低出生体重児の母親への心理的ケアを目的に作成された母子手帳の有益性に関する検討
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(2) 低出生体重児とその家族を対象とした育児手帳の有益性に関する調査 要旨 Little Baby Handbook(LBH)は、低出生体重児に対応した成長・発達と育児の情報、母子保健行政や 助成の情報、母親や家族へのメッセージで構成されている。本研究は、LBH の有益性を、利用者へのフ ォーカス・グループ・インタビューによって明らかにした。 Study design:A qualitative design with an inductive approach. 対象者は、出生体重 1,500g未満の極低出生体重児をもつ母親 4 名と夫婦 1 組であった。児の出生体重 800.6±205.8g、出生週数 26.6±2.4 週、2 名の児が療育センターに通院し、3 名の児がリハビリを受け ていた。 低出生体重児の母親は、LBH を、母親の精神的な支えと励み、低出生体重児の発育評価ツール、保健 医療情報とピアサポートの情報源として有益と評価していた。母親は、子どもの成長・発達の記録を書く ことで、子どもの成長・発達の喜びを感じ、同じ経験をした母親のメッセージによって、子どもの発育の 見通しを得ていた。低出生体重児の母親の希望は、LBH が家族を中心とした多職種間の情報共有ツール となること、公的使用、手帳の普及であった。 本研究結果は、LBH が、低出生体重児の母親を、negative から positive な感情と行動へとエンパワメ ントすることを示唆する。 キーワード 低出生体重児、母親、サポート、発育評価、質的研究 Low birth weight, Mother, Support, Growth evaluation, Qualitative research ハイライト ・低出生体重児の母親のための育児手帳は、母親の精神的な支えと励みとなっていた。 ・低出生体重児の発育評価ツールは、母親に子どもの成長・発達の喜びをもたらした。 ・同じ経験をした母親のメッセージは、母親の精神的な支えと励みとなっていた。 ・保健医療情報とピアサポートの情報は、母親をエンパワメントした。 はじめに 世界における出生体重 2500g未満児の出生数は 1500 万であり、全出生の 15~20%を占め、過去 20 年 間、早産率は上昇を続けている[1]。日本においても、出生体重 2500g未満児は 1980 年(男児 4.8%、 女児 5.6%)から、2015 年(男児 8.4%、女児 10.6%)で 2 倍近く増加している[2]。世界中,とりわけ 発展途上国では,肺サーファクタント補充療法や人工換機療法を含む周産期ケアの進歩によって,超低出 生体重児の生存率が増加している [3]。日本においても、ELBW の死亡率は、1970 年代後半以降著明に 減少している。1000g以上の極低出生体重児の新生児死亡率は、1980 年 20.7%から 2000 年 3.8%に、 500g以上の超低出生体重児の新生児死亡率は 55.3%から 15.2%に低下している [4,5]。しかし、救命で きた早期産児(低出生体重児)のすべてが、後遺症なき生存にいたっているわけではなく、医療行為の継 続が必要な児も多数存在する[6]。.
