〈論文〉シングルマザーの就労支援にかかわる一考察
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(2) 人権問題研究所紀要. シングルマザーの就労支援にかかわる一考察. が就業しているが、 「臨時・パート」が 43.6%と最も多く、 「常用雇用者」が 42.5% となっている。 10%強のシングルマザーたちの不就業の理由には、 「求職中」 、 「病気」や「高 齢」 、 「子どもの世話」、 「時間的条件」があげられる 4。こうした理由には階層別 での違いがみられ、 「『病弱、身体的・精神的ハンデのため』は低所得・低学歴・ 母+子のシングルマザーに多く、反対に『仕事がみつからない』は、所得・学 歴ともに高く祖父母と同居しているシングルマザーに多くなって」おり、低収 入の母親たちの 4 人に 1 人、低学歴の母親たちの 4 割が、通院しているという 5. 。 日本労働研究機構が 2003 年に発表した『調査研究報告書№156 母子世帯の母. への就業支援に関する研究』 (以下、 「JILPT 調査研究報告書」)によると、1997 年の就業構造基本調査の再集計の結果、母子世帯・有業者の世帯平均年収は 261.0 万円、同居母子世帯・有業者は 557.2 万円、有配偶有子世帯の母親・有 業者は 725.3 万円と明らかな差が見られる。 こうしたシングルマザーの就労実態の背景には、性別分業、男女間の賃金格 差、M 字型就労や断続的就労、非正規雇用化、再就職の困難さ、家事・育児と の両立による労働時間や職種の制限など、女性をめぐる就労実態が通底してい る。離婚によって顕在化してくる女性の貧困であり、貧困の女性化の象徴とし てのシングルマザーの実態である。. 〔2〕 「福祉(依存)から就労(による自立)へ」を打ち出した政策 2002 年、政府は、母子及び寡婦福祉法、児童扶養手当法を改正し、児童扶養 手当を減額する一方、「就業・自立に向けた総合的な支援」として、「子育てと 生活支援」 「就業支援」 「養育費の確保」 「経済的支援」の 4 本柱による母子政策 を打ち出した。ハローワークやマザーズハローワーク、母子家庭等就業・自立 支援センターや母子自立支援員などによる総合的な職業相談・就業支援事業が - 44 -.
(3) 人権問題研究所紀要. シングルマザーの就労支援にかかわる一考察. 全国の自治体で展開されるようになり、教育訓練を通じた母親の能力開発のた めの給付金も支給されるようになった。 母子家庭の母に対する就業相談機関として、2003 年度に全国 58 カ所に設立 された「母子家庭等就業・自立支援センター」は、 「ハローワークが主に職業相 談紹介を行うのに対して、支援センターは就業支援(就職相談、就業支援講習 会、就業情報の提供など)から生活支援(養育費や、保育、法律問題の相談な ど)まで、母子家庭に対して多様なサービスを提供」6している。児童扶養手当 受給者に対しては、就労支援を中心とした個別プログラムを策定する「母子自 立支援プログラム事業」が 2006 年度から全国展開されている(次頁参照)。. 母子家庭等就業・自立支援センター事業による 2010 年度の就業実績は次のよ うになっている 7。就業支援事業は相談件数 89,729 件で、常勤 2,356 件、非常 勤・パート 3,233 件、自営業・その他 159 件である。就業支援講習会事業は受 講者数 18,865 件で、常勤 498 件、非常勤・パート 938 件、自営業・その他 45 件である。就業情報提供事業は情報提供件数 87,606 件で、常勤 1,811 件、非常 勤・パート 2,312 件、自営業・その他 64 件である。就業相談や講習会、情報提 供から就業につながったのは、センター利用者の 5%~8%にすぎず、常勤に限 っていえば 2%程度である。 また、母子自立支援プログラム策定事業による 2010 年度の就業実績は、自立 支援計画書策定件数 6,952 件で、常勤 1,601 件、非常勤・パート 2,178 件、自 営業・その他 536 件である 8。. - 45 -.
(4) 人権問題研究所紀要. 人権問題研究所紀要. シングルマザーの就労支援にかかわる一考察. シングルマザーの就労支援にかかわる一考察. 母子自立支援プログラム策定事業. - 46 職業訓練メニューのうち、母子家庭の母に対する特別対策として実施されて.
(5) 人権問題研究所紀要. シングルマザーの就労支援にかかわる一考察. 職業訓練メニューのうち、母子家庭の母に対する特別対策として実施されて いるのが、「高等技能訓練促進費事業」、「自立支援教育訓練給付金事業」、そし て「母子寡婦福祉貸付金事業」である。「高等技能訓練促進費」は、2 年以上養 成機関で修業する場合、修業期間の全期間について生活費の負担軽減のための 給付金が支給されている。給付額は、市町村民課税世帯の場合で月額 141,000 円、非課税世帯で月額 70,500 円である。対象資格は、看護師、介護福祉士、保 育士、理学療法士、作業療法士などである。 「自立支援教育訓練給付金」は、地 方公共団体指定の教育訓練講座終了後に受講費用の 20%(上限 10 万円)が支 給される。「この制度利用による資格は、(1)費用と時間をかけても、正社員と しての採用や高賃金の就労に結びつきにくいもの(販売士、産業カウンセラー など)。(2)費用と時間を多くかけ、正社員としての採用や高賃金、起業(自営 業)に結びつきやすいもの(社会保険労務士、公認会計士、税理士など)。とい う 2 つに分かれている」 9。就業実績は以下のとおりである 10。 「高等技能訓練促進費」事業による 2010 年度の就業実績は、支給件数 7,969 件、資格取得者件数 2,114 件で、常勤 1,519 件、非常勤・パート 177 件、自営 業・その他 18 件である。 「自立支援教育訓練給付金」事業による 2010 年度の就 業実績は、事前相談件数 4,052 件、受講開始件数 1,830 件、支給件数 1,537 件 で、常勤 315 件、非常勤・パート 538 件、自営業・その他 27 件である。. 〔3〕自治体による就労支援 労働政策研究・研修機構は、母子家庭の母への就業支援に関する研究として、 札幌市、横浜市、千葉市、貝塚市、釧路市、秋田県、大分県、浜松市へのヒヤ リング調査を行い、就業支援や生活支援、被支援者とのアセスメント等、 「自地 域の実情に応じ、地域の社会資源を有効活用した、自治体独自の様々な就業支 援策」が行われていることを紹介している. 11. 。その調査を踏まえ、母子家庭の. 母への就業支援策のあり方について、下記のような提案を行っている 12。 - 47 -.
(6) 人権問題研究所紀要. シングルマザーの就労支援にかかわる一考察. ① 母子家庭の母を対象とした実態調査と、その結果ならびに民間団 体や行政機関の機能などを総合的に勘案した、中長期の母子家庭 等自立支援計画の策定。 ② 自治体の意識的なワンストップサービスの構築、支援メニューや 相談システムの体系化、関係機関との連携。 ③ 行政・NPO 提供による利用可能な社会資源(教育訓練、福祉、住 宅、保健、就職支援、育児支援、奨学金制度等)の整理・体系化 ならびに就業支援業務のマニュアル化、自治体の体系的プログラ ムの構築。 ④ 母子福祉行政とハローワークとの連携強化による生活・就業支援、 母親を待たせない相談体制の構築。 ⑤ ハローワークでのチーム支援の方法論の確立と資質の向上。 ⑥ 相談対応時間の柔軟化(夜間・休日)、多チャンネル化(メール での相談受付、携帯電話などへの情報配信など)。 ⑦ 利用者のアセスメントの徹底と関係機関での情報共有(関連機関 での統一の質問用紙作成や連絡体制の確立など)、支援利用者か らみた評価指標の作成。 ⑧ 生活支援プログラムの必要性、母親を孤立させない支援、地域の NPO の有効活用、母親の集う場やグループの形成。 ⑨ 子どもを対象とした支援プログラムの整備。 ⑩ 就業支援を担当する職員の処遇(常勤職員にみあった待遇や権限 など) 。 ⑪ 支援利用者の追跡調査など政策評価のための調査の実施。 ⑫ 国に求められる各自治体の政策情報の収集と事例紹介。. - 48 -.
