1.はじめに
1.1 問題の所在 現行の教育課程においては、経済に関する学習内容は小学校から登場す るが、中学校と高校の段階から充実した展開となっている。小学校の段階 では、小学校低学年の道徳や家庭科において「お金」に関する内容が一部 取り扱われる他に、2012年版『小学校学習指導要領解説 社会編』1)で示 されたように、経済の学習内容は主に小学校中・高学年の社会科に位置づ けられている。例えば、小学校第3・4学年の社会科において小売店や地 域の人々の生産や販売に関する学習内容が、第5学年において農業・水産 業・自動車工業・情報業といった産業に関する学習内容がそれぞれ取り扱 われる。しかし、生産活動の工程及び産業の構造や役割といった経済に関 わる学習内容が実際に小学校段階に配列されているにも関わらず、山根 (1992)2)や宮原(2012)3)等が指摘したように、とりわけ小学校における 経済教育が十分ではないという課題は以前から取り上げられている。 こうした状況の中で、2017年に学習指導要領が改訂され、小学校の新 学習指導要領が移行期間を経て、2020年4月1日から全面実施を迎える。 新学習指導要領の全面実施に先立ち、従来からある課題を踏まえて、新旧学習指導要領の変化から見た
小学校社会科教育の方向性
―経済学習を中心として―
呂 光 暁
1 1仙台白百合女子大学 人間学部 e-mail:[email protected] 2019,13(2),115-134の学習指導要領の変化を分析し、新学習指導要領に基づく小学校社会科教 育、そして経済教育の在り方や方向性を明らかにすることは、社会科の研 究領域と小学校教育の現場における喫緊の課題として、早急に対応されな ければならない。 1.2 研究目的と方法 上記の問題意識から始まった本研究は、新学習指導要領の全面実施に伴 い、今後における小学校の経済教育ないし社会科教育の在り方や方向性を 究明することを目的として設定する。研究目的を達成するために、テキス トマイニングの手法を用いて、まず、新旧の『小学校学習指導要領解説 社会編』を分析し、記述内容の構成要素及び文脈の変化をまとめた上で、 新学習指導要領における社会科のカリキュラム構造の特徴を析出する。次 に、新旧の『小学校学習指導要領解説 社会編』における経済学習の内容 構成及び学習方法の特徴を明らかにする。最後に、小学校における経済教 育の課題を踏まえた上で、上記の分析から得られた結果に基づきながら、 今後における小学校経済教育の方向性を絞り出していく。
2.分析の手続き
新旧の学習指導要領の変化をより全面的で且つ詳細に考察するために、 本研究では、2012年版『小学校学習指導要領解説 社会編』と2018年版『小 学校学習指導要領(平成29年告示)解説 社会編』4)における「第3章 各学年の目標及び内容」と「第4章 指導計画の作成と内容の取り扱い」 の全文を分析の対象とした。 分析する際に、KH Coder3ソフトを用いて言葉の抽出と集計の作業を 行った。なお、分析の材料となるデータは、文部科学省のホームページに あるPDF版の新旧学習指導要領解説から、第3章と第4章の文字情報をコ ピーし、文字化けなどを修正したものを使用した。3.新旧の小学校社会科カリキュラムにおける変化
3.1 2012年版『小学校学習指導要領解説 社会編』の特徴 2012年版『小学校学習指導要領解説 社会編』における「第3章 各 学年の目標及び内容」と「第4章 指導計画の作成と内容の取り扱い」で は、49690の抽出語があった。その中に、頻出した150の言葉は表1に示 す通りである。表1から分かるように、「地域」から「工夫」までの29の 言葉は100回以上に出現した。最も多く出現した言葉は、「地域」(433回) で、その次に「調べる」(372回)、「生活」(354回)、「考える」(344回)、 「人々」(316回)の4つの言葉が続いた。 