吉田 明史 〒631-8523 奈良市中登美ヶ丘3-15-1 奈良学園大学奈良文化女子短期大学部 * 静岡大学教育学部名誉教授 國宗 進、奈良教育大学教育学部准教授 近藤 裕、 奈良教育大学教育学部准教授 舟橋友香、帝塚山大学現代生活学部長教授 勝美芳雄、 奈良教育大学教育学部名誉教授 重松敬一、静岡大学教育学部准教授 田宮 縁、
1.研究の方向
筆者が行った先の研究1)では、全国の幼児教育学科をもつ大学において、小学校教員養成にかかる「数 学」の指導は見られたが、保育者に必要な「数学」については、共通の内容が指導されているわけでは なかった。そこで、幼稚園教育要領や保育所保育指針などに述べられている内容も踏まえ、保育者が身 に付けなければならない「数学力」を次のように設定していた。 「算数・数学にかかわる素養としての単なる知識や技能にとどまらず、数学にかかわるさまざまな活 動場面を設定したり、日常の場面から数学的な内容を見出したりする力」保育者に必要な数学力についての基礎的研究(2)
吉 田 明 史
奈良学園大学奈良文化女子短期大学部Fundamental Study for Improving Math-Ability
of Nursery School and Kindergarten Teachers (2)
Akeshi Yoshida
Naragakuen University Narabunka Women’s College
保育者に必要な「数学力」については定式化された内容は見当たらない。保育現場からの「数学力」 を求めたいというニーズもあまり高くない。さらに、保育者を養成する大学や短期大学における幼児教 育学科のカリキュラムにおいても、数学は 5 領域の「環境」での位置付けであり、数学に割く時間は 限りなく少ない。一方、数学教育の立場からは、小学校との接続を考えるとき、幼児期に体験させてほ しい活動があり、保育者がそのような活動が生まれるしかけをつくる力や幼児の活動から数学を見出す 力などを付けてほしいという願いがある。 本研究では、科学研究補助金(研究代表者吉田、課題番号26381299)によって、研究協力者*ととも に、保育者が身に付けてほしい「数学力」について文献調査やアンケート等を通して考察した結果、「数 学の基礎知識」と「環境を構成する力」がその柱になるととらえた。 キーワード:保育者、数学力、数学的活動、数学の基礎知識、環境を構成する力
今回は、この内容を踏まえ実際の幼稚園での数学的な活動、幼児の活動と数学的な要素についての先 行的研究、幼児期における海外のカリキュラムなどを参考にして、「数学力」の柱を検討した。 なお、本研究の最終目標は、保育者を養成する大学・短期大学において、保育者に必要な「数学力」 を学生に身に付けさせることができるテキストを開発することにある。
2.幼稚園での数学的な活動
幼稚園長が意識している数学的な活動や幼稚園教諭らによる先行実践研究などから、数学的な活動に ついて、その現れ方を調べた。 2. 1 幼稚園長への聞き取り調査 2つの幼稚園長(私立2園)に幼稚園教育要領や保育所保育指針に示されている数学的な内容を踏ま えた上で、園ではどの時期にどのような数学的な活動を展開しているのかを聞いた。 A園長は、数、量、形にかかわる活動例として、幼児が「自ら選んで遊ぶ活動」と「自然体験活動」 の例をあげた。表1は、さらにそれらに関連する主な数学的な用語を付け加えたものである。 表1 数・量・形にかかわる活動例1 幼児が自ら選んで遊ぶ活動 自然体験活動 関連する主な数学的な用語 3 ・ 4 歳 児 ○大型積み木の片付け ・四角(立方体)、長四角(直方体)、 三角(三角柱)を区別し、三角と 三角をあわせると四角になること や直方体を2つあわせると立方体 になることを知る。(3歳) ○(ままごとで)テーブルの上に食器 を並べる。 ・「まる、おなじ、いっぱい」とつ ぶやき、教師に共感を求めている。 (3歳) ・茶碗、箸、皿、コップを1人分のセッ トとしてテーブルに座る人数分を そろえる。(4歳) ○カプラ遊び ・一枚一枚のカプラを積み上げて高い塔 にしたり、横に並べてドミノにしたり、 好きなものを構成したりして遊ぶ。(3 歳~5歳) ○芋掘り ・芋の大きさを大中小と比べたり、一列 に並べて、1個、2個、…と数詞を唱 えて100個まで数えて遊んだりする。 (4歳) ○柿取り ・収穫する前にたわわに実っている柿の 木をみて、柿は「100個ぐらいかな」、 「300個」、「1000個や」等と、多いとい うことを大きな数で表現する。(5歳) 数:数詞 計数 概数 一対一対応 100までの数 大きな数 量:個数、かさ 比較 (大小、多少) 形:まる 分類 立体図形 立体図形合成 いろいろな形 5 歳 児 ○タンポポ摘み ・「1本、2本、3本」と唱えながら摘 む。友達と一緒に摘んで、「○ちゃ んの方が多い」、「△ちゃん少ない」 等と量の多少に気付く。 ・タンポポの花びらから色水を作っ てカップやペットボトルに入れ て、量の多少を楽しむ。 ○シロツメクサ摘み ・摘んだ後、近くにある鉄板の穴に 花を差し込む草花アートを楽しむ。B園長は、数、量、形にかかわる活動を、「幼児が自ら行う経験や活動」、「学級全体で行う経験や活動」、 「日常生活で行う経験や活動」に分け、さらに、それらを年齢別に分類した形で例をあげた。 表2は、特徴的なものをまとめ、数学教育の立場から関連する主な数学的な用語を付け加えたもので ある。 表2 数・量・形にかかわる活動例2 幼児が自ら行う経験や活動 学級全体で行う経験や活動 日常生活で行う経験や活動 関連する主な数学的な用語 数 3 歳 児 ○「この遊びは、□人まで」 ○ひもに通したビーズの数 を数える(1 ~ 10まで)。 ○同じものの数を数える。 ○砂場でカップに砂を入れ、 並べたり数を数えたりす る。 ○ままごとでお皿を並べる。 ○ミニカーを並べる。 ○「10数えるまでに終わら せて」の言葉がけに対応 する。 ○ブランコで「あと、5回 こいだら交代しようね」 という。「1、2、3、4、5」 とみんなで数えて順番を 待つ。 ○製作活動で数を決めて材 料を取る。 ○トイレのペーパータオル を1枚だけ取る。 集合数計数 一対一対応 大小関係 順序 集合 量 並べる 10までの数 4 歳 児 ○遊びの中で数合わせをす る。分けるときに数える(積 み木の数、物の数など)。 ○年齢を聞く、聞かれる。 ○同じもの、特徴あるもの を□個集める。 ○2人組や3人組をつくる ゲームをする。 ○片付けのとき、「ゴミを □つ拾いましょう」とい う。 ○お店屋さんごっこをして、 お金の受け渡しを楽しむ ( 0 が多いと大きいお金で あることに気付く)。 ○出席ノートに今日の日付 と見比べながら、その数 字の欄にシールを貼る。 ○「後 3 つ食べたら、給食 終わり!」という。 計数 一対一対応 分類 数と数詞 位取り 集合 5 歳 児 ○ 1 ~ 100まで数える、足 し算に興味を持つ(手を 使って足している)。 ○卵パックを使ってどんぐ りの数を数える。 ○お店屋さん見学をして、 実際にお金を使ってお買 い物をする(値段とおつ りの関係に気付く)。 ○複数で一括り→ 5 回勝っ た ら 番 付 が 一 つ 上 が る (おすもうごっこ)、 4 人 で 1 グ ル ー プ を つ く る ( 4 人組になる)。 ○出席ノートを見ながら、 あと何日で~という。 ○14人で活動するとき、 4 人掛けの机を何台出せば いいかを考える。 計数 100までの数 10のかたまり 補数 加法 減法 4 の壁 3 歳 児 ○葉っぱや木の実を拾い、 友達が集めたものと量を 比べる。 ○砂や水を容器にとって遊 ぶ。 ○芋掘りをして、芋の量(重 さや大きさ)を比べる。 ○朝顔の鉢に水をあげるとき、じょうろやカップで 水をたくさん入れたり、 少しずつ入れたりする。 ○給食の量を比べる。 長さ 重さ かさ 量の比較 量 4 歳 児 ○どんぐりを転がすゲーム をつくり、よりスピード を出すためにどうすれば よいかを試す(高さと速 さの関係)。 ○色水遊びで大きな器から 小さな器に移す。 ○時計に興味を持つ(長い 針が12になると、仕掛け 時計が動き出す)。 ○身体測定のとき、高い低 い、重い軽い、を意識する。 ○給食の入っている量を比 べる(多い、少ない)。 高さ速さ 重さ かさ 量の比較 関係付け 時刻