(7) 人権問題研究所紀要. シングルマザーの就労支援にかかわる一考察. 〔4〕緊急雇用創出基金事業新規雇用者シングルマザーへの インタビュー (1)緊急雇用創出基金事業 「地域の雇用失業情勢が厳しいなかで、離職した失業者等の雇用機会を創出 するため、各都道府県に基金を造成し、各都道府県及び市区町村において、地 域の実情や創意工夫に基づき、雇用の受け皿を創り出す事業」13として、厚生労 働省が 2008 年に予算化した、緊急雇用創出事業、重点分野雇用創造事業、ふる さと雇用再生特別基金事業が全国で実施されている。大阪府では、事業実施に あたって、就職困難者層の雇用を義務づけており、雇用実績として「母子家庭 の母」もカウント集計されている。 本稿では、大阪府において実施されている「地域人材育成支援事業」および 「ふるさと雇用再生基金事業」のうち、シングルマザーを雇用対象として実施 している 2 事業で新規雇用されたシングルマザー4 人に行ったインタビューか ら、シングルマザーに対する就労支援の課題を探ってみたい。なお、上記 2 事 業を選択したのは、シングルマザーを雇用する事業の多くが介護・福祉分野に 見られるなかで「食」というテーマでの就労支援を企画・実施していたこと、 就職困難者層の一区分としての「母子家庭の母」ではなく、 「ひとり親家庭の親」 を全面に打ち出した事業を企画・実施していたことが理由である。. (2)職業訓練・研修と就労の「間」をつなぐもの インタビューした 4 人のシングルマザーのうち、3 人がシングルマザーにな って以降に何らかの職業訓練を受けていた。苦労したこととして、①講座を受 講する際の子育て・保育の問題、②育児との両立により受講日・内容の選択肢 が限られたり途中で受講を辞めざるを得なかったこと、③受講費用の問題、④ 就労との両立による心身面での限界、⑤講座内容・時間が限られていること、 - 49 -.
(8) 人権問題研究所紀要. シングルマザーの就労支援にかかわる一考察. ⑥就労に結びつくような講座や資格がないこと・講座を受けたり資格を得ても 就労に結びつかないこと、⑦座学のみで OJT がないこと、などが語られた。 「パソコンを 3 カ月やったところで事務って雇ってもらえない。ぜんぜん触 れなかったのがちょっと触れたくらいなので、事務もそんな人は求めていない。 なんとか歴何年以上とか、何々ができる方ということを書いてあるとこばかり」、 「今まで貯めていたものをぜんぶおろしてパソコンも行ったけど、仕事とかけ もちだったのでなかなか行けなくて、途中で忙しくなってパーになって。そこ から入力くらいはできるけど、それの練習をしようと思ったら今度はパソコン がいる。またお金がいる。そうすると 1 年たってだんだん忘れていく。資格を 取ってもそれが活かせるならいいけど、取って実際に使えるのかという問題だ から、取ってもその仕事につかないなら意味がない」と語っていた。 多くの男性たちが仕事を通して働きながら蓄積・活用できる職業経験や職業 上の能力開発の機会を、女性たちは経験していないことが多い。正社員や男性 を中心として行われてきた日本の人材育成や能力開発の機会から排除されてき た女性たちにはトータルな視点からの職業訓練が必要であると同時に、就労支 援や所得保障とセットになった職業訓練が必要である。また、職業訓練や資格 取得のための研修を受ける際の保育整備も課題である。 一方、就労率が高く、労働時間が長い日本のシングルマザーの特徴に鑑みれ ば、安定就労・収入の仕事に転職するための職業訓練の機会提供は重要である ものの、長時間の有償労働・無償労働の両立のなかで職業訓練を受講する時間 を確保することは現実的にも意欲の問題からも難しいと考える。インタビュー した 4 人に、上述したような自治体による職業訓練についても話をしてみたが、 提示されている資格に関心がない、受講のための時間がない、修学の時間が長 い、受講中の生活費がない、そもそも制度について知らなかった、と利用の難 しさを語っていた。 自立支援教育訓練給付金事業は、 「給付金が支給されるのは講座終了後である - 50 -.
(9) 人権問題研究所紀要. シングルマザーの就労支援にかかわる一考察. こと、講座に関わる費用を用意しなければならないこと、自己責任において受 講中の生活費を工面しなければならないこと、受給額が最大で 20 万円であるこ と」、高等技能訓練促進費事業については、「必要費用が高額であること、受講 時間が殆ど毎日、時には昼間であり、仕事をしながらの修業に無理があり、収 入対策の必要性があること、1 日のうちの長時間が通学あるいは受講のため必 要であり、また、実習期間もあり、子の保育・養育面での対策には多様性が求 められること、就業期間が 2 年以上と長期間であること、自己責任において就 業期間最初の3分の2の生活費を工面しなければならないこと」14などの課題が 制度の利用困難性に関してあげられている。 労働政策研究・研修機構の調査によると、 「母子家庭になってから取得した資 格における費用の賄い方」は、「自分の貯金や収入」が 62.4%を占め、給付金 利用については、「雇用保険の教育訓練給付金」17.8%、「自立支援教育訓練給 付金」13.6%となっている。また、 「資格や技能の習得など職業能力の向上」に ついて、 「希望はあるが実施できない」と過半数が回答しており、そのうちの 4 分の 3 が「費用が負担できない」ことを理由としてあげている 15。NPO法人しん ぐるまざあず・ふぉーらむの調査においても同様で、 「費用が負担できない」53%、 「保育の手立てがない」18%となっている 16。 今回インタビューした 4 人のうち 3 人が母子家庭になってから職業訓練を受 けていたが、1 人は貯金を使い果たし、2 人は雇用保険の教育訓練給付金を利用 しており、 「自立支援教育訓練給付金」を利用した者はおらず、その制度につい ても周知していなかった。制度に関する広報や情報提供、受講できる場所や機 会の拡大、受講時間帯や内容などの工夫や多様化、保育サービスの提供などが 必要であり、また、資格取得に対する費用補助や職業訓練中の十分な所得保障 が不可欠である。 上記 3 人以外の 1 人は、離婚した時点で栄養士の資格を持っていたので、そ の資格を活かして離婚前後も就労を継続することができていた。なお、シング - 51 -.
