†学校教育専修 学校教育専攻 指導教員:紅林伸幸 原 著 論 文
中学生の現状から考察する小学校外国語活動の課題
―― 学校間・家庭間格差に注目して ――
鷲
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安 里 紗
†Arisa SUMI
要 旨 小学校に外国語活動が導入されてから 4 年が経過した。今日の日本の早期英語教育は力を入れていく ことが高まり,多くの教師や研究者が,子どもたちが積極的に,楽しく参加できるための活動や外国語 活動の課題を提言してきた。 しかし,日本人の大半が英語に関わることが非常に少ないことや,家庭によって英語や外国また外国 の文化との関わり方が違うことを踏まえた上で授業を作らなければならない。 そこで本研究では,中学 1 年生及び 2 年生を対象として調査を行い,外国語活動を経験して現在の英 語に対する意識や外国語活動での意識と成果を明らかにし,子どもたちが置かれている環境が外国語活 動にどのような影響を与えているのか考察した。 その結果,子どもたちの英語に対する意識や能力は,外国語活動の授業の内容や小学校教師の専門性, 家族の中に英語を得意とする人,また外国や外国の文化に興味・関心を持つ人がいることに影響されて いることが確認できた。 このことから,今後さらなる外国語活動の発展に向けて,学校での指導方法での場面,家庭による違 いで生まれた格差を埋める課題を提案する。 キーワード:小学校外国語活動,格差,家庭環境 1.は じ め に 文部科学省は平成 20 年 3 月に学習指導要領 を改訂し,小学校 5 学年及び 6 学年において週 1 時間の「外国語活動」を必修化した。外国語 活動の目標は,「外国語を通じて,言語や文化 について体験的に理解を深め,積極的にコミュ ニケーションを図ろうとする態度の育成を図り, 外国語の音声や基本的な表現に慣れ親しませな がら,コミュニケーション能力の素地を養う。」 (文部科学省,2008) である。このように外国 語活動は,外国語の聞く・話す・読む・書くと いった 4 技能を育成するのではなく,外国語や 外国の文化に対する理解や外国語の音声や表現 に慣れ親しませること,コミュニケーション能 力を養うことが求められている。 今日,日本では英語教育に対する関心が非常 に高まっている。国際化の発展に伴い,就職や 進学に「英語ができる」ことが合否や採用に関 わっている。しかし,多くの大人たちが英語に 苦手意識を感じており,今までの日本の英語教 育に対して否定的な意見を持っている。そういったことから,親たちは,我が子が将来英語 に困らないように幼い時期から英会話教室に通 わせ,家庭での英語教育に力を入れている。ま た,2020 年には東京五輪の招致が決まったこ とで,今後さらに英語教育に力を入れていくこ とが考えられる。 こうした状況の中で,2013 年 12 月に文部科 学省は 2020 年までに小学校 5 学年及び 6 学年 の外国語教育を教科に格上げし,週 3 時間に授 業を増やし中学の内容や成績評価を導入するこ と,さらに現在の外国語活動の内容は 3 学年及 び 4 学年に前倒し,週 1〜2 時間にする方針で あることを発表した。また,修学の英語教育に おいては,英語による対話能力向上を目指し, 中学校から英語の授業を原則英語ですることを 発表している「英語教育改革実施計画」(毎日 新聞,2013. 12)。 外国語活動が導入されて 4 年が経過し,現在 中学校で英語を勉強している生徒たちは外国語 活動を経験してきている。多くの教師や研究者 たちが実践研究を通して課題を明らかにしてき た。それらの多くは,子どもたちが英語を身に つけさせるための工夫や,子どもたちが楽しん で参加できる活動を提言するものである。しか し,学校や授業での工夫や取り組みばかりでな く,生活全般において日本では大半の人が英語 と関わる機会が極めて少ない環境に置かれてい ること,さらに家庭によって英語や外国の文化 との関わり方も異なるということを踏まえて授 業を考えなければならない。 そこで本研究では,子どもたちが置かれてい る環境に焦点を当て,今後の日本の英語教育に おいて踏まえておかなければならない,外国語 活動の課題を明らかにすることを目的とする。 2.外国語活動について 2. 1.導入の経緯 外国語活動導入に至るまで,公立小学校に英 語を導入することについて,およそ 20 年にわ たって審議が重ねられている。初めて英語教育 の導入について検討されたのは,昭和 61 年の 臨時教育審議会「教育改革に関する第二次答 申」からである。