表1 2012年版 『小学校学習指導要領解説 社会編』における頻出語 抽出語 出現回数 抽出語 出現回数 抽出語 出現回数 抽出語 出現回数 抽出語 出現回数 地域 433 国際 98 関心 55 力 39 意味 31 調べる 372 情報 98 関係 54 イ 38 効果 31 生活 354 政治 95 様々 54 学校 38 製品 31 考える 344 国土 90 県 53 機関 38 都 31 人々 316 調査 90 事項 53 実現 38 日本 31 取り上げる 297 特色 90 選択 53 国家 37 それぞれ 30 我が国 282 国 88 重要 52 事業 37 ウ 30 学習 252 事象 86 取扱い 51 処理 37 安全 30 社会 206 学年 85 確保 50 農業 37 各種 30 具体 196 分かる 84 販売 50 廃棄 37 見学 30 指導 194 主 78 防止 50 計画 36 表現 30 国民 189 自分 76 食料 49 公共 36 国内 29 内容 165 市 73 果たす 48 施設 36 指す 29 活用 164 努力 72 実際 48 人物 36 消費 29 生産 160 事例 71 対象 48 地形 36 進める 29 大切 156 児童 69 行う 47 地球儀 35 国旗 28 産業 155 位置 68 身近 47 ガス 34 対策 28 働き 152 育てる 68 世界 47 支える 34 道 28 様子 144 役割 68 利用 46 守る 34 文化財 28 理解 129 水 65 ア 44 深い 34 名称 28 必要 127 協力 64 目標 44 全体 34 気付く 27 文化 126 自然 64 事故 43 態度 34 工場 27 活動 125 配慮 63 図る 43 遺産 33 住む 27 示す 122 見る 62 先人 43 憲法 33 相互 27 歴史 109 向上 62 観察 41 平和 33 天皇 27 資料 107 仕事 62 資源 41 扱う 32 日本国 27 環境 103 災害 60 手掛かり 41 飲料 32 白地図 27 地図 103 外国 59 伝統 41 挙げる 32 使う 26 工夫 101 関連 57 及ぶ 39 健康 32 深める 26 工業 98 発展 56 従事 39 電気 32 仕方 25 (筆者作成)上記の頻出語の状況からは、2012年版学習指導要領に基づいた小学校 社会科のカリキュラムは、とりわけ「地域」と「人々」の「生活」に重点 を置いて展開していることが分かる。地域と人々の生活が重要視されたこ とは、小学校社会科の「社会生活についての理解を図り、我が国の国土と 歴史に対する理解と愛情を育て、国際社会に生きる平和で民主的な国家・ 社会の形成者として必要な公民的資質の基礎を養う」という位置づけと一 致している。また、「調べる」という言葉は数多く出現したことは、具体 的な学習方法よりも、子どもが主体性をもって自ら学習活動を形成してい くという小学校社会科の学習スタイルを一定の程度表したと推測される。 2012年版『小学校学習指導要領解説 社会編』の「第3章 各学年の 目標及び内容」と「第4章 指導計画の作成と内容の取り扱い」の記述内 容において、50回以上に出現した言葉に見られる関係性を分析し、上位 60の強い共起関係を抽出した結果、図1に示した10の語群が得られた。 図1における語群は色の濃淡で区別されており、凡例の「Subgraph」 の番号と対応している。円の大きさは、出現した頻度を表すもので、大き いほど出現した回数が多いことを意味する。円と円をつなげる線は言葉の 関係性を表すもので、共起関係が強いほど太い線で描画されることになっ ている。また、同じ語群に含まれる言葉は実線で結ばれており、お互いに 異なる語群に含まれる言葉は破線で結ばれている。
図1 2012年版『小学校学習指導要領解説 社会編』における頻出語の共起ネット ワーク図(出現回数50回以上・共起関係上位60) (KH Coder3より、筆者作成) 図1に示されたように、語群1は関連する言葉が最も多い語群であり、 主に「地域」と「人々」の「生活」などの言葉によって構成されている。 語群1から見られるこうした語と語の共起関係は、小学校社会科の特徴を 顕著に表している。即ち、小学校社会科は具体的な社会事象や事例を取り 上げて調べることによって、地域や人々の生活の様子に対する理解を形成 させる教科のことである。語群2は「学習」「指導」「内容」「考える」な どの言葉から構成されており、小学校社会科における学習内容の取り扱い 方を表しているものである。語群2における言葉の出現回数と共起関係か らは、小学校社会科の指導学習活動において「考える」ことが特に重要視 されることが読み取れる。また、語群1と語群2は「考える」という言葉 によって結ばれていることは、小学校社会科における学習内容と教授学習 活動のあり方が、子どもの思考によって関連付けた形で構成されたことを 表していると推測される。
