マグネトロン型イオン源による
負イオンの生成と検出
(昭和59年8月30日受理) 大津孝佳 秋津哲也平尾博幸
松沢秀典Negative Ion Production and Detection
Using a Magnetron Type Ion Source
TakayoshiOHTSU TetsuyaAKITSU HiroyukiHIRAO HidenoriMATSUZAWA Abstract Amagnetron type ion source, which utilizes the electron−impact ionization of gases by the electron shower, was developed. The ionization characteristic for Ar and SF6 gases were obtained. The numerical simulation of electron trajectories in the discharge space are present・ ed for the possible explanations of ionization characteristic curves.
1.はじめに
イオン打込み,イオンエッチング,イオンリソグラ フィ等,使用目的に応じて種々のイオン源の研究がな され,これまでに数多くのイオン源の開発がなされて きている1)・2)・3)。しかし,負イオン源の歴史は浅く,そ の動作機構についても,正イオン源ほど詳細な研究は なされていない4)・5)。負イオンに関する研究は,半導体 工業におけるプラズマ中での化学処理や,気体分子レ ーザ媒質中で見られるような低温弱電離プラズマ中で の諸現象などの観点から注目されてきた。負イオンが 存在するプラズマ中では,気体分子の解離,イオン化 と共に,電子付着,電子離脱等,完全電離プラズマで は問題にならなかった現象が重要な役割を果たしてい る。その一一例としてSF6の低気圧過渡放電プラズマ中 での電離波動不安定性が観測されている6)の。負イオン 源として,電子と負イオンの混在するプラズマ中から の引き出しを考えると,電荷の量,極性が同じ,質量 は大きく異なるために,負の荷電粒子電流中の負イオ ン電流と電子電流の比が問題になる。負イオンと共に 多量の電子を同時に引き出すことは,電源容量の点か らも,効率の点からも好ましくない。この問題点は, 磁界を印加し,負イオンと電子との質量の違いから, Larmor半径が大きく異なることを利用して,磁界に 垂直な方向から負イオンを引き出すことにより改善す ることができる。 本報告では,E×B放電空間内の電子のマグネトロ ン運動を利用したイオン源(電子シャワー型イオン源) を製作し,その基本特性および,そのために製作した 均一な磁界を生成するための最大磁束密度0.5Tの電 磁石を備えた偏平形真空容器の技術的特性について述 べる。SF6ガスとArガスとのプローブ測定の結果,軽 い負の荷電粒子(電子)の飽和電流が磁束密度の逆数 1/Bに線型に比例する。磁束密度Bを大きくした場合 のこの直線からのずれから重い負の荷電粒子(負イオ ン)の存在がわかる。SF6の場合に負の荷電粒子電流中 の負イオンをプローブ測定法により確認する。また, イオン源の動作特性に対する説明を数値シミュレーシ ョンで示す。 *電気工学科,Department of Electrical Engineering ** }ツダ,MATSUDA CO.2. 実験装置および実験方法 2.1 電磁石 広範囲な均一磁界を生成するためにU字型方向性 ケイ素鋼板鉄心(μ=1500,断面積140×62mm)を用 いて電磁石を製作した。外観を図一1に示す。コイル部 は非磁性のアルミニウム製ボビンに矩形断面(1×4 mm)のホルマル線を991回巻いたものである。ポー ル・ピース間の最大磁束密度は,間隔か23.7mmのと き,0.5T(電流10 A)を得ることができる。図一2に電 流6Aのときのポール・ピース間の磁束密度分布の等 高線による表示を示す。これは,ポール・ピースを横 断する方向に11mm間隔でガイドラインを作成し,5 mm間隔てZ方向の磁束密度を測定し,得られた二次 元マップの格子点のデータから内挿法により連続的に 描いたものである。ポール・ピースの端では磁束密度 が著るしく不均一となっているが,中心部ては0.31T で均一な分布を示すことがわかる。ポール・ピース問 中央部において,励磁電流に対する起磁力のヒステリ シスループの測定結果を図一3に不す。この結果,励磁 電流を零にした場合の残留磁束密度は2×10−4Tであ i㌶