(3) 低出生体重児は多くの健康リスクを抱える:成長の遅れ[7,8] 、発達予後[9,10,11]、脳性麻痺や知的障 害、医療的ケアを必要とする重症児[12]。また、低出生体重児の母親は、低出生体重児の出産に対する自 責や、母子分離によるメンタルヘルスの問題 [13,14,15]、低出生体重児の成長・発達の不安を抱えてい る。極低出生体重児の親の 75%は、小児の成長発達への不安を抱え、その不安は児の入院中や退院後早 期に高い[16]。特に、家族は、NICU 退院後、自宅での児のケアに対する不安感が強く、多くの情報と支 援を求めている[17,18]。National Perinatal Association (NAP) [19] は、緊急課題として、NICU 入院児 の両親への心理社会的支援の拡大を提起し、包括的な家族支援の recommendations を示している[20]。 NICU で救命されケアを受けた多くの低出生体重児が、医療的ケアを必要としつつ、在宅へと移行し ている。たとえば、日本では、0~19 歳の医療的ケア児数は 2015 年 1.7 万人であり、10 年で 1.8 倍に増 加している[21]。在宅での人工呼吸器装着児は約 3000 人、0-4 歳群が約 1000 人と最も多く、10 年でそ れぞれ 12 倍、4.5 倍に増加している。NICU では、年間約 150 人の子どもが人工呼吸器を装着し退院し ている[22]。その 67%が、最終的に在宅に移行している。超重症児の在宅ケアを主として担う母親の負担 が大きいにも拘らず、利用可能な社会資源が少なく、社会的な支援が追いついていない。そのため、超重 症児の 70%が在宅療養をしている[12]。彼らの訪問看護ステーション利用は 18%、ホームヘルパー利用 は 12%である。小児の在宅医療は、医療と福祉を結びつける共通の枠組みがないため、多職種の連携が 乏しく、母親が多数の施設を繋ぐキーパーソンとして機能せざるを得ない。 母子健康手帳は日本の母子保健施策の基盤である。母子健康手帳の最も大きな意義は、妊娠中から出産 を経て、幼児期までの母子の健康に関する情報を一つの手帳で管理できることである[23]。現在、母子健 康手帳は、世界 30 カ国以上に導入され、母子保健の改善と母子保健サービスを継続するためのシステム 作りに寄与している [24,25,26,27,28]。しかし、母子健康手帳の発育曲線や育児情報は正期産児の発育に 合わせた内容となっているため、低出生体重児の発育評価や育児に合致しないことが多い。また、NICU 入院中の経過を記載するスペースもない。そのため、母子健康手帳は、低出生体重児とその家族の支援を 十分に保障できない。 そのような状況を踏まえ、超低出生体重児を出産した母親グループが、低出生体重児と母親への養育支 援として、育児手帳「リトルベビーハンドブック」 (LBH)[29] を作成している。LBH は、A 県の 3 医療 機関 NICU 入院児の家族が使用している。 LBH は、低出生体重児に対応した成長・発達と育児の情報、母子保健行政や各種助成の情報、母親や家 族へのメッセージ(共感、励まし等)で構成されている(表 1) 。LBH は、子どもの成長を評価するため に、極低出生体重児の体重別で、発育曲線を掲載している(図 1)[30]。発達過程は、 「首がすわる」から 「2~3 歩歩く」までの 9 発達指標が一覧表となっている。発達指標ごとに修正月齢、産まれた日からの月 齢、子どもができた時期(年月)が記入できる(表 2) 。また、NICU 入院中の経過や退院時の記録欄が設 けてある(表 3) 。母子保健行政や各種助成の説明と連絡先(担当施設・部署と電話番号)は、母親の行動 を促し、育児をエンパワメントするサポート源になると考える。各ページの下部に掲載されている低出生 体重児をもつ先輩(母親や家族)のメッセージは、低出生体重児の誕生から学齢期までの成長発達と育児 を含んでいる。LBH は,低出生体重児と母親(家族)を支援する豊富な内容で構成されており、これらの 内容は、 低出生体重児の発育と育児を見通せる安心と希望となり、 母親の現在の不安を軽減すると考える。 公的サービスの整備が整わない低出生体重児への在宅支援において、 「LBH」が果たす役割は大きい。 しかし、筆者の知るところ、LBH による、低出生体重児とその家族の QOL 向上、低出生体重児のため.
(4) の制度改革やサービスの向上への寄与に関する調査は見あたらない。 本研究では、低出生体重児をもつ母親への精神的ケア、母親をエンパワメントするサポート源として、 低出生体重児の母親のための育児手帳「LBH」に着目し、その有益性を、利用者へのフォーカス・グル ープ・インタビューによって明らかにした。 表 1 リトルベビーハンドブック掲載内容[30] 巻頭のあいさつ 第1 章 赤ちゃ んのことを記録しましょう お誕生の記録 入院中のことを記入しておきましょう 身体測定 発育曲線 かかりつけ医を決めましょう 発達の記録 第2 章 マ マ の心とからだ 母乳 出産後のママのきもちについて ちいさく生まれたけれど ぼくたち&わたしたちこんなに大きくなったよ 第3 章 専門的分野から ママと赤ちゃんとの相互作用 (作業療法士から) 心と運動を育てるために (理学療法士から) ちいさく生まれた赤ちゃんにおこりやすい病気【合併症】 (新生児科医師から) 第4 章 保健・ 医療情報 A県内各市町母子保健担当課一覧 予防接種 事業支援の流れ 医療費助成 第5 章 あな たもあな たの大切な 人にも届き ますよう に パパにしてもらってうれしかった事 おじいちゃん&おばあちゃんの気持ち 兄弟の気持ち 友人の気持ち 双子ちゃんのページです お礼 あとがき.
