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大学の講義・演習にみる現代学生像 : 元鉄鋼マンの大学教員体験(2年間)を通して

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(1)

大学の講義・演習にみる現代学生像 : 元鉄鋼マン

の大学教員体験(2年間)を通して

著者

十名 直喜

雑誌名

名古屋学院大学論集 社会科学篇

30

4

ページ

69-88

発行年

1994-04-30

URL

http://doi.org/10.15012/00000786

Copyright (c) 1994 十名直喜

(2)

大学 の講義・演 習 にみ る現代学生像

元鉄鋼 マ ンの大学教 員体験

(2年

)を

通 して

1.

は じ め に

多感 な青春期 を大学 で送 る学生達。彼 (彼女

)ら

,可

変性 に富 む存在 で あ るが

,

自 らの知 的能 力や将来性 の如何 に敏感 で あ るが ゆ えに

,傷

つ きやす い存在 で もあ る。 彼 (彼女

)ら

接 して いて

,そ

の琴線 に触れ た とき

,言

いが たい ような感動 を覚 え るこ ともあれば

,ま

た時折,「 恐 い/」と感 ず るこ ともあ る。 こち らの 対応 に よって は

,そ

の資質や可能性 を大 き く伸 ば してい く糸 口にな るこ とも あれ ば

,逆

に水 をさ した り

,傷

つ けた りす るこ とに もな るか らであ る。 彼 (彼女

)ら

,学

問や 人生へ の知 的関心 や興 味 をいか に呼 び起 こ して い くか

,

自 らの 力で切 り開 いてい く積極性や資質 をいか に育んで い くか。 そ こ に こそ

,今

日の大学教 育の課題 の核心が あ るように思 われ る。 私 は

,21年

,製

鉄 所 の生産現場 で原料管理 の仕事 に携 わ った後

,大

学 の 教 育・ 研 究活動 に入 って

2年

近 くにな る新米教 員 で あ る。 この間

,教

育活 動 と して は

,最

初 の年 に

2つ

の講義 (「工業経済論」,「 技術論」

)と

2ク ラスの 経済 学基礎演習

(1年

)を

担 当 し

, 2年

目には上 記 に加 えて演 習

(3年

生) と

2つ

の リレー講義 (「現代 の経済 」,「 地場産業論 」

)を

受 け持 ち

,

また他大 学 へ の 出講 (「産業 史」 お よび

3, 4年

生 の演 習

)も

経 験 した。 新米 教 員 の未 熟 な

,

とまどい多 い教 育体験。 しか し

,そ

れ は また

,人

生 の 半 ば に達 してか らの鮮烈 な初体 験 で もあ った。企 業社会 の生 産現場 か ら大 学 社会 の教 育現場 に飛 び込 み

,教

育 を通 して現代 の学生像 に肌 で接 す る とい う 機 会 を得 たの で あ り

,そ

れ に よって

,ま

だ余韻 の さめや らぬサ ラ リーマ ン像

(3)

との比較の中で捉 え返す ことを促 したのである。私の体験 は

,未

だわずかの ものに過 ぎず

,得

た知見 も微 々足 るものであろ う。 しか し

,い

,取

りまと めておかない と

,何

か大切 な ものが

,私

の感性の隙間か ら擦 り抜 けて しまう ような気が してな らない。 そこで

,小

論 は

,こ

2年

間の教育体験 を通 して

,

また彼 (彼女

)ら

の発 言やメモなどの小窓か ら

,現

代学生像 とはいかなるものか

,そ

こで何 を感 じ たか

,彼

(彼女

)等

はどの ような存在 として捉 えることがで きるか

,大

学 に おける研究 と教育の原点 とは何か

,等

について

,思

いつ くままとりまとめた ものである。

2.リ

レー講義

(「

現 代 の経済」

)に

み る学生の反応

1∼

2年

生向けの リレー講義「現代の経済」は,「現代の経済」の全体像 と 最新像 を多面的な角度か ら提示 し

,彼

(彼女

)ら

の興味 と関心 を掘 り起 こす ことを企図 して

,1993年

度か らスター トした ものである。 この講義の終盤 も迫 った 11月 14日 ∼12月 1日の間に

,私

は「企業社会 と 文化」のテーマで,現代 日本の経済社会の構造 とサ ラ リーマ ンの生 き方 をベー スに した現代学生論 を

, 3回

にわたって講義す る機会 をもった。 この講義で掴 んだ学生の反応 は きわめて興味深 い ものがあ り

,少

なか らぬ 共感 と興奮 を私の内部 に呼び起 こ した。そこで

,そ

うした感触 と視点か ら, (私の担 当す る他の

)講

義や基礎演習

,演

習 を見つめてみ ると

,そ

れ まで何 気な く見過 ご して きた現代学生の反応が見えて きたのである。 こうした見直 しを迫 った契機

,す

なわち リレー講義 における学生の反応 とは一体 どの よう な ものであったか を紹介 したい。 この講義では,「経済学」の枠組み をぐっと広 げて

,社

会 と経済への学生の 興味 と関心 を呼び起 こ し

,彼

らの人生 を展望す る視点か ら大学生活 を考 え, 位置付 け直す こ と

,

さらには経済学 を学ぶ ことの楽 しさとダイナ ミズムを見 出 して もらう

,

という意図 を込めて望んだ。 各回の講義のテーマ については

,次

の ように設定 した。

(4)

第 1回 目:日本型能力主義の構造 を考 える

(1)人

生 と大学

(2)能

力評価 と日本社会 第

2回

目 :大 学生活 を活性化 させ る妙手はあるか

(1)ラ

イフサ イクル論の視点か ら若者 。人生再考

(2)人

生 と学問への興味 と意欲 第

3回

目 :地 位 と出世

,生

きがいの 日本型構造 なお

,

リレー講義 を始め るにあたっては,「 リレー講義への私のスタンス」 として

,次

2点

を明示 しておいた。 ①

3回

にわたって話す ことは

,私

の専門領域 を越 えてお り

,初

めての試 みで もあるので

,

うま く講義で きるか どうか定かではない。 しか し

,可

能な か ぎり

21年

間の企業体験 をふ まえて

,企

業社会の本質,そ の中で人生 をいか に捉 え,自 らにいかにチャレンジすべ きか,と い う基本的テーマに迫 りたい。 ② 講義 は15∼

20分

前に終 了す るので

,受

講生 は

,最

後の

15分

間程 で感 想や意見

,質

問を自由に記述 し

,毎

回提 出す る。 講義の出席者 は

,第

1回 目

=96人

,第 2回

=115人

,第 3回

=120人

で あった(受講届

=180人

)。 すでに

, 8人

目のバ トンを受 けた リレー講義であ るに もかかわ らず

,こ

の ように高い出席率 は

,そ

れ までに担 当された教員の 方々の講義の成功 を示す もの といえよう。 私の講義において も

,受

講生の反応 は予想外 に高 く

,講

義中に伝わって く る感触や講義の後 に回収す る感想や意見メモにみ る反応 に励 まされつつ

,次

の講義 を準備 し

,熱

を入れてい くという好循環で臨む ことがで きた。 第

1回

目の受講生の感想 には次の ような ものがみ られ る。「これが経済学の 講義か」 という指摘や,「これ までの リレー講義 とのつなが りがつかめない」 とい う疑問 も2∼