5 歳 児 ○色水あそびで、容器を変 えると水がこぼれる、(見 た目が)減る経験をする。 ○時計に興味を持ち、時間 と 生 活 の 流 れ に 気 付 く ( 長 い 針 が 3 に な る と、 給食片付けるよ)。 ○製作活動において、「紙 を 何 枚 ず つ 取 り ま し ょ う」の声がけに対応する。 ○ お 泊 ま り 保 育 で の 入 浴 時、人数が多いと湯船か らお湯があふれだす。 ○時間を意識して行動する。 ○バケツの水を入れ替える。 量の保存時刻と時間 等分 かさ 形 3 歳 児 ○ひもとおしビーズなどで 色や形に分けて楽しむ。 ○空き箱や容器を組み合わ せて、新しい形を作る。 ○積み木で遊ぶ。 ○片付けのとき、絵(図形) を見て元の場所に戻す。 ○積み木の片付けで、△と △を合わせると□になる ことに気付く。 ○紙を切る。ちぎる。丸め る。貼る。 ○七夕飾りをつくる。 分類 形をつくる 形を知る (平面、空間) 4 歳 児 ○「△と△で大きな□がで きた」(積み木)という。 ○さつまいもの形くらべ。 ○ネイチャーゲームで、と がったもの、まるいもの を見つける。 ○手をつないで大きな丸を つくる。 ○紙を半分に折って切り抜 いて、広げたときの模様 を楽しむ。 ○スタンピング遊びをする。 ○空き箱や容器を組み合わ せて、イメージを表現する。 ○文字や数字も、形として 触れている。 丸(まるい)分類 いろいろな形 線対称 鏡形 立体図形の属性 合成 5 歳 児 ○積み木を片付けるとき、 決められたスペースに収 まるように考える。 ○新聞紙を細く長く丸める とき、縦、横より斜めに する方が長くなることに 気付く。 ○ひもとおしビーズで、「色 と形、数」を組み合わせて 競争するゲームを楽しむ。 ○レゴでイメージしたもの を形にする。 ○牛乳パックを切り開く。 ○何に見えるかな?○△□ ゲームをする。 ○自然物を形でカテゴリー 化する。 ○掃除のために分解したモ ルモットの飼育ケースを 組み立てる。 分類 抽象化 立体図形の属性 展開図 合成 形をつくる 表1,表2に取り上げている活動、例えば、砂場遊び、ブランコ遊び、積み木遊び、食器並べ、草花摘み、 レゴ遊び、芋掘りなどは、どの園でも見られるものである。年齢ごとに活動が提示されているが、活動 は年齢を超えて繰り返し現れている。また、この中には、砂場遊びのように活動が多岐にわたる可能性 があって、数、量、形に分類することに無理のある活動もある。さらに、同じ活動をしていても、側に いた先生の指示・問いかけの内容で、その活動を数、量、形のどの学習にも変化させられるものもある。 したがって、各活動でよく見られる主な数学的な用語等を整理しておくことが大切であると考えた。ま た、幼児の発達の段階に個人差があることから、年齢ごとに活動を考えるのではなく、就学前に身に付 けさせたい主な数学的な内容を抽出することとした。 2つの幼稚園から列挙された主な活動内容を数学教育の立場から整理するとおおよそ次のようになる。
1)並べる(順序);食器、ミニカー 2)数える(数唱・計数);遊びの人数、ビーズの数、葉っぱの枚数、積み木の数 3)比べる;落ち葉、芋、給食、身体測定値(高低、大小、広狭、多少、軽重) 4)分類・分別する;(葉っぱ、ドングリなど)色や形で分ける・集める 5)位置をきめる;片付け(道具)、下足箱 6)形を知る・つくる;食器の形状、積み木を積む、まる、しかく、紙を切る・折る、スタンピング 7)時刻を読む;長針、短針、時間 8)関係を見つける・関係付ける;座る人数と食器の数(一対一対応)、 (といを使ったどんぐりころがしの)高さと速さ(関数関係) ここにあげた 8 つの項目は、いずれも小学校算数の基礎となるもので幼児期での活動として重要で ある。ただ、いずれの園も数量に関する活動が比較的多いとはいえ、多くの内容が含まれているとは言 いがたい。これは、幼稚園教育の中では、あらゆる思考の基礎となる「言語」の教育が強調されていて、 数学的な内容は日常に埋没しているからだと考えられる。B園長は、「この度の依頼を受けて、園生活 の中での数学的活動を拾い上げる作業をしたが、保育者自身が数学的な側面を意識して活動を組み立て ている場面が極端に少ないことに気付いた。しかし、それは園児にとって数学的基礎力が養われると予 想される場面が少ないということではない。日常生活や遊びの中で、また、設定活動において、むしろ 無意識に繰り返し行っている経験の中にその素地が育まれる要素が詰まっている。」と述べている。 2. 2 奈良県幼稚園教育研究会の実践例から 奈良県幼稚園教育研究会は、昭和59年度に、学級全体で経験する場(年少27活動、年長29活動)を 取り上げて、どのような数、量、形の経験をしているのかをまとめている2)。 当時の幼稚園教育要領には、領域「自然」があった。幼稚 園教育要領改訂の時期は、表3のとおりである。初めて幼稚 園教育要領が示されたのは、1956年(昭和31年)で、このと きは、健康、社会、自然、言語、音楽リズム、絵画製作の6 領域が示された。 最初の改訂は、1964年(昭和39年)で6領域が堅持される とともに、領域「自然」のねらいの「4 数量や図形などに ついて興味や関心をもつようになる」の中に数学の内容とし て7つの項目が示された(表4)。その後、1989年(平成元年) では、健康、人間関係、環境、言葉、表現の5つの領域に整 理され、従前の「自然」にかかわる内容の1部は「環境」に組み入れられ、詳細な形では示されていな い。とはいえ、従前の領域「自然」で述べられている7つの項目は、現在の小学校算数へのつながりを 考える上で大変重要なものである。 奈良県幼稚園教育研究会では、この7つの項目と各学期の活動との関連を表にまとめているが、4項 目以上に関連するとみられる活動を、多い順に整理すると次のようになる(括弧内は関連する項目数)。 表3 幼稚園教育要領等の改訂時期 時 期 幼稚園教育要領・保育所保育指針 昭和23年(3月)「保育要領」刊行 昭和31年(2月)「幼稚園教育要領」編集 昭和39年(3月)「幼稚園教育要領」告示 昭和40年(8月)「保育所保育指針」通知 平成元年(3月)「幼稚園教育要領」告示 平成2年(3月)「保育所保育指針」通知 平成10年(12月)「幼稚園教育要領」告示 平成11年(3月)「保育所保育指針」通知 平成20年(3月)「幼稚園教育要領」告示「保育所保育指針」告示