(5) 図 1 発育曲線[30] 図 1 の脚注 極低出生体重児発育曲線について この成長曲線は、平成 6 年に旧厚生省心身障害研究班により作られたものです。これは全国 54 の施設 から、1,500g未満でお生まれになった赤ちゃんたちのうち、修正 1 歳 6 ヵ月(修正とは、お誕生日では なく出産予定日をスタートした表現です)時点で明らかな神経学的異常の無い、言わば比較的順調に経過 したお子さんたちの成長を基に作成されました。この曲線が発表される以前は、早産で小さくお生まれに なったお子さんたちの成長評価の明確な基準が無く、母子健康手帳の正期産のお子さんの曲線で常に低空 飛行の状態で推移するわが子のグラフを見てため息をつく、といったことがしばしば起こっていました。 成長というのは、ご両親の体格や成長速度など体質的な面を含めた個人差も大きいので、あくまで「目 安」と考えて頂ければ良いです。また、ワンポイントで評価するのではなく、曲線の変化を参考にして頂 ければ良いと思います。この曲線を大きく上回る場合は、母子健康手帳記入の通常の乳幼児発育曲線への 記載で良いでしょう。 注意:周産期医療の進歩に伴い、NICU 入院中の栄養管理も進歩・変化してきています。この曲線が作 成された当時と現在を比較すると、出生後早期からの栄養管理(静脈栄養の方法や強化母乳など)の著し い変化があり、おそらく現在同じ対象のお子さんで曲線を作成したとすると、この曲線を上回る状態であ ることが推測されます。お子さんの成長を評価する場合、これらのことを留意して頂くのが良いと思いま す。不安や疑問がある場合は、外来でフォローして頂いている医師にお尋ね下されば幸いです。 静岡市立静岡病院小児科 五十嵐健康.
(6) 表 1 発達の記録[29]. 表 2 入院中の経過[29].
(7) 研究方法 質的記述的研究デザインを用いた。 対象者 研究対象候補者は、出生体重 1,500g未満の極低出生体重児をもつ母親で、現在、LBH を使用している 母親 6 名であった。取り込み基準は、低出生体重児を在宅で養育している母親とした。除外基準は、精神 疾患を有する母親、産後の抑うつが強い傾向の母親とした。対象者の選定は、LBH を作成した低出生体重 児の親の会代表者に依頼した。 データ収取の方法 デモグラフィック変数として、対象者の年齢と就労状況、家族構成、低出生体重児の出生時の状況と現 在の医療・福祉サービスの利用を、インタビュー前に質問紙調査した。フォーカス・グループ・インタビ ューは、インタビューガイドを用いて行った。内容は LBH の評価、低出生体重児と母親にとって理想の 育児手帳の内容とした。フォーカス・グループ・インタビューは、親の会が開催されている A 病院のプラ イバシーの保てる静かな会議室とし、対象者の匿名性を保証し、安心して討論できるために、インタビュ ー中は、対象者の名前の代わりにニックネームを書いた札を使用した。フォーカス・グループ・インタビ ューの時間は 90 分とした。面接は、対象者の承諾を得て IC レコーダーに録音した。 分析方法 フォーカス・グループ・インタビューの録音データから逐語録を作成し、内容分析を行った。対象者の 「なま」の表現から「重要アイテム」を抽出し、その意味する内容を掘り下げてカテゴリー化を行った[31]。 LBH の有益性と課題、低出生体重児と母親にとって理想の育児手帳に着眼し、LBH を母親がどのように 捉えているのかを分析した。 倫理的配慮 研究についての対象者の自由な判断に基づいて参加の同意を得るため、研究候補者に、研究説明文書と インタビューガイドを郵送した。説明文書に、子どもの安全を確保するため、フォーカス・グループ・イ ンタビュー中の子どものレスパイトケア費を負担すること、子どもの体調不良があった場合は、直ちにフ ォーカス・グループ・インタビューを中止することを明示した。また、説明書に、研究の趣旨、参加は自 由意思であり途中辞退ができることを記載した。同意を得た参加者にインタビュー前に再度、説明を行い 文書による同意を得た。