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否定性を利用した非プロトタイプ的英語広告の認知言語学的分析 利用統計を見る

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言語学的分析

著者

有光 奈美

雑誌名

経営論集

73

ページ

185-197

発行年

2009-03

URL

http://id.nii.ac.jp/1060/00004573/

Creative Commons : 表示 - 非営利 - 改変禁止 http://creativecommons.org/licenses/by-nc-nd/3.0/deed.ja

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否定性を利用した非プロトタイプ的英語広告の認知言語学的分析

有 光 奈 美 Ⅰ.はじめに Ⅱ.認知言語学におけるプロトタイプ理論 1.認知言語学におけるカテゴリー観 2.プロトタイプと拡張事例 3.日常言語の否定性とその二次性と意外性 Ⅲ.英語における命令と禁止の関係 1.命令と禁止による類似の行為 2.命令のメカニズム 3.勧誘・依頼・脅迫等々その他の発話の力 Ⅳ.英語広告における命令表現を基盤とした具体的事例 1.明示的命令形の使用 2.非プロトタイプ的な命令形の使用 3.禁止の使用 4.命令形以外の使用 Ⅴ.おわりに 参考文献 Ⅰ.はじめに 筆者は本研究において、認知言語学におけるプロトタイプ理論を用いることによって、英語広告 における特に否定性を利用した英語広告を取り上げ、非プロトタイプ的広告の持ちうる効果の可能 性と動機付けについて論じる。 広告だけでなく交通標識などにおいても英語では命令形が用いられる傾向があり、日本語と比較 した際には直接的な命令形が用いられることが指摘されている(峯 2008)。日本語ではほのめかし や婉曲表現、話者と対話者との共感が用いられがちであることは、日本語とフランス語の広告比較 などにおいても研究が行われてきている(Ishimaru 2004)。本研究では、英語広告において命令形 が用いられる傾向を踏まえた上で、そうしたプロトタイプを逆手にとった周辺的な非プロトタイプ 的英語広告事例を取り上げ、なぜこの種のプロトタイプからの逸脱が広告に効果を与えているかと いうことを解明する。 認知言語学は、認知主体の感性や想像力、主観的な視点、環境との相互作用を重視する。西洋を

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中心とする伝統的な科学観において客観主義的な世界観が思考、推論、言語などに関する知的な活 動に対して抽象的な記号操作による分析を行ってきた。一方で、認知言語学は経験主義を基盤とし ており、主体性、身体性、創造性といった要素が言語活動に不可欠な視点であることを指摘してき ている。プロトタイプに対する周辺事例は、日常生活における経験を基盤としている。本研究では、 英語広告のうち(1)明示的命令形の使用、(2)非プロトタイプ的な命令形の使用(3)禁止の 使用(4)命令形以外の使用に注目し、それぞれの効果における認知的動機付けを明らかにしていく。 Ⅱ.認知言語学におけるプロトタイプ理論 1.認知言語学におけるカテゴリー観 認知言語学では、実際の言語使用の場面を重んじ、そうした言語使用の経験を積み重ねたところ から立ち現れてくるパターンのことをスキーマと呼んでいる。こうしたスキーマは最初から存在し ているものではなく、使用されていく中で創出されてくるものである。言語の創造性とは、使用の 場面に根ざした規則の解体や変容というダイナミックな変化により特徴を与えられていくような流 動的な創造性である(山梨2000:256)と考えられる。 人間は、ある存在をある特定のカテゴリーの一例として理解する能力を持っている。ある特定の カテゴリーとは、一般的なスキーマによって特徴付けられている。こうしたカテゴリー化の能力は、 スキーマに基づくカテゴリー化の能力と言い換えることが可能である。ある特定のカテゴリーの典 型的な事例のことをプロトタイプという。このプロトタイプと類似している新たな事例が存在する 場合に、類似性の認知プロセスを用いることによって、新事例をそのカテゴリーの拡張事例として 扱う。また、複数の事例の間に存在する類似性のプロセスを経験し、積み重ねていくことで、より 一般的なスキーマを抽出していく能力も人間には備わっている(ibid:179-181)とされている。 伝統的な客観主義的世界観では、カテゴリーというものは明確な境界線を有するものとして考え られてきた。そして、カテゴリーの成員は必要充分条件によって規定されることができるような共 通の属性を持つものであるとされた。さらに、カテゴリーの成員は同等の資格を持ちながら、その カテゴリーに帰属するものであるとされていた。 こうした古典的な客観主義的世界観とは異なり、認知言語学におけるカテゴリー観はプロトタイ プ理論に基づいている。プロトタイプ理論を反映させたカテゴリー観とは、カテゴリーの成員が同 等の資格でカテゴリーに帰属しているのではなく、典型的な成員(プロトタイプ)から非典型的な 成員(拡張事例)へと段階性(グレイディエンス)を構成しながら分布していると考えている。 Lakoff は、カテゴリーを均質なものとしてとらえるのではなく、中心的カテゴリー、非中心的カテ ゴリーというものが存在しており、その相対的関係の中で言語現象を定めていく文法観の必要性