年少:砂場遊び(6)、雪遊び(5)、種まき(4)、魚釣り遊び(4)、 木の葉・木の実拾い(4) 年長:砂場遊び(6)、時計つくり(4)、けん玉遊び(4)、 玉入れ(4)、木の葉・木の実遊び(4)、影絵遊び(4)、 たこつくり(4)、すごろく遊び(4) 年少、年長のいずれも、砂場遊びが7項目のほとんどと関 連付けられることがわかる。実際、砂場での活動をみると、 スコップ(大・小)、バケツ、容器類、ふるい、円筒、とい、 木片、乗り物、箸、石など多様な道具を使って、山、川(水 を入れることも)、池、トンネル、落とし穴、道、だんご、手型・ 足型づくりなど多様なものをつくる活動が見られるため、こ の研究ではその後、砂場での活動に焦点化して道具を変える とどのように活動が変わるかを観察調査している。もちろん 道具とともに、保育者の支援(言葉がけ)の状況もまとめて いる。 また、日常行事活動(登園、当番活動、弁当 ・ 給食、降園)や幼児自ら選ぶ遊び(教材・教具別に57 種類があげられている)の中での数学体験における活動を整理している3)。その分類は、基礎概念として、 「集合 ・ 分類」、「対応」、「比較」、「順序づけ」を取り上げ、数学の内容としては「量」「数」「図形」「空間」 「時間」を取り上げている。さらに、「量」では、大・小、多・少、長さ、広さ、かさ、重さ、速さ、そ の他(角度、遠近、濃淡、太細、強弱)に細分化し、それぞれの活動がどれに当たるかを整理している。 基礎概念や数学の内容は、現在の小学校1年算数の内容程度である。縦軸に活動、横軸に数学上の意味 付けをしている表は、保育者を目指す学生にとっての「数学の基礎知識」を考える上で参考になる。 どこの園でも見られる日常行事活動についても、登園、当番活動、弁当・給食、降園の 4 種類21の 活動に分類し、それらが前述の基礎概念、量、数、図形、空間、時間のどれにあたるかを分類し表にま とめている。取り上げられている21の活動は、次の通りである。 ・登園:「登園する」、「靴を履き替える」、「出席シールを貼る」、「服を着替える」、「持ち物の整理をする」 ・当番活動:「小動物の世話をする」、「花壇・畑の水やりをする」、「遊具の片付けを見回る」、「欠席 調べをする」、「手紙等を配る」 ・弁当・給食:「机椅子を並べる」、「手を洗う」、「配膳する」、「お茶をコップに入れる」、「食べる」、 「片付ける」、「うがい、はみがきをする」 ・降園:「降園準備をする」、「地区の旗を並べる」、「地区別に並ぶ」、「降園する」 現代の活動と異なるものもあるが、どの活動も数・量・形に関わるものの、特に、弁当・給食に関わ る活動に数学的な要素が多く見られた。配膳したり、食べたりする活動につなげて数学的な学びを経験 させることの大切さがわかる。また、全体を通して、「対応」と「順序づけ」(基礎概念)、「多少」(量)、 「数」に対応する活動が多くあったと報告している。 中沢4)が指摘するように、子どもの数感覚は、小さい頃からの保護者との関係で身に付いていること 表4 領域「自然」のねらい 1 身近な動植物を愛護し、自然に親しむ。 2 身近な自然の事象などに興味や関心をも ち、自分で見たり考えたり扱ったりしよう とする。 3 日常生活に適応するために必要な簡単な 技能を身につける。 4 数量や図形などについて興味や関心をも つようになる。 ⑴ 具体的な事物によって、量の大小を比べる。 ⑵ いくつかの物を分けたり寄せ集めたり、 これらを整理したりする。 ⑶ 日常生活の中で具体的な事物を簡単な数 の範囲で数えたり、順番を言ったりする。 ⑷ 長い短い、広い狭い、または速いおそい などに興味や関心をもつ。 ⑸ 物の形について興味や関心をもち、丸や 四角などの特徴に気づく。 ⑹ 前後、左右、遠近などの位置関係につい て興味や関心をもつ。 ⑺ 日常生活を通して時刻について興味や関 心をもつ。 〈昭和39年改訂幼稚園教育要領より〉
がある。たくさん・ちょっと、いっぱい(量の多少)、たかい・ひくい(高低)、ひろい・せまい(ひろ さ)、大きい・小さい(大小)など、保護者が自然に使っている言葉である。また、「もっと」「ちょっと」 という量を限定する言葉を使うこともある。これらは、食事の場面や保護者との行動の中で生まれる言 葉である。いわば、保護者も何かを教えようと意図していないにもかかわらずそのような環境で子ども は数感覚を身に付けているといえる。しかし、数の把握は、このような自然発生的に生まれる活動から ではなく、例えば砂場遊びや弁当・給食にかかわる活動に見られるように、保育者の意図的な言葉がけ などによって深まるものである。 2. 3 まとめ 園長の聞き取りや、幼稚園教員による研究報告書の内容では、幼稚園における日常の幼児の活動には 数、量、形にかかわる様々な数学的な要素のあることを指摘している。また、そこに現れる数学的な内 容は、その場にいる保育者の意図で変わったり深まったりすることもある。特に、砂場での活動のよう に、意図的に用意した道具によっても活動に見られる数学的な要素は変化する。 いずれの調査も、日常の保育活動から数学的な内容を見出すというものであった。榊原5)が行った調 査も、設定活動(27種類)と日課活動(17種類)に分け、「数」、「算術」、「空間幾何」、「測定」、「パター ン」の5種類に分けて数学的な活動の出現状況を調べている。そこでは、出欠の確認、製作、歌を歌う 活動など保育者が意図した保育活動で「数」にかかわる活動が多く埋め込まれているとしている。 保育活動と数学的な内容とが1対1に対応しているわけではない。保育者の鋭い数学的感覚によって、 見出し方が異なったり、活動内容の工夫や支援の言葉がけで活動に数学的な要素が広がったりする可能 性がある。これから保育者を目指す学生は、現場の保育者が指摘しているように幼児の活動に数学的な 要素が埋没しているということを理解するとともに、活動から数学的な要素を見出す力を身に付けるこ とが必要である。ただ、活動から見出す数学的な要素については、もう少し小学校との接続を踏まえて 体系的に見ておくことが必要である。
3.幼児の活動と数学的な要素についての先行的研究
小学校との接続を図る立場から必要な数学的な要素を抽出し、幼児期に経験させておきたい数学の基 礎となる内容を抽出する研究などから、保育者養成カリキュラムに参考となる情報を探った。 3. 1 藤森(2001)による「さんすうのはじまり」 藤森6)は、著書「さんすうのはじまり」で、幼稚園の普段の活動の中に、遊びを通して算数・数学的 な学びを引き出すことが可能であることを、22項目の数学の内容と幼稚園で見られる活動場面(写真) とを関連付けて簡単な解説をしている。 表5は、この本の目次に、本文で使われている(数学的な)用語と、活動や留意点と読み取れる言葉 を対応付けるとともに、数学教育の観点から大切と思われる内容を書き加えたものである。この表から、小学校算数への接続を意図して「用語」が選択されていて、数学教育の基礎としてどのような内容を大 切に見ているかが分かる。また、この表は幼児の活動から数学を見出したり、数学の内容から新たな活 動を考察したりする資料としても活用できる。 表5 「さんすうのはじまり」の内容 目 次 * 本文で使われている用語 * 活動や留意点 * 数学教育の観点から 1 数を唱える 数唱、計数 数に親しむ、数を唱える。 和語と漢語の助数詞、離散量 2 物の集まりを知る 集合づくり 同質の仲間を識別して選び出す。 集合、分類 3 1対1対応 比べる、1対1対応 1対1対応を数多く経験する。 