語群3と語群5は、それぞれ「産業」「環境」「国土」と「生産」「工業」 「販売」「仕事」などの言葉から構成されており、小学校社会科に国土・環 境と産業活動に関する学習内容を表している。語群4は「資料」「地図」 「活用」「調査」などの言葉から構成されており、地図・資料や調査活動を 生かす社会科の学習方法を表したと考えられる。語群5は「生産」「工業」 「販売」「仕事」といった言葉によって構成されている。語群6は「事例」 を「選択」する意味合いで、具体的な事例を通して社会科の学習内容を展 開していくという特徴を表している。語群7と語群8と語群9と語群10 は、「国際理解学習」「地域学習」「歴史学習」「防災学習」といった小学校 社会科の学習内容をそれぞれ表している。 3.2 2018年版『小学校学習指導要領解説 社会編』の特徴 新旧の学習指導要領を比較するために、2012年版学習指導要領解説と 同様に、2018年版『小学校学習指導要領解説 社会編』における「第3 章 各学年の目標及び内容」と「第4章 指導計画の作成と内容の取り扱 い」を対象として分析を行った。当該部分の記述において、74256の抽出 語が得られた。その中で、頻出した150の言葉は表2に示す通りである。 表2から分かるように、2018年版『小学校学習指導要領解説 社会編』 においては、「考える」から「知識」までの57の言葉は100回以上に出現 した。最も多く出現した言葉は、「考える」(504回)で、その次に300回 以上に出現した「地域」(484回)、「調べる」(413回)、「生活」(383回)、 「人々」(377回)、「我が国」(369回)、「社会」(332回)、「理解」(326回) という7つの言葉が続いた。なお、「ア」と「イ」は学習指導要領解説の 小見出しの番号であり、文脈的な意味を持たないため、ここで分析の対象 から外した。 「考える」という言葉は504回まで出現したという分析の結果は、2018 年版『小学校学習指導要領解説 社会編』の特徴を最も顕著に表している。 この結果は、2017年版小学校社会科学習指導要領の構造が「資質・能力」
の枠組みで体系化され、さらに「資質・能力」のそのものが「知識・技能」 「思考力・判断力・表現力等」「学びに向かう力・人間性等」という「三本 の柱」によって構成されたことに起因すると考えられる。文脈を辿ってみ れば、2018年版『小学校学習指導要領解説 社会編』において、小学校 社会科において養う「思考力、判断力」は「社会的事象の特色や相互の関 連、意味を多角的に考えたり 4 4 4 4、社会に見られる課題を把握して、その解決 に向けて社会への関わり方を選択・判断したりする力」として規定されて いることがわかる5)。このように、学習指導要領の骨組みに「思考力の育 成」を位置づけることによって、教科目標と学習内容、そして学習活動や 学習評価のあり方を含めた学習指導要領の全体構造における「考えること」 の重要性が一層高まっている。 上記の分析結果から、2018年版『小学校学習指導要領解説 社会編』は、 「考える」こと、つまり子どもの思考を一層重視した傾向が確認される。 このような傾向は、2018年版『小学校学習指導要領解説 社会編』にお ける記述の他にも確認することができる。例えば、北(2018)も同様に、 社会科に求められる資質・能力を育成するために、授業などの「学習活動 を通して、思考 4 4と理解を深める」の重要性を強調した 6)。
表2 2018年版 『小学校学習指導要領解説 社会編』における頻出語 抽出語 出現回数 抽出語 出現回数 抽出語 出現回数 抽出語 出現回数 抽出語 出現回数 考える 504 働き 165 関連付ける 96 販売 61 憲法 48 地域 484 自然 163 政治 95 問題 60 利用 48 ア 442 産業 160 選択 94 見る 59 事例 47 調べる 413 付ける 157 必要 94 施設 59 処理 47 生活 383 示す 152 市 92 遺産 58 説明 47 人々 377 身 151 学年 88 県 58 時期 46 我が国 369 捉える 149 考え方 87 白地図 58 設ける 46 社会 332 環境 139 努力 85 見方 57 地球儀 46 理解 326 国土 138 仕事 84 適切 57 地形 46 イ 320 位置 137 機関 81 伝統 57 及ぶ 44 内容 284 工業 136 調査 80 年表 57 身近 44 学習 279 役割 132 思考 77 次 56 変化 44 様子 256 災害 131 世界 77 先人 56 問い 44 表現 239 特色 131 