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(Lakoff 1987:463-466)を説いている。 このカテゴリー観においては、大小の言語単位がカテゴリーの動的なネットワークとして規定さ れる。この動的なネットワークとは、中心的なカテゴリーと非中心的なカテゴリーとの関係性の中 で、位置づけられるものである。そして、中心的カテゴリーと非中心的カテゴリーを拡張関係に よって動機付けているものとは、言語体系内の制約と言語使用の文脈に依存するもの(山梨2000: 197)である。 2.プロトタイプと拡張事例

Lakoff and Johnson(1980:123-124)においては、客観主義的な言語観が唱えてきた 集合論(set theory)に基づくような固有の属性を重んじた静的なカテゴリー観ではなく、相互作用的で構造化 されたゲシュタルトを構成するような集合をとらえるカテゴリー観の必要性を説いている。それは、 単なる属性を集めただけの集合ではない。Lakoff and Johnson が注目したのは、カテゴリーを定め るときの言語使用者の「目的」であったということができる。 ものごとをプロトタイプ(原型)に基づいてカテゴリー化しているという理論を唱えたのは Rosch(1977)である。椅子の例を取り上げると、典型的な原型となるような椅子(明確な背もた れ、座るところ、四本の脚、二つの肘掛)がある一方で、原型からははずれているような椅子も日 常生活には存在している。そうした椅子を、どこまで椅子として認めるかということは、われわれ がその場面でどのような椅子を必要としているかという「目的」が定めている。くつろぐためなの か、食事をするためなのか、手紙を書くためなのかといったことによって、どのような椅子が適切 な椅子なのか、どのような椅子が椅子として認められるのかということが異なってくる。

Lakoff and Johnson は、さらに hedge 表現に注目し、英語においてある特定の modifier(限定語 句)が用いられたときには、カテゴリーを形成していることが示唆されると指摘した。

PER EXCELLENCE: This picks out prototypical members of a category. For example, a robin is a bird par excellence, but chickens, ostriches, and penguins are not birds par excellence.

STRICTLY SPEAKING: This picks out the nonprototypical cases that ordinarily fall within the category. Strictly speaking, chickens, ostriches, and penguins are birds even though they are not birds par excellence. Sharks, blowfish, catfish, and goldfish are not fish par excellence, buy they are fish, strictly speaking.

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AND PURPOSES, A REGULAR, A VERITABLE, TO THE EXTENT THAT, IN CERTAIN RESPECTS な どのカテゴリー化と関係するheadge の存在を明らかにしている。PER EXCELLENCE(とりわけ) と言った場合には、そのプロトタイプが抽出されることになる。鳥といえば、こまどりは代表的な 鳥であるが、鶏やダチョウやペンギンは典型的な鳥であるとはいえない。しかし、STRICTLY SPEAKING(厳密に言えば)、鶏やダチョウやペンギンといったものも鳥には違いないのである。 同様に、サメやフグやナマズや金魚といったものは代表的な魚ではないが、厳密には、魚であると いえる。 このような言語使用の場面とその「目的」に密接に関連している認知言語学のカテゴリー観は、 広告表現を分析する際にもその効果を明らかにする有効な道具立てを与えてくれている。すなわち、 命令形(肯定的な命令形)は英語広告におけるプロトタイプということができそうであるが、目的 に応じては非プロトタイプ的なものが効果を持つことが考えられる。 3. 日常言語の否定性とその二次性と意外性 Jespersen (1924:322-337) の否定研究に続き、Givón (1979:132)はその有標性に一対一や一対 多を指摘し、いずれも否定文は肯定文に対する二次的なものであるとしている。

(1) a. She is pregnant. /?b. She is not pregnant.

(2) ?a. Our dean is breathing. /b. Our dean is not breathing.