本研究は、広島大学疫学研究倫理審査委員会の承認(承認番号 E-1154)を得て、 実施した。 結果 デモグラフィック変数 研究対象者は、出生体重 1,500g未満の極低出生体重児をもつ母親 4 名と夫婦 1 組であった(表4)。手 帳利用児の兄弟の体調不良のため、同意を得た6名の母親のうち1名が不参加となった。父親のフォーカ ス・グループ・インタビューへの参加希望があったので、低出生体重児を養育している父親から、手帳の 活用やニーズに関する新たな知見が得られると判断し、父親の文書による同意を得て対象者とした。対象 、祖父母と同居が 1 名であった。児の年齢は 3±2.5 者の年齢は全て 30 歳代で、5 名が核家族(夫婦 1 組) 歳、出生体重 800.6±205.8g、出生週数 26.6±2.4 週、NICU 入院期間 4.2±2.3 月であった。2 名の児が 療育センターに通院し、3 名の児がリハビリを受けていた。.
(8) 表 4 対象者のデモグラフィック変数 対象者・家族 年齢. 家族構成 きょうだい. 手帳利用児 就労. 主な育児者. 年齢 性別 出生体重 出生週数. NICU 入院期間. 医療的ケア (現在). 医療・福祉 サービス. 障害者手帳. A. 30歳代. 核家族. 1歳. なし. 母親. 3歳.. 男. 863g. 28週. 約3か月. なし. 療育センター. 療育手帳. B. 30歳代. 祖父母 と同居. 3歳. パート. 母親 父親. 6歳. 女. 1134g. 30週. 約2か月. なし. 通院リハビリ 療育センター. なし. C. 30歳代. 核家族. なし. パート (休業中). 母親. 1歳. 男. 689g. 24週. 約4か月. なし. 通院リハビリ. なし. D. 30歳代. 核家族. なし. 正社員. 母親. 0歳. 男. 631g. 26週. 約4か月. なし. なし. なし. E. 30歳代 核家族. 2歳. 正社員 (共に). 5歳. 男. 686g. 25週. 約8か月. シャント. 通院リハビリ. 療育手帳. F. 30歳代. 父親 母親. EとFは夫婦である. 分析結果 5 つのコアカテゴリー、27 のカテゴリー、53 のサブカテゴリー、167 のコードを抽出した。コアカテゴ リーは【 】 、カテゴリーは《 》 、サブカテゴリーは〈 〉 、コードは「 」で示した。なお、 ( )内の 言葉は状況を補足するために研究者が加筆した。 LBH の有益性として、 【同じ経験をした母親から得られる精神的サポート】 、 【子どもの成長・発達の評 価】 、 【情報的サポートによる QOL 向上】の 3 つのコアカテゴリーを抽出した(図 2) 。LBH の将来の課 題として、 【家族・多職種の情報共有ツール】 、理想の手帳として、 【理想の育児手帳の活用に向けての希望】 のコアカテゴリーを抽出した。5カテゴリーを再構成し、低出生体重児の出産から NICU 入院中、退院後 の生活の過程を経て「理想の手帳」に至る、 「低出生体重児の母親のための育児手帳」の全体像を得た。 LBH の有益性 【同じ経験をした母親から得られる精神的サポート】 低出生体重児を出産した母親は、 〈低出生体重児の出産〉をした〈母親の気持ち〉や、 〈孤独な搾乳〉を、 《周りの人には理解できない》と捉えていた。そして、NICU 入院による母子分離と搾乳に孤独を感じて いた。低出生体重児を出産した母親にとって、LBH に掲載されている同じ経験をした母親のメッセージ は、 《救い》や《精神的な支えと励み》になっていた。そして、手帳を介しての《経験を分かり合える人(母 親)たちとのつながり》は、NICU 退院後の母親たちの継続したサポート源となっていた。 《周りの人には理解できない》 〈低出生体重児の出産〉 「ほんとに周りで理解、想像がたぶんつかないんですよ、小ちゃい赤ちゃんが産まれたっていうの」 (A) 〈母親の気持ち〉. 「言っても、大変だねとか、そういうことは言われるけど、すごく傷つくこと言われたこともあって」 《救い》 〈救われる〉.
