〈書評と紹介〉岩本由輝編「歴史としての東日本大震災 口碑伝承をおろそかにするなかれ」
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(2) 仙台湾海底遺跡の発見と仙台平野を襲う大. を受けていたのである。. 子). の御舟入土手黒松・須賀黒松(菊池慶. 第 3章 失われた黒松林の歴史復元│仙台藩寓城郡. 式海岸にとどまらず、相馬も含む福島県浜通り地方ま. ている。慶長津波に関する口碑伝承では、二一陸リアス. ゃ、福島県相馬地方に残された口碑伝承を元に検討し. いて、伊達政宗と探検航海家巴スカイノによる記録. 第2章. 消防団体験から書き起こす東日本大震災│. で被害があったととが伝えられてきた。しかしなが. 続いて壷長一六年三六二)発生の慶長津波につ. 仙台平野にみる津波シミュレーションの功. ら、地震津波学者である渡辺偉夫により、過去の記録. 津波(貞観津波)について(河野幸夫). l(佐々木秀之) 罪. や口碑伝承は信漕性の疑わしいものとして津被の史料. 第5章. 第4章. 口碑伝承をおろそかにするなかれ(岩本由. から排除され、慶長津浪の短小化が図られてしまっ. た。郷土史家である飯沼勇義は、このような口碑伝承. 輝) むすびにかえて(岩本由輝). の軽視とは異なる立場から、仙台平野に津浪が襲来す. 方が貞観二年(八六九)発生の貞観津波における激. O) 時点において、福島県浜通り地方において四O O. 他方、日本原子力産業会議は昭和四五年(一九七. る危険を東日本大震災発生以前に指摘していたが、行. 甚地帯であったことを述べている。一 OOO年以上の. 年ぐらいごとに震度六以上の地震が起こることを認識. 以下では、各章の内容について概観していく。. 歴史をさかのぼって検討してみると、宮城・岩手の沿. していた。ただし、約四OO年に一度くらいの割合で. 政には取り上げられなかった。. 岸部を中心とする三陸地方のみではなく、三陸地方以. しか起こっていないというととで、原発の立地条件と. 第1章(岩本由輝執筆)ではまず、福島県浜通り地. 南の仙台平野や福島県浜通り地方も、大きな津波被害. 326-.
(3) 口碑伝承をおろそかにするなかれ』 岩本由輝編『歴史としての東日本大震災. のであった。. 一日に、地震と津波が東京電力福島第一原発を襲った. ちょうど四OO年目の平成二三年(一一O 一一)三月一. かしながら、慶長一六年三六二)の慶罪津波から. 子力発電所(当時)の第一号機運転が開始された。し. (一九七一)には、東京電力株式会社によって福島原. して差し支えない、としていた。そして昭和四六年. る、と評者は感じた。. 極の、地域社会に生きる人々への確かなまなざしがあ. には、東京電力株式会社による地元軽視の対応とは対. 熊町の状況について検討している。著者の議論の背景. の共同体論を踏まえつつ、原発立地に至った福島県大. いて、東北大学で日本経済史を研究していた中村吉治. を、本章から学ぶととができた。また著者は本章にお. れている。著者による潜水調査の結果、宮城県七ケ浜. 第 2章(河野幸夫執筆)では、電磁漉・地電涜の変. もはや本来の労働組織・生産組織としての共同体とは. 町の約一 0キロメートル沖合にある﹁大根堆﹂の水深. さらに著者は、自身の体験も含め、原発事故前後の. 大きく異なっていた。このような﹁部落組織﹂の弱点. 01一五メートルに、東大根大明神の嗣と考えられ 一. 化から地震の予測を進めている工学者の立場から、仙. を利用して、原発を設置する側が地一元からの﹁原発誘. る人工物などが点在していることが確認された。とれ. 状況について言及している。福島県大熊町において. 致﹂を演出させたととを著者は指摘している。震災. は、かつであった島が地震と津波で海中に沈んでし. 台湾梅底遺跡の調査と貞観津波についての考察がなさ. 後、福島第一原発から放出された放射性物質は、農業. まったとする、地元の言い伝えと一致するものと考え. ﹁行政の下部機関として改組﹂された﹁部落組織﹂は、. 者・漁業者の生業に大きな影響を及ぼし続けている。. 著者は続いて、梅底調査の結果を元に島が一 03一. られる。. 津波は三陸地方、リアス式海岸のもの、という考え. 五メートル陥没したとして、貞観樟波のシミュレ1. 評者が東日本大震災発生直前まで思い込んでいた、 は、過去の歴史的経験から見ても誤りであったこと. 3 2 7-.