解決 76 発生 56 公害 43 指導 238 関係 130 食料 75 安全 55 課題 42 生産 217 協力 125 関わり 74 水 55 記述 42 国民 216 判断 121 県内 74 意味 54 条件 42 情報 206 国 118 児童 73 相互 54 日本 42 事項 201 主 118 手掛かり 72 態度 54 日本国 42 大切 201 配慮 116 働く 72 各種 53 現在 41 取り上げる 199 関連 112 様々 71 公共 53 作成 41 着目 190 発展 108 行う 69 人物 53 資源 41 関わる 187 果たす 105 事業 69 踏まえる 53 代表 41 地図 186 活用 104 ウ 68 見学 52 地理 41 歴史 183 工夫 104 向上 68 取組 52 分かる 41 資料 180 基 102 外国 66 仕組み 51 文章 41 技能 178 知識 101 具体 66 分布 51 重要 40 事象 178 自分 99 取扱い 64 生かす 50 図る 40 活動 176 国際 98 守る 62 力 50 世の中 40 文化 173 養う 97 文化財 62 計画 49 学ぶ 39 (筆者作成) 2012年版と同様に、2018年版『小学校学習指導要領解説 社会編』に おける「第3章 各学年の目標及び内容」と「第4章 指導計画の作成と 内容の取り扱い」の記述内容において、50回以上に出現した言葉に見られ る関係性を分析し、上位60の強い共起関係を抽出した。その結果、図2 に示した16の語群が得られた。なお、図2の読み方は図1と同じである。 図2を全体的に見ると、語群2と語群10はそれぞれ「人的災害」と「自 然災害」に関する内容で、つまり防災学習の内容構成を示したものであ る。語群3と語群5と語群6は、産業学習と歴史学習と地域学習を表した ものである。語群4は各学習内容の取り扱い方を示したものである。注目
すべきは、最も関連する言葉の多い語群1である。 語群1は、「考える」「調べる」「表現」「着目」「資料」「地図」「様子」 などの言葉から構成されている。この語群は、2017年版小学校社会科学 習指導要領における「資質・能力」の「思考力・判断力・表現力等」を意 味するものである。文脈を辿ってみれば、語群9の「社会的な見方・考え 方」に関する内容とも関連していることがわかる。語群1と語群9におけ る言葉の共起関係に依拠して推測すれば、社会的な見方・考え方を働かせ ることによって、小学校社会科における思考力・判断力・表現力等の力の 育成を図っていくという学習指導要領の傾向が導き出される。 具体的に見れば、2017年版『小学校学習指導要領解説 社会編』では、 まず「見方・考え方」を「『どのような視点で物事を捉え、どのような考 え方で思考していくのか』というその教科等ならではの物事を捉える視点 や考え方」として規定した7)。その次に、「社会的な見方・考え方」を「社 会的事象等を見たり考えたりする際の視点や方法」と規定した上で、「時 間、空間、相互関係などの視点に着目して事実等に関する知識を習得し、 それらを比較、関連付けなどして考察・構想し、特色や意味、理論などの 概念等に関する知識を身に付けるために必要となるもの」と説明した8)。 さらに、このような「社会的な見方・考え方」を、「社会科、地理歴史科、 公民科としての本質的な学びを促し、深い学びを実現するための思考力、 4 4 4 判断力の育成 4 4 4 4 4 4はもとより、生きて働く知識の習得に不可欠であること、主 体的に学習に取り組む態度や学習を通して涵養される自覚や愛情等にも作 用することなどを踏まえると、資質・能力全体に関わる 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4ものである」とし て位置づけた9)。 このように、学習指導要領解説における文脈を辿ってみれば、語群1と 語群9で確認された「社会的な見方・考え方を活用し、小学校社会科にお ける思考力・判断力・表現力等の力を育成する」という傾向がより明確に 現れる。
図2 2018年版『小学校学習指導要領解説 社会編』における頻出語の共起ネット ワーク図(出現回数50回以上・共起関係上位60) (KH Coder3より、筆者作成)
4.新旧の『小学校学習指導要領解説 社会編』における
経済カリキュラムの変化