国際化の進展に伴い,自らの 意見をはっきりと主張し,意思を伝達し,相互 理解を深める必要性が高まっているという目的 で,英語教育の重要性を指摘している。それま での中学校,高等学校における英語教育は,文 法知識や読解力を養うことに偏っていた。その 上,英語教育に長時間かつ相当な精力をかけて いるにもかかわらず,実践的な能力が身につい ていないということも問題として挙げている。 様々な審議の結果,平成 8 年の第 15 期中央 審議会第一次答申において,小学校で「総合的 な学習の時間」が新設されることが決まり,そ の授業を活用して国際理解,情報,環境,福祉, 健康などの学習を行うことが認められ,多くの 学校でこの時間を利用して,英語活動が行われ るようになった。調査によると,総合的な学習 の時間を活用して英語活動を行っている学校は, 平成 14 年は 5 割程度であったが,平成 19 年の 調査ではほぼすべての小学校が英語活動を実施 していた。 しかし,各学校において学習内容にばらつき あることから,教育の機会均等の確保や中学校 との円滑な接続の観点から,平成 20 年学習指 導要領の改訂で「外国語活動」が新設された。 2. 2.外国語活動の課題 現在,外国語活動の授業展開は,英語の歌や ゲーム,単語や基本的な会話の反復練習,実践 的な会話の体験などのアクティビティをいくつ か組み合わせて行われている。しかし,これら の活動をするにあたって,竹澤(2010)は高学年 が外国語活動に意欲的に取り組ませることの困 難さを訴えている。高学年という発達段階が, 言語活動や普段使わない英語を使うことを躊躇 させるのである。 また,外国語活動は中学校の英語の円滑な接 続が求められている。平成 22 年の調査では, 小中連携を実施している小学校は 6 割程度だっ た。近年では,小中の教師だけではなく,小学 生や中学生との交流もあるようだが,これらは 2 割を超えていないのが現状である。それは, 小学校と中学校の文化の違いが存在しているこ とが困難さを起こしているのではないかと考え られる。 さらに,外国語活動における課題として,鳥
飼 (2007) は,家庭の英語や外国の文化との関 わりが子どもたちに影響を与えていると指摘し ている。本研究では,この鳥飼の指摘に着目し, 学校や家庭環境の違いから英語に対する意識や 能力に格差が生まれるということについて検証 していく。 3.研 究 方 法 本研究の目的は,現在中学校 1 学年及び 2 学 年の今までの英語の学習や意識に焦点をあて, 「英語の学習」に関する調査から,外国語活動 が中学生にどのような影響を与えたのか明らか にし,今後の小学校英語教育を向上していくた めに外国語活動の課題を見つけ出すことである。 本調査では,「英語の学習」に関して, ①中学生が現段階で英語・外国語の学習に対 する意識や英語との関わり ②中学の英語の授業の現状 ③中学生が中学校入学時に英語の授業受けて 感じたこと ④中学生が小学校時に受けた外国語活動の内 容とその効果 を明らかにすることで,上述の研究目的を達 成していきたいと考えている。 調査は,質問紙票を使用し,滋賀県内の中学 1 年生及び 2 年生 (588 名) を対象に実施した。 4.外国語活動の現状分析 4. 1.外国語活動の指導と活動内容 この章では,中学 1・2 年生を対象にした質 問紙調査をもとに,子どもたちが受けた外国語 活動の実態についてまとめていく。 外国語活動は,基本的には担任教師が指導す ることとされているが,学校によってはよりネ イティブかつ実践的な授業を行うために外国人 語学指導助手 (ALT) やボランティアを取り 入れている学校や地域がある。 調査の結果,半数の中学生が ALT による授 業を受けていることがわかった。また,外国語 活動の指導をしていた教師の人数について, 59.0% が「2 人」と回答していた。このことか ら,半数以上の子どもたちが外国語活動では ティーム・ティーチングの体制で受けているこ とがわかった。 また,外国語活動で取り組まれている内容に ついては,最も多かった活動が,「ゲーム」で 42.4% であった。次に多い項目は,「英語の歌」 で 20.8% であった。また,外国語活動におい てアルファベットの指導は,児童の発達上認め られていないが,15.5% の中学生がアルファ ベットを学んだと回答している。 さらに,外国語活動に対してどのような意識 を抱えていたのかについて調査を行った。 表 4-1 より,「外国語活動の時間は楽しかっ た」(57.2%) というように,半数の子どもた ちが外国語活動を楽しいと感じている。