(10) 人権問題研究所紀要. シングルマザーの就労支援にかかわる一考察. ルマザーたちへの調査によると、役に立っている資格として、「介護福祉士」、 「看護師」、「保育士」、「パソコン」、「ホームヘルパー」、「調理師」、「理・美容 師」となっている 17。また、 「准看護師、調理師、介護福祉士、簿記の資格、PC 文書作成能力があると正社員就業確率を高める」 18という。. (3)シングルマザーの階層性 多くの調査によって、母子世帯の多くが低学歴の傾向にあることや、低学歴 のシングルマザーが非正規雇用に従事する割合が高い傾向にあることがわかっ ている 19。 今回のインタビューにおいても、4 人中 2 人が高校中退、2 人が高校卒業であ った。一人は次のように語った。 シングルマザーサポートと書いていたが、最初は意味がわからなかっ た。何に対してサポートしてくれるのか。たとえば学歴ないシングル マザーでもそれをサポートするのかとか。もう少し詳しく書いてくれ てたらよかった。私の周りもそうだけど、高校に行ってない子が多い ので、それで子どもを産んでる子が多いので、普通の昼間だと働けな いので、学歴不問が書かれていたらありがたい。そうやって書く会社 はない。それだけでも安心できる。いろんなところで言われるのでし んどい。周りも働きたいけど学歴がないから働けない。それだけで落 とされるのでみんな夜に流れる。みんな託児所に入れたりとか、そこ でお金がかかるから結局一緒。でも働かないといけない。シングルマ ザーのサポートの中身は、学歴。学歴問わない仕事ってあるのかな。 ひとくくりにされたら無理。学歴や子どものことなどの情報が入って いたらなおいい。安心して飛び込める。そこがありがたい。. 低学歴のシングルマザーに離職や転職の傾向がみられると言われている - 52 -. 20. 。.
(11) 人権問題研究所紀要. シングルマザーの就労支援にかかわる一考察. 低学歴のシングルマザーには「単なる就業支援ではなく、専門学校や長期の職 業訓練などの教育支援、また身体的・精神的状態の改善に向かうような日常生 活・社会生活支援が重要」だと藤原千沙は指摘する 21。教育機会の違い、年齢、 学歴などシングルマザー内部の階層差に配慮した支援が必要である。 十分な教育を受けてこなかったことによって、労働市場に参加していくこと への自信をもてず、職業選択の幅も狭められる。出産退職による断続的な働き 方や非正規雇用・短時間労働・単純労働の積み重ねによって、母親自身が就業 経験不足やキャリア不足にあることで安定した収入を得るような就業機会を確 保できずにいる。就労や正規雇用に必要な教育歴・職歴・資格・技能が不足し ているが、職業訓練で得た資格に対する労働需要が低ければ仕事には結びつか ない。一方、労働需要の高い資格取得の機会が提供されていても、母親たちが その仕事に意欲・関心がない場合や、健康上の理由や時間的制限から就くこと ができない場合もある。 こうした状況は、就労支援や求人に関する情報不足とも相互作用をしている。 インタビューした母親たちは、労働基準法についての知識もなく、有給取得の 方法も雇用先から教えられず、求人も雑誌やインターネットということだった。 誰にも相談してない。タウンワークでだいたい仕事は探す。ハローワ ークや役所には行かない。行っても何にもしてくれないイメージがあ る。交通費 180 円出して相談して帰ってくるってなったら何してるん やろってなるし。タウンワークやったらただやし、見て、適当に働け るところを探した方が早い。. 安田尚道・塚本成美によると、 「早期の就業をのぞみ、織り込みチラシなどで 就職したシングルマザーは非正規雇用が多く、ハローワークでじっくり職をさ がしていたシングルマザーは正規雇用が多かった」 22という。. - 53 -.
(12) 人権問題研究所紀要. シングルマザーの就労支援にかかわる一考察. (4)就職活動における不安や困難 インタビューした 4 人のうち、専門職の有資格者以外の 3 人は、出産と同時 に仕事を辞めており、出産後はパートやアルバイトでの転職を繰り返してきて いた。出産による退職や非正規労働における再就職という職歴から、社会復帰 や常勤並みに働くことへの不安を抱えていた。1 人は離婚後の就職活動の際の 状況について、次のように語った。 接客と飲食でずっと働いてて、そういうとこに面接行っても、「子ど もに何かあった時にどうするんですか」とか、実家が遠いので預ける こともできないし、 「夜も出れますか」、 「日曜日出れますか」って。 「飲 食店は難しいと思います」って、「ランチタイム」っていうので区切 られての採用やったから、月の収入が 7~8 万では生活できないので どうしようかなっていう時(に本事業の募集を知った)。 「雇ってあげ たいんだけど、時間がね、それでもいいけど来る?」みたいに言って もらったところもあったけど、給料の保障ができないと言われて、シ フトになってしまうので、ということで。面接に行くのが嫌い。電話 の時点ではそこまで聞かれないけど、年齢と経験があるかどうかだけ だけど、履歴書を持って行って、最後のところで「え?」となる。 「結 婚ではないんですか」みたいな。そうですね、となってそこからまた 話さないといけない。会社の人も、まったくわたしと同じ条件の人が いて、わたしが母子家庭で子どもがいるとなると、やっぱりもう一人 の人の方を雇います、申し訳ないんですけど、といわれる。わかりま すって言うけど、母子家庭にどうしろってことなんでしょうね。. 「JILPT調査研究報告書」によると、母子世帯になる前の働き方として最も多 いのが、 「結婚・出産などで退職していた(退職型)」が 32.5%、次いで「結婚・ 出産などで退職し再び働いていた(再就職型)」が 25.3%である 23。母子世帯に - 54 -.
(13) 人権問題研究所紀要. シングルマザーの就労支援にかかわる一考察. なる前に働いていたのかいなかったのか、正規雇用だったのか非正規雇用だっ たのか、その違いもシングルマザーたち内部に階層を生みだしている。 仕 事 を 探 し て い る 時 の 問 題 点 と し て あ げ た の は 、「 年 齢 制 限 が あ っ た 」 (38.9%)、 「子どもが小さいことが問題にされた」 (32.2%)、 「求人自体が少な かった」(31.4%)、「母子世帯であることが問題にされた」(13.2%)であった という 24。NPO法人しんぐるまざあず・ふぉーらむによる調査では、求職中に問 題となったこととして、求人先から「子どもが小さいことが問題にされた」 (83%)、「年齢制限があった」(65%)、「求人自体が少なかった」(56%)、「子 どもの保育の手立てがなかった」 (40%) 、 「母子家庭であることが問題とされた」 (39%)という回答結果となっている 25。 実家からの援助や家族・親族のネットワークの有無、近所づきあいには、階 層性が確認でき、無職・低所得・低学歴の母親たちにはこれらがない、と岩田 美香は指摘する. 26. 。岩間暁子も、職業経験以上に学歴の効果がより大きく、高. 学歴のシングルマザーほど、就業率や正社員雇用率、年収が高く、親や親族か ら援助を受けている傾向にあることを明らかにしている。子どもの父親から養 育費を受け取れるチャンス、パソコン使用率、母子家庭後の生活への準備など にも学歴による格差があるという。そのうえで、「『自助努力』を強調する政策 の導入によって、低学歴の女性たちが経済的により一層困難な状況に陥る危険 性」27を指摘する。同様の指摘は多くの研究者たちから指摘されている。日本労 働研究機構は、 「母子世帯になる前後に就業準備をすることは、その後の正規職 の雇用機会や勤労収入を拡大させるかもしれない。しかし、そもそも準備がで きるかどうかというところに学歴差が存在している」28ことを調査から明らかに している。 「彼女たち自身の低学力・低学歴・不安定職歴に対して、いかなるス キル獲得をどのような教育・訓練スタイルで保障していくかは決定的」29との青 木紀の提案に首肯する。 インタビューに応じた 1 人は、離婚後の状況を次のように語っていた。 - 55 -.