聞き手・読み手の側が(1a)のように予想や期待をしている場合において、(1b)のような否定 文が使われるができるが、突然に(1b)のような否定文を用いることは日常言語においては不自然 である。この事例からもわかるように、一般的には肯定文が存在している基盤に対して、二次的に 否定文が存在すると考えることができる。その一方で、(2a)と(2b)の対比のように肯定文以上 に自然と感じられる否定文とは特殊な事例である。人間が生き、言語を使用している環境において、 どのような状況が一般的で無標であり、どのような状況が一般的ではなく予想や期待に反し、有標 であるかということが常に問われている。すなわち、「呼吸している」ことは、普通、人間が生き ている時には一般的なことであるので、とりたててそのことを話題にする必要がないのである。そ れに対して、「呼吸をしていない」ことは「呼吸している」ことよりも、日常生活において特筆す べきことである。このような時に否定文が突然に使用されることが起こりうる。 このことを広告表現と照らして考察すると、広告とは何らかのV(動詞)するように求める効果 を狙っている。その一方で、V(動詞)しないように求めるような広告という存在は二次的である

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ことがわかる。「V(動詞)しない」ということは、V 以外のあらゆる可能性を集合論的には導い てしまう。しかし、実際には日常言語においては推論が働き、V しないことがその特定の場面にお いてどのような V することを意味することになるのかほのめかされる場合が多い。本研究では、 こうした力を利用した広告、すなわち一見したところ「V(動詞)しないように求めるような広 告」の具体事例に注目していく。また、プロトタイプからの逸脱という観点から見て、単に表面的 な肯定文・否定文の対比だけではなく、肯定的価値・否定的価値という対比する価値の反転を利用 し、広告に反映させていると考えられる事例についても、分析を行うこととする。 Ⅲ.英語における命令と禁止の関係 1.命令と禁止による類似の行為 本研究では、特に命令と禁止の関係に注目する。以下のような表現は、結果的に類似の行為を求 めていることにつながっている。たとえば、依頼の適切性条件が、基本的には命令、要請、司令な どの発話行為にもあてはまることが山梨(1986)で指摘されている。ただし、依頼と命令との違い においては、準備条件として、地位関係から見て、話し手が聞き手よりも優位にあることが必要と される点に留意しなくてはならない。命令と禁止の関係は、命令と依頼の関係よりもはっきりと異 なっている。一方は何かの行為をすることを求めており、もう一方は行為をしないことを求めてい る。 (3) a. Move! b. Don’t move! (4) a. Don’t move! b. Freeze! (3)のように「Xすること」と「Xしないこと」という対比で表現することもできるのと同時に、 (4)のように「Xしないこと」を「Yすること」として考えることもできるのである。つまり、「X しないこと」を求めるような禁止は、「Yすること」を求めるような命令なのである。 2.命令のメカニズム 森(2002)は、NC(Natural Course)という概念を設定して命令文を分析しようと試みている。 NC の阻止、すなわち変化する物象や事象を同じとする認識が阻止されることが、人間の情動に

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「命令」という発話行為を位置づけていると論じている。

禁止命令とは命令の下位カテゴリーにあり、何も行為がなければそのまま続く、または新しく発 生すると予想されるような眼前の事象に対して抑制を加えることが禁止であると考えられる。

NC の概念を発展させ、森(2006)は、命令文に3つのタイプがあることを指摘している。

(5) a. Open the door. b. 扉を開けろ。 (6) a. Make a move. b. 動いてみろ。 (7) うそつけ。 森(2006:135) (5)は典型的な命令文としての発話、(6)は脅迫の文脈による発話、(7)は明らかに嘘と思われる ような馬鹿げたことを言った相手に対する発話、としている。 (5)の否定文は、肯定文の場合と全く逆の意味になるのに対し、(6)の否定文は、肯定文の場合と ほぼ同じ意味を伝達するものとして解釈される。英語も日本語も同じであり、“Don’t make a move.” あるいは、「動くな」として解釈される。(7)の否定文も、肯定文の場合とほぼ同じ意味を 伝達するものとして解釈される。すなわち、「嘘をつくな」という発話として解釈されうる。 (7)のタイプには、「馬鹿を言え」なども挙げることができる。そして、逐語的英語では “Tell me a lie.” のようになり、日本語と同じような命令文の意味は伝達されなくなる。 発話時に行為が実現しているか否かという視点から見ると、(5)と(6)においては、発話時に行為 が実現していない状態が必要である。扉がすでに開いているのに、「扉を開けろ」とは言えない。 動いている人に「動いてみろ」とは言えない。特に後者は、その行為の実現の結果が望ましくない 事態が起こることと結びついており、それを未然に防ぐ機能を持った発話であると考えられる。 比して、(7)は、明らかに嘘をついていることが必要である。明白な嘘をついているのがわかっ ているときに使用可能である。この用例は命令形の動詞の前にくる名詞の種類だけでなく、動詞の 種類も限られている。