しかし, 「授業中積極的に発表していた」(33.7%),「み んなの前で英語を話すのは恥ずかしかった」 (54.3%) というように,外国語活動の場での 発表に苦手意識を持っていることが分かる。ま た,「一週間前の授業のことはだいたい忘れて しまっていた」(50.3%) というように,一週 間に一時間の授業を行っていく難しさがうかが える。さらに,「学校で覚えた英語を家族に教 えた」(22.6%),「授業後の休み時間に覚えた 英語を話した」(14.8%) というように,授業 以外で学んだことを活用する機会が少ないこと がわかる。 以上のことから,外国語活動の指導方法や教 師の在り方,また子どもたちの外国語活動で感 じたことや参加態度についてわかり,それらの 結果は先行研究を裏付けるものであった。次に, 表 4-1 外国語活動の授業について 全体 (n=588) 外国語活動の時間は楽しかった 57.2 授業中積極的に発表していた 33.7 みんなの前で英語を話すのは恥ずかし かった 54.3 何のためにしているのか,わからなかった 39.0 一週間前の授業のことはだいたい忘 れてしまっていた 50.3 学校で覚えた英語を家族に教えた 22.6 授業後の休み時間に覚えた英語を話した 14.8 (※)「あてはまる」「どちらかといえばあてはまる」の回答 者の割合 (%) を合計した数値。
これらの結果を踏まえて,外国語活動でどのよ うな力を身につけることができるのか確認する。 4. 2.外国語活動で身につく能力 まず,外国語活動の授業を受けたことで中学 生が身についたと感じる能力について見ていく。 表 4-2 によれば,「たくさん単語を覚えた」 (43.1%),「英語が聞き取れるようになった」 (41.8%) についての 2 項目が 4 割以上を超え る値であることから,外国語活動の場が単語を 覚えるような活動が多いということ,また英語 を聞く機会が多いということが考えられる。続 いて,「外国に行ってみたいと思うようになっ た」(34.5%),「発音がうまくなった」(27.6%), 「外国の文化や習慣に興味をもった」(27.1%) というように,3 割程度が外国への興味・関心 が高まり,発音がうまくなったと感じている。 一方では,「みんなの前で発表することが慣 れた」(11.8%),「話をすることが得意になっ た」(11.3%),「中学入学前,英語に不安を感 じなかった」(13.0%),「外国語を話す仕事に つきたくなった」(7.1%) についての 4 項目は 非常に低く,発表に対する苦手意識が高いとい うことや子どもたちが将来外国語を使う意欲の 低さがうかがえる。 しかし,すべての項目において「あてはま る」という回答は半数以上得られなかったとい うこと,「何も変わっていないと思う」と回答 した中学生は 21.1% という結果が得られたと いうことを押さえておかなければならない。 4. 3.中学生の英語の学習に関する現状 次に,外国語活動を経験してきた中学生が, 現在英語に対してどのような意識を持っている のかについて見ていく。 表 4-3 によれば,「英語の勉強をすることは 必要だと思う」(83.6%),「外国に行きたいと思 う」(74.5%),「今よりもっと英語の勉強をする 必要がある」(76.5%) についての 3 項目で高い 値がみられた。また,「英語が好きだ」(56.1%), 「外国語に興味・関心がある」(59.5%),「将来, 英語を勉強しなければならなくなると思う」 (69.2%) についての 4 項目では半数以上の回 答が得られた。 さらに,「英語はできる方だ」(37.7%),「将来, 外国語を使う仕事をしていくと思う」(31.6%), 「英 語 の 授 業 で 習 っ た こ と を 家 族 に 話 す」 (34.4%) については 3 割という結果であった。 また,最も低い項目は,「外国人の質問に答え られる自信がある」であり 19.9% という回答 が得られた。 このことから,現在の中学生は英語を勉強し なければならないという意識は非常に強いうえ, 将来,英語が必要になっていくことも実感して いる。しかし,英語が好きという中学生は半数 程度であり,また英語ができると感じている中 学生も非常に少ないことがわかった。 表 4-2 外国語活動で身に付いた能力 全体 (n=588) 発音がうまくなった 27.6 英語が聞き取れるようになった 41.8 たくさん単語を覚えた 43.1 みんなの前で発表することが慣れた 11.8 話をすることが得意になった 11.3 外国に行ってみたいと思うようになった 34.5 外国の文化や習慣に興味をもった 27.1 外国人と友達になりたいと思うよう になった 18.1 外国語を話す仕事につきたくなった 7.1 中学入学前,英語に不安を感じなかった 13.0 何も変わっていないと思う 21.7 (※)「あてはまる」の回答者の割合 (%) にした数値。 