4.1 新旧の『小学校学習指導要領解説 社会編』における経済的内容 と学習方法の分析 4.1.1 新旧の『小学校学習指導要領解説 社会編』における経済的内 容の比較 新旧の『小学校学習指導要領解説 社会編』の記述内容をテキストマイ ニングの手法で分析した結果、二つのバージョンの学習指導要領解説の特 徴を一定の程度で掴んでおくことができた。ここでは、2012年版と2018 年版『小学校学習指導要領解説 社会編』における「第3章 各学年の目 標及び内容」と「第4章 指導計画の作成と内容の取り扱い」の記述内容から抽出された49690と74256の言葉のうち、「経済に関連する頻出語」を 人為的に選定した上で、比較分析を行った。経済に関連する言葉を人為的 に選定する際には、それぞれの言葉が出現した文脈を確認した上で抽出の 作業を行った。新旧の『小学校学習指導要領解説 社会編』における経済 に関する頻出語は、表3に示す通りである。 表3 経済に関する頻出語の変化 抽出語 出現回数 抽出語 出現回数 抽出語 出現回数 抽出語 出現回数 抽出語 出現回数 2012 2018 2012 2018 2012 2018 2012 2018 2012 2018 産業 155 160 生産 160 217 農家 8 4 会社 1 0 価値 0 4 工業 98 136 工夫 101 104 輸出入 1 4 牛乳 1 0 仕入れ 0 3 資源 41 41 努力 72 85 金属 4 3 鋼板 1 0 物流 0 3 製品 31 38 販売 50 61 空港 1 3 相場 1 0 論理 0 3 工場 27 27 供給 8 38 効率 1 3 鉄鉱 1 0 組合 0 2 農業 37 26 消費 29 37 航空 4 3 立地 1 0 ブランド 0 1 運輸 23 24 貿易 13 21 航路 2 3 広告 1 0 貨物 0 1 工程 1 18 輸送 19 20 高速 4 3 合計 7 0 海運 0 1 交通網 16 16 加工 5 7 自動車 4 3 海路 0 1 価格 11 10 出荷 13 7 海上 3 2 希少 0 1 原材料 15 10 畜産 10 7 企業 1 2 魚群 0 1 農家 8 10 輸入 10 7 市場 1 2 金融 0 1 品質 2 10 製造 5 5 水産 1 2 港湾 0 1 需要 5 9 サービス 10 4 値段 1 2 財源 0 1 商店 15 9 買い物 1 4 デパート 2 1 財政 0 1 予算 4 9 納税 3 3 トラック 1 1 飼料 0 1 産地 2 8 輸出 1 2 漁港 3 1 手間 0 1 水産物 6 8 養殖 1 2 漁場 2 1 収益 0 1 経済 9 7 漁獲 1 1 魚介 1 1 商圏 0 1 農産物 4 7 自給 2 1 銀行 1 1 省力 0 1 費用 14 7 小売 1 1 原料 3 1 貧困 0 1 野菜 14 7 良質 2 4 産物 1 1 法人 0 1 果物 11 6 魚 4 3 石油 4 1 陸運 0 1 生産物 15 6 設備 5 4 鮮度 2 1 配分 0 5 租税 6 6 地帯 2 2 売り場 1 1 負荷 0 3 機械 4 5 農作物 4 2 飛行機 2 1 共同 0 1 売り上げ 1 5 部品 2 2 品目 1 1 経営 0 1 利便 1 5 カーフェリー 1 1 酪農 1 1 雇用 0 1 漁業 4 4 コンビニエンスストア 1 1 林業 1 1 交易 0 1 税金 2 4 ス ー パ ーマーケット 2 1 合計 62 54 収穫 0 1 合計 582 638 合計 538 654 製鉄 0 1 造船 0 1 付加 0 1 入荷 0 1 合計 0 50 (筆者作成)
表3に示されたように、2012年版『小学校学習指導要領解説 社会編』 において、経済に関する言葉の総出現回数が1189回に対して、2018年版 のそのものが1396回である。また、表3の5列目にある「価値」から「入荷」 までの34の言葉は、2018年版『小学校学習指導要領解説 社会編』に出 現したが、2012年版において、出現しなかったものである。このように、 2018年版『小学校学習指導要領解説 社会編』における頻出語の数と出 現した回数が全体的に増加したことが分かる。こうした計量的な比較から は、2012年版の解説よりも、2018年版『小学校学習指導要領解説 社会編』 の方が、経済に関する記述内容が充実されたことが確認される。さらに、 経済に関連する頻出語を詳細に考察すれば、2018年版『小学校学習指導 要領解説 社会編』においては、経済的仕組みやシステムに関する記述内 容の他に、経済的概念及び経済的合理性に関する記述内容が増加したこと も確認される。 