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相殺の抗弁と二重起訴の禁止

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論 説

V

相殺の抗弁と二重起訴の禁止

め 甲は、乙を被告として、金一、

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万円の貸金の返還請求の訴えを提起し、乙は、借りた覚えがないと争ってい るが、その訴訟の係属中に、乙が甲を被告として、乙が甲に売却した商品の代金七五

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万円の支払いを請求した、と する。この後訴において、甲は、その代金はすでに支払った旨の弁済の抗弁を提出するとともに、予備的に、前訴の 訴訟物である甲の貸金返還請求権を自働債権として乙の代金請求権と相殺する旨の抗弁を提出することが許されるか。 前訴と後訴の順序が逆で、乙の提起した代金支払請求訴訟で甲のこの相殺の抗弁が先に提出され、その後に甲が別訴 または反訴で右の貸金返還請求の訴えを提起した、というのであればどうか。 判決理由中の判断には既判力を生じないという一般原則(民訴一九九条二項)の例外として、民事訴訟法は、相殺 の抗弁をもって主張した自働債権の

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相殺前からのあるいは相殺の結果としての 1 1 不存在の判断には既判力を認 めている(同条二項﹀。そのため、相殺の抗弁の提出と同時に、訴訟物とは異なる別個の債権が訴訟審理にもちこま

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第5巻 3号一一2 れるだけでなく、未必的ながら既判力への萌芽が生じる。そこで、相殺の抗弁とその自働債権についての別訴とが平 行する場合には、両訴訟における審理の重複と既判力の抵触を避けるために、二重起訴の禁止(民訴一三二条) 準 じた取扱をすべきかどうかが問題となる。もし、二重起訴の禁止に準じて扱うなら、右の設例の前半における甲の相 殺の抗弁を不適法として斥けることになるし、設例の後半における甲の別訴は、少なくとも相殺の対当額については、 不適法として却下されねばならないことになるであろう。 この相殺の抗弁と二重起訴の禁止という問題は、ドイツでは、古くから論ぜられているが、わが国では、私の処女 (阪大法学九号、昭和二九年一月)において問題提起のひとつとして取り上げたのが最初であっ 論文﹁相殺の抗弁﹂ た。それから四

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年に近い年月を経た現在、 いささかの感傷をこめて、その部分(同四五頁以下﹀をそのまま引用す る我が俸を許して頂きたい。 ﹁凡そ相殺の抗弁は訴訟上相殺に基づくと否とを間わず、訴訟手続上の取扱につき他の攻撃防御方法と同一に論ずることは許 されない。理由は只一つ相殺の抗弁当否の判断が既判力を生ずる点に在る。民事訴訟殊に判決手続の目的が国家の公権的判断に よる民事紛争の解決に在るならば、かかる判断は確定の実体判決により得られる所で、内容的には既判力に他ならず、訴訟手続 は既判力に到達する手段として初めてその意義を獲得する。従って若し訴訟物の他、相殺の抗弁に対し既判力ある判断が為され るべき訴訟では訴訟手続は二個の既判力の形成過程として恰も併合訴訟に類似する。相殺の抗弁は独立の裁判を申し立てるもの でない点で反訴と明瞭に区別されるが、なお、それが訴訟物以外の実体関係の主張を訴訟に導入し、これにつき既判力ある判断 を形成せしめる限りにおいて反訴に準ずる性格を有し、訴訟手続上単なる防御方法としての取扱に満足するものでないことが注 目 さ れ ね ば な ら ぬ 。 相殺の抗弁は反対債権につき独立の実体判決を申し立てるものではないから、その提出に因り反対債権の訴訟係属を生じない が、右に述べた準反訴的性格に鑑み、その提出に訴訟係属に準ずる効果を与えるのが適当である。 通説は相殺の抗弁に訴訟係属を認めぬ当然の事理として反対債権につき別訴(反訴、中間確認の訴えを含む)の提起を妨げず、

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逆に、訴訟係属中の反対債権を以て相殺する旨の抗弁提出も可能とする。しかし、訴訟係属の訴訟上の効果として重複起訴が禁 止される(民訴二三一条﹀所以は不経済な審理重複と起り得る既判力の抵触を防止するに在ると説かれるが、この理は相殺の抗 弁に関しても全く同様である。更に、既判力が一定の実体関係に対する判断の規準として当事者及び裁判所を拘束するならば、 その効力はその形成過程たる訴訟手続中に既に認められねばならない。重複起訴の禁止はかかる形成過程における既判力の抵触 を許さぬ趣旨と解せられ、反対債権につき訴又は相殺の抗弁により既判力の萌芽を生ずる以上、同様に、その成長を無視して別 訴または別の相殺の抗弁による反対債権についての新たな既判力育成は許されるべきではない。従って、例えば、相殺の抗弁を 撤回しない限り反対債権に基づく給付の訴えを提起することは出来ないと解すべきである。但し、相殺の抗弁に関する既判力が 相殺を以て対抗した額に限られる以上、これを超過する範囲では重複起訴に準ずる効果を認め得ない。﹂ このように、相殺の抗弁に関し民訴一一一一一一条を類推して、重複する別訴なり相殺の抗弁を許さぬ立場ハ不適法説﹀ を採ったが、その後、あまりにも硬直というか形式論理的にすぎたのではないかとの疑念が去らず、実際には相殺の 抗弁は多くは予備的抗弁にとどまり、判決において酪酌されずに終わるのが通常であるのに、他の訴訟の追行態様に ( 昭 和 三 まで強い拘束をかけるのは、不当ではないかと思うようになり、私の最初の論文集﹁訴訟関係と訴訟行為﹂ に収めるさい、考えを進めて、結局、民訴一一一一一一条の類推を否定する立場(消極説)を採るに至った。その理 六年) 由として、当時、次のように書いている(同書三二頁以下)。 ﹁第一に、相殺の抗弁は、ひとつの防禦方法である。請求権が訴をもって主張される場合と異なり、反対債権をもってする相 殺の抗弁が判決において劉酌されるかどうか、じっさいに反対債権存否の判断が判決理由中でなされるかどうかは、裁判所が、 原則として、当事者の提出した攻撃防禦方法のうち、どれをとって判決するかの点で選択権を有するところからすれば、まった く 、 未 必 的 で あ り 、 不 確 実 で あ る 。 第二に、かように判決で醤酌されるかどうかが未必的な反対債権につき、重複起訴の禁止に準ずる制限をもうけることは、被 告にとって、その防禦の自由を実質上害する結果となる。すなわち、相殺の抗弁、とくに予備的相殺の場合には、まず、訴求債