3み

られ る。「経済 とい うよりは

,人

生の先達の意見 を聞い ているような気がす る」とい う声 もある。 しか し,「今 までにない内容で とて も新鮮 に思 えた」,「とにか く面 白い し興味があるか ら ドン ドンや っては しい」 という声が圧倒的に高い。「私 たちにとって とて も身近 なことなので

,興

味深 く聞いていました」,「これ まで

,人

生 を意識 して考 えたことがなかった し,

(5)

漠 然 と大学生活 を送 っていたので

,大

きな刺激 となった」 とい う声 も多い。 さ らに,「これか らの人生の ため に も何 か大 きな 目標 を持 ちたい」,「これ を契 機 に 自分 な りの生 き方 を見 つ けて い くように頑張 りたい」 とい う決意 も少 な くな く

,私

自身が励 まされ る。 次 の指摘 は

,今

回の講義 へ の注 文 とと もに

,

リレー講義 の魅 力 に も触れ て お り

,興

味深 い。 「今 までの講義 とは一風変 わ って いて

,面

白か った と思 い ます。講義の 内 容 も硬 くな くて

,

くだ けた感 じなの で頭 に残 る ものが 多 い。 ただ黒板 に書 く 量 が割 りと多 いため

,

ノー トを取 ってい る間 に聞 きそ こねて しまった ところ が あ って残念 です。 テ ンポはいいが間が少 しほ しか った。 リレー講義 の楽 し みの一 つ は

,

どん な先生 が来 るのか とい う点 にあ って

,

またその講義 と先生 が 自分 にあった ときの集 中力 はす ごいな と思 い ま した。」 全体 と して

,第

1回

目の講義 は受講生 に新鮮 な驚 きをあたえ

,意

外 と高 い 反応 の なか に確 か な手応 えをつかむ こ とがで きた。「あ との

2回

の講義が楽 し み です」 とい うメモ に

,こ

ち らも思 わず気合 いが入 る。 第

2回

目の ライフサ イ クル論 につ いて は,「 実感 が わかない」「 よ くわか ら な い」 とい う声 と「 とて もわか りや す い」 とい う声 が相 半 ば し

,講

義 中 に私 語 も少 し出 て内心 あわて る一幕 もあ った。 中年 段 階 に軸 芯 を置 きす ぎた き ら いが あ ったためで はないか と思 われ る。 しか し

,後

半の 「興 味 と意欲 の循環 構 造」 につ いて は,「 よ く理 解 で きた」「 これ を参 考 に して今後 チ ャ レンジ し た い」 とい った声 が多 くみ られ たの は心強 い。 また,「どうせ新 しくす るの な ら

,プ

リン トや 資料 ばか りが 中心 でな く

,先

生 の豊 か な実体験 も織 り混ぜ て話 してほ しい」 との要望 も出て いた。 第

3回

目で は,「 この

3回

で終 わ るのが惜 しい」「 もっ と聞 きたい」 とい う 声 が 多 々あ り,う れ しいか ぎ りで あ った。 しか し,「これ まで基礎演習

,工

業 経済論

,技

術 論 と十 名 先生 の講 義 を受 けて きて

,今

回の講義 が一番 よか った」 とい う,一 受講 生のメモ にはおおい に反省 させ られ る。「講義のユニー クさは, 実体験 に基づ いてい るためで はないか」 とい う指摘 には

,ハ

ッ とふ りか え さ せ る ものが あ る。来年 のゼ ミ生 もいて,「 来年 のゼ ミが今 か ら楽 しみです」と

(6)

書 いて い る。果 た して

,彼

の期待 に応 えるこ とがで きるか どうか不安が尽 き な い。 受講 生 の声 は

,全

体 と して私 を限 りな く励 ま して くれ る もので あ り

,新

米 なが ら教 師冥利 に尽 きる体験 をさせ て もらった。しか し,「学 生 の眼 か らみ て, 専 門 を学 ぶ こ とや大学 生活 を送 るこ との意 義 をつ かめ る よ うな講 義 が少 な い」 とい う指摘 には反省 させ られ る。学生 たちの 多面 的 な欲求や発達 の可能 性 に応 えてい くには

,狭

い固定的 な専門の枠 を踏 み越 えた取 り組 みが求 め ら れ て い る ように思 われ る。 しか も

,既

存 の経済 学 の枠組 み に とらわれ るこ と な く

,社

会 学や心理学

,人

類 学 な どの関連領域 の成果 を も動員 しつつ

,学

生 た ちの現 実感覚や感性 に働 きか け

,彼

らの知的関心 と意欲 を引 き出 して い く こ とが必要で はなか ろ うか。 3。

経済学基礎演習における新米教員 と

1年

生 との対話

1年

生 を対象 とす る経済学基礎演 習 は

,1992年

度 よ リス ター トした少 人数 教 育で あ り

,教

員 と学 生 の対 話 と交流 に基づ き

,

きめ細 か な経済 学 の基礎教 育 を行 な うこ とを図 った もの で あ る。 経済 学 の基礎 とは何 であ り

,そ

れ を どの ように教 えるか につ いては議 論 も あ るが

,当

大 学 で は各教 員の創意 と工夫 に基づ く多様 な実験 が行 なわれて い る。 その結果

,こ

2年

間 で 当基礎 演習 は深 く定着 しつつ あ り

,経

済 学部 の 基礎 教 育 の柱 に育 って きて い る。 初 年度 の

1992年

度 は

, 1ク

ラスの規模 が

35-36人

で あ り

,新

任早 々2ク ラス を担 当す る。年 間 を通 して,「 豊か さ」とは何 か とい うテーマ を軸 に して い く。 そ して

, 1年

生 に も読 みや す い新書類 をテ キス トに し

,そ

れ を考 える 素材

,討

論 の材 料 と して活 用す るこ とに した。「豊 か さ」とは何 か を

,

まず 日 常生活 の 中か ら具体的 。多面 的 に考察 し

,そ

う したプ ロセ ス をふ まえて 日本 の社会 経済 の全体 像 と基 本的 な仕 組 み を国際 的 な比較 を通 して理 解 して い く。 それ を経済 学 の体系 と して基礎 か ら掴 み直す こ とを企 図 した。 そ こに と どま らず

,基

礎 演 習 の なか で は

,次

2点

の獲得 に力点 を置 いてい く。

(7)

① 自分の頭で考 え,それ を自分の言葉で発表す ることの面 白さを見出 し, そうした能力 と習慣 を身につ けてい く。 ② 日本の社会経済 に関心 と興味 を持 ち

