトラックを探すこと ができないため,アクセス専用のトラック(CTL) がテープの端にリニア走査で記録される。CTL で目 的のトラックに到達した後も,正確なトラッキング ができるまで時間が必要である。
7.動向と現状
図7 に磁気テープストレージの面記録密度,図 8 に転送速度の推移を示す。アナログ記録(交流バイ アスまたはFM)では最短記録波長の 1/2 を 1 ビット の長さとみなして計算した。推移を見ると最初のこ ろはリニア走査方式だけであったが,VTR 用にヘリ カル走査方式が開発され,大容量化が可能になると, いずれの用途でもヘリカル走査方式が優勢になった。 リニア走査方式ではマルチヘッド化が図られたが, 長い間ヘリカル走査方式の容量と転送速度を上回る ことができなかった。 特に1980 年代後半から 1990 年代にかけて放送用 ディジタル VTR が次々に開発され,転送速度が大き く上がった。この時代,放送用VTR をデータ記録用 (a) Linear scanningEnvelope of head output Tape running
Recorded track = Head trace
Fast or slow speed Normal speed
Threshold level to reproduce data
Threshold level to reproduce data Normal speed Fast or slow speed
(b) Helical scanning Tape running
Recorded track Head trace
図7 磁気テープストレージの面記録密度の推移
図8 磁気テープストレージの転送速度の推移 [kb/s]
に転用したヘリカル走査方式のストレージも現れた。 データ記録用に誤り訂正能力を上げるなど信頼性を 向上させたもので,主に計測,気象,宇宙などの分 野で使用された。 しかし, 2010 年ごろリニア走査方式の記録密度 がヘリカル走査方式を追い越し,容量も逆転した。 同じころ転送速度も上回り,機構の複雑なヘリカル 走査を使う必然性はなくなった11)。2010 年以降,新 しく市場に出た磁気テープストレージはミッドレン ジのLTO (Linear Tape Open, シーゲート,ヒュー レット・パッカード,IBM の共同開発) と,IBM お よびオラクルのエンタープライズ向けのデータ記録 用だけである。いずれもリニア走査方式で,主にト ラック密度の向上により容量,転送速度を向上させ ている。そのために,半導体製造技術を利用した微 細加工や,マルチヘッドとテープを均一に安定して 摺動させるためのトライボロジー技術が活かされた。 用途別に見ると,1990 年代以降,音声記録が光デ ィスクや他のメディアに移行したのに続き,データ 記録においてもエントリー向けはハードディスク, 光ディスクやフラッシュメモリを用いるメモリカー ドやSSD (Solid State Drive)に置き換わった。
映像記録においては,VTR は激しい開発競争の中 で映像を記録して保存するメモリとしての機能だけ でなく,さまざまな編集機能や,早送り,スローモ ーションやスチル再生などの特殊再生も可能になっ た。この結果,VTR は番組制作のツールとして長く 使われてきた。しかし,ハードディスクが高速化し, 半導体メモリが低廉化すると,これらにも映像信号 を容易に記録できるようになり,1990 年代には動 画 像 を コ ン ピ ュ ー タ に 取 り 込 ん で 番組を編集す るノ ン リ ニ ア 編 集 が 登 場 し た 。 ノ ン リ ニ ア 編 集 は 映 像 の 再 生 位 置 な ど を 問 わ ず ,好 き な 部 分 を 好 き な 長 さ で 取 り 出 し て 編 集 で き ,特 殊 再 生 も 自 由 に で き る こ と か ら VTR に 代 わ っ て 急 速 に 普 及 し た 。放送局ではカメラ収録の映像 素材がPC 再生可能なファイル形式に移行し,番組制 作のワークフローが変化している。VTR が使われる のは取材用カメラレコーダの一部などに限られるよ うになった。大規模アーカイブスにおいても,保管 するメディアはこれまでのVTR テープからエンター プライズ向け磁気テープに置き換えられている12)。
8.まとめと今後の展望
リニア走査方式ではじまった磁気テープストレー ジは,一旦,記憶容量と転送速度で勝るヘリカル走 査方式が優勢になった。表 2 に示したように殆どの ヘリカル走査方式のストレージ開発において日本の 企業が関わってきた。しかしその後はリニア走査方 式が巻き返した。2 インチ 4 ヘッド型の時代も含め, 60 年にわたって使われてきた回転ヘッド方式は寿命 を終えようとしている。複雑なメカニズムの装置開 発や製造を得意とする日本の貢献できることが相対 的に少なくなっているのは残念なことであるが,現 用されている磁気テープは全て日本製であり,今後 もストレージ開発で果たす役割は大きい。 今日,情報ストレージの多くの分野でテープスト レージからハードディスク,光ディスクへの置き換 えが進んでいる。しかしながら,これらの記録密度 の向上は物理限界に近付き,伸びが鈍化している。 半導体メモリにおいてもムーアの法則以降の新しい 技術が模索されている13)。 このような中で,磁気テープによるデータストレ ージは,今日でも他の記録方式に対して競争力を保 ち,性能の向上が続いている 14)。最新の磁気テープ で使われている技術は,ハードディスクの数世代前 のものである。ハードディスクでは高密度記録に有 効な垂直磁気記録(磁化の方向が磁性媒体の面に対 して垂直)に代わって10 年以上になるが,磁気テー プでは磁性媒体にバリウムフェライトを用いて垂直 配向させているものの,完全な垂直記録にはなって いない 15)。磁気ヘッドはハードディスクが TMR(Tunnel Magneto Resistive Head)に移行している 現在も,テープドライブには 1997 年に開発された GMR(Giant Magneto Resistive Head)が使われて いる。最新のハードディスク16)とLTO717)で比較す ると,線記録密度は 92.8 kb/mm に対して 19.4 kb/mm,トラック密度は 17.7 k トラック/mm に対し て287 トラック/mm である。磁気テープの面記録密 度は同じ磁気記録のハードディスクよりも 2 桁以上 低く,それだけ伸びしろが大きいといえる18)。2015 年にJEITA テープストレージ専門委員会が示した磁 気テープ規格のロードマップによると,LTO は容量 48 TB,転送速度 8.8 Gb/s の第 10 世代まで道筋がつ けられ,その技術的裏付けも実験的に確かめられて いるという19)。 90 年近く使われている磁気テープ記録技術が,変 化の著しい今日のIT の世界でさらに進化を続けてい るのは,他のデバイス技術に対して特異なこととい える。磁気テープは,インターネット,クラウドコ ンピューティング,アーカイブス,ビッグデータな どの増え続ける膨大なデータの記録に無くてはなら ないメディアとして,今後も利用が拡大することだ ろう。書き換え回数の制限がないという磁気記録の 特長を生かせば優位性はさらに高まると考えられる。
参考文献
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11) H. Okuda: “Vicissitude of magnetic tape data storage: Comparison with video tape recording”, ICOHTEC/IEEE International Conference on History of High-Technologies and their Socio-Cultural Contexts (HISTELCON 2015), pp.1 – 5 (Aug., 2015) 12) 二村: “NHK における磁気テープを活用した大規 模アーカイブシステム”, 映情学誌, Vol.70, No.3, pp.396-397 (2016.5) 13) 渡辺, 廣島, 玉井, 横田, 佐藤: “ムーアの法則以 降の新しい半導体メモリとトランジスタの技術 動向”, 湘南工科大学紀要, Vol.50, No.1, pp.39-47 (2016.3)
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