表 4-3 現在の英語に対する意識 全体 (n=588) 英語が好きだ 56.1 外国語に興味・関心がある 59.5 英語を勉強することは必要だと思う 83.6 英語はできる方だ 37.7 外国に行きたいと思う 74.5 将来,外国語を使う仕事をしていくと 思う 31.6 将来,英語を使わなければならなく なると思う 69.2 外国や外国の文化に興味がある 60.5 英語の授業で習ったことを家族に話す 34.4 今よりもっと英語の勉強をする必要 がある 76.5 外国人の質問に答えられる自信がある 19.9 英会話ができるようになるためには英 会話教室に通わないといけないと思う 47.2 (※)「あてはまる」「どちらかといえばあてはまる」の回答 者の割合 (%) を合計した数値。
さらに,表 4-4 は中学入学したころの意識に ついて調べたものである。その結果,「英単語 を覚えるのに苦労した」(69.9%),「英文法が よくわからなかった」(60.5%) というように 半数以上の子どもたちが英語に苦労していると みてとれる。一方,「アルファベットを書くこ とが楽しかった」(52.2%) というように半数 が書くことを好んでいるということがわかる。 5.外国語活動の環境要因 5. 1.授業内容と外国語活動成果の関係 5. 1. 1.活動の内容量の影響 ここでは,学校の外国語活動の授業の内容や 家庭の外国語や外国の文化との関わりといった 環境が,子どもたちにどのような影響を与えて いるのかみていく。 まず,外国語活動の授業内容について分析を 行った。外国語活動で中学生一人ひとりが体験 した活動の数を算出し,「1〜3 つ」と「4〜7 つ」に分け,「外国語活動に対する意識」につ いてみてみる。 カイ二乗検定の結果,「外国語活動の時間は 楽しかった」(50.0<64.0),「外国語活動以外の 授業で英語を使うことがあった」(27.3<39.5) において,活動の数が多い方が,活動の数が少 ない方と比べて,有意な差がみられた。これは, 活動の数が多いことは外国語活動の内容が充実 していること,また教師が外国語活動に力を入 れていると推察される。 一方,有意な差はみられなかったものの「み んなの前で英語を話すのは恥ずかしかった」と いう項目でどちらにおいても半数という結果が 得られた。このことから,子どもたちは活動の 数の多さに関わらず,発表することに対して恥 ずかしさを感じている。 5. 1. 2.教師体制の影響 次に,外国語活動の教師体制が子どもたちに 影響を与えているかみていく。4.外国語活動 の現状分析でわかったように,多くの学校で ティーム・ティーチング体制が取り入れられて いる。その組み合わせのほとんどが,学級担任 と ALT である。そこで,学級担任のみの授業 を経験した中学生とティーム・ティーチング体 制での授業を経験した中学生の「外国語活動の 意識」について分析を行った。 カイ二乗検定の結果,ほとんどの項目におい て有意な差はみられなかった。わずかな差はあ るものの,2 人以上のティーム・ティーチング 体制よりも学級担任のみの授業を受けた中学生 の方が良い影響を受けていることがわかった。 このことから,現状では学級担任が指導した としても,そこに ALT が加わった指導体制 だったとしても変わりはみられない。つまり, ALT を外国語活動の授業でうまく取り入れる ことができていないことである。 表 4-4 中学入学したころの意識 全体 (n=588) アルファベットを書くことが難しかった 13.9 アルファベットを書くことが楽しかった 52.2 小学校でやったことと同じだと思った 37.5 もっと難しいことをすると思っていた 53.4 英単語を覚えるのに苦労した 69.9 英文法はよくわからなかった 60.5 英語の授業は楽しみだった 45.7 (※)「あてはまる」「どちらかといえばあてはまる」の回答 者の割合 (%) を合計した数値。 表 5-1 外国語活動に対する意識と活動内容について 1〜3 4〜7 外国語活動の時間は楽しかった 50.0 < 64.0 授業中積極的に発表していた 30.0 37.0 みんなの前で英語を話すのは恥ず かしかった 54.3 55.8 何のためにしているのか,わから なかった 41.6 37.9 一週間前の授業のことはだいたい 忘れてしまっていた 54.7 47.3 外国語活動以外の授業で英語を使 うことがあった 27.3 < 39.5 学校で覚えた英語を家族に教えた 23.6 21.9 授業後の休み時間に覚えた英語を 話した 15.8 13.8 (※)「あてはまる」「どちらかといえばあてはる」の回答者 の割合 (%) を合計した数値。なお不等号はカイ二乗検 定 5 % 水準で有意なもの。