,そ

の中で 自らの人生や生活 を考 えることがで きるようにす る。 なお

,授

業 においては

,毎

,出

席 をチェック し

,1ク

ラス

30人

前後の出 席状況 という中でなん とかこなす ことがで きた。 しか し

,1993年

度には

,担

当す る教員不足 もあって

, 1ク

ラスの規模 が50∼

51人

に膨 れ上 が り

,ゼ

ミ ナール形式 は物理的に無理ではないか と懸念 しつつスター トす る。 すでに初年度 より

,こ

の大集団 をその ままではうま く束ねてい くことは難 しい とみて

, 5∼ 6人

の小集団 (小グループ

)に

編成 し

,顔

と名前 を覚 えや すいように座席指定 を し

,グ

ループ ごとにまとめて座 るように配慮 した。 レ ジメの作成

,配

布 とその発表

,

コメ ン トは

,各

回毎 に各グループが順番 に担 当 し

,そ

れを受けて

,他

の出席者 は全員質問や意見

,感

想 をかな らず発言 さ せ るように したのである。 彼 (彼女

)ら

,

自分の頭で考 え

,そ

れ を自分の言葉で語 り

,

しか も皆の 前で発言す るとい う習慣や訓練 をほ とん ど経 て きていない。最初は

,言

い よ どむ者が大半である。 しか し

,そ

うした能力や意欲 を身につ けることが如何 に大切か を折 りに触れて繰 り返 し説明す る。 そ して

,一

人一人の発言にはか な らず コメ ン トを添 えて

,彼

らの発言が意味す ることを明確 に してや り

,そ

の中の積極的な側面 を皆の前で評価 し励 ます ように した。 そ うしたプ ロセス のなかで

,彼

(彼女

)ら

は次第に自信 を持 ちは じめ発言す るようになってい く。 ある学生の次の ようなメモに

,そ

うした変化のプ ロセスが示 されていて 興味深 い。 「初めは

,ぼ

くを合め

,発

言す ることに抵抗があった と思 いますが

,先

生 が一人一人の意見 を聞 き入れ

,発

言のあ とで一言 コメ ン トを述べて くれて, それが学生のや る気 を引 きだ し

,次

第に発言す ることへの抵抗が薄れていっ たのではないか と思 います。ぼ くも

,先

生が一言 コメン トや分析 を して くれ たので

,い

い意味で調子づ き

,や

る気が出て きました。 それに

,プ

リン トの 疑問点

,問

題点の欄 をみただけで

,

自分の言いたいことが頭 に浮かんで くる

(8)

ようにな りました。」 やがて

,

自分の意見 を考 えた り

,そ

れ をみなの前で発表す ることに楽 しさ を見いだす ようになる。 「これ まで

,あ

ま り自分の意見や考 えをまとめて発表す るという機会がな かったので

,最

初 は とまどっていた。 しか し

,み

んなの意見 を聞いているう ちに

,僕

もなん とか しなければ と思 い

,発

表 した。 自分の意見 を発表 して人 に聞いて もらうということは

,

とて も気持 ちのいい ものだ し

,

また大切 で重 要 なことであることもわかった。」 「発言が一番大切

,考

えること

,

自分の思 っていることが大切 というこの 授業 は とて も新鮮で とて も楽 しかった。」「楽 しかった,・……このゼ ミは好 き だ った」。「基礎演習の時 は

,90分

があっという間にす ぎ

,と

て も夢中になる ことが`で きました。」 その結果

,初

年度 において も

,後

期 になると

,ほ

ぼ全員が毎回発言す るよ うにな り

,

しか もその発言時間 も長 くな り熱 も内容 も加わって きて

,そ

れ を 調整す るのが難 しい といった うれ しい悲鳴 をあげるようになる。「一人一人が もう少 し長 く発言で きれば良か った と思 う」 という声す ら出て くる。なお, 授業の終 わ りには

,20∼ 30分

をとって

,当

日に集中 した質問や関心事項 につ いて

,講

義 を行な うことに した。講義のテーマや内容は蓋 を開けない と定 ま らないこともあって,当意即妙 にうま くで きるか どうか,新米教員の私 に とっ ては毎回緊張の連続であった。 しか し,「最後 に先生がいつ もまとめて くだ さったことは とて も理解 しやすかった」 とい うメモをみて

,ホ

ッと胸 を撫 で 下ろす。 学生たちとの対話 を通 じて感 じていた確 かな手応 えは

,年

度末の最後の授 業 において

1つ

の クラスのゼ ミ生が大 きな拍手で しめ くくって くれた こ と や

, 1年

後の演習の募集で約半数の学生が私のゼ ミに応募 して きたことな ど に確認す ることがで きたのである。

1993年

度 について も

,2ク

ラスを担 当す る。1ク ラスの規模が50∼

51人

に 膨れたが

,初

年度 と同様 に

6∼

7人

単位の小 グループ に編成 し

,座

席指定や レジメの作成

,報

,出

席者の発表等 は

,同

じ方式 を採用 してスター トす る。

(9)

出席者 は

,40人

前後 と初年度 よ り少 し落 ち こぼれが多 くな り

,ゼ

ミナ ール形 式 の授業運営 は当初 困難 を きわめ た。 しか し

,や

が て

,全

員 が発言 す る よ う にな ってい く。 ただ し

,発

言 は順 番 にそ ってお り

,出

席 者 が手 を':'げて 自由 に意見 を戦 わせ る まで には至 って いない。 とはいえ

,後

期 にな る と

,彼

(彼女

)ら

の発言が 多様 にな り

,時

間 も長 く な って

,私

の講 義時 間が ほ とん ど取 れ ない ようになった。 む しろ

,極

,全

員 が発 言す るこ とを重視 し

,一

人一 人の発言 に対 す るコメ ン トの 中でカバ ー す る よ うに して い く。 全員が大 きな声で は っ き りと明瞭 に発 言す るわ けで はない。 したが って, クラスの なかのかすか な私 語す らヒア リングの邪魔 にな るこ ともあ り

,前

期 には ときどき注意す るこ とが あった。しか し

,後

期 にな る と

,誰

かが 発言 し て い る時 にはシー ン として皆 が聞 き入 るようにな る。 そ して

,誰

かの 発言 に 対 して,自分 の意見 を対置 して発言す るとい うケースが増 えて きたのであ る。 耳 をそばだ てて聞 き取 ろ うとす る光景へ の変化 は感動的 です らあ る。 「同 じクラスの人の発言で

,こ

こ まで言 えるなんてす ごいな.′ と思 った こ とが何度 もあ った し

,人

の意見 も聞 けて少 しは 自分 の考 え も持 て るように な った と思 う。」 「他の人の意 見や考 え を聞 いて

,

自分 との考 え方の違 いに驚 き

,ま

,そ

う した意見 を聞 くのが楽 しか った。」 彼 らは

,主

体 的 に参 加 で きる講義 を何 よ りも求 め てお り

,そ

う した中 に入 る と真剣 さを増 す。「この ような授業 は

,相

互 の意見 で成 り立 ったいて

,自

分 に も責任 がかか って きるので真剣 に取 り組 む こ とが で きた。 自分 に とって, とて も魅 力の あ る授業 だ った。」 最 後 の授 業の時 に