具体的に見れば、経済的仕組み・システムに関する記述内容の増加は次 の頻出語の変化から確認することができる。例えば、「産業」155回→160 回、「生産」160回→217回、「販売」50回→61回、「消費」29回→37回、「運 輸」23回→24回、「貿易」13回→21回、「物流」0回→3回、「商圏」0回 →1回などが確認される。また、経済的概念に関する記述内容の増加は 次の頻出語の変化から確認することができる。例えば、「需要」5回→9 回、「供給」8回→38回、「希少」0回→1回、「価値」0回→4回、「価格」 11回→10回、「値段」1回→2回などが確認される。最後に経済的合理性 に関する記述内容の増加は僅かな程度に留まったが、次の頻出語の変化か ら確認することができる。例えば、「売り上げ」1回→5回、「収益」0回 →1回が挙げられる。
4.1.2 新旧の『小学校学習指導要領解説 社会編』における学習方法 の比較 経済的用語の他に、新旧の『小学 校学習指導要領解説 社会編』にお ける学習方法の記述内容を同様な手 続きによって分析した。その結果は 表4に示した通りである。表4から 分かるように、学習活動の方法に関 する頻出語は、2012年版『小学校学 習指導要領解説 社会編』では1874 回、2018年版では3257回出現した。 特に、2018年版『小学校学習指導要 領解説 社会編』において、出現回 数が大幅に増加したのは、「表現(209 回 )」、「 理 解(197回 )」、「 ま と め る (166回)」、「考える(160回)」、「捉え る(124回 )」、「 判 断(106回 )」、「 思 考(76回 )」、「 関 連 付 け る(75回 )」 の8つの言葉である。 「表現」「判断」「思考」の出現回数が増加した原因の一つは、2018年 版『小学校学習指導要領解説 社会編』の内容構造が「資質・能力」の枠 組みによって支えているという背景にあると考えられる。つまり、前述の ように、2017年版小学校社会科学習指導要領とその解説は、「知識・技能」 「思考力・判断力・表現力等」「学びに向かう力・人間性等」という「資質・ 能力」の「三本の柱」を骨組みとして作成されたものである。学習指導要 領と学習指導要領解説の体系を示すために、記述内容における「表現」「判 断」「思考」といった言葉の出現回数が自然に多くなるわけである。この ことは、特に小学校社会科の全体及び各学年の目標の示し方において、顕 抽出語 出現回数 抽出語 出現回数 2012 2018 2012 2018 理解 129 326 考える 344 504 学習 252 279 調べる 372 413 表現 30 239 捉える 25 149 判断 15 121 関連付ける 21 96 活用 164 104 分かる 84 41 選択 53 94 学ぶ 9 39 調査 90 80 読み取る 9 39 思考 1 77 集める 26 35 解決 10 76 気付く 27 19 見学 30 52 深める 26 17 説明 2 47 確かめる 5 11 追究 0 32 まとめる 17 10 整理 10 21 振り返る 0 8 総合 4 21 見比べる 0 2 議論 0 20 理解し合う 5 1 観察 41 19 まとめる 17 183 収集 19 16 客観 0 3 比較 3 12 知的 1 1 対話 0 11 動機 1 1 体験 19 9 討論 0 3 習得 1 6 話合い 0 2 経験 6 5 応用 0 1 想像 2 4 考察 0 1 分類 2 4 探究 0 1 認識 1 1 合計 989 1580 分析 1 1 合計 885 1677 (筆者作成) 表4 学習方法に関する頻出語の変化
著に現れてくる。 しかし、注目すべきは、「表現」「判断」「思考」の他に、「理解」「まと める」「考える」「捉える」「関連付ける」といった言葉が2018年版『小学 校学習指導要領解説 社会編』において大幅に増加したことである。学習 者、つまり子どもの立場から発生するこれらの言葉は、「主体的・対話的 で深い学び」を実現するために、小学校社会科の学習活動における子ども の自発性や主体性に対する強調を表したと考えられる。 4.2 新旧の『小学校学習指導要領解説 社会編』における経済的用語 の共起関係の比較 新旧の『小学校学習指導要領解説 社会編』における経済的内容の位置 づけ、そして経済的内容と他の学習内容や学習方法との関係性を明らかに するために、2012年版と2018年版『小学校学習指導要領解説 社会編』に おける「第3章 各学年の目標及び内容」と「第4章 指導計画の作成と 内容の取り扱い」の抽出語から、「経済に関連する頻出語」を人為的に選 定した上で、コーディングルールを作成し、その共起関係を再度分析し た。 