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第5巻3号←ー4 権存否の審理にながい時日をかけ、そのうえで反対債権についての審理に入ることになるのがふつうであろうが、被告としては、 反対債権について早急に請求する必要にせまられるような場合には、はなはだ、困惑せざるをえないであろう。とくに、ドイツ 法におけると異なり、相殺の訴訟上の主張について時効中断にかんして訴提起と同様の効力を与える旨の明文を欠くわが法上は、 解釈のいかんによっては、相殺をもって主張した反対債権につき、時効中断のため、裁判上の請求をなす必要がある場合を生ず ることを付言したい。さらにまた、自己の債権についてさきに訴を提起した者が、相手方から訴求された場合に、第一の訴を取 り下げなければ第二の訴訟でその債権をもってする予備的相殺の抗弁も提出できない、というのでは、第一の訴の取下が被告の 応訴後はその同意がなければできない、という点からも、はなはだ不都合といわなければならない。 第三に、既判力の矛盾は、裁判のじっさいにおいては、充分避けることができ、あまり、これを気にやむ必要はないのではな いかとかんがえられる。両訴訟で当事者は共通なのであるから、当事者と裁判所が慎重に訴訟をすすめ、当事者を通じて、別訴 の提起または別訴における相殺の抗弁の提出を知った裁判所としては、適当な訴訟指揮上の措置をとることによって、既判力の 矛盾を避ける機会は充分にあるとおもわれる。 第四に、相殺の抗弁にたいし、重複起訴の禁止に準ずる効果をみとめるなら、ショルマイヤ l の主張するように、相殺の抗弁 の撤回についても訴の取下の場合に準じた制限、とくに、相殺を争う相手方の同意を要求するのが首尾一貫していよう。しかし、 被告が防禦方法を撤回することについて、本訴の原告としては、もともと、なんらの不利益を受けないはずであり、反対債権に ついての既判力をえるだけのために防禦方法をむりに維持させる、というのでは、本来が逆である。﹂ しかし、その後、とくに最近になって、裁判例の顕著な展開があり、学説上もこれに対応する動きがみられるので、 改めて検討を加えてみたい。 ( 1 ) 詳細につき、中野﹁民訴第一九九条第二項について﹂訴訟関係と訴訟行為一四一一良以下参照。この点に関する、最近まで の理論状況の総括として、高橋宏志﹁既判力について甘﹂法教一四三号九七頁以下がある。

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1 問題の出現する主な状況は、二つの類型に分かれる。ひとつは、既に別訴において訴訟物となっている債権を 自働債権として相殺の抗弁が提出された場合であり(別訴先行型﹀であり、他は、既に提出された相殺の抗弁の白働 債権となっている債権を訴訟物として別訴を提起した場合(抗弁先行型﹀である。この両型のそれぞれにおいて、さ らに、相殺の抗弁の提出された訴訟と別訴の訴訟係属の前後はどうか、あるいは、両訴が同一手続で審理されている かどうか(本訴と反訴など)、あるいは、相殺の抗弁が訴訟上相殺の抗弁か訴訟外相殺の抗弁か、といった視点から の分類が可能であるが、かえって錯雑する嫌いがあり、以下には、これらの点は必要に応じてふれるにとどめる。 従来の学説の多くは、後にみるとおり、別訴先行型と抗弁先行型のいずれであるかをとわず、民訴二三一条の 類推適用を否定あるいは肯定する態度をとってきた。これに対し、裁判例では、両型の差異に応じて異別に取り扱う 2 折衷説的な傾向が次第に顕著となってきている。すなわち、別訴先行型における相殺の抗弁については、民訴二三一 条の類推適用により不適法とする下級審裁判例が次々に現われる反面、抗弁先行型における別訴については、同条の 類推適用を否定する裁判例が続く。 最高裁は、抗弁先行型における別訴の適否について未だその見解を明らかにしないのであるが、別訴先行型におけ る相殺の抗弁の適否については、先年、それまでの下級審裁判例の動向を是認するとみられる態度を示した。最判昭 和六三年三月一五日民集四二巻三号一七