,1年

間 の感 想 な り意見 をメ モ に して提 出 させ た。「大学 に入 って

,

もっ と も大 学 ら しい授業 で あった」,「 発言す るこ との楽 しさをお ぼ えた」,「 同世代 の人 た ちの いろん な考 えや意見 を知 るこ とがで きた」,「社 会 や経済 に多様 な側面や 問題 が あ るこ とに 目を開かれ た」,「 新 聞 を注意 して 読 む よ うにな り

,政

治欄 や経済欄 に も目を通 す ようにな った」 といったメモ が数 多 くみ られ

,初

年 度以上 の手応 え を感 じるこ とが で きたの で あ る。次 の

(10)

ような文章 に接す ると

,何

だか私 まで も楽 しくなる。 「いろんな人 と接 し

,い

ろんな人の考 えを取 り入れ ることがで きた らうれ しい。 また

,

自分がいろんな人たちの力になれ る人間になれた らうれ しい。 た くさんの人 と

,い

ろいろな楽 しいことをや ってみんなで楽 しんでいけた ら すご くうれ しい。」 昨年の経済学基礎演習の単位 を落 として

,今

年度 (1993年 度

)に

私の基礎 演習に参加 した一学生の次の ような成長のあ とをみて

,む

しろ私の方が勇気 づ`けられ る。 「これか ら社会 に出てい く私 に とって

,

とて も弾みになるようなことを学 ばせ て もらいま した。経済的知識 としての土台や基礎 についてゼ ミ形式です すめ る講義は

,

とて も自分のためであ り

,

自信 と勇気 を与 えて くれて

,

とて もいい勉強にな りま した。」

2つ

の講義

(「

工業経済論」

,「

技術論」

)で

の手探 り

体験 が語 りか ける もの

教壇 に立 って一 番 困 った こ とは,「 工業経済論」 と「技 術論」とい う

2つ

の 講 義 を どの ように して い くか とい うこ とで あ った。 その理 由 と して

,一

つ は

, 1コ

=90分

とい う長時 間 を二十 数回 にわた っ

,受

講生 に関心 と興 味 を持 たせ つつ

,

しか も理解 しや す い ように

,

しゃべ り続 け るこ との大変 さを肌 身で感 じた こ とにあ る。 これ までのデス クワー ク 中心 の我 がサ ラ リーマ ン体験 の なかでは

,ほ

とん ど体験 しない分 野

,磨

いて い ない技 能領域 の こ とで あった。 二 つ は,「 工業経済論」 と「技術論」の何 れ において も

,

自分 の間尺 に合 っ たテ キス トが見 当 らない。結 局

,一

か ら講義 ノー トを準備 して いか ざるをえ な い こ とにあ る。講義 の骨格や 内容

,テ

ンポな どまった く手探 りで

,初

年 度 と第

2年

度 で は ガ ラ リと違 った もの にな って しまったの で あ る。 第

3年

度 (1994年度

)に

は さ らに大幅 な見直 しを考 えて い る。 三 つ は

,受

講 生 の少 な さにあ る。初 年度 には,「工業経済 論」で

2-10人

強, ´ 年

(11)

「技術論」 で数 入 しか講義 に出席せ ず

,淋

しい出発で あった。 もともと受講 届 をだ してい る人数 その ものが少 な いか らで あ る。 しか し

,反

,少

な いゆ え に

,未

熟 なが ら も手作 りの講 義 を 自分 な りのペ ー スで試 み て い くこ とが で きた と も思 ってい る。 両講義 とも

,第

2年

度 にな る と受講 生 の 数が一桁 ア ップ し

,

よ うや く講義 の体 をなす ようにな る。「工 業経済論」は大教 室 に移 し替 え

,今

度 は大教 室 で どの ように講義 してい くか とい う新 たな課題 に直面 す るこ とにな る。 両講義 とも

,出

来映 え に 自信 が なか った こ と もあ って

,感

想や 意見 を書 い て提 出 させ るの にず っ と躊躇 していた。感想や意見 を提 出 させ るように した の は

,第

2年

度 の終盤 も近づ いた11月下 旬以 降 の こ とで あ る。この壁 を一 度 破 る と

,受

講 生 が何 を要求 し

,

ど う感 じてい るか

,

どれ ぐらい理解 してい る かが

,意

外 に掴 みや す い こ とが わか り

,講

義 で は難 しい と思 われ た対 話 の一 つ のや り方で あ るこ とに気付 いたので あ る。 「黒板 に書 く量 が 多す ぎる」,「 書 くの と話すのが同時 だ と

,

どち らか に神 経 が い って しまい聞 きづ らい」,「黒板 の字 を もう少 し大 き くしてほ しい」,「授 業 で話 したの は テ キス トの どの 辺 に 当て は ま るか を毎 回 明確 に示 して ほ し い」 とい った技 術的 な改善 を求 め る声が

,い

ず れ の講義 にお いて も日につ い た。感想や意見 の 中には,「書 く量 を半分位 に し

,し

ゃべ る間合 い を もう少 し ゆ っ くりと取 る とよいので は」とい う技術的 な示唆 も身受 け られ,「 出席率 を 増 や す ため に出席 カ ー ドを毎 回配 った方が いい と思 う」 とい った気遣 い もの 香 が漂 うメモ もあ る。私 の方 か ら,「 講義 が不慣 れ で 申 し訳 な い」と言 った こ と もあ る。それ を聞 きとめて,「そん な こ とはな い。 もっ と自信 を持 って くだ さい」 との励 ま しの メモ もあ り

,ウ

ェ ッ トな一面 を見せ て くれ る。 また

,メ

モ にあ る質 問の一部 を次 回の講義 で取 り上 げて説 明す る と,「おか げで

,物

の 見 方 を人間の生活のみ にこだ わ らず地球規模 で見つ め るこ とを教 えて いただ きま した」 とい った丁寧 なお礼 のメモが送 られ て きた こ ともあ る。感想や意 見 の メ モ を媒 介 に しての対話 は

,受

講 生 の意外 な横 顔や 内面 を も垣 間見せ る な ど興 味深 い。 講 義 の 内容や 全体 的 な印象 につ いて は

,意

外 と肯 定的 にみ て くれ て い る よ

(12)