5. 2.家庭環境と外国語活動の関係 5. 2. 1.家族の英語や外国語に対する意識に ついて ここでは,子どもたちの家族が,英語や外国 語・外国の文化に対してどのような意識をもっ ており,その意識が子どもたちに影響を与えて いるのか分析を行った。 まず,「家族の中に英語が得意な人がいる」 について,いる人といない人に分けて,「外国 語活動に対する意識」への影響について見てみ る。 カイ二乗検定の結果 (表 5-3),「外国語活動 が楽しかった」(53.4<61.5),「みんなの前で英 語を話すのは恥ずかしかった」(48.9<58.9), 「学校で覚えた英語を家族に教えた」(18.1< 26.3) についての項目で家族の中の英語の得意 であることが子どもたちに影響を与えているこ とがわかった。このことから,家族の中で英語 を得意とする人がいるということは,家庭で英 語と関わることがあると考えられ,外国語活動 を楽しいと感じることができ,そしてそこで学 んだことを家族に教えるということにつながる。 しかし,一方では「みんなの前で英語を話す のは恥ずかしかった」という項目では,家族に 英語が得意な人がいる子どもたちの方が,そう でない子どもたちより多いことから,家族がで きるということが学習の負担となっていると考 えられる。 次に,「家族の中に外国に興味・関心のある 人がいる」について,いる人といない人に分け て,「外国語活動に対する意識」への影響につ いて見ていく。 カイ二乗検定の結果 (表 5-4),「家族の中に 英語が得意な人がいる」についてより有意な差 がみられた項目は少なかった。「何のためにし ているのか,わからなかった」(44.2>33.5) と いう項目は,「家族の中に英語が得意な人がい 表 5-2 教師体制の影響 1 人 2 人以上 外国語活動の時間は楽しかった 60.0 55.9 授業中積極的に発表していた 38.1 31.5 みんなの前で英語を話すのは恥ず かしかった 52.4 55.5 何のためにしているのか,わから なかった 43.4 37.2 一週間前の授業のことはだいたい 忘れてしまっていた 53.4 49.0 外国語活動以外の授業で英語を使 うことがあった 32.8 34.6 学校で覚えた英語を家族に教えた 22.8 22.6 授業後の休み時間に覚えた英語を 話した 19.0 > 12.6 (※)「あてはまる」「どちらかといえばあてはる」の回答者 の割合 (%) を合計した数値。なお不等号はカイ二乗検 定 5 % 水準で有意なもの。 表 5-3 家族の英語の得意と影響 いない いる 外国語活動の時間は楽しかった 53.4 < 61.5 授業中積極的に発表していた 31.7 35.3 みんなの前で英語を話すのは恥ず かしかった 48.9 < 58.9 何のためにしているのか,わから なかった 41.5 36.9 一週間前の授業のことはだいたい 忘れてしまっていた 54.7 > 46.3 外国語活動以外の授業で英語を使 うことがあった 27.5 < 39.5 学校で覚えた英語を家族に教えた 18.1 < 26.3 授業後の休み時間に覚えた英語を 話した 12.1 16.9 (※)「あてはまる」「どちらかといえばあてはる」の回答者 の割合 (%) を合計した数値。なお不等号はカイ二乗検 定 5 % 水準で有意なもの。 表 5-4 家族の外国への興味・関心と影響 いない いる 外国語活動の時間は楽しかった 54.3 61.2 授業中積極的に発表していた 30.4 38.1 みんなの前で英語を話すのは恥 ずかしかった 54.2 54.8 何のためにしているのか,わか らなかった 44.2 > 33.5 一週間前の授業のことはだいた い忘れてしまっていた 52.2 48.5 外国語活動以外の授業で英語を 使うことがあった 28.5 < 40.4 学校で覚えた英語を家族に教えた 19.9 26.3 授業後の休み時間に覚えた英語 を話した 14.8 14.6 (※)「あてはまる」「どちらかといえばあてはる」の回答者 の割合 (%) を合計した数値。なお不等号はカイ二乗検 定 5 % 水準で有意なもの。
