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小学校外国語教育の全面実施に向けて(PDF)

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小学校外国語教育の全面実施に向けて

秋田県教育委員会 はじめに 令和2年4月から,いよいよ小学校新学習指導要領が全面実施となります。 平成30年度・令和元年度の移行期間中に,各小学校では,教員の指導力及び英 語力の向上,年間指導計画や教材の整備などが計画的に進められました。また, 各市町村教育委員会では,教育課程編成やALT(外国語指導助手)等の拡充 を図るなど,学校に対する支援が行われてきました。小学校教員の前向きな姿 勢と市町村教育委員会のリーダーシップに支えられ,移行期間における全面実 施の準備は計画的に進んできました。児童が笑顔で楽しそうにコミュニケーシ ョンを図る姿に,新しい英語教育のスタートに大きな混乱はないだろうと感じ ています。 もちろん,令和2年度からの英語教育が移行期間と同様に進むわけではあり ません。高学年の外国語科は,教科であることから「教科書」を使用します。 また,外国語活動・外国語科の授業時数が,それぞれ,年間35単位時間,70単 位時間となることから,多くの学校では令和2年度には時数が増えることにな ります。移行期間とは異なる状況もある中,効率化を図りながら新学習指導要 領に対応していくことが求められています。 県教育委員会では,移行期間の2年間,「AKITA英語コミュニケーショ ン能力強化事業 小学校外国語教育実践研究」を実施しました。本事業は,総 合教育センターの研修員が,各所属校において取り組んだ授業実践を冊子にま とめて配付することにより,各小学校における円滑な全面実施に資することを 目的としています。 平成30年度は,3年生と6年生の実践事例ハンドブックを配付しましたが, 「とても分かりやすい」,「掲載されている資料を使ってみたらうまくいった」 など,たくさんのうれしい反応がありました。今年度は,4年生と5年生の児 童を対象に同じ構成のハンドブックを作成しました。2冊合わせて3年生から 6年生までの英語の指導に役立てていただきたいと思います。それぞれの事例 には,県教育委員会が「ここがポイント!」というコメントを入れています。 教材や扱う英語表現が違っても,誰もが新学習指導要領の趣旨を踏まえた質の 高い指導ができるように,という観点でポイントを示しています。是非,事例 とポイントを照らし合わせながら本冊子を活用してください。 さて,冊子をより効果的に活用していただくために,ここで,移行期間を振 り返るとともに,全面実施における留意点について確認していきます。 1.移行期間を振り返って (1)移行期間の成果 ① 教員の英語発話量の増加

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移行期間の成果として第一に挙げられるのは,「教員の英語発話量の増加」 です。ここ数年で,授業における教員の英語発話量は大幅に増加しました。 小学校高学年で外国語が教科になると決まったとき,先生方からは,「英語 の発音に自信がない」,「英語なんて何年も使ったことがない」という声が 多く聞かれました。英語の指導法よりも,自身の英語力に不安を感じる先 生方が多かったのです。 しかし,現在は,先生方が大変前向きに英語に向かい合う姿が見られま す。授業で使う英語表現について校内研修を実施している学校や,会話表 現集などを活用したり,CDを配付したりして,英語力を高めている学校 があります。最初は,褒め言葉やクラスルーム・イングリッシュから始め て,今ではほとんど英語だけで授業をしているという先生もいらっしゃい ます。 そんな先生方の姿を見て,児童の英語発話も確実に増えてきています。 まずは教師が英語を使い,英語発話のモデルとなることが,児童にとって どんなに大きな励みになるかが分かります。 ② 教材の充実と環境整備 また,授業の工夫により児童のコミュニケーション能力が育ってきてい ることも大きな成果です。特に,教材の準備が大変丁寧に行われています。 授業では,デジタル教材をはじめとする様々なICT機器や,絵や写真な どの視聴覚教材が,児童のわくわく感を引き出し,五感を働かせて英語を 学ぶ児童の姿が見られます。画像や動画を活用することで,児童は実際の コミュニケーション場面を疑似体験したり,様々な情報を頼りに,分から ない英語を推測したりすることができます。是非,効果的に活用していき たいものです。 そのためには,機器や教材・教具などを,誰でもすぐに使えるように準 備しておくことが望まれます。多くの学校が,空き教室を利用するなどし て「英語教室」を整備していますが,機器などをすぐに使えるというだけ でなく,教材・教具を保管したり,共有を図ったりする意味でも大変効果 的なことです。 (2)県教育委員会の取組 県教育委員会では,本事業以前から「AKITA英語コミュニケーショ ン能力強化事業」により,新しい英語教育のための準備を進めてきました。 平成29年度・30年度には,それぞれ,「新学習指導要領に係る小学校外国 語教育説明会・協議会」を実施し,教育課程編成や移行措置の指導の留意 点について周知を図ってきました。また,移行期間以前から,教員の指導 力向上のための研修の充実に重点的に取り組んできました。ここでは,新 学習指導要領の英語教育推進に大きな役割を果たした二つの研修について 振り返ります。 ① 外国語活動・英語担当教員指導力向上研修