コーディングルールを次にある12のカテゴリーから構成した。まず「地 域」「国土」「農業」「水産業」「工業」「情報」「歴史」「政治」「国際理解」 といった小学校社会科の学習内容を基本的なカテゴリーとして設定し、経 済的仕組み・システムに関する抽出語をそれぞれのカテゴリーに帰属させ た。次に、経済的内容を精緻化した形で、「経済的概念」と「経済的合理性」 の二つのカテゴリーを設定し、関連する抽出語を帰属させた。最後に、学 習内容の取り扱い方に関する内容を「学習方法」のカテゴリーとして設定 し、関連する抽出語を帰属させた。経済的用語や学習方法に関する言葉を 抽出する際に、それぞれの言葉の意味及び位置づけられた文脈を確認した 上で、抽出語をカテゴリーごとに帰属させた。 2012年版と2018年版『小学校学習指導要領解説 社会編』における抽
出語の共起関係を分析する際に用いたコーディングルールは、それぞれ表 5と表6に示す通りである。なお、抽出語がないカテゴリーは空欄となっ ている。 表5 2012年版『小学校学習指導要領解説 社会編』における頻出語のコーディン グルール カテゴリー 用語 地域 産業、資源、農業、製品、工場、交通網、原材料、商店、生産 物、価格、商品、農家、漁業、空港、高速、農作物、原料、スー パーマーケット、デパート、飛行機、品質、コンビニエンスス トア、会社、魚、銀行、空港、工程、値段、売り場、並べ方、仕 事、サービス、輸入、製造、設備、小売、買い物、購入、交通網 国土 産業、資源、果物、野菜、仕事、運輸 農業 産業、農業、原材料、商店、生産物、果物、野菜、価格、航空、 高速、農産物、航路、産地、鮮度、飛行機、カーフェリー、ト ラック、牛乳、品目、輸送、畜産、輸入、自給、広告、養殖、良 質、運輸、交通網 水産業 産業、資源、商店、生産物、価格、水産物、漁業、航空、高速、 漁港、漁場、航路、産地、鮮度、飛行機、カーフェリー、トラッ ク、魚、魚介、品目、輸送、輸入、漁獲、養殖、良質、運輸、交 通網 工業 産業、工業、製品、工場、原材料、価格、機械、金属、航空、高 速、自動車、石油、原料、航路、産地、部品、鋼板、輸出入、立 地、輸送、輸入、加工、製造、輸出、運輸、交通網 情報 産業、サービス、加工 歴史 政治 租税、税金、納税 国際理解 経済的概念 費用、価格、経済、需要、予算、効率、市場、相場、生産、工 夫、努力、販売、消費、貿易、供給 経済的合理性 売上げ 学習方法 学習、活用、理解、調査、観察、見学、表現、収集、判断、解 決、整理、確認、経験、比較、説明、想像、分類、思考、習得、 分析、調べる、考える、分かる、気付く、深める、関連付ける、 学ぶ、読み取る、話し合う、とらえる、まとめる (筆者作成)
表6 2018年版『小学校学習指導要領解説 社会編』における頻出語のコーディン グルール カテゴリー 用語 地域 産業、工業、資源、製品、工場、農業、工程、交通網、原材料、 商品、品質、商店、産地、租税、漁業、農家、空港、高速、仕入 れ、値段、魚介、銀行、原料、産物、商圏、売り場、輸入、製 造、買い物、小売、魚 国土 産業、資源、果物、酪農 農業 産業、資源、農業、工程、価格、品質、産地、農産物、野菜、果 物、生産物、機械、輸出入、航空、航路、高速、海上、市場、組 合、農作物、カーフェリー、コンビニエンスストア、トラック、 ブランド、貨物、海路、産物、飼料、手間、鮮度、飛行機、輸 送、加工、出荷、畜産、輸入、輸出、収穫、良質 水産業 産業、資源、工程、価格、品質、産地、水産物、生産物、機械、 漁業、輸出入、航路、高速、海上、市場、水産、組合、カーフェ リー、トラック、ブランド、貨物、海路、漁港、漁場、魚群、産 物、鮮度、飛行機、輸送、加工、出荷、輸入、輸出、養殖、漁 獲、良質、魚 工業 産業、工業、製品、工場、運輸、工程、交通網、原材料、機械、 輸出入、金属、空港、航空、航路、高速、自動車、物流、海上、 企業、水産、地帯、部品、海運、港湾、石油、電話機、陸運、輸 送、加工、出荷、製造、輸出、製鉄、造船 情報 産業、運輸、商品、物流、輸送、加工、サービス、入荷 歴史 製品、交易 政治 租税、税金、物流、納税 国際理解 農業 経済的概念 価格、需要、予算、経済、費用、利便、効率、市場、希少、金 融、財源、財政、省力、貧困、法人、生産、工夫、努力、販売、 供給、消費、貿易、配分、負荷、共同、経営、雇用、自給、付加 価値 経済的合理性 売り上げ、収益 学習方法 理解、学習、表現、判断、選択、調査、思考、解決、見学、説 明、追究、整理、統合、議論、観察、収集、比較、対話、体験、 習得、経験、想像、分類、討論、話し合う、応用、考察、探究、 考える、調べる、捉える、関連付ける、分かる、学ぶ、読み取 る、集める、気付く、深める、確かめる、振り返れる、見比べ る、理解し合う、まとめる (筆者作成)
