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負債の範囲と財務情報の有用性 : 比較可能性の追求が及ぼす影響

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Academic year: 2021

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(1)

I

はじめに

 負債会計については、「財務情報1)拡大・充 実することによってその有用性が向上する」という 考え方が支配的であり、制度設計のよりどころとさ れてきたように思う。例えば、近年、非金融負債2) の公正価値測定の導入に際して、未認識の項目に ついては可能な限り認識し、すでに認識された項 目についてはより早期の認識や計上額を増額する よう促すことが、情報利用者の意思決定に資する ことを示唆した議論がみられた。  負債情報の拡充については認識や測定の次元 でも議論が展開されるが、本稿は、それ以前の段 階、つまり、負債のそもそもの範囲を策定すること が財務情報の質および量に影響を及ぼしうる点に 着目している。なぜなら、従来、法的形式を超えて 経済的実態を反映すべく、負債の範囲についても 拡大傾向にあったものの、

FASB

基準が資産除去 債務を法的債務に限定し、さらには

IASB

FASB

による「概念フレームワークプロジェクト」(フェー ズ

B

)において定義のレベルで負債の範囲を限定 するよう提案されるなど、近年、制度の方向性に明 らかな転換がみられるからである。  そこで、本稿は、一転して負債の範囲を限定す るに至る経緯を把握し、財務情報の質的特性に 着目して負債の範囲を策定する基本的な考え方を 明確にしたうえで、負債の範囲を縮小することが財 務情報の有用性に資するといえるのか検証を行う。

負債

範囲

財務情報

有用性

比較可能性の追求が及ぼす影響

赤塚尚之 Naoyuki Akatsuka 滋賀大学経済学部 / 准教授 論文 1「会計情報」) と表記してもよいが、 本稿は「財務情報」と表記する。 2)ここにいう「非金融負債」とは、 金融負債以外の負債をいう。 3)現行の定義には蓋然性に関連した記述 (FASBは“probable”、IASBは“expected”)が

盛り込まれているが、定義の段階において

厳密な蓋然性は問われない。

なお、負債の本質については、Kerr()および

(2)

II

資産除去債務に関する

FASB

基準からの示唆

1:負債の定義と資産除去債務の範囲  負債について、

IASB

は「過去の事象の結果、経 済主体に生じる現在の債務であり、当該債務の決 済に際して経済的便益に相当する資源が当該主 体から流出すると予想されるもの」(

IASB a,

par. .

b

))、

FASB

は「過去の取引または事象の 結果、特定の経済主体が他の経済主体に対して、 将来、資産を移転するかまたは用役を提供すると いう現在の債務から生じる、蓋然性の高い将来の 経済的便益の犠牲」(

FASB , par. 

)と定義 する。このことから、①過去の取引または事象に 起因すること、②特定の主体が負担する(現在の) 債務であること、および③(現在の)債務を負担す ることにより将来に経済的便益の外部流出を伴う ことの

3

つが、負債の本質的な特徴とされてきた3)  会計上の負債の範囲を検討するに際して、本稿 が焦点を当てようとする特徴は、上記②である。こ こに「債務(

obligation

)」4)とは「特定の方法に よって実行または履行する義務または責任(

duty

or responsibility

)」(

IASB a, par. .

)、「契 約、約束、道義上の責任等によって法的または社 会的に課せられた義務」(

FASB , fn. 

)をい う。そして、「特定の主体が(現在の)債務を負担す る」とは、当該主体が「相手方または第

3

者に対す る資源の流出(将来の犠牲)を回避する余地がな いか、あったとしてもほとんどない状況にある

little, if any discretion to avoid the outflow of

resources / little or no discretion to avoid the

future sacrifice

)」ことを意味する(

IASB a,

par. .

FASB , par. 

)。そこで、ここにい

う「債務」には、法的債務のほか、法的債務以外

の債務、すなわち推定債務や衡平法上の債務5)

該当しうる(

IASB a, par. .

FASB ,

fn. 