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文部科学省は,平成26年度から,新しい英語教育の推進において中心的 な役割を担う「英語教育推進リーダー」を育成する中央研修を実施しまし た。県内では,中央研修を受けた小学校11名,中学校7名,高等学校7名 の教員が,英語教育推進リーダーに認定されています。 この英語教育推進リーダーが講師となって,中央研修の内容を伝達する のが,「外国語活動・英語担当教員指導力向上研修」です。県では平成27年 度からこの研修を実施し,4年間で県内の全ての中・高英語担当教員と, 全ての小学校から1名以上の教員が受講しています。 本研修を受講した小学校教員は「中核教員」と呼ばれます。県内の中核 教員は220名,ほぼ全ての小学校に1名以上の中核教員がいます(異動など により不在の場合もあります)。中核教員は,各学校において,校内研修を 実施し,研修内容を校内の職員に伝達しています。この伝播型研修を「カ スケード研修」と呼んでいますが,これに 【資料1 カスケード研修 イメージ】 より,全ての小学校教員に,新しい英語教 育の指導法が伝授されました(資料1)。 小学校英語教育については,「英語が専門 ではない教員が英語を教えること」を懸念 する声も聞かれますが,秋田県の教員は, 高いレベルの指導力を身に付けています。 自信をもって指導に臨んでほしいと思いま す。 同時に,英語の指導力は常に向上を図っ ていくべきものであることから,今後も校 内研修の充実や自己研修に努めることが大切です。また,不安や悩みを相 談したりアドバイスを求めたりして,自校の中核教員や,地域の英語教育 推進リーダーを積極的に活用してください。 ② 小学校外国語教育集中実践セミナー 県教育委員会と国際教養大学が共催で行う夏季休業中の三日間の研修で, 毎年40名の小学校教員が受講しています。平成21年度にスタートし,これ まで内容や日程を見直しながら継続してきました。 本セミナーの特徴は,教員の英語指導力の向上のみならず,教員自身の 英語力の向上を目指していることです。ALTとの打合せに必要となる表 現や,クラスルーム・イングリッシュの効果的な使い方などを学び,最終 的には,ALT役の留学生と一緒に,近隣の小学生を対象として模擬授業 を行います。わずか三日間ですが,国際教養大学の留学生と英語でコミュ ニケーションを図りながら授業を創り上げる経験を通して,受講する先生 方の英語への不安が大幅に軽減されています。 成果の一つとして挙げた「教員の英語発話量の増加」は,この研修の成 果であると捉えています。英語を使わざるを得ない環境に置かれることで, 受講者の先生方は,身振り手振りを交えて必死に意思疎通を図り,「何とか