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頁がそれである。しかし、その事案は、解雇無効・賃金支払を求める本案 訴訟を提起して賃金仮払いの仮処分に基づき仮払金の給付を受けた者に対し、会社側が、仮処分の取消し後、仮払金 返還請求訴訟を提起したところ、本案訴訟の訴訟物である賃金債権を白働債権として仮払金返還請求権と相殺する旨

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第5巻3号一一6 の抗弁が提出された、というものであって、最高裁は、この相殺の抗弁を不適法としたのだが、理由を述べるに当た って、次のように事案の特殊性と密着した説示を行なった。 ﹁本件受働債権の給付請求権は、仮払仮処分の取消という訴訟法上の事実に基づいて発生し、本来、民訴法一九八 条二項の原状回復請求権に類するものであり、右のように別訴で現に訴求中の本件自働債権をもってする上告人らの 相殺の抗弁の提出を許容すべきものとすれば、右債権の存否につき審理が重複して訴訟上の不経済が生じ、本件受働 債権の右性質をも没却することは避け難いばかりでなく、確定判決により本件自働債権の存否が判断されると、相殺 をもって対抗した額の不存在につき同法一九九条二項による既判力を生じ、ひいては本件本案訴訟における別の裁判 所の判断と抵触して法的安定性を害する可能性もにわかに否定することはできず、重複起訴の禁止を定めた同法二三 一条の法意に反することとなるし、他方、本件自働債権の性質及び右本案訴訟の経緯等に照らし、この質権の行使の ため本案訴訟の追行に併せて本件訴訟での抗弁の提出をも許容しなければ上告人らにとって酷に失するともいえない ことなどに鑑みると、上告人らにおいて右相殺の抗弁を提出することは許されないものと解するのが相当である。﹂ 判文にみるとおり、昭和六三年判決では、一般の不適法説の理由とされる民訴二一一一一条の法意等とならんで、事案 の特質なり受働債権の性質等が併せて国酌されているので、その射程に疑問を遺してい幻 ω ところが、最近、同じく 別訴先行型のケイスにおける相殺の抗弁につき明確に不適法説をとる最高裁判例が出現した。最判平成三年二一月一 七日民集四五巻九号一四三五頁がそれであり、前記昭和六三年判決を引用して﹁係属中の別訴において訴訟物となっ ている債権を自働債権として他の訴訟において相殺の抗弁を主張することは許されないと解するのが相当である﹂と 判示し、その理由を次のように述べている。 ﹁民訴法二三二条が重複訴訟を禁止する理由は、審理の重複による無駄を避けるためと複数の判決において互いに

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矛盾した既判力ある判断がされるのを防止するためであるが、相殺の抗弁が提出された自働債権の存在文は不存在が 相殺を以て対抗した額について既判力を有するとされていること ( 同 法 一 九 九 条 二 項 ) 、 相殺の抗弁の場合にも白働 債権の存否について矛盾する判決が生じ法的安定性を害しないようにする必要があるけれども理論上も実際上もこれ を防止することが困難であること、等の点を考えると、同法二三一条の趣旨は、同一債権について重複して訴えが係 属した場合のみならず、既に係属中の別訴において訴訟物となっている債権を他の訴訟において自働債権として相殺 の抗弁を提出する場合にも同様に妥当するものであり、このことは右抗弁が控訴審の段階で初めて主張され、両事件 が併合審理された場合についても同様である。﹂ この平成三年判決になると、もはや事案の特質に頼ることなく、 一般の不適法説どおりの理由説示のもとに相殺の 抗弁を不適法ときめつけている。しかも、本件では、相殺の抗弁は控訴審に至ってから提出されたものであり、また、 相殺の抗弁の提出当時には両訴訟の弁論が併合されていたという場合なのであるが、これらの事情は、不適法説をと る妨げとならないことをも同時に判示した。したがって、この判決により、初めて、最高裁は、近時の多くの下級審 判例と同じく、別訴先行型の場合につき相殺の抗弁を不適法とする立場を明確に示したといえるわけである。しかし、 判旨からは、抗弁先行型の場合における最高裁の見解は窺えず、将来の展開にまたなければならない。 別訴先行型に関しては、平成三年判決の趣旨が今後の下級審裁判例に踏襲され、そのさい、その基本線上に、さま ざまな表現ないし拡大を示すことが予想される。早くもその一つの例が、東京高判平成四年五月二七日判時一回二四 号五六頁にみられる。そこでは、別訴において訴訟物となっている債権を自働償権とする相殺の抗弁が提出され、そ の後に、別訴における請求が相殺の自働債権分だけ減縮されたにもかかわらず、裁判所は、前記の昭和六三年および 平成一一一年のふたつの最高裁判例を援用しながら、相殺の抗弁を不適法としている。請求の減縮があったので、 ﹁ 理 論

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第5巻3号一-& 上は既判力の抵触は生じない﹂が、自働債権の全体(少なくともその重要な部分)につき実質的に審理が重複する無 駄は避けられず、また、減縮された請求が再び拡張されないとは限らず、既判力の抵触の危険が去ったわけではない、 というのである。結果的な当否は頗る問題だと思うが、どうであろうか。 3 学説上も、目下、すでに適法説の支配は崩れ、これに反対する不適法説ないし折衷説が増加しつつあるように 見 受 け ら れ る 。