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(8) a. {うそ/ 馬鹿/ 冗談/ *文句/ *苦情}(を)言え。 c.f. { 文句/ 苦情}(を)言う。 b. うそ(を){言え/ つけ/ *話せ/ *重ねろ/ 見破れ}。 c.f. うそ(を){話す/ 重ねる/ 見破る}。 c. N(を)V imperative mood {N=うそ/ 馬鹿/ 冗談/、V=言う/ つく}。 森(2006:141) 加えて、森には説かれていないが、(8)の特徴は話し手がそのような行為を実現していることは、 聞き手にとって不利益であるような行為である。 また、脅迫の文脈による発話においては、話し手と聞き手の間に社会的・地位的な力の強弱が存 在していなくてはならず、話し手の側に聞き手の行為を束縛し、自由を拘束する力が無くてはなら ない。したがって、(6)の用例は、どれも「勝手に~」という副詞との共起が非常に自然であり、 「勝手に V してみろ。ただでは済まさないぞ。したがって、V してはならない。V するな」とい う含意が含まれていることから、仮定文の前件のみが残った命令文の形であるとも考えることが可 能である。 命令文が条件文と書き換えられることはJespersen(1940)、Bolinger(1977)、Quirk et al(1985) などで扱われてきた。前件と後件において因果関係が強く成立している場合(例:「動いたら」「撃 つぞ」)に、このような命令文の使用が可能であると説かれてきた。したがって、日本語の「~み ろ」は因果関係を想起させるマーカーであることがわかる。また、「少しでも」「一ミリでも」と いった極小の単位と共起することが自然である。

禁止命令を依頼表現との関係の中で分析すると、唯一、(5)の例のみが、Please, Could you, Would you, Can you, Will you などの依頼表現へとパラフレーズしていくことが可能であり、他の二つにお いては、依頼表現へのパラフレーズは不可能である。 以上をふまえ、広告表現においては話し手と聞き手の間に社会的・地位的な力の強弱が存在する としたら、聞き手の側に選択の自由があり、聞き手の側に価値的な「良さ」が存在していなくては ならないことから、自ずと使用されやすい禁止命令形の形が限定されてくるのである。 3.その他の発話の力 不利益なことを指摘することによって、森の説くNC を妨げる行為を起こさせるということも可 能である。このメカニズムが用いられている広告表現については、後ろのセクションで論じること とする。

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(9) A: Wow, this cake looks really nice! B: Oh, it’s going bad. (Don’t eat it.) (10) a. 食べてはいけません。 b. それ、腐っていますよ。

また、脅迫の力によって、文字表層レベルでは否定命令文ではなくとも、意味的には逆になり、 禁止の意味を持つ場合は、「うそつけ」以外にも日本語では多々見つけられる。

(11) a. もう一度言ってみなさい!/ もう一度言ってみろ!

b. Say it again! (Do not (dare to) repeat what you said!) (Yamanashi 2001)

(12) ふざけろ。そうやって皮肉れていろ。いつまでもそうしていな。馬鹿やってろ。 (13) おととい来やがれ。おととい来い。 (14) 顔洗って出直して来い。 (15) 豆腐の角に頭をぶつけて死んでしまえ。 (16) 馬に蹴られて死ね。 (17) ぶぶづけ食うて行きなはれ。 これらはどれも字義通りのことをするように命じられてはいない。逆あるいはその他の表現を用 いて言うことによって意図を伝達する方法が用いられている。字義通りの言葉と逆の意味あるいは、 それ以外の意味が込められている。「おととい来やがれ」以下は、「おととい」という実現不可能な 状態を命じている点において、性質が大きく異なっている。「~やがれ」という表現が、行為の実 現が話し手にとって価値的に悪いものであることを示すマーカーとなっている。本当に言いたいこ とを字義レベルでは逆の表現を用いて伝達するために、反対の表現がもちいられ、意図がより強力 に伝えられている。また、「顔を洗って出直して来い」と言った場合、字義通りに顔を洗ってもう 一度来ればいいのかといえば、決してそういうわけではない。顔を冷水で洗うような気持ちで性根 を入れ替えて、価値的により良い状態になって、もう一度来るように命じているのである。ここで は、「A and not A」という対比だけではなく、「A and not A, but B」という対比の解釈が必要となっ ている。分類すると、「A and not A 型」には(11)(12)が該当しており、「A and not A, but B 型」には (13)~(17)が該当している。(11)(12)では、A と言いながら、A をしないこと、つまり真逆のこと を命じている。(13)~(17)では、A と言いながら、A をしないことだけを命じているのではなく、 そこから推論されるB を聞き手・読み手の側が同定することが必要となっている。