1対1対応、過不足 4 大きさくらべ 大小比較/大小、長短、高低、深浅、厚薄、太細、遠近、広狭 2つのものを比べ順序付ける。 直接比較、順序付け 5 数字をさがしてみよう 数字、量と順序 数字をさがす。 数字、集合数と順序数 6 まず、3の数から 数の理解、数詞、2者関係(具体物の大きさと数詞)、合成 2者関係を一体のものとして理解する。3、2、1、4、5と学ぶ。 数詞、数の合成 7 5までの数 4者関係(具体的な物、抽象物、数詞、数字)の理解 4者関係を理解する。 数詞から数字 8 5までの順序 位置、数直線、座標 数を用いて順序を表す(左右上下から何番目?)。 数と数直線、物の位置、順序数 9 数の保存 数の保存 具体物で、数や量の多少は形にかかわりがない。 ピアジェの保存 10 4者関係での数の多少比べ 4者関係(具体的な物、抽象物、数詞、数字)の理解 4者関係を一体のものとして理解する。 具体物、半具体物、数字 11 9までの数を知る 十進法、5+□として 4者関係、順序、数の保存、多少比較で理解する。 5のまとまり 12 10の意味を知る 9よりも1多い数、位取り ブロックとしての10。 位取り 13 0の意味を知る なんにもない、けたが空位 1対1対応でどちらも余っているものが0のとき、2つの数は同じ。0の概念 14 10以上の数を知る 位取りの原理、23は、1の位に3あり、十の位に2ある 10を 1 つのまとまりとしてとらえる。十進位取り記数法 15 時計になれよう 時刻はデジタル時計、時間はアナログ時計 生活の中で時計に注目する。 時刻、時間 16 ものの形を知る まる、さんかく、しかく、図形、合同、相似、条件が同じ形 具体物を分類したり、抽象化した形をみせたりして、似たものを集 める。 身のまわりの図形への 関心 17 形の特徴を知る 丸、四角、三角、だ円、不定形 形にある特徴を見つける。 形とその特徴の抽象 18 上下、左右の位置関係を知る 三次元の空間、物の位置関係や方向、上下、前後、遠近、 左右、東西南北 まん中を加えて3つのものの位置 関係を表現(向かって右、左)。 基準とそこからの距離 19 たしざん たしざん、合併、添加又は増加 前から3番目の人から数えて2人後ろの人は、前から何番目、は難。 加法の意味、合併と増加
20 ある数をほかの数の和として見 る 5は3より大きい数、7より 小さい数(大小)、3と2が 合わさった数(合成) 具体物をつかって、手を動かして 繰り返し確認する。 数の合成と分解 21 10の構成になれる 10の補数、くり上がりやくり下がりのある計算 あといくつたすと10になるか、10から数をひくといくつ残るか。 10の合成と分解 22 ひきざん ひきざん(求算、求差、順序、不足) んかを判断する。具体物で行う、たしざんかひきざ 減法の意味、演算の決定 〈*藤森6)から抜粋〉 3. 2 船越(2010)による「源数学」と幼児の活動 船越7)は、「基礎の基礎としての数学」は、単なる数学の基礎というよりも、人間がものごとを論理 的に考えること(思考)と正確に知ること(認識)の源となる力であり、これを「源数学」と名付けて いる。その内容は、直接的に算数・数学の内容の「基礎」となることがらと、そのことがらを獲得する 際に必要となる「見方・考え方」からなるとしている。そして、幼児期における「経験(体験 ・ 遊び)」 が「源数学」の習得(発達)の基礎にな るととらえている。この経験には自ずと 「個人差」があるため、源数学の習得その ものにも個人差がうまれ、幼児期での経 験が小学校のカリキュラムの達成に大き く影響することを述べている。 各項目の名称は少し専門的であるが、 「基礎」となることがらには、表6に示し た19項目をあげ、「見方・考え方」には 12項目(「弁別」、「根拠性」、「分析」、「総合」、 「本質性」、「関連性」、「抽象化・一般化」、 「観点変更」、「映像化」、「可逆性」、「推移 律」、「論理的思考」)をあげている。 「基礎」となることがらにあげられてい る項目は、数学の内容というよりは操作 活動と考えられる。幼稚園で考えられる 活動(体験、遊びなど)を、数、量、形 の領域に分けて、この「基礎」となるこ とがらに対応させると、表6のようにす べての項目に対応付けることができる。 つまり、逆向きに考えると、この19項目 の「基礎」となることがらは、日頃の保 育活動を数学的な立場から整理したもの 表6 「基礎」となることがらと、考えられる活動 「基礎」* 考えられる活動 集合 形:木の葉っぱなどを集めて、んがったかたち」など、形の特徴を表現する。「まるいかたち」や「と 比較 量、形:芋の大きさを比べる。 対応 数:一対一対応による計数をする。 分類 形:木の葉っぱなどを集め、形や色などで分類していく。玩具を種類別に片付ける。 分割 数:クラスで 2 人組や 3 人組をつくる。 まとめて 数える 数:構成人数が同じグループをつくる。 順序 数:前から何番目はだれかをいう。 量 量:太い木の幹を手のひらで測る。砂をコップに入れる。 測定 量:あるものの長さを鉛筆の長さで測る(間接測定)。 距離 量:幅跳びをしてどちらが遠くとんだかを考える。 構造 形:積み木を片付ける。 不変性・ 保存性 量:あるコップに入っている水をいろいろな容器に入れる(量の保存)。 位置 数:下足箱で自分の履物の位置(座標)を知る。 位相 形:身の回りの形で似ているところをさがす。 形 形:形のなかま分けをする。 連続性・ 系列 量:時刻と時間をいう。 場合分け 量:どんぐりをころがして、転がる速さと移動する距離について、場合に分けて考える。 整理 量:どんぐりをころがして、見つけた関係を整理する。 結合性 数:10のまとまりで数える。 〈*船越7)による項目〉
とみなすことも可能である。保育者は意図的にこのような「基礎」となることがらを踏まえ、活動を構 成できなければならない。 「見方・考え方」は、ごく一般的なものであるが、数学教育で大切にしている「数学的な見方や考え方」 によく似たものもある。各項目の多くは、小学校において経験するものであると考えられる。保育者が そのような見方や考え方を活動場面の中で理解し、意図した言葉がけ(発問や指示)によってそれらを 幼稚園での活動に埋め込むことができる力が必要である。ただ、このような力は、これまでの数学学習 において、「数学的な見方や考え方」のよさをどの程度認識してきたかが問われる。保育者を目指す学 生の多くが、数学を不得手としている現状を考えると、大学においても、数学的活動を通して数学的な 見方や考え方のよさを認識できるような授業構成が必要である。 3. 3 小学校教員養成の教材研究資料から 伊藤8)は、幼児の数量・図形に関する感覚を養う活動を生かした、小学校算数の教材研究の資料を「小 学校算数・演習ノート」としてまとめている。その内容は子どもたちが経験してきたと考えられる幼稚 園・保育園での数量・図形に関する活動を「数と演算の感覚」、「ものの分類・比較と変化の感覚」、「図 形と空間の感覚」の3つに分けて概説するとともに、それぞれの項目でそれらを発展させたものとして 小学校算数(低学年)の内容と関連付け、教材研究の基本的な考え方を解説している。この資料は、小 学校教員養成にあたって活用できるものであるが、幼小接続を小学校教員養成の立場から見て設定され た各項目は、保育者にとっても幼児期における感覚養成が期待される活動をみる資料となる。 