うで

,さ

りげないメモに九気づ け られた り励 まされ ることも少な くない。 「一番印象 に残 ることの一つは

,先

生の授業 には “ハ キ

"が

感 じられ るこ とである。すご く物事 をハ ッきりといわれて聞 き手 もついつい聞 き入れて し まう感 じで とて も興味深 い。やは り

,先

生 も会社勤めの経験があるためかす ご く話が具体的で何 も知 らない僕 としては とて も理解 しやすい。」 「苦労 して両立 した分

,会

社の仕事で得 た知識 を授業 に生か して講義す る 先生の授業 は

,他

の先生 と少 し違 った感 じが して良い と思 い ます。」 「自分 もこれか ら “自分 はこれだ

"と

い うものについて考 えてみ ようと思 う。

1年

,

とて も現実的な講義で 自分のためになった と思 う。」 卒業 を間近 に控 えた

4年

生の受講生か ら,次の ような感想が出されている。 「講義 を

1年

間受 けて きて思 ったことは

,何

よりも “生 きがい

'と

い うも の を見付 ける必要があるということである。」 「先生の ような生 き方 もあるのだ とい うことを知 って また希望がわいて き ま した。」 5。

演 習 において何 を学 び感 じるか

当大学 にお いて は

,新

任 教員 の演習 につ いて は

,第

2年

度 か らの担 当 とな る。 これ は

,前

年 度 の秋 にゼ ミ生 を募 集 す るか らで あ る。 したが って

,私

の 場 合 も

,第

2年

度 にあた る

1993年

度 か ら演 習

(3年

生)を担 当 し

,

まだ

1年

間 の体験 で しか ない。 「 日本型企業社会 とサ ラ リーマ ン研究」 を演習の テーマ とす る。前期 に1 冊

,後

期 に

1冊

の テキス トを精読 し

,夏

期 の合 宿 で

2冊

の本

,冬

期 の合 宿 で は

2冊

の本 を集 中的 に検 討す るこ とに した。 その 中で

,各

人 が 自 ら問題 意識 や研 究 テーマ を見つ けだ して い く。 ゼ ミ生

30人

との交流 をいか に図 り

,彼

らをいか に指導 してい くか は

,予

想 外 に難題 で あ る。経済 学基 礎 演 習 での方式 を参考 に して

, 1グ

ル ープ

=5人

単位 で

6グ

ル ープ に編 成 し

,毎

回の担 当 をグル ープ ご とに受 け持 たせ

,

レジ メの作成

,発

,論

点や質 問の提起 をさせ た。 レジメの作成や発表 をさぼ る

(13)

もの は いな い し

,指

名すれば

,何

とか意見や疑 問点 を聞 き出す こ とはで きる。 しか し

,私

の期待 す る ような活 発 な議 論 を引 き出す こ とが なかなか難 しい。 これ は

,お

そ ら く次 の よ うな事情 に よる もの と推 察 され る。一 つ は

,彼

ら が

1年

次 に基礎 演習 を経験 していないためで はなか ろ うか。 それ まで 自分 の 意 見 を皆 の前で発表 す る訓練や習慣 を経 ていないの に

,い

きな り専門的 な文 献 に取 り組 み

,そ

の理解 を図 りつつ

,高

度 な発表 能 力 も同時 に身 につ けて い くとい う芸 当が意外 と彼 らには重荷 になった と思 われ る。二つ は

,私

自身の 指 導や運営 の未熟 さに よる もの とみ られ る。 こ う した試行錯誤 を経 て

,秋

口よ り

,グ

ル ープ単位 で ワイワイガヤ ガヤ と 相 談 で きる場 と時 間 を作 ってや るように した。担 当グル ープの報告 と問題提 起 を受 けて

,

まず

,グ

ル ープ ご とに数分 間 ワイワイガヤ ガヤ と検 討す る。 そ こでの議 論 を参考 に して

,各

グル ープ か ら一 人ずつが応答 発言す る。言 い尽 して いない と

,当

グル ープ の他 のメ ンバ ーが追加 して発言す る。 なお

,発

表 者 が偏 らな い よ うに してお く。 こ う した形 を取 る中で議 論 が次 第 にかみ合 い だ した。ゼ ミは賑や か になって きたが

,時

折 脱線 して私 語 に も発展す るのが 悩 みの種 で あ る。 また

,

レジメ と報告 を簡潔 にす るため に

,図

式 化 な どを促 して い るが

,

どう して も報告 に時 間がかか りが ちで

,グ

ル ープ 間の討議 の時 間が少 な くな る。 これの改善 を求 め る声が最終 回 に出て い る。 夏体 み の 課題 と して

,そ

れ ぞれ の 問題 意識 やや りた い テーマ につ いて レ ポー トを課 し

,夏

休 み あ け に提 出 させ た。

9∼

11月の 間 に全員が順次 発表 し, 方 向付 けの コメ ン トを して い く。最終 回のゼ ミには

,そ

れ の見 直 し版 を提 出 させ た。

4年

次 には

,テ

ーマ別 にグル ープ を再編成 し

,各

グル ープ の 自主的 な行動範 囲 を広 げてい くこ とを考 えてい る。 冬体 み に突入 した 日に

,ゼ

ミの合 宿 を行 い

2冊

の本 を仕上 げだが

,(一

人の 長期療養者 を除 き

)全

員 が参 加 す る。 当 日の午後 と翌 日の午前 中 に研究会 を もち

,夕

方 には グル ープ対抗 の ボー リング大会 を競 い

,夜

には忘年会 な どに 興 じる。「ゼ ミの合宿が こん なに楽 しい とは思 い もしなか った」,「みん な と知 り合 えて よか った」,「 ま とめて勉強 したな とい う感 じがす る」 とい った声 が 多 く聞 かれ

,我

が 身の疲 れ もふ っ飛 ぶ。

(14)

1年

間のゼ ミ活動 の感 想 と して は次 の よ うな ものが あ る。 まず

,発

表 や 討 論形 式 で の授 業 の進 め方 に とま どいや新 鮮 さ

,手

応 え を感 じた ものが 多 い こ とで あ る。 「 とまどい もあったが期待 も逆 にあ り,い ろいろな意味 で新鮮 な

1年

で あっ た と思 い ます。」 「大学 に入 って初 め て勉強 ら しい こ とを した と思 う。・……ゼ ミ合宿 もとて も楽 し く充実 した ものだ った。」 「最 初 の頃 は少 しとまどったけれ ど

,後

半 はけ っこ う慣 れ て きて

,

レポー トも以 前 ほ ど苦労せ ず にか け る ようにな った し

,人

前 で発表 す るの もか な り 慣 れ て きた と思 う。」 「合宿

,討

論 な どで

,

自分 と違 った タイプ の人の意 見や性 格 を知 るこ とが で き

,視

野が広 が る。」 「ゼ ミを通 じて友 人が増 え

,ま

,大

学 で初 め て頼 りにな る先生 と話せ る 関係 になれ た。」 しか しなが ら

,ゼ

ミの進 め方や参 加の仕 方 につ いて

,問

題 点や今後 の改善 の必要 を指摘 す る声 も少 な くない。 「に ぎやかで意見や質 問の交換 が あ り良 い と思 うが

,ぼ

く個 人 と して は, 少 し人数 が 多 く全 員が それ に参 加 して い るわ けで もな い し

,そ

れ らの意見 も 先生 に指 名 され てや るわ けだ か ら

,物

足 りない よ うな感 じが します。」 「発表 の量 とか数 を もう少 し減 ら して

,議

論 中心 のゼ ミに して ほ しい。 そ れ と

,そ

の議 論や テーマ につ いての先生 の意見 を もう少 し増や してほ しい。」 最 後 に

,長

期療養 の一 ゼ ミ生 に触 れ てお く。一 昨年 の秋 に私 のゼ ミに応募 し面接 して合格 してか らま もな く胸 を患 い入院 した まま今 日に至 ってい る。 したが って