る」についての分析結果で有意な差はみられな かったが,ここでは,有意な差がみられ,家族 に外国に興味・関心がある人がいるという中学 生の方が,英語や外国語を学ぶ意味を理解して いることがうかがえる。 5. 2. 2.英語学習の目標に対する影響 表 5-4 から,家族の外国の興味・関心がある ことが学習意欲に影響を与えていることがわ かった。そのことから家族の中に英語が得意な 人がいる場合と家族に外国に興味・関心がある 場合とでは英語の学習目標に影響に違いがある のか見ていく。 表 5-5,表 5-6 を比べてわかるように,「英 語 が 好 き だ か ら」(18.9<27.7) (14.7<34.5), 「将来の仕事のため」(26.8<38.7) (24.7<43.7) についての 2 項目で有意な差が見られた。また どちらにおいても,家族の中に外国に興味・関 心がある人がいる方が,値が高い。また,「高 校受験のため」についての項目では,家族に英 語が得意な人がいる場合 (52.8<65.2) のみ有 意な差がみられ,また「趣味として」について の項目では,家族の中に外国に興味・関心のあ る人がいる場合 (1.3<8.0) のみ有意な差がみ られた。このことから,家族に英語が得意な人 がいることは子どもに,進学や就職に向けてと いう目的から英語を学習することが,家族の中 に外国に興味・関心がある人がいることは子ど もに,趣味や好きから将来の仕事につなげるこ とが目的で英語を学習していることがわかった。 5. 2. 3.外国語活動で身につく能力への影響 次に,家族の英語の得意や外国や外国の文化 に対する興味・関心が,外国語活動で身に付く 能力と関係があるのか分析を行った。まずは, 家族の中に英語が得意な人がいるについての結 果を見ていく。 表 5-7 から,「発音がうまくなった」(22.3< 31.8),「話をすることが得意になった」(8.0< 13.4),「外国に行ってみたいと思うようになっ た」(27.7<41.0),「外国人と友達になりたいと 思うようになった」(10.6<24.6),「中学入学前, 英語に不安を感じなかった」(9.1<15.7) につ いての 5 項目で家族に英語が得意な人がいる中 学生の方が有意に高い値が見られた。 また表 5-8 では,「発音がうまくなった」, 「話をすることが得意になった」,「中学入学前, 英語に不安を感じなかった」についての 3 項目 で有意差は見られなかったが,「外国の文化や 習慣に興味をもった」(19.4<36.6),「外国語を 話す仕事につきたくなった」(3.5<10.9) につ 表 5-5 家族の英語の得意と学習目標への影響 いない いる 英語が好きだから 18.9 < 27.7 定期テストがあるため 67.5 71.6 高校受験のため 52.8 < 65.2 将来の仕事のため 26.8 < 38.7 授業があるから仕方がなく 37.4 > 23.5 親や先生に言われて 18.5 23.9 趣味として 4.9 3.9 (※)「あてはまる」「どちらかといえばあてはる」の回答者 の割合 (%) を合計した数値。なお不等号はカイ二乗検 定 5 % 水準で有意なもの。 表 5-6 家族の外国の興味・関心と学習目標への影響 いない いる 英語が好きだから 14.7 < 34.5 定期テストがあるため 71.5 67.4 高校受験のため 57.1 62.5 将来の仕事のため 24.7 < 43.7 授業があるから仕方がなく 35.6 > 23.0 親や先生に言われて 19.2 23.8 趣味として 1.3 < 8.0 (※)「あてはまる」「どちらかといえばあてはる」の回答者 の割合 (%) を合計した数値。なお不等号はカイ二乗検 定 5 % 水準で有意なもの。 表 5-7 家族の中に英語が得意な人の存在と成果 いない いる 発音がうまくなった 22.3 < 31.8 英語が聞き取れるとうになった 37.9 45.6 たくさん単語を覚えた 39.8 46.2 みんなの前で発表することが慣れた 9.8 13.1 話をすることが得意になった 8.0 < 13.4 外国に行ってみたいと思うように なった 27.7 < 41.0 外国の文化や習慣に興味をもった 23.9 29.8 外国人と友達になりたいと思うよ うになった 10.6 < 24.6 外国語を話す仕事につきたくなった 5.7 7.5 中学入学前,英語に不安を感じな かった 9.1 < 15.7 何も変わっていないと思う 25.0 18.7 (※)「あてはまる」の回答者の割合 (%) を合計した数値。 なお不等号はカイ二乗検定 5 % 水準で有意なもの。