(4) 発生し、波高一 0メートル前後の大津波が仙台平野を 襲ったことは、事実と考えられる。また、約一 000 年に一度ずつ大津波は繰り返されており、すでに一 O O O年は過ぎて、いつ来てもおかしくない時期に入っ. 九)に宮城県にマグニチュード八・コ一前後の大地震が. ションを行った結果を示している。貞観一一年(八六. ほとんE造成されずに来た乙とが、蒲生地区を手薄な. た。しかし潮害防備保安林が御舟入土手黒松のほか、. 潮害防備、および新田開発の進展に大きな役割を果た. の植林に始まった。黒松の植林は内陸の農地と集落の. 歴史はおよそ三五O年前、御船入土手黒松と須賀黒松. 以上は平成一三年(二OOO) 時点で著者が得てい. がった。仙台市宮城野区沿岸部の海岸林は、東日本大. 状態とし、東日本大震災の際には大きな犠牲につな. 明治維新後には、植林面積は拡大されることとなっ. した。. てしまった。 た結論であったが、平成一三年(二O 一一)コ一月一一. 震災により、壊滅的な被害を受けることとなったので ある。. 日に発生した東日本大震災の状況を一 O年以上前に予 測した内容となっており、評者にとっては驚きであっ. 日本経済史研究においては、戦国時代から江戸時代. 台平野で生産された米が船で江戸に運ばれていたこと. た。このような警鐘に対して、行政などからの反応が. 第3章(菊池慶子執筆)では、宮城県沿岸のうち仙. が指摘されている。評者もこれらの点は、ある程度承. 前期にかけて、圏内各地で土木開発・新田開発が進め. 台市宮城野区中野・蒲生・岡田地区を取り上げて、黒. 知していたが、本章では江戸時代前期における仙台平. 無かったのは、東日本大震災発生後の今となっては惜. 松の植林が開始された歴史を、仙台藩政の時代に焦点. 野の開発に際しての、仙台藩による植林の意義が強調. られたとされている。また近世疏通史に関連して、仙. を絞り明らかにしている。仙台平野が稲作地帯に転換. されており、興味深い内容であった。. しまれるところである。. する基礎となったのが海岸林の造成事業であり、その. 328-.
(5) 口碑伝承をおろそかにするなかれ』 岩本由輝編『歴史としての東日本大震災. た。本章で紹介されている仙台市宮城野区蒲生地区の. 動の状況が、本章の叙述からは具体的に伝わってき. した、震災直後の仙台港近辺における緊迫した救命活. 者が宮城県仙台市出身という事もあるが、著者が従事. 験を基にした、震災の状況についての記露である。評. 第4章(佐々木秀之執筆)は、震災直後の消防団体. 一示されている。. を与え、そのことが被災地住民を翻弄している状況が. 生後も、津波シミュレーション結果が復興計画に影響. 評価されてしまったのである。さらに東日本大震災発. 津波が考慮されなかった結果、津波被害の予測は過小. ろにされてしまった。歴史津波である貞観津波と慶長. れ、古文書や伝承などに基づく研究・提言はないがし. 第5章(岩本由輝執筆)では、まず﹃理科年表ιに. 高橋寅和田町内会長への聞き取りなどと合わせて、と のような非常時の活動に関わった当事者の証言は、後. おける津波の記述について確認している。﹃理科年表﹄. に、慶長津波や明和八重山津波の記述が媛小化されて. 世に伝えられるべき貴重な情報を含んだものである。. め、本章の内容は震災直後における実践活動の記録に. いった。このことは、口碑伝承とみなすものを﹁科学. の記述の推移を見ると、特に一九八0年代後半以降. とどまるものではない。著者は地域に残された津波の. 的でない﹂として否定的に扱い排除することにもつな. ただし、本章の著者は日本経済史研究者であるた. 伝承についても考察を加えた上で、仙台平野における. 地方にも津波の襲来があったことを示した口碑伝承を. がったのである。﹃理科年表﹄による歴史地震・津波. 著者は加えて、震災前後の津波シミュレーションの. 尊重していれば、東京電力福島第一原発事故の発生時. 歴史津波は貞観津信時たけではなく、約四OO年前の慶. 問題性についても言及している。東日本大震災が発生. に連発された﹁想定外﹂は全く成り立たないことにな. についての短小化された記事ではなく、福島県浜通り. する直前においては、コンピューターの数値解析によ. る。著者は、﹁口碑伝承をおろそかにするなかれ﹂と. 長津波の被害も甚大であった乙とを指摘している。. る津波シミュレーション研究が主流となっていくにつ. 329-.
