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蛍光色素AM1-43によるマウスおよびラット腎臓の標識

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Academic year: 2021

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蛍光色素AM1-43によるマウスおよびラット腎臓の標

著者

西川 純雄

雑誌名

鶴見大学紀要. 第4部, 人文・社会・自然科学編

53

ページ

1-4

発行年

2016-03

URL

http://doi.org/10.24791/00000270

Creative Commons : 表示 http://creativecommons.org/licenses/by/3.0/deed.ja

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Fluorescent labeling of AM1-43 in mouse and rat kidney

「鶴見大学紀要」第 53 号 第 4 部 人文・社会・自然科学編 (平成 28 年 3 月) 別刷

西川 純雄

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1 蛍光色素 AM1-43 によるマウスおよびラット腎臓の標識 はじめに  マウスやラットの背部皮下に1回styryl色素である FM1-43またはAM1-43を少量注射すると体中の感覚細 胞および感覚神経が標識される(Meyers et al., 2003, Nishikawa, 2008, 2011)。この方法は簡便かつ有効であ る。FM1-43はBetz等(1992)によって開発された両親 媒性の分子である。この分子は同時に蛍光を発する。 この蛍光色素は水中ではほとんど蛍光を発せず、生体 膜の脂質二重層に挿入されたときに強い蛍光を発する。 膜に挿入された時の特性は励起波長479 nm蛍光波長 598 nmである。青色光で励起され黄色光を発すること になる。2個の臭素が付いた状態で市販されていて、そ の分子量は611.55である(Molecular ProbesのProduct Informationによる, Molecular Probes, Invitrogen, Thermo Fisher Scientific)。したがって、この蛍光色 素は動物の体内に注入されただけではほとんど蛍光を 出さず、細胞膜に挿入されても、細胞外に再び離れて いくことになり、その平衡状態では、ほとんどの細胞 膜にはこの蛍光色素が存在しないことになる。一方、 細胞膜に挿入されたFM1-43がエンドサイトーシスによ り細胞内に小胞として取り込まれた場合には、小胞膜 の内側に挿入された色素は失われることなく強い蛍光 を発することになる。  このことはFM1-43や、この類似体でアルデヒド固定 液により固定できるようにアミノ基を付けたAM1-43が エンドサイトーシスマーカーとして使用できることを 意味している。さらに取り込まれたエンドソームが再 びエキソサイトーシスされると色素が細胞外に放出さ れ蛍光を失うことになる。このことは運動神経終末の シナプス小胞の膜の回収とその放出動態の解析に有効 に用いられた(Betz et al., 1992)  アフリカツメガエル幼生を用いて、この色素がエン ドサイトーシス以外に陽イオンチャネルを通過して細 胞内に入る可能性が示された(Nishikawa and Sasaki, 1996)。このチャネルは聴覚や水の流れを感知する有毛 細胞のmechanosensitive nonselective cation channelで ある。それ以外に、温度チャネルであるTRPV1、さら にATPをリガンドとするチャネルのP2X2を通過して細 胞内に入ることが示された(Meyers et al., 2003)。マ ウスやラットの中でFM1-43やAM1-43によって標識さ れる細胞、組織、器官は内耳有毛細胞、メルケル細胞、 筋紡錘、角膜の侵害性感覚神経、腎臓の皮質、軟口蓋、 硬口蓋、鼻粘膜、茸状乳頭の神経、有郭乳頭の味蕾、 三叉神経節に代表される脳神経の神経節、脊髄の後根 神経節、腸管の神経節等多岐にわたっている。  腎臓の標識については一過性に皮質が標識されると 報告されているが(Meyers et al., 2003)、その詳細は 不明である。本研究は腎臓の皮質についてどのような 細胞が染まっているかをマウスおよびラットとAM1-43 を用いて調べたものである。 材料と方法  生後2日齢のラット(Jcl Wistar、体重3-4 g)に10-20 µLのAM1-43(1 mg/mL in PBS, Biotium)を背部皮下 に注射した。1日後、エーテル麻酔下に断頭し、腎臓を 摘出した。腎臓は4% paraformaldehyde in phosphate-buffered saline(PBS)または4% paraformaldehyde, 0.5% glutaraldehyde in PBSで4℃、一晩固定した。 PBSで洗浄した後、25%スクロース液に一晩浸漬した。 要旨 腎臓の皮質がAM1-43に標識されることは報告されているが、その標識される細胞と組織については不 明である。本研究ではマウスとラットを用い、その標識部位を多重染色を含む蛍光顕微鏡的観察により 調べた。この結果、近位尿細管が標識されることがわかった。さらに標識は顆粒状と短い棒状を示すも のと、細胞質全体がdiffuseに標識されるものと、2種類があった。したがって、この標識を起こすルー トがendocytosisかchannelの通過であるかを検討することが今後の課題となる。