)。このように、負債の範囲は、概念上、法的 債務を発生源泉とした項目に限定されない。  このような概念規定を受け、基準レベルでは、 法的債務以外の債務を源泉とした項目を負債とし て認識対象とすることができるし、時にそれを会計 上の認識の埒外に置くこともできる。例えば、資産 除去債務について、

IASB

基準を適用する場合、 資 産 除 去 債 務 は

IAS

37

号 に い う「 引当 金 (

provision

)」に該当する。

IAS

37

号は、推定債 務に基づく引当金を認識対象としており(

IASC

, par. 

a

))、推定債務を源泉とする資産除 去債務は認識対象となる。他方、

FASB

は、資産除 去債務を法的債務(約束的禁反言6)基づく推定 債務を含む)に限定している。

FASB

基準を適用 する場合、法整備の整わない国や地域での事業 活動に伴う資産除去債務を認識することに法的 根拠がなくとも、資産除去債務を推定債務や衡平 法上の債務を根拠として認識したり、経済的合理 性の観点から認識したりすることは一切認められ ない。 4)本稿は“、obligation”を「債務」と訳出する。 なお、例えば徳賀(1999、pp. 167−168、注(3))は、 「債務」という概念が「法的」という限定を内包することから、 「義務」または「責務」と訳すべき (「債務」は“debts”の訳語に該当する)としている。 かかる用法に従えば、「法的債務以外の債務」は 矛盾した表現となる。 5「推定債務() constructive obligation)」は、 「実務慣行、明言された方針、または最新文書をつうじて、 当該主体が第3者に対して義務を負担することを 示唆しており、結果として当該主体が義務を 履行するとの妥当な期待を抱かせる当該主体の 事業活動に起因する現在の債務」 (IASC , par. )をいう。 また、「衡平法上の債務(equitable obligation)」は、 倫理・道徳上の制約、つまり、良心や正義感から 正しいと信じる行為を第3者に行う義務感から生じる (FASB , par. )。 6)「約束的禁反言(promissory estoppel)」とは、 「契約者(promisor)が受約者(promisee)に対して 契約を合理的に信頼するに十分な期待を抱かせ、 受約者が実際に当該契約を信用して損害を被った場合には、 約因(consideration)なく結ばれていても、 公正性を堅持すべく当該契約を強制しうる原則」をいう

(3)

2:問題意識と検討課題  負債の範囲を策定することは、認識要件の設定 や測定属性の選択と並び、負債会計のグランドデ ザインにかかわる検討課題である。この点につい て、近年、資産除去債務に関する

FASB

基準を端 緒として、負債の範囲を縮小する傾向が顕著となっ ている。  負債の範囲をめぐってまず検討すべき課題は、 負債の範囲を限定する論理を明確にすることであ る。法的債務以外の債務を発生源泉とする諸負 債の識別については、画一的な判断基準はなく、 最終的に経営者の裁量に委ねられることから、 個々の主体によって会計上の認識対象となる負債 の範囲が相違する可能性がある。負債の範囲を限 定するよう要請されるのは、法的債務以外の債務 を源泉とした項目が、経済的な実態を明らかにす る側面よりも比較可能性を阻害する要因となりう る側面を重視した結果であるといってよい。  ここで、資産除去債務の範囲について

FASB

が 採った結論を解釈すれば、負債の範囲を限定する 広狭

2

つの論理を導くことができる。まず、数ある 負債項目のなかでも、基準レベルで資産除去債 務のみ範囲が限定されている現状から、

FASB

の 結論を資産除去債務に固有の特徴に由来する限 定的な取扱いと解することができる。その一方で、 概念フレームワークプロジェクトにおける負債の 定義をめぐる議論より、資産除去債務に関する

FASB

基準は、一律に負債の範囲を縮小すべきこ とを示唆したものとみなすこともできる。いずれの 解釈がより説得的であるか確かめるには、従来よ りも範囲を縮小しなければならない特徴が資産 除去債務にのみ存在するか検討すればよい。  次に、従来の考え方と対比して、負債(より狭義 には資産除去債務)の範囲を縮小することによる 財務情報の質の変化に注目しなければならない。 つまり、負債の範囲を限定し、(あくまでも範囲に 関して)比較可能性を維持する側面を強調した場 合、比較可能性が「補完的な特性」として「基本的 な特性」たる目的適合性や表現の忠実性にどのよ うに作用し、最終的に財務情報の有用性に貢献す るのか検証する必要がある。また、負債の範囲を めぐる問題は、①財務情報に負債の範囲に関する 経営者の裁量を反映するメリット(デメリット)と、 ②財務情報から負債の範囲に関する経営者の裁 量を排除するメリット(デメリット)との比較考量 の問題としての側面を有している。そして、負債の 範囲を縮小する結論を採るということは、現状で ①よりも②のメリットが大きい(デメリットが小さ い)ことを意味する。この点については、実証研究 の助けを借りる必要がある。そこで、本稿は、負債 の範囲を限定したほうがより有用であるとした場 合の情報利用者の特徴に言及することで、仮説構 築の一助とすることとしたい。  以上が、本稿における問題意識と検討課題の 概略である。