(14) 人権問題研究所紀要. シングルマザーの就労支援にかかわる一考察. 職安に行ったりしていたが、ぜんぶ落とされた。就職活動しても、子 どものことで。一番小さいのがいたので、行ったところによると、面 接してもらっても、「こっちも雇う側やねんから、ちっちゃい子ども さん抱えてる人は雇いたくないねん」とはっきり言われた。「子ども が熱出たぐらいで休まれたら困るねん」とか。「入院するくらいの病 気じゃないと休んでもらったら困る」とかはよく言われた。言われて もしょうがないと思っていた。面接の時から言われる。甘いとかも言 われる。「子ども抱えて働くなんて甘いんちゃう」とか言われて。い や、働かないと生きていけないですからみたいな感じで。言われても しょうがないかなと思って、でもそこまでして働きたい会社かと思う と、いやそうでもないよねって。わたしは割と基本的に楽に仕事を探 していたのでよかったが、こんなこと言われて、仕事探されへん人、 ぜったいいてはるわ、とか思って。この言葉で精神的にくる。わたし は割と数を打ったが、雇ってくれるところはなかなかなくて、履歴書 を送った時点でアウトでよく落とされた。面接に行ってもそれくらい 言われる。. 橋本理は、事業者が「母子家庭の母を雇用していない理由」に、 「経営状態か ら見て余裕がないため」 「急な欠勤・早退等に対応しにくい業務が多いため」 「労 働時間の弾力化(出勤時間・残業時間の調整等)が困難なため」 「保育や育児へ の配慮を十分に行えないため」 「業種・業務内容からみて女性の仕事がないため」 などをあげているとして、「労働時間の弾力化の実現」と「保育制度の充実化」 が母子家庭の母の雇用において重要なポイントとなると提起する 30。 インタビューに応じた 4 人ともが将来に対する不安、就職活動に対する不安 を訴えていた。就職活動での経験は、「そう言われても仕方がない」「会社の言 い分も分かる」との思いを彼女たちに抱かせ、自信の喪失、自己肯定感の低下 - 56 -.
(15) 人権問題研究所紀要. シングルマザーの就労支援にかかわる一考察. へともつながっていた。. (5)就職にあたっての優先順位 就職にあたっての条件や優先順位については、4 人がそれぞれ次のように答 えた。 「職種と給料面。時間や土日は子どもが大きくなった(8 歳と 5 歳) ので、ある程度合わせられる。」 「何かあった時に帰ってこれるために近いことと保育園のお迎え時 間を考えると時間。給料が下がっても 6 時に帰れる方がいい。日曜日 が休みだというのも助かってる。」 「まずは給料のことで考えて、生活できる、これだけのものを確保で きるっていう仕事を探さないと、職種で探せない。日曜日は休みじゃ ないと子どもがかわいそう。給料と時間だったら時間。給料が下がっ ても 9 時~6 時。」 「今の優先順位はお金。お金がすべて。給料が高くて少々しんどくて も、給料がいいからがんばれる。あとは時間帯と職場までの近さ。日 曜日が休みというのもなかなかない。」. 「時間」 「日曜日が休みであること」が強調されていた。シングルマザーの生 活時間を国際比較した田宮遊子と四方理人によると、日本のシングルマザーは、 他国に比して仕事時間が長い一方、育児時間が最も短く、平日より土日の育児 時間が長くなることが特徴であるという 31。 「JILPT調査研究報告書」によれば、 本業と副業をあわせた 1 週間の総就業時間数は平均で約 50 時間となっており、 「70 時間以上」が 8%いる 32。 「母子世帯の『パート』の過半数は、労働時間が 35 時間以上のいわゆる『フルタイムパート』である」33ことも指摘されている。 「平日の仕事時間が家事時間と育児時間の合計をはるかに上回り、また平日よ - 57 -.
(16) 人権問題研究所紀要. シングルマザーの就労支援にかかわる一考察. り土日の育児時間が長くなるという仕事と育児のバランスは、…夫婦世帯の夫 の時間配分」に近く、 「長時間労働のしわ寄せは、育児時間を切りつめる結果と なっている」 34。こうした実態を踏まえ、田宮・四方は、 「保育サービスを拡充 して長時間働けるような支援では、シングルマザーの仕事中心の働き方はより 強化される」ため、 「仕事時間を短縮したことによる減収を補填する所得保障を 伴わせること」 35を提案している。 「JILPT調査研究報告書」においても、転職に際して重視することや、現在の 仕事を選んだ理由として、休暇をあげるものが多くいる。 「よい仕事があれば転 職したい」と考えている者が転職に際して重視することでは、①「十分な収入 が得られる」68.4%、②「厚生年金や雇用保険に入れる」40.7%、③「土日に 休める」33.4%、④「休暇がとりやすい」26.4%、⑤「身分が安定している」 23.2%と続いている。また、仕事を選んだ理由としては、①「早く収入を得た かった」44.6%、②「通勤時間が短い」30.4%、③「厚生年金や雇用保険に入 れる」29.9%、④「土日に休める」28.8%、⑤「十分な収入が得られる」12.0% となっており、 「十分な収入」を希望する一方、実際には「早く収入を得る」こ とを仕事を選んだ理由としている 36。NPO法人しんぐるまざあず・ふぉーらむに よる調査においても、身分の安定、十分な収入、土日休めて就業時間に融通が きくことを就職の際重視することが報告されている 37。 安定就労・安定収入のみならず、子どもの病気や学校行事の時に休暇が取れ ることや、日曜日は休めること、定時に帰れること、職場が自宅から近いこと など、仕事と育児の両立を図るための時間に関する要望がインタビューでは多 くみられた。一方、時間給や日給がそのまま収入に影響する非正規雇用の働き 方をしている彼女たちにとって、労働時間は収入と密接に関連するため、常に 解雇への不安と子育てへの不安を抱えている。とくに、病気のある子どもをも つ母親はそのことを顕著に語っていた。非正規雇用の場合は、勤労収入を上げ るためには、労働時間を長くすることであるが、それにも限界がある。子ども - 58 -.
(17) 人権問題研究所紀要. シングルマザーの就労支援にかかわる一考察. の急な病気や母親の労働時間の変更などに柔軟に対応できる、緊急時の保育サ ービスが必要である。. 時給が高く、託児などが整備されており、学歴が問われない「夜の仕事」を 選んだり選ぶことを悩んだりするシングルマザーたちの実態もわかった。 最初は夜働くことも考えたが、一人にはできないし、まだそれは無理 だと思う。夜の方が時給が高いっていうのがおかしい。それは子ども も嫌だと思う。居酒屋も給料がちょっといいので、それもいいかな、 と思ったりもする。朝早いコンビニとかでも子どもが寝ている時間だ と行けないし。. 夜働いた方がお金がいいかなとは思う。友だちでもきょうだいがいる から子どもにぜんぶちゃんと言って、夜 2 人子どもを置いて、夜も働 くという子もいる。. 元々夜の勤務で探していた。昼間の普通の仕事にしようと思って、が んばって働いても 12 万しかならないので、それやったら融通きく夜 の方がやること少ない。ご飯食べさせたら寝るだけなので。今までで 一番長いのは夜の仕事で 6 年。だいぶ精神的にやられたけど、減らし てでも続けてたらよかった。最後は 1800 円。短くても普通の給料の 2 倍以上。昼だけがんばっても無理。荒稼ぎができる。精神的にも身体 的にも人よりはすぐにつぶれるけど。正社員で安定収入もいいけど、 9 時~6 時で、その時間を拘束されて、月 10 万ちょっとだったら、夜 を選ぶ。短時間で荒稼ぎできる方がいい。やっぱりお金が貯まるのが 早い。がっつり貯まる。. - 59 -.