表7は、3つの活動の下に掲げられている10項目と、その各項目の中で説明している幼稚園に関係 する小見出しだけを取り出して整理したものである。各小見出しは、全部で21個あるが、いずれも幼 稚園等で感覚を養う活動として取り上げられている。保育者を目指す学生が、小学校との接続を踏まえ てこのような活動を具体的に構成できることが求められる。 表7 「小学校算数・演習ノート」に記載されている幼稚園に関係する小見出し 数と演算の感覚 ものの分類・比較と変化の感覚 図形と空間の感覚 1.ものと数詞の対応、数の表し方 1.仲間集めと分類 1.簡単な平面図形 ・個数を数えること ・1対1対応 ・仲間集め ・比べてみよう ・形づくり ・同じ形 ・図形の内と外 2.数の大小・順序と系列 2.比べ方と量の保存 2.簡単な立体 ・どちらが多い ・すごろく遊び ・身近な量の大きさ ・量の保存 ・積み木遊び ・仲間作り 3.簡単な加法と減法、四則計算 3.変わり方のパターン 3.図形のパターン ・あわせていくつ ・ビンゴゲーム ・リズム ・伴って変わる ・模様づくり ・同じ形の構成 4.数と演算のパターン ・数の増減 ・数当てゲーム 〈伊藤8)から抜粋〉
3. 4 まとめ いずれの先行研究も研究者の立場から幼児期に大切にしたい活動・経験について述べている。 表5、表6で示したように、対応する数学的な用語を拾い出していくことによって、保育者に身に付 けてほしい数学が明らかになる。また、3.3のように、小学校教員養成の立場から、幼児期で必要とさ れる感覚経験を学生自身が知っておく必要がある。 数学教育の立場から整理された幼児の活動と数学との関係をみるとき、活動の中に数学があるという 資料は、保育者になろうとする学生に「数学を見出す力」をつけるにはいい教材である。しかし、実際 の幼児の活動を見ていくつかの数学を見出すことができるのは、もともとそのような日常に数学をみる という観察眼を持っているからである。保育者がこの観察眼を身に付けるには、まずは学習指導要領に 示されている小学校算数との接続を踏まえ、幼児期に体験させておかなければならない数学的な内容そ のものを知っていなければならない。
4.海外のカリキュラムから
幼稚園教育要領では、小学校のように具体の数学的な内容が示されているわけではない。遊びや活動 を通して幼児に様々な数学的な経験をさせることになっており、保育者が数学的な内容を活動の中に埋 め込むという意図がなければ小学校算数との接続は困難になる。その点、アメリカやスウェーデンのカ リキュラムでは幼稚園も含め、体系的なものとなっているのでそれらを考察することとした。 4. 1 アメリカのカリキュラム(CCSS) 米 国 に お け る カ リ キ ュ ラ ム に、1989年 と2000年 に NCTM(NationalCouncilofTeacherof Mathematics:全米数学教師協議会)から提案されたスタンダードがある。これは、学校で教える数学カ リキュラムと評価についての全国的な規準であったが、最近では、2014年度から実施されている、連邦 政府が積極的に関与した CCSS(CommonCoreStateStandards)がある。これは、米国の最新の統一カ リキュラムであり、EnglishLanguageArtsStandardsとMathematicsStandards からなっている。指導 内容は、幼稚園(K)~第12学年まで1学年ごとに示されている9)。 この CCSS に述べられている数学のスタンダードは、すべての学年段階を貫く(幼稚園の教育も同様 である)算数・数学教育で身に付けさせたいことがら(MathematicsPractices)として次の8項目を あげている。 ・問題の意味が分かり、粘り強く問題を解く。 ・抽象的に、定量的に推論する。 ・見込みのある議論を構成し、他者の推論を批評する。 ・数学でモデル化する。 ・適切なツールを戦略的に使う。 ・正確さに気を配る。 ・構造を探し求め、活用する。 ・推論を繰り返す中で規則性を見つけ、表現する。大貫10)は、この連邦統一カリキュラムをもとに作成されているジョージア州の教育内容と上に示さ れた8項目と日本の幼稚園教育要領との比較を試みている。日本が、「幼児期の特性を踏まえ、環境を 通して行うことを基本とし、遊びを中心とした生活を通して発達に必要な体験をし、幼児期にふさわし い生活が展開されるようにする」であるのに対し、教科の内容スタンダードを示していることに大きな 違いがあると指摘している。また、このことを踏まえて、次のように述べている。 「日本の幼稚園における数学教育の基盤となる興味・関心、数学的思考、技能、知識・理解は、環境 の中で遊びを通して培われていることが予想される。その一方で、数学教育の基盤となる力の育成につ いて、その育成に資する環境を用意できるか、遊びの過程や課題解決の過程において適切な指導をでき るかどうかといった個々の教師の指導力の影響が大きいことも示唆される。そのため、幼稚園教諭の育 成にあたって、数学教育の基盤として幼稚園児に習得させたい力について教師が十分な理解をしている か、また、その力の育成に呼応する適切な働きかけができるかということが重要になる」(下線部、筆者) その上で、日本の幼稚園教育要領には、5つの領域(健康、人間関係、環境、表現、言葉)にまたがっ てこの8項目がちりばめられていると述べている。内容にかかる体験や経験は5領域のなかに埋め込ま れているというのが大貫の主張である。日本では、この8項目は小学校1年以降に経験する活動(数学 的活動)である。しかし、上記下線部のように、保育者が活動の中に意図的に数学的な活動をちりばめ なければ小学校での学習に影響が出ると考えられる。 この8項目のあとには、各学年段階のスタンダードが示されている。幼稚園の内容としては、次の5 つがあげられている、 ① 数えることと基数(countingandcardinality) 1)数詞とその順番(数える並び)を知ること。 ・1つずつ又は10ずつ100を数える。 ・与えられた数から知っている順で数える(途中から数える)。 ・0 ~ 20までの数をかく、書かれた数字の数だけ物をかく。 2)ものの数を伝えるために数えること。 ・数と量の関係を理解し、数えることと集合の個数を関連付ける。 ・20ぐらいのものが直線上、長方形上、円上になどに並んでいるものや、10ぐらいのちりばめら れたものを数える。 3)数を比較すること。 ・ものの数の比較(大きい、小さい、等しい)や、数詞で表現された1~ 10の2つの数を比較する。 ② 操作と代数的思考(operationsandalgebraicthinking) 1) 合併と増加として加法を理解し、取り去ること、分けることとして減法を理解すること。 ・もの、指、心象、図、音(手をたたくなど)を使ったり、場面を演示したり、言葉で説明したり、 式や等式を使ったりして加減を表現する。 ・文章題を加減で解き、例えば物や図を用いて10までの数の加減をする。 ・1つ以上の方法で数を10以下の2数に分解し、図や式に記録する。