III

資産除去債務の範囲に関する

FASB

基準の解釈とその影響

1:資産除去債務に固有の論理(狭義の解釈)

FASB

基準は、当初から資産除去債務の範囲に 制約を加える方針を打ち出してはいなかった (

FASB , par. 

FASB , fn. 

)。

FASB

が翻意したのは、従来どおり法的債務以外の債

(4)

すれば、基準を首尾一貫して適用できないと結論 づけたことによる(

FASB , par. B

)。

FASB

の結論は、法的債務以外の債務を画一的に識別 する指針を構築することが不可能であり、法的債 務以外の債務を源泉とした資産除去債務を認識 対象とした場合、経済的実態を反映する側面より も、推定債務の識別に関する経営者の裁量によっ てひいては比較可能性7)阻害される側面を重視 している(最終的には「主体間における資産除去 債務計上額の比較可能性」である)。つまり、資産 除去債務について、法的根拠をもって画一的に判 断できるものに範囲を限定し、法的債務以外の債 務を源泉とした資産除去債務を認識しないよう要 請する論理が成り立つ。しかも、現状では基準レ ベルで資産除去債務のみ制約が加えられているこ とから、当該論理は、資産除去債務に固有の特徴 に起因すると解することが自然であろう。  それでは、資産除去債務には、果たして法的債 務以外の債務の識別を困難にするような「固有の 特徴」が存在するのであろうか。

FASB

は、資産除 去債務を「長期性有形資産の除去に関連して発 生する債務」(

FASB , -

)と定義する。 資産除去債務は、「資産の取得」が典型であるよう に、債務発生事象を容易に特定できる。これは、 決済時期や方法が不確定な条件付資産除去債 務であっても同様である。そして、負債の本質的な 特徴を具備することを所与とすれば、資産除去債 務の特徴は、長期性有形資産を取得した段階で 特定の主体に対して将来における当該資産の除 去を義務づける点に求められる。しかし、長期性 有形資産の除去義務のみが、上述の問題を引き 起こすとはいえない。法的債務以外の債務を源泉 とした項目を認識すると比較可能性が阻害される 状況が資産除去債務にのみ起こりうるという言明 に対しては、多くの反例を挙げることができるはず である。これは、資産除去債務の特徴に起因する 問題というよりも、国や地域によって法の整備が不 完全または一様ではないことから経営者に与えら れた裁量に起因するより一般的な問題である。  また、資産除去債務は、会計処理が注目を浴び てきた項目であり、固有の特徴を発見する糸口とな るかもしれない。

FASB

基準では、資産除去債務 について公正価値による当初測定を規定している (事後測定は公正価値測定に該当しない)。現状 は、公正価値測定が適用される非金融負債項目 は僅かであることから、公正価値測定の適用は資 産除去債務に固有の特徴が反映された結果であ るようにも思われる。もっとも、資産除去債務を含 む非金融負債の会計基準は、項目の特性よりも会 計観や公正価値測定をめぐる議論の影響を色濃 く反映してきた歴史がある。公正価値測定を適用 するとはいえ、資産除去債務には活発な市場が存 在するとは考えられておらず、さらには

2

度にわたる 公開草案と比較してみれば、資産除去債務に関す る

FASB

基準も例外ではないことが分かる。  このように、資産除去債務自体には、その範囲 を限定しなければならない固有の特徴は存在しな いといってよい。もちろん、資産除去債務に関する このような検討結果は筆者の能力を遠因としてい るかもしれないから、固有の特徴が明らかにされ る可能性は残されている。そこで、資産除去債務 の範囲に関する