難難一顯
図一1 電磁石の外観 Fig.1 Apearance of electrlc magnet /231T。/°3°T 4。,T Z。。、T 図一2 磁束密度分布 Fig.2 Magnetic isobar ●/ /:03
) の ● / ● / ● / ● / ● / ● / ● / ● / ● / ● 一5 ●/ E/ 0 5 ●/ 怐^ 1(A) ●/ ●/ ・/ / ● ●/ / ● / ● / / ● 一〇3 /● 図一3 ヒステリシスルー一プ Fig.3 Histerisis loop()f magnet灘
図一4 真空容器の外観 Fig.4 Apearance of vacuum chamber り,ヒステリシスはほとんと無視できることか明らか になった。 2.2真空容器 製作した真空容器を図一4に示す。直空容器本体は電 磁石のポール・ピース間237mmに納まるように偏平 な形(外側寸法22.5×114×290 mm,内側有効寸法 17×109×290mm)をしている。材料は非磁性である オーステナイト系SUS 304(厚み2.5 mm)を用いた。 角形フランジには,フィードスルー電極4本(フィラ メント用2本,電界印加用1本,信号用1本)とガス 導入パイプを取り付けた。偏平形の容器は円筒形の排 気用マニフォールド(直径114mm, SUS 304)に接合 し,7001/sの油拡散ポンフ゜と2001/minの油回転ポン プて排気を行い,到達真空度は10−5paてあった。 2.3 マグネトロン・タイプ・イオン源 イオン源を図一5に示す。イオン化室はアルミニウム×二2/
/−G(ユsIn[et/○
Apertureφ6mm/
10mm 図一5 イオン源 Fig.5 10n source. vacuum chamber5as
卜
35.8V トユ⇒t。P・mp
図一6 測定回路 Fig.6 Measuring set−up. 製円筒で,スパイラル状のフィラメント(直径0.1 mm, 1%Th−W製)をその軸が磁界方向となるようにイオ ン化室中心に設置した。また,これにガス導入パイプ を取り付け,テフロン管を用いて角形フランジ面に接 続した。イオン化室の上下端には,ガラス板を銀ペー ストを用いて固定して気密を保った。イオン源前面に は,直径6 mm,奥行き5mlnのイオン取出し用アパチ ャーを設け,円筒型のLangmuirプローブを開口部か ら1mmの距離に設置した。プローブは,直径0.1 mm, 長さ10mmの白金製である。図一6に測定回路を示す。 試料ガスとしてArおよびSF6を用い,ガスは定常的 にイオン化室に導入した。試料ガス圧は常に2.66× 10−3 paとした。このとき,フィラメント電流は1.4 A, フィラメント・アノード問電圧は35.8Vとした。 3.実験結果および考察 磁界を印加しない場合と0.025Tの磁界を印加した 場合のプローブの電圧・電流特性を図一7(a),図一7(b)に 示す。Ar, SF6の双方ともに磁界を印加すると電子が マグネトロン運動の軌道内にトラップされるために, プローブの電位がイオン源のアノード表面の電位より も正の領域(正バイアス)のプローブ電流が,顕著に 減少している。負バイアスのプローブ電流が増加して ・w|thOut magnetlc tie[d 。with magneれc fie[d ...8:言:5診∞ 一.・:3:s‘‘’ SF6 2x165T。