,ゼ

ミには一 度 も出席 していない。秋 口には

,ゼ

ミ生全 員の激 励 の添 え書 きを作 り

,私

か らの激 励 の手紙 な どを添 えて届 けた。 それ に対 し, お父 さまか ら次 の ような手紙 をいただ いてい る。 「… …ゼ ミの皆様 の寄せ書 き

,先

生 の励 ま しのお手紙 にたいへ ん感激 し, 『早 く元気 にな りたいね。』『早 く学校 へ行 って先生 をは じめゼ ミのみんな に 会 いた いな』 と申 してお ります。・……

(15)

一 向 に よ くな らぬ病状 にかな リイライラ し努力 も怠 りが ちにな ってお りま す。 しか し

,こ

こ二 三 日先生 か らのお手紙 を読 み返 し一先ず学校 ゼ ミの こ と な どか ら解 放 され,病 気 に対 して前 向 きに取 り組 む姿勢 にな りつつ あ り……」 い まなお復帰 のメ ドはたっていないが

,病

状 が安定 した最近 (1994年 1月 下旬

),次

の ような手紙 が彼 か ら届 いた。 「闘病 生活 に入 り

1年

が過 ぎま した。大病 の ため退院の見通 しがつ かない 状 態 です。 で も 1日 も早 く退 院 し大学 で授業 を受 け

,無

事 卒業 した く思 って い ますが,まだ まだ通学 が不可能です。そ こで勝 手 なお願 い とは存 じますが, レポー トな どの課題 をお送 りいただ ければ

,一

生懸命 に取 り組 み精一杯勉強 しようと思 い ます。」 新 米教 員 の

2年

間 の学 生 た ち との交流 の 中で

,

この父子か らの手紙 ほ ど私 に深 い驚 きと厳 粛 な気持 ち

,喜

び を与 えて くれ て ものが あろ うか。 なん とか してや りたい。彼 の 内部 か ら

,生

きる英 知 と意欲

,勇

気 を どれ だ け引 き出 し 高 め てや るこ とが で きるで あろ うか1)。 6。

他 大学 への出講

(講

,演

)に

垣 間見 る学生の機微

大 学 に転 じて

2年

目の

1993年

度 には

,他

大 学 (岐阜経済 大学

)に

出講 す る こ とにな り

,講

(4時

限 目

=「

産業 史」)と 演 習 を担 当 した。 その 中で

,他

大学 との比較 を とお して

,現

代 の学生 たちの 内面 に接 す る とい う機会 を得 る こ とにな る。 最 後 の講義 で とったア ンケー トには

,興

味深 い感 想や意見 がみ られ る。 ま ず,「 この ようなア ンケー トを前期 の夏休 み前 に した方が いい と思 い ま した」 とい う指摘 に恥 じ入 る。 ここで も

,黒

板 に書 く量 が多す ぎるこ とや

,字

が小 さい こ とな どへ の注文がや は り目に付 いた こ とで あ る。次 の声 は悲鳴 に近 い ものが感 じられ る。(も っ と も気遣 いの文章 も添 えて)。 「か な り疲 れ る授業 です。 まず

,板

書 の量 が他 の授業 と比べ て も非 常 に多 いので はないで しょうか。指 が痛 くな って しまい ます。 そ して

,そ

の字 も小 さいの です。私 には読 み取 れ ない部分 も多々 あ りま した。 しか し話 しの方 は

(16)

非常にわか りやすかった。私で もよ くわか りました。私の感想 は“とにか く, とて もていねいだ

"と

いうことです。」 最初の ころは

,地

球の歴史か ら始めた ものだか ら講義の内容への とまどい と驚 きも少な くなかったようである。「初めて授業 に出席 して思 ったことは, 産業 史 とはこうい うこともや るのか とい う驚 きで した。」 講義 自体 については

,次

の ような評価や提言がみ られ る。 「テーマ と話 しの進め方

,先

生の独 自な視点がわか りやす く

,

自分の思 っ て もみなかったことが多 くわか るので

,考

え方 を広め る良い授業だ と思 いま す。」 「授業 中

,私

語が他の授業 と比べ ると少なかった と思 う。 この ような人た ちに対 しては

,出

席 を とった り評価 の対象 にプ ラス を してほ しか った と思 つ 。」 次 の よ うな声 は

,新

米教 員 の私 を限 りな く励 ま して くれ る ものが あ る。 今 後 の 原点 と して

,大

切 に して い きた い。 「大 変 ま じめな先生だな と思 い ま した。・……私 が受講 してい る先生 の なか で は一 番熱意 を感 じま した。 これか らも熱 意 で授業 を行 な えば

,本

当 に この 講 義 を聞 きたい とや って くる学生 は増 え る と思 い ます。」 さて

,演

習 は

, 3, 4年

生 の混成 で総勢

40人

強 (最終 は

3年

22人

, 4

年生

17人

の計

39人

に確 定

)の

大 所 帯 で あ るこ とが

,最

初 の 出講 日に判 明 し た。 しか も

, 4年

生 には初 めての面識 で卒論指導 を行 なわねばな らず

,就

職 シー ズ ンを控 えてい る。 これ は困 った こ とにな った

./

と思 いつつゼ ミをス ター トしたが

,や

は り手 に負 えない。 そ こで

,大

学 の 了承 を得 て

,第

2回

目 のゼ ミで急遠

, 3時

限 目

(3年

生 主体 で

24人

)と

5時

限 目

(4年

生 主体 で15 人

)に

分割 す る。 夏 には

, 3年

, 4年

生別 々の合宿 を もって親睦 を図 るな どの努 力 を した が

,フ

ォローの不足 は否 めず

, 3年

生 に

2人 , 4年

生 に

6人

の落 ち こぼれ を 出 して しまった。 そ う した中で も

,ゼ

ミに結集 して きた

4年

生 (11人

)は

卒 論 (選択

)を

仕上 げて い る。彼 らは

,こ

う したハ ンデ ィキ ャ ップ の 中でゼ ミ を どの ように感 じて い たか。最 後 のゼ ミで書 き残 した彼 らの メモ に,(あ ま り

(17)