FASB

の結論が資産除去債務に 固有の特徴に起因すると解される場合について、 少し検討しておこう。資産除去債務は、概念レベ ルでは法的債務以外の債務を源泉とした項目を 負債としたまま、基準レベルで負債の範囲を操作 7「首尾一貫性」) と「比較可能性」は異なるが、 首尾一貫性は比較可能性の達成に資する

(5)

することが可能であることを明確にした項目となる。 なお、他の項目に資産除去債務に固有の特徴との 「同質性」または「等質性」が認められるとすれば、 他の項目の範囲を限定することに合理性が認めら れるものの、他の項目の範囲を一律に限定するほ どの影響力はないはずである8) 2:より一般的な論理(広義の解釈)  資産除去債務に固有の特徴が明確にされない 限り、資産除去債務を法的債務に限定した

FASB

の結論は、負債の範囲を縮小するより一般的な論 理としての性格を有すると解される。つまり、法的 債務以外の債務を源泉とした諸負債について、経 済的実態を反映する側面よりも、比較可能性(最 終的には「主体間における負債計上額の比較可能 性」とする)を阻害する側面を重視し、それらを一 律に負債として扱わないよう要請する論理が成り 立つ。このとき、資産除去債務は、比較可能性を 維持すべく負債の範囲を縮小する論理を他の項 目に先駆けて適用した項目とみなされる。したがっ て、

IASB

基準と

FASB

基準とのあいだで資産除去 債務の範囲が相違するのは、会計基準の整備状 況の差ということになり、

IASB

基準の改訂が要請 される9)  それでは、当該論理は、いかに浸透し、現行の 負債会計の体系に変化を生じさせるのであろうか。 当該論理は、財務情報の質的特性である比較可 能性を維持することに着目し、負債の範囲を縮小 するよう要請するものである。財務情報の質的特 性が具体的な基準設定に一定の影響を及ぼすと すれば、負債の範囲を基準レベルで一律に限定 する必要がある。なお、現実的な会計処理の対象 となる項目を勘案すれば、定義の段階から負債の 範囲を限定したほうが合理的であるが、基準レベ ルで個々に制約を加えるならば定義を改訂しなく とも実質的な支障は生じない10)。また、財務情報 の質的特性が財務諸表の構成要素に影響を及ぼ すとすれば、定義の段階から負債の範囲は限定さ れ、基準レベルで明示的に限定を加える必要はな い。なお、財務情報の質的特性が及ぼすであろう 以上の影響に同時に着目すれば、概念レベルから 負債の範囲を縮小することとなる。このように、負 債の範囲を縮小する現象は、最終的には概念およ び基準レベルで生じることとなるが、そのプロセス は一様とは限らない。  比較可能性に照らして概念レベルから負債の 範囲を縮小する方向性は、

IASB

FASB

による 「概念フレームワークプロジェクト」(フェーズ

B

)に おける議論と整合的である11)。当該プロジェクトで は、負債について、特定の主体が債務を負担する こ と を決 定 づ け る 表 現12)と し て「 強 制

compulsion

)」13)用いる(

IASB a, pars.

-

)。「強制」には、裁判所の判決や法等に由来 する「法的強制(

legal compulsion

)」、個々の良心 や正 義 感 に 由 来 す る「 倫 理 的 強 制(

moral

compulsion

)」、および経済的な合理性に由来す る「経済的強制(

economic compulsion

)」がある (

IASB a, pars. -

)。

 当該プロジェクトにおいて、負債の発生源泉は この「強制」という概念を用いて区分され、それに 8)もちろん、ここでは、あくまでもみかけ上、 直接的な影響が及ばないということである。 9)後述する概念フレームワークプロジェクトでの 検討を受けて、IAS第37号を新規のIFRSに置き換える 「負債プロジェクト」における負債の範囲も 大きく影響を受けるはずである。 10)基準レベルにおいて一律に範囲が限定されてもなお、 そのような取扱いをするならば、 積極的な根拠を示す必要がある。 11)当該プロジェクトにおいて、負債について、 「経済主体の負債とは、債務者たる経済主体が負担する 現在の経済的債務」と暫定的に定義されている

(FASB and IASB , par. )。 12)「相手方または第3者に対する

資源の流出(将来の犠牲)を回避する余地がないか、

あったとしてもほとんどない状況にある」という

(6)