・1~9の数で10の補数を見つける。 ・5以下の加減をすらすらとする。 ③ 10を基準とした(10進法)数と操作(NumberandOperetionsinBaseTen) 1)位取りの基礎を得るために11 ~ 19の数を用いて活動する(絵や具体物で)こと。 ・11 ~ 19の数の合成と分解(18=10+8)。 ④ 測定とデータ(MeasurementandData) 1)測定可能な属性について表現したり比較したりすること。 ・長さや重さのような測定可能な物の属性をかく。1つの物についていくつかの測定可能な属性を 表現する。 ・共通の測定可能な属性で2つのものを直接的に比べる。大きいのか少ないのか、違いをかく。例 えば、2人の子どもの背の高さを比較し、一人の子どもが高いか低いかを表現する。 2)ものを分類し、各カテゴリーにあるものの数を数えること。 ・与えられたカテゴリーにものを分類する。それぞれのカテゴリーの中でものの数を数える。また、 数えることによってカテゴリーを仕分けする。 ⑤図形(Geometry) 1) 形を見分けること、形を表現すること。 ・周囲にあるものを形の名前を使って表現する、また、それらのものを、上に、下に、横に、前に、 後ろに、隣に、というような言葉を用いて物の位置関係を表現する。 ・向きや全体の大きさを考えないで正確に形の名前をいう。 ・平面図形と立体図形を見分ける。 2)図形を分析、比較、作成、構成すること。 ・平面図形や立体図形を分析、比較する。異なった大きさや向きにあり、身近な言葉を使ってよく 似たところ、違うところ(頂点や辺の数、等しい辺をもっているかなど)をいう。 ・棒切れや粘土の玉などの構成要素から、様々な形を組み立てたり、形を描いたりして身の回りの 形をモデル化する。 ・簡単な形を組み合わせてより大きな形を作る。例えば、この2つの三角形の辺をちょうど合わせ て1つの長方形を作ることができるかを問う。 ここに示されている内容は、具体的な活動例を含め、小学校との接続を意識したものであり、保育者 が幼稚園での活動を意図的に展開していく上で大変参考になる。 4. 2 スウェーデンの幼稚園カリキュラム スウェーデンでは、幼稚園教諭を養成している大学教員のほとんどが現場経験をもっていた。教員養 成で幼稚園の教諭になる教員の割合は、40%であり、幼稚園教諭になるためには3.5年かかるという。 スウェーデンでは、国会と政府によるカリキュラム案の作成途上(2014)にある。現在スウェーデ ンの学習指導要領に定められているゴールは30個あり、そのうち、次の4つが数学教育にかかわるも のである11)。
・空間、形、位置や方向の理解を深めるとともに、集合、量、順序や数概念に関する基本的な性質、 測量のための時間や変化についての理解を深める。 ・自分や他者によって引き起こされた様々な問題について、様々な解を調べたり、振り返って考えた り、試したりするのに数学を活用する力を伸ばす。 ・数学概念やそれらの相互関係を識別したり、表現したり、調べたり、使ったりする能力を伸ばす。 ・推論を進め、推論を辿る数学的技能を伸ばす。 各幼稚園では、この中からテーマを決めて取り組んでいる。イェヴェーレにある幼稚園では、さらに、 A.J.ビショップの理論を参考にしている。幼児の活動と数学教育との関連は何かと問うと、必ず「ビ ショップの理論」に基づいているという答えが返ってくる。このビショップの理論は翻訳(「数学的文 化化」(湊三郎訳))12)されていて、この幼稚園が参考にしている数学に関わる活動は第2章に書かれて いる。その第2節「数学的類似性を求める探求」では、まず、数学的観念は本来的に多様な過程からの 所産であり、これらの所産の性格はそれぞれの文化ごとに相当異なると想定している。その上で、探求 は数学の発達を導く活動につながるとして、次の6つの活動を順に簡単な説明を添えて登場させている。 「ものを数える」、「量を測る」、「位置付ける」、「形を与える」、「遊びをする」、「説明をする」 スウェーデンの幼稚園では、このビショップの理論を基に、次の6つの活動の紹介があった。 ① 「ものを数える」 ・おもちゃの車の台数を指で表す。 ・フルーツを等分にカットして数を数える。集めて元の形に戻す。 ・ジャガイモを一直線に並べて数える。 ・数を二次元表に表す。 ・積み重ねる積み木の数を増やして高くする。 ② 「位置付ける」 ・画用紙に幼稚園の鳥瞰図をかく。 ・「中」、「外」、「上」、「下」にいることを体感する。人がどこにいるかを言う。 ・「まっすぐ」転がす。転がった軌跡を見て、「まっすぐ転がった」と言う。 ③ 「量を測る」 ・レゴブロックを積み重ねて、それを基準にして二人の背比べをする。 ・物差しを使って(間接比較的に)腕の長さ比べをする。 ・お菓子作りでカップを使って、粉を「○杯分」入れる。 ・温水と冷水に触れて、温度に違いがあることを感じる。 ④ 「形を与える」 ・棒を使って三角形をつくる。 ・長方形の積み木を規則的に高く積み上げる。 ・靴下のペアを見つける(同じ形、絵柄を見つける)。 ・廃品を使って車を作る。 ・大きな立方体を積み上げる(同じ大きさにする)。
⑤ 「遊びをする」 ・すごろくで遊ぶ。 ・3匹の山羊の物語を演じる(ストーリーに沿って演じる・時系列)。 ⑥ 「説明をする」 ・バターを熱したときの様子を話す(はじめ、つぎ、だんだんと、…)。 ・オーブンの中の様子について話す(ぶくぶくしている)。 ・冷水の風船と温水の風船を合わせるとどうなるか予想し、 実験して確かめる。 ここにあげられた各活動は、保育者の意図が数学的に明確で、活動の中に数学的なものが自然に埋め 込まれていると考える日本の幼稚園とは違っている。また、⑤の遊び(ストーリーの再現)や⑥の説明(様 子を話すこと)も数学教育との関連で捉えているところが興味深い。幼児の活動を考える際に、このよ うな活動を中心に考えることも必要である。日本では、これらは数学的活動の一つとして位置付けられる。 また、この幼稚園では、重点テーマとして、パターンの取組が見られた。その活動は次のようなもの であった。 ・パターンを探して写真に撮る。 ・ビーズでパターンのある形をつくる。 ・ローラーでパターンのある模様を描く。 ・鉛筆でパターンのある絵を描く。 ア.身の回りから「○」や「□」を見つける。 イ.複数の「○」と「□」(平面)を、パターンがあるように並べる。 ウ.積み木(立体)をパターンがあるように並べる。 エ.赤○、青□、白□、黄△を帯の上に、パターンがあるように並べる。帯同士をつなげて形をつ くる。 オ.(対象の軸と片側の形が示された上で)線対称になるように形を完成させる。 カ.シンメトリーな形をつくり、その形を色鉛筆で描く。 キ.体を線対称な形とみなして、対称の軸を見つける。 ク.複数で紐の輪を引っ張り、多角形をつくる。 幾何的な模様を探って写真に撮ったり、つくってみたり、かいたりする活動は日本ではあまり見られ ない。算数では対象な図形として扱うことはあるが、ここではもっと自由にパターンを扱っている。積 み木の片付けを通して立体の特徴を理解するように、パターンによる学習は形を分類したり、よく似た 形の属性を把握できたりすることにつながると考えられる。 4. 3 まとめ アメリカのカリキュラムでは、幼小中高を通したスタンダードが学年別に示されていて、数学の系統 が明確になっている。幼稚園で取り上げられている①~⑤の内容は、保育者養成のカリキュラムに位置 付ける必要がある。また、スウェーデンの幼稚園がビショップの理論に基づいて具体的な活動として示 した内容は、日本の小学校の数学的活動の側面から捉え、保育者となる学生にそのような活動を意識で きるようにする必要がある。
5.「数学力」とその育成について