(18) 人権問題研究所紀要. シングルマザーの就労支援にかかわる一考察. 何をするにしても身動きが取れないのが一番いたい。どこに連れて行 くのも、面接行くのも 2 人で住んでたら誰にみてもらったらいい、み たいな。託児所預けるにもそこにお金使わないとだめやし、何をする にしても 2 人で行動するプラスお金がぜったいついてくるから、仕事 したくてもできない。安い託児所が近くにあったらいいけど、交通費 もいるしってなったら、もういや、ってそれだけで面倒くさくなる。 子どもを抱えながらの就活は会社がいやがる。すみませんって言って 親にみてもらってる間に夜の仕事。それか託児所がついてるキャバク ラとかじゃないと無理。周りは全員夜の仕事。あわよくば、夜やりな がらそこで将来の旦那を見つけて、と全員思ってるけど、子どもがい るというだけで男の人は嫌がる。日曜日はきつい。小さい子になって きたらよけいきつい。結局無理。小さかったら危ないから第三者も見 れない。幼稚園に行き出しても、そのあとをどうするのかという話に なってくる。保育所も入れないところが多いし、小学校になったら、 夜に一人で留守番させるのがたいへんなだけで、0歳から6歳くらい までが一番しんどい。難しい。スナックでは子どもがいるとか、シン グルマザーとかまったく関係ない。面接でも子どもが病気になったら、 とか聞かれない。夜はそういう人が多いから当たり前。別にその子一 人いなくても店は成り立つから夜の方が問題はない。. (6)「家族」 今回インタビューした 4 人は、学齢期の子どもたちの親であったため、保育 所問題は抱えていなかった。ただ、学童を利用している母親は、学童の時間帯 と就労時間帯との関連、学童の費用の問題などに頭を抱えていた。また、子ど もの年齢と人数は、母親の就労に影響を与えるようである。4 人の子どもがい る母親は、 「親一人、子ども一人が一番しんどいと思う。うちはきょうだい同士 - 60 -.
(19) 人権問題研究所紀要. シングルマザーの就労支援にかかわる一考察. での助け合いができる」とのことだった。親と同居している人は、 「家族全員で サポートしてもらったので、それがなかったら無理。すべてにおいて成り立っ ていない。病気になっても今は誰かがみてくれるので安心だけど、2 人のとこ ろはやっぱりたいへん」と語りながら、一方では、家族との同居によるプレッ シャーやストレスを抱えているため、 「家を出たい」、 「いろいろと言われないた めに、家にお金を入れたい」と語っていた。 さらには、所得保障を受ける際に、収入が「世帯」で見られることについて の不満も出された。 「弟がいて一緒に住んでて弟の給料が高いので補助がおりな い。そのために出ようかなとも思ったけど、出たら出たでお金がかかるかなと 思ってがまんして家にいる。市役所に相談に行った時に、弟の給料が多いから 補助が出ないと言われたけど、弟に養ってもらえってことなの?たとえきょう だいであっても、だんなじゃないし。それで出ないと言われたらしんどい。同 居しているシングルマザーにはそれがネックでしんどい」との訴えには、同居 家族のサポートによって就労可能な状態を維持している一方、同居家族の収入 によって児童扶養手当などが削減されたり打ち切られたりする実態がみえてく る。 「家族」を規範とした社会保障制度の枠組みは、 「扶養義務」として家族に責 任をもたせ、 「個人の能力発揮の機会の平等を実質的に保障しない、家族の資源 の不平等を社会制度の不平等として問わないシステム」38を問題にはしない。自 己責任論を超える社会的責任の明確化と自己責任を果たすことのできる社会の あり方の提示が必要である。. (7)メンタルケアの必要性 「体はたいへんだけど、自分が倒れたらたいへん」、「自分がいないとって思 うと、多少無理がきく間は無理してもいいだろうが、無茶なことはやめとこう かなって守りにも入っている。かといって攻めにもいかないといけないし、と - 61 -.
(20) 人権問題研究所紀要. シングルマザーの就労支援にかかわる一考察. 思いながら、子どもらに心配かけることはあんまりしたくない」と無理をしな がらの労働実態が見えてくる一方、仕事のストレスから子どもにあたってしま うことについての悩みも打ち明けられた。 離婚や元夫との関係によって心身にもたらされる不調、腰痛やヘルニアなど の健康上の問題、子どもの病気に対する不安や悩み、離婚によって転居・転職・ 転校が強いられることで母子に及ぼされる心理的影響や関係性の断絶などが語 られた。 「今からの方が不安。中学生になる時とか、進学する時とか」、「一番お金が かかる時の援助がほしい。高校になると今度は借金になるので、中 3 の子にも、 公立落ちたら、高校生から借金もちよ、といってる。高校無償もいつ終わるか と思うと怖くて」と、教育にかかる費用負担に対する不安は 4 人のシングルマ ザーから語られた。そしてそれは同時に、教育費を稼ぐための長時間労働・ダ ブルワークによって子どもと過ごす時間が減ってしまうことへの不安でもある だろう 39。 しかし一方では、離婚や就職・転職、職場の人間関係によって、母親の心理 的・経済的状況が改善の方向に向かっていることが、子どもによい影響を与え ていることもわかった。 楽しいし、楽しいって思いながら仕事ができるってやっぱりいいなと 思う。やっぱりこれかなあ、って思う。離婚した方が自分のことを大 事にするようになった。精神的には離婚してしんどいよりも楽になっ たという方がすごい大きかった。もうこの人のことを考えなくてもい いんだと思ったら楽になった。結婚してた時は夫の借金のこともあっ たので、お金に関しても楽になった。出ていくお金ともっとけるお金 がわかるようになったので、それだけでも楽。ないのはなくても、な いなりになんとかなる。. - 62 -.
(21) 人権問題研究所紀要. シングルマザーの就労支援にかかわる一考察. 母が働いている姿は肯定的にとらえている。楽しそうに働いているの で、すごいたいへんだとは思っていない。お母さんがんばって働いて いるというよりは、お母さん楽しそうと思ってる。忙しい時とかいろ いろあるけど、楽しいいい職場だと思う。子どもと仕事の話をしたら、 子どもはここ(今の職場)がすごく好きなので、一人で電車に乗って きたりする。3 個乗り換える。すごいどきどきしたけど、駅員さんに 聞きたいから言わんといてと言われた。来て、上(保育スペース)で 遊んだり、ご飯食べて帰ったりする。市場で買い物をして、友だちと 遊びたいからって先に帰る。言ったら泣いてた。いやだ、辞めないで、 俺、だいじょうぶだからって。遅くもなるし、近くで探そうかなって 言ったら。みんなが仲もいいのと、みんなが普通に遊んでくれるしし ゃべってくれるし。家だと一人で待つ時間もあるので来た時に人がい ると楽しいのもあって。. 「JILPT調査研究報告書」においても、 「母親の転職や就職は、変化であるが、 子どもの情緒に対してどちらかというと良い影響を与えている。仕事が見つか ったことの親の喜びを素直に子どもが受け取っているからかもしれない。同時 に、経済の客観的な条件(離婚後収入、養育費があるかどうか)よりは、 『楽に なった』という親の認識が子どもの情緒、あるいは子どもの友人関係の改善を 女親に認識させている」 40ことが報告されている。. この事業で雇用されたことにより、 「一つ何かをやる、資格を取るということ を達成したことが自信になる」と自己肯定感につながった女性がいた。非正規 雇用でのみの職歴しかなかった女性は、「会社で働くという意識が違う」、職業 意識が変わったという。メンタルケアと同時に、シングルマザーたちに対する 就労支援の一環として、自尊感情や自己肯定感を育むプログラムを職業教育・ - 63 -.