(9) 「表紙の裏のページを読んだとき、これ(低出生体重児)でも大きくなるんだなってここまで成長できる んだって、救われた」(B). 理想の手帳 【理想の育児手帳の活用に向けての希望】 {低出生体重児に合わせて使える} {公的に使える]. {手帳の普及}. LBH の将来の課題 【家族・多職種の情報共有ツール】 {家族・多職種の記載による情報共有 } {医療機関による手帳への経過の記載の希望 } {NICU 入院中の子どもの経過を把握する困難 } 有益性 LBH の有益性 【情報的サポートによる QOL 向上】 {専門分野の知識の獲得} {ピアサポートの促進} {公的助成や相談窓口一覧の利用} 【子どもの成長・発達の評価】 {手帳による母子の絆の深まり} {成長・発達の喜び} {発育の見通し} {子どもの成長・発達に合わせた記録} {素晴らしい育児記録} 【同じ経験をした母親から得られる精神的サポート】 {本当の母子手帳} {精神的な支えと励み}. {救い}. {経験を分かり合える人(母親)たちとのつながり} 出産 NICU. GCU 退院. 地域での生活. 時間. {周りの人には理解できない} 手帳を渡す. LBH: リトルベビーハンドブック 【】: コアカテゴリー. 図 2 リトルベビーハンドブックの有益性と将来の課題. {}: サブカテゴリー.
(10) 【子どもの成長・発達の評価】 母親は、LBH に《子どもの成長・発達に合わせた記録》 、-〈発達に合わせた記録〉 、 〈修正月齢と出生 日による月齢での発達の記録〉 、 〈子どもができた時期(〇年〇月)で発達が書けること〉―を書き込める と評価していた。母親は、発達一覧表と極低出生体重児発育曲線への書き込みで、子どもの発育過程を確 認し、 《成長・発達の喜び》を得ていた。また、自分の子どもと同じ出生週数の児をもつ母親のメッセージ は、母親にとって、子どもの《発育の見通し》となっていた。母親は、LBH を、 《素晴らしい育児記録》 であり、 《本当の母子手帳》と捉えていた。 母親にとって、LBH は〈低出生体重児が子どもとして認められた〉 〈私たちのなかの母子手帳〉であっ た。そして、 〈成長の歩み〉の記録だけでなく、将来、 〈産まれたときのことを子どもと一緒に振り返る材 料〉と捉えていた。 《子どもの成長・発達に合わせた記録》 〈修正月齢と産まれた日からの月齢で発達が書けること〉. 「修正の週数で書いてあるのは、すごい、いいな」(B) 「(子どもが発達指標を)できたときに書けるので、その子に合わせた成長で書けるっていうのはすごいあ りがたい」(A) 《すばらしい育児記録》 〈産まれた時のことを子どもと一緒に振り返る材料〉. 「いつかは子どもと(一緒に)こういうことがあったって振り返る材料にはしたい」(F) 《手帳による母子の絆の深まり》 〈子どもとの絆の深まり〉. 「自分と子どもの絆が深まったっていうか、これ(LBH)でつながってる」(C) 【情報的サポートによる QOL 向上】 LBH の掲載内容は、母親に《専門分野の知識の獲得》 、 《公的助成や相談窓口一覧の利用》 、 《ピアサポー トの促進》を導き、低出生体重児の母子の QOL を向上させていた。母親の専門分野の知識の獲得は、子 どもの〈合併症のリスクの理解〉 、 〈発達への理解〉となっていた。また、公的助成や相談窓口一覧は、母 親の医療費助成の申請や、相談機関の利用に繋がっていた。 〈親の会の連絡先は、同じ経験をした母親がつ ながる窓口〉となり、低出生体重児をもつ家族にとってピアサポートを促進していた。 《専門分野の知識の獲得》 〈合併症のリスクの理解〉. 「(病気のことは主人からの又聞きだったので)実際にこんなリスクがあるんだな、こういう発達なんだな っていうのを具体的に知ることができたのかなと思う」(B) 《公的助成や相談窓口一覧の有益》.