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別訴先行型における相殺の抗弁および抗弁先行型における別訴のいずれについても、民訴二三一条の 類推適用を否定し、適法とする説であり、従来は、これが通説とされてきた。その論拠として、① 適法説 相 殺 の 抗 弁 は 、 ひ と つ の 、 しかも多くは予備的な、防御方法にす、ぎず、判決において劃酌されるかどうかは不確実かつ未必的である こと、② それなのに二重起訴の禁止に類する制限を設ければ、被告の防御を害する結果となるべく、とくに別訴先 行型では、別訴の取下げに相手方の同意(民訴二三六条二項)が得られなければ相殺による防御の途は封ぜられる結 果となること、@ 両訴訟で当事者は共通なのであるから、裁判所の適切な訴訟指揮とあいまって、実際には既判力 の抵触を避けうるであろうこと、などが挙げられる。 なお、適法説をとりつつ、反訴との関係で制限的に解する説もある。抗弁先行型の場合における、自働債権につい ての別訴は、同一手続内での反訴の提起によらなければならない、とするのであるハ制限的適法説)。

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別訴先行型における棺殺の抗弁および抗弁先行型における別訴のいずれについても、民訴二三一条 の類推適用ないし二重起訴の場合に準じて、不適法とする説である。主たる論拠が、相殺の抗弁の自働債権について 不適法説 の審理の重複と既判力抵触の可能性にあることは、 いうまでもなく、このおそれは裁判所の訴訟指揮等によっては回 避できない、とする。その他の点では、論者の主張は、必ずしも一致しているわけでなく、たとえば、① 相殺の抗

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弁は、訴訟上の反対債権の主張機能の側面からみれば、 ずるとし、あるいは、② いわば減縮された反訴として、自働債権につき訴訟係属を生 相殺の抗弁が単なる防御方法としての機能だけでなく、自働債権の貫徹機能をももってお り、その結果、自働債権についても結局は訴えが提起されたと同様の事態となることを意味する、と説く。 なお、不適法説のなかには、反訴との関係で制限的に解する説が少なくない。抗弁先行型の場合における、自働債 権についての別訴は、同一手続内での反訴の提起によるのであれば許される、とするのである(制限的不適法説)。 折衷説 (3) 主なものは、別訴先行型における相殺の抗弁を不適法としつつ、抗弁先行型における別訴は適法とみ る説である。下級審裁判例を総合して説かれ、基本的にこの区別を原則としつつも、具体的には信義則的見地から許 ( 沼 ﹀ 否を判断すべしとするものもあり、あるいは、抗弁先行型においては白働債権の存否が判断されるかどうかが未必的 であるため、別訴を禁止すると抗弁主張者に取り返しのつかない不利益を与えるのに対し、別訴先行型では自働債権 ︹ H世﹀ の存否が訴訟物として確実に判断される点で、二重起訴の禁止にふれる、という理由付けがなされている。 ドイツでは、ベッタ i マンなど若干の学者が不適法説を採っているものの、依然として適法説が支配的であり、 連邦大審院の判例も適法説である。 4 ( 2 ﹀ 型 分 類 を 用 い た 論 述 は 、 栗 原 良 扶 ﹁ 相 殺 の 抗 弁 と 重 複 訴 訟 の 禁 止 ﹂ 大 阪 学 院 大 学 法 学 研 究 七 巻 一 -一 一 号 ( 昭 和 五 七 年 ﹀ 入 五頁以下が最初と思うが、その後、﹁抗弁後行型﹂﹁抗弁先行型﹂という呼称が多く用いられている。あえて異を立てるわ け で は な い が 、 ﹁ 後 行 ﹂ と い う 用 語 は 、 手 一 万 の い く つ か の 国 語 辞 典 を 見 て も 全 く 出 て い な い の で 、 本 稿 で は 、 い わ ゆ る ﹁ 抗 弁 後 行 型 ﹂ を ﹁ 別 訴 先 行 型 ﹂ と よ ぶ こ と に し た 。 ( 3 ) 山本克己・ジュリスト平成三年度重要判例解説二二頁以下の指摘するところである。 ( 4 ) 別 訴 先 行 型 に お け る 相 殺 の 抗 弁 を 不 適 法 と し た 例 と し て 、 東 京 地 判 昭 和 三 二 年 二 月 二 七 日 下 民 集 八 巻 二 号 三 五 七 一 具 、 大 阪

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第5巻3号 10 高判昭和三一二年五月一九日下民集九巻五号八五九頁、東京地判昭和コ一八年一一月二六日判時三六三号三七頁、旭川地名寄支 判昭和四

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年九月二二日判タ一八三号一八四頁、名古屋地判昭和四六年七月一六日判時六四九号六九頁、大阪地判昭和四九 年七月一九日判タ三二五号二三四頁、福岡高判昭和五

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年 五 月 二 七 日 判 タ コ 一 二 八 号 二 七

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頁、名古屋高判昭和五

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年六月二 六日判時七九五号五回頁、東京地判昭和五五年七月三

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日判タ四二四号一一八頁、札幌高判昭和五五年二一月一七日判タ四 三七号一一三三具、福岡高判昭和六一年九月三

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日判タ六二二号二二九頁、東京高判昭和六二年六月二九日東高民時報三八巻 四

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六 号 五

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頁と続き、本文後述の最判昭和六三年三月一五日民集四二巻三号一七

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頁に至る。反対の見解をとるものとし ては、東京高判昭和四二年四月二四日下民集一八巻四号四二二頁、大阪地判昭和六一年一