これまでの幼稚園での実践・実践研究例、研究者による先行研究や海外のカリキュラムなどの調査を 通して、「数学力」についていくつかの観点でまとめてみた。 5. 1 「数学力」について 保育者に必要な「数学力」を考える場合、幼稚園教育要領や保育所保育指針に述べられている数学的 な内容について理解していることはいうまでもない。しかし、その内容だけでは不十分であることは、 これまでの各種の資料から伺える。 先の2.1の幼稚園の調査で追加した質問の中で、学生時代に身に付けておくべき数学的な力を尋ねた ところ、「柔軟な心と体」、「確かな専門性」をとりあげている。前者は、「子ども達が主体的に試したり 考えたりすることができる環境作り、援助、言葉がけができる力」、「いろいろな方向から見ていくこと により新たな発見ができる柔軟な心」などとしていて、「環境をつくる力」、「支援ができる力」などを あげている。後者は、「遊びの中での、幼児の工夫、発見、思考を拾い上げる力」、「子どもの育ちの中 で、数学的な考え方の基礎を見抜く力」、「子どもの生活の中にある素材(教材)の提供と発展を見抜く 力」としていて、前者に加えて「考え方の基礎を見抜く力」、「教材を開発する力」をあげている。 また、3と4で取り上げた様々な資料から、小学校との接続を考えるとき、保育者は子どもたちが将来 小学校で学ぶ算数の内容の指導法について知っておく必要がある。その上で、幼児期に身に付させてお きたい数学的な内容を理解しているのはもちろんのこと、その内容を体験活動に組み入れる力量が問われ る。特に、1年生の算数の内容については必須である。例えば、小学校1年算数の教科書(啓林館22年版) をみると、最初の学習内容である「かずとすうじ」では5までの数を扱い、動物と数との1対1対応を見 つけられるような工夫がなされ、具体物と半具体物及び数詞との関係を学ぶようになっている。物と数詞 を対応させる経験が就学前教育でどの程度意識化されているかによってこの教科書の読み取りに個人差 が出てくると考えられる。さらに、保育者としての研究や事務(業務)にかかわる数学的な力も必要である。 これらのことを踏まえ、保育者養成に当たって学生に身に付けさせなければならない「数学力」を次 の様に考えた。 a)保育者が身に付けるべき数学の基礎知識 ① 幼児の知的発達のために知っておくべき知識 ② 教材作成、研究、事務等を進めていくために必要な知識 ③ 採用試験のための知識 b)環境を構成する力 ① 幼児の生活や活動の場面から数量や図形に関することがらを見出す力 ② 幼児の生活や活動の環境に数量や図形に関することがらを組み入れる力 ③ 幼児が数量や図形に関する活動をしやすい教材等の環境を準備する力 ④ 言葉がけなどによって幼児の活動を豊かにする力5. 1. 1 保育者が身に付けるべき数学の基礎知識 a)の①は、保育者として、幼児の知的発達等にかかわって知っておくべき数学の知識とそれを身に 付けさせるのに必要な算数的活動の知識である。その内容としては、数(自然数、0)、図形(平面・ 立体)のほかに、小学校算数との接続から算数指導に関する用語、幼児の数や形の発達にかかわる知識 などがある。また、それらとともに、数学的な内容を活動に埋め込むために、小学校の算数的活動(学 習指導要領では29個示されている)に関連付けると、次の様な活動を展開できる力も必要である。 並べる、数える( 5 や10のまとまり)、比較する(見当を付ける、量を測る、順序付ける)、分類する(弁 別する、集合分類)、位置をきめる、形を見つける・つくる(パターン)、時刻を読む、関係を見つける、 説明する(状況の説明、操作の説明、ストーリーの再現) これらの活動の中には、意識するとしないにかかわらず日々の生活の中で幼児が経験するものもある が、2.1や4.2でも触れた大切な活動であり、保育者はこれらの活動の意味を知っておく必要がある。 a)の②は、保育者が小学校との接続を意識して教材を開発するための知識、環境を構成するための 知識、事務処理を的確に行うための知識などが考えられる。 例えば、十進位取り記数法は幼児には直接教えないが、二進法や五進法と関連付けてその意味を知っ ておくことは、幼児の活動を豊かにする教材開発に生かすことができる。また、割合や比は、消毒液を 薄めたり掲示物を美しく飾ったりするなど保育者自身の仕事の中で必要な概念である。さらに、園や所 の運営に携わる中で ITC を使った統計処理能力も必要である。 a)の③については、平成22年度から平成26年度までの文部科学省の資格認定試験13)(2014からは数 学を含む一般教養科目は実施されていない)や大阪市14)、神戸市15)の試験問題について、その傾向を探っ てみた(表10)。 各問題は、一般教養科目して課せられるが、出題範囲は、中学校、高校「数学Ⅰ」、「数学A」、「数学 B」、「数学Ⅱ」にわたっている。文科省の認定試験が中学校程度をまんべんなく出題しているのに対し、 大阪市や神戸市は高校程度までに及んでいる。全般的には、空間認識や場合の数、規則性の発見、一次 方程式、平面図形程度の問題となっている。特に、神戸市では空間認識や規則性の発見に重点が置かれ ている。なお、場合の数は、中学校程度でも樹形図で学んでいるので、全体の傾向としては中学校卒業 程度の数学の力を求めていると考えられる。 鈴木16)は卒業生が受けた私立幼稚園・保育園の採用試験を通して、保育現場から求められる知識・ 技能をまとめている。保育現場が求める専門知識としては「保育者像」に関する出題が多いとしている が、その中で、数学にかかわる内容として、「因数分解や文章問題」、「図形の面積」、「二次関数」が出 題されたと報告していて、前述の採用試験の調査結果と同様、中学校卒業程度と考えられる。
5. 1. 2 環境を構成する力 これは、幼児の数学的な活動を展開していく中で大変重要な能力であると考えた。数学的な環境を如 何にして構成するか、保育者に数学的な基礎知識のあることが前提になるが、知識があっても環境を構 成できるとは限らない。この力は、端的に表現すれば①「見出す力」、②「組み入れる力」、③「教材等 の環境を準備する力」、④「言葉がけなどによって活動を豊かにする力」が総合されているもので、各 能力に順序性はないと考える。例えば、活動の環境に数学的な要素を組み入れる力と活動の場面から数 学的な要素を見いだす力に順序性はない。また、①②が備わってこそ、③④の力が付くと考えられるが、 活動の場面をふり返って新たな数学的な要素を見いだし、それを活動の環境に組み入れて活動の工夫改 善を図ることもあり得る。 この力を支える数学的な内容として最も重要なのは、「遊びや生活の中に数学を見出す力」である。 その上で、子どもとコミュニケーションのとれることが求められる。また、保育者自身の数学的に探究 していく力(問題解決能力)も問われる。 奈良市内のC幼稚園に立ち入ると、すぐに自然な環境設定に数学を見付けることができた。園庭にあ る太くて高さのある 4 本柱(囲いを意識する子ども、影の長さに気付く子ども)、ビニルシートでつく られた氷のリンク(前日に水をまいておくとリンクができたという。滑っている子ども、様々な氷の形 を見比べる子ども)、複数のお山(駆け上ったり、段ボールで滑ったりして勾配を感じ取る子ども)な どはどれも意味のあるものであった。