蛍光色素AM1-43によるマウスおよびラット腎臓の標識

Fluorescent labeling of AM1-43 in mouse and rat kidney

西川 純雄

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製しスライドグラスに貼りつけた。切片は蛍光顕微鏡 (オリンパス AX70、ニコン Fluophot)で観察し、カラー のCCDカメラ(オリンパスDP12-2)で撮影した。さらに、 一部の切片はF-actinを標識するローダミンファロイジ ン(×20 希釈、Invitrogen)とDNAを標識するHoechst 33342(1 µg/mL, Invitrogen)の混合液で20分間標識し た。モノクロームの高感度冷却CCDカメラ(Quantix, Photometrics)で撮影し, Hoechst 33342を青色、ロー ダミンファロイジンを赤色、AM1-43を緑色でコンポ ジ ッ ト 画 像 を 作 製 し た。 多 重 染 色 し た も の は MetaMorphソフトウエアで解析した。  4週齢マウス(Jcl ICR、体重25-28 g)の背部皮下に AM1-43(1 mg/mL in PBS)を2 µL/gの割合で注射し た。 対 照 はPBSだ け を 注 射 し た。1日 後、4% paraformaldehyde in PBSで一晩固定し、凍結切片を作 製し蛍光顕微鏡で観察した。 結果と考察  マウスでは特に尿細管のところに黄色の蛍光が見ら れた。尿細管を構成する細胞はdiffuseに濃く染まって いるものとほとんど染まっていないものとがあった(図 1A,C)。PBSだけを注射した対照標本は全く蛍光がみ とめられなかった(図1B,D)。  3日齢ラット腎臓では図2Aのように皮質の尿細管に 黄色の蛍光が認められ、髄質の集合管を含む管構造に は弱い反応しか認められなかった。皮質では強く染色 される尿細管と、やや弱く染まる尿細管の両方が見ら れた(図2A)。また腎小体の糸球体に接する近位尿細 管のところが強い顆粒状の陽性反応が認められた。腎 皮質の構造をより明確にするために、F-actin を染める ロ ー ダ ミ ン フ ァ ロ イ ジ ン と 細 胞 核 を 染 め る Hoechst33342で多重染色を行った。この結果、腎小体 ではAM1-43反応陰性であった。内腔表面がF-actinの 多量に存在する尿細管、つまりブラッシュボーダーの 発達した近位尿細管にAM1-43のdiffuseな蛍光と鋭く強 い点状または棒状の蛍光が認められた(図2B,C)。  これらの結果は尿細管上皮がAM1-43をエンドサイ トーシスまたは陽イオンチャネルを介して、取り込み をしていることを示唆している。エンドサイトーシス については、近位尿細管上皮細胞には多数の飲み込み 小胞(pinocytotic vesicle)があり、腎小体をすり抜け てきた血漿タンパク質を吸収していることが知られて いる(坂井、川上、2011)。Meyers 等の報告にある腎 臓皮質のAM1-43の標識は一過性であるという記述によ く一致している。したがって今回、観察された点状、 棒状の蛍光はその場所でのエンドソームを示した像で あるかもしれない。その場合、尿細管のエンドサイトー は初めて示していることになる。もっとも、この顆粒 状の標識はAM1-43がイオンチャネルを通過して二次的 に細胞内の膜小器官に取り込まれた像を見ている可能 性もある。diffuseに染まる細胞質についても、AM1-43 が陽イオンチャネルを通過している可能性がある。腎 臓TRPチ ャ ネ ル に つ い て はTRPV5、TRPV6、 TRPM3、TRPM6、TRPP2、TRPP3の機能が知られて いて、これらをAM1-43通過している可能性も考えられ る(Nilius et al., 2007)。これらを明らかにする手段と してphotoconversion法がある。これにより電子顕微鏡 的なAM1-43の局在部位を調べることができる。同様な 色素のFM1-43ではこの方法が適用できることが知られ ている(Nishikawa, Sasaki, 1996; Henkel et al., 1996)。 今後の課題であると思われる。