いての 2 項目では,家族の中に外国や外国の文 化に対して興味・関心がある人がいる中学生の 方が有意に高い結果が見てとれた。 このことから,家族の中に英語が得意な人が いるということは,子どもに英語の発音の能力 を持たせやすいと考えられ,家族の中に外国や 外国の文化に興味・関心がある人がいることで は,英語や外国への興味・関心が高く,それら を将来使っていきたいという気持ちを高めると 推察できる。 5. 3.子どもと家庭とのつながり 中学生に,英語についてわからないところが あったとき,誰に質問をするのか調査を行った。 その結果,中学生の半数近くが「家族」(48.0%) と 回 答 し て い る。続 い て,「友 達」(42.5%), 「塾・英会話教室の先生」(37.3%) となり,最も 低かったのが「学校の先生」で 30.2% であっ た。また,9.8% の中学生が「誰にも質問しな い」と回答している。 これらの結果を踏まえて,外国語活動の授業 を参加に対する意識との関係の分析を行った。 表 5-10 より,「外国語活動の時間は楽しかっ た」(52.6<61.5) というように半数以上の子ど もたちが楽しいと感じている。また,「何のた めにしているのか,わからなかった」(44.2> 34.2),「一週間前のことはだいたい忘れてし まっていた」(56.1>44.6) についての 2 項目は, 家族に相談しないと答えた中学生の方が高い値 が見られた。 このことより,外国語活動で経験したことを 家族に教えたり,相談したりする子どもたちの 方が,外国語活動の時間を楽しんでおり,その 目的を理解し学習していることがわかる。 6.外国語活動の発展に向けての課題 まず,現在の指導方法についての課題をまと めていく。以下のような点について,注意しな ければならないことが分かった。 6. 1.指導方法についての課題 A) 教師の英語に対する専門性や興味・関心 教師が外国語活動に興味・関心を持ち,意欲 的に取り組まれている授業を受けた子どもたち は,外国語活動や英語に対する意識に良い傾向 が見られた。現状では,全ての小学校教員が外 表 5-9 わからないときに質問する相手 学校の先生 30.2 友達 42.5 塾・英会話教室の先生 37.3 家族 48.0 誰にも質問しない 9.8 (※)「あてはまる」の回答者の割合 (%) を合計した数値。 表 5-10 わからないとき家族に相談する 相談 しない 相談する 外国語活動の時間は楽しかった 52.6 < 61.5 授業中積極的に発表していた 34.6 32.0 みんなの前で英語を話すのは恥ず かしかった 51.0 58.6 何のためにしているのか,わから なかった 44.2 > 34.2 一週間前の授業のことはだいたい 忘れてしまっていた 56.1 > 44.6 学校で覚えた英語を家族に教えた 17.3 < 28.2 授業後の休み時間に覚えた英語を 話した 14.6 14.4 (※)「あてはまる」「どちらかといえばあてはる」の回答者 の割合 (%) を合計した数値。なお不等号はカイ二乗検 定 5 % 水準で有意なもの。 表 5-8 家族の外国や外国の文化に対する興味・関 心と成果 いない いる 発音がうまくなった 25.8 30.4 英語が聞き取れるようになった 39.7 45.1 たくさん単語を覚えた 42.3 44.0 みんなの前で発表することが慣れた 12.9 10.1 話をすることが得意になった 9.7 12.8 外国に行ってみたいと思うように なった 27.1 < 44.7 外国の文化や習慣に興味をもった 19.4 < 36.6 外国人と友達になりたいと思うよ うになった 9.0 < 29.2 外国語を話す仕事につきたくなった 3.5 < 10.9 中学入学前,英語に不安を感じな かった 12.6 13.2 何も変わっていないと思う 24.5 17.9 (※)「あてはまる」の回答者の割合 (%) を合計した数値。 なお不等号はカイ二乗検定 5 % 水準で有意なもの。
国語活動の専門的な知識や教授法を知っている わけではない。また,今後小学校では教科とし ての英語になるのならば,子どもたちの間に英 語に対する好意的な意識を育てるためには,英 語を専門の知識を持つ教師が必要であると考え られる。 B) 外国語活動の指導体制 地域によっては,担任教師と ALT のティー ム・ティーチング体制で行われているが,調査 の結果,ALT がいる場合といない場合の間で 違いは見られなかった。これは,ALT を活か しきれていないということである。日本では英 語や外国語を日常生活で使う機会はほとんどな い。そのような点を踏まえて,ALT を活かし た授業を行わなければならない。 C)「恥ずかしさ」を感じさせない授業づくり この点は,どのような環境に置かれていても, 「みんなの前で英語を話すのは恥ずかしかった」 と感じる子どもたちが多かった。