れるはずである。とくに、質の変化について15)、負 債の範囲を縮小することによっていかなる変化が 生じ、最終的に財務情報の有用性に結び付くか 検証する必要がある。財務情報の質的特性につ いては、概念フレームワークプロジェクト(フェー ズ

A

)をつうじて

IASB

FASB

が共通の理解を有 するに至っている。つまり、

IASB

の「財務報告に関 する概念フレームワーク」と

FASB

の概念書第

8

号 では、財務情報を有用とする「基本的な特性」とし て「目的適合性」と「表現の忠実性」16)「補完的 な特性」として「比較可能性」、「検証可能性」、「適 時性」、および「理解可能性」が明示されている。  負債の範囲を縮小することによって、財務情報の 質的特性として比較可能性と実質優先が直接影 響を受ける。ここに「比較可能性(

comparability

)」 とは、「情報利用者に項目間の同質性と異質性を 識別および理解可能とする質的特性 」をいう (

IASB a, par. QC

FASB , par.

QC

)。比較可能性が意味するところは、「画一性

uniformity

)」ではなく、「同質の経済事象は同 質であるように、異質な経済事象は異質であるよ うに描写 すること」に ある(

IASB a, par.

QC

FASB , par. QC

)。また、「実質優 先(

substance over form

)」は、基本的な質的特 性である「表現の忠実性」に包摂される自明の特 性とされ、現行のフレームワークでは明示されない (

IASB a, par. BC.

FASB , par.

BC.

)。実質優先が意味するところは、「取引そ

の他の事象を単純に法形式に従うのではなく、実

質(

substance

)や経済的実態(

economic reality

) 基づき負債の範囲が策定される。負債は、法的強 制に加えて、それと同等の強制力を伴う法的債務 または推定債務を源泉とした項目に限定するよう 提案されている。つまり、概念上、法的強制力を有 する法的債務を源泉とした項目はもちろん、約束 的禁反言に基づく推定債務も法と同等の強制力 を有するから、それを源泉とした項目も負債とな る14)。反面、倫理的・経済的強制を源泉とした項

目は、負債とはならない(

IASB a, pars.

-, 

b

))。後者の取扱いは、①当該主体が真に 倫理的・経済的強制を自覚しているかは、当該主 体に何らかの犠牲(資源の流出)が生じるまで外 部から検証不可能であることと、②倫理的・経済 的強制を源泉とした項目を識別するに際して裁量 が生じ、比較可能性が低下するおそれがあること

を根拠としている(

IASB a, par. 

)。  負債の範囲を縮小する論理がより一般的な性 格を有するという検討結果と、概念フレームワー クプロジェクトの動向をふまえれば、制度上、負債 の範囲は概念レベルで限定され、資産除去債務 に関する

FASB

基準と同様の取扱いに収束するこ とが予想される。

IV

負債の範囲の縮小と

財務情報の有用性

1:表現の忠実性(実質優先)と比較可能性  負債情報として経済的実態を反映することより も比較可能性を確保することを優先すべく、負債 の範囲を縮小すれば、情報の量と質に変化がみら 13)資産が特定の主体に帰属することを意味する 「支配(control)」または「権利または他の排他的な

手段(rights or other privileged access)」という

資産に関する表現との対照性が勘案されている。 14)もっとも、法的強制と「同等の強制力」の内容は 具体性を欠いており、そこに裁量の余地がある。 したがって、法的強制力を源泉とした項目自体、 その範囲を普遍的に画定できるわけではないように思われる。 負債の定義の改訂については、 別稿にて検討を行う予定である。 15)なお、量の変化について、長束(2004, p. 57)は、 負債を法的債務(約束的禁反言に基づく債務を含む)に 限定したとしても、近年の測定技法の向上により (伝統的な意味での)条件付債務が負債として 認識されるようになれば、推定債務を放棄する影響は 限定的であろうことを指摘している。 16)基本的な質的特性として、信頼性に代えて 表現の忠実性を用いることが大きな変更点である。 この点については、例えば、徳賀(2008)、岩崎(2011)、 志賀(2011)、白木(2011)、中島(2011)を参照されたい。

(7)

に即して会計処理し表示すること」にある(

IASB

a, par. BC.