(6) 波の発生可能性を退けた、地震津波研究者や東京電力. 述べ、仙台湾岸地域や福島県浜通り地方での地震・津. を歴史的に位置づけようとするものであった。. 震・津波の状況を丹念に確認した上で、東日本大震災. ととを、伊木常誠﹁福井県若狭国大飯郡内浦村変動地. ることは避けたほうがいいと言われていた地層がある. メートル以内に、地すべりを起こしゃすく建物を建て. 著者はさらに、関西電力高浜原発から四1六キロ. 者が中心となる印象があるが、人文科学や社会科学、. が指摘されている。﹁震災研究﹂というと、自然科学. 先人の残した口碑伝承を丹念に検討することの重要性. 寸客観性﹂に対する異議申し立てがなされるとともに、. する、貴重な試みである。また本書では、自然科学の. 本書は震災史の観点から、過去と現在をつなごうと. 調査報告﹂(﹃震災予防調査会報告﹄第一一一号、一八九. とりわけ歴史学や民俗学からも学問的な貢献がなしう. 株式会社などを批判している。. 八年七月)を引用しつつ紹介している。. のではないか、と評者は思ったのである。しかしなが. 状況を歴史として取り扱うには、時期としてまだ早い. ような現状からして、東日本大震災直後の約二年間の. くの被災者は、厳しい生活状況に直面している。この. 感を覚えた。現在においても、東日本大震災による多. 最初に本書を目にしたとき、評者は題名に軽い違和. する民俗調査が、今後は西日本各地でも行われるとと. した民俗調査の報告が特集されたが、過去の震災に関. (第二五号)では、東日本大震災の被災地を対象地と. に実施されるべきであろう。本誌 ﹃ 民俗文化﹄前号. 作業は、多くの研究者によって日本圏内各地で継続的. で行われた、過去の震災に関する口碑伝承を確認する. 将来の震災について考えるという意味からも、本書. るということを、評者は本書から学ばされた。. ら本書を通読して、評者が抱いた当初の誤解は解消し. を、評者としては期待する次第である。. 東日本大震災から一二年余りそ経て、震災が風化して. た。本書は、古文書や口碑伝承などから得られる情報 を一元にして、平安時代以降に発生した過去の歴史地. 330-.
(7) 岩本由輝編『歴史としての東日本大震災 口碑伝承をおろそかにするなかれ』. きている感は杏めない。評者は東北地方への出張の際 に、現地で連日のように涜れる震災関連報道を見聞し て、震災関連報道が減少しつつある関東以西との﹁温 度差﹂を実感させられることがある。本書でなされた 震災史に関する考乗は、東日本大震災を直接現地で経 験した東北地方の在住者にとどまらず、今後の大地 震・大海波発生が想定されている関東以西の在住者に も 、 真也事に受け止められるべきであろう。. (万水書房、二O 一三年、二一六頁). 3 3 1-.
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