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月 一 一 一 一 日 判 タ 六 三 四 号 一 七 四 頁 (両訴訟が併合された事案)をみるにとどまる。これらの裁判例(昭和五五年まで)の事案・理由等については、栗原・前 掲 一

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三頁以下に簡潔・克明な一覧表がまとめられている。 ( 5 ) 抗弁先行型における別訴を適法とした例とじて、東京地判昭和三二年七月二五日下民集入巻七号一一二三七頁、東京地判昭 和三三年四月二日下民集九巻四号五六二頁、東京高判昭和四二年三月一日判時四七二号三

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頁、大津地判昭和四九年五月八 日判時七六八号八七頁、東京高判昭和五九年一一月二九日判時一一四

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号 九

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頁があり、この間、別訴を不適法とした例は、 報告されていない。ただし、このうち、前後の二例を除く中間の三例は、いずれも、相殺の抗弁の白働債権についての反訴 を同一手続内で提起した例であるし、最後の東京高判は、その判決当時には前訴での相殺の抗弁が既に撤回されていた事案 で あ る 。 ( 6 ) 昭和六三年判決の調査官解説(篠原勝美・曹時四二巻二号六六五頁)は、﹁本判決は、一般論を避け、抗弁後行型︹日別 訴先行型︺において相殺の抗弁を不許とする裁判例の大勢に従いつつ、被告の利益ないし一種の訴訟上の信義則の見地も考 慮し、相殺不許の結論を導いたものであろう﹂、と述べている。 ( 7 ) 中野﹁相殺の抗弁﹂訴訟関係と訴訟行為一二

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頁以下、コ一ヶ月章・民事訴訟法(法律学全集﹀一二五頁、菊井維大・民事 訴訟法︹補正版︺下二六七頁以下、岩松 H 兼子編・法律実務講座民事訴訟編六巻四二頁以下、菊井 H 村松・全訂民事訴訟法 I 一一一一四頁以下、伊東乾﹁二重起訴の禁止﹂演習民事訴訟法︹旧版︺上三

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七頁以下、栗原・前掲九九頁、兼子ほか・条 解 民 事 訴 訟 法 人 四 四 頁 以 下 ︹ 竹 下 守 夫 ︺ 、 渡 漫 健 之 ﹁ 二 重 起 訴 の 禁 止 ・ 国 際 的 二 重 起 訴 ﹂ 演 習 民 事 訴 訟 法 一 一 一 一 一 一 一 一 頁 以 下 な ど 。 ︿ 8 ) 中野ほか編・民事訴訟法講義一八五頁︹坂口裕英︺。

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( 9 ) 新堂幸司・民事訴訟法一五人頁は、抗弁先行型の場合につき﹁相殺が主要な争点として現に争われているかぎり﹂自働債 権についての別訴は二重起訴の禁止にふれる、と説くにとどまったが、その後、抗弁先行型の場合の別訴および別訴先行型 の相殺の抗弁をともに不適法とする見解が多く出ている。斎藤編・注解民事訴訟法

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一 一 一 一 五 頁 以 下 ︹ 斎 藤 秀 夫 ︺ 、 小 山 昇 ・ 民事訴訟法︹四訂版︺一一一二具、同・民訴判例漫策一八

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頁以下、住吉博﹁重複訴訟禁止原則の再構成﹂民事訴訟論集一巻 二九三頁以下、河野・前掲一一一一頁以下、梅本土口彦﹁相殺の抗弁と二重起訴の禁止﹂新実務民訴講座 1 巻 三 八 一 一 良 以 下 、 加 藤哲夫﹁二重起訴の禁止﹂新版・民訴法演習一一五

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頁以下、小林秀之﹁民事訴訟法の現代問題帥﹂判タ七六四号六

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頁以 下など。やや不明瞭だが、三ヶ月章・民事訴訟法︹法律学講座双書︺一五八頁も、不適法説をとる趣旨と解される。 ( ω ) 梅本・前掲三八五頁。 (日)河野・前掲一一五頁以下。 (ロ)新堂・前掲一五八頁、住吉・前掲二九四頁以下、河野・前掲一一一一頁以下、梅本・前掲三九

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頁 以 下 、 一 二 ヶ 月 ・ 前 掲 ︹ 双 書︺一五八頁、加藤・前掲一五

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頁 、 小 林 ・ 前 掲 六 一 一 良 な ど 、 い ず れ も 然 り 。 (日)菊井 H 村松・全訂民事訴訟法 E 一五七頁、篠原・前掲六六六頁。 ( U ) 流矢大土﹁二重起訴と相殺の抗弁﹂伊東古稀・民事訴訟の理論と実践四六五頁以下。抗弁先行型の場合の別訴も、反訴の 提 起 に よ る 必 要 は な い 、 と す る ( 同 四 七 一 一 貝 ﹀ 。 ( 日 ) ド イ ツ に お け る 学 説 ・ 判 例 の 状 況 に つ き 、 虫 色 中 守 口 出 曲 目 戸 市 山 ℃ c -P N 旬 。 ・

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由(抗弁先行型における別訴は二重起訴の禁止にふれるが、 別訴先行型における相殺の抗弁は許される、と説く)など、異説がある。なお、ドイツに関しては、立法当時の状況をも含 めて、河野正憲・当事者行為の法的構造一