FASB , par. BC.

)。  比較可能性と実質優先には、一定の関係性が 認められる。比較可能性を維持するためには、同 質の経済事象は同質であるように、そして異質な 経済事象は異質であるように描写することが求め られる。ここで、複数の取引または事象について、 法形式が異質であっても経済的実質は同質であ る場合や17)、法形式は同質であっても経済的実質 が異質である場合、同質性と異質性の判断に際し て、法形式が優先されることはないと解されてきた

IASB a, par. BC.

FASB , par.

BC.

)。この点において、実質優先は、それらの 同質性と異質性を判断するよりどころとなり、比較 可能性を維持する前提となる。いいかえれば、実 質優先を包摂する表現の忠実性は、比較可能性 を維持する前提となるわけである。なお、実質優 先にいう「実質(

substance

)」については、近年、 将来キャッシュフローに着目して同質性と異質性 を判定するようである18)  会計上の負債の範囲を法的強制を源泉とする 項目に限定すれば、いかなる主体によっても負債 の範囲について画一的な識別結果が導かれるは ずである。負債の範囲について比較可能性を重視 する考え方は、会計基準設定主体が経営者の裁 量を封じることによって会計の信頼回復を図ろうと するトレンドと結び付く。

IASB

FASB

が概念レ ベルで負債の範囲を一律に限定する方向性を示 したことも、その延長線上にあると解してよいであ ろう。それでは、質的特性の関係から、負債の範囲 反映することは理にかなうはずである。 19)以前、IASBは、比較可能性を「理解可能性」、 「目的適合性」、「信頼性」に並ぶ主要な特性と位置づけ

(IASC , par. )、FASBは、副次的かつ相互作用的な

特性として、それを他の諸特性から独立した特性と 位置づけてきた(FASB , figure )。 ここで、比較可能性が画一的な比較可能性を意味すれば、 財務諸表作成者の裁量を排除する点において 信頼性と等質となり、比較可能性は目的適合性と 17)実質優先が注目されるのはこの場合であり、 本稿もこのケースを想定している。 なお、実質優先については、中山(2008)に詳しい。 18)たしかに、情報利用者の意思決定に際して、 将来キャッシュ(イン)フローの創出能力に関する情報が

必要とされることに鑑みれば(IASB a, par. OB; FASB , par. OB)、個々の取引または事象から もたらされる将来キャッシュフローの態様に即して 同質性と異質性を識別し、それを財務情報に忠実に を限定して比較可能性を追求することが、財務情 報の有用性の向上に資するといえるのであろうか。  たしかに、比較可能性は目的適合性や表現の 忠実性を補完する特性と位置づけられており、比 較可能性は何らかのかたちで財務情報の有用性 に貢献する可能性がある。もっとも、比較可能性は、 あくまでも補完的な特性であり、財務情報の有用 性の向上に直接作用する特性ではない。また、財 務情報の有用性に直接作用しなくとも、比較可能 性を追求して負債の識別に関する経営者の裁量 を排除することによって「中立性」が増強されれば、 比較可能性を追求することが表現の忠実性に資 することとなる。しかし、負債の範囲に関して比較 可能性を確保し、負債の識別を法形式に委ねる 代償として実質優先が犠牲となれば、比較可能性 が「画一性」を帯びる可能性がある。先述のとおり、 比較可能性は画一性を意味しない。また、表現の 忠実性は実質優先を包摂するから、比較可能性を 過度に強調すれば表現の忠実性を害し、比較可 能性は補完的な特性としての意味をなさなくなる。 つまり、実質優先を犠牲にするならば、比較可能 性を確保する意義は乏しく、総じて財務情報の有 用性に貢献することもない。  このように、財務情報の質的特性の位置づけに 大きく依存するが19)、質的特性の関係から「負債 の範囲を縮小し、比較可能性を追求すれば直ちに 財務情報の有用性が向上する」ことを立証するこ とは不可能であり、このような考え方は直観的・短 絡的との批判を免れないであろう。

(8)