(11) 〈医療費の助成に活用〉. 「未熟児(養育)医療の申請とかもして、それがあったからできたのかな」(B) 《ピアサポートの促進》 〈親の会(ポコアポコ)の連絡先は母親がつながる窓口〉. 「このベビーブックもらわなかったら、たぶんここ(親の会)に来てなかった。この一番最後のページの この問い合わせ、ここの申し込み先っていうのを見て…」(F) 将来の課題 【家族・多職種の情報共有ツール】 低出生体重児をもつ母親は、 《NICU 入院中のこどもの経過を把握する困難》を抱えていた。そのため、 《医療機関が子どもの経過を手帳に記載することを希望》していた。そして、LBH が、 《家族・多職種に よる情報共有》ツールとなること、 〈通院や福祉サービス利用状況を双方がわかるために、家族(母親)と 多職種が LBH に自由に書き込める〉ことを望んでいた。 母親は、児が入院した周産期医療センター以外の医療機関を受診した際、出生後の子どもの経過説明に 困難を感じ、医療機関が NICU 入院中の経過を LBH に記載することを望んでいた。母親は、LBH の医療 機関の記載による正確な情報は、他の医療機関や福祉サービスの利用の際に、児の経過や状況の説明を容 易にするので、役立つと考えていた。 《NICU 入院中の子どもの経過を把握することの困難》 〈出生後からの経過の説明が難しい〉. 「初診で、病名わかる?お母さん(と、医師に尋ねられても)、だけど、すごい長たらしい名前でわからな くって…」(A) 《医療機関による手帳への経過の記載の希望》 〈手帳に出生後の経過を記載して欲しい〉 「生まれてから何カ月でのなんの病名(病名)発症して、何日手術しましたみたいに、時系列で書いても らえるページがあったら」 (F) 《家族・多職種の記載による情報共有》 〈通院や福祉サービス利用状況がわかり、家族と多職種が自由に書き込める〉. 「言語療法とか作業療法とかのそういうなんかページじゃないけどあって、自分も書き込めるし、先生も 書き込めるみたいな…」(A) 【理想の育児手帳の活用に向けての希望】 理想の手帳として、母親は、 《低出生体重児に合わせて使える》 、 《公的に使える》 、 《手帳の普及》を希望 していた。母親は、LBH が、 〈母子健康手帳と LBH の両方を使用〉 、 〈母子健康手帳と LBH を合わせて 1 冊になる〉 、 〈産後は LBH のみになる〉など、低出生体重児に合わせて使える手帳になることを期待して.