(22) 人権問題研究所紀要. シングルマザーの就労支援にかかわる一考察. 訓練のなかに位置づけていくことが必要だろう。. (8)シングルマザーに対する就労支援事業 「ひとり親家庭の親」に焦点を当てた就労支援事業であったがゆえの良かっ た点、改善してほしい点について尋ねた。 改善してほしい点は、子どもに何かがあった場合の対処方法を明確にするこ とがあげられた。「『女性』というだけだったらいいが、ひとり親家庭を言うな ら、そこまで考えてほしい。待遇的にも配慮してほしい」といった要望があっ た一方、別の女性からは、 「シングルマザーは、子どもが熱出した時に、子ども は休みたくて出してるわけじゃないので、みんな働きたいのに働けないから、 最初に面接でお会いした時に、多少の熱で子どもを動かせるんやったら、連れ てきてもいいよって言われたのはすごく安心感だった」と、面接や採用の時点 で、子どものことについて、保育スペースや保育支援が行われることが明示さ れたことへの安心感があったことを表明していた。また、面接で嫌な経験をし てきたという女性は、 「普通の面接に行った時に最初に履歴書を見た時に、子ど もがいるのを最後に見て、「うん?」ってなる。話を聞いていって、「う~ん」 ってなっていくことが、今回は面接の段階でもないし、あらかじめ、自分のこ とを言ったうえでの面接だったので安心だった」と語っていた。 NPO法人しんぐるまざあず・ふぉーらむも、当事者の実態調査から、「病児保 育、延長保育・休日保育、一時預かり、保育所の整備等」が就労支援として必 要だと指摘する 41。 子どものことに関する要望は多く出された。たとえば下記のような発言であ る。 シングルマザーのなかでも子どもをどうするのか。働いている時間、 ここやったら上(保育スペース)があるからだいじょうぶだけど、自 分が働いている間に面倒見てくれる人が必要。そうするとお金がかか - 64 -.
(23) 人権問題研究所紀要. シングルマザーの就労支援にかかわる一考察. ってくる。働かな食べていかれんけど、子どもがおるから働かれへん ってなるのはおかしい。第三者がその時間だけでも面倒見てくれるだ けでもすごい楽。家族の方がもちろんいいけど、身内がいない人もい るので、第三者を頼るしかない。子どもが小さいところは親にも頼み づらい。贅沢言えば、子どもの面倒見てくれて、できれば同じ空間で、 でっかいビルの何階かがその会社が経営している託児所で、そこで仕 事をして、ある程度給料もよくて、学歴も問わなくて。ないけど。. 「結婚・離婚経験」「配偶関係」「家族構成」などによって判断される女性の 採用・雇用形態に対して、一人の人間として、労働者としての働く権利や働き たいという思いを支援してほしいという声も出された。 職種よりは就労支援事業と仕事がどれだけつながっているか。資格や 経験、家族構成などを見て雇われると思うけど、資格を取っても履歴 書や面接で門前払い。企業が言うこともよくわかる。休まれたら困る と言われたらそうなんだけど、子どもがいるいないにかかわらず、普 通に仕事ができたらいいなと思う。どんな職場でも、どんな事情を抱 えている人でも、みんな働きたい人だったらきちんと働くよ。みんな 働きたいんだからっていう前提で見てもらえる社会。みんな働きたい けど、それぞれ事情があると思う。結婚していようがいまいが、病気 でも働きたい。シングルでも働きたい。年いってるけど働きたい。い ろんな人がいる。だからどうこうというのではなく、じゃあ、何かで きる仕事ってあったらいいね、うちやったら働けるところがあるから 来てもいいよって言ってもらえるとありがたい。. (9)緊急雇用事業の課題 1 年間の有期雇用が終了するにあたって、彼女たちはどのような仕事を探そ - 65 -.
(24) 人権問題研究所紀要. シングルマザーの就労支援にかかわる一考察. うと思っているのかを聞いてみた。 「昼も夜も働けるところ。昼だけになると時 間が短くなってしまうので、そこが難しい」、「ダブルワークや夜の仕事も考え ている」、「フルだとひかれてしまうので手取りはほとんど同じか低くなる。保 険をかけたところで意味があるのかどうか。その分いらないからお金がほしい と思う」、「正社員になって夜が遅くなると難しい。シングルマザーが正社員と いうのは難しいと思う」、「家に帰って母親が家にいるのが子どもの希望だと思 う。そうするためには、わたしは短い時間のパートに出るか、生保をもらいな がら、となる」、「時期的にも新卒の子たちと一緒なのできびしい。めっちゃき びしい」、「かけもちとかでバイトでやるのか、事務とかでも雇ってもらえない かなって思ったり、とりあえず派遣登録するかなっていろいろ考えている段階。 とりあえずお金がもらえるところで、とりあえずわたしの条件で雇ってもらえ るところ」。 今後への提言も受けた。 1 年をスタートとして、それがのっていって、そこからというのがこ の就労支援の意味だと思う。補助金が出てきたら、そこからきちんと 就労に結びつかないといけないと思うので、いったんスタートした以 上は続けていくことが大事だと思う。資格を取る事業があって、そこ からスタートしていける。そこを見据えた就労支援事業やったらいい。 単に雇用するだけじゃなくて、そこから旅立っていける、巣立ってい けるというのがいいと思う。仕事に活かせる資格や、経験したことで その分野に勤めやすかったりなどがあるかもしれないので。国や市が 就労支援事業でお金を出すことは働きたい人が働くことのスタート 地点にはなると思う。そこをきちんとやりたい人にとってはすごくい いと思う。スタート地点からは自分でやる。でも、スタート地点に立 つことが難しい人が一番多いと思う。. - 66 -.
(25) 人権問題研究所紀要. シングルマザーの就労支援にかかわる一考察. 事業がもっと広まっていけばいい。ひとり親に対する考え方が日本は 変わっていってほしい。この事業が増えるのもありがたいが、離婚し たばかりの人はぜんぜん仕事が見つからないし、すごい助かるけど、 1 年後にはまた困ってしまうので、その 1 年の間にもう少し準備や次 のことを考えることができると助かる。緊急雇用や職業訓練としてだ けではなくそういう職場として増えてほしい。ぜいたくだとは思うけ ど、時間帯にしろ、子どもがなんかあった時とかに見てもらえる人も なかなか近くにいない人も多いと思うので、そこをフォローし合える ような。わたしで 1 年もないので、もう少し長かったら。子どもが大 きくなるまでとか。子どもがいれる場所とか、お金も安くて子どもが みてもらえるところ。学校が終わって。そういうところがあればいい。 難しいとは思う。そういう人ばかりを優遇するのも難しいとは思うけ ど、やっぱり子どもが小さい人とか、上にキッズルームがあったり、 休みの日に来られたりするのもいい。そういうところが増えてくると いいなと思う。1 年とか働いて、その先にこういうところが、仕事が、 職場がある、っていうのがあればいいかなと思う。. 資格取るのもどういう金額設定なのか。負担がないならそれがいい。 嫌な仕事に就いても辞めるから、人数が足りない分野での資格が取れ るとしてもいや。身につけておいた方がいいであろうという資格を 5 個くらい出してもらって、そこから選べるのなら最高にいい。みんな 資格を取りたいけどお金が絡んでるから取らないだけで、資格取るサ ポートしてくれて、生活費もある程度みてもらって、1 年後にがんば ってくださいって出されたらうれしい。出された後も、資格 1 個でい けるのか。中退した子が、その資格1個ではたして雇ってくれるのか。 学歴は関係ないと思ってくれる企業をいっぱい味方につけておかな - 67 -.