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伝えられた!」という成功体験を得るのです。 英語力向上の第一歩は,授業で英語を使うことです。一度「できた」,「で きそうだ」と感じたら,その後は使いながら上達させていけばよいのです。 急がず焦らず,児童と一緒に楽しみながら英語力を高めていってください。 (3)移行期間の課題 大きな成果が見られた移行期間ですが,もちろん課題もあります。最も 大きな課題と考えられるのが,児童の英語学習に対する意欲に低下が見ら れることです。 ① 英語学習に対する意欲の推移 資料2は,外国語活動・外国語における,県学習状況調査の意欲調査の推 移です。小学校においては,外国語活動が始まった平成23年度から,「外国 語の勉強が好きである」と回答している児童の割合は,常に8割を超えてお り,児童の外国語学習に対する意欲が高いことが分かります。また,この間, 中学生の学習意欲が大きく伸びてきたことには,小学校での「外国語活動」 の体験が大きな影響を与えていると考えられます。 【資料2 秋田県学習状況調査の意欲調査(外国語活動)の推移】 しかしながら,児童生徒の学習意欲は,平成29年度をピークに全ての学年 で低下しています。特に小学校における数値の低下が大きく,令和元年度は 5年生,6年生,中学1年生の割合がほぼ同じという結果になりました。 移行期間中,高学年では,教科「外国語科」の学習が加わり,読んだり書 いたりする学習が始まりました。本来,「外国語科」の学習は,「外国語活動」 で「聞くこと」,「話すこと」に十分慣れ親しんだ上で行われるべきものです。 しかし,移行期間中は,限られた時数の中で,外国語学習への動機を十分高 H23 H24 H25 H26 H27 H28 H29 H30 R1 小学5年生 86.7 88.2 87.7 87.8 86.8 88.3 88.6 86.1 81.6 小学6年生 81.2 80.9 83.1 81.8 82.4 82.0 84.3 83.1 80.7 中学1年生 72.5 73.3 75.8 74.8 75.4 81.0 81.1 80.6 80.5 中学2年生 59.4 61.0 64.1 66.4 67.8 71.8 73.1 72.0 70.7 55.0 60.0 65.0 70.0 75.0 80.0 85.0 90.0 95.0 外国語の勉強が好きだ(%) (当てはまる+どちらかと言えば当てはまる)

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めることができないまま,教科の学習へ進んだ児童も少なくなかったと思わ れます。また,本来,年間70単位時間で学ぶ「外国語科」の内容から,最低 限必要となる事項を取り上げて指導する必要があったことから,扱う教材が 複数あったり,指導しない単元があったりと,指導計画が大変複雑になって いました。このため,学びの連続性や積み重ねを実感することができなかっ たことも,外国語学習に対する意欲の低下に影響を与えていると考えられま す。 言うまでもなく,「勉強が好きである」ことは学力向上のための必要不可 欠な要因です。児童生徒に,生涯にわたって学び続ける姿勢を身に付けさせ るためには,「楽しい」,「もっと勉強したい」という気持ちをもたせる指導 が求められます。今後,英語教育が拡充する中,児童の関心・意欲を高めて いくことに一層の配慮が必要です。 ② 意欲の背景にある気持ち 資料3は,同じく県学習状況調査の意欲調査で,「外国語の勉強が好きだ」 という問いに対し,「そう思う」,「どちらかと言えばそう思う」,「あまりそ う思わない」,「全くそう思わない」のいずれかを選んだときの,児童の気持 ちを示しています。 「そう思う」,「どちらかと言えばそう思う」と回答した,英語が好きな 児童が,その理由として選んだ「気持ち」の中で最も多かったのは,「将来, 社会に出たときに役に立つ」でした。5年生で31.5%,6年生で36.3%の児 童がこの項目を選択しています。両学年ともに,13項目ある「気持ち」の 中で,最も数値が高かっただけでなく,他教科と比較しても,「将来,社会 に出たときに役に立つ」の割合は,外国語科が突出して高くなっています。 グローバル化が進む社会で,児童は,国際共通語としての英語の必要性を しっかり理解しているのでしょう。「将来,世界中の人とコミュニケーショ ンを図ることができるようにしっかり頑張ろう」という児童の気持ちが伝 わってくるようです。 【資料3 秋田県学習状況調査の意欲調査 選んだ気持ち(外国語)】 12.5 12.5 8.8 6.8 31.5 36.3 6.6 5.4 9.7 8.8 7.8 7.2 2.6 3.2 6 5.9 7.3 7.7 5.7 4.7 0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100 小5 小6