また、道具部屋に入ると不定長な木ぎれ(定長でないことが活動 を活発にする)、整理された様々な大工工具(いろいろな工作物の作成)、長短様々な雨とい(ものをこ ろがして速さや距離の関係などを体感する科学的な活動がうまれる)、大量のどんぐり・まつかさ(数、 表10 試験の傾向 中学校卒業程度 Ⅰ A B Ⅱ H22大 1 1 1 1 H23大 1 1 1 H24大 1 1 1 H25大 1 1 1 H26大 1 1 1 1 H22神 1 1 1 1 H23神 1 1 1 1 1 1 1 H24神 1 1 1 1 2 1 H25神 1 2 1 1 2 H26神 1 1 1 1 H22文 1 1 H23文 1 1 H24文 1 1 H25文 1 1 合計 1 1 1 1 2 4 4 1 4 1 2 1 2 7 2 1 1 1 2 3 7 1 2 1 1 文科省認定問題13)(文)、大阪市採用試験14)(大)、神戸市採用試験15)(神)より抽出 相乗平均 直線の式 数 列 確 率 場合の数 命 題 集合と要素 正弦 ・ 余弦定理 一次不等式 大小比較 平均 ・ 仮平均 空間認識 円 周 角 円 柱 ・ 円 錐 の 計 量 三平方の定理 重心 ・ 相似比 平面図形 関 数 の グ ラ フ 一次方程式 規則性の発見 植木算的 有限小数 約数・素数 濃 度 単位の換算
形の認識)など、教材に使える物が自然な状態で保管されている。遊ぶ物は子ども自身で決めるという。 自由保育としての活動が充実するよう環境構成に当たっての園長の的確な指示があった。遊び(活動の 場面)の中に数学を見出す力があるからこそこのような環境設定ができるのである。このような力を保 育者は持たなければならない。 5.1.1、5.1.2で述べた内容を整理したのが、表11である。「a)保育者が身に付けるべき数学の基礎知 識」の「具体的内容」に示している内容については、保育者を目指す学生の達成レベルによって変わる ものと考え、保育者が身に付けるべき必須項目については各項目に下線を付けた。 表11 「数学力」の内容 柱 観 点 【内容】 具体的内容 a) 保 育 者 が 身 に 付 け る べ き 数 学 の 基 礎 知 識 ①幼児の知的 発達のために 知っておくべ き知識 自然数・整数 大小関係、集合、分類、一対一対応、命題とその真偽、関数・写像、 有限集合と無限集合、A ⊃ B かつ n(A)=n(B) 立体・平面図形 形への着目、属性を基にした分類、積み木遊び、位置関係、対称性 算数教育に関 する指導用語 計数、数唱、数詞(漢語系数詞と和語系数詞)、集合数、順序数、数の分解・合成、補数関係、 4=1+3 4=2+24=6−2 4=(2が2つ)4=(8を2人で分ける)、 数学史的な知識、 加数分解、等分除・包含除、量の四段階指導(比較から数値化・単位へ) 算数的な活動:数える、表す、比べる、見つける(見当付ける)、つくる、 説明する、調べる、測る、並べる、分類する 幼児の数、量、 形に関する発 達 数概念の発達、 4 の壁、いっしょ、 1 の把握 量の系統、量の保存、概念の外延と内包、論理、 ピアジェ理論(同化と調節・均衡化、ヴィゴツキー・発達の最近接領域) ② 教 材 作 成、 研究、事務等 を進めていく ために必要な 知識 有理数・実数 の概念と計算 数の表現、十進位取り記数法(二進法、五進法)、分数・小数の意味と必要性 数直線、数と位置による表現、有理数と実数、離散と連続、稠密性 演算の意味・逆演算、計算法則(群・分配法則) 関係、比例 割合(歩合、百分率)、約数・倍数、黄金比や白銀比、比例 空間・平面図形 図形概念、抽象・捨象、線対称・折る、図形の移動、合同・相似の 概念、空間図形、立方体、凸、視点を変える、展開、切断・投影 記述統計と確率 度数分布表・ヒストグラム、散らばり、コンピュータによる統計処理 統計的確率と数学的確率 ③採用試験の ための知識 中学校卒業程度の数学 因数分解、二次方程式、図形の面積、空間認識、パターン認識(比例・一次関数・二次関数)、関数的な見方、数列の考え方 b) 環 境 を 構 成 す る 力 ①見出す力 ②組み入れる 力 ③教材等の環 境を準備す る力 ④言葉がけな どによって 活動を豊か にする力 遊びの意義の 理解と場面構 成 遊びや生活における数学的意味を理解する(小学校との接続)。 算数的な学びを生むような環境を作ることができる。 算数的な学びを生む遊びに関する知識を持っている。 いい遊びに関するルールを発展・創造できる。 新たな遊びを創り出すことができる。 コミュニケー ション能力と 言葉がけ 自らの思考行動を表現し、他と共有することができる。 言葉がけに関する知識を持っている。 言葉がけを具体的に表現することができる。 数学的探究活 動、問題解決 いい問題についての解決活動の経験を持つ。概念の理解と能力・態度の育成を目指した活動ができる。
5. 2 「数学力」の育成について 数学の基礎知識のうち、算数教育に関する指導用語は、必ずしも高校までに習っていないと考えられ る。これらは、大学のカリキュラムの中で活動を通して理解させる必要がある。日頃意識しないで使っ ている言葉について、敢えて指導用語を用いて理解することに抵抗のある学生もいるが、その用語があ るからこそ説明が付きやすいことを理解させる必要がある。 例えば、数詞について、その読み方をこれまで意識してこなかった学生が、数の唱え方に和語系数詞「ひ と、ふた、み、…」と漢語系数詞「いち、に、さん、…」があることに驚くことがある。実際、数唱に 当たってこの二つの読み方は小学校に入るまで混乱している子どももいるし、それを保育者自身が認識 していないことさえある。子どもの数詞の理解については、成田17)らが、藤井18)の論文を基に、幼稚園 の年中と年長の子どもに対して調査をし、4と7については、漢語系数詞と和語系数詞を用いる子ども に分かれるが、それ以外の数は漢語系数詞を用いて数えていることを明らかにしている。実際、助数詞 (人、個、本、など)を付けてものの数を数えるときやカウントダウンするときに和語系と漢語系が混用 されることが多い。子どもは生活を通してこれらの読み方を獲得していると思われるが、保育者は和語系、 漢語系という言葉を知っていることにより、幼児期における読み方について配慮することができる。 また、大学における数学の内容については、小学校との接続を円滑にする意味で学ばなければならな いという説明の仕方もあるが、それとともに、幼稚園での活動状況や掲示物などを見せて、「そこに数 学がある」ということを納得させ、「その数学」を学ぶ必要性を理解させなければならない。この教材 開発が重要である。 一方、環境を構成する力については、表11の具体的内容に示したとおり、該当の知識や技能が必要 となる。数学的環境をつくるという意味で大切にしたいことは、原体験として保育者自身が数学の内容 を理解し知識を身に付ける過程で、いい問題や課題に出会い、解決のプロセスのよさを味わう経験を持 つことである。その意味で、「保育者が身に付けるべき数学の基礎知識」に示した内容に拘る必要はない。 数学的探究活動ができるゲームなどの新たな題材に取り組ませることも可能であろう。また、遊びや生 活の中に数学的意味を理解させる指導も重要であり、遊びそのものを教材にすることも考えられる。数 学嫌いが多く見られる学生に数学的探究活動の面白さを味わわせ数学に対する抵抗感を除去することが 必要である。さらに、活動を豊かにする言葉がけについては、実際の幼児の活動場面を通して数学的な 要素を見出したり、新たな数学的な要素を含んだ活動を考えさせたりする授業構成が求められる。