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一頁以下に詳しい。なお、ォ l ストリーの理論状況は、よく分からないが、代

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第5巻3号一一12 表 的 な 概 説 書 で あ る 町 内 広 岳 山 口 m p F m F 宮 島 $ 2 c m Z R a n v u n F E N 守 口 望 。 N m E B n y F N ・ ﹀ 邑 ニ s u o -H E R -お お -H N U U は 、 明 瞭 に 不 適 法 説 を と っ て い る 。

1 私は、やはり、抗弁先行型・別訴先行型のいずれについても、適法説が正当と考えざるをえない。 ) 4 E A ( もともと、不適法説と適法説の対立が、相殺の抗弁に訴訟係属を認めるかどうかという形式的な論点にとどま るものでないことは、 いうまでもないが、相殺の抗弁において、訴求債権とは別の、別訴の訴訟物たりうる反対債権 (白働債権﹀が主張され、判決理由中のその点の判断に既判力が認められる以上、相殺の抗弁の提出された係属訴訟 と別訴との双方における各別の判決で、同一債権についての訴訟審理の重複と既判力抵触のおそれがあることは、明 らかであり、それを否定することはできない。二重起訴の禁止(民訴二三一条) の趣旨をここに類推するのは、いわ ば、理論上当然の筋道といっていい。問題は、相殺の抗弁が、訴えや反訴の提起ではな氾攻撃防御方法にとどまり、 多くは被告の提出するいくつかの防御方法のひとつにすぎず、それも、仮定的・予備的な抗弁にすぎないのを常とす るので、相殺の実体的な要件に立ち入った審理がなされるかどうか、さらに、判決理由中で自働債権の存否の判断が 下されるかどうかは、全く不確実であり未必的であるのに、その現実には僅かな可能性を根拠として相殺の抗弁なり 別訴を不適法として却下するということが、果たして実際上妥当なのかどうか、という点にある。 冒頭に掲げた設例において、甲の貸金返還請求権を自働債権とする相殺の抗弁を、二重起訴の禁止の趣旨にふれる として却下するのは妥当だろうか。判決は、電光石火になされるわけでないから、両訴の判決が無関係になされて共 に確定し、甲の貸金返還請求権の存否について既判力が抵触する、という事態は、理論上は考えられるものの、実際

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上は皆無にちかい。その反面、甲にしてみれば、自己の貸金返還請求権について債務名義を得るための訴訟追行と、 乙提起の代金支払請求訴訟で弁済の立証がうまくいかない場合に具えての予備的相殺の抗弁の提出とは、どちらもが 必 要 な の で あ っ て 、 一方を選んだから他方が不要になるという関係ではないのである。いずれかの訴訟で自働債権に っき既判力ある裁判がなされたら、他方の訴訟でこれを劃酌して判決すれば足りる(民訴四二

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条 一 項 一

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号参照 ) 0 例外的に、現に両訴訟でほぼ同時に自働賃権につきそれぞれ既判力ある裁判が行なわれそうだ、という事態が発生し た場合には、裁判所が両訴訟の弁論を併合するなり、どちらかの手続の進行を調整すれば済むことだし、わざとその ような事態を生じさせている当事者がいるとすれば、その具体的な訴訟上の信義則違反を理由としてその者の訴訟行 為を排斥すべきで、民訴二一二条の一般論で処理すべきではない。以上の理は、甲の別訴の提起が乙提起の訴訟にお ける甲の杷殺の抗弁の提出より後の場合でも、全く同様である。 要するに、﹁相殺の意義ならびに取引社会におけるその役割をみるとき、その訴訟上の実現手段である相殺の抗弁 については、安易にその主張の機会がうばわれることはあってはならない﹂し、他面、相殺の抗弁を提出したことに よって直ちに自働債権につき訴権が否定されることになってはならない、と考える。

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わが民訴法の母法たるドイツ民訴法の立法当時には、別訴が係属中である債権を相殺の抗弁によって主張する 場合にも﹁訴訟係属の抗弁﹂を対抗できる旨の草案規定がおかれたが、そこでいう相殺は、判決で実行される裁判相 殺︿

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5

宮 口 由 国 昨 日 C ﹀であって、後れて成立したドイツ民法が採用した意思表示相殺(﹀丘﹃町内宮ロロ巴ではなかった。ま ﹁非独立的反訴﹂とよんで訴訟係属を認める見解は、昔からあ た、相殺の抗弁を﹁準訴﹂あるいは﹁未発展の反訴﹂ り、あとを絶たないのであるが、終局判決において相殺の抗弁について実質的な判断がなされ、その判決が確定し、 自働債権の判断に既判力が生じた場合に初めて、その結果から振返ってみたときに相殺の抗弁の提出が訴え・反訴に

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第5巻3号一一14 準じるといえるだけであり、相殺の抗弁が判決で取り上げられるかどうかは審理段階では全く未定なのであるから、 訴訟係属を認めるのは無理である。かりに認めるとしても、訴訟係属の効果とされるもので二重起訴の禁止以外のも の(訴訟参加・反訴・訴変更等の可能性、関連裁判籍の成立など)は、問題となりえないのである。