(12) いた。 そして、母親は、LBH は、公的に認知されておらず、 〈医療機関で使えない〉ため、 〈公的な手帳になる. 「公的なものになって書けていくと、子どもが誰かに認められたじゃ ことの希望〉を持っていた。母親は、 ないですけど…」など、母子健康手帳の不備を、公的に使えることで子どもが認められた存在になると表 現した。 また、母親は、同じような体験をした低出生体重児の母親への支援として、LBH の普及を願っていた。 《公的に使える》 〈公的な手帳になることの希望〉. 「公的なものになっていけば、先生方もそれ(LBH)にね、書いてくださるんで、それがほんとは一番い いのかな」(E) 《手帳の普及》 〈手帳の普及の希望〉. 「インスタに載せたときに、全国の NICU の赤ちゃんのお母さんから、(手帳が)どこでもらえるのか問 い合わせがきた」(C) 〈一人で頑張っている母親への支援〉. 「NICU の友達とかもいなくって、入院中から1人で頑張ってるお母さんたちって、けっこういるみたい なんで」(D) 考察 本章では、LBH の有益性と将来の課題、理想の育児手帳に向けての希望について、低出生体重児の出産 から NICU 入院中、退院後の生活を通して、コアカテゴリーを再構築し考察する。 低出生体重児を出産した母親への支援は、母親への精神的サポートを土台として、母子が必要とする支 援を積み重ねていくことが重要である。 本研究の母親は、 〈低出生体重児の出産〉をした、 〈母親の気持ち〉を、 《周りの人には理解できない》と 捉えていた。母親は、母子分離で行う搾乳を、 〈孤独な搾乳〉と捉えていた。母親は、医療者による心理的 ケアを望んでいるが、低出生体重児の出産に対する自責や、母子分離によるメンタルヘルスの問題 などを 抱え、出産直後は特に精神的に不安定な状況にある。児のケアに直接携わる医療スタッフに対して、親と しての不確かさや児に対するネガティブな思いを吐き出しにくい[32]。本研究の母親の〈孤独な搾乳〉に. 「母乳、頑張ってって感じだったから,ほんと泣きながら(搾乳)やってっていうか」のように, ついても、 ケアに携わる医療スタッフには弱音を吐けない状況が伺われた。 そのような状況のなかで、LBH は、 〈救われる〉 、 〈気持ちが楽になる〉 、 〈心が落ち着ける〉など、母親. 「表紙の裏のページ(巻頭のあいさつ)を読ん の《精神的な支えと励み》となっていた。本研究の母親は、 だとき、これでも大きくなるんだなって、ここまで成長できるんだって、救われた」と、子どもが育つこ とへの希望のメッセージを《救い》と捉えていた。LBH の巻頭のあいさつは、小さく生まれても、子ども は一つずつ壁を乗り越えて成長していくことや、育児の中から育まれる親子の絆を記載している。また、 欄外のメッセージは、 子どもが危機的状態から脱した安堵感や、 子どもへのいとおしい気持ちが表現され、.
(13) 育児におけるその時々の母親の気持ちに寄り添う内容となっている: 「やっと抱ける大きさになり、触れる ことができるようになって、はじめて“私の子どもなんだ”と思えた」 、 「管やチューブ、点滴など 1 本ず つ外れるのがものすごくうれしかった。早く保育器から出してあげたかった」 母親の精神的サポートには、医療者による精神的サポートだけでなく、ピアによるサポートが重要であ る。NICU スタッフによる精神的サポートには限界があり、ピアサポートグループの有益性は、ネガティ ブな思いや同じような体験を共感できる点にある[33]。本研究の母親においても、LBH 掲載の同じ経験を した母親のメッセージは、ピアによる有益な精神的サポートとして、母親の《精神的な支えと励み》 《救い》 となっていた。ピアサポートグループによる支援プログラムを利用した両親の大半は、その有用性を是認 している [34,35,36]。LBH の有益性は、ピアサポートとしての機能に加え、母親がピアサポートを必要と したときにいつでも利用できる簡便さにある。 本研究の母親は、LBH を《子どもの成長・発達に合わせた記録》が書けると評価していた。母親は、子 どもの発育ペースを確認できることで、子どもの《成長・発達の喜び》を感じ、同じ経験をした母親のメ ッセージによって、子どもの《発育の見通し》を持つことができていた。低出生体重児の成長・発達は、 正期産児に比べて緩やかであるため、母親は、子どもの発育への不安と、順調な発育への願いを持ってい る [37,38,39]。そのため、低出生体重児の成長・発達評価の際には、母親がその子ども独自の成長・発達 を喜びつつ育てていける支援が重要である[40]。LBH 掲載の「極低出生体重児発育曲線(厚生省心身障害 研究班) 」や発達の一覧表を活用した子どもの成長・発達の記録は、母親の子どもの成長・発達への不安を 軽減させ、喜びを喚起している。また、親子の絆を深めていたことから、LBH は、低出生体重児の成長・ 発達の評価だけでなく、良好な母子関係の構築においても有益と考える。 