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Ⅳ.英語広告における命令表現を基盤とした具体的事例

1.明示的命令形の使用

英語広告において明示的命令形が使用されている代表例としては、コカ・コーラの “Drink! Coca-Cola” “Enjoy! Coca-Cola” と日本語の「スカッと爽やか」「爽やかテイスティ」等の対比を挙 げることが可能である。

(18) Give your old 401 (k) that attention it needs.(T. RowePrice 投資会社) (19) Believe in the Wind.(Vestas 風力発電)

(20) Relive the Legend(Drambuie アルコール飲料) (21) Stay ahead of traffic and the curve(Nissan 自動車)

(22) Touch the future now.(Hewlette-Packard Development Company PC画面)

(23) If you’re not getting a full night’s sleep with Ambien, try Lunesta to help you sleep through the night. (Lunesta 睡眠薬)

(24) Fly high. Go far. Yes, the future looks brighter with us.(US Bank)

(25) Imagine life without breast cancer(ThisIsTheRibbon: Susan G. Komen for the Cure) (26) Tell us your travel story for a chance to win a trip to Fiji(Air Pacific)

(27) Let’s build a brighter economic future.(GetWorking: The Save Our Environment Action Center)

これらは、どれも明示的な命令形の動詞を持つ広告であり、直接的なメッセージが伝達されてい る。最後の例は、Let’s 型であるが、求めている行為そのものは “build” であり、意味を反転させ る必要はない。 一方で、日本語において命令形の表現を用いた広告が存在していないわけではない。 (28) 「おいでよ!!オーストラリア」(ジェットスターホリデーズ)(「御出でる」:「来る」「行 く」「居る」の敬った言い方。おいでになる)

(29) 「今日も食べよう!オージー・ビーフ」(オージー・ビーフ)(Let’s 型. Let’s eat.)

もっとも、池上(1980)において、日本語が「する」型ではなく「なる」型であると指摘されて いるように、日本語の最も明示的な命令文(「来い!」「食べよ!」)は日常言語において用いられ にくいことから、広告でも頻度が低いのではないかと考えられる。

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2.非プロトタイプ的な命令形の使用

以下は、明示的な命令文の形をしているが、否定の命令文を基盤としている事例である。

(30) Count your chickens before they hatch.(Jafza: Jabel Ali Free Zone)

この広告の読み手は、一瞬違和感にとらわれるが、それは、“Count your chickens before they hatch.”という表現が肯定文であるためである。英語の“Don’t count your chickens before they hatch.” (取らぬ狸の皮算用)という諺が基盤にあるために、この広告の効果は単なる命令文ではない効果 を生じさせることに成功していると考えられる。Jabel Ali Free Zone とは、ドバイ首長国の最もア ブダビ寄りに位置しており、アラビア海に面した場所にある。ここにある2007年の数字では6000社 以上の企業は、42%が中東、23%がヨーロッパ、51%がインドと周辺諸国、7%がアメリカ大陸、 6%が日本を含む東アジア、5%がアフリカ、2%がその他から出資された企業で構成されている。 このゾーンへの企業の進出を狙うための広告である。ここでは、基盤となる諺に、「慎重にせよ」 「注意せよ」「念を入れよ」というメッセージがあるために、その諺の逆となるような行為を命じ られることはリスクを伴いうることまでを示唆することに成功していると考えられる。ただ単に、 「大胆にチャンスを狙いなさい」と直接的に表現するよりも、読み手・聞き手が自分でリスクを踏 まえた上でビジネスチャンスをとらえたらいかがですかという広告の目的に合致している。 V(動詞)するように求めるのが必ずしも自然か、というとそうではない。価値的に悪いことを 求めるようなものは不自然である。

(31) a. Love your neighbor. (You shall love your neighbor as yourself. [The New Testament: Matthew 22:37-39])

b. Help your neighbor. ?c. Attack your neighbor. ?d. Defeat your neighbor. ?e. Kill your neighbor.