参考文献

Betz, WJ, Mao, F, Bewick, GS (1992) Activity-dependent fluorescent staining and destaining of living vertebrate motor nerve terminals. J Neurosci, 12:363-375.

H e n k e l A W , L ü b k e J , B e t z W J (1996) F M1-43 d y e ultrastructural localization in and release from frog motor nerve terminals. Proc Natl Acad Sci U S A. 93:1918-1923. Meyers JR, MacDonald RB, Duggan A, Lenzi D, Standaert DG,

Corwin JT, Corey DP (2003) Lighting up the senses: FM1-43 loading of sensory cells through nonselective ion channels. J Neurosci, 23:4054-4065.

Nilius, B, Owsianik, G, Voets, T, Peters JA (2007) Transient receptor potential cation channels in disease. Physiol Rev, 87:165-217.

Nishikawa, S, Sasaki, F (1996) Internalization of styryl dye FM1-43 in the hair cells of lateral line organs in Xenopus larvae. J Histochem Cytochem, 44:733-741.

Nishikawa, S (2008) Styryl pyridnium dyes FM1-43 and AM1-43 for visualization of sensory nerve fibers and cells in dental and craniofacial tissues of experimental animals. J Oral Biosci, 50:125-133.

Nishikawa, S (2011) Fluorescent AM1-43 and FM1-43 probes for dental sensory nerves and cells: Their labeling mechanisms and applications. Jpn Dent Sci Rev, 47:150-156. 坂井建雄、川上速人 監訳 (2011)ジユンケイラ組織学 第3版、

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3 蛍光色素 AM1-43 によるマウスおよびラット腎臓の標識 図の説明 図1.AM1-43で標識したマウスの腎臓の皮質(A)と高倍率像(C)、およびPBSだけを 注射した皮質(B)と高倍率像(D)。尿細管が標識されている。強く染まる尿細管 と弱く染まる尿細管が認められる。PBSだけを注射した対照標本では低倍率でも高 倍率でも蛍光は認められない(B,D)。A:Bar=100μm、C:Bar=50μm。

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図2.AM1-43で標識したラット腎臓の皮質。 (A)カラー CCDカメラで撮影した画像。 左が腎臓の表面。右は髄質側。尿細管に 黄色の蛍光が見られる。強い蛍光が腎糸 球体(矢印)に接して見られる。(B)A と同じ視野(Aの*部分)を多重標識し コンポジット画像にしたもの。緑色が AM1-43、赤色はF-actin、青色は核を示 している。腎糸球体(矢印)に沿った部 分と近位尿細管の一部が強いAM1-43の 蛍光を発している。同様な部位を拡大し た(C)では顆粒状または短い棒状の AM1-43蛍光とdiffuseな蛍光が近位尿細 管の細胞質に見られる。内腔表面の強い F-actin蛍光は近位尿細管の多数の微絨毛 内のアクチンフィラメントを示してい る。A,B: Bars=100μm、C: Bar=50μm。

西川 純雄

〒 230-8501 横浜市鶴見区鶴見 2 − 1 − 3 鶴見大学歯学部生物学研究室

Sumio Nishikawa Department of Biology

Tsurumi University School of Dental Medicine 2-1-3 Tsurumi, Tsurumi-ku, Yokohama 230-8501

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