選んだ気持ち(外国語)(%)

内容に興味がある分かりやすい 将来、社会に出たときに役に立つ 生活の中で役立つ 考えるのが楽しい 得意 内容に興味がない 分かりにくい 将来、社会に出たときに役立たない 生活の中で役立たない 考えるのが面倒 不得意 その他

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一方,「英語が好きではない」と回答した児童が選んだ気持ちでは,「不 得意」,「分かりにくい」の割合が高くなっています。両学年ともに,「不得 意」,「分かりにくい」を合わせると,英語が好きではない児童の気持ちの 5割以上を占めていることが分かります(資料4)。 【資料4 秋田県学習状況調査の意欲調査 英語が好きではない児童の気持ち】 また,資料5は,「不得意」,「分かりにくい」と回答した児童の割合の過 去3年間の推移を表しています。両学年ともに,移行期間中に数値の上昇 が見られることから,移行措置の英語の学習は,児童にとって決して簡単 ではなかっただろうと推測されます。「きっと分かるだろう」,「書いてある から読めるだろう」と安易に考えず,丁寧で段階を踏んだ指導を心掛ける 必要があります。 【資料5「不得意」「分かりにくい」の推移】 丁寧な指導を心掛けると同時に,教師が児童の「分かりにくい」と思う 気持ちをしっかり受け止めることも大切です。学習を始めたばかりの児童 にとって,英語が分かりにくいのは当然のことです。「全部分からなくて当 たり前」,「正確でなくても大丈夫」と,常に児童を温かく励ましてくださ い。教師やALTの英語を,全て聞き取れなくても,大体理解できること や,間違ってもいいから,工夫して伝えようとすることが大切なのです。 特に,音声を中心とするやり取りにおいては「正しさ」よりも「伝わる」 3.8 4.5 6.0 4.7 4.8 5.9 H29 H30 R1

「分かりにくい」の推移(%)

5年 6年 4.5 5.1 7.3 6.7 7.3 7.7 H29 H30 R1

「不得意」の推移(%)

5年 6年

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という視点が大切です。児童が知っている語や表現を使って「伝えよう」 としていたら,それが正確でなかったとしても,その姿勢を大いに褒めて あげてください。「正しさ」を求めるのはその後です。 「伝えよう」とする姿勢は,指導者や集団に受け止められる経験の中で 育ちます。英語の授業は,失敗を恐れずに挑戦する気持ちを後押しする場 でありたいと思います。 2.全面実施の再確認事項 ここからは,移行期間の成果と課題を踏まえ,全面実施の留意点について再 確認したいことをお伝えします。教員の英語力の向上や,教材や環境の整備が 進む一方で,児童の意欲の低下が懸念される現状から,小学校外国語教育にお いて全面実施に当たり全力で取り組むべきことは,一言で言えば「英語が大好 きな児童を育てる」ことだと思われます。 意欲を高める指導のポイントは多岐にわたりますが,ここでは,県内の指導 の現状を踏まえ,「言語活動の充実」と,「英語が好きになる授業」という二点 について考えてみます。 (1)言語活動の充実を ① 言語活動とは何か 【外国語活動・外国語科の目標】 外国語によるコミュニケーションにおける見方・考え方を働かせ, 外国語による聞くこと,(読むこと,)話すこと,(書くこと)の言語 活動を通して,コミュニケーションを図る素地(基礎)となる資質 ・能力を次のとおり育成することを目指す。 外国語活動・外国語科の目標は,高学年で扱う技能に「読むこと」と「書 くこと」が加わること,「素地」が「基礎」になること以外は同じです。大 切なことは,どちらも,その素地や基礎を「言語活動を通して」育成する としていることです。このため,言語活動に対する正しい理解が不可欠な のです。 外国語活動・外国語科における言語活動は,当然ですが,外国語を用い た言語活動を意味します。それでは,外国語を用いていれば,全てが言語 活動かと言えば,必ずしもそうではありません。新学習指導要領では,言 語活動を「実際に英語を用いて互いの考えや気持ちを伝え合う活動」と捉 え,理解したり練習したりするための指導と区別しています。もちろん練 習は必要ですが,練習自体は言語活動ではありません。練習したことを用 いて,実際に自分の考えや気持ちを伝え合うことが言語活動なのです。 ② ターゲットセンテンスを教えるのではない 校種を問わず,現在,県内の英語教育で行われている言語活動の大きな 課題は,その単元や時間で用いられるターゲットセンテンスに焦点を置い