rr 3 ■ Wlthout maqnetlc f|eld o wlth magnetlc fleld / ◆ / 2一 ■ (<ユ ) 江 / 一 ・ / ● 1 / ・ / / ! ■ ro / ,o ・ o ’ / 声 ◆ o / o’ . o/ I , ・ o .,・’ P ・ ’@ ρ ,o nO 一30 ./σ ・/ 堰f 30 / ! ● o @ 〆 / @・ o D// Vp(V) / o ,・@/ ・ o 〆・!@o/ /・ @/ ● o /●!@ o/ .’° @ // o 一1 / o / o / o ノ 夕 図一7 プロー一ブの電圧・電流特性 Fig.7 Current−voltage characteristics of the probe.いるのは,フィラメントからの熱電子放出された一次 電子がイオン化室内でマグネトロン運動の軌道内にト ラップされることにより1次電子の利用効率がよくな るからである。 図一8(a),図一8(b)にフ゜ローブ電位を+30Vに固定し, 磁界を変化させたときのArおよびSF6のプローブ特 性を示す。プローブは正バイアスであるので,プロー ブ電流は電子あるいは負イオンによるものである。磁 束密度を増加させてゆくと,イオン化室内での一次電 子の利用効率がよくなり,イオンー電子対の生成が増加 するために,プローブの電子(負イオン)飽和電流が 増加している。 このようなイオン源の動作特性の数値シミュレーシ ョンを行う。 同軸円筒電極の半径を中心電極ノ’1〔m〕,外部電極1’2 〔m〕,両極間の電位差をレ〔V〕,半径方向の電界の 強さをE。〔V/m〕磁束密度をB〔T〕,回転角をθ〔rad〕 とすると,荷電粒子の運動方程式は次式で与えられる。 10
…\ノ
§ 三 0 0 0.01 B(T) O.02/\
O O OOI OO2 B(T) 図一8 磁束密度一電流特性 a)Ar b)SF6 Fig.8 Variation of the negative charge current with magnetic field B for a)Ar, b)SF,. 2dθ eB (ノ’2−r12) m「 р煤=@2
9i211i,1一㌃E・一・(eB2m)℃与)E.=_v・⊥
γ2 7’ ln ク’1 (1) (2) (3) ここで, dθ/dt=0 である。 放電空間内では,カソード前面にシースが形成され る。よって,半径方向の電位分布は,カソード前面に 大きな電位匂配があり,陽光柱内ではゆるやかな匂配 になる。カソード・シースの厚さは,陽光柱の長さと 比べて非常に小さいものとする。カソードから放出さ れた電子は,カソード・シースで加速されて,陽光柱 内に入り,マグネトロン軌道を描く。陽光柱内の電位 勾配を式(3)でV。とする。数値計算には次のパラメー タを用いた。 m=0.91×10 30 〔kg〕 と}= 1.602×10−19 〔c〕 γ1=1.0×10−3 〔m〕 r2=6.0×10−−3 〔m〕 V=35.8 〔V〕 Vo=0.3 〔V〕 B=0。005,0.01,0.Ol5,0.02 〔T〕 Runge−Kutta法の4次公式8)を用いて運動方程式を解 き,電子の軌跡を求めた。数値シミュレーションの結 果を図一9に示す。 Rl・1mm①B・O.005 T R2=6mm ② O.Ol T ③ 0、015・T ④ O.02・T Cathode Sheath:35.5 V E:O.3V 図一9電子軌道の計算機シミュレーション Fig.9 Numerical simulation of electron trajectory.フィラメントから放出された一次電子は,35.5Vの カソード・シースで加速され,その後,シース外縁と アノードとの間の0.3Vの電位差によって生じる電界 内でマグネトロン運動を行い,アノードに向かう。磁 束密度が∼0.01Tを起えると,電子はアノードには達 せず再びフィラメントに向かい,イオンー電子対を生成 するための一次電子の利用効率が,∼2倍に増大する ことがわかる。 Arにおいて磁束密度が小さいとき,プローブ電流が 減少する。これは一次電子が磁界によって軌道が曲げ られるためにアパチャーの面積が等価的に小さくなっ たためと考えられる。 図一10(a),図一10(b)に図一8(a),図一8(b)の結果を磁束密 の逆数1/Bの関数としてプロットした結果を示す。