平成30年度農学部特別研究費研究経過報告書 1.研究者名 梅澤 究 2.研究課題名 褐色腐朽菌の木材分解過程における発現遺伝子・分泌タンパク質の経時的・網羅的解析 3.研究目的・内容 褐色腐朽菌は「木造建築物の主な害菌」・「強力な木材分解能力のバイオマス変換への応用性」により注目 されるが,その木材分解機構は不明な点が多い.本研究では,褐色腐朽菌の木材分解過程における遺伝子発 現の経時変化を,アイソフォームレベルで網羅的に解析した.この研究により,これまでにない詳細な遺伝 子発現情報が得られ,本菌の木材分解機構に関わる遺伝子の研究におけるプラットフォームの構築につな がる知見が得られた. 4.研究の経過 褐色腐朽菌の木材分解機構は,腐朽初期の低分子化合物による酸化的分解反応による細胞壁構成多糖の 低分子化と,それに続く加水分解酵素群による単糖までの分解という,二段階の反応により引き起こされる と考えられている.ゲノム解析から,褐色腐朽菌は他の糸状菌で知られている加水分解酵素群の一部を持た ないことが知られており,その木材分解機構に働くタンパク質の全容はいまだ明らかになっていない.これ までにも本菌の木材分解時の網羅的遺伝子発現解析についてはいくつかの報告があるが,木材分解過程の 経時的な変化を追った報告はない.また,これまでの報告においてはショートリードシーケンサーが使用さ れていたため,アイソフォームレベルでの遺伝子発現解析の報告はない.本研究では,本菌が木材分解過程 で働かせる遺伝子を詳細に明らかにするために,木材分解過程における遺伝子発現をロングリードシーケ ンサーを用いて経時的に調査した. 褐色腐朽菌研究のモデル菌であるGloeoephyllum trabeumをスギ木粉を単一炭素源として500 mL 三角 フラスコ内で静置による固体培養を行い,培養1,2,4 週後に菌体を回収した.回収した菌体から全 RNA を抽出し,逆転写反応によりcDNA を合成した.得られた cDNA から RNA を除去した後,逆鎖 DNA を 合成し,二本鎖cDNA を得た.得られた二本鎖 cDNA にアダプター配列を結合し, MinION シーケンサ ーによるdirect cDNA-seq 解析を行った. シークエンスデータは解析プログラムMinKNOW を用いた解析に供して fastq ファイルに変換した後, トランスクリプト配列データおよびアイソフォームレベルでの発現量データを得た.得られた発現量デー タを各培養日数で比較することで,本菌の木材分解過程における発現変動遺伝子の情報を得た.時系列での 遺伝子発現変動の情報から,腐朽の初期,中期,後期で働く遺伝子が推定され,木材分解機構における経時 的なタンパク質の使い分けを示唆する知見が得られた.本研究で使用したMinION シーケンサーはロング リードシーケンサーであるため,シークエンスデータからはトランスクリプトの全長配列が得られた.この ため,多数の新規トランスクリプトの情報が得られ,この中における新規遺伝子から,木材分解に関わる新 たな遺伝子が発見されることが期待された.また,糖質関連酵素の解析から,ドメイン構造の異なるバリア ントが含まれていることが明らかになった.このことは,本菌の木材分解機構において,ドメイン構造の組 み合わせによる多様性が重要な役割を果たしていることを示唆した. 本研究では,ロングリードシーケンサーを用いたアイソフォームレベルでの発現量情報が得られた.本発 現量情報は,既報の遺伝子発現解析では見ることのできなかった,より正確な生命活動を捉えることができ る.今後,本研究で得られた遺伝子発現情報のさらなる解析を進めていくことで,本菌の木材分解機構に関 与する遺伝子の全容が明らかになっていくことが期待できる. 5.本研究と関連した今後の研究計画 本研究では,褐色腐朽菌の木材分解過程におけるアイソフォームレベルでの網羅的遺伝子発現情報が得 られた.今後は,本研究で得られた知見を,今回行うことのできなかった,分泌タンパク質の網羅的解析の 情報と組み合わせることで,多層的なオミクスデータの解析から,本菌の木材分解に関わる新規の遺伝子・ タンパク質の発見につなげる予定である. また,本研究では,木材分解過程で作られる多様な新規アイソフォームの情報が得られた.私はこのなか で,分解酵素への糖質結合モジュールの付加の有無によるバリアントに着目しており,これを調査すること で分解酵素の局在性の制御による高効率な分解システムが発見される可能性があるのではないかと考えて いる. 以上の研究を通じて,本菌の木材分解機構の全容を解明していくことで,その人為的な制御を可能にし, 産業的応用に発展させていくことを計画している.
褐色腐朽菌の木材分解過程における発現遺伝子・分泌タンパク質の経時的・網羅的解析
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