(32) a. Beat the enemy. ?b. Beat the baby.

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(33) a. Darn it! *b. Darn it, will you?

こうした命令文の自然さ・不自然さは、日常生活における一般常識、道徳、倫理観、美徳、文化 共同体の共通判断といったものを基盤にしていると考えられる。そして、諺や格言とはモラルに対 して指針を与えているものの一つといえる。したがって、上に挙げた広告の読み手は、「軽率なこ とをしなさい」と命じられているような違和感を覚えるのだが、実は、Jabel Ali Free Zone におけ るビジネスチャンスがあることを広告しているものであり、このゾーンにたくさんの機会が溢れて いることを表現しようとしていると考えられる。

3.禁止の使用

以下は、Let’s 型であるが、否定文を用いている事例であることが特徴である。

(34) Let’s not make this a holiday season to remember.(Allstate 保険会社)

Parent-Teen Driving Contract

Every December, on average, almost 500 teenage drivers are killed in car crashes. Simply talking to your teen can help lower their risk of having an accident this holiday season. The Allstate Parent-Teen Driving Contract can help start the conversation. Go to an Allstate Agent or to allstate.com/ten for a free interactive contract you can save, print and update. Give your teen the greatest gift of the season.

ここには、一般的に“Let’s make this a holiday season to remember.”と表現するべきであるという期 待や予測がある。なぜなら、年末などの長期休暇は家族が集まり、楽しい時間を過ごし、思い出深 いものにしたいと普通は願うものであるからである。にもかかわらず、それに反するものとして、 not が用いられているために、読み手は意表を突かれて、どのような内容の広告かと読み入る契機 を創出していると考えられる。これは、十代の自動車運転による交通事故減少のために、保険に入 ることを勧めている広告であり、年末休暇が(悲しい)思い出にならないように、保険に入りま しょうと訴えている。このように、通常、否定文は二次的なものであることから、何かの一般常識 や期待や予測といったものが存在している基盤があって初めて、効果を生むことができる点をうま く利用していると考えられる。

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4.命令形以外の使用

(35) Baby in your arms. Love in your heart. Carrot in your hair.(SMA Progress 離乳食)

Feeding a baby solids is fun. Buy messy. And how can you be sure you’re getting the nutritional balance right? As experts in infant nutrition, you can trust SMA Progress – a follow-on milk with a unique combina-tion of important vitamins and minerals, fortified with extra iron. To see our range and for weaning advice, visit our website. As for that squished banana on the ceiling, sorry – you’re on your own. SMA. Understand-ing parents. UnderstandUnderstand-ing babies. Visit us at www. Smanutrition.co.uk.

これは、A in B. という形をスキーマとして用いている広告事例である。命令形を使っていない 英語広告も多々あり、命令形の使用の多寡については商品の性質や広告が求めるメッセージ性の種 類に大きく依存している。これは離乳食の広告であるが、A in B. というスキーマにおける内容が 3つ連続し、「価値的に良い」「価値的に良い」「価値的に悪い」と並んでいることから、本来であ れば、「価値的に良い」「価値的に良い」「価値的に良い」と3つが規則正しく並ぶべきところ、読 み手は期待を裏切られることになり、「価値的に悪い」とは一体どのようなことだろうかと内容に ひきつけられる効果を生んでいる。「価値的に悪い」内容とは、ここでは離乳食を食べさせること が手間のかかることであり、それを解決するためにこの商品を購入したらどうかという婉曲的提案 をしている広告なのである。こうしたことも人間のプロトタイプ、拡張事例、スキーマ認知能力、 日常言語の否定性の持つ二次性と意外性、そして、肯定的価値・否定的価値という対比する価値の 反転を活用した一事例といえる。 Ⅴ.おわりに 本研究では英語広告のうち(1)明示的命令形の使用、(2)周辺事例としての命令形の使用 (3)禁止の使用(4)命令形以外の使用に注目し、それぞれの効果における認知的動機付けを解 明した。英語広告において肯定的命令形が用いられる傾向を踏まえた上で、そうしたプロトタイプ を逆手にとった非プロトタイプ的な英語広告のうち、否定性を利用している事例を取り上げ、プロ トタイプからの逸脱が広告に効果を与える動機付けが、肯定文と否定文という対比に根源の一つを 持っているのではないかということを指摘した。

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参考文献

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参照

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