ω

もし不適法説を採れば、自働債権についての別訴が先行する場合には、別訴を取り下げないと相殺の抗弁は提 出できないことになる。しかし、別訴を取り下げるには、相手方が応訴しているときはその同意が必要であり(民訴 二 三 六 条 二 項 ﹀ 、 その同意の要件を緩和しないかぎり、 別訴を取り下げて相殺の抗弁を提出する途は閉ざされてしま ﹁相殺ヲ以テ対抗シタル額﹂ (民訴一九九条二項)を ぅ。また、相殺の抗弁についての判断に既判力が生じるのは、 限度とするが、不適法説では、別訴が一部請求である場合、残額請求による相殺の抗弁は許されるのであろうか。も し抗弁先行型の場合だと、不適法説では、別訴を不適法とする範囲は訴求債権との具体的な対当額ということになる のだろうか。いずれの場合でも、対当額を超える債権部分について別訴ないし相殺の抗弁を許せば、実際上、両訴訟 において自働債権の審理が重複し既判力の抵触が生ずる危険も絶無でないことは、前記の東京高判平成四年五月二七 日のいうとおりであり、さりとて、対当額を超える債権部分について別訴ないし相殺の抗弁を不適法として斥けるな ら ば 、 その部分の権利の実現は回害されることになって甚だ当を得ない。やはり、不適法説じたいに誤りがあると考 えざるをえないのである。 2 報告された裁判例の上では、別訴先行型の場合についての判決が多く、後発の相殺の抗弁を不適法とするもの が続いている。 抗弁先行型の場合については裁判例が少なく、それも別訴が反訴として提起されているのがほとんどで、その反訴 を適法としている。たしかに、抗弁先行型の場合は、自働債権が反訴で出てくるのが自然で、本訴・反訴が同時に審

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判されるかぎり、審理の重複も既判力の抵触の危険もないから、適法説をとるのに問題はない。不適法説の論者とし ても、この場合は例外とせざるをえないのである。 別訴先行型における相殺の抗弁を許さない裁判例が多いことについて、些一か憶測をたくましくしてみると、民訴二 三一条の理論的解釈としての不適法説の実務への浸透というよりは、むしろ、その訴訟で取り上げて審理・裁判する のが適当でないような相殺の抗弁が多く、それを排斥する手段として、自働債権の別訴係属にかこつけて、不適法説 の理論が片面的に利用されている場合が少なくないように思われる。 げんに、さきにも見た最判昭和六三年三月一五日の事案は、相殺の抗弁じたいがまともでないケlスであり、判旨 が、民訴二ゴ二条の法意とならんで自働債権の性質等を理由に加えていたのは、そのためであった。最判平成三年一 二月一七日の事案でも、民集に収載されている原審判決によれば、原告が被告に対しニ

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七万円余の商品代金債権を 有することは当事者聞に争いがなく、被告は、原審で、上告審で問題となった﹁別件訴訟で請求中の由民権による相 殺﹂の抗弁のほかに、﹁原告の詐欺ないし背任行為に基づく損害賠償債権による相殺﹂の抗弁および﹁不当訴訟に基づ く弁護士費用の損害賠償請求権による相殺﹂の抗弁を、一二本並列で提出していた o そして、この﹁別件訴訟で請求中 の債権﹂についても、第一審で被告は約一二八五万円の勝訴判決を得ており、原審は、この別件訴訟を併合審理して いたのを、相殺の抗弁の提出後、わざわざ弁論を分離して、本件と同日に判決を言い渡している、という異例の事件 なのである。この﹁別件訴訟で請求中の債権﹂による相殺の抗弁は、原審(控訴審)の第一一回口頭弁論期日におい てなされたというのであるから、事案の処理としては、むしろ、時機に遅れた防御方法として却下(民訴二ニ九条一 項)した方がよかったのではないかと思われる。いずれにしても、真撃な相殺の抗弁であったとは思えないのである。 その他の、別訴先行型の場合に相殺の抗弁を許さなかった下級審裁判例のそれぞれにおいても、単なる審理の重複、

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第5巻3号一一16 既判力の抵触のおそれを超える事情が介在して結果の妥当を支えているのではないかと疑われる。最高裁の両判決を 踏まえて別訴先行型における相殺の抗弁の排斥が安易に行なわれることのないように、危倶を表明しておきたい。 (日山)栗原・前掲九九頁が、下級審裁判例を仔細に検討した結果のまとめとして、この点を﹁痛感する﹂、と述べている。 (げ)河野・前掲九

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頁 以 下 に 詳 し い 。 ( M M ) 中 野 ・ 訴 訟 関 係 と 訴 訟 行 為 一 一 一

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頁 以 下 、 梅 本 ・ 三 八 四 頁 以 下 参 照 。 ( m u ) たとえば、名古屋高判昭和五

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年 六 月 一 一 六 日 判 時 七 九 五 号 五 四 頁 は 、 民 訴 一 一 一 一 一 一 条 の 類 推 適 用 を い う が 、 相 殺 の 抗 弁 の 自 働債権につき先行する別訴において第一審・控訴審・上告審と勝敗が二転、三転しているという事案であり、相殺の抗弁に ついて直ちに判断できなかった、という事情がある。また、札幌高判昭和五五年二一月一七日判タ四三七号二三ニ頁は、請 求異議訴訟における異議事由のひとつとして提出された相殺の自働債権たる損害賠償請求権につき別訴の先行を理由に民訴 一二三条の趣旨の類推をいうが、同時に、﹁のみならず、本件口頭弁論に現われた全証拠によっても、控訴人主張の損害は 認められない﹂と判示しているのであり、その前に、他の異議事由(弁済)を採って請求異議を認容してもいる、という事 案 な の で あ る 。