面倒 を見 てや れ なか ったこ とへ の

)胸

の痛 みが よぎる。 また

,そ

う した 中で も最 良の もの を学 び取 って くれ た こ とへ の感 動 に胸 が熱 くな るの を禁 じ得 な い。 「ゼ ミで学んだ ことが

,会

社のなかに入 って壁 にあたった ときや悩 んで し まった ときに

,役

に立 てばいい と思 います。ゼ ミで使った本をもう一度読み 返 して

,会

社で生かす ことがで きれば と思 います。」 「

1年

間だけで したが

,

とて も親切 で楽 しい授業が送れたので とて も有意 義で した。・……困 った ときに先生 に相談す ることがあるか も知れ ませんが よ ろ しくお願 い します。」 「卒論 を終わ りとす るのではな くスター トに して

,

もっと立派 な ものに仕 上 げてい きたい。・……経済

,教

育 と

2つ

のテーーで研究 を生涯続けていきた い と思 う。」 「ゼ ミの中で

,仕

事 を しなが ら勉強 していこうという気持 ちが強 くな りま した。・……いつ まで も勉強 してい きたいので

,こ

れか らもよろ しくお願 い し ます。」 「将来的 に十 名先生の ように大学院 に社会人入学 したい と考 えてお りま す。」

7.現

代 の 学 生 気 質 とサ ラ リー マ ン像 以上 にみ る現代学生像 は

,こ

2年

間に出会 った数百人の学生たち

(2つ

の私立大学

)か

ら得た もので しかない。それ も

,彼

らの多様 な反応の一端 に す ぎない し

,あ

くまで も私の触角で捉 えたことの一部で しかす ぎない。しか しなが ら,そ こで垣間見 た現代学生像は,これ まで巻 に聞いて きた もの2)と な りなが らも,それだけでは捉 え きれない様相 を呈 しているように思われる。 た しかに

,数

十人か ら百人前後の講義 において も

,私

語3)が気 になる場面 も 少な くない。展開が少 し冗長 になった り

,抽

象的 になると

,私

語が小波の よ うに起 こって くる。それは

,知

的な根気や抽象化能力には苦手な彼 (彼女) らの

,講

義への一種の(消極的な形での

)ブ

ーイング と感 じられ る。そこで,

(18)

テ ンポを良 くし

,具

体的な展開に切 り替 えた り

,興

味深 い内容 を織 りこんで い くと

,シ

ー ンとして聞 き入 る。講義内容が

,彼

(彼女

)ら

の知的関心や興 味 を呼び起 こす ものであるのか

,彼

(彼女

)ら

に とって役 に立つ ものか どう か をさっ と嗅 ぎ分 ける彼 (彼女

)ら

の直感力は

,私

に とって脅威である。 彼 (彼女

)ら

,

自分の考 えや意見 を皆の前で開陳 したが らない ように見 える。 しか し

,そ

の反面

,対

話 を通 じての学生相互の交流や教員 との交流 を 強 く求めている。 自らの頭で考 え

,そ

れを発表 し

,

またクラス (ゼミ

)メ

イ トの意見 を知 ることがいかに面 白いか

,そ

のダイナ ミズムに気づ く学生 (と くに

1年

)の

多いことに驚か され る。 彼 (彼女

)ら

,い

ま学んでいることが

,人

生 において

,実

社会の中で, どの ように生 きて くるのか

,

を知 りたが っている。そ うした功利性の強 ま り は

,将

来見通 しの不透明 さ

,不

安定 さによっているのか もしれない。しか し, その一方で

,

自分が本 当にや りたいことが掴 めないことにい らだちを示す も の もいる し,自 らの人生の生 きがいを求め る声 も少な くない。現代のサ ラ リー マ ン論や ホワイ トカラー論 とかかわ り合 う部分が意外 と多い ようである4)。 学生たちの反応 は

,た

しかに表層的な もの も多 く移ろいやすい し

,彼

(彼 女

)ら

の知的関心や興味 をつな ぎとめてお くのは容易ではない。 しか し

,そ

うした殻の内部 に

,

きわめて真摯な意欲や向上欲求 をひそめてお り

,大

きな 可変性 をはらんだ存在 としてその発揮の場や機会 を求めているように感 じら れ る。 しか も

,そ

うした琴線 に触れ る本物 を瞬時 に洞察す る直感力は侮 れな い。 彼 らの 目線 にそ って話 をす るこ との大切 さを痛感 す る。私 は

,彼

(彼女) らに,「偏差値観 に とらわれ るな。自分 な りの評価 の眼 を培 ってい こ う。自ら の感性

,日

で もって

,

自分 な りに納 得 の い く見識 で もって物 事 を見抜 いて い くこ と

,考

え抜 くこ とこそ価値観 の基本 で あ る。」とい う趣 旨の こ とを機会 あ るご とに説 いて い る。 そ う した私 の指摘 に敏感 に反応す る学生 もけっ して少 な くない。 それ は, 受講 者 の半数 に満 た な いか も しれ な い。 しか し

,た

とえ

, 1∼

2割

で あって も熱 い反応 を生 み出せ ば

,そ

れが 全体 の雰 囲気 を変 えてい く貴 重 な手がか り

(19)

になるのではなかろうか。大学教育改革の実験の意味 と可能性 がそうした と ころに潜 んでいるように思われ る。 一方での「教養」離れ とともに

,他

方では「専門」離れ もはなはだ しく, 学部での「専門」教育に興味 を示 さない学生の比率が増 えて きていることは, 新米教員の私 に もひ しひ しと伝わって くる。何が,「専門」教育か ら魅 力をな くしているのか。それは

,学

生の関心や知的水準 に も問題 はあろう。しか し, 他方では

,既

存の「専門」教育の体系や内容が現実離れ

,人

間離れ している ことによるところが少な くない ように感 じられ る。 彼 (彼女

)ら

の興味や知的関心 をいかに取 り戻 し

,彼

らが「専門」 を学ぶ ことの意義 をどう見付けだす ように導 いてい くか。そこには

,大

学教員の研 究・教育の最 も重要な原点がかかわっているように思 える。 また

,そ

れが試 されているといえよう。 8。

お わ り に

小論 は

,私

自身 の教 員体験 か ら捉 えた現代 学 生 の観 察 レポー トで あ る。 あ るい は

,大

学教 育論 の研 究 ノー トとい え るか も しれ な い。 小論 を まとめ よう と思 い立 ち

,全

体 の骨 子 をデ ッサ ン したの ち に

,急

に不 安 に襲 われた。小論 が

,果

た して大学の紀要 に載せ る ような代物 か

,あ

るい は,この レポー トの作 成 に貴重 な

2週

間 を費や す こ とが適切 か ど うか とい う, とまどいで あ る。今年 は

,ラ

イ フ ワー ク と しての鉄鋼 産業論 をなん とか ま と め あげたい

,寄

り道 を して い る猶 予 もな い

,

とい う思 い も強 い。 そ こで

,当

大 学 の何 人かの先生方 に

,小

論作 成や紀 要へ の掲 載 の是 非 を尋 ね てみ た。「紀要へ の掲 載 は適切 で はないか もしれ ない」とい う指摘 もあった が,「 教 育論や調査研究 (レポー ト)と して問題 ない」,「 これ まで