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た言語活動が中心に行われていることです。ターゲットセンテンスという 「型」を忠実になぞって言語活動行われた場合,多かれ少なかれ,全員が 同じようなことを伝え合う活動になりがちです。また,必ずしも本当の気 持ちではないことを伝え合う状況も起こり得ます。例えば好きなスポーツ を尋ね合うやり取りを例に取ってみましょう。

A: Hello. What sport do you like? B: Hello. I like tennis. See you.

このやり取りでは,自分の好きなスポーツを答えてはいますが,児童に よって tennis が baseball や basketball に変わるだけで,これはどちらかと言え ば,練習に近いやり取りです。また,Hello. や See you. を付けてはいても不

自然さは否めません。実際のコミュニケーションでは,What sport do you like?

と聞く前に,スポーツが好きかどうかを尋ねるのが普通です。そして,「運 動は好きではない」と答えた相手に対して,好きなスポーツを尋ねること はありません。このように,ターゲットセンテンスだけで言語活動を行う と,運動が好きではない児童にも,無理に好きなスポーツを答えさせるよ うな不自然なやり取りになってしまうのです。 授業で教えるのはターゲットセンテンスそのものではなく,その場面で 行われるコミュニケーションです。ターゲットセンテンスは,その場面で 行われるコミュニケーションを図るときに「役に立つ表現」の一つに過ぎ ません。教師は,ターゲットセンテンスを用いる必然性がある場面設定を しますが,それは,ターゲットセンテンスを含む場面設定であって,ター ゲットセンテンス以外にも,児童が自分の考えや気持ちを,自分で考えて, 自分の言葉で表現する場を確保してあげることが大切です。 例えば,「好きなスポーツをするお楽しみ会の計画を立てる」という場面 設定をして,みんなの好きなスポーツを尋ね合う言語活動をするとします。 What sport do you like? だけでなく,Do you like / play ~? Yes, I do. / No, I don’t. I like / I don’t like ~. I can / can’t ~. などの既習事項を自由に使 わせるようにします。既習事項を活用することで,児童は,相手や状況に 合わせて,使える表現を選びながら,より本当に近い気持ちを言い,自然 なコミュニケーションをすることができるようになります。 ③ 言語活動をしながら定着を図る これまでの英語教育では,まずは先生が覚えるべき表現を提示し,何度 も練習を重ね,表現が定着してから言語活動をさせる流れが多く見られま した。児童は教師に示されたとおりに練習を繰り返し,できるようになる まで本番の言語活動が行われることはありません。 よく言われることですが,これは野球で言えば,ずっと素振りの練習を させ,完璧な素振りができるようになってから初めてバッターボックスに 立たせるようなものです。もちろん素振りは大事ですし,素振りの練習は 実際のゲームの打撃につながります。しかし,ゲームで打席に立つことも なく,延々と続く素振りの練習に児童が意欲的に取り組むかどうかは疑問

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です。ほとんどの児童は,早く実際に打ってみたいと思うことでしょう。 そして,実際に打ってみることで,素振りの練習成果を活用したり,修正 したりしながら実戦での技術を身に付けていくのです。 英語の授業でも同じことが言えます。いつも十分な準備ができるまで待 つ必要はありません。まずは児童をコミュニケーションの場に立たせ,実 際にコミュニケーションをさせてみましょう。当然,コミュニケーション はスムーズには進みません。児童が一人で解決できない状況が見られたら, ここで初めて先生が出て行けばよいのです。教師が敷いたレールどおりの 学習活動をさせるのではなく,児童に実践を通して試行錯誤させることで, 児童の主体的な学びが生まれます。 (2)英語が好きな児童を育てる授業 ① 楽しい授業とは 児童の意欲を高めるためには,「英語が楽しい」と感じさせることが必要 です。どんな授業をしたら児童は楽しさを味わえるでしょうか。 外国語活動が始まった当初は,児童の歓声と熱気に沸き返るような授業