関連問題の所在

相殺の抗弁と二重起訴の禁止の問題の周辺には、これと間接に関連する他の問題が若干ある。将来の検討を期して、 三つの問題を挙げておこう。 第一は、同一の原告が同一の被告に対して、相互に関係のない二つの給付訴訟を提起し、両訴訟の係属中に、 1 被告が原告に対する同一の反対債権をもって相殺する旨の訴訟上相殺の予備的抗弁を、それぞれの訴訟の口頭弁論で 提出することは、許されるか、という問題である。

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相殺の抗弁と二重起訴の禁止の問題につき、適法説を採るならば、ここで両訴訟における相殺の抗弁のダブル提出 を許すことに支障はない。しかし、不適法説を採る場合には、ここでも、両訴訟における自働債権についての審理の 重複と既判力の抵触のおそれがあるから、相殺の抗弁のダブル提出を許さないといわなければ平灰が合わないことに なろう。しかし、相殺の権利は否定できず、少なくとも一方の相殺の抗弁を許さなければならないが、どのような規 準でどちらの相殺の抗弁を許すべきことになるのであろうか。

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第二は、被告がする相殺ではなく、原告がその提起した給付訴訟の訴訟物たる債権をもって被告の反対債権と (訴訟前にまたは訴訟外で)相殺したということを、被告が抗弁として主張し、その点の実質的判断がなされて判決 が確定した場合、反対債権存否の判決理由中の判断に既判力(民訴一九九条二項)は生じるのか、という問題である。 わが国では、これまで論じられたことがないと思われる。ドイツ連邦最高裁は、わが民訴一九九条二項に相当する ドイツ民訴三二二条二項に関して、右の問題につき、この規定は被告のした相殺を被告が抗弁として主張した場合の ハ 却 ﹀ 判決理由中の判断に既判力を認めたもので、原告のした相殺については類推適用できない、と判示した。しかし、こ 17 れでは、給付訴訟の被告が、原告が訴訟前にその訴求債権をもって被告の反対債権と相殺したことを主張し、判決で は、訴求債権の成立と原告の相殺によるその消滅の事実が認定されて、請求を棄却し、確定した後に、被告が原告に 対して訴えを提起し、前訴原告のした相殺の無効を主張して同一の反対債権につき給付の訴えを提起しても、前訴判 決における反対債権不存在の判断の既判力によって妨げられることはない、という結果となる。その当否は、甚だし く疑問といわなければならない。 3 第三は、相殺の抗弁に対する相殺の再抗弁の許否である。 被告がその原告に対する反対債権をもって訴求債権と相殺する旨の予備的な訴訟上相殺の抗弁を提出した場合に、

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第5巻3号一一18 原告が、被告に対して有する、訴求債権とは別の債権をもって、被告の相殺の抗弁の自働債権とされた反対債権を受 働債権として相殺する旨の再抗弁を提出することができるか。この問題も、わが国では、未だ全く取り上げられてい ないが、ドイツでは、論拠は不統一ながら、結論的に消極に解するのが通説である。訴訟における審理の容量という か、攻撃防御の重積の限度を改めて考えてみる必要がある。 ︿却)ドイツ連邦大審院一九人四年一月一一ニ日判決切の出

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由・事案は、承継人に対する既判力拡張も絡むが、その点を省 略していえば、こうである。 Y が X に 対 す る a 債権につき執行証書に執行文の付与を受け、強制執行に出ょうとしたが、 X は、請求異議の訴えを提起し、異議事由として、自己が Y に対して有する

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債権をもって Y の債務名義記載の執行債権と相 殺する旨の主張をした。他方において、 X は 、 Y を被告として

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債権につき給付の訴えを提起し、この訴訟では、

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債権は X が請求異議の訴えにおいて表示した相殺により消滅した、という理由で、請求棄却の判決が先に確定した。そこで、この 判決の理由中の相殺判断の既判力が請求異議訴訟に及ぶかどうかが問題になった。連邦大審院は、これを否定し、理由とし て次のように述べている。﹁請求異議訴訟の原告が自己のした相殺をもって債務名義上の請求権に対抗するのは、他の訴訟 で被告が訴求債権に対し自己のした相殺をもって防御するのと同様である。裁判所が訴求債権または債務名義上の債権を正 当とし相殺の自働債権たる反対債権を理由なしとみる場合には、その反対債権が相殺をした者に対する効力をもって既にい ま終局的に否定されることが、相殺の相手方の利益となる。裁判所が相殺を理由なしとみるときも、同じことがいえる。こ の場合には、相殺によって必然的に共通に形成される双方の請求権は、既判力に関しても、同じ取扱を受ける。ここでも、 ドイツ民訴三二二条二項による既判効の拡張は、相殺の相手方を再度の自働債権の訴求から守るのである。本件では、これ と反対に、自己のした相殺の効果のために、本件の係争債権を受働債権として相殺した前訴の訴求債権をその相殺を理由と して否定した判決を援用しようとしているのである。前訴の請求棄却判決の既判効をその理由づけにまで拡張することは、 ドイツ民訴三二二条二項からは引き出せない﹂と。 この判決には、賛否の両論がある。とくに、

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(19)

(幻)詳細に論じたものとして、

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参照

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