2:目的適合性と情報利用者の想定  いま一度負債の範囲をめぐる問題を整理すると、 発生源泉の相違が履行に関する諸条件に影響を 及ぼすことがなく、かつ、特定の主体が単独で債 務を負担するならば、法的強制(ここでは「法的債 務」と同義)を源泉とする項目と、倫理的・経済的 強制(ここでは「法的債務以外の債務」と同義)を 源泉とする項目から生じると予想されるキャッシュ アウトフローは同じはずである。つまり、双方の法 的形式は異なれども、キャッシュフローに着目す れば経済的実質は同質とみなしてよい。ならば、倫 理的・経済的強制を源泉とする諸項目を負債とす る取扱いが、比較可能性に資するはずである。そ の一方で、倫理的・経済的強制を源泉とする諸項 目の識別は経営者の裁量に依存するから、それら が比較可能性を脅かす可能性があることもまた事 実である。そこで、法的強制力を有する項目に限定 することによって負債の範囲を画一的に決定する ことが比較可能性に資するとも考えられる。  このように考えれば、負債の範囲をめぐる問題 は、①財務情報に負債の範囲に関する経営者の 裁量を反映するメリット(デメリット)と、②財務情 報から負債の範囲に関する経営者の裁量を排除 するメリット(デメリット)との比較考量の問題に ほかならない。比較考量に即せば、負債の範囲を 限定すべきという結論は、情報利用者が、負債の 範囲に関する経営者の裁量を排除した財務情報 がより目的適合的であるとみなしている(いいかえ れば、負債の範囲に関する経営者の裁量を反映し た財務情報がより目的適合的ではない)ことを意 味する。前項のとおり、比較可能性は、財務情報 の有用性に直接作用する特性ではなく、さらに表 現の忠実性を害するおそれもある。もっとも、負債 の範囲に関して比較可能性を追求した情報が目 的適合的であることが実証されれば、質的特性の 理論的な位置づけを見直す必要がある。そこで、 本稿は、実証に際した仮説構築の前段階として、 負債の範囲を限定することが有効な方策であると した場合、情報利用者がいかなる想定を有してい るはずであるのか検討することとしたい。  この点について、削除対象となる倫理的・経済 的強制を源泉とした項目から生じるキャッシュア ウトフローに対する情報利用者の捉え方に着目す ると、情報利用者は、倫理的・経済的強制を源泉 とした諸項目を自身の意思決定に影響を及ぼすほ ど重要ではないと捉える可能性がある。ならば、そ れらをそもそも財務情報に反映する必要はないし、 反映すれば情報利用者を誤導するおそれもある。 したがって、まず、「情報利用者にとって、倫理的・ 経済的強制を源泉とした項目は意思決定に重要 ではなく、その存在を財務情報に反映する必要は ない」という仮説が成り立つ。また、情報利用者は、 倫理的・経済的強制を源泉とした諸項目を自身の 意思決定に重要であると捉える可能性もある。こ こで、負債の範囲を限定することが有効な方策で あるとすれば、情報利用者は、意思決定に重要で あるにもかかわらず、あえて財務諸表本体にそれ らを反映する必要がないとみなしていることになる。 ならば、情報利用者は、注記による開示を求める か20)、財務諸表外の情報21)をつうじてそれらを トレードオフの関係となる。そして、比較可能性を 追求することによって目的適合性の低下が顕著となれば、 財務情報の有用性は低下することが指摘されていた (大日方 2002, p. 110)。 20)情報利用者が財務諸表外の情報から当該主体が 負担すべき事実上の負債額を推定し意思決定に 織り込む能力については、一定の裏づけがある。

この点については、例えば、Barth and Mcnichols()を みよ。 21)長束(2010, p. 110)は、この点から、財務諸表の 構成要素については法的権利性や法的債務性を 具備した確定性の高い概念規定を行うべきとしている。 また、「エンハンストビジネスレポーティング(EBR)」 といった財務報告の枠組みが制度会計を 包摂するかたちで提唱・構築されている点も、 周辺事情として勘案しなければならない。 この点については、広瀬編著(2011)をみよ。

(9)

思決定に織り込むはずである。したがって、「情報 利用者にとって、倫理的・経済的強制を源泉とし た項目は意思決定に重要であるものの、それを注 記または財務諸表外の情報から事実上の負債と して意思決定に織り込む能力を有し、財務諸表本 体には法的強制力を有した項目のみ反映すること を求める」という仮説も成り立つ。  以上の仮説を実証に値する仮説へと変換し、エ ビデンスが蓄積されれば、負債の範囲に関する議 論が飛躍的に進展する可能性がある22)。したがっ て、実証結果を制度へと迅速にフィードバックでき るよう準備を進めておくことも必要であろう。