(26) 人権問題研究所紀要. シングルマザーの就労支援にかかわる一考察. いと、資格を取った人たちを出そうと思ってもふれない。その間仕事 からまったく離れると復帰の時が不安なので、安い託児所をもう少し 増やすとか。. 緊急雇用創出基金事業においても、研修や職業訓練、資格取得支援が位置づ けられているが、この点について、インタビューした 4 人からは厳しい声があ った。1 年間という短期間の緊急雇用であるがゆえに、研修や職業訓練を受け 資格を取得しても、並行しての仕事探しを再び始めなければならないからであ る。 「働きながら資格を取れること、1 年間しっかり給料がもらえることと、経 営的なもの、簿記、事務の経験、パソコン、企画書や報告書の書き方、仕事を 考えたり指示したり、いろいろ教われること、いろんな研修を受けて、知り得 なかった知識を学ぶこと」はよかったが、 「資格がどこまで通用するか、武器に なるかがわからない」という不安を抱えていたり、 「いずれは就職先を探さない といけないので、就労支援事業というより、次に就職するための個々の、自分 自身のスキルアップとわりきった職業訓練事業であった方がわかりやすかった。 資格も取るが、就職支援もセットだったらいい」と、職業訓練とセットでの就 労支援が要求としてあげられた。職業訓練の内容については、OJT と Off-JT に よって総合的に研修が行われたことに対する評価が高かった。. (10)支えあえる仲間の存在 シングルマザーではない女性との間に感じる複雑な心境が語られた。 子どものいない人とは、仕事に対する考え方が違う。こちらは生活が かかっている面で働くが、その辺で違いが大きく見えてしまう。ひが みではないが、多少は出てしまう。パートで時間が短い、休みも多い というのでもやっていける楽さ、働けるから来ているという感覚で、 かといって自分から仕事を探すわけでもない、ただ言われたことをや - 68 -.
(27) 人権問題研究所紀要. シングルマザーの就労支援にかかわる一考察. ってその日を過ごせばいいというようにぜんぜん違う。アルバイトな どで入ると、シングルマザーの方が働く。なるべく休まない、なるべ く多く働きたいという意思が強い。適当に、今日は行きたくないから 休むという人、平気で遅刻する人などを見てきているので、そういう 面では仕事に対しての意識はぜんぜん違うと感じている。. 一方で、支えあえる仲間の存在の大切さについての言及もあった。 「同じシン グルマザーという面で、生活がかかっているという面ではその存在がありがた かったし大きい。一人だったら辛かったと思う」と語った女性や次のように語 った女性がいた。 安心して働ける。みんな女性で子どもさんもってるので、子どもがけ がしたから帰らないかん、って時やったら、もう帰って、だいじょう ぶ、帰ってって。だいじょうぶじゃない状態でも、だいじょうぶ、帰 ってって言ってくれるので、そのへんはすごく助かってる。突然休ん だり、休まなければならない状況、何かあるといったら子どものこと しかないので、みんなお母さんなので、たいへんや、行ってあげてと いうのが大きい。そういう安心は大きい。だいじょうぶ?やろうか? っていうのが一言言える。お願いって言いやすくなるのは、いい仲間 だからかもしれないが、助かってる。しんどいこともしんどいって言 える。子どもが病気で突然という時もあるけど、いいですよと言って くれて、一緒に働いている人たちも、ごめんね、って言ってくれて、 いいよ、休んで、なんとかするからだいじょうぶって言ってくれるの が働きやすくさせてもらってる。今日休むので、って本当にもし人数 が足りなかったら、代わりにわたしが出ます、じゃあできるできる、 ぜんぜんだいじょうぶよ、みたいな感じで。熱出したら、その朝にメ ールが来て、今日は誰々さんの子どもが熱が出ているのでよろしくお - 69 -.
(28) 人権問題研究所紀要. シングルマザーの就労支援にかかわる一考察. 願いしますってきて。. みんなシングルマザーであったりとか共感できる部分が多い。たいへ んさも大体わかるし。競争ではない。生命保険やったら成績とか出て くるけど、ここやったら一つのことをするのにみんなが案を出し合っ たりとか、だからやりやすい。. 仲間ができるのはすごくいい。頼りになる。相談もできる。みんな子 どもが少し大きかったりするので、こんなんがあってとか言ったら、 みんなもそう、そういう時あったよ、という経験を教えてもらったり して、というのがすごくあって、プライベートな時でも話を聞いても らったりするので、すごい怒ってしまったりとか、やってないとかで 帰ってからも子どもに対してすごいイライラして怒ってしまったり することもあって、はーってなりながら来て、こんなんしてしまって って言ったら聞いてもらえる。. 日本の場合、シングルマザーが少数派であることから、職場にシングルマザ ーが 1 人ということも少なくなく、周りに支える人がいないこともある。シン グルマザー同士がグループで支えあえることも職場定着には必要なことであろ う。. (11)地域とのつながり 4 人は、緊急雇用事業を通じて地域とのつながりや人とのつながりができた ことを喜んでいた。地域のイベントへの参加や地域の人たちからの支援を、母 親だけでなく子どもも肯定的に受け止めていた。子どもと一緒に宿題や勉強を する時間がとれない母親は、子どもへの学習支援が行われたことをとても感謝 - 70 -.
(29) 人権問題研究所紀要. シングルマザーの就労支援にかかわる一考察. していた。地域とのつながりや支援、NPO による支援や情報提供が就労支援や 生活支援に重要であることがわかる。 今がすごく反抗期。怒っても口答えしてくるし、毎日バトル。他とつ ながる方がいい。他の大人の前だとがんばる。地域の人に、子どもさ んえらいですね、いい子ですね、って言われる。わたしがいないとこ ろでがんばってるならいいなと思う。子どもはここ(今の職場)の地 域の自治会長さんや商店街の会長さんにかわいがってもらってて、そ れを聞いた時はすごいうれしくて、わたしが見てないところだけどす ごいがんばってると思って。住んでいる地域での近所つながりはそこ までない。子どもにとっては大きかった。つながり、いろんな人との つながりはありがたい。ここはすごいつながりがある。NPO の人たち にも本当によくしてもらったし、情報もたくさん入ってくるので、す ごく感謝してる。. 〔5〕シングルマザーに対する就労支援の課題 (1)労働条件・形態の改善に向けた支援 日本のシングルマザーたちの就労率が高いことや、働くシングルマザーたち の貧困率が高いことを踏まえれば、現在働いていない者に対する就労支援対策 に焦点を当てている「福祉(依存)から就労による自立へ」政策では、就労率 が高い母子家庭の場合、低収入・不安定・長時間の労働形態を一層悪化させか ねない。こうした労働条件・形態から安定収入・継続雇用・ワーク・ライフ・ バランス(WLB)の実現が可能な条件整備や就労支援が行われる必要がある。シ ングルマザーに焦点を当てた就労支援は、シングルマザー以外のワーキング・ プア層や、非正規労働者層に対する支援施策へのモデルともなりうると考える。 そのためには、離婚によって顕在化してくるシングルマザーの貧困の背景にあ り、性別分業によって潜在化している「貧困の女性化」に目を向け、女性の労 - 71 -.