が多くありました。“Are you ready?” “Yeah!” の掛け声に始まり,授業は,

じゃんけんやゲームの勝ち負けで大いに盛り上がっていました。児童の発 達の段階を考えれば,単調なドリルや練習に集中して取り組むことは難し いことから,ゲームなどを効果的に活用し,楽しみながら慣れ親しませる ことは大切です。しかし,言うまでもなくゲームやじゃんけんで勝つこと が英語の楽しさではありません。 外国語活動が始まって9年が経過した現在,ゲームばかりしている授業 を見ることはありません。また,ゲームをしていても,ゲームで勝ったこ とに大喜びしている児童の姿も見られません。コミュニケーションを中心 とした授業を実施しているからこそ,児童は本当の楽しさとは何かを理解 できているのだと思います。これからも「言いたいことが言えた」「相手の 言っていることが分かった」という達成感や満足感が得られるような授業 をしていくことが大切です。 ② 効果的なティーム・ティーチングを ALTとのティーム・ティーチングは,児童が本物のコミュニケーショ ンを経験するまたとない機会です。ALTと触れ合う機会をできるだけた くさん設定するとともに,効果的なティーム・ティーチングを工夫してく ださい。 言うまでもありませんが,ALTに指導を任せてはいけません。学級担 任や英語を指導する教員がしっかり計画を立て,HRTとALTが協力し て授業を進めます。そして,先生方もALTとのコミュニケーションを楽 しむことが大切です。HRTとALTが協力して楽しそうにやり取りをす る姿が,コミュニケーションの楽しさを教えることにつながります。

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③ 「聞くこと」を大切にしよう 楽しい授業というと,児童がにぎやかにやり取りをしている場面を思い 浮かべがちですが,言語活動は,まずは「聞くこと」から始まります。ア ウトプットのためには十分なインプットが必要となることから,教員の話 す英語や,音声教材などを十分に聞かせ,「話すこと」を急がせないように しましょう。その際,意味のある文脈の中で,聞こえてきた言葉からその 内容を推測させるなどの活動を通して,一語一語を全て聞き取らせるので はなく,意味のかたまりを捉えさせることに配慮します。 同時に,児童に興味のないことを聞かせることは困難なことから,児童 が「聞きたい」と思うような内容や場面設定に配慮し,集中して聞くこと ができるように工夫してください。 ④ ツールだけではない楽しさを 実際のコミュニケーションの楽しさを味わわせると同時に,コミュニケ ーションツール以外の英語の魅力にも気付かせたいものです。最近,やや もすると「使える英語」という外国語の実質的な側面だけに注目が集まる 傾向があるように感じられます。もちろん,ツールとしての英語の重要性 は疑う余地がありません。しかし,それらは,外国語活動・外国語科で育 成すべき資質・能力の一つであって全てではありません。言葉の大切さや 美しさに気付かせること,言語に対する興味・関心を高めること,言語の 背景にある文化に対する理解を深めることなども,英語教育が担う大切な 内容です。それらが,どれほど児童の心を豊かにし,英語学習への意欲を 高めるか計り知れません。児童の心に響く豊かな授業が,本当に楽しい英 語の授業であると言えます。 終わりに 以上,全面実施の留意点について説明してきました。言語活動の充実を図り, 英語が大好きな児童を育ててほしいと思います。 本冊子の事例は,全面実施の再確認事項を踏まえた授業実践です。この章と 実践事例を関連付けながら活用してください。 なお,評価の詳細については,この冊子では触れていません。各学校におい ては,文部科学省から公表される学習評価の参考資料や国立教育政策研究所の 「学習評価の在り方ハンドブック」を参考にし,評価について研修を深めてく ださるようお願いします。また,文部科学省からの正式な発表を受けて,県教 育委員会でも,令和2年度以降の各種研修や事業を通して,「評価」について 周知してまいります。 最後になりますが,本事例集が,先生方にとって日々の授業の手助けとなる ことを心から願っています。

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