LBH の情報的サポートは、低出生体重児の養育にかかる経済的基盤の確保と多様な問題への解決行動 に繋がり、家族の QOL 向上を導いていた。また、LBH 掲載の親の会の連絡先は、母親の仲間を作る行動 への資源となっていた。 子どもの生活に関する知識の提供, 経済的な援助を含めた保健医療サービス利用、 相談機能の充実は,Maternal Confidence につながる[41]。しかし、NICU 退院後、在宅で低出生体重児 を養育する家族は外出が困難なため,親の会や母親同士のネットワーク、保健医療・教育・福祉サービス の詳しい情報へのアクセスに苦労している[42]。LBH は、育児知識や社会資源などの情報入手が容易であ り、地域で生活する低出生体重児とその家族の QOL 向上につながる有益なサポートと考える。 本研究において、低出生体重児をもつ母親は、子どもの出生からの経過説明に困難を感じ、医療機関(主 治医、NICU)による LBH への経過記載の希望を持っていた。母親にとって、医療機関による NICU 入 院中の経過の記載は、正確な情報の保管となり、他の医療機関受診の際、子どもの経過の説明に活用でき る。受診した医療機関においても、LBH を介して正確な情報を得られることは有益である。また、母親は、 家族と多職種の情報共有ツールとして、LBH に家族と多職種が通院や福祉サービス利用状況を自由に書 き込めることを望んでいた。NICU 退院手帳電子版は、低出生体重児の保護者と関係機関の連携推進のた めの支援手帳である[43,44] 。この手帳は、LBH の課題、―情報共有ツールとなる手帳―、と一致する。 LBH は、家族(当事者)を中心とした多職種連携サポートの促進、地域で生活する子どもと家族への支援 ツールとして、有用性が期待できる。 本研究の限界 本研究は、一つの自治体で作成・使用されている低出生体重児の母親への手帳に関する利用者への質的.
(14) 調査であった。今後は、低出生体重児をもつ母親の支援を包括するために、対象者数を増やすことや、量 的研究と組み合わせての評価が必要である。 実践的意義 LBH は、低出生体重児の母親の精神的サポート、低出生体重児の成長・発達に対する母親の理解と評価、 支援情報取得のサポートとして有益である。LBH の極低出生体重児発育曲線は、NICU 入院中から使用可 能なので、NICU 看護師は、LBH を用いた母親へのケアと、退院後在宅での LBH の使用方法を指導でき る。また、NICU 入院中から、母親が保健所や療育施設と連携するために使用できる。LBH の広報は、低 出生体重児が活用する施設にとっても有益である。 結論 1. リトルベビーハンドブックは、低出生体重児の母親の精神的ケア、子どもの発育評価、保健医療情報 とピアサポートの情報源として有益であった。 2.. 低出生体重児の母親は、リトルベビーハンドブックが家族を中心とした多職種間の情報共有ツールと なること、公的に使えること、手帳の普及を希望していた。 本研究結果は、リトルベビーハンドブックが、低出生体重児の母親を、自責感情から肯定的な育児感 情と行動へとエンパワメントすると示唆する。. 利益相反 本論文内容に関連する利益相反事項はない。 謝辞 本研究を実施するにあたり、本調査のご協力を賜りましたお母様ならびにお父様に心より感謝申し上げ ます。また、研究の実施にあたってご理解とご協力を頂きましたポコ・ア・ポコ代表の小林さとみ様に、 厚く御礼申し上げます。 本研究は 2018 年度(前期)一般公募「在宅医療研究への助成」 (公益財団法人 在宅医療助成 勇美記 念財団)を受けて実施した。 引用文献 1)WHO (2018). Factsheet; newborns: Reducing mortality. http://www.who.int/news-room/fact-sheets/detail/newborns-reducing-mortality Date accessed: March 13, 2019 2)国民衛生の動向2017/2018.(2017).国民衛生の動向・厚生の指標,64(9)(PP.59-62).厚生労働統計協会. 3)Lin HJ, Du LZ1, Ma XL, Shi LP, Pan JH, Tong XM, … Zhuang SQ.(2015). Mortality and Morbidity of Extremely Low Birth Weight Infants in the Mainland of China: A Multi-center Study. Chinese Medical Journal, 128(20), 2743-2750. 4)三科潤.(2006).低出生体重児の長期予後.日産婦誌,58(9),127-131..
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