V

おわりに

 本稿は、まず、資産除去債務の範囲を限定した

FASB

基準を手がかりに、会計上の負債の範囲を 縮小する論理の明確化を試みた。

FASB

基準は、 財務情報の質的特性である比較可能性を維持す ることを目的とするより一般的な論理を先行適用 したものであるというのが、本稿の見解である。そ のうえで、負債の定義の改訂動向を加味すれば、 制度上、概念レベルで負債の範囲が縮小される ことが予想される。  負債の範囲を縮小すれば、負債情報の量と質に 変化が生じる。とくに、従来の考え方との対比で、 情報の質にいかなる変化が生じるのかを把握した うえで、負債の範囲を縮小することが財務情報の 有用性に貢献するといえるのか検証する必要があ る。この点について、財務情報の質的特性の関係 から、比較可能性を維持すべく負債の範囲を限定 することが財務情報の有用性に資するとは断言で きないし、実質優先を犠牲にしてまで比較可能性 を確保する意義は乏しい。また、目的適合性に着 目すれば、負債の範囲を拡大するメリット(デメリッ ト)よりも、負債の範囲を限定するメリット(デメリッ ト)が大きいことを実証する必要がある。この点に ついて、本稿は、①情報利用者にとって倫理的・ 経済的強制を源泉とした項目は意思決定に重要 ではなく、財務情報に反映する必要はないか、② 情報利用者にとって、倫理的・経済的強制を源泉 とした項目は意思決定に重要であるものの、その 存在を注記または財務諸表外の情報から意思決 定に織り込む能力を有し、財務諸表本体には法 的強制力を有した項目のみ反映されることを求め ているはずであるという情報利用者に関する仮説 を提示した。  最後に、負債会計に関する問題意識または検 討課題として共有されるよう、今後の課題を明示 しておきたい。本稿では、負債の範囲に関する比 較可能性に焦点を当てている。もっとも、比較可能 性について検討する際には、最終的な計上額に着 目する必要がある。したがって、負債の範囲を画 一的に識別できるよう制度を整備したとしても、比 較可能性が維持されるわけではない。このように 考えると、負債の範囲を検討する段階から、認識 や測定との相互作用があることを視野に入れてお く必要がある。また、本稿では、負債の範囲を縮小 すると財務情報の有用性が向上するのか検証して いる。負債の範囲をめぐる動向に照らせば、かかる 命題に焦点を当てることは妥当であると考えられ るが、従来の考え方に則り、負債の範囲を拡大す ると財務情報の有用性が向上するのかについても 同時に検討すれば、議論の説得力が高まるはずで ある。従来の考え方については、実証的な裏づけ がないまま制度に反映されてきた感も否めない。 22)とはいえ、実証研究の実行可能性には不透明な部分も ある。例えば、個々の負債項目の範囲について 個別に情報利用者の想定を究明しようとすれば、 作業量は膨大であるし、項目ごとに結果が異なれば、 結果の解釈が困難を極めることが予想される。

(10)

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(12)

Restriction of Liabilities:

Would “Uniform” Comparability Contribute to the Usefulness of Financial Information?

Naoyuki Akatsuka

This paper tries to reveal the logic restricting

liabilities to legal liabilities by relying on the

treatment of asset retirement obligation (ARO)

by FASB. It would be inferred that restriction

of ARO by FASB is derived from general

rea-son to maintain “comparability”, which is one

of the enhancing qualitative characteristics of

useful financial information. This means that

comparability takes priority over “substance

over form”. Therefore, comparability is

some-times effectively “uniformity”.

However, it is not theoretically certain

whether comparability truly contribute to

use-fulness of financial information. This paper,

which adopts normative approach, proposes

two hypotheses to accept the exclusion of items

without legal enforceability. These hypotheses

are:

(a) Users of financial statements (especially

investors) consider such items immaterial; or

(b) Though users consider such items

materi-al, they would infer them from another source.

Keywords: asset retirement obligation, legal

obligation, constructive obligation,

compara-bility, and substance over form.

参照

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