1/ Bが一定の範囲内で,プローブ電流五と1/Bの間に 次式で表わされるような線形な比例関係が得られた。 lp= a(1/B)十b (4) Ar a;1.08×10−1 ろ=−3.87 45〈 1/B< 143 三 三 { 三 10 0 100 1!8 (1’T) 200 300 o 100 1!B (1/T) 図一10 1/B一ち特性 a)Ar b)SF6 200 300 Fig.10 Variation of the negative charge current with 1/B for a)Ar, b)SF6. SF6 a=7.12×10−3 b=・0.265 110< 1/B < 363 プローブ電流はピーク値を示した後に,磁束密度B に逆比例して単調に減少し,その後,ほぼ一定となる ことがわかる。 正にバイアスされたプローブに流れる負荷電流は, 電子あるいは負イオンによるものであるから,電子付 着による負イオンの生成を考慮する必要がある。SF6 の電子親和力は,約3.4eVと大きく,電子を取り入れ て負イオンを容易に形成する9)。SF6の場合,イオン化 室内では,SF6およびその分解生成物への電子付着に より,SF6−, SF5−, F一等の負イオンが形成されるもの と思われる。それに比べて,Arは,電子親和力が負で あるために負イオンの形成は非常に起こりにくいが, 高速の電子により励起された活性Ar*への電子付着に より,Ar−(3p64s)がわずかに形成される1°)。 このことから,正バイアスされたプローブに流れる 電流は,Arの場合,ほとんどが電子であり,SF6の場 合,電子と負イオンによるものと考えられる。 プローブ電流五が,磁束密度の逆数1/Bに線形に 比例して減少することは,磁界中での衝突による散乱 を考慮すると説明できる。すなわち,プローブ方向に 電界,それに垂直方向に磁界が存在すると,衝突を考 えない場合,荷電粒子は,E×Bドリフトを行い,開口 部からプローブに到達できない。衝突があれば,衝突 による散乱により最大でLarmor半径rL(rL=〃zv/ qB, m:質量,パ速度, q:電荷量, B:磁速密度) の2倍の歩幅で開口部からプローブに近づくことがで きる。同一温度,同一磁界内での電子と負イオンとの Larmor半径の比は電荷量が同じ場合,1’e/7・、、=(M/
1
m)百となる。ここでreは電子のLarmor半径, r、、は負 イオンのLarmor半径, mは電子の質量, Mは負イオ ンの質量である。電子とSF,一およびAr一とのLarmor 半径の比は1:516:270であり,この範囲内では質量 の違いから電子のみがこれに従うものと考えられる。 よって,Arの場合は,磁束密度の増大とともにプロ ーブ電流はBに逆比例して減少する。図一10(a)で1/B が45〔1/T〕以下での直線からのずれは,Ar−(3p64s) の存在によるために生じている可能性がある。 SF6の場合は,多くの負イオンが存在するために,プ ローブ電流は,Bの増大とともに電子による電流の分 だけが減少する。その後,質量の大きな負イオンは, この磁束密度の範囲内では磁界の影響をほとんど受け ず,プローブ電流は,ほぼ一定の値を示すものと思わ れる。以上のことから,この実験において,磁界中でのSF6 プラズマ中で,負イオンが生成されることをプローブ 測定法により確認できた。 4. ま と め 磁界に垂直方向に電界を加えることによって生じる マグネトロン運動をする電子のシャワーによって,気 体をイオン化するマグネトロン型イオン源を製作し た。これを用いて電子親和力が大きく異なる二種類の ガス,ArおよびSF6ガスを磁界中でイオン化した。プ ローブ測定法により,プローブ電位を電子(負イオン) 飽和領域に設定し,印加磁界を増加させていくと,プ ローブ電流は,磁束密度に逆比例して減少し,その後, ほぼ一定の値を示すことがわかった。SF6におけるこ の一定の電流は,SF6およびその分解生成物に電子付 着の結果生じた負イオンによるものと推察できる。 終わりに,実験装置製作にあたり,ご協力いただき ました山梨大学付属機械工場の皆様に深く感謝いたし ます。