,

こ う した 研 究 発表 が少 なす ぎる とい う意味 で貴 重 で あ る」,「 大学教 育の活性 化 の一石 にな るので はないか」 といった声が 多か った。 その数 日後

,京

都 大学 での研 究会 に出か けた際 に

,恩

師 (池上惇 教授

)と

話 をす る機 会 が あ り

,こ

の こ と につ いて相 談 してみた。次 の ような趣 旨の示唆 は

,私

の迷 い をふ っ切 らせ る

(20)

ものがあった。 「大学 に長 くいて も

,こ

れだ

./

ぜ ひ書いてお きたい といった教育体験 は そ う多 くはない。十名君の これ までの鉄鋼での体験 と大学での新 しい教育体 験 とのぶつか りの中で生 まれた波長が

,今

の学生の波長 とが合 ったのではな いか。その人の

,そ

の瞬間で しかで きないことがある。 いま

,書

き留めてお かない とす ぐに消えて しまうか もしれない。」 そ もそ も

,小

論 をまとめ ようと思 い立 ったのは

,鉄

鋼マ ンとしての「働 き つつ学び研究 し」て きた

21年

間の体験 に突 き動か されての ことである。鉄鋼 メーカーに勤めて仕事 もわか りかけた

3年

目の春か ら

,社

外の研究会 に顔 を だす ようにな り

,そ

の夏に処女論文 をか きあげた。その直後 の興奮 もさめや らぬ中にまとめた,「働 きつつ学び研究す ることの意義 と展望」という随想 は, 処女論文の掲載雑誌 に同時 に載せ て もらった。結局

,そ

の一文が新鮮 な若 き 感性が

,そ

の後の

21年

間の「二足のわ らじ」生活の原点 とな り

,困

難 な とき に も支 えて くれた ようである。 桜井邦朋氏 によれば,「講義 をす ることは私 にはいつ も一種 の後ろめたさが 感 じられ る仕事である。・……結局は

,

自分 を裸 に して

,す

べてを学生たちの 前 に見せ て しまうことになる。能力の限界だ って

,お

のず と講義の中に現れ て しまう」 という。重厚な研究 。教育の蓄積 を経 てなおそ うであるらしい。 そこで

,究

極 は,「教育において大切 なことは

,教

授 自身がいわば生 き証 人 と なって

,

自分の して きたことを

,学

生たちに身 を もって示す ことにある」5)。 それは

,創

造的な研究 を基本 とす るとともに

,そ

れを通 しての創造的な生 き 方 を も含む もの として捉 えることがで きよう。 新米教員の

2年

間の体験 と感性 が捉 えた ものが果 た して どれほ どの もの か

,

自信 は全 くない。 しか し

,学

生たちの多様 な資質や感性

,反

応 を敏感 に 受 け とめ

,そ

の知的関心や興味な どを引 きだ した り

,創

造的能力 を仲ば して い くことに

,少

しで も助 けにな りたい。そ うした姿勢 を自らの原点 として大 切 に したい とい う思 いが

,小

論 をまとめ る引 き金 になっている。拙 い小論で はあるが

,企

業の生産現場での体験か らみた視点な リアプ ローチが

,大

学教 育 をめ ぐる議論 になん らかの刺激 を与 えることがで きれば幸いである。

(21)

1)

小論脱稿後 の 3月 中旬 に,このゼ ミ生 (中山貴晴君)は , 1年3ケ月にわたる癌 と の「壮絶 な闘い」の後,「春の嵐の中を駆 け抜 けるかの ように」21歳の若 き短 い生涯 を 終 えた。病床 の中で も是非学びたい という手紙 を彼か ら受 け取 った2ケ月後の こ とで あった。死 の直前 に して高 まった学ぶ ことへの意欲 と真摯な姿勢 を大切 に受 け とめた い。生 きるこ との英知 と内的なエネル ギーを高めてほ しい との思 いをこめ

,私

の方か ら提示 した課題 図書 を「読み始めてい ま した」, との こ とであった。彼の冥福 を心 か ら 祈 る。 小論 を故・ 中山貴晴君 にささげ る。

2)

現代 の学生像 につ いては,岩田龍子氏 による整理が参考になる。岩田氏 は,「学歴パ スポー ト論」や 「大学 レジャーセ ンター論」の一面性や無責任性 を批判 し

,学

生 を次 の3つの タイプ に分 けて分析 す る。 ① “燃 え られ る"もの を求めて模索 してい るタイプ ② 入学時 には意欲的だが,その後失速 して しまっているタイプ ③ 入学以前 に失速 して しまってい るタイプ 岩田氏 は

,②

や③ の タイプの層 にいかに手 をさ し伸 ばすか とい う視点か らアプ ロー チ し,そ う した学生たちに もなお発達の可能性 を説 く。 また

,彼

らの意欲や関心がい わゆ る従来の偏差値観や能力観 と密接 に関連 しているこ とに注 目 している (岩田龍子 『学生たちが 目を輝かす とき』龍渓書房 1984年)。 こ うした視点 に

,私

は深 く刺激 され,そうした眼で周囲の学生 たちを もう一度見直 し

,私

自身の体験や視点 と結合 させ て展開 しようとしたのが小論 である。

3)

私語 に関 しては

,島

田博司 「授業 中の私語」(片岡徳雄・喜多村和 之編 『大学授業の 研究』玉川大学 出版部1989年 )が興味深 い。島田氏 は

,A女

子大学での調査 をふ まえ て,「共通 して授業 内容が私語の発生 に大 きくかかわっている」 こ とを指摘 してい る。 そ して

,私

語への対応 として

,教

授の声量や板書技術の向上

,話

し方 といった「教授 技術 に関す る もの」

,学

生の参画 を積極的 に促 すな どの「集団過程 に関す るもの」を指 摘す る とともに,「授業 内容 に関す る もの」すなわち「興味がわ き

,わ

か りやすい授業 が決めてであ る」 としている。

4)

マー トンの「予期的社会化」(すなわ ち「所属 したい と望 んでいる非所属集団の価値 を身 につ ける」)論によれば

,学

生 は学生時代の間

,将

来 自分 は どの ような職業 に就 き どの ような生活 を送 るか を考 え続 けるが

,漠

然 としたなかに も将来の生活設計 との関 わ りにおいて生活態度 を決 定す る とい う。(山崎博敏 「エ クス トラ・カ リキュラムの効 果」片岡徳雄・喜多村和之編 前掲書)。

5)桜

期 朋 『大 学 教 授 そ の あ ま りに 日本 的 な 』地 人書 館 1991年,59, 102∼103ペー ジ。

参照

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