表5と表6に示したコーディングルールを用いて、2012年版と2018年 版『小学校学習指導要領解説 社会編』における経済的用語の共起関係を 分析した。なお、二種類の『小学校学習指導要領解説 社会編』における 記述内容を分析する際に、抽出語の関係性をJaccard係数0.2以上の語群を 描画するように設定した。分析の結果は図3と図4に示す通りである。 図3と図4の読み方は、基本的に前掲の図1と同様になっているが、図 3と図4の円はコーディングルールの各カテゴリーを意味するものであ る。また、円と円をつなげる実線と破線は、図1と同じ読み方になってお り、各線上にある数値は、カテゴリー同士の関係性を示すJaccard係数の 値である。 図3 2012年版『小学校学習指導要領解説 社会編』における経済的用語の共起関係 (Jaccard係数0.2以上) (KH Coder3より、筆者作成)
図4 2018年版『小学校学習指導要領解説 社会編』における経済的用語の共起関係 (Jaccard係数0.2以上) (KH Coder3より、筆者作成)
5.2018年版『小学校学習指導要領解説 社会編』から
みた経済教育の方向性
5.1 新旧の『小学校学習指導要領解説 社会編』における経済的学習 内容の変化 これまでの分析結果を踏まえてみれば、2012年版より、2018年版『小 学校学習指導要領解説 社会編』の方において、経済に関する学習内容が 一層増加したことが分かる。これは前述した経済的仕組み・システムや経 済的概念の増加から確認することができる。その他に、図3と図4から読 み取れるように、新旧『小学校学習指導要領解説 社会編』における経済 的概念は、「地域学習」と「産業学習」をはじめとする小学校社会科の学 習内容の全体構造に内包されたことも確認することができる。しかし、新 しい『小学校学習指導要領解説 社会編』において、経済的概念と他の学 習内容との関係性が若干弱まったことも確認できる。図3と図4において示されていないが、経済的学習内容が充実された他 に、学習内容における経済的合理性も一層重視されたことが分かる。こう した変化は、2012年版『小学校学習指導要領解説 社会編』で取り扱わ れた販売活動の「売上げ」を保持した上で、2018年版『小学校学習指導 要領解説 社会編』で取り扱われた販売の「工夫や努力」において、「収益」 という産業活動の経済的合理性を説明する学習内容が新しく加えられたこ とからも確認することができる。 しかし、図3と図4が示したように、新旧『小学校学習指導要領解説 社会編』における学習方法に関する記述内容は、経済的仕組み・システム や経済的概念との関係性が不足していることも読み取れる。つまり、新し い小学校社会科学習指導解説においても、経済を取り扱う学習活動の方法 的知見が依然として乏しいことを確認することができる。 5.2 新しい学習指導要領に基づく小学校経済教育の方向性 上述した新旧の小学校社会科学習指導要領解説の変化を踏まえて、今後 の小学校経済教育においては、まず、経済活動を内包した社会生活に対す る理解を形成させるために、経済的仕組み・システムに関する基本的な理 解を主体的な学習活動を通して、子どもに獲得させることが求められる。 その次に、経済生活を営む上で必要とされる経済的思考力を形成させるた めに、実際の経済活動に対する実体験や擬似体験を通して、各経済主体の もつ経済的合理性を子どもに理解させることが求められる。 猪瀬(2014)は小学校社会科における経済教育は内容構造のレベルに おいて道徳性を内包しており、産業学習などの経済に関する事実も規範性 を負荷していると指摘した10)。経済活動に対する理解を通じて、経済的概 念、そして経済的合理性に対する児童の理解を図るために、経済的意思決 定を含めた体験的な学習活動を通して、経済教育内容にあるべき経済的合 理性を担保していくことが新しい学習指導要領に基づく経済教育の最大の 課題であろう。