(30) 人権問題研究所紀要. シングルマザーの就労支援にかかわる一考察. 働条件・形態を改善することが絶対不可欠である。結婚、家族構成、配偶関係、 子どもの有無、性別分業を前提に組み立てられ、少子化や労働力不足の問題か ら検討されてきた女性の労働問題を、一人の人間の生存権・労働権・WLB にか かわる権利の視点から検討していくために、女性政策や労働政策、福祉政策の 制度横断的連携が欠かせない。WLB 政策を、安定した雇用形態と賃金や時間な どの労働条件が保障された労働政策や、母親たちが心身ともに健康を保障され 子どものケアの権利も保障された生活支援政策や家族政策としてとらえていく のみならず、両政策を連携する福祉政策の視点からとらえていく必要があるだ ろう。. (2)所得保障制度と就労支援策 田宮遊子によると、1940 年代末から 1960 年代、 「母子世帯の母のケア役割を 優先させる配慮のもとに」所得保障制度と就労支援策が整備されていったとい う。「シングルマザーがケア役割を遂行するために所得保障が必要であること、 所得保障の必要性は、離別母子世帯も死別母子世帯も同様であること」という 見解を受けて、1961 年に児童扶養手当が創設され、「生活保護制度では、母子 世帯の母が行う育児を就労とみなすことで、母子加算の導入が根拠付けられた」。 しかし、「1990 年代末からは、就労による自立を強調することで所得保障制度 が削減され、就労支援策は、所得保障制度に取って代わるものへとその意味付 けが変更されていった」 42。母子政策をめぐる歴史的変遷は示唆に富む。 経済的自立や就労による自立、そして自己責任に重点が置かれている就労支 援策であるが、働いてもなお貧困であるシングルマザーたちの低所得を補う所 得保障制度の整備は急務である。85%のシングルマザーが就労している事実を 踏まえれば、母子世帯の貧困は、 「福祉(依存)から就労による自立へ」政策に よる就業率の向上では解決しない。女性全体の低賃金などに起因した低収入で あり、非正規・不安定雇用では、長時間労働やダブルワークなどによっても勤 - 72 -.
(31) 人権問題研究所紀要. シングルマザーの就労支援にかかわる一考察. 続年数の長短にかかわりなく賃金上昇は望めない。多くの研究者によって、シ ングルマザーの就労支援として、非正規雇用から正規雇用への就労移行支援が 重要だと指摘されているが、神原文子によれば、 「非正規雇用や無職から正規雇 用になれる可能性は、大阪市の場合で 16%程度と低い」 43という。そのことを 踏まえれば、女性や非正規労働者の労働条件・形態の改善に向けた取り組みや、 シングルマザーのよりよい労働条件・形態への就労移行支援とともに、ワーキ ング・プア層として固定化しているシングルマザーの所得を保障する制度の充 実が必要である。 低所得を補うために、長時間労働やダブルワークに従事している母親たちの 身体的・精神的・経済的・社会的自立の保障と子どもたちとの関係性構築のた めには、労働者の権利として保障されている時間内での就労で生活していくこ とのできる所得保障制度が必要である。それは、「『母親が子どものために努力 して自立する』という自助努力を要請」44し、労働の義務のみを強調するのでは なく、労働の権利やケアの権利、WLBにかかわる権利の保障でもある。まさに生 存権の保障である。. (3)総合的・制度横断的な支援 労働政策研究・研修機構による調査結果は、親族との同居の有無や非勤労収 入よりも、保育要因と技能要因がシングルマザーの就業に影響を与えているこ とを明らかにしており、 「正社員就業に役立つ資格に絞った支援」とあわせて保 育サービスの充実を図ることを提起する 45。 単に職業訓練を受けたり資格を取得しただけでは就労に結びつかないため、 職業訓練・資格取得と就労の「間」をつなぐ総合的な支援が必要になる。職業 訓練・資格取得とその先の就職先の開拓・確保がセットになった支援が必要で あろう。職業訓練・資格取得にかかる費用援助、職業訓練期間中の生活保障や 保育サービスもニーズは高い。 - 73 -.
(32) 人権問題研究所紀要. シングルマザーの就労支援にかかわる一考察. インタビューでは、家を借りる際に家主から、 「離婚してすぐ仕事できるの? 家賃払えるの?」と言われて家さがしに困ったという人がいた。住宅、就職先、 保育所や学校を離婚と同時に探さなければならない困難さが見えてくる。住宅 問題については、横浜市が 2003 年に実施した「横浜市ひとり親世帯等実態調査」 によると、「抽選に当たらず公営住宅に入居できない」22.7%、「保証人がいな いため住宅が借りられない」11%、 「ひとり親世帯のため賃貸住宅に入居できな い」14%など、 「生活の基盤として重要な住居に関する深刻な状況」が明らかに なったという 46。 シングルマザーの就労支援には、育児・保育支援、職業経験やキャリア形成 のための職業教育・訓練とともに、就労支援と並行した生活支援が必要である。 とりわけ、シングルマザーの階層性に配慮した政策が課題となる。低学歴層の シングルマザーは、就労機会が制約される。職業訓練を受講し資格取得を実現 したうえでも就労による自立をはかっていくにはさまざまな限界を伴う。その ため、不十分な教育機会と断続的な働き方によって職業経験やキャリアを積み 重ねてきていない母親たちに対する教育や職業教育・訓練に関する柔軟かつ多 様な選択肢の提供とそれに関わる支援、エンパワーメントや自尊感情回復のた めの支援が必要であろう。就労支援に特化した支援ではなく、教育支援、職業 教育・訓練の提供、住宅支援、保育・育児支援、福祉サービスの提供、健康保 障、メンタルケア、地域とのつながりや居場所づくり、社会的ネットワーク構 築、奨学金制度など、総合的な相談・支援体制が必要である。将来への不安を 常に抱えている母親にとって生活の安定は子育ての安定や心身面の健康にもつ ながる。こうした総合的な相談窓口を開くにあたっては、土日や夜間の相談体 制の確立と、情報提供・発信手段の工夫も必要であろう。. (4)貧困を社会的排除の問題としてとらえる意義 安田尚道・塚本成美は、社会的排除の視点からシングルマザーの貧困をとら - 74 -.
(33) 人権問題研究所紀要. シングルマザーの就労支援にかかわる一考察. える。 「人間の潜在能力(capability)形成の機会をおしつぶし、将来における 個人の経済的および社会的発展の可能性をうばう」 47貧困による社会的排除は、 「雇用労働に必要な思考様式や行動様式、資質や労働規律などの労働適正の喪 失、あるいは習得機会の剥奪を意味する。生活困窮者の就労支援や非正規雇用 から正規雇用への転換がむずかしいひとつの理由は、ここにある」48とする。こ うしてとらえると問題の焦点は、多元的な人間主体と社会環境の相互作用から なりたつ「社会関係」にしぼられてくるという 49。そして、 「就業をたんなる経 済的収入の手段としてみるだけではなく、職場社会における社会関係の形成や コミュニケーションをつうじたケイパビリティの育成機会として企業側もとら える必要がある」 50と指摘する。 「所得をえるために生活におわれ、能力を形成する時間的、所得的余裕もな い」51シングルマザーたちは、さまざまな社会関係から排除され、孤立している。 「雇用機会や育児、経済援助に関する情報の提供」からの排除、 「サポートネッ トワークからの排除」、「地域での活動からの排除」などが複合化しているとい えるだろう 52。 つながりをつくるにもお金が必要となる。インタビューに応じた 1 人は、 「女 性同士で仲良くやっていくのにもお金がかかる。ぜんぶお金」と語っていた。 社会的ネットワークや交流をはかっていくにも一定程度の生活水準・経済力が 必要となってくる。 それぞれの状態に応じた働ける場に「包摂」しながら、そこに総合的・制度 横断的な生活支援・就労支援を組み合わせていくことが必要だろう。シングル マザーたちの働く喜びや意欲、生きる希望は、仕事を通じた社会参加によって、 働くことを通じて、地域で豊かに生きていくことによって育まれていくものだ と思われる。需給調整や需給ミスマッチの考え方から職業能力の開発や求人紹 介の議論が行われることがある。しかし、本人を当事者グループや地域で支え る仕組み、排除や孤立をさせない仕組みをいかに作っていくか、そのことに関 - 75 -.
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