高学年という 発達段階,英語が日常生活において全く使わな いという点で発表することに対しての不安や恥 ずかしさが生まれて発表することを躊躇してい ると考えられる。そのような条件を踏まえた上 で,楽しく,意欲的に取り組めるような活動を 考えていかなければならない。 D) アルファベットを活かした授業づくり 実際に,調査で「アルファベットを書くこと が楽しい」と感じている子どもたちは半数の回 答を得ている。特に,男子よりも女子の方が高 い値が見られた。高学年の子どもたちが発表を 苦手とすることから,小学校からアルファベッ トの指導を取り入れ,コミュニケーション能力 を養うための方法の一つとして取り入れてもよ いのではないだろうか。 6. 2.家庭環境についての課題 次に,子どもたちが置かれている家庭環境が 外国語活動に影響を与えていることを踏まえた うえで,課題をまとめていく。次のような点に 外国語活動では注意していかなければならない ことがわかった。 A) 家族の英語・外国語の得意や興味・関心 分析の結果,家族の中に英語を得意とする人, また外国語や外国の文化に興味・関心がある人 の存在が,英語の能力や意識に影響を与えてい ることがわかった。特に,家族の中で英語が得 意な人がいることで,英語に対する能力や意識 が高いという結果が得られた。しかし,外国語 を学ぶ意味や意欲には,家族の興味・関心の影 響が認められ,決して無視できない要因である ことが確認された。以上のことを踏まえて,子 どもたちの家庭によって,英語に対する意識に 格差があるため,特に小学校の段階では,英語 を学ぶ意味や意欲の格差を埋める活動をする必 要がある。 B) 子どもたちに伝わるプレッシャー 家族の中に英語を得意とする人の存在は,英 語ができるということに影響をあたえているこ とがわかっているが,英語を人前で発表するこ とに対しては家族が外国への興味・関心がある 場合と比べて低い結果が確認された。家族の能 力や意識が,子どもたちに緊張感を与えている と考えられる。外国語活動ではそういった点を 踏まえて,子どもたちが自然と英語活動を楽し めるようなサポートをしていく必要がある。 以上のことが,本研究にあたって見出された, 外国語活動の課題である。日本の外国語環境や 子どもたちが置かれている環境をしっかり踏ま えたうえで,外国語活動の授業づくりをしてい かなければならない。それが,子どもたちが楽 しく,意欲的に英語を学び,身につけていくた めの条件となる。 7.お わ り に 本研究の結論としては,日本は,英語を勉強 するための教材は非常に充実しているが,それ を発揮させる場所は少ない。小学校に外国語活 動が導入され,幼いころから英語教育を始める 意識が世間に広まっているため,小学校の外国 語活動においても格差が生じている。この格差 を埋めていかなければ,中学校の英語への円滑 な接続をすることはできないだろう。そのため に,外国語活動の授業するにあたって教師は, 子どもたち一人一人の発達段階を踏まえ,また 子どもたちが置かれている英語教育の環境を理 解し,子どもたちが楽しく,意欲的に取り組め る授業づくりをしていかなければならない。
以上の知見は,これからの日本の英語教育に おいて重要な課題となってくる。家庭や学校に おける格差は無くしていかなければならない。 その格差に注目することで,見出された環境は 今後の外国語活動を発展させていくためには, 重要な要素である。 主な引用・参考文献 竹澤弘一郎 2010「高学年が意欲的に取り組む外国 語活動の研究 ― 課題解決型の活動を取り入れ た授業を通して ―」神奈川県立総合教育セン ター長期研究員研究報告 8, pp. 55-60 中央教育審議会 1993「中学校・高等学校における 外 国 語 教 育 改 善 の 在 り 方 に つ い て (報 告) (抄)」 中央教育審議会 1996「21 世紀を展望した我が国 の教育の在り方について (第一次答申)」第 3 部第 2 章 (3) 外国語教育の改善 (小学校にお ける外国語教育の扱い) 鳥飼久美子 2007「危うし! 小学校英語」文春新 書 毎日新聞 2013 年 12 月 13 日「英語 教育改革実施 計画」 松田浩二 2013「中学校との円滑な接続を図る小学 校外国語活動の展開 ― 望ましい文字指導の在 り方 ―」福井教育研究所研究紀要 118 松宮新吾 2011「早期英語教育が中等学校英語教育 に及ぼす影響についての調査研究 (第四次調 査)」関西外国語大学 研究論集 94, pp. 99-117 文部科学省 2008「小学